ソウマのいない日常 2 ダンテの新たな大盾
グリッサとジュゼットと別れて転職神殿に向っていたレガリアは、改良された大盾をアイテムボックスに収納する為に鍛治場へと一度立ち寄った。
作業場の奥には見知った赤熱鋼の大盾より、一回り形が大きくなっている。
以前より荘厳な雰囲気を纏う大盾が立て掛けられていた。
縁取りは鋼色のハイメタル鋼、更に濃淡のある新旧の赤熱鋼である赤色のコントラストが美しい。
また、盾の裏側には鎧装備の背面に大盾を取り付けやすいように、工夫がなされている。
盾の持ち手にはびっしりと魔術紋様(重量軽減)による術式が織り込まれ、魔力を帯びて明滅していた。
魔術紋様とは遥か古代の魔道文明に発達した魔法技術の一つとされている。
今の時代までに何らかの理由で失われてしまった古代魔法技術の1つ。
魔術紋様はその専門の古代の魔法を解明し、
適した魔法素材に魔力媒介を元に主に物質に対する決められた効果のあると思われる永続付与魔法の事である。
永続魔法には他に系統もある。
人類にとって奥が深く、興味が尽きない名目である。
魔術紋様の発見には、どうして迷宮が存在する…などやBOSSと呼ばれる個体から宝箱が何故出現するのか?
当時では人の鍛治による魔力武器などは作れなかったので、何故レア級の武器には魔力を永続的に込めて居られるのだろうか?
そこに疑問を抱き、興味を持つ者たちがいた。
最初は個人の少人数で始めた集まりであったが、時が経つにつれ規模が大きくなる。その願いから結成当初から600年もの月日が経った。
今も冒険者達を雇い入れて迷宮から持ち帰った情報を分析、解析解明を進めてきた。
あらゆる人種、戦士や鍛治師、魔法使いが集まり、次第に独立都市として他国に干渉を受けない研究機関として認識されるようになった。
この者たちにより、副産物的に永続魔法系統における魔術紋様、他には迷宮での管理化、魔物素材の有効マニュアルなどが作成された。
ここで開発、発見、改良された魔法技術は発表と共に有償で各国にも恵みを齎すため、どの国もこの都市の有効性の存在を暗黙の了解のもと認め、不干渉を貫いている。
その都市の設立により各国にも研究機関を作るが、ここまでの人材や予算を回せず専門的な機関も作れない。
それよりも国を防衛する為の騎士団や、魔法研究所に力を入れているからでもあるが。
王国では古来から比較的多く遺跡から出てきた発掘物を、発表された永続光と呼ばれる魔法技術を用いて、夜に消えない光を王城と王都にもたらしていると言う。
5年に1度の頻度で独立都市にて鍛治師や魔法研究者を対象に魔術紋様の試験が開催される。
この試験を受けるためには国家の厳格な審査を受け、極限られた者しか受けれられない別格の厳しさが定められていた。。
習得したい魔術紋様によって難易度は様々で、魔術紋様の中でも初歩だと思われる魔法から難しさは軍隊級までとあり、選べる用途は様々だ。
ジュゼットはこの厳しい倍率の突破して国からの許可を得て、習得における難易度の高い魔術紋様の試験を受けた。
試験を受けても合格者が出ない時もある中、ジュゼットだけがその年の試験を突破した。
そして数あるなかの魔術紋様から【重量軽減】と【錬成】の2つを選択した。
因みに、なぜ魔術紋様が2つしかし習得出来なかったのかは、以下の通りである。
ジュゼットは国家鍛治師1級を得ており鍛治技術と魔法学、魔力にも優れている優秀な人材だ。
しかし、彼であっても扱える魔術紋様の魔法技術は2つが限界…と、独立都市にしかない検査機器で判定されていた為である。
この検査機器もオーバーテクノロジーとして研究機関から貸し出された機器である。
現在では研究が進み、オリジナルには負けるが、個人の魔力判定など様々な分野に取り入れられている。
簡易版の機器も販売しており、ジュゼットも試験の合格した際に自身の魔術紋様の施工に使う為に購入していた。
魔術紋様合格者は、国家奉仕の制約や技術漏洩を重ねるため逃亡禁止など、他にも細かく制約が掛けられている。
その規定があり、国家には絶大な信頼を寄せられているジュゼット。
彼の作る武具には彼が認めれば付与しても良いと国家のお墨付きを貰っていた。
ちなみに鍛治の最高峰と名高い蒼銀騎士団専門所属の鍛治師であるイルマ氏は、迷宮や遺跡から魔術紋様を含む永続魔法の情報を集めて独自に最低10以上の永続付与魔法をその身に宿していると噂されていた。
また、かの研究機関のお偉いの娘や実は人間では無い…なども噂に事欠かない。
そんな噂が立つほど、優秀や天才を軽く通り越した傑出した人材である。
鍛治を目指す者にとっては、現在における頂きの1人だと思える鍛治師であった。
さて、ジュゼットが久しぶりに【重量軽減】の魔術紋様を使用しようと考えたのは、パーティの生存率を上げる為には守り手であるダンテの力量を認め、手助けを行いたいと思った事と、この大盾には付与に耐え切れるだけの稀有な素材と完成度を備えていたからだ。
実はこの魔術紋様施工も大変なのだが、それに用いる素材の入手も大変なのである。
現在分かっているだけでも魔物素材や鉱物系統はこの町では手に入らないものばかりだ。
後は素材の問題だったが、念のため竜鳥の素材の中で使えないものがないか…ジュゼットが鍛治場に設置してある彼専用道具の魔術紋様を選定する機器を翳し、調査してみる。
幸い【重量軽減】の魔術紋様は竜鳥の素材の一部分が代用出来るとわかった。
此れには集めておいた竜鳥の血が魔力も豊富に溶け込んでおり、代用可能だった。
他には術式固定のために魔導回路に魔力を蓄積させていた臓器を使うという。
魔術紋様の施工の仕方は流石に秘伝の為、ジュゼット1人で仕上げたのだ。
ダンテに無断で勝手に施したが、味方と自身を守る防具に関してはこれから先も考えれば必要不可欠であり、この魔術紋様も誰にでも施工出来る訳ではない。
ダンテならば納得してくれると思う。最後の問題はダンテが払う金額だけの問題だった…。
まぁ、彼らも多額の分配金もあるから大丈夫だと思われた。
他には2人のアイディアで小型の手斧を大盾の裏に2本仕込んであった。
手斧自体はハイノーマル級で量産のモノでも対応が可能だ。柄の部分は軽く丈夫な木材を使用し、刃の金属部は良質な鉄材を精製したモノで出来ている。
大盾の裏地に収納するため普通の手斧よりもコンパクトだが、投げて良し、木の伐採などに使って良し等と、非常時に様々な用途で使える仕様になっている。
ジュゼットの素晴らしい仕上がりに、思わず見惚れてしまう。
レガリアも鍛治の道を進む者である。いつか自分も魔術紋様を取り込みたいと考えている。
大盾を充分に眺めた後、大切にしまい込んで転職神殿へと向かった。
神殿の前では既に転職を終えたダンテとコウランが待ってくれていた。
「ごめんなさい、お待たせしました」
開口一番、レガリアが口にした言葉に対して、ダンテは
「いや、大盾の修理もあった筈だ。此方こそ有難う。急がせてすまない」
「気にしないでレガリアちゃん。今日はよろしくね」
合流した所で挨拶を交わしながら、ダンテの新職業について聞いてみた。
ダンテが転職神殿に着き、手続きを済ませると記憶水晶球の間へと通された。
受付の男性から、ダンテには職業の選択肢が一つだけ示されていたと言う。
現在の2次職業である大盾士は、盾を扱う特化職業である。
他の盾を使う職業等に比べて、特別に盾補正と自身の防御ステータスの振り分けが大きい職業だ。
主な戦技は盾を使う戦技がメインとなり、あとは挑発などの戦技を用いて敵からパーティを守り、前線を支える要でもある。
ダンテの前に示された職業は、守護盾士。
守護盾士はそのまま大盾士の上位職業となる。
第3次職になったことにより、全てのステータス補正が若干上がる。
守るという特性により、攻撃よりも防御に関する項目のステータスが大幅に上がった。
守護盾士は職業の名前通り、盾を使った全ての戦技、技術、防御力が桁違いに上がる。
それに伴う守護系統の職業による特殊戦技【大防御の盾構え】
【耐魔法付与】
また専用スキル【盾補正上昇】【盾戦技上昇】などの強力な職業ボーナスが追加される。
因みにグリッサなどのナイト系統の聖騎士などは厳しい条件下で魔力を兼ね備えた実力者しかなれない職業だ。
巧みな剣と盾さばきで防御だけでなく高い戦闘力と、周りに支援・補助くらいだが自己以外にも魔法を掛けられる存在である。
ステータス補正はバランス良く振り分けられる為、その職業に就いた者によっては様々な面で使いやすいが、一点特化した者よりも秀でたモノが無い為、状況によっては器用貧乏にもなりやすいという欠点がある。
防御の一点に関しては盾士が騎士系に比べ非常に有能であり、聖騎士よりも高い補正とスキルを保有している事が魅力である。
殆ど防御専門に近く、単体での活躍よりもパーティ戦で充分に存在を発揮できる職だと思われた。
第3次職業の修得に関しては、個人の才能の問題や資質に左右される。
どんな職業においても超一流と呼ばれる領域に入りわそこまで到達出来る成り手が少ない。
ダンテは盾を扱うエキスパート職で、彼以上の盾の使い手はこの国には少ないだろう。
冒険者級に法って換算すると現在のダンテの実力はB級到達者となる。
あくまで冒険者級に法り、第3職業の成り手の尺度を測れば…ある。
個人特有の幅が広がる為、それに当てはまらない者達も多い。
実質A級クラスの範囲に収まる者が殆どだと考えても問題無かった。
「まさか…盾で守る事しか能のない私が、この職業まで到達出来たのは、お嬢様を始め、ソウマやレガリアのおかげだ。本当に有難う」
「その意見には私も同感。私からも言わせてね、有難う」
真摯な表情で深々と頭を下げたダンテとは対照的に、明るく告げるコウラン。
「いえ、お2人ともに会えたのは御主人様や私にとって大変有難い出会いでした。
あの迷宮洞窟でコウランさん達に話しかけて貰えなかったら…きっと誰かとパーティを組むだなんて考えなかったでしょう。
今かだから言えますが、私や御主人様はとっても人見知りなのですから」
茶目っ気たっぷりに笑いながら答えるレガリアに、笑い出すダンテ。
当時を思い出しながら、確かに不思議な青年だったソウマにはそんな気があったと分かったからだ。
あの戦いを経験してレガリアは、擬態スキルに新たな形状で修羅鬼の姿を手に入れた。
そのおかげで肉体を得た。
時々影響を及ぼす感情と言うものが、まだどういったモノ?なのか良く分かってはいない。
御主人様に抱く感情とコウランやダンテに抱く感情は全く違う。
しかし、彼等と接していると、体の奥が何故かあったかくなる事がある…考える事に意識を割いていたレガリアは気付いていなかったが、自然と表情が柔らかくなっていた。
色々な変化を齎した張本人はここにいないが…きっと生きている。
何故だか分からないが、確信出来る自分がいた。
精神接続が無くとも、私の御主人様ならば何があっても生きているだろうと、無意識に信じられる事も挙げられるのかも知れない。
さて、帰ってきたら何を聞いてもらおうかな?話そうかな…等と、ウキウキしながら考えるレガリアだった。
それから新職業の獲得祝いも兼ねて、ダンテに生まれ変わったその大盾を渡す。
一目見たダンテは感嘆の溜息のあと賞賛の言葉が止まらなかった。
簡単に大盾の改良点を説明をして、ジュゼットから魔術紋様【重量軽減】まで施工してある事を説明すると、信じられない…とダンテには珍しく茫然自失の表情になった。
そのあとジュゼットから渡された領収書を見た時は真っ青になっていたが。
材料費はレガリアの赤熱鋼分は引いてあるものの、やはり結構な金額だったようだ。
其れでも直ぐに立ち直り、家宝にする…と、ハッキリとした表情で嬉しそうに伝えてくれた。
ダンテには此れがどれだけ貴重で得難いものだと理解していた。
自身を認めてくれ、希少な魔法技術である魔術紋様を施工したジュゼットに直接感謝を述べたかった。
その思いを汲み取ったコウラン達は、ダンテとそのまま別れ道具屋と防具屋を回ることにした。
今年最後の更新となります。いつも読んで頂いて有難う御座います。皆様、良いお年を…。




