潜入
暫く体調不良と病気で更新が出来ませんでした。
久しぶりに書いた文章なので誤字脱字が多かったら申し訳ありません。
ポイズンリザードの戦闘からミハイルの跡を追うダンテ達。
幸いフレイが先頭に立ち、複数に別れた道から最短な距離を的確に選び、迷いなく進んでいた。
レガリアの拡大された視力にて、もう少し先の方に洞窟と人影を発見した。
近くに2名の門番と思わしき人影も見えた。門番1人とミハイルが寄り添って奥へと入っていく。
残った1人はミハイルから話を聞いていたのか、此方の方に目を凝らすように警戒していた。
「前方に洞窟らしき入口が見えました。門番がどうやら此方に気付いた模様です」
「オッケー。じゃあ舐めた真似をしてくれたお礼をしなきゃね」
「はい、お嬢様」
コウランの好戦的な言葉に頷くダンテ。
先陣はそのままフレイが切り込んだ。
フレイに気付いた門番が長槍を突いてきたが、俊敏な動作で躱す。
スピードを殺さず、そのしなやかな筋肉を活かして跳躍し、装備に覆われていない門番の喉元へと喰らいついた。
悲鳴をあげる事も出来ずに倒れ伏した門番の喉笛にグッと顎を締めて頚椎ごと咬み殺した。
ミハイルを送ったもう1人の門番も戻ってくるが、既に気配を感じていたフレイが先行して飛び掛かる。
鋭い前爪が赤く燃え盛り、門番が突き出された槍ごと切り落とす。
燃え盛る炎に革鎧は焼焦げて防御の意味を成さず、胸を深々と爪で抉った。
そのままトドメを刺したフレイは、血だらけの口周りを舌で舐めとると、そのまま奥へと入ろうとコウラン達を振り向く。
「フレイ、良くやったわ。ちょっと調べたい事があるから待っててね」
逸る気持ちを抑えて、この門番の死体から荷物や装備を探る。
この辺では見た事のない紋章が刻まれてある革鎧は、精巧な作りをしていた。
更に懐から何の鍵束か分からないが所持していた為、失くさないようにレガリアがしまい込んだ。
死体はそのままの位置に放置した所で、洞窟内へと入る。
等間隔で天上のふちに設置させられた松明の灯りを頼りに薄暗い道を先へと進んだ。
カツ、カツ…と足早に歩く音だけが響いていく。
薄暗い中でも夜目が利くレガリアとフレイを先頭に前進していくと、フレイが唸る。
警戒を続けながら10分も歩くと、奥の方からガチャガチャと金属音を伴った駆け足の音が複数聞こえてくる。
少しすると奥からやってきた集団と鉢合わせした。
騎士は重量のありそうな鉄製らしき全身鎧を着込み、長剣と紋章の盾を装備していた。
兵士達は頭から足まで軽装の青銅製の鎧と細い長槍を持って此方を警戒している。
集団がお互い10m程の距離を置いて停止した。
奥から1人の騎士が進み出て、大声を出した。
「我らはこの私有地を守る騎士である。お前らが報告にあった賊か!?冒険者風情が手間を取らせおって…抵抗しなければ楽に死ねるぞ」
そう宣言すると、全員が抜剣する。大人4人程の広さのある通路で2隊列となって兵士達が向かってきた。
「此方の弁明も聞かずに勝手な事を…」
ダンテが舌打ちをして、前線へと立ちはだかった。
兵士達の槍が唸る。
激突音と共にダンテの大盾が複数の攻撃を受け止め、火花を散らす。
ここ何日かの死線がダンテの防御技術と心の鍛錬となっていてた。
そのため状況は多勢に無勢も良いところだが怯まず、冷静に攻撃を捌いていく。
2対1の状態でも、隙があれば反撃をしながら相手を一定距離以上に寄せ付けない。
ダンテの大盾が邪魔をして包囲もままならない。そんな、突破出来ない状況に歯噛みしたのか奥から大声が聞こえた。
「手強い相手だ。仕方がない…弓兵、まずは後ろの軽装者を狙え」
そう声が聞こえてくると、無数の鉄の矢がアーチを描きダンテの背後のレガリアを襲う。
「こんな狭い場所で…正気か!」
そう怒鳴りながらも、後方の心配などしていない。
何故なら力を解放されたお嬢様と、自分よりも強いであろうレガリアが控えているからである。
このままでは時間がかかり過ぎる…更に奥にいる者達が途中で退却しても厄介だと判断したレガリア。
「コウランさん、突破します。足場を作って下さい」
「足場を?…あぁ、ソウマの得意技をするのね。分かったわ」
コウランがしゃがんで両手で足場を作る。そこにレガリアが勢いを付けて足を掛けた。
コウランが後方に両手を振り上げ、レガリアがタイミング良く膝を曲げて駆け上がった。
飛距離は伸びてダンテの頭上をも超えて飛んでいく。
人工擬似2段ジャンプの成功である。
ダンテと交戦していた騎士の頭上をも超えて、着地場所の騎士を踏み付けながら跳び、次の兵士の肩に着地。
そのまま飛び跳ねながら、後方を目指した。
突然出現した敵に騎士達は色めき立つ。
狭い通路の為身動きが取りにくい。
その為兵士達はレガリアを待ち構え、上に向かって剣を振るうも当たらない。
僅かな隙間を縫いながら、鎧の上を踏み付けて飛び跳ねていくレガリアは軽業師のようだ。
弓矢でも狙われるが修羅鬼の皮膚は非常に硬質で、只の鉄の矢では傷すら付かない。
最後尾まで駆け抜ける。
「ええい、早くその亜人の女を落とさんか!!」
途中から何度も叫び声が聞こえるが、遂に弓兵の元へと辿り着いた。
あり得ない登場の仕方に、青銅の軽装鎧を着込んだ彼等は軽い混乱状態にあった。
最奥には鉄兜の片方に羽根飾りが付いた者がいた。
その騎士の一喝によって兵達は我に変える。
咄嗟に弓を捨てて、腰の短剣に持ち替えた。
背後の騎士とレガリアを挟み撃ちにしようと駆け出していった。
(どうやらあの男が指揮官)
一見するとレガリアは白い木刀を携えた女冒険者にしか見えない。
囲まれた状態にも関わらず、背後から襲ってきた全身鎧の騎士達を木刀の一太刀で斬り伏せた。
そして次に前進し束の間に距離を詰められた弓兵は、レガリアが取り出した紐付きの先端の尖った打根を投擲された。
青銅の軽装鎧を強く殴打されて蹲る者。
武器を持つ手の骨が折られた者など戦闘不能状態に陥いる。
片手で打根を操り、もう片方の手で白木刀を振るう。
周りにいた敵は次々と仕留められていった。
レガリアの周辺に空間が出来て見晴らしが良くなった。
そのまま最奥の隊長格の男へ接近し、瞬時に打根を振るう。
小盾で防御した隊長は丈夫に作られた盾が一撃で凹み、ヒビが入って使い物にならなくなった事実に舌打ちをした。
瞬時に盾を捨てて正眼に剣を構えながら突撃しようとする男に、そんな暇を与えずに再度打根を放った。
今度も勢い良く繰り出され、充分な力が加わった一撃は回避を許さない。
長剣で防御した武器ごとへし折り、隊長の顔面へと突き刺さった。
鼻骨、頬骨を含む顔面が窪み、歯が折れて抜け落ちた。
顔面がグチャグチャとなった男は、滴り落ちる内容物と共に前のめりに倒れた。
僅かな間に隊長を討ち取ったレガリアが踵を返す。
周囲は慄いているが、まだ戦意は失ってなさそうだ。
折角奥を塞いだ状況を作ったので、この場から逃亡者を出させないように留意する。
入り口近くではダンテとコウランの連携により、騎士達は混戦状態となっていた。
レガリアもこのまま挟み撃ちを掛けるべく攻撃に参戦していった。
ダンテはレガリアが前方へと跳んで行った事により前線に混乱が生まれた隙を逃さず、一気に攻勢へと出た。
あたふたしている騎士の体勢を崩し、胴鎧と肩の隙間から槍を刺し入れてトドメを刺す。
隣に並び立つコウランも好機を感じ取る。
フレイに遊撃を任せ、また火属性付与の魔法を武器に掛けて貰い、前線へと参加した。
武器はいつもの棘鉄球ではなく、特別製の戦鎚へと変更していた。
大量の鉄鉱石を溶かして良質な鉄のインゴットを精製する。
なるべく純度を上げた鉄材に、ソウマの残っていた劣化ハイメタル鋼を合金として加えた特注品である。
お値段はダンテの大盾の改良金額に掛かったよりは断然安いが、金属がふんだんに使われた塊のようなモノである。
飾りのない実用性を追求したデザインで、片手で持つにはとんでもない重量を要する頑丈な逸品である。
次々と向かってくる相手を叩き伏せ、今度は先頭にいた騎士と向かい合う。
コウランの非常に鍛え上げられた筋力にスナップの効いた攻撃は、振るう速度も圧倒的なスピードに加え、騎士の防御した盾に痛烈な一撃を加えた。
中央が割れ、盾は使い物にならない。
ウォーメイスが齎した衝撃は盾越しに腕の骨をも折る。
痛みの余り、体勢を崩した所に打撃武器としても有効なウォーメイスを頭部に叩き込み、陥没させた。
兵士達も同様である。
果敢に迫る兵士を重量のあるウォーメイスを振り回す。
マトモに防御も出来ず、1人、また1人と地にひれ伏す。
打撃を受けた革製の鎧は簡単に凹み、グシャリと体内は内臓が破裂して臓物と血を派手に撒き散らした。
「予想以上にやる…先にあの女を仕留めるぞ」
僅か数人の騎士達はそう声掛けてコウランに対して警戒する。
ナイトランスを持った騎士が2名並び立ち、狭い通路に槍を構えて突撃してきた。
両槍の突端には明らかに戦技を発動した輝きが見える。
コウランが対処する前にダンテが見事な大盾を構え、此方も戦技【盾打】を発動させる。
騎士達は立ちはだかったダンテを見るが、一瞬の躊躇もなく更に突撃の速度を上げる。
両者が戦技の輝きを持って激突するが、盛大に弾かれたのは騎士達の槍の方だった。
手にしたナイトランスは先端が押し潰され、受けた衝撃を物語る。
例えその程度の攻撃ならば何人こようとも突破などさせない…と、無言の圧力がダンテの全身から溢れていた。
因みにダンテが空けた隙間はフレイが陣取り、兵士達の攻撃を避けながら一歩も引かない。
個体としても優秀な彼等は、数を物ともせずに蹂躙して行った。
騎士ですら相手にならない。その事実は兵士達に戦慄と恐怖を抱かせた。
「お嬢様、程々になさいませ」
そう忠告するダンテもコウランが嬉々としてこんなイキイキとした表情は久しぶりに見た。
以前の修練の加護にてステータスが半減され、溜まっていた今までの鬱憤も晴らしたいのだろうと検討をつける。
「久しぶりだから良いじゃない。
それに良いリハビリ相手だわ…そうだ、ダンテ競争よ。何方が早く倒すか…のね!」
言うなり飛び出して行ったコウランの後ろ姿を見送った。
「やれやれ…仰せのままにお嬢様」
苦笑しつつも、活発なお嬢様は魅力的で美しいと再認識させられたダンテであった。
コウランが粗方の騎士達を倒してしまったのを確認したダンテは、途中から大盾を背中に取り付け、槍捌きのみで兵士を圧倒する。
レア級に相応しい精鋭小鬼スピアは鋭利な斬れ味を誇る。
素早い槍捌きで兵士の革の鎧や鉄製の小盾なども貫通し、屍を積み上げていく。
この戦いの合間に冷静に分析をしながら、考えていた。
ここの兵士や騎士達にはどうやら魔法を使える者がいないようだ。
また、戦技も習得している者の方が少ないようだと判断した。
相手側の本当の戦力はまだ奥にいるな…と、気を引き締める。
実際は騎士や兵士達はそれほど弱い相手では無い。
練度を積み重ねた騎士と兵士達はこの私有地では其れなりの実力者なのだが、既に第3職業に就いているダンテにとっては動きも攻撃も遅く感じていたし、少し物足りなく感じていた。
対人戦術においてもレベルアップを図る為、ダンテは周りを見ながら、コウランにとっては慣れない前線での攻防…特に防御のアドバイスを行っていく。
一瞬の油断が死を招く。そんな実戦にて経験を積んで貰う良い機会…お嬢様に前線を任せる試金石には丁度良い相手だと考え直した。
コウランは快進撃を続けていたが流石に複数人を相手取り、攻撃ばかりも出来ない時もある。
そんな時は相手の攻撃を躱す躱す躱す…の連続だ。
それに時折コウランの着衣している軽鎧の魔石の効果なのか、当たりそうになった攻撃でも僅かにズレてくる攻撃を仕掛けてくる兵士もいた。
防御においては今まではダンテに頼りきっていた。
前へ出ること自体、訓練でしか練習した事が無かった。
危ない時や力押しになった時はダンテからアドバイスが時々飛んでくる。
避けきれない攻撃の場合の対処や防御の組み立て方などを実戦において身体にどんどん吸収させていった。
戦いを始めてから結構な運動量は増え続けているが、以前と違い体力が切れる事もなく戦い続けられている。
軽い汗はあるが、身体が温まったくらいにしか感じず、疲労感は全くない。
(身体が軽い…本当に羽根が生えたようだわ)
その事実に少しの油断が生まれた。
余裕を持って避けた兵士の長剣をウォーメイスで振り下ろして砕くと、その隙を狙って攻撃を加えてきた騎士の槍がコウランの脇腹を襲う。
気付いたと同時に槍に向かって前進しながら、間一髪のギリギリで躱す。
逆に懐へと入り込み、尖った柄を騎士の前胸部へと叩き込んだ。
そのままもんどり打って屈んだ騎士の頭部を、ハエたたきで叩く様に横面をウォーメイスで打ち払う。
隣にいた兵士を巻き込み洞窟の壁に叩きつけられた騎士は、顔面はグシャグシャになり、もう動く事は無かった。
「…まだ動きに無駄がありますね。お嬢様」
「確かに今のは際どかったわ…」
(しかし、ソウマやレガリアちゃんはいつもこんな事をしてたのね〜)
短い時間でどんどん学習していくコウランだったが、焦りが拭えない。
その考えを読んだようにダンテが答える。
「ソウマやレガリアは例外だとお思い下さい。
お嬢様は確実に成長なさっています。焦らずお進み下さいませ。」
自分の未熟と焦りを正される。
軽い笑みを浮かべて、実戦の中でレベル以外の自身の技術を磨く為、次の相手に取り掛かった。




