贖う者 前編
今回、色々な視点が絡み合います。
自分の頭の中では設定が決まっているのですが、それに関して文章が足りなくて何のことか分からなかったり、読みづらかったり、文章が表現仕切れなかったりしていたらごめんなさい。
部屋を埋め尽くす程の黒色の魔物は時間はかかったものの、全て討伐された。
グレファン達も疲れ果てていたが、兵士達も含めて無事だった。
ただし白い壁紙の部屋の中の機材を含めて、殆どは破壊されており復元する事が出来ないモノは放棄するしか無かった。
研究者達は愕然していた顔をしていた。特にミハイルはブツブツと呟き続けており、一層暗い雰囲気を醸し出していた。
ガリウや直属兵が中心として守っていたこともあり、中央部に配置してあったNo.1と書かれた細長い筒状の貯水槽は無事であった。
その中には緑の液体と淡く輝いている肉片が納められていた。
不思議な光景に目を奪われていると、ミハイルと研究員達は言い争う声が聞こえてくる。
「わからんか!此れだけは何としても持って帰るんだ」
「しかし所長、この巨大な貯水槽ごと持ち運ぶのは無理です」
「ならば、特別実験体を諦めろと言うのか馬鹿どもめ!」
語尾を荒くし、何度も平行線を辿る会話を前に、遂にグレファンが介入しようとしたが、それを制してゴード副所長が会話に加わった。
「ミハイル殿、少し落ち着きなさい。
まずは我々の脱出路を確保してからでは遅くないはずですよ?
ここで言い争っていればまた魔物が襲ってくる危険性もある。それは貴方にもわかっていましょう?」
苦虫を潰したような顔をしたミハイルは、ゴートへと向き直る。
「…ゴードよ、研究のコンセプトは違うが同じ実験体を前にした貴様にならば解るだろう?
この個体がどれほど希少で掛け替えのないモノなのか…が。
この細胞に適合出来た者は劇的な変化…いや進化とでも言うのか、ええぃ、間違いのなくこの世界に革命をもたらす。
この実験を進め、適合者を生み出し続けていけばいずれ…確立することが出来れば永久に我らの名が世界に残ることとなる…そんな類稀な名誉を諦めろと言うのか」
最後の方の口調は嘆願に近いものだった。
「…それはよく分かっていますとも。私の研究は貴方と違って特殊個体の細胞を活性化させ、弱めた細胞の一部を移植して実験体に施した性能を測ることにあります。
適合した人体は例外なく、性能が非常に上がる事を確認している。
結局のところ細胞が適合する副作用にも耐え、生き残ったのは、致命傷を負った【拳嵐】メンバーだけですがね。若様があの時運んで来られ、嘆願されていなければ彼等は助からなかったでしょう。
それによって実験が進んだのは皮肉な事ですね。
個々によって特徴的な変化を及ぼすのかミランダは瞬発力を含む筋力向上や動体視力が強化され、ヤラガンは自然治癒能力の長けた体を授かり、多少の傷など回復しながら気にもせずに活動出来た。
ジーンに至っては元々の優れた知覚能力の拡大が見られる等、個々に渡って移植した結果が違う。
どんな原理が働いているのか、解き明かす事に私も反対はありません」
そう区切り、ゴードは自らの考えに耽る。
(この変化は身体が細胞を受け入れて適応したといっても過言ではない…寧ろ其の方がしっくりと説明が付くのではないのか?
最も彼等が協力してくれた実験データーを基に新たに開発した新薬は、念の為に残してありますが…どんな副作用があるのか確認は出来ていませんからね)
「だろう?ならば何としても…」
ミハイルが喜色を浮かべたが、それを遮るように断言する。
「問答している時間はありませんぞ。ここで死にたいのならば止めは致しません。
それに特殊個体も貯水槽から離れれば徐々に細胞は弱り、肉片すら存在を保つことすら難しいでしょう…なれば、捨て置く方が良いのです。
幸いにて我らには研究成果が残っている。取り敢えずは良しとしても良いのでは?」
そう諭すようように問いかけたゴードは沈黙を決め込んだ。
此処まで言っても分からなければ、最悪置いていくしかない…とまで考えていた。
錬金術や研究における知識はともかく、元々一人歩きの過ぎる性格のミハイルは、誰かが手綱を握らなくては暴走し過ぎるのだ。
その為、今の今まで秘密通路すら彼にだけは秘密にしていたのだ。
他者からも最近のミハイルの行動には目が余ると、苦情も多い。ここで勝手な行動をするなら害にしかならない…彼にとってのターニングポイントであると言えた。
じっとミハイルの回答を待つと、自分の中で整理が付いたのだろう。
「やはり捨ててなど置けない。これが誰かの手に渡るくらいなら、今持ち出して腐らせた方がマシだ」
そう言って特殊個体の液体を抜き、貯水槽から勝手に取り出した。
手頃な容器へと液体ごと移し替えて兵士に持たせていた。
この行動により、大いなる災難が彼等を待ち受ける事になるのだが…この時点ではまだ知る由も無かった。
ゴードは盛大に溜息を吐きたかったがなんとか我慢し、密かに溜息をつく。
ようやく自体が動くと思い直して、気を取り直した。
ミハイルはようやく辺りを見渡した。レガリアを見たときに骨を折られた恨みを思い出して睨み付けたが、不快に感じたレガリアは眼に闘鬼をかけて逆に睨み返す。
圧迫感が身を襲い、膨大な冷や汗を隠すかのようにその後目線をNo.6と7にも気付き、当たり前のように命令を下した。
「No.6、7よ、来い。
私が命ずる。任務を失敗したお前達を許してやろう。今後は我々を死ぬまで守れ」
勝手すぎる言い分と傲慢な態度にコウランが怒る。
「何勝手な事を言ってるのよ、そんな馬鹿な言う事聞くはずないでしょ」
「馬鹿だと!この小娘が…私を誰だと思ってるんだ。
実験体のテストに過ぎない分際で偉そうにモノを語るな」
再度口論が始まり、グレファンが慌てて止めに入った。
「双方待ってくれ、コウラン嬢、貴女の怒りは最もだがここは脱出が先だ。
ミハイルも、彼らはこの死地を救ってくれたのだぞ。丁重に詫びて生きてここを脱出するのが先だ」
黙ったものの、お互いに納得していない事は明らかだ。
ミハイルはあらかさまに此方を無視し、戻っていった。
コウランは背を向ける事で視界に写らなくした。
(なんなの、アイツは…)
見えなくなる事で少しは溜飲が下がったが、プリプリとした表情は変わらず、怒りの衝動をなんとか押さえ込んでいた。
やりとりを見ていたグレファンが申し訳なく感じていたが、まずは撤退の段取りを説明し、彼らと共に脱出することへの了承を得た。
撤退の準備に取り掛かるグレファン達を横目に、する事がなく手持ち無沙汰のレガリアは、サッサとダンゴムシのような魔物の皮をその場で器用に剥き、つるんとした肉にかぶりついて消化していた。
炎熱攻撃付与スキルを使用して軽く炙ったりもしたが、特別美味しい訳では無かったのが残念だった。
蟲型の魔物を食べているレガリアに対して、捕食を見慣れていない直属兵達は奇異の目線を送る。
生物的な嫌悪感がこみ上げるが気持ち悪さを抑え、自分達の仕事を優先する為にレガリアに視線を向ける事を極力避けた。
レガリアは20匹ばかり喰べた所でやめ、壊された機材をも口に運んで微量でも自身の経験値へと変えていった。
壊されていた機材の中でも貯水槽と思わしき破片は稀に希少な金属を使った金属もあるのか【体内吸収】スキルが反応し、其れ等は結構な量の経験値へと変換された。
この事に気を良くしたレガリアは周りを気にしつつも、喰べたように見せながらアイテムボックスへと残骸を回収していった。
特に眼を付けたのは彼らが特殊個体と呼んでいた肉片が入っていた貯水槽であった。
(あの箱を彼等が捨てるのならば、私が貰ってしまいましょう)
暫く時間が過ぎ、大まかに撤退の準備が出来た面々は最終の荷物を纏め、支度を整えていく。
準備が完了したと判断したグレファンはゴートに命令し、壁に巧妙に隠されていた脱出路へと続く扉のボタンを押させた。
すると音もなくスッと白壁が開き、奥へと続く通路が開かれる。
先に研究員達が書類や持ち運びの出来る機材と数名の兵に守られながら通路へと駆けていく。
「お兄様、お先に」
「グレファン様、先へ行って安全を確保しておきます」
順々へと駆けていく研究員と兵を眺めながら、ガリウと起動ゴーレムに守られながらナタリーが通路を渡っていった。
最後に残った研究員の男性とミハイル、グレファン達とコウラン達が通路へと向かう。
殿を務めると宣言したレガリアは、黄金魔蟲戦での腕前を認められており、誰もが納得して任せてくれた。
彼らが駆けて行った後、直ぐに用事を済ませて追い掛けていく。
レガリアが去った後、通路は自動的に閉じて静寂を取り戻した。
彼等が去ってから暫くした後、静まり返った空間に魔力による揺らぎが生じ、輝く魔法陣が形成された。
その魔法陣の中央には奇妙な仮面を被った人物が姿を現した。
「あれ、召喚しておいた魔蟲の気配を感じない。ふぅーん、アレを打ち破ったのか…やるじゃん」
そして、何かを探すかのように歩き回る。
戦闘でボロボロになった室内から、研究書や資材を手にとっては捨てるを繰り返す。
何度か同じことを繰り返し、壊された戸棚に閉まってあった1つの研究書を拾い上げた。
それはミハイル達では解読不可能だった文字で書いてあった本で、本自体もボロボロになっていて読み難い筈だが…そんな事は構わずに、慎重に本をめくって読み解いていく。
手に取った本を全て読み込んだ末に、嗤っているとしか感じられない声が響いた。
「クックック…道理で調査しても魔力を込めても、ここのアビスゲートが開かない訳だ。封印されている本人がいないんだから。
この本には異貌の神々が封印…それも分体が封印されていたと記されている。
現代残るアビスゲートの役割の大半はかの戦争で敵対し、倒しきれずに封印するしか無かった力ある魔獣とか、神々の眷属の封印だった。
稀にこの遺跡のように、とある神に連なる系譜のモノが厳重に封印されていることもある。
この資料にはこの地で捕獲した異貌の神の分け身を再封印した…とあるけど…ボクの直感じゃこの記述は間違いだと囁いている。コレは何かを隠している匂いがするヨ?
まぁ分からないから良いけどサ。
他には破れていて読めないけど、魔族語でNo.1と銘打った存在を用いて様々な実験の数々が記されいるね。
しかし、封印の影響で遮断されていたのか、何ヶ月前には全く感じなかった濃厚な気配を、さっきからハッキリと感じている…この火山の外へ向けて移動している見たいだね」
そう言って隠し通路の壁に向かい、連続して火球を叩き込む。
何度か繰り返すと遂に耐久性を超えた壁は破壊されて通路が剥き出しとなった。
「まさか異貌の女神である1柱、夢幻のトゥーサ…分体とはいえ封印されていたなんてね。
お前の残した力はボクが役立てあげる。
ホント、ラッキーだったよ。例え見つけてアビスゲートを解放しても神である分体が相手では恐らくまだ勝てなかっただろうし…何故また再封印されたのかは分からないけど、この状況下では幸運だったよ。
いずれボクが力を取り込んで…成長する為にキミ達異貌の神々を解放してあげる為にも…ネ」
仮面の下で美しく、そしてより醜く嗤った。先程から漂う特殊個体の特有の気配を追って、通路を歩き始めた。
とある兵士が抱える容器の中には特殊個体と呼ばれた輝く肉片が納められていた。
しかも驚くべき事にこの肉片はまだ生きており、意思を持っていた。
貯水槽と言う名の、特別な金属で加工された封印具から取り出された私の存在を、最早隠し通すことが出来ない。
特殊個体と呼ばれた異貌の神の分け身の分体は考え込む。
何者かが急速に近付いてくる。それも絶望の気配を伴って…。
現在の彼女に出来ることはテレパシーを使ってずっと呼びかけることだけ。
(アイツが来たらきっとこの世界の生命の多くが失われる)
誰か…と、必死なテレパシーの呼び掛けには未だ誰もが応えない。
時間は残り少なく、絶望感が襲う。
やがて特殊個体は万が一の期待と希望を込めて、残り少ない己が力を解放する。
思った通り、絶望を伴う未来が待っているのを視た。
その未来を覆す為に、人知れず輝き最期の力を発揮し始めた存在に、誰も気づかなかった。
研究所から隠し通路を無事に脱出したグレファン達とコウラン達。
サザン火山の中でも森林部に位置するこの付近は、魔物は比較的に少ない場所である。
安全を確保しながら、落ち着いた場所で集まる。
コウラン達と少しの間話し合い、今回の件について他言無用を条件として迷惑料を含めて、少なくない金額を支払う事で合意して別れた。
ミハイルの件で決定的に決裂する事は無かったが、彼等とは今後道が交わることがないだろう…と思っている。
グレファン自身は将来有能な人材となるコウラン達と交流を持ちたかったのだが…今の状態では決裂しなかっただけでも良しとして、残念ながら諦めた。
少し離れた場所で直属兵と研究者と再集結し、今後の事について話し合う。
「見付けた」
前触れもなく突然聞こえたその声は、聞く者に不吉なモノを感じさせた。
そこにいる全員が振り向き、身構える。
「いやいや、何身構えてんの。ちょっとお話しようよ?」
戯けつつ全員を見渡すと、1人の兵士に目を止めた。
「そこの兵士クンが持っているモノを此方に渡してくれたら、もう危害を加えないことを約束するよ。
それにこの身に着けている装備も進呈しようじゃないか。君たちにとっても悪い話じゃないだろ?」
仮面の人物の戦闘能力は知っていたし、装備は非常に貴重な品だと思われる。
特殊個体は非常に得難いものだが、我らには最早不要の物になりつつある。
部下を殺された怒りはある。しかしグレファンは不可解さと不気味さを感じていたが、不要な敵対をせずに双方メリットがあるのならばこの場はその提案に応じても良い…と考えた。
しかし、グレファンが声をかける前に怒鳴り声を上げて反対する声が聞こえた。その方向を向くと案の定ミハイルだった。
「貴様、ソレがどれだけの価値があるかわかっていっておるのか!
お前程度に絶対に渡さんぞ!!」
唯一状況を知らない者だけが発せられた言葉であった。
「君たち程度が持っていても仕方の無いモノなんだけど…一応提案はしてあげたよ。交渉決裂だね」
其処からは一方的な殺戮が行われた。
敵対行動として最初に無詠唱で複数の火球が撃ち込まれる。
防御出来た者や逃れた者は極僅かだった。
ミハイル等は真っ先に狙われ、火球を躱す事すら出来ずに焼かれ、物言わぬ死体へと変わった。
戦闘能力を持たないゴート達も然りである。
その為、仮面の人物と特殊個体を持つ兵士の間に綺麗に道が出来た。
その道を遮る者もいたが、即座に焼け焦げた死体へと変わるだけだった。
余りの戦闘能力に逃げ出した兵士に追いつくと、短剣を使用してアッサリと刺殺する事に成功した。
次に周りに牽制の為に火球をばら撒きながら、その死体へと近付いて鎧の中から特殊個体の入った容器を奪い取った。
「生命反応が薄いな…まぁイイッか。頂きます」
そう言って仮面を外した。
初めて見た容姿は、とても印象的で一度目に映れば惹きつけられるような魅力を放っていた。
非常に整ってはいたが、見れば見るほど何故か違和感を感じる瞳。ずっと眺めていたい顔では無かった。
その人物は容器から肉片を取り出して仮面へと付けた。
ズブッ…ズブッと仮面に吸い込まれていく。まるで喰べているような不気味な光景は、周囲の者達にハッキリとした嫌悪感を与えた。
あっという間に肉片を取り込み、また木目のついた金属様の殻のような丸い物体を吐き出す。
仮面が喜んだように大きく変化した。仮面の額には何かの印がクッキリと出ており、紋様が追加されている。様変わりした仮面を再装着した人物は、
「おぉ…おぉ…」
と、呻き声を出して蹲った。
理由かは分からないが、声の口調と蹲ったことから苦しんでいるように見える。
その間にグレファン達は火球の攻撃から立ち直り、戦える戦力としては激減した残り少ない面々はこの好機を逃すまいと攻勢に移る。
グレファンは、己が命をかけて勝ち取った焔巨人シリーズのフル装備スキルボーナスである【焔舞】を展開させた。彼の全身から滲み出た攻撃的な赤色が全身を包む。
ちなみにダンテの持つ上位炎鬼シリーズは【護火】と呼ばれる守備型スキルボーナスであり、火属性魔法 低位【火護防御】の属性防御力上昇と魔力による若干の防御力上昇が見込めるのに対し、相対するグレファンのシリーズ装備は攻撃に転化しているのだろう。
グレファンが愛用している宝双剣ザンマルカルの等級はレア級。
しかし、その双剣に宿りし武技は本来のレア級の武技では当てはまらない。
それは特別な素材と製法で作られた為に宿った逸品。
武技【属性強化(大)】の効果は、属性攻撃を伴う戦技の攻撃力威力を大幅に増加させる。
また、自身に掛けられている魔法効果【焔舞】をも最大までチャージして引き上げてくれる。
双剣士のみが会得するスキル【二刀流】と装備補正、そしてこの合わせ技を使い、あの物理防御力の高い黄金魔蟲を切り裂いたのだ。
その事から非常に強力な一撃となる事がわかる。
配下を殺して奪い取った特殊個体を取り込み?呻き声を上げる人物は、蹲っていても不気味なプレッシャーが増すばかりである。
出し惜しみなどせずに、自身の使える最大の技でなければ勝てないと思いこまされるぐらいには。
「奴は弱っている。チャンスだ仕留めろ!!」
絶大な攻撃力を誇る攻撃の唯一の欠点は、双剣にチャージまで時間が掛かる事にある。
焔巨人以上の脅威を感じ、焦る気持ちを抑えながら生き残った配下にそう鼓舞する。
この攻撃が発動せずに決着がついて欲しい…そう願わくも無駄な願いだと感じながらも、チャージする時間をひたすら待った。
グレファンの攻撃命令の最初に鋭利な水刃が煌き、無数の雷光が迸る。その後に重撃が響き渡り…魔法の巻物による殲滅魔法の輝きと轟音を伴い、眼を閉じても瞼を焼くほどの閃光と爆音が襲った。
普通の魔物ならば原型も残らない攻撃であり、BOSSだったとしてもかなりの痛手を与えられる攻撃だ。
しかし、此れほどの攻撃を与えても安心など出来ない圧迫感をグレファンは感じている。
その予感を裏付けるかのように土煙から姿を表した仮面の人物。
ローブはボロボロになり、両腕は消滅している。両足は何とか胴体にくっ付いている有様だ。
勢い良く仮面に走る血管用の赤い線が走り、脈動していた。
「うーん、思ったより力が戻らなかった。
トゥーサの分体自身が大分弱ってたんだろうけど…まぁ、贅沢は言えないよね」
発する言葉に魔力が篭っているようで、心の弱い者なら聴けば心の奥底から恐怖が沸き上がるだろう。
身体中から黒い霧状のガスが吹き上がる。ボロボロになったローブが捲れ上がると両腕が黒霧によって再生していく過程が見えた。
他の負傷部分も補われていき、ローブすらも新品同様の輝きを取り戻していた。
「仮面がかなり強化出来ただけでも良かった…かな。
何せこんなチャンスと偶然は、何百年振りだったからラッキーだよ。
さて、ボクの体に充分なダメージを与えられる強き者達だ。
勿論、この身が成長する良き糧となってくれるよね?」
歓喜を込めて話す口調は、グレファン達全員の背中に冷たい絶望感が身体を這いずり回るかのように容赦なく襲いかかる。
思わず後退りする彼らに、口調を軽いモノから少し改めた仮面の人物は自己紹介をした。
「自己紹介がまだだったね。ボクは【千貌】って異名で呼ばれているんだ」
完全に再生した身体から大杖を天に掲げる。
「これから死に行く君達に感謝を…」
上空に大きな魔法陣が出現する。
ジーンがいち早く気付き、自らを千貌と呼んだモノに手持ちの魔法巻物を使い、邪魔をしようと抵抗する。
魔法が収められていた巻物の力による炎の矢や風による風圧が複数襲うが、余裕があるのか障壁も張らずに当たるがままにしている。
その抵抗がほんの僅かだが、活路を見出す時間をくれた。
また、その魔法陣が出現したと同時にグレファンが行動に移していた。
「各人、散開せよ。生き延びて町で会おう」
そう叫びながら、チラりとガリウを見た。心得たように頷き、ナタリーを担いで走り出していた。
ナタリーは叫び、暴れているがガリウを振りほどくまでには至らない。
その一瞬眺め、安心した表情で上空へと翔んだ。
仮面の人物の召喚した魔法陣から燃え盛る塊が少し覗いていたが、それに臆せずに両手にした双剣で構えをとり、戦技【クロススラッシュ】を放つ。
武技【属性強化】にて充分に威力を増大させていた双撃は、熱せられた塊とぶつかり耳をつんざくような爆音を奏でた。
その衝突は中心部から爆風を放ち、千貌がいた地面を抉り取っていた。
此れほどの衝撃と熱量を辺りに撒き散らしたが、千貌はそこから動かずに立っていた。
その跡に残るは原型を留めていない焼け焦げた塊と、地面に突き刺さり融解しかけている双剣のみ。
あの爆風と高温を間近で受けてもダメージらしいダメージなど感じていない。
「面白い、ここまで抵抗してくれるなんて。残りの人達も良い余興に成りそうダヨ。
さてお前達、この千貌に糧を捧げよ」
新たに顕現した【下級眷属生成】スキルを使い、声高々に嗤いながら魔物を召喚していく。
巨大な翼と鉤爪を持つ魔物と武装した骸骨兵士が群れとなり、主君に供物を捧げるべく散らばった。
☆
【拳嵐】のメンバーであるヤラガンは冒険者となる前は有名な戦士団に所属していた。
尊敬する団長と仲間たち。戦士団の連中からは酒癖が悪く口も悪いが、心根は優しいとの評価を受けている男であった。
娘も幼き時から戦士団に所属していたが、団長不在に襲撃を受けたある戦場で乱戦となり、そのまま行方不明になっていた。
その戦場はヤラガンでさえ、生き残るのに死闘を繰り広げたのだ。あの混戦では娘は生きてはいまい。
娘の安全は自分と戦士団の側にいる事が1番安全なのだと思い、信じこんでいた。
それ以来生きる希望を見出せなくなったヤラガンは止める仲間達を残して、戦士団を退団したのだ。
その後、叩き上げられた技量を持って冒険者の成り立てのミランダのサポートをする機会があった。
そこからミランダとの関わりを持ち、心の傷が少し癒えた。後に彼女と【拳嵐】を立ち上げて新しい人生を歩む事になる。
ヤラガンはグレファンの命令のあと、弾かれるようにその場から全員が離脱した。
散り散りとなったメンバーを探しながら町へと帰還する方法を探す。
若様ならばきっと大丈夫だと信じながら…。
その最中にコウランとダンテに偶然出会う。レガリアと狂乱兎達は見当たらず、ダンテとの2人だった。
2人は街の通路へと続くらしい道を発見したようで、事情を話して町まで同行する事になった。
俄かに信じていない2人だったが、先程大きな爆発音が聞こえてから魔物達と一切遭遇せずにここまで来たことから、何かとんでもない事が起こっているのだとは感じていた。
ダンテが先行してその道の安全を確認しに向かい、その間はヤラガンと2人きりとなっていた。
ふと、自然に口を開いていた。
「…嬢ちゃん、今いくつだ?」
「何よ、突然…」
いきなりの質問に面食らうコウランだったが、言った本人も何故言ったのか分からずそのまま沈黙で応えるヤラガン。
「何なのよ…今年で15歳になるわ」
沈黙に耐えきれなくなったコウランが年齢を教える。
そうか、あの時に生き別れた俺の娘と一緒の歳か。
酒場で潰れた俺にいつも介抱してくれる自慢の優しい娘だった。
次ぐ言葉を発しようとした所で、薄暗い森の方から翼をはためかせて降りてくる魔獣の気配がしてきた。
「何回目だ…しつこいな」
先程も襲撃を振り切ってきた3人だったが、先の戦闘でヤラガン達は巨大な翼獣に襲われていた。この翼獣はしつこく追いかけて来たのだろう。
今回は2人での戦闘だったが、器用に斧を操り、コウランと連携して翼獣を退治することに成功する。
翼獣は何とか退治したが、その代償にヤラガンは片腕を喰われる大怪我を負った。
腕の治療は終わり、出血や痛みも感じない。
その間に未だにダンテが戻ってこない。幾ら何でも異常である。焦れていたコウランを見兼ねたヤラガンはコウランと道の付近まで進む。
街道に出たがダンテの姿はどこにも見当たらず、戦闘の痕跡すらもない。
ヤラガンはもう少しだけこの周辺で仲間を探す気だったので、ここで別れを交わした。
「その腕、治して上げたんだからね!命は大切にしなさいよ」
コウランの物言いに、かつての自分の娘を彷彿とさせた。
コウランを見送って少し奥へと続く道を探索していると、そこへ羽ばたき音が聞こえてきた。
遠くから上空から翼をはためかせて旋回している魔獣は、先程の翼獣と同種だった。
咄嗟に木々に隠れ様子を見ていたが、まだヤラガンに気付いた気配は無い。
ここで隠れて見逃がせばヤラガンは戦わずに回避できるかも知れない…しかし、それでは先程別れたコウランが翼獣に見つかる可能性は高くなるだろう。
そう考えたヤラガンは躊躇せずに重斧を一度肩に担ぎ、キッチリと片手で掴み直す。
「…腕の借りは返さんとな」
ヤラガンが吼え、翼獣の激闘が始まった。
壮絶な戦いの後、両者のシルエットが重なり合う。翼獣の嘴はヤラガンの心臓付近を捉えており、背中に掛けて嘴が貫通している。
しかし、力なく倒れ伏したのは魔獣の方だった。
翼獣による心臓部への直撃を受ける代わりに、捨て身での強烈な袈裟斬りを繰り出した。その傷が翼獣の致命傷になったと思われる。
実際には攻撃を避ける程の体力はなく…もう捨て身を行って勝つ以外、ヤラガンには選択肢が無かったのだ。
身体には鉤爪による攻撃で至る所に裂傷があり、鋭い嘴によって太い首と肩の筋肉が何度も喰い千切られ、醜く抉られていた。
そこからとめどなく溢れる流血は鮮やかな赤色。
また心臓からの出血も止まらず、血を流しすぎたヤラガンの体色は青白く冷たい。
常人ならば既に死んでいるはずの傷だが、ヤラガンだからこそまだ生きていることが出来た。
疲労感をとっくに通り越し、武器を持っていることすら苦痛だ。
コウランはダンテと合流出来ただろうか?
寒さが身を襲い、他に何も考えられずに意識が遠のいていく。
「…」
『お父さん…』
優しく名前を呼んでくれる娘の姿が一瞬だけ…幻聴・幻覚だろうが構わない。
少しだけ暖かくなった温もりを感じて…ヤラガンは逝った。
☆
此方も散り散りとなったジーンは、偶然同じ方向へと離脱していたミランダと合流する事に成功していた。
2人で木々の生い茂った森の中を彷徨っている。
青年ジーンは孤児院で生まれ育った。魔力を操る才能は無かったが、他人よりも知識を蓄え、活かす事に長けていた。
彼を取り巻く環境に孤児院の同年代であるマスクウェルと呼ばれる悪童がいた事も大いに関係していた。非常に幸運な事にこの孤児院では、冒険者としての戦闘訓練と知識を身に付けさせられた。
1人前として認められた時に、冒険者登録をして徐々にその活躍の場を増やす事となった。
当時名の売れ始めていた拳闘士ミランダと重戦士ヤラガンが冒険者パーティ【拳嵐】を結成させ、偶々彼等と組んだ時に才能を見出される。
どちらかと言えば戦闘担当職の強い2人はジーンのような頭脳派をパーティに加えたいと思っていたため、以後このパーティの智謀役を兼任する事になった。
どうやって嗅ぎつけてくるのか、斬り捨てても何度撃退しても襲ってくるスケルトン達に辟易する。
また相性の悪い事にジーンの主武器である短剣では、斬撃に強く武装しているスケルトンに対して殆どダメージを与えられていない。
その為、投げナイフや投石で出来た隙を付いてスケルトンを動かしている魔核を破壊する。
ミランダを主軸として今回の襲撃も何とか仕留めることが出来た。
ジーンの脳内で記憶された地図で換算すればこのペースで進めば、森の出口まであともう少しである。その証拠に遠目に町の建物も見えた。
「これでまた少しの間、時間を稼げた。俺はここでアイツらを足留めするから、先に行って応援を呼んできてくれ」
「ジーン!!いきなり何を言っている?
それなら私も残るさ。グレファン様の仇共だ。派手に暴れて少しでもスケルトン共を道連れに…」
突然のジーンの言葉に戸惑いを隠せないミランダ。散り散りとなって以来、ずっと戦い続けていた。
そろそろ疲れも溜まり限界が近い。
ジーンは冷静さを装っているが、先ほどの戦闘中に、初めてリーダー格と思われる通常よりも魔核が大きかったスケルトンと戦った。
倒すことは出来たが、死ぬ間際の攻撃を避けきれず、足を傷付けられていた。
どうやらその剣には遅効性の毒の効果が付いていたのか、現在食道からせり上がってくる血と、大腿部からの熱い鈍痛を懸命に押し殺しながら、耐え続けていた。
解毒剤などはもう無い…最悪毒で助からない事を覚悟した。
ならば余計にミランダには生き残って貰わねばならない。
その決意ゆえにでたセリフだった。
「行けミランダ。どうやらさっきの戦闘で軽い毒を喰らったみたいでな。
このまま進んでも俺は町では持たん。俺の命も助ける為にも、町で応援と解毒薬を持ってきて欲しい。
取り敢えず、そこの身を隠せる窪地にでも避難しているから…頼む」
息巻くミランダに死期を悟ったジーンはせめてこの女が生き残れる確率を上げる策をずっと考え抜いていた。
そして実際にかなり変色してきた足を見せた。
スケルトンや魔物に見つかって死ぬより、その方が余程助かる確率がある…と、留まろうとするミランダを必死に説得し、時に強引に理論で捩じ伏せて、先に行かせた。
去っていく姿を少しの間見送り…その背中をジーンの手が届かないと分かっていても掴む真似をした。彼女一人なら助かる確率も上がるはず…。
暫くすると遠くの方でカシャカシャと大勢のスケルトンが此方へと向かう移動音が聞こえてきた。
どうやら、このままこのスケルトン達は町へと直行するルートを取っているようだ。
「もうちょっと空気読めよ…」
ぼやきながら彼の優れた智謀は、どう計算しても、このまま自分が生きて残れる確率が無い事を悟っていた。
「あーあ、カッコつけちまったなぁ。まぁ最期くらいは良いだろ?お前さん達」
そう嘯きながら、迫るスケルトン達相手に、最終手段として残しておいた巻物を使う。
キーワードと魔力を流し込む。
持つ手がじんわりと熱を帯び、巻物は様々な魔力を解放していく。
花火のように美しい魔力の輝きと共にその効果を発揮した巻物はジーンを巻き込んで大爆発を巻き起こした。
この爆裂音で町側も警戒して、此方へと兵を寄越すだろう。そうなれば更にミランダの生き残る確率もあがるはずだ。
爆発の寸前、最期まで言えねぇもんだな…と、苦笑じみた一言は爆発音にかき消されて誰にも聞こえなかった。
☆
記憶にもない遥か昔、神々が争う大戦があった。
アイツらに敗れた私は厳重に幾重にも封印をされた。
それ故、未だに次元封印されて眠りについている本体。
しかし、永い本体の封印に僅かな綻びが出来た。そこからほんの1分だが、ようやく抜け出た存在が私。
一端の分体とは言え、依代次第では多少の能力が使えた私は今度は争いを避けてひっそりと暮らしていた。
しかし、平穏は長く続かない。どうやって嗅ぎつけるのか、正義の名を叫びながら私に戦いを挑む者達がいる。
此方はただ静かに暮らしたいだけなのに…どうして争いを求めるの?
そんな事を繰り返すたび、心は絶望に染まっていく。
場所も転々と変わりながら逃げることに心底疲れきった私は、英雄と呼ばれるパーティにわざと敗北して封印された。
当時のアビスゲートと呼ばれた封印方式は、彼等が信仰する神の力を宿した貴重かつ厳重な封印だった。
私は狂いそうなほど窮屈な封印に耐え続けた。
私が封印されていたアビスゲートはやかで永き時の中で風化して埋もれ、誰もがその存在を忘れた。
偶然この地を訪れた魔族がいなければ、今もそのままだったはずに違いない。
魔族達は火山の膨大な地脈エネルギーをも使って、研究所を建てていた。
さらに効率よく地脈エネルギーを活用する為にこの地を掘り進んでいたところで私の封印にぶつかって解けたのだ。
当時私が依代にしていた魔物の肉体は分体とはいえ、神の精神に肉体が耐えきるだけの眷属化が進んでいた。
いきなり現れた私に酷く警戒していた魔族達だったが、その内の一人が進み出て交渉を持ちかけてきた。
その魔族の名はアガレスと名乗り、年老いた魔族であった。
交渉条件はこの依代とした眷属の身体の提供だった。
その代わりに此方からは敵対もしないし、封印処置も行わない。
寧ろ、以前のように英雄とやらに勘付かれないように、この異貌の神の独特の気配を消す為の封印具も作られた。
また研究が無事終わればその成果を用いて新たな肉体の提供まで行うと言ったのだ。
多少のリスクはあるものの、ただ静かに暮らしかった私はその提案を受け入れた。そして、そのアガレスと名乗る年老いた魔族と神性の契約を施した。
それからはこの細胞を使って新しい能力、生物の開発などが主として行われていた。
この事により相反する細胞を掛け合わせ、それでも適合した異貌の神と魔族の研究による合成生物が誕生する。
また同時進行でエルフの森で発見された生命樹の研究を組み合わせて、高い再生能力を持つ強靭な肉体を造る研究と、高度な魂魄体を利用したエネルギー核の作成も行われた。
先にエネルギー核の研究の目処が立ったため、アビスゲートから魂魄体のみを抜き出されたあと、新しい研究結果の成功が成されるまでは暫く凍結封印される事が決定した私は、永い間眠ることになる。
最終的に私が入るための実験用の依代も作られていたが、魂の方が強すぎて中途半端な肉体を持つ依代では肉体が崩壊することが研究で判明していた。
そして現在に至る。
この間の地震の影響か、私は研究所で突如覚醒を果たした。
木目のついた金属用の殻に情報が残されており、それを読み解くと魔族達は何らかの理由で此処を撤退せざる終えなかったようだ。
私の肉体は無かったが、以前の依代として眷属化した魔物の細胞が付着していた。
先の研究成果である生命樹の研究が上手くいったようで、この肉片は私の魔力に満ちていた。
生命の果実から細胞培養して、完璧に近い生命核を創り出せたようね。
魔族の研究者達の名前を借りれば、この木目様の金属は生命樹の木と魔法金属の合成のようだ。
そこに100年に一度実る生命樹の果実と種子を加工したエネルギー核は生命核と名付けられた。
新しい生命の依代は居心地が良く下手な肉体を持つよりも心地よいシロモノだった。
私に最適化された肉体を造るといった契約は最終的には未完成だったのだが、この生命核でも充分に満足出来る成果だった。
また今の所No.1と記された封印具の稼働も順調で、この研究所は他者から見つかることは無かった。
つい最近、研究所をカモフラージュしていた岩石群が地盤沈下なとで退かされるまでは。
今度は人間種達が入ってきて、残された魔族の遺産である研究を真似しているようだ。
あれからどのくらいの時が流れたのか分からないけど、この研究所を訪れた人間達は大分文明レベルの落ちているように感じられた。
しかし欲深さは変わっていないどころか、更に濃くなっている。
彼等は私の細胞を使い、紛いモノで劣化しているが人間との合成と魔物との合成を成功させた。
この件については驚嘆せざる終えない出来事で、私が初めて人間種に興味を持った出来事だった。
その内、強力な力を持った個体を感じた。1人は僅かに神の気配に似た人間だった。
何ヶ月も前にこの研究所を見つけ出し、調査しているようでアビスゲートまで侵入したようだ。
この時代の人間のはずなのにアビスゲートを知っているようだし、かなり怪しい。
そして、かの人物が付けている仮面からは悍ましい気配を感じる。
アレはきっと世に災厄を齎すモノに違いない。
もう一人は若き鬼であった。
鬼種は確かに強力な力を宿しているが、あの存在は桁が違う雰囲気を持っていた。
退屈で永い時間を過ごしてきた私には、この存在を視る事は楽しみな事である。
トゥーサであった頃の権能で悍ましい仮面を付けた人間と彼等が衝突する少し先の未来を視た。
絶対ではないが高い確率であり、そこではなんと神の分体である私すらも吸収されてしまうようだった。
普通の人種ではあり得ない。
あの悍ましい人種は人では無いのだろうか?
この未来を覆すべく、生命核で存在している私の最後の権能【夢幻】を使い、蓄えていた神力を全て使った。
この場では何人かに報せる事しか出来なかったけど、私の視たこの先訪れるかも知れない近い未来を追体験させる事が出来た。
もう残された神力は使い尽くした。この絶望を乗り越えて出来れば生き延びたい。此れほど生に執着するなど神であった頃を踏まえても数少ない感情だと思う。
正真正銘のラストチャンス。
鍵を握る彼らに託すことが出来た。結果はどうなるか分からないけど、後は彼等を信じて待つ事しか私には出来ない。
所々読み返して、文章訂正、誤字脱字など見ていきたいと思います。




