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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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コウランの新装備とフリークエスト

コウランとレガリアはダンテが戻ってくる間に、竜鳥の戦いにおいて消耗した道具や回復薬、保存食を買い揃える為に道具屋に寄る。


簡単な化膿止めの塗り薬と毒消し用ポーション、回復用のポーションを買い込んだ。

どのポーションも古くなると効能が落ちるので、多く買い溜めをしても使わなけば捨てることになる。

例外なのは上質な魔力を含んだ特別なポーションだけである。


またポーションが荷物に嵩張るのも踏まえて、普通の冒険者ならば1人2本ないし3本ほどしか持たない。

しかし、レガリアが入ればアイテムボックスに新鮮な状態のまま仕舞えるので、数や期限を気にせず買い込むことが出来る。


食料には干し肉の他、水も少し余剰気味に買い込んだ後、コウランと一緒に防具屋に向かった。


現在相方であるダンテは現在装備の全てを新調し、全てレア級という破格の装備だ。


コウランはノーマル級とハイノーマル級の装備で固めている。

長年愛用している司祭服は、パールホワイトの生地と同じ生地を染料でレッドに染められ編み込まれている丈夫な服である。

しかも唯一のハイノーマル級の品で、服の生地は神殿で祝福された布を使用しているので、布地自体の防御力が強い。

そのため防具屋で売っている戦闘用の厚手の服や、革のコートなどよりは軽く防御力もあった。



後衛だけの担当ならそれでも良かったのだが、此れからはダンテとの2人だけのパーティでは無くなる。

コウランもどうしても前衛に出て戦闘しなくてはいけない時もある。


今までダンテとの2人旅でコウランが前衛に出る時は、大概ダンテでは対処しきれず危険が迫っている時である。

その都度ダンテがいつも以上に身体を張り、命懸けで私を庇いながら守ってくれていた。

この間の竜鳥戦でも結局ダンテに負担が集中して重傷を負わせてしまった…もう守られるだけの存在は嫌!


長年修練の加護によって半減された状態で通常より遥かに鍛え上げられたコウランは、恐るべき能力値のステータスを誇る。

その為、第2職業の中では考えられない程の高ステータスを持つ存在となっていた。


ダンテは守りに集中させ、レガリアちゃんは臨機応変な遊撃役。

ソウマが行方不明のため前衛の攻撃力が落ちている。

此れからは私も前衛に出て皆をフォローするわ!


そう決意を胸に秘めて、長年愛着してきた司祭服だが、他の装備も含めてそろそろ上位のモノへと変更しようと考えていた。




まず、防具屋で動きやすくて防御力のある鎧系統を見て回る。

品揃えも多く迷ったが、総合力で現在の司祭服を超えるなかなか納得のいく良い品が見当たらない。

どの品もどうしても一歩劣ってしまうのだ。

金属だけの軽鎧ハーフプレートも試着してみると重量は感じないのだが、窮屈な感じを受けて動作に違和感を感じてしまう。

今まで着回しの良い神官系統を着ていたので仕方が無い。



防具にはレア級までと行かないまでも、少しでも質の良い防具が欲しかった。

取り敢えず候補を決めるが…買うまでに何か決め手が足りない。

長く防具店で迷っていたので、防具屋のおじさんから声をかけられた。


「嬢さんは軽くて防御力のあるものが良いんだよな。

どうやら店にお気に召すものが無いみたいだ。

そこで…だ。うちで作ったもんじゃ無いが扱ってる品物の中で値は張るがこんな代物もある。

実は仕入れてみたが長年売れなくてな。良かったら見てみるか?」


そう言ってコウランの返事を聞く前に、おじさんが奥から取り出してきた装備はこの辺では余り見た事がないデザインの形状した防具の一式だった。


「俺は前から戦士系の女冒険者達におすすめしてたんだが、見た目と防御力が弱そうに見えるのがな…なかなか理解してくれんのだ」



嘆きと共に溜息がゆっくりと吐き出された。


この厚手の服のようにも見える軽鎧ボディアーマーは、鎧というゴツい印象ではなく防護服に近い印象を受けた。


おじさんの話では、若い頃に以前帝国に鍛治修行に行った際に、同じ場所で学んだ同期の作品のものだという。

非凡な才能の持ち主でソウマと同じ銀の髪を持つ女性。名をクローセルと言う。



3年程前に用事で帝国に出かけた際、偶然、彼女クローセルと再会した。

相手も覚えていたらしく、話をすると独立して、帝国で仲間を集めて小さな防具店を構えていると言う。


折角なので案内された彼女の店に入ると、そこでは見た事のないデザインの軽鎧が並んでいる。

彼女達は女性の軽鎧を扱う専門の店をやっている。

クローセルを主体とする仲間達は、装備者が持ち込みの素材や、使って欲しい素材の希望があればなるべく取り入れるようにしている。

殆どはオーダーメイドの品となり、装備者にとっての扱いやすさとデザインに加えて、一級品の防御性能を突き詰めて作るため、実際に着ている愛好家の女性冒険者達の多大な支持を得ているという。


この店の作品は本来なら女性しか買えず、また他の店に卸してもない。

しかし、同期の縁で一式を譲ってもらい購入してみた。


アデルの町へと戻ったあと試しに店に置いてみたのだが…女性冒険者は興味を示してくれるものの、高額すぎる金額にまず絶句し…買うまでの客は此れまでいなかった。

決して性能が悪い訳ではない。







この軽鎧の特徴は動きを阻害せず、丈夫で耐久性にも定評がある素材のミノタウロスの革を使用したことで防御性能の高さも売りの一つだ。丁寧になめしてた革は光沢もあり、装備用に赤に染め直してあった。


また各部の急所部分や胸部は稀少な純鉄と呼ばれる鉄の種類の金属でシルバーのような銀白色で綺麗である。

腰などのガードの部分は少しスカート状になっており、薄く延ばした金属とで補強してある。全体的に目立つカラーリングで全身を覆っているデザインだ。

しかし、着膨れ感は無いし見える所は足のラインなども綺麗にスッキリと見える。

そして驚くほど軽い。

実際に前線で戦う装備にしては、一見頼りなく見えないこともないが、見掛けよりも防御力に関しては相当高い。




そして驚いた事にクローセルは、鍛治士ではなく高名な錬金術師であるという。

特殊な加工と素材を組み合わせ、氷のような冷たい特別な魔石を創り出せることが出来た。


それを自身の作った作品に飾りと刻印の意味を込めて付けていた。

魔石の飾りにはノクターナルと呼ばれる夜にしか咲かない花をモチーフとした刻印と、その中にナンバーと美しい彫金が施されている。


軽鎧自体はハイノーマル級であったが、刻印に使われている魔石はレア級の素材であり、値段が跳ね上がっている原因でもある。

非常に弱く、微かな効果ではあるが幻術系統である幻惑ブラインドの魔法の術式が組み込まれている。

例をあげれば、相手からの攻撃に対して間合いをずらさせたりと、目の錯覚を利用した補助魔法の役割を果たしている。


この軽鎧には刻印No.19と記されていた。

どんな体型のお客が買っていくか判らなかったため、この軽鎧ノクターナルだけは特別に各パーツに分けて調整しやすいような構造になっていた。





因みに値段と性能以外で売れない1番の理由は、この国には軽鎧よりも最近腕の良い若い5人の鍛治師イケメン達による魔物素材のみで作る戦闘衣バトルクロスが女性冒険者の間で流行っている事を教えてくれた。

彼等も旅を続けている冒険者で、全員が戦闘鍛治士バトルスミスと言う才能豊かな異色な集団である。

まとめ役のリーダー格の男性は、自らの修行と鍛錬を兼ねて魔物狩りを行っている。

ここ最近は貴族のスポンサーが付いて、そこから自分達の作り出した防具を安く販売している。

実演も兼ねた店頭販売は、特に女性冒険者を相手に販売利益が半端ないそうだ。












話を戻すが、現在帝国も戦争に突入している状態では、クローセル本店にも買いにも行けない。

現在この国のこの店にしかない正に唯一オンリーワンな防具だ。



「まあ、見た目は少し頼り無さそうだが…性能は悔しいが抜群に良いんだ。どうだ、試着して見ないか?」


説明を受けたコウランは既に興味深々で引き受けた。


そして…見た目よりもピッタリと吸い付くような着心地、安心感、何よりコウランの黄金の髪によく映えていた。


ノクターナルの花を象った幻惑ブラインドの魔石の効果も教えてもらい、更にこの全身装備を含めてすっかり気に入ったようだ。


レガリアが鍛治士としての目から見ても、デザインに関しても、素材の配合バランス・調律などは自分にはまだまだ出せないと思う。

そのため率直に感じたまま、答えた。



「その軽鎧、とてもお似合いですね」


「本当?レガリアちゃんがそう言うなら…これ、頂くわ」


その言葉に満更でもなく笑顔になった。こうして新装備を纏ったコウランは、クローセルの率いる鍛治師集団の作品をいたく気に入ったのだった。






レガリア自身も防具の有り様について真剣に考える一面となった。

今まで修羅胴衣とスキル、気の応用で身を守っていたが…少し過信していたのかも知れない。


コウランの装備を見て、更に防具を付ける必要性を感じていた。


レガリアも店内を見渡し探してみると、1組の防具に目が止まった。


フィールドBOSSである焔巨人の出現する付近でごく稀に見かける魔獣 火蛇レッドスネークの貴重な素材である鱗を用いた防具だ。

火蛇は炎の耐性を持ち、体全体が火で覆われている魔獣で精霊に近い性質をもつ。

攻撃には体当たりや下級の火魔法を操るので、注意が必要だ。

普通の武器でも倒せるのだが、ダメージが与えづらいし、炎で武器も傷みやすい。

魔法付与や属性武器を用いて倒すのが一般的だ。


魔法使いが1人もいないパーティで焔巨人を相手する際は、近くに火蛇がいないか確認して、いた場合は討伐してから行うのが定石である。



火蛇を倒した時は飛散して消え去るのだが、稀に鱗のような小さく金属に近い硬い鱗状のモノを地上に残すことがある。

これは身に纏う火の結晶が固まったのだと伝えられているが、真偽は定かではない。

その素材は武具や薬と多様性に富んでいる。

ギルドでも其れなりに高い値段で買い取ってくれるので、サザン火山付近を中心に活動する冒険者は、倒してドロップした際はラッキーなのである。


その希少な部分を集めて特殊な糸で縫い合わせ、赤熱石で補修された防具は火属性に相性が良く、鉄と同等の防御力と耐火性を持つ割に金属のような重さがない。

希少な素材を使っているため鱗鎧スケイルメイルで胴丸鎧のような肩のない軽鎧タイプになっている。


このアデルの中級クラス以上の冒険者で腕が立つ者なら、自身のオーダメイドした装備とは別に、手甲や胸当て等、必ず一つは組み込まれている事が多い品である。



レガリアはその火蛇の軽鎧の上部と腰部を選んだ。

両腕は相手の攻撃が躱しきれない最悪の場合を想定して、前腕部を全て覆うタイプの鋼鉄のガントレットを選択した。

前腕部しか覆われていない為、肩の部分は剥き出しだが、そこの部分は修羅胴衣をインナーで来ていることで守られている。

最後に脚部には軽くて丈夫なミノタウロスの革を使った脚絆を選んだ。



レガリア達は簡単に買い物しているが、防具や武器は決して安いモノではない。

金属や魔物素材を使ったモノはノーマル性の武具に至ってもそう簡単には買えないので、冒険者になるものは何回も依頼をクリアしてお金を貯め、やっとノーマル級の武具を揃えることが出来るのである。

せっかちな者は武器のみを携えて冒険へ立ち向かうこともあるが。


魔物の討伐や冒険には不意に襲われることもある。準備万端でも死んでしまったり、罠にかかり亡くなる冒険者も後を絶たない。


命を預ける武具が痛めば、当然補修費もかさむ。

それでも少しずつお金を貯めていき、ようやく装備を良い物に整えて経験を積んでいくのだ。


金属をふんだんに使う防具は安全になるが、金額が途方なく高い。

魔物素材も持ち込みができる分安く仕上げる事が出来るが、保存魔法や特殊加工の手間賃も発生する。



その為、レガリアやコウランが選んだ防具はそういった駆け出しの冒険者や中級の冒険者でも手が出せない。

実際にコウランが買った装備一式は防具屋の中では1番高値である。

レガリアの装備も上位の冒険者が使っている事もあり、其れに準ずる程の値段だ。


実質防具屋にいた何人かは羨ましそうな目線を含んでいたり、また妬みの視線を持って眺めていた。


それに美しい容姿のコウランとレガリアは装備と一緒に、目立つ事この上ない。

レガリアは防具を買うまでは軽装で白い木刀持ち。コウランも特別強そうには見えない。


いつか自分達もあんな装備を…と、頑張る事を志す者達もいたが、女2人で対して強くもないくせに高価な品物をもっていやがる。

生意気だと侮り、邪な考えも持つ者も少なからずいた。




そんな思いを背に、マックスから頼まれたクエストを引き受けるため、サザン火山研究者であるミハイル宅へと向かった。

以前引き受けたフリークエストの1つで【狂乱兎マドネスラビット】に関する依頼を引き継ぐ為である。



ミハイルさんには既に冒険者ギルドを通してマックスから代わりの人物達が行くことを推薦してあると、伝えてもらっていた。



途中の道で鍛治場から帰ってきたダンテと合流する。

ダンテは赤と銀色の美しい軽鎧を着こなすコウランの姿に見惚れ、時折チラチラと隠れながら見ていた。


3人はミハイル宅へと到着し、御本人から依頼の趣旨を再度確認する。

事前打ち合わせにて今日は泊まり込みにて調査を行うので、この時間帯に出発となったのだ。


狂乱兎マドネスラビット自体はダンテとコウランは知っていたが、ミハイルから伺う内容からは、かなり特異性のある新種の個体が存在していることになる。

戦闘能力が殆どないミハイルを連れた一行は、魔物と戦闘もあったがサザン火山の立ち入り禁止区画まで怪我もなく、無事に辿り着いた。




「ここから先は足場が悪くなります。気を付けて進んで下さい」


ここから先が貴族の私有地に入るようだ。岩場が多く、人が通るには細道が続き、道無き道を歩きながらミハイルの案内のもと、先を進む。



少し広けた場所に周りを柵で覆われた山小屋のような建物が見えた。

ミハイルから新種の狂乱兎を見た現場は、ここからあともう少しであると言う。


「この山小屋は一旦休憩する為に貴族が建ててくれました。

中には簡単に休む場所が設置されています」


私有地であるため、定期的に魔物を討伐している。

しかし魔物が少なくなっても居なくなる訳ではない。

今日は夜も近いため、魔物の動きも活発になるので心配だ。

今夜は山小屋にて一夜を過ごすことになった。



簡単な夕食が済んだ後、フリークエストの依頼を受けてくれた感謝の意味合いも込めて、彼から少量だが酒が振る舞われた。

少しピリッと辛口だったが、身体が少し暖かくなる良い酒だった。


明日は実際に新種と思われる狂乱兎が現れた場所まで出向く予定である。




何故ミハイルが貴族の私有地であるこんな辺鄙な場所で働いているのかと言えば、彼が優秀な学者である事が挙げられる。



はるか昔、このアデルの町近くにはどうやら魔族と呼ばれる非常に強力な個体達が作り上げた文明と遺跡があると文献に少し記されている。

魔族の遺跡と言えば、発見された例を見たら今では魔物が集まり巣窟になっている事でも有名で危険な場所である。

その代わりに非常に貴重な代物オーバーテクノロジーや宝物、資料などが眠っている事が多いのだ。


どうやらサザン火山の何処かに存在しているらしいのだが、私有地の貴族は先祖代々の自分の土地にあると信じ、探し続けていたようだ。



遂にその貴族が確信を得た機会が訪れた。


この山小屋の先に進めば今までは岩場の行き止まりがあるのだが、半年前の地震の影響で岩が崩れ、其処からさわの洞窟が発見された。

どうやらこの奥にはかなりの可能性で、目的の魔族の遺跡があると思われている。


現在洞窟内の調査で奥に分厚い金属で出来た大きな扉が確認されている。

何かしらの条件で開くようなのだが、現在調査中であるとのこと。


ミハイルは、過去帝国に吸収された国の住人であり、アデル出身の者ではない。

この私有地の貴族は彼の博学さと優秀さを前々から見込んでおり…洞窟発見の際に是非ともと、引き抜いてきた逸材であった。

現在数名の私兵に護衛されながらもこの地で発掘調査と研究を始めたそうだ。

まだ6ヶ月間の調査だが、かなり有力な成果が上がっているようで、扉が開くのも時間の問題とされている。

貴族からの評判も上々で資金も沢山得られたそうだ。


本来ならずっと泊まり込みでしたいんですけどね…と、ミハイルは笑っていた。


男女に別れて2人ずつ見張りに立つ事になった。

先にミハイルとダンテとが見張りに立つそうなので、暫くしたら順番に変わることになる。


魔法生物のため眠る必要がないレガリアは、ずっと見張りを引き受けても良かったのだが…そう決まったのなら、わざわざ言う必要はない。

レガリアはそのまま瞑想しながら、周辺の気配を探る訓練を始めた。



修羅鬼の本能が闘鬼術を用いた気配の仕方を学習をし始める。

五感を研ぎ澄ませ、もっと繊細なコントロールを身に付けるために、闘鬼術を磨く時間へと当てた。

遠くの範囲までは分からないが、気配生物の反応がなんとなく分かり始めた。








そして深夜になり、何者かの気配がした。

此方を伺いながら何者かはそのまま柵を突破してミハイルの気配の前で止まった。


ダンテも近くにいるが、微動だにせず座ったまま動いていない。見知らぬ者がいると言うのに、何故だか気付いてない様子だ。




何者かはダンテの方を伺いつつ、様子を確認してからミハイルに近寄って小声で話し掛けた。


何を話しているのか此処からは聞こえない。


(何かおかしい?)


違和感が禁じ得ない。不穏の影を感じたレガリアは、闘鬼術を用いて更に感覚鋭敏を発動する。



「ミハイル先生…お疲れ様でございます。見張りの男は良く寝ています。時間差の睡眠薬が上手く効いた見たいですね。

しかし、報告にあった人材と人数が違いますが?」


少し横柄な話し方でミハイルが答えた。


「仕方ない。本当はあのマックスと呼ばれる凄腕の魔法使いが良かったんだが…コイツらも其れなりの実力者だ。滅多にない獲物だし連れ帰れば良い研究材料になる」



聴覚を澄ませ、聞こえてくる内容はどうやら私達にとって良くないようだ。

そして、どうやらダンテは睡眠薬を使われたみたいである。

もしかしたら、先程振舞われた酒にでも仕込んでいたのだろう。


レガリア自体は修羅胴衣という装備品の特殊効果と、特に修羅鬼形態での状態異常に対して非常に強い耐性がある。

特別に強力な薬だったとしても既に浄化されている為、薬の影響はない。


物音を立てないようにそっとコウランに近付き、静かに声を掛けて起こす。

なかなか起きようとしない。コウランにも薬が使われていると見ていいだろう。

アイテムボックスに仕舞ってある気付け薬も使用して、何度かの揺さぶりをかけた。

寝起きの悪いような呻き声を上げながら、コウランは徐々に目を覚ました。

効き目が少し弱かったのか、ぼんやりだが覚醒はしている。


「どうしたの?レガリアちゃん、交代の時間?」


そう呟くコウランに現在起こっている状況を手早く伝えた。


「へぇ、ミハイルやってくれるじゃない…そうだわ、ダンテは無事なの?」


断片的にしか情報は分からない。

コウランにはいつでも対応出来るように臨戦態勢を保持してもらい、更に遠くで話す男たちの会話の内容に耳を傾けた。


「もう少ししたら山小屋を包囲出来ます。いつも通りの対応で大丈夫ですか?」


「ああ、構わん。このパーティで最も強そうで見事な装備に身を包んだ男でもこうなんだ。

薬の効果で長くともあと5時間は起きまい。

あとは眠り込んでいる女2人だ。包囲が済み次第捕らえれば良い」


頷いた男が、もう一つ報告をしている。


「それと、コイツらの後から冒険者と思わしきパーティが付いてきていました。

先生達が山小屋に入った後、暫くその様子を伺っていたようなので、先程此方の方で秘密裏に捉えて置きました。どうしましょうかね」


少し考え込みながら、


「そうか、このパーティの仲間なのか?…知らんな。

見張りだけ付けて牢に放って………いや、そう言えば最新の実験体の戦闘テストをして無かったな。12号の性能を測るには丁度いいだろう。

実験場に放り込んで、テストしようか」


「わかりました。私は1度帰ってその旨を仲間に伝えてきましょう。

では、その後はいつも通りに」


ニヤけるミハイルが嬉しそうに返答する。


「ああ、宜しく頼む。久しぶりの実験に良質の素体…心が弾むよ。

国から追われた私を拾ってくれたあのお方には感謝してもしきれん。

ザンマルカル家の御兄妹にもそうお伝えしてくれ」


男達の会話は終わり、1人が先へ駆け出した。

会話の内容からすると、ダンテは睡眠薬を盛られているだけのようだ。



しかし、謎の敵に包囲されようとしている状況は変わらないようだ。

此れまでの道のりを思い返してみるが夜間で視界が悪く、案内に任せていたのでよく覚えてもない。

また、岩場も多く足場も良くないため早く移動する事は困難だ。



現在のわかる範囲の状況を分析して、コウランと共に暫く考える。


2人で相談した結果、包囲される迄に突破し脱出する事だった。

また可能ならミハイルを捕らえる事も視野に入れる予定だ。


既に軽鎧を着込んだコウランは準備万端である。

取り敢えず、相手側の後詰めが来る前にレガリアが気配を可能な限り消してミハイルに接近し、攻撃をしかける。

その間にコウランがダンテに治療魔法をかけてダンテを解放する流れで同意を得た。


2人だけでの初めて戦いが始まった。

明けましておめでとうございます。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

仕事と併用していつも更新が遅いのですが、なるべく頑張りすので、本年もよろしくお願い致します。


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