狂乱兎・複合式2
薄暗い道を捕虜とした騎士を先頭に歩かせ、案内させる。
ちょっとした分岐点を超えてようやく開けた場所へと着いた。
周りには暗闇だが焼け焦げた部分と戦闘痕が見られ、つい最近ここで戦闘があった事を伺わさせた。
「どうやら先遣隊は君達の先頭にいる騎士を除いて、全滅したようだな」
その声に奥への道に立ちはだかる集団の気配を感じ取り、ダンテ達は警戒心を一気に高めた。
此方が気付くと照明の灯りが一斉に照らされる。どうやら人間の集団と魔物の混成部隊のようだ。
奥には大きなゴーレムや、ミハイルの依頼にあった蒼い狂乱兎が見えた。
「そこで止まって欲しい。
我らはその騎士を解放を求めている。悪いようにはしない。そうすれば…」
「断る。動けば騎士を切る」
相手が喋りきる前にダンテが短く伝える。
案内をさせてきた騎士は邪魔となるため、相手が動かない事を確認しながら両手両足を縛り上げ、フレイに頼んで後方へと連れ去ってもらう。
捕虜とした騎士のくぐもった嗚咽が響く。
余程この騎士を助けたいのか、此方の方を様子を見つつも、兵士達は動かない。
「解放する気はないか?」
再度声をかけてくる騎士の格好をした男は、最初に此方に声をかけてきた人物だと認識する。
男の格好は腰に差した拵えの見事な剣と、新緑色の防具一式が印象的である。鍛え上げられた肉体が鎧越しでも一目で分かる身体つきと、茶髪と青い瞳が何処か静かで、品のある顔立ちをした若い男だった。
先程の騎士が1人に、兵士は7人。背後には蒼い狂乱兎2体にゴーレムが計5体もいた。
此方の人数はフレイを数に入れても4人。断然人数は彼方が上だ。
「先程の先遣隊と管轄は違うが、私はこの直属隊の一隊を任されている隊長のガリウと言う。
戦いに犠牲はつきものなのかも知れない。我々も仲間を殺された…そう簡単には後に引くわけにはいかない。
だが、偶然にも参加させていた我が隊の騎士が生き残り、捕虜となっている。タダとは言わない。
我々と取引をしてくれないか?
まず此方に騎士を無事渡してくれれば、君達を見逃す」
突然の提案に面食らう。
「…どういうつもりなの?」
コウランが代表して代弁する。
「其方が捕虜とした騎士を…大事な仲間である捕虜の解放を求めているだけだ。
私の名において君達の安全と、なんなら金銭も払おう。どうか考えてくれないか?」
その問いに答えたのはダンテ達ではなく、これまで黙ってガリウの話を聞いていた1人の僧兵が意見した。
「ガリウ殿…ミハイル殿から命令された事は、その者達を殺すことだ。
若様の直属隊隊長とはいえ、明らかに越権行為にとれる発言…血迷ったのか!」
交渉しようとするガリウと呼ばれた騎士を睨みつけていた。
僧兵を除く兵士達は、また始まった…と様子を見守っている。
因みに彼等は先程ダンテ達が戦った兵士達とは格好も装備も違う。
直属隊とは構成メンバーは身分の低い者が殆どだ。
しかし、その実力は先程戦った先遣隊よりも数段実力は上である。
集められた者達は若様とガリウに直接実力を買われ、組み込まれた兵隊達である。その中には有名な傭兵や最低でもD級の冒険者で固められていた。
防具は他の隊の兵士達と区別するために、全員質の良い素材で作られ、緑色調でまとめられた装備を装着していた。
何故現在ガリウ達しか直属隊がいないのかと言うと、魔法が使える希少な者や腕の立つ直属隊のメンバーの殆どは、若様と共に焔巨人討伐へと向かった為であった。
焔巨人のドロップ品の収集とレベルアップも兼ねて、誰もいない深夜に討伐戦を行うために出掛けていた。
順調ならば今頃討伐が完了して此方に帰還している際中だと思われる。
隊長であり、信頼の厚いガリウを始めとした精兵と、現在ダンテ達が捕縛した騎士の数名とが留守を任されていた。
ダンテ達が戦った先遣隊は、この私有地を治める貴族が貸し出した者達の騎士隊である。彼等先遣隊のメンバーは、アデル貴族とその取り巻きで構成されている。
直属隊は身分の低い者達の集まりとして、必然的に仲が悪かった。
ミハイルの魔獣紋のネックレスに使う為のポイズンリザードを捕獲したのもガリウが率いた直属隊である。
その際に死傷者は居なかったが、重軽傷者が幾人も出た。
特に酷かった者は回復役が足を切断する重傷を負い、命は助かったものの行軍にはついていけなくなったのだ。
そのため、先遣隊よりこの僧兵が最近直属隊へと急遽組み込まれた。
物言いをつけた僧兵は自分より若いくせに…大した実力もなく、ザンマルカル家の兄妹に取り入っただけの名ばかりの隊長だと馬鹿にしていたのだ。
突如起こった仲間割れの状況を見て、何が何だかわからないがダンテ達もいざとなったら対応出来るように臨戦態勢を取りつつ、成り行きを見守る。
「おい、何故貴様ら黙っているんだ?こんな勝手な発言が許されるとはなんと程度の低い兵士達だ」
怒鳴る僧兵に、宥めるように話す他の兵士達。
「そう言えば貴方様はこの私有地の貴族さまより、貴重な回復魔法を使える方として此方に編成されたばかりでしたね」
コソコソと兵士は僧兵の耳元に口を当て静かに話すと、嫌そうな表情から次第に顔色が青白くかわってきた。
しかし、開き直ったのか歪んだ表情で罵る。
「ふ、ふん。所詮は裏切り者の不名誉貴族ではないか。だからそのような身分に堕ちるのだ。
俺とて貴重な回復魔法の使い手…尚更こんな下賤な者たちとはもう付き合いきれん。
この件はミハイル殿や若様に報告させて頂く」
そう呟いたあと、足早に去って行こうとした。
どんどんと奥へと歩き始めた僧兵に兵士達が慌てて止めようとする。
すると突如、洞窟内に緩やかな地震が起こった。
暫く全員がその場に跪く。急激な揺れだったのだが地盤沈下なども起こらず、余震が弱まっておさまった。
「ここ最近地震による揺れが特に酷い…何かの前触れなのだろうか」
ガリウの発言を聞き止めたコウランは、違和感を感じた。
コウラン達はここ最近アデルにいるが、地震など起きたこともない。
ましてやこのような地震を伴う揺れなどは、初めてこの洞窟に来てから感じたのだから。
違和感を感じた疑問を聞こうとしたが、それより先に口を開いた者がいた。
「ええい、不愉快だ。小僧のような騎士隊長に訳の分からん者達の相手をさせられて…侵入者の相手など貴様らで勝手にしていろ」
そう言い放ちながら、今度こそ奥の扉へと帰っていく。
兵士達もガリウも今度は止めなかった。
後方に控えた狂乱兎・No.6の側を通り過ぎようとした際に、すっとNo.6が僧兵の前に立ちはだかった。
「ふん、何が実験体だ。このようなガラクタ…」
『オマエ、メイレイイハン…ショバツタイショウ』
「馬鹿な、魔物が喋っただと…」
少なくとも狂乱兎自体、それ程知能が高い魔物ではない。まして、人語の理解できる魔物などは高レベルな存在であるため僧兵は出会った事もなかった。それ故驚いたのだった。
No.6は手に持つ変わった形状の双剣を鞘から抜き放つ。
この剣は泥大蟹と呼ばれる魔物で片方の鋏が異様に多い。
その鋏を分解して加工した特注品の双剣である。
鎌状の大振りな部分は叩き切るために加工され、反対に残った小さな方の部分は切る事に特化して鋭利で細い造りとなっていた。
この蟹の素材を加工した装備は鉄に準ずる硬さとある程度の丈夫さ、そしてその大きさに見合わない軽さを兼ね備えている。
No.6狂乱兎・複合式の武器の元となった素材の沼大蟹は、その名の通り湿原や沼に住んでいる。
保護色のような灰土色の全身色にその身を包む硬い甲殻、片方だけ大きな鋏を持つ体長90cmの程の蟹タイプの魔物だ。
20〜30匹で集団移動する魔物であるために、1匹1匹は気を付けていれば中堅の冒険者でも倒せるが、1度敵対すれば敵対者を殲滅するまで攻撃を止めない厄介な特性を持つ。
その魔物素材で作られた大爪双剣を両手に、僧兵の方へと一気に跳躍して接近した。
突然の事に戸惑っていたが、咄嗟の反応で自身の武器を抜いて対応する。
「狂乱兎程度に負けるか」
そう言って馬鹿にしていたが、何合か打ち合っていく内に、巧みな双剣の動きに翻弄され、捌ききれなくなっていく。
遂に僧兵の武器が破壊され、致命的な隙を作る。
僧兵の表情に絶望が浮かび、死を覚悟したその時、
「待つんだ、No.6」
ガリウの制止の声と魔力を帯びた長剣が割って入り、いま首を狩らんと振るわれる大爪双剣を、首筋付近でピタリと止めていた。
「いくら貴重な実験体でも、殺すことは許さん」
睨みつけるガリウだったが、僧兵は助かった命に感謝する事もなく、その場から直ぐに駆け出した。
その行動が結果として、命を縮める結果となった。
No.6と連動していたNo.7は、その隙を見逃さずに魔法を構築した魔杖を掲げ、唱えた。
『ワレワレハ、マスター ミハイルサマ以外ノメイレイハ、ウケツケナイ』
純然たる魔力で土を練り上げて指向性を持たせた土属性魔法初級【土杭】が、睨み合うNo.6とガリウの横を通り過ぎる。
直径30cmほどの錐状の土塊が2本飛来し、あっ…と思う間もなく逃げていた僧兵の着込んだチェインメイルを直撃し、貫通した。
僧兵は前のめりに倒れ、ピクリとも動かない。
背中の傷口からは帯びたしい血が周りに溢れる。
ガリウが直ぐに僧兵の元と駆け寄るが…既に致命傷である。
必死に呼びかけ、目を開けた僧兵に自身の傷を回復魔法で治せるが確認するが…力無く唇が震えるだけだった。
徐々に眼から光が消え、僧兵は息絶えた。
そっと眼を閉じてやる。
「優先命令権は此方に有るはずだ。何故勝手なことをしたNo.6」
ガリウがそう言い放つ。
『…ミハイルサマハ、アジン、イノチホシガッテイル。テキゼントウボウ、シタ。ショケイ』
血の臭いに興奮度も増してきたのか、2体の狂乱兎の瞳が赤から鮮やかな真紅へと変わっていった。
「やはりミハイル所長の作る実験体では不都合が多い。
隷属の腕輪の効果にも頼りすぎているし…何より1番の問題は彼の命令だけが優先されてしまう」
このような事が過去に繰り返しあった。何度も調整して欲しいと、此方側の意見をミハイルに伝えたが聞き入れて貰えず…思い出したら溜息が出た。
故意に味方を殺したのだ。この実験体はまた同じことを起こすだろう。
ガリウは決心を決めた。
狂乱兎の複合式は、過去暴走の度に直属隊が葬ってきた歴史がある。
研究により、強さに特化して矯正されすぎた魔物はバランスが崩れるのか狂うように暴れる事がわかっていた。
強さと賢さのバランスが整った個体が現在、No.6とNo.7なのである。
現在この実験体をベースに、新たな実験体が作られている。
「No.6とNo.7のデーターはすでに充分に蓄積された。
これ以上こちらの要求が受け入れないのならば…勿体無いが破棄するしかあるまい」
「えっ、ガリウさんいいんで?」
「…構わない。残念だが命令も聞かず、味方を故意に殺した実験体など害にしかならない。
事後報告となるが…若様はわかって下さるだろう。
全員、構えろ!円陣体勢」
キッパリと言い切ると、彼等は隊列を組み直した。
『ガリウ…マスター ミハイルノメイレイハゼッタイ。オマエモ、アジン コロス』
蒼い狂乱兎達は背後のゴーレム達を振り向き、指示を出すと同時に戦闘体勢に入った。
どうやら指揮権は狂乱兎達に有るようだと判断する。
ガリウを中心に組まれた円陣に、小盾を両手に構えた4体の小型ゴーレムが突っ込んできた。
前衛2名の剣使いとゴーレムが接触する。
ゴーレムの動き自体はさほど早くはない。戦闘慣れした直属隊の兵士達は難なく見切り、攻撃を加えていく。
「くっ…固てぇ」
青銅で出来たブロンズゴーレムは耐久性に優れる。斬撃は薄っすらと胴体に傷を付けたまでに留まった。
剣使いの攻撃が何度も弾かれる。
時にたたらを踏み、体勢を崩しそうになる。
その隙を突かせないように今度は槍使いが一定の空間以上に近付いた小型ゴーレムを、槍にて体勢を崩させ、押し返す。
剣と槍使い達が作った隙を狙い、2人の大斧使いが全力でゴーレムに振り下ろす。
大斧使いの攻撃は動きの遅いゴーレムにとって避けようがない。
小盾が邪魔をして有効打は与えられていないが、充分なダメージが加わっている。
兵士達が順序良く連携し、4体のゴーレム相手に戦線を維持している。
中央にいるガリウは目を瞑り、魔法を詠唱している。
よく見るとガリウの真下には巨大な魔法陣が描かれている。
地面が黄色に輝き、半径10m程の範囲で戦っている兵士達に最低限の魔法効果を与えているようだ。
設置型の魔法陣タイプなので、幸い暫くの間ならばこの魔法陣による範囲効果は消えない。
兵士達はなんとか小型ゴーレムに優位性を保っていたが、その均衡を破る存在がいるとすれば1体の巨大ゴーレムである。
支援系の中規模範囲魔法の詠唱を終えたばかりのガリウは、魔力を消費して少し気だるくなった思考に緊張感を取り戻す。
奥から遂に動き始めた大剣を持つ巨大なゴーレムに意識を集中させていた。
「どうやらNo.6と7はゴーレム達を捨て駒にして此方の消耗を狙っているのか…」
若くして修行と訓練に励み、高い研鑽を積んできたガリウ。
騎士から法騎士へと転職した今も、厳しい状況を乗り越えてきた経験を元に情報を分析していく。
あのゴーレムはミハイル所長が作った特別製だ。かなり手強く、小型ゴーレムを複数相手にしている兵士達には荷が重いだろうと判断する。
私が出るしかない。それも小型ゴーレム達と合流される前に倒さねば、戦線が崩壊する可能性が高い。
自らが設置した魔法陣の援護が受けられないのは辛いが…。
「皆は戦線を維持してくれ。あのゴーレムは私が相手をする」
皮肉なことに味方が作った自慢のゴーレムと戦うとは…そんな思いを胸にガリウは愛剣を片手に掛け声を挙げ、突撃した。
倍近い身長を誇るゴーレムは威圧感を伴いながら、巨大な剣を天より振り下ろした。
ガリウは正面から真面に受けずに避ける。ゾッとするような風切り音が横切り、冷や汗が体内から湧き出た。
気持ちを鼓舞しながら素早く剣を一閃する。
並みの武器と技量では弾かれてしまうだろうが、ゴーレムの体表を浅くだが削ることが出来た。
ガリウの持つ剣は彼の家に代々伝わる剣であり、故国ロースアンテリアの名匠が献上した名剣である。
ザンマルカル家当主グレンデルより、副官として先々代が長年仕えてきた信頼の証として承った家宝である。
戦争に突入した際にはその当主である将軍を裏切り、お互いに刺し違える事となるのだが…何故かこの家宝を先々代は戦争へと持って行かなかった。
後に大臣側の策略により、ガリウの家族を人質にとられた事が判明した。
両家は取り潰しこそなかったが、残った財産ともに国を出ざるおえなかった。
グレンデルは結婚しておらず、子がいなかったため、傍系である家系がザンマルカル家当主を継ぐこととなる。
若様の代で許されたが、裏切り者として辛酸を舐め、亡くなった先代の父のためにも若様により仕えねばならない。
寛大なる恩情は決っして忘れない。
ゴーレムのパワーは凄まじいが…幸い、躱しきれない程スピードではない。厄介だが、いずれ倒すことが出来るはずだ。
しかし、これでは時間がかかりすぎる…内心舌打ちしながらも攻撃の手は止めない。その繰り返しで戦技を織り交ぜて、ダメージを蓄積させていった。
突如起こった戦闘にダンテ達はどうするか小声で話し合う。
(ちょっとダンテ…どうする?)
(これは好都合ですお嬢様。
どうやら奴らは一枚岩ではない様子…機を見て消耗した所を狙いましょう)
予想していた答えだったが、彼女の直感がガリウに協力した方が良いと囁いている。
何故、自身がそう思うか分からない。再度ダンテに相談する。
(やっぱりそう思う!
でもねダンテ…何か引っかかるのよね…。それに、あのガリウと言う男、話が分かりそうだったじゃない?
…彼等だけなら殺されてしまいそうだし…危険だけど協力を提案して見ない?)
(しかし…信用出来かねますよ。お嬢様。この状況下ではリスクが高いと思われます)
そんな会話の中、レガリアが戦闘場所へと一歩足を進み出た。
戦闘を続行している彼らの視線が此方を向いた。
(レガリアちゃん、どうしたの?)
(まさか…レガリア、危険だ、下がるんだ)
ダンテとコウランが突然のレガリアの行動に戸惑っている。
「ダンテさん、コウランさん…勝手なことをします。ゴメンなさい」
そう断ったあと、
「そこの人間達。私達がこの場を請け負います。捕虜としている騎士も返しましょう。その代わり、ミハイルと言う私達を騙した男を連れて来なさい。
其れが出来なければ、その場で纏めてお相手しましょう」
ハッキリと言い放ち、白木刀を眼前に構えた。無言でダンテがレガリアの方へと並び立つ。
「やれやれ、もしかしたらソウマがここに居たのならそうする…だろうかと思っていた」
ソウマは人見知りはあるが、以外とお人好しな人間だと思っている。
そのレガリアならばもしかしたら…と、突発的な行動をした時に察知する事が出来たのだ。
やれやれと、諦めの表情で笑うダンテは、既に戦闘準備が整っている。
ダンテと2人、ガリウの側へと向かう。盾士系統や騎士系統に多い戦技【ヘイト】は魔物などの生物の注意や敵意を向ける技だ。
ダンテはヘイトを発動させ、奥で戦っているゴーレムを纏めて呼ぶ。
此方に向かってきた小型ゴーレム2体をレガリアとダンテが各々薙ぎ払い、青銅の硬さを物ともせずに難なく屠る。
巨大なゴーレム相手に奮戦していたガリウはその戦闘能力に密かに瞠目した。
ダンテは意識を此方に向けさせるためにヘイトし、巨大なゴーレムの矛先も此方に変えた。
赤い装備を身に纏った男が大盾を構えて、倍近い体長を誇る巨大ゴーレムの大剣を受け止めた。
一歩も引かず大剣を押し返す。その一瞬の動きが止まった間に、鬼娘が背後から跳躍し、木剣を胸部に叩き込んだ。
ガリウは木剣が音を立てて砕け散る光景を思い浮かべたが…現実はそうならなかった。
木剣ではあり得ないほど鋭利な切り口で武装ゴーレムに追加されていた厚さ8cmのブロンズガードが切断されていた。
その威力と技術は賞賛に値するはずなのだが…
「ん、幾ら闘鬼を纏わせても元々は木刀。斬れ味には限界が有るのですね…」
その言葉を聞き、ガリウは自分の価値観が崩れ去っていく音が聞こえたような気がした。
ガリウとて実力をつける為に幼い頃から訓練と、迷宮にて実戦訓練を繰り返して
そのためレガリア達の実力は異常にしか感じられない。
「レガリア、ゴーレム種ならば中央に魔石核があるはずだ。それを破壊するか取り出すか…してくれ」
「わかりました」
そう答えると、ゴーレムの攻撃を捌きながら魔石核を守る装甲を探す。
中央部の装甲を手早く切り抜き、淡く光る魔石核を発見する。
上段から迫る大剣を大盾で跳ね上げたあと、レガリアが直接手を入れて抜き出した。
ガタンっと振動した後にゴーレムはその役割を止め、静かに停止した。
彼等は何故こうもあっさりと倒すことが出来るのだ!?
彼等は確か忌々しい事にミハイル所長が実験材料の確保と銘打ち、実験体のテストの為に連れてきた者達だったはず…違法行為である事は分かっていたが、これも実験のためと黙認してきたツケなのだろうか。
コレほど迄に実力のある者達だったとは想定外だった。
巨大ゴーレムを停止させている間に、コウランは残った小型ゴーレムに突貫して破壊していた。
ウォーメイスの重量のある打撃を、両腕の小盾ごと防御した腕を打ち破り、あっという間に叩き壊す。
力技だが、あっさりと半壊した小型ゴーレムは原型を留めていなかった。
小型ゴーレムを相手をしていた精兵達も、自らの見た光景が本物がどうか疑わしいと何度も目を擦っていた。
「レガリアちゃん…もう、思い切りが良すぎるわよ」
そんな視線も気にせず、コウランは溜め息ごしに苦笑しながらフレイに合図を送った。
了解したフレイは、捕虜とした騎士の拘束具を噛み切り、自由にする。
惚けている騎士に対して、ドンっと体当たりしてガリウの方へと突き出した。
突き出された騎士を直属隊が警戒しながら保護する。
「…騎士の解放感謝する。しかし、此方はまだミハイルを連れてくるとは確約していないぞ?」
少し困惑しながらガリウが答えると、レガリアが返答した。
「それならそれまでだった…という事でしょう。
どの道、横たわる屍が1体増えるだけです」
凛としたレガリアの態度に何か感じるモノがあったのか、少し考えたのち此方へと一礼して彼らは奥へと去っていった。
実験体と呼ばれた狂乱兎達は彼らを追撃したりはしなかった。
『アイツラ アトカラ。ミハイルサマハ、オマエヲコロセト イッテイタ』
感情を感じさせない口調だったが、何処か嬉しそうに告げる狂乱兎No.6。
No.7の魔杖の周りには、土属性魔法である土杭が3本浮かんでいた。
狂乱兎・複合式は、ようやく最優先事項であるミハイルの命令を遂行できる喜びと、手強い獲物に出会った時の高揚感に身を支配されながら、嬉々として戦闘を開始した。
いつも更新が遅く、申し訳ありません。




