ソウマ編 鳩鶏テイム
久し振りの投稿です。
9月11日
誤字脱字、訂正報告ありました。有り難うございます。
先程は気恥ずかしかったのだが、おかげで緊張は少し解れた。
カタリナがまず会話の取り掛かりの話題として、ソウマの腕の事を尋ねられた。
ソウマはゆっくりと左腕の包帯をほどいて傷をさらす。うん、痛みは自制内だ。
と、同時にカタリナが腕を見て息を飲むのがわかった。
それに気付きながらも最後まで包帯を取りきると、肩の付け根の端からわかるほどに紫色から黒色と変色した腕。
良く見ようとカタリナが隣に座って接近して覗き込んできた。ふわぁっと花のような薫りが心地よく、良い匂いがした。
ソウマの腕を見たカタリナの表情を伺えば、綺麗な眉を寄せて顔をしかめていた。
それもそのはず、この手の状態はかなり醜い。しまったな、請われてもあまり女性に見せるモノでは無かったかも知れない。
筋肉断裂の後が酷いがポーション治療のお陰でちぎれかけた指先は肉が見事に盛り上がり、傷痕残るのみとなっている。
右手の場合は7割方は機能が戻ってきているが、弓を引けるほどではなかった。
左腕に関しては複雑骨折の影響もあってか更に赤紫色に変色し膨れ上がっていた。毎日行っている自己検診で、左手に沿う脈が辛うじて波うっている事が触知することが出来た。
黒色に変化している部分は血が通わず腐りかけているのだが、特有の悪臭がないのとそんな状態でも細胞分裂を繰り返して再生してきているのだから、この体に宿った補正や、ハイポーションの性能にかなり感謝だ。元の世界ならばもう死んでると解る。
こんな状態だが、フィアラル戦の時と比べて、少しずつ回復してきているのは間違いない。
ソウマはそう思っていたのだが、カタリナの見解は違っていた。
ソウマの腕の状態はカタリナが想像していた以上の酷い怪我だった。
何故こんなところで温泉なんて使ってて良いの?と感じるほどに。高位の医者や魔法が使える者達で構成されている治療院などで入院しなければ助からない程と思える傷だったのだ。
それすら驚きなのに、この腕の状態なら常人ならば恐ろしいまでの痛みを伴い、正気を保てずに発狂しているはず…完全にその左手の機能は死んでいる。
寧ろこのまま機能が戻らずに、順に腐り落ちて腐敗が侵食する前に腕を切断しなきゃ…ソウマの命にかかわるわ。
これを治すには高度な回復魔法か、目が飛び出るくらいの庶民では買えない高級ホーションを何本も使わないと無理だろう。
そう、それこそ今では生成不可能のレシピの1つ、ハイポーションのような回復薬でもなければ無理。ハイポーションは希に高位の迷宮から宝箱などに入っているけど、瀕死の人間が一瞬で完治してしまうほどの効能を持ったポーションは高額で国家に買い取られる規則となってるのでその場で発見し、使わない限りは入手は不可能とされている。
故にカタリナは行う相手が大国の王族でもない限り、現実的ではない治療方法だと思えた。
ソウマはハイポーションを使っていけば治るものだと思っていたし、カタリナは完治は不可能だと判断するほどの認識のズレがあった。
それゆえ、
「ソウマ君、私は200年余り生きてきたけどこんな酷い腕の状態で生きている人を見たことがないよ。
君がその腕を切り落としてないのが不思議なくらいさ」
呆れたような、心配されている声色なのだが、勘違いしていたソウマの耳には無様に写っているのだと判断して、受け取ってしまっていた。
「…酷い腕を見せてすまない」
「あ、いや…気を悪くしたのなら謝るよ」
そのニュアンスからソウマがどう思っているのか見抜いたカタリナは言葉を続けていく。
「誤解させたようですまない。だけどこの傷を見れば誰だって、無様だとは思わないさ。恐ろしいまでの戦の死線をくぐり抜けて出来た痕だと…解るよ」
語る表情に誇っていい。言外にそう言われたような気分になれ、素直に嬉しかった。
ソウマが微かに微笑んだ様子にカタリナも微笑んだ。
そして、意を決して次の言葉を紡ぐ。
「此れからする質問に知っていれば是非とも答えてほしいんだ」
一息おいて、カタリナが言いあぐねながらも何故ソウマに会いに来たのかを話始めた。
カタリナは現在、個人的な依頼を受けてここにいるのだと教えてくれた。
カタリナが王都に契約として赴いた時、たまたまエルフの魔法使いとしてとある貴族の目に留まり、家庭教師として呼ばれる事になった。
それが縁となったそうで、代々その貴族の家庭教師として呼ばれることとなった。
彼等の一族を代々見て貴族らしからぬ所も気に入っている。そして、現在当主となった女性がカタリナの友だと言う。
訳あって出奔していた彼女だったが、突如実家に戻ってきて問題の多い当主を引きずり下ろし、彼女が実権を握った。
そして、利権や土地など煩わしいモノを処分して従わぬ者や無能で家を傾かせた者達に暇を言い渡し、かなり辣腕を振るった。
そのやり口は同じ貴族間においても苛烈を極め、震え上がらせるほどだったという。
しかし、その代償は大きかった。最早、貴族と呼ぶには名ばかりとなったが、当主となった彼女には些細なこと。愛する旦那や子供達が入ればそれでいいのと笑って答えていた。
身内や近親者しか呼ばれぬ席に招かれ、そこでの祝いの席にて秘密裏にある依頼を頼まれた。
依頼内容は【霊山の調査】。
彼女はここの霊山を管理している貴族。
霊山に何が起こったのか現地調査を依頼されたのだ。
と、言うのは彼女の祖先が残した遺産に変化が見られたのだという。
そして立て続けに霊山から恐ろしいまでの光が突き抜けていったと何度も目撃証言があり、その閃光と轟音に周辺の村山は霊山の祟り、怪鳥の復活だと悲鳴を上げていた。
あの山にはかつて祖先が戦った怨敵がいた。フィールドボスよりも強く、長年君臨していた伝説級の魔物が何とか封印をされているのだ。
もしかしたら、先程の閃光と轟音は、長きの封印が解けてその魔物が復活した可能性もあることを示唆された。
もしもの最悪の事態を仮定し、その存在と相対することにもなっても逃亡出来るだけの人材として、カタリナが選ばれたのだった。
危険極まりない依頼で、申し訳なさそうに、断ってくれても良いと言ってくれた友でもある依頼主。
しかし、カタリナは笑って友のために2つ返事で請け負ったのだった。
カタリナは依頼主から資料を集め、万全の体勢で望む。
まずは霊山に向かい、詳しく情報を収集することにした。
そして、その経緯として盗賊と闘いになるソウマ達と出会ったのだ。
その後、無事に霊山にたどり着いた彼女は慎重に黒死鳥の巣穴と記載された洞窟遺跡を進んでいく。
この資料は簡単な地図に迷宮のような特殊空間による空間拡張と魔物が出現しているとされ、最奥に封印されたフィアラルと呼ばれる巨大な魔鳥を封印したと記述にあった。
どんどん進むも一度も魔物とも出会わず、とんとん拍子に目的の場所まで辿り着いた。
そこには巨大な空間が広がっており、ナニかがいた気配はある。しかし、封印されているとされたフィアラルなる魔物は見当たらない。
ただただ砕けた残骸があるのみだ。不思議に思いながらも調査を開始した。
幸先良く霊山の付近で猟をしている山人に出会い、気になる情報を聞いた。
どうやら霊山に最近人の通った痕跡があるという。僅かな痕跡で普段見慣れている山人だからこそ気付けた小さな変化。
その痕跡から通った人数が大体わかる。
その痕跡から読み取れるのには複数ではない。たった一人の足跡のようなのだと…。しかも、霊山に向かうのではなく、降りてきたのだという足跡。
まさか…カタリナはそれを聞いたときは俄に信じることが出来なかった。
そして、頭に閃くモノが走った。
直感的に前日出会った青年が頭に浮かんだ。
そして、その身に付けている見事な外套の飾りを見たときに何かが繋がる気がした。
そして直感が確信へと変わる。
そこに気が付いたのは霊山の中へと入り、今回の依頼で見せて貰った手掛かりにあった紙に描かれている翼を巨大な鳥のマークを見付けたとき。
頭の中にあったモヤモヤとした霧が晴れ、完全に繋がった。
あの時会ったソウマ…この人はいま私の欲しい情報を間違いなく持っていると確信したのだと言う。
「ソウマくん、改めて聞くよ。君はその外套を手に入れた時の経緯や出来事を教えて欲しいんだ。勿論、秘密はカタリナ・ブラッドレイの名において必ず守るよ」
その真剣な表情にソウマは悩む。
が、迷いは一瞬だった。
ここで誤魔化すことは出来る。しかし、カタリナ程の実力者ならば遠からず真実に辿り着く筈だ。
ここで嘘を言うよりは正直に言って協力を求めた方がいい。
ここで話すことが後にどう転ぶかはわからない。
しかし、俺がカタリナを信じたいから…信じても良いと思ったから話してみることにしよう。無論、異世界の事やサンダルフォンといった事は伏せて…な。
「そうだな…何処から話せば良いか…そうだなアデルの町で」
と、ポツボツと話し始めたソウマは不思議と心が落ち着いていくのを感じていた。
「…と言う訳なんだ。
それで俺が迷宮で攻略中に何らかの力が働いて気付けばその霊山の洞窟のような神殿にいたんだ。
しかも眼前には巨大な魔物が横たわっていた。
しかも、既に怪我を負っていかなり酷い状態でね。
いま思えばそれが、多分伝説の魔物と呼ばれたモンスターだったんだろう。
襲いかかってきたから戦いになった。俺は重傷はおったけど、何とか魔物を仕留める事が出来た。
死体はトドメを刺した瞬間に光となって消え失せてしまったから確認は取れない…んだ。
さて、俺の話はここまで。信じるかどうかは任せるよ」
ソウマの話を一言も聞き逃さまいと緊張していたカタリナは、風呂上がりで上気していた肌が異様に冷たくなっていることに気付く。
随分熱心に聞いていたようでソウマに対して身を乗りすぎだしていた事に気付き、慌てて距離をとった。
半裸な格好で男性に近付くなんて…何をしてるんだ私は…。
改めてその魔物を倒してドロップした外套を見せて貰った。手にすれば、ある種の高い魔力の輝きを宿した相当な品だと私でも解る。
信用して外套を貸してくれた事に感謝の礼を言いつつ、丁寧にソウマへと返す。
しかし、その腕の傷はその戦いで受けたモノだったとはね。ソウマは嘘を付いている可能性はあるけど…ないだろうと確信めいた予感があった。
ともあれ、聞きたいことは聞けたし、これ以上聞いても何も答えてはくれなさそうだ。
「…カタリナ・ブラッドレイの名においてこの話は内密にすることを改めて誓うよ。ただし、この詳細を依頼主である彼女、一人だけに報告する事を許してほしい。そして、この件に関してはもう危険は無いってことも含めて…さ」
この美しすぎるカタリナのお願いを断れる筈なんてない。ただ、俺の詳細な情報は伏せて貰うことを確約してもらい、本日はお開きとなった。
マコット宅へと帰る道中、どうしてもカタリナの美しい姿が何度も思い浮かぶ。
いや、実に刺激的な一日だった…興奮しすぎて少し眠れそうにないな、コレは。
あれから5時間…結局カタリナと別れてからの早朝、日が昇りきる前までソウマは眠れなかった。
(駄目だ…今日は眠れん)
寝ることを放棄したソウマは一人マコット宅より出る。早すぎる時間帯のため村人すらいない。
シーンとした静寂の空間に眼を閉じれば鳥のさえずりのみが響く。村の人はまだ誰も起きていなかった。
うーん、と背伸びして深呼吸してからぼんやりとした意識を吹き飛ばす。
「よし魔獣紋のネックレスも手に入ったし、少しばかり予定より早いけどテイムしに行こうか」
「そうなんだ、テイムには興味もあるしなら私も同行させて貰おうか。いいかい?ソウマくん?」
慌てて声の方向を向くと、そこにはカタリナが佇んでいた。
(まただ…気配すら感じなかったぞ?)
念のためマップを確認してみれば、そこにはカタリナの表示がしっかりとあった。
驚愕を一瞬で抑え込んだソウマは、朝の挨拶を交わす。
「おはようございます。朝早いんですね?しかし、気配を感じなかったから驚いたよ」
「ハハッ、それは光栄だね。数少ない私の特技の1つさ。内緒にしてね?」
茶目っ気たっぷりに言われては、ソウマもそれ以上追求することが出来なかった。
「恥ずかしながらあのあと眠れなくてね…で、どうだろうか?私も同行しても良いかな?」
「ええ、しかし結構な距離を移動しますので、此方に用事があるのでは?」
「うん?それは大丈夫。ここにはソウマくんの事だけで寄ったからね。村長に伝言してから、すぐに支度を整えてくるから門で待っててくれるかい?」
「わかりました。では、門で」
そうして準備に取りかかった。
ソウマは修羅胴衣の着心地を確認しつつ、ココット村の自警団が使用しているレザーアーマーを村の鍛冶士に頼み、動きやすいように必要最低限の箇所を除いて調整してもらっていた。マトモに攻撃を受けることをしない前提の装備である。
(それに防具の補正とこの外套があれば余程の敵でない限り大丈夫だろう)
とも確信していた。
最後に漆黒の外套を装備の上から羽織った。
武器は漆黒の短剣を腰に差し込み、フィアラルの棲みかで手付かずの宝箱に入っていたダガーを反対の腰に差し込んだ。
フォースダガー(プロテクト) レア級
プロテクトの護りが封じられているダガー。
装備者に一時的に効能を与える。
任意発動武技【プロテクト】
このシリーズはフォースシリーズと呼ばれ、様々な魔法の効能が封じられた武具が存在している。
同じレア級でもC級迷宮のbossドロップ程ではない。しかし、性能はそれなりのモノでゲーム時代の時は、初心者から中級者用の愛用武具でもある。
因みにこの世界ではレア級の品は、一流と呼ばれるモノ達が持つに相応しいとされていることが多かった。
今回のフォースシリーズは自らの肉体に一時的な物理防御力上昇効果(小)を付与させるプロテクト付きのもののようだ。
武具の等級がレア級であるが故に、僅かながらも魔力が刃に通り、普通の鉄剣などよりは切れ味や攻撃力も高い。
魔法使いでなくともプロテクトが使えるため、魔法の使えない戦士にも使えるため重宝しそうなダガーだ。
発見した宝箱は合計3つ。隠し部屋ではなく、人の探さないようなひっそりと目立たない所にその宝箱はあった。
中に入っていたのはこのダガーの他にマナポーションが1つと、金貨が僅かながらにあったのみだ。
一人門の前で待っていると、程なくしてカタリナがやって来た。初めてあった時と同じ格好のままだ。
「すまないね、待たせたかい?早速出発しよう」
早朝でまだ日が上らない内からの出発だったが、道中特に魔物に出会う事もなく、目的の場所直前までたどり着いてしまっていた。
魔物に会わなかったのは、元々其ほど強い魔物はこの辺りには存在せず高速で山野を移動する二人に怖じけついていたからだったりする。
半日はかかると思っていたが、3時間程で着いてしまっていた。
「やぁ、久し振りにこんなに歩いたよ。しかしソウマ君って速いね」
流石にゆっくりとした行軍ではなく道なき道を掻き分けて進む道程だったが、ソウマのペースに遅れることなくカタリナは移動していた。
「いやカタリナも凄いな。休憩もなしで平然と着いてくるなんて思いもしなかったよ」
「これでも鍛えているからね。それに道中魔物にも出会わなかったし」
「お陰さまで早く着いたよ。ここで少し休憩をしよう」
そう言って袋から湯気が漂う温かいスープ鍋と容器を2つ、黒色パンを2つ取り出した。
「へぇ、ソウマは収納魔法が使える道具を持ってるんだ?羨ましいね」
驚きながらかなり本気どの高い口調で訪ねた。
アイテムボックスのような収納出来る道具は、それこそかなり希少だ。
迷宮でも見付かる事自体滅多に無いし、売りに出されれば金額は計り知れない。
余程の事がない限りは、殆どの発見した者達は自分達で使うのが常となっている。
「ん、貰い物だけどね。重宝してるよ。さぁ、食べよう」
そう嘯くソウマ。
「んー貰ったの?…そこは秘密なんだね。仕方ない…わかっていると思うけど、余り他の人には見せびらかしちゃ駄目だから。ソウマ君を狙う人間が出始めるからね」
二人仲良く雑談を交えながら、簡単に朝食を楽しんだ。辺りは日が昇り、朝日が美しい光景を醸し出していた。
「ふぅ、ご馳走さま。山奥でこんな手が混んだものを食べれて美味しかったよ。それじゃお礼も兼ねて私の精霊魔法を見せてあげるね」
するとカタリナの左手が輝いたかと思うと、不可思議な紋様の魔法陣が浮かび上がった。
俗に言われる召喚陣である。精霊に特化した陣を精霊の門と呼ばれる現象を引き起こし、カタリナはもたつきもなく手慣れた感じで自然に門を開いていく。熟練者の証拠だ。
精霊の門から出てきたのは全身が淡い光に包まれ、小さな子供のような体型に木の枝の帽子を被った髭もじゃの精霊が現れた。
『木精霊、力を貸して。ソウマの傷を癒して』
そうお願いされた木の精霊は、無言で頷きを返してソウマの元へと移動した。
そして左手に辿り着くと、木の根を張るように変形して巻き憑く。
じんわりと温かな光が両手全体を多い、発光を始めた。
「この精霊に自然治癒力を高めて貰っているのよ。回復には暫く時間がかかると思うけど」
あれがエルフ種族にしか適性が無いと言われている精霊召喚による魔法。
ゲームの設定上にはそうあった。
ドワーフ族も使えたそうだが、ある時期に鍛冶に目覚めた時に火や金属を多用した為に自然の精霊が嫌がり、極限られた才能ある者しか使えなくなったとあった。
あの匠の技を誇るアデルの町の鍛冶長ジュゼットでさえ、なり得なかった。
精霊も使え、鍛冶も使えるドワーフこそ、厳しい修業の末に到達するたぐい稀な武具を産み出せる者として精霊鍛冶士への一歩を踏み出せる。
その中から頂点に立つ者こそが、至高の存在たるマイスターの称号を授与されるのだ。
因みに精霊鍛冶士の一人として、王国にはドゥルクの父親がいる。
ソウマの持つ弓素材【雲鯨の大髭】3つなどを加工出来る職人の心当たりも彼ぐらいしかない。
ソウマのゲーム時代の最後にユウトへと手渡した大剣を打ったのも彼であった。
(とは言え、自然における精霊魔法についてはエルフだけの専売特許ではなく、例外は在るんだろうけど)
例えば、魔に魅了されて堕ちた精霊が魔物として現れたり、逆にそれらを使役したりなどと…。
しかし、間近で見る精霊魔法。幻想的な光景と自身の身に体感する恩恵に、初めて見た精霊魔法にソウマの心は熱くなり、興奮を覚えながら、お礼を伝える。
「初めて精霊を見たよ。貴重な体験と回復有り難う」
「いえいえ、どういたしまして。それじゃあ、行きましょうか」
草木が生い茂る窪みのある草原。そこにはソウマの目的たる鳩鶏の群があった。
「やはり、栄光の魔鶏はいないか…仕方ないけど始めよう」
ソウマは少し残念だったが目の前の鳩鶏に狙いを定め、比較的大きな鳩鶏を意識してテイムし始めた。
精魂接続は相変わらず繋がらない。しかし、何らかな繋がりのような感覚が頭に訴えてくる。
その感覚を信じ、ソウマは2匹の鳩鶏のテイムに成功した。
「何となくだったけど…成功して良かった」
ホッと安心すると、隣で見ていたカタリナから拍手を受ける。
「お疲れさまソウマくん、魔物使いの系統の魔術であるテイムは初めて見たよ。鮮やかな手並みだね」
にこやかなカタリナにソウマは返答しつつテイムしたばかりの鳩鶏を見ると…何か様子がおかしい。
この魔物は弱いゆえに危険を察知する野生の勘が総じて高い。
ソウマやカタリナのような規格外でもない限りは、危険を察知して逃げる性質を持っていた。
やはり精魂接続の機能は使えず、現在も念話は未だ使えない表示だ。
しかし、魔物使いのサブ職からか鳩鶏の表情は何となくわかる。
(ん、これは…何かに怯えている?一体何に怯えているんだ)
マップを展開すると、そこには不思議な点滅を繰り返して接近してくる敵対行動を示すマーカーが増えていた。
これは…1、2、3…と増えた??巨大な点滅が1つ。
「カタリナ…さん。どうやらお客さんが来るみたいだ。警戒しよう」
「えっ、まさか…本当かい?」
カタリナは驚くも、直ぐに気配を察知したようだ。
「っ…この気配は大物だね。やれやれ、ソウマくんは優秀な索敵能力をお持ちみたいだ。今度コツを教えてくれるかな?」
軽く笑いながら、冗談を飛ばしつつ戦闘準備を整えていた。
「それと、無理に言いにくいならカタリナでいいわよ。私もソウマって呼ばせて貰うから」
少し照れた表情を見せ、はにかむ様子は可愛すぎる。心のスクリーンショットに絶賛保存中だ。
「じゃあ、カタリナ…。宜しく頼む」
若干照れつつソウマも答えた。
そんな戦闘の雰囲気ではなかった2人も、直に近付いてくる濃厚な魔物の気配と地響きに頭を切り替えた。
テイムした鳩鶏を魔獣紋のネックレスに送還してアイテムボックスへと入れ直した。戦闘に巻き込まれて死んではたまらない。
他にいた鳩鶏の群はすっかり逃げて消えていた。
そのせいか点滅している敵対マーカーはこちらを真っ直ぐに向かってきている。
「じゃあ、ちょっとご挨拶させて貰おうかしら」
カタリナが背負ってきていた木弓に矢をつがえ、振り絞る。
キリキリリ…と限界まで引き絞った弓はしなり、呻き声のような音を出す。
パンっと小気味良い音がすれば目にも止まらぬ速度で次々と矢が発射されていく。
ものの5分も立たない内に20本以上の矢を放ったと思う。
あっという間に矢筒から矢を射ち尽くしたカタリナは、少し悔しげに唇を噛む。どんな表情でも絵になる美貌を誇るダークエルフは、木弓をし舞い込んだ。
「ある程度の手応えはあったけど、仕留めきれなかったわ…もうすぐ来るわ」
カタリナはショートソードを腰から抜いて手に持ち直し、いつの間にか片方の手にはスモールシールドを構えていた。
「いや、充分すぎるよ。援護有り難う」
その言葉からすぐ地響きと共に転がるようにして現れたソレら。
3体の内の2体が先に到着し、ソウマたちから10mは距離を置いて立ち止まる。
その魔物は植物の実…ドングリのような細長く丸い形状をしており、1m50㎝程の大きく堅固な殻に覆われている。
体表は緑色の一色のみで、所々カタリナの矢によって殻を突き破られていた。
あの速射で殻の薄い所を見極めて射る腕前は相当なものだと解る。
しかし、身体中に矢が突き刺さって動きにくそうにしてはいるが、小刻みに動いて体内の矢を振り払っていた。
空いた穴から透明色の液体が振り撒かれ、流れているが戦闘に支障はなさそうだ。
そして、転がりながら後から現れた個体は2m近くあり、丸々とした確固たる存在感を放っている。
前者の2体と違ってこの個体は頭部?と思わしき場所に冠のような木葉で彩られたモノを身に付けていた。
必然的に両者睨み合う形となった。
「何!?この木の実見たいな魔物は…見たこと無いわ。新種の魔物かしら?」
警戒感を高めながら、油断なく見据えるカタリナ。
一方、ソウマはその魔物の存在を知っていた。
「そんな馬鹿な…これはイベントなのか?」
そう、カタリナが見たことがないのは当たり前だった。
この魔物たちはイベント専用の魔物であり、その為だけのオリジナル・モンスターだからだ。
俺の記憶が確かなら尖兵として現れた前者…2体ののドングリの形をした魔物はエンゼルナッツと呼ばれる個体。
そして、後から現れた魔物はその上位種族であるヘブンズナッツのはず…だ。
条件が整えば自動的にその場に起こるイベントだと言われ、一体どの条件で始まるか、ネットでも検証中のイベントなのだと噂だった。
推奨レベル第2職業からのイベントクエスト【生命樹の実使】
かつて戦弓師になりたての頃、ソウマが挑戦し、最後まで攻略出来なかったイベントでもあった。
後で誤字脱字など編集したいと思います。




