アデルの町への帰還
ようやく50話目に突入出来ました。皆さまに読んで頂け、少しでも楽しんで頂けているのであれば幸いです。
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町へと無事に帰還したレガリア達は、緊迫した表情の門番に呼び止められた。
マックスが先に帰還し、事情を説明していたようで、申し訳なさそうに冒険者ギルドに向かうよう伝えられた。
休む間も無く直ぐに冒険者ギルドへと直行した。
そこでは既にマックスがアシュレイを相手に会談を行っていた。
彼の姿も身体の各所に出血した切傷を処置した後や、装備に細かな傷が目立っている。
「皆、無事だったか!?」
気付いたマックスが安堵と喜びの声をあげる。が、直ぐにソウマがいない事に気付いた。
アシュレイも交えてお互いの情報交換を始めた。
マックスは帰還途中に待ち伏せによる武装集団の襲撃にあったそうだ。
有無を言わさず攻撃を加えてくる武装集団の物々しい雰囲気に、女魔術師も連中が助けに来たわけではなく、最初からこの依頼を受けた者達を口封じのために殺すために準備されていたのだと理解したようだ。
庇いながらの不利な戦闘だったが、相手側の武装集団には魔法使いがいなかった。
高い戦闘能力を誇るマックスが逃げに徹した結果、無傷では無いが何とか撃退しながら先程アデルの町へと到着したそうなのだ。
傷だらけの2人が駆け寄ってきたことを怪しみ、警戒する門番に事情を説明し伝令を頼む。
身分を証明すると、身を硬くするが直ぐに上司へと取り次ぐ門番。
町の中へと入り、詰所まで護衛される。取り敢えず衛兵に妻へ伝言を頼み、マックスは冒険ギルドのマスターであるアシュレイに緊急の面談を申し込んだ。
面談時間までにギルド職員に簡単な傷の手当をしてもらい、返り血などを拭き取り身なりを整えた。
合流した面々はアシュレイに、迷宮洞窟で起こった出来事に対して詳細な事情を説明する。
その際に証拠として、捕虜とした女魔術師の自供と、討伐した竜鳥の素材の一部を貸し出した。
これが本当ならば政治的観点や安全面から非常に重要度の高い問題である。
事態を重く見たギルドが、緊急措置として調査隊を編成し、ソウマの探索と共に迷宮洞窟へと派遣させることになった。
出発した調査隊が情報を持って帰ってくるにはまだ日にちが必要だ。
全員診察を受け、その日は解散してゆっくりと休む事になった。
慎重にサザン火山方面へと歩き出した調査隊。
途中、激しい戦闘が行われた跡が見える。
マックスの報告にあった撃退した武装集団のことだと思われた。
しかし報告にあった撃退した賊の死体や、持ち物などは何も残ってはいない。
気を引き締めた一行は警戒しながら迷宮洞窟へと到着する。
アデルの町の中位クラス(推定B級)冒険者達と研究者、学者たちが早速迷宮内に入る。
既に入口から異臭と緑黒のガス状の霧が充満していることに気付く。
少し離れた所には複数の倒れている魔物がいた。
臭いを嗅ぎ、具合の悪くなった隊員もいて、この悪臭は毒を含む火山ガスである危険性を認めた。
すぐに下山し平原の近くに陣地を貼り、足の速い冒険者を選び3名程を報告の為に即座に町へ帰還させた。
持ち帰った情報を冒険者ギルドへと伝えた彼等は、少しの休憩のあと陣地で待つ仲間達の元へと帰っていった。
アシュレイは要人を集め、商業ギルドの面々や、貴族であり領主であるアデル卿とその側近がギルドへと集まった時点にて、情報を公開した。
これまでの経緯とソウマ達の情報を元に何時間も会議をする。
長い激論が交わされた後、暫く収まるまで迷宮洞窟内に立ち入り禁止の判断を下した。
サザン火山迷宮洞窟に充満していたガスは、実はカザルの毒炎がカモフラージュの為にその日一日発生させたものであった。
調査隊が火山系の毒ガスと勘違いしたのも無理のない話だった。
迷宮洞窟への立ち入り禁止。
この決定に異をとなえたのは、マックスを始めとしたあの戦いに身を置いた者達だ。
仲間の一人であるソウマが行方不明なのである。
特に報告にある火山の毒ガスが本当だったならば、一刻も早く救出せねば命が危ない。
せめて自分達だけでも行くと宣言したのだが、冒険者ギルドのギルド長アシュレイより自重を求められる。
先の貴族達による暗殺計画の立証と、女魔術師の身の安全を保障する代わりに自供を促している。
集まった情報から犯人を炙り出している最中なのだ。
また、一部の貴族からはソウマが消えたとの報告に対して、臆病風に吹かれ逃げ出したと吹聴する者達や、そもそも竜鳥の存在すら信じられていないと報告にあった。
借り受けた証拠である素材や立証を含めて、この状況下で限りなく黒と近い状況証拠があろうと迂闊な行動が出来ないことが、身に染みて分かっている。
アシュレイ達は自分達に任せて欲しいと強く主張し、再度お願いと共に自重を求められた。
今は兎に角、歯噛みしながらも耐えるしか無かった。
そんな中、修羅鬼形態のレガリアはソウマの存命を強く信じていた。
未だ念話での返信や反応は無いのが…御主人様なら生きていると何故だか信じられた。
訝しがるメンバーを強く説得し、自身もソウマが帰ってきても良いように鍛治と、当座の魔力補給の為に魔物討伐に勤しむことにした。
そして竜鳥の素材で必要のないと思われるモノだが、見る人から見たら貴重な魔法素材としての価値が高く…エステルが金に糸目をつけずに全て買い取ってくれた。
保存魔法がかけられた臓器や複数枚の欠けた鱗等をうっとりと見つめ、これで新しく魔法研究が…杖が…ど虚ろな眼で嬉しそうに笑っていた。
ソウマに貰った竜の牙も、彼女なりにアレンジするようで、毎時間微量回復の稀有なスキルをもつ活力の指輪などは、彼女の原案を元にお抱え研究チームが完成させたオリジナルである。
夫であるマックスはその様子に苦笑しているが、嬉しそうな妻の表情を見て、どんな宝石や貴金属よりも喜んでいるなと、感心していた。
彼等は明日、女魔術師を除く今回捕縛出来た襲撃してきた賊を馬車にて護送しながら、王都に向けて出発する。
拷問などで情報を王都で引き出した後は貴族に刃を向けた不敬罪の他、虚偽罪とで死罪になるそうだ。
その中でブランドー家の家臣バーナルは別の扱いとなる。
この数日の間、牢にてこの貴族である私に不敬な態度は死に値する…や、下民を殺して何が悪いのだと色々と暴言も酷く、毎日聞こえてくる呪詛に看守や衛兵も辟易としていたそうだ。
彼の処遇に対してはエステルが実家に文を出した所、実家からはバーナルなる者は知らないとの返答の文を持ったブランドー家の家臣が馬車で慌てて駆けつけてきた。
バーナルに面会するも、再度ブランドー家の家臣団ではなく別人だと本人に言い放った。
バーナルについて領民からも陳情が多く、ブランドー家では一部の家臣以外には厄介がられていた。
どうやらブランドー伯爵の領内においても同様の事件を起こしたようで、どうか問題を起こしてくれるなとキツく言われ、反省の面も含めてエステルを説得しにやってきたそうだ。
しかし、手元を離れた途端に悪い癖が姿を現して騒ぎを起こし、ブランドー家では過去の献身があろうがもう面倒は見切れない…と、遂に切り捨てられる事になった。
後ろ盾の失ったバーナルは紙切れのように白くなって喚いていた。
しかも今回以外にも数々の所業が発覚し、バーナルは死刑以上の刑が執行される予定で、楽に死ねると思うなと一言エステルからも告げられていた。
更に喚くバーナルを特別に頑丈な檻へと移送し、家臣が先にブランドー家へと連行していくことになった。
「奴をやっと裁くことが出来た。最後まで自分のためだけに好き勝手してきた奴の末路だったな」
マックスが因縁を込めて呟いた。
また騒ぎを起こした尻拭いも出来ぬ実家にも心底嫌気が増したエステルは、当初の予定通りに帰った後は祖父の元へと出向き、実家と正式に縁を切る予定だという。
家臣達の殆どは現当主や次期当主よりも、聡明で実績のあるエステルを領主に…と推す声も多数あるのだが、本人は全くやる気がない様子だ。
「これまで魔法研究やアイテム開発の特許もあるし、援助がなくとも金には困らないからな。今迄通りの生活なんぞどうとでもなる」
なんとも豪快で男前な一言に
「それにいくら身内だろうが貴様のような世界一の男の良さが分からず、
排除しようとする者なぞいらんさ」
と、続けてニコッと笑った。
夫婦は離れていた時間を取り戻すかのように、仲良く部屋へと戻っていった。




