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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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狂乱兎・複合式


不利な状況であった戦いだったが、1人欠ける事なく洞窟内での戦いは終了した。


コウランは掠り傷程度の手傷は負ったが、自身の回復魔法にて直ぐに回復済みだ。


手早く騎士と兵士の集団全員を戦闘不能にした為、逃亡者などは出させなかった。


最後の方で手加減をして生き残った騎士1人を縛り上げ、情報収集のための尋問を開始する。


「貴方達の鎧と盾に刻まれている紋章は、アデルの貴族のものでは無いなわね。どこの所属なのか答えなさい」


コウランは元貴族の嗜みとして…と言うのは建前で、面倒事を回避するために、行く先々の土地・地域での貴族の紋章を出来るだけ覚えている。

しかし、この紋章は覚えがなかった。


しかし、騎士達はどうしても口を開こうとしない。


「賊め、我にこんな事をして只で済むと思うな…」


口を開けばこのセリフしか出て来ない。気丈にも脅しには屈しないと言うことか…。

時間が経つほど此方には不利な状況になる。ダンテは情報の引き出し方をどうするか考えていた。






そのようにコウラン達が騎士の尋問を担当してくれている間、フレイは周りを警戒している。

レガリアは散らばった武具と死体を一箇所にて集めていた。


殆どの武具は破損していたが、弓兵が使っていた弓と矢筒は無事だった為、其れは弓補正(C)が有るので使わせてもらう事にした。


手に入れた樫木製のウッドボウを弦を引いてみる。

手入れはしっかりとされていたようで弦も良い張りを感じる。

直ぐに使えるように矢筒は邪魔にならないよう腰に回した。

残った矢は全部で40本近く。念のため矢には全てポイズンリザードの毒を含んだ血液を付けてある。


軽装の弓兵に感謝を込めて、これは有難く使わせて貰うことにした。





レガリアは1度本体である魔法生物でる宝箱ミミックの姿になった。


大きな口を開いて、美味しそうに舌で死体を飲み込み、貪り始めた。

クヂャ…ボリボリ…ガリと、咀嚼音が響いていく。

所謂グロい光景が拡がっている。

コウランやダンテは、魔物とは言え魔法生物レガリアが流石に人間種を食べる事に対して多少の忌避感がない訳ではない。


だが最初の頃は兎も角、アデルに来てからはずっとパーティとして一緒に戦ってきた仲である。

蓄積された信頼関係もあるし、此れまでも魔法生物レガリアは魔物・人間種問わず喰べてきたのだ。

此れくらいで損なわれる関係では無い。


フレイも羨ましいそうに眺めていたが、コウランからは待てが掛かっていた。

心なしか寂しそうにしていたので、この件が終わり、時間が出来たらフレイと共に美味しい獣を探そうと狩りに誘う。

念話を通して繋がったのか、レガリアを見て頷くフレイは嬉しそうだった。




兵士達を大量に喰べたが、それ程強い者がいなかったので味は不味くはないがイマイチ…と感じていた。

またこの魔法生物状態の維持を兼ねる為にも一部を魔力に変換した為、その分を除けば少量の経験値にしかならなかった。


一応武具と騎士達は経験値の他、微量に体力に対するステータスが上がったので良しとしていた。


あぁ…口直しに御主人様のアイテムボックスに収納されている上位炎鬼ハイフレイムオーガが喰べたいと痛切に食欲を刺激されたレガリアだった。





捕捉だが修羅鬼形態で得た経験値は本体である魔法生物形態レガリアに微量だが反映される。


しかし本体で得た経験値は、擬態した修羅鬼などには反映されないのだった。

そのため、本体のレベルを少しでも上げたい為に【体内吸収】スキルで効率よく経験値を溜め込んでいた。


現在レガリアの本体、魔法生物としてのLVは現在77。

これまでの戦いを得て様々なモノを喰べてきたが、これ程内包する潜在能力の高いレガリアは一体どのような進化や成長を遂げるのか…ソウマの為にも少しでも強くなりたいレガリアは、ひたすら一心不乱に自らを鍛え上げる努力をしていく。








因みに咀嚼中に目隠しされていた騎士は想像力が刺激されたようで…何をしているのか分かったのだろう。微かに震えていた。


目隠しを解くと、思い描いた通り先程まであった大量の屍が見当たらない。

丁度目隠しを外した騎士は、ガツガツと携帯食料を美味そうに喰べているフレイを目撃する。


フレイが同胞を食べたのだと勘違いしたようだが、フレイの体長を考えてもそれは無理である。

正常な判断が下せていない事がよく分かったが、好都合なのでそのまま勘違いさせておく。


蒼ざめた顔色で先程の元気はない。

元同僚が喰われていく様を感じさせることになってしまったが、このお陰により、信憑性の疑問はあるが幾つかの情報を吐き出し、この私有地での案内を頼めた。






手に入れた情報の1つに、彼等は余所の国からの亡命者達であることが分かった。

何十年も前に共に逃れてきた貴族と共にこの私有地にて匿って貰っているようだ。



それと近年スカウトされて此処に来たミハイルとは同郷だと分かった。


ミハイルは祖国では有名な錬金術士だったそうで、国でも秘匿されていた錬金術の研究で優秀な実績を残していたが、次第に狂人的とも思える研究を繰り返して、実質国からの追放処分を受けていた。

騎士も何故この地に彼がいるのかは知らないと必死に答えていた。



この件についてはミハイル本人の話を信用して情報を統合するなら、錬金術の研究者としてこのアデルの私有地に呼ばれたと思われる。

しかし、それは何故なのかはハッキリしていない。


レガリア達の捕獲の為の後詰部隊であった彼等は、途中傷を負って壁にもたれているミハイルを発見した。

ミハイルはこの研究所における第一人者であり、最高責任者の所長であるということだ。

事情を聞くとともに回復魔法を使える者が直ぐにミハイルを回復させた。

隊長が何名かの精兵をミハイルの護衛として付け、研究室と呼ばれる最重要レベルの立ち入り禁止区画へと向かったようだ。


情報を得ていく内に尚更、今踏み込まなかったら危なかったかも知れない。

しかしこの先、嫌な予感しかしない…全員が同じ気持ちだっだ。


溜息をついたダンテは座り込んでいた騎士を立たせ、ロープで拘束した状態で歩かせた。

ここから先へは、この通路を抜けて実験場と呼ばれる場所を通過してミハイルのいるであろう研究室へと入らなくてはいけない。

















ダンテ達との戦闘が開始された頃、合流した兵達に守られながら研究室へと呼ばれる場所へと辿り着いたミハイルは、兵をそこに待機させて1人奥へと入っていった。

少し進むと設置されている巨大な大扉が見える。



扉が開き、中に入ると洞窟とは思えないほどの広さを誇る空間があった。


室内には白衣を着た他の研究者達と無数の見たことのない機器、機材があった。

調査により長い時の中でも痛まず、稼働している事が分かった。

しかも調べてみると現代のものより数段性能も良い事も分かり、この機材をそのまま使用している。

この中に有るものは全て希少価値が高い代物ばかりであった。



中央の広い空間には壁に立てかけられた大きな筒状の水槽が何本か横たわっていた。


様々な生物が入っており、手だけのモノや頭部だけのモノも存在している。

何体かは失敗の為に破棄されたのか空の筒状のモノと、中に魔物型のモノや人型も見受けられる。

その貯水槽のような筒には緑色の培養液体が満タンに入っていて、これらは全て実験体と称された個体であり、シリアルナンバーが振ってあった。



現在No.1、No.6、No.7、No.12の貯水槽だけが使用されている。

そして実験体No.12は現在冒険者殲滅の指示の名の下、調整テストのために出撃していた。

使われている素材一つとっても、現在では精製不可能な程外側が硬く、透明度の高いガラスらしきモノや機器は、まさしくオーバーテクノロジーと呼ばれるのに相応しい。




特別実験オリジナルワンを抜かした以外の実験体を起動させろ。それと私の直属ゴーレムの起動を今直ぐに…だ!」


突然入ってきたミハイルに驚く研究者達だった。

そんな中、一際立派な白衣を着た年老いた白髪の男が進み出た。


「ミハイル殿、いきなりですな。何事ですか。それに若様達がもうすぐお戻りになります。

ゴーレムは兎も角、特別実験オリジナルワン以外の全ての起動の決定権は貴方にはありません」


そうな提言をした者は名をゴートと言い、この研究所の副所長である。


自らの右腕の提言に苦虫を潰した表情のミハイル。


それに…と続ける。


「私の調整体であるNo.12を使い、勝手に命令されては困ります。傷が付いたではありませんか」


丁寧な口調だが、馬鹿にしている態度と怒りが分かる。

それでも意に介さず言い返す。


「ふん、所長はこの私だ。貴様のように1体にちまちま研究などしていられるか!

だから傷などつくのだ。

おい、それより貴様ら、この研究施設に侵入者だ。

No.6と7の起動を急がせろ。

また何かあれば拒否した貴様の責任だぞ!」




怒鳴るような剣幕に肩を竦めたゴート副所長はNo.6とNo.7の刻まれた貯水槽へと手をやり、起動実験を開始した。



ゴボゴボと音を鳴らしながらチューブを伝い、緑の培養液が抜かれる。


そこには蒼く毛皮に覆われたシルエットが見えてきた。

特徴的な二本の伸び上がった耳と、閉じられていた両眼からは紅い瞳が覗いている。


そう、此れこそミハイルが担当して創り出した新しき合成生物でもある強化型狂乱兎マドネスラビット・複合式であった。



自身の研究成果に眼を奪われていたミハイルは、副所長と1人の職員に目配せをし、そっと隠し通路から出て行った事に気が付かなかった。









錬金術士は魔法アイテムの作成や高度な擬似生命体ホムンクルスや魔法生物の作成、また戦いにおいても魔法的知識があるため総合的に魔力を持つ者が多いので才のある者は臨時の魔法使いも兼ねている事が多い。



ミハイル自身は錬金術士として魔法生物のゴーレム系統などの作成と、古代に存在し今では失われた技術であった合成生物キメラ技術の復活を専攻していた。

魔法の才能には恵まれなかったが、その分研究意欲は人の倍以上にあり、知識を溜め込み、技術を使い熟していく点については故国では右に出る者はいなかった。


その才能を買われ、かつて所属していた国ではこの合成生物キメラ研究の第一人者となって強引に推し進めたが…。


合成生物には必要な魔物や実験には予算が高く、それに併用してのゴーレムの開発も費用がかさんだ。


機械人などの種族に所属する自律型のゴーレムや自然に産まれたモノ、迷宮以外の一般的なゴーレムを含むゴーレムは錬金術師が作成したモノである。


魔導核の特別な加工をされた魔石や、身体作成に使われる大量の金属や魔物素材等の調達は国家がスポンサーにならないと研究すらおぼつかないことが現実だ。


高価な機材も予算も使い潰し、結果が思うように得られなかった。

やがて国に追われた過去を思い出し、それがようやく清算されると感じていた。


そして私を蔑ろにした故国は滅んでしまった。私の研究を支持し完成させていればそんな事も無かったモノを…。

しかし、故国ロースアンテリアなど最早どうでも良い。






このサザン火山近郊で、大小の度重なる地殻変動を含んだ地震が起こり、偶然にも発見された遺跡は調査の結果、作成されてから最低でも千年の時が流れていることが分かった。


長年の月日で地形が変わったのか、強固な岩盤で隠されていたかのように入り口が埋められていた。

どうやらサザン火山の地熱エネルギーを使ってずっとこの場所で必要最低限以外の機能を眠らせ、稼働していたようだ。


この施設に置いてある資料は風化していてほとんど読めなかったが、ミハイルや他の研究者が何とか無事なモノを解析した結果、ここは遥か昔の生物における高度な研究が為されていたように読み取れた。

未だにこの研究施設の作成された技術の高さは計り知れず…錬金術師として博識であるミハイルをもってしても一部分だけしか理解出来なかった。


シリアルナンバー No.1だけは発見された当時に、この水槽に無事な姿で残っていた貴重な実験体である。しかも、どうやら様子からまだ生きている見たいなのだ。

他の水槽は割れ砕けていたり、中身が干からびていたり、最初から液体だけで中身の無かったモノもあった。




遥か過去に想いを馳せる…当時はどれほどの研究がなされていたのだろうか??


推測だがこの遺跡であり、研究施設に眠っていた特殊実験体No.1のの為にあったような節があったとミハイルは考えている。

No.1…通称オリジナル・ワンと名称付けた個体は、資料を調べていく内に驚きを持って迎え入れられた。

実質その価値に気付いている者は自分以外はいないと、他の同じ研究者達を見下していた。












この施設は現在のミハイルの望みを叶える為だけにあるような技術の産物が積み上げられている。

ようやくこの施設の設備と無事だった資料の中身と照らし合わせ、自らの研究は成功した。


故国ロースアンテリアでは失敗した研究であったが、この特殊実験体の細胞組織を組み込むことで拒否反応も少く低コストと能力向上をコンセプトにした新たな合成生命体を完成させた。


そのために攫ってきた冒険者を切り刻み、解剖し、接合し、薬品を使って実験を繰り返してきた。

何体も作り、その中でも特別優秀な個体を絞りながら数多くの実験を繰り返す。

培養して掛け合わせた末に辿り着いたミハイルの長年の研究成果である。



実験のためなら何を犠牲にしても許される。

このような考えであった故、祖国からも追われたとは思いつかないミハイルであった。











その中でも最高傑作である蒼色の狂乱兎は静かに目を開いた。


No.6の貯水槽から姿を現した狂乱兎の身長は1m40cm程で小鬼ゴブリン種のような大きさだ。

身体中を覆う蒼の毛皮は分厚く、並みの狂乱兎ではないような印象を受ける。眼光はつぶらで大人しそうに見える。

2足歩行を主とする体型となっているため、不自然な不気味さを漂わせている。

また狂乱兎特有の指先ではなく、人間のような精巧な5本指を備えていた。

また頭部には狂乱兎種には無い、刃のような鋭角な角が一本生えている。


幾百の実験の結果と、この特殊実験オリジナルワンの組織はどの細胞にも拒否反応が少ない奇跡の個体である事が、風化した文字や読めない部分のある資料からも判明している。

その技術をミハイルなりに流用して作られた核の部分は、特殊実験オリジナルワンである神経細胞と知覚細胞を含む神経組織を培養させ、体内で増殖させた別物になっていた。

その為見た目よりも筋力や俊敏性が向上している。



今はまだ、この特殊実験体オリジナルワンの組織片を培養した生体組織がなければ実験は難しいが、いずれ解明を進めてこの謎を明かし、代用できれば自分の研究として発表しようと画策していた。



完全覚醒したNo.6は貯水槽の側に立て掛けてあった特注品の専用装備 大爪双剣シザーズブレードと量産型のチェインメイルを身に付けた蒼い狂乱兎・複合式は、希少な専用器具である隷属の首輪から魔力命令スペルオーダーを受け、目標に向かい歩き始めた。


同時に起動したNo.7も蒼い毛並に赤の瞳を持つ同種の狂乱兎タイプである。

魔法の杖と思わしき魔石のついた木の杖を背負っている以外、特別No.6と変わりのないように見受けられる。

此方も隷属の首輪を嵌め、命令通りに稼働し歩き始めた。



この隷属の首輪は協力者によって齎されたモノで、自由意志を奪いこちらの命令のみに従わさせるという、強力かつ希少な首輪であった。

高位の魔物やBOSSなどには効果はないが、新しい技術であり唯一の先駆者として彼にはミハイルすらも瞠目し、尊敬の念を感じずにはいられない。





また蒼の狂乱兎が揃って歩き出したその背後からは、青銅で作成された下級ながらも侮り難い強さを誇る一体のブロンズゴーレムは、同じ素材で出来た巨大剣で武装をしている。


それよりも小型で両手に小盾を装備した下級のブロンズゴーレム4体が、此方も魔力命令スペルオーダーを受けて、ゆっくりと起動して歩き出した。




この狂乱兎コンビとゴーレムの部隊が相手ならば、例えA級冒険者と言われる冒険者ギルド長 アシュレイをも殺戮できるに違いない戦力だと信じている。

その他にもミハイルをここまで護衛してきた精兵達がいる。


あのレア級と思わしき全装備に身を包んだ屈強そうな男戦士や、回復に長けるであろう女司祭達が相手でも、手こずるだろうが多少強くとも此れだけの戦力を出せば全滅は免れないだろう。




「生きて帰すわけにはいかんぞ…」


特に私を傷付けたあの亜人は…ミハイルの頭の中には泣き叫ぶレガリアの姿があった。


そしてもし生き残っていたのならば、其奴で新しい実験体として研究するのも楽しいかも知れない。



暗い復讐心ゆえその光景を思い描き、愉悦混じりのサディスティックな笑みを浮かべた。







誰もが狂乱兎・複合式とゴーレム達を見送る中でNo.1のシリアルナンバーの貯水槽の中で、微笑んだように淡く輝く反応を示し、人知れず輝いていた。



今から遠出です。誤字脱字、文章の追加、削除、修正などあとで確認してさせて頂こうと思います。

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