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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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ソウマ編 温泉村ココット

温泉で充分に身体を暖め、満喫した後に3人でマコット宅へと帰る。


このココット村には外部の人間が温泉に入りやすいように専用の大浴場がある。小さな村のため、他には雑貨屋と道具屋の店先が並ぶのみで他には住宅しかなかった。


「勿体ないな。この良い温泉を売りに温泉宿でも始めれば儲けられるだろうに…」


思わず日本人としてつい呟いた一言が、商売人であるマコットの耳に止まった。


「おぅソウマ。何だよその温泉宿ってのは」


儲け話には人一倍感心のあるマコットは、実はかなりの金額のお金を溜め込んでいた。今回の事もあるのでもう少し行商を続けたら信頼のできる人間に跡を任せて本人は別の商売を考えていたのだ。



「えっと…温泉宿ってのはですね…」


日本の知識を総動員しつつ、思い出していく。

幸いにして【異界大天使の加護】には異世界知識が詰まっており、インターネット検索のようにスラスラと検索したい知識がデーターベースとして引き出すことが出来た。

とは言っても知識補助だからそんなに多くはないのだが、チート万歳である。




マコット達は温泉を匂いのする只のお湯だと勘違いしているようだが、温泉とは何かを簡単に話す。

そして、効能には様々ありこの温泉は血行促進による疲労回復の他に腰痛などの疼痛緩和、芯が温まる効能もある一般的な事を教えた。

そして、ファンダジーなのかソウマの左腕か疼き、ポーション治療にも似た回復魔法に似た効果もあるのではないか?と考えている事を伝えた。



マコットはその都度気になることを質問をして、自身の脳内で考えを纏めていた。



「なるほどなぁ、旅してるお前さんの知識には目を見張るもんがある。勉強になったよぉ有り難うな」


滋養に効果のある温泉を売りとして、サービス溢れる誠心誠意の気持ちがまたお客として来たいと思わすリピーターのもとになること。

そしてここでしか頂けない食材や地元産で有名な食材を料理を提供し、また特産 品をお土産として加工して売り出す。

マコットにはそんな発想は思い浮かばない。いや、当たり前すぎて商売にすらしようと思う人間はいないたろう。

全く眼から鱗がおちる思いでいっぱいだったのだ。


ここに美しい景観や、立ち寄り場所があるような観光名所でもあればまた売りになるのだろうが現在は上記に上げた3つの課題で充分だった。



妻と話し合ってみるか…と、考えながら歩いているとあっという間にマコット宅に到着する。

家の中から美味しそうな匂いがプンプン漂ってきた。


「母ちゃーん、ただいまー腹減ったよぉ」


マルコフの元気な声が玄関に響いた。


「大したものではありませんが、召し上がってください」


食卓へと通されるとそこには様々な料理が皿に盛られ、湯気を上げて並んでいる。

マコットの奥さんであるカリンのご馳走は非常に美味しかった。

この地方特有の山鳥の丸焼きに野菜を詰め込んだ独特の料理や、鹿肉のスープは疲れた体に染み込む。


出された出来立てパンに舌鼓をしつつ、ソウマはそういや温泉玉子ってないなと思っていた。ソウマにとっては温泉=温泉玉子は定番の食べ物だった。

不思議に思ってマコットに聞くと、始めた聞いたようでもっと詳しく教えてくれとせがまれた。



卵を殻のまま温泉の温熱を利用して茹でて、黄身と白身とも半熟の状態にして提供する料理だとざっくばらんな説明だったが、マコットも奥さんも興味深く聞いていた。

栄養満点でドロッとして美味しいと聞くと、マルコフも食べてみたいと言い始める。


そんな作り方と食べ方があったのか!と驚愕したが、直ぐに作るのが難しいと判断して落胆する。

作り方が問題ではなく、素材である卵を入手するのが大変なのだ。


山鳥は山や森に狩に入れば入手出来るが、卵はそうはいかない。

希に鳥を囲い、卵を出している農家はあるが、需要は少ないし値段も非常に高い。

それにココット村には卵の生産ラインがないため、他所の村から卵を買うには日にちと輸送コストもかかり過ぎて更に値段は高くなる。



マコットの計算では諦めざる終えないとしか思えなかった。


新しい商売の種だと思っていただけに非常に落胆も大きい。

明らかに影が落ちた様子だった為にソウマがマコットの話を聞く。最後まで聞き終えたら、ソウマは何とかなるかも知れないと伝えた。


それを聞いたマコットはどうするのか聞きたがったが、それを行うには必要な物もある。無駄足になるかま知れませんが…と、前置きした上で話した。








ソウマの思い付いた方法は簡単で、ようは養鶏して鶏卵の生産ラインが整えば良いのではないか?と思ったからだ。

こう思う背景に、ゲーム時代に召喚士で農業を始めた友がいたことを思い出したからだ。

最初は遊び半分だった友は、次第に自分の作ってくれた生産物を買ってくれる人達が増えるに連れて楽しくなっていったようで、最終的に養殖まで辿り着いてしまったのだ。

その時同じ召喚士としてソウマも手伝わされたのが、とある鳥型の魔物のテイムであった。

勿論、課金すれば鶏を買える。しかし餌は決められた高級餌しか食べず、きちんと管理しないと直ぐに死んでしまう。


友が選んだのは課金ではなく、魔物で代用できないかだった。

番を囲い研究した結果、魔物の方が丈夫で少しぐらい環境が悪くとも生き抜き、質は低いが生命力のある卵を産む回数が多い。

餌もなんでも食べて、時にはフィールドに放っておけば勝手に他魔物を狩って食べてたので害獣駆除も兼ねたガードマンとして一石二鳥だった。


その魔物は大草のフィールドに住まい、鳩鶏と呼ばれる小型な魔物が進化した【栄光の魔鶏】という魔物であった。


栄光の魔鶏は魔物の強さ的には森林狼よりは強い程度の魔物だ。普段は大人しく害する相手に対しては獰猛な1面の性質を持つ。





確か王都付近のフィールドに鳩鶏ならいたよな?と思い、まずはテイムしてみようかと思っていた。

その為には自分の従魔としないので、まずは番の鳩鶏2羽をテイムするための魔獣紋のネックレスが2つ必要だ。

スキルは使えないが、召喚士としてのサブ職業は生きている。

テイムには問題のないから何とかする…だけだ。







上記の説明に真剣に検討したマコットは…最終的にやってみることを了承した。

正直始めての事で不安はある。商人として鳩鶏は始めて聞く名前で、栄光の魔鶏なんて魔物なんて聞いたこともなかった。


魔物の生態は知らないがこの凄腕の傭兵は嘘は言っていない、騙そうとなんてしていないと、これまでの商人の勘が訴えている。


寧ろこの機会がなければ成功は無理だと思うのだ。


残念ながらこの小さな村には冒険者ギルドは存在しない。

冒険者ギルドが存在する大きな町はここでは王都が一番近い。そして馬車を使っても丸一日は移動に時間がかかるだろう。



マコットは魔獣紋のネックレスの入手、ソウマは付近のフィールドに鳩鶏が生息していないか確める事を決めた。

「御馳走様でした」と、たらふく食べ終えた面々はそこで解散となった。満腹となって急速に眠気が襲ってきたソウマは早々と用意されたベッドで眠りに着いた。


その夜、マルコフを寝かし付けた妻カリンと久し振りの夜生活を堪能したマコットは、この先の将来と商売を語りながら自分の考え…新商売の可能性についてを説明していく。

夫のマコットの商人として信じているカリンは、少しの不安を見せずに貴方についていきますと返答を返した。

息子であるマルコフは冒険者に憧れているし、もう一人跡継ぎをつくるのは悪くないなぁと思い、頑張ったマコットである。

こうして夜は更けていった。







朝日がソウマを目覚めさせた。

少し伸びをしてから眠気を覚まし、ベッドを整理してから食卓へと向かうと既にカリンとマコットは起きており、マルコフも眠い目をこすりながら起きていた。


朝の挨拶を交わすと、昨日より艶々の肌をしているように見えるカリンは上機嫌で鼻唄を歌いながら料理をしていた。

逆にマコットは少しげっそりしていたが、やってやったぜと言わんばかりの雰囲気だ。


マルコフは、父ちゃんが帰ってきたら母ちゃんはいつも元気だなぁと夫婦が仲が良い事を自慢に思っている良い子供だった。


「ソウマ、眠れたか?」


「ええ、泊めて頂いて有り難うございました。病み上がりだったのでグッスリ休めました」



喋りながら、完成された料理を美味しく頂いた。



今日はこのココット村から少し離れた付近で鳩鶏を探す予定である。それを伝えると、目を輝かせたマルコフは俺も行きたいと声を上げた。


鳩鶏自体は戦闘能力は高くはない。

武装を揃えた初心者の冒険者一人でも勝てる魔物のため心配はしていない。

カリンは反対していたが、マコットはソウマがいれば大丈夫だろうと検討を付けていた。寧ろこのまま放っておいてはいずれマコットが留守の間に飛び出しかねない。

それならば安心して任すことの出来るソウマについて行って貰い、冒険者の動き方や心構えを知れる良い経験になればと感じていた。



この辺ならば魔物も少なく、また出たとして弱い魔物しかいないはずだ。それならば任せた方が良いかも知れない。

一瞬でそう思い至ったマコットは、ソウマさえ良ければお願いすると、頼まれた。

まさかOKが出ると思わなかったマルコフは非常に喜び、父親に抱きついていた。ソウマもお礼だったとは言え、一宿一飯の恩義もある。特に反対意見はない。但し、ソウマの言うことは必ず聞くことを約束させた。


不安そうにするカリンを説き伏せると、マコットは改めてお願いした。





お昼ご飯に2人分の弁当を持たされたソウマとマルコフは、ココット村より王都方面に向かって歩き出す。

背中のリュックにお弁当をしまい、片手にはいつも使っている木の棒をもって意気揚々と舗装された道を歩くマルコフを見ていると微笑ましくなるソウマだった。


マップで危険がないか充分に確認するソウマは、途中食べられる木の実や、怪我に僅かに効能のある薬草、毒草の見分け方を教えていく。

実物があれば実際に手に取らせるなどして経験させていく。

地味だな~魔物なんか出ないかなと内心考えていたマルコフだったが、次第にソウマの教える事に興味を抱いて学習する。


2時間も歩いただろうか?疲れが見え始めたマルコフは何とか弱音をはかず必死に歩いていた。途中で馬車や歩行者と何人もすれ違っていく。


マルコフは疲労困憊だった。いつもは平気なのに手に持つ棒や背負うリュックがとても重く感じる。しかし、子供だから持って欲しいなどと言った弱音は吐かなかった。

それに気付いていたソウマはその根性に感心した。


日の当たらない見晴らしの良い木影が見えるところで休憩をとる事にした。

ようやくの休憩に座り込んだマルコフは、リュックから木の水筒を出して勢い良くがぶ飲みする。


「良く、弱音を吐かなかったな。偉いぞ」


そう褒めたソウマを見たマルコフは、少しはにかみながら答える。


「そりゃあ、俺が行きたいっていったからさ。ここで弱音なんか吐いちまったら冒険者なんてなれねぇし」


気持ち良い風が心地よく、汗まみれの服の気持ち悪さを拭ってくれる。


「それにソウマは汗ひとつ欠いてないじゃんかよ。本当の冒険者って皆こうなのか?参るぜぇ」


「まぁ、歩いただけだからな。体力はあって困るもんじゃない。でも、子供ながらにこんなに頑張れるとは正直思わなかったよ。マルコフは偉いぞ」


いつも母親のカリンからは叱られてばかりだったので、ソウマの素直な称賛を嬉しく感じていた。

照れながら更に水を飲もうとすると、木筒からは水が一滴も出てこなかった。残念に思っていると、ソウマが微笑む。


すると何処からか流麗な紋様の描かれた水瓶を取り出して地面に置いた。

ソウマは、マルコフの木筒を貸してもらい、そこに汲み始めた。

これは黒死鳥の巣で休んだ小部屋の湧き出る水瓶が試しにアイテムボックスに収納できたので、有り難く拝借してきたのだった。

因みにアイテム名は【清水の湧き瓶】と言い、水を一定量

生成し続けるハイレア級のマジックアイテムである。


子供ながらにその非現実的な光景に驚きながら、木筒の水を口に含んだ。とても冷えていて美味しい水の味がした。


「マルコフ…皆には内緒だぞ。約束出来るな?」


「ああ、勿論だ。父ちゃんが男の約束はぜってぇ守れって言われてるしな」


一気に元気が出たマルコフは休憩を挟んでまた歩く。

しかし、出発してから3時間が経過するが鳩鶏おろか魔物すら出会えなかった。やはり街道を外れないといないようだ。


これ以上進めば日暮れまでには帰れない。マルコフに事情を話すと残念そうに納得してくれた。昨日と比べて随分自分になついてくれたマルコフ。



もう少しでココット村へ帰り着く道中、ソウマのマップギリギリにに反応があった。

遠目だったが目を凝らしてみれば、森から出てきたと思われる鹿が一頭いた。草をはみ、首を下ろしていて此方には気が付いていない。


このココット村は付近では豊富な自然溢れる森林があるため多様な動物が狩れる。その中でも大型の鹿の鹿が獲れる。

その鹿肉で作った料理レシピが豊富で、昨日のスープも絶品だった。



「マルコフ…あの付近に鹿がいるぞ。しかも大型だ」


「えっ、俺には見えないやを何でわかるんだソウマ」


マップを使ってますとは言えず、これも経験だと嘯く。


ここから狙うには少々距離が遠い。向かう間に気が付いて逃げられる確率が高い。今は弓が使えないし、投擲するにも漆黒の短剣で仕留めればバットステータスが付与されてしまうから肉の状態が悪くなる。


どうしようかと悩んでいると、丁度マルコフの手に持つ木の棒が見えた。


「マルコフ、すまないがその棒を貸してくれないかな?」


「えっ…構わねーけどどうすんだよ?」


貸して貰った木の棒の具合を確める為に少し振ってみる。シュッと音が鳴り、 強く力込めても大丈夫そうだ。距離にして約200m超えるくらいか…よし、なんとかなるな。


「よし、まぁ見ててくれ」


そう言うやいなや、右手で狙いをつけながら全力で投げつけた。

風を切りながら凄まじいスピードで飛んでいく。


バキィと何かを砕く破砕音がしたかと思うと、何かが倒れる音がした。


マルコフには一瞬の事過ぎて何が起こったのかは正確には把握してないが、いまトンてもない事が目の前で起きたのは事実だった。


「ありゃあ、ミスった。狙いが逸れるとはまだまだか」


ソウマなりにスキルや補正だけに頼らない自力を上げる訓練の大切さが身に染みた。帰ったら空いた時間にトレーニングでも始めよう。


倒れて動かない鹿まで二人連れ添って歩いていく。



マルコフは太い首があらぬ方向に折れ曲がった鹿と、その場で原型を留めないほど粉砕された木の棒…のようなモノを発見する。


「マルコフ、貸して貰った木の棒を壊してすまない。今度何か代わりのモノを用意するからそれで許して欲しい」


そう言うソウマの謝罪が左から右へ抜けていくほど、マルコフは驚愕していた。


「すげぇ…」


驚きすぎて生返事をしながら、淡々と言うしかなかった。









その後、マルコフに手伝って貰いながら取り出したロープで鹿を縛り、ソウマの体に括りつけてもらう。


鹿は最低村の力自慢の大人が2人以上で運ばないといけないほど大きな鹿だった。重量は数百キロはあるだろう。

てっきり一度村に戻ってから大人を呼んでくるものだと思っていたマルコフはまさかなぁ…と思いながら手伝っていた。


ソウマは右手だけでも鹿を持てたが、流石にそれは常識を考えて自重した。

しかし、一人で背に担いで村に持っていく事自体、余り一般的なこと出はないことに気付いていなかった。

その為、ココット村に着いたときは大騒ぎになり、マコットが連れてきた怪我人の傭兵はトンでもない奴だと噂が流れた事は仕方のない出来事である。


因みに鹿肉は村全体に振る舞われた為に村人には好印象に映り、良い噂になったのはソウマにとって少しは幸いな事であった。

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