生きる意味
暗い空間に佇んでいた。
何も聴こえず何も見えず…
でも、微かに繋がりが感じられる。
ここに私がいると言う事はすでに全てが終わってしまったということ。
願わくば、この世界も【彼等】にとって祝福が訪れますように…
———
ソウマは暗がりの空間で目を覚ました。途端、身体中が激痛を発していた。
どうやらベッドに寝かされているらしい。ここは何処なんだろうか…?
意識がまどろんでいた。何か聴こえたような気がしたが…
起きることが億劫であり、立ち上がれない。
起きることを諦め再び眠りにつく…
———
朝早く光が村全体に差し込んでいる。
ここは始まりの街と呼ばれたユピテル近郊の村ザールである。
この村は30年程前に数十人の村人が集まって開拓した村である。
恵まれた森林から豊かな資源である質の高い薬草などの採取や、動物や狩猟を行い生計を立てていた。
ある日親子で狩猟をしていた村人が、封印の洞窟がある森で傷だらけの若者を発見した。
傷口を見ても激しく戦った痕があり、近隣で魔獣・魔物の災害が増えていると村長から注意を受けたばかりである。慌てて若者を村に連れ帰り、保護した。
何日も眠り続けた若者が目を覚ますところから物語が始まる。
「…ここは?」
「おや、気がついたかい。ここはザールの村だ」
何日も眠り続けていた若者に、森で傷ついて倒れていたこと、発見して保護したことを伝えた。
他に救助・保護された者はいないか?と、問われるも見つけた時は一人だった。
「…残念かも知れないが気を落とすな」
気落ちする若者をそう励まし、彼は席を外した。一人になる時間が大切だと考えたからだ。
ソウマは落ち込みそうになる気持ちを必死に抑え、考えていた。
(…何がどうなっているんだ?)
何故かユウトやニルヴァーシュと離れ離れになっていること。
洞窟の出口にて極光が見え何者かに襲われた?こと…
何より恐ろしかったのは、
「ここはまだエルダーゲートの世界じゃないか…」
たが、違和感が募る。
感じられる感覚が…恐ろしいくらいにリアルなのだ。おそらくゲーム時代には感じなかった味覚もあると思う…。
今までグラフィックだと感じていた景色も、自分の目で見ているかのように鮮明だ。
システムが開けない。ログアウトが出来ない。
何度思っても、願っても、笑っても、信じても、怒っても、憎悪しても、絶望しても、諦めても…何も起こらなかった。
………どれくらい悩んだんだろう。
外は日が沈んでいた。
ゆるやかな足跡が聞こえてくる。それと同時に香しい匂いがした。
ドアをノックする音が聞こえ、妙齢の女性が姿を現した。
「調子はどうかしら?食べれそうなら、よく煮込んだ豆のスープとヤマドリの燻製があるから食べなさい」
食事を意識した途端、お腹が空いていたことを思い出したかのような空腹感に襲われた。
盛大にお腹の音が鳴り、恥ずかしい思いをしながらご馳走になった。
よく噛んで食べなさいと苦笑されながら、夢中で食べた。
美味しいモノを食べると人は元気になれるって本当だった。
途中食べながら涙が止まらなくなったが、不思議と恥ずかしくはなく…清々しい思いが胸を満たした。
この木で造られたログハウスは村の狩人の家らしい。
森で助けてくれた旦那さんと幼いお子さん、食事を作ってくれた奥さんに改めて感謝の気持ちでお礼を述べた。
村には同年代の年齢の友達がいないためか、一緒に遊ぶとお子さんと直ぐに仲良くなれた。
森の奥は危険なので、明日浅い場所で一緒に薬草をとる約束をした。
その日はぐっすりと眠れた。
村の朝早くに村長の家では会議が行われていた。
狩人が、昨日目を覚ました若者が徐々に回復してきている事を伝えると皆明るい話題に顔を綻ばさせた。
まだ開拓したてで小さな村なのだ。全員で助け合わねばやって行けない。
「村長、悪い知らせもある」
話を切り出したのは村の自警団の若者たちだ。
全員が武装しているが金属加工された装備品ではなく、革をなめすことで強度を増した、レザーアーマーと呼ばれる種類の鎧だ。
防御力よりも軽さを主体した防具である。
思い思いに剣や短槍、ウッドボウを装備しており、その中でも唯一鋼鉄製の剣を装備している男が発言した。
「…ここからすぐ森の付近でイビルナーガに食い散らかされた動物を発見した」
「間違いないみたいだな…」
ため息をつく村長の顔色は悪い。
イビルナーガ(邪眼蛇)は本来なら森の奥深いところに住んでいる中型魔獣種で、こんな森より出てくる筈のない生物だ。
大きいモノで体長が7mを超す大物もいると聞く。
騎士団などでも犠牲者を覚悟で討伐するケースが多い。
大きな体躯からくる締め付けや噛み付き・呑み込みも恐ろしいが邪眼を使った魔法を使用してくることが最も厄介だとされていた。
普通の剣や弓にしても断ち切ることが難しいので、魔法や魔力武器を使った攻撃が有効とされる。
「生活は苦しくなるかも知れないが…暫く森には近づかないように村の皆に伝えよう」
苦渋に満ちた表情で全員が頷いた。
そこで狩人が思い出した。助けた若者と我が子が森へ薬草を取りに行く約束をしていたことを…
胸騒ぎが収まらず、彼は村長に相談し、直ぐに森へと駆け出した!