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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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竜鳥との戦い

読んで頂いている皆様、いつもいつもありがとうございます。

竜鳥から放たれた聞く者の心臓を掴むような絶望な鳴き声。

心を鷲掴みにして締め付けるような顔を顰める程度で誰も異常は無い。

この鳴き声はデッドボイスと呼ばれる種類の音響ショックを伴う攻撃で、弱い者ならそのまま死に至る事もある即死攻撃系(極低確率)の一種でもあった。



誰も倒れなかった事に対して怒ったように威嚇音も放つ。

けたたましい甲高い鳴き声を1つ上げ、翼を大きく羽ばたかせ上昇した。


洞窟内の広さは然程大きくはない。


それにBOSSの間へと転送する建物の周囲は、地を移動する者にとっては煮え滾るマグマに阻まれている。

翼を広げれば全長5m近くになる竜鳥もそんなに高く上昇出来ない。


イルナとソウマはその行動を好機と思い、射撃を開始した。

大きく羽ばたく毎にくる風圧に身体も弓も振れて、狙いがつけにくい。

2人はスキル【鷹の目】を発動させながら、次々と射っていく。


イルナは急所と思われる所を全面にし、ソウマは双翼を中心に。


強弓を持って撃ち出された1撃は、羽ばたく風圧をものともせず突き刺さる。

翼膜を貫いた矢は2本。他は筋肉や翼膜に弾かれたが少し傷ついた程度。それくらいでは影響は無いのか飛行能力は些かも落ちてはいない。


一方イルナの金属矢は全て弾かれる。急所はやはり硬い鱗と羽毛で覆われ並大抵では傷もつかないようだ。


矢での攻撃はうっとしいのか仕切りに左右に動いている。

何かを仕掛けようとする行動が見られるが、それをソウマは許さず射続ける。

しかし、竜鳥の巨体では迷宮洞窟内において充分な飛行能力が保てず…やがて諦めたのか降りてきた。



地響きをたてながら洞窟内に着地した竜鳥は、筋肉質な脚でしっかりと大地を踏みしめる。


翼を仕舞い、ヒクイドリのように駆け出した。

余りの突進力に硬質な地面が悲鳴を上げるような嫌な音が響く。


最初に狙われたのは直ぐ近くにいたダンテだ。

防御魔法を何重にも掛けられているが、大盾を構えたダンテもその威圧感に怯むほどの突進力。


受け止めきれないとダンテは判断して本能に任せるがまま、防御せずに回避行動に移ろうとする。

あっという間に接近した竜鳥は、長腕を用いて更なる攻撃を仕掛けてきた。

飛び出してきた長腕の先端は鋭利に尖っており、3m程の長さだ。

左右から計4本の腕がダンテ目掛けて襲う。


予想だにしない変則攻撃に咄嗟に盾を構え、防御態勢を敷くが攻撃の全ては防げずに背後から迫る1本の長腕が鎧越しに引っ掻く。

浅い傷が鎧につくが構わずにカウンターとして即座に槍を振った。


武技【小鬼痛打ゴブリンヒット】の魔力が穂先に集まり、赤色に輝く。

薙ぎ払われた攻撃は硬いモノを切った感触と共に竜鳥の長腕を捉え、斬り飛ばすことに成功する。


背部にダメージを受けるも動きに問題が無さそうだ。大盾を構える姿は変わらない。

そこに時間差なく地鳴り上げて突っ込んできた竜鳥と激しくぶつかりあった。


激突した衝突音は凄まじく…防御魔法と風盾の効果が消し飛んだ。

突っ込んできた竜鳥は大型自動車を想わせる。

勢いを殺せないまま、ダンテは構えた大盾ごと壁に打ち付けられた。

全身を強く打ち、その場にガクッと崩れ落ちる。


ダンテを護る為に、レオンが新たに風で作られた障壁を詠唱して周囲を覆う。

竜鳥は嘴と長腕を使い、障壁に何度も追撃の攻撃を加える。

度重なる攻撃に遂に耐久度を超えた障壁は砕かれた。

そのままダンテに発達した前脚を蹴り上げトドメを加えようとした。



前脚が到達する前にソウマとレガリアが割って入る。

振り下ろす大鉈と、蹴り上げた前脚とが激しく重なり合った。


激しい激突音が鳴り、武器が折れる音がして大鉈が吹き飛んでいく。

激突した余波の反動で上体が泳ぎ、両腕が上がる。少なくないダメージを両腕に負う。


胴がガラ空きになり隙を見せたソウマだったが、追撃を加えられるまでもなく、レガリアが大太刀による攻撃をサイドから加えてフォローして事なきを得ていた。

その間に新しく大鉈をアイテムボックスから取り出し、レガリアと共に絶え間なく攻撃の手を加え続け、緩めない。


駆けつけたコウランはダンテの状態を見て絶句した。

直ぐに我に返り、回復魔法を詠唱していく。


「ダンテ、しっかりなさい」


コウランがそう呼びかける程状態は酷かった。

大盾は凹み、後頭部からどんどんと血が流れて蒼白になっいくダンテ。

呼びかけに辛うじて眼を開く。


回復魔法を使い、出血は止まって徐々に回復はしていると思うが…もう戦闘は不可能だろう。

防御に長けたダンテがたった1撃で戦闘不能まで追い込まれた。

その事実は全員の空気を重たくさせた。


「イルナ、機会を見て暴風矢弾を使ってくれ。皆はなるべく距離をとって離れて」


レオンがそう叫び、イルナは暴風矢弾をクロスボウにセットし始めた。


ソウマは竜鳥から繰り出す嘴からの鋭い連続攻撃を躱して反撃を狙う。

攻撃の後の伸びた首筋や、嘴へと攻撃を加えようと試みた。

直撃するも硬くビッシリと敷き詰めた鱗と羽毛に阻まれ、表面を削るくらいで大したダメージは与えられていない。


此れほど硬い相手は、障壁蟻と戦った時以来である。

あの時も切断は出来なかった訳だが、この相手も相当に硬く身体能力も驚異的だと思わざるおえない。





レガリアはソウマに攻撃が集中している事を横目で確認する。

此方へ牽制のように放たれる長腕からの変則攻撃は、レガリアの動きを持ってしても完全には躱しきれない。

その際は我流闘気術で肉体の防御力を上げて弾き、ダメージは必要最低限に抑えられていた。




レガリアが多大なSPを消費して【蒼炎】のスキルを発動させ、大太刀に纏わせる。


【蒼炎】に関してはレガリアが修羅鬼へと擬態中でも、ソウマは【精魂接続】を通して使えるため、便利で強力なスキルである。


蒼く美しい炎は薄っすらと煌いている。

突如出現した2つの蒼炎は、竜鳥の危険本能が充分な警戒音を鳴らし、距離を取って此方に近付いてこない。



その間にコウランとイルナは、共に肩を貸して歩くまでに回復したダンテを建物内へと運んでいった。


まだ足取りはふらつき、治療魔法と回復魔法は必要だ。

暫くはこの2人もダンテの側に護衛と治療役とで付き添う必要がある。


ソウマとレガリアだからこそ此処まで何とか持ち堪え、仲間の退却・回復の時間を稼げていたり、また戦闘を存続させていた。


仮に今回襲ってきたパーティが相手をしていたら、3分と保たず戦線が崩壊して維持すら出来なかっただろう。

こんな強敵はこの辺に滞在している冒険者や騎士などいった者達では対処が厳しく、更に苦戦を強いられる事は間違いないと思われた。





空ではなく地上に降りた方が強いとは…いや、空こそが竜鳥の領域の筈。本領発揮していなくともこの実力。気を引き締め直さねば。


ようやく睨み合いにしびれを切らした竜鳥は、巨体を揺り動かしながら突進してきた。


岩肌の地面に対して轟音を立てて踏みしめる巨体は圧巻の一言。

地面が軽く揺れるが、此方も負けずに立ち向かう。

レガリアに遊撃を頼みわソウマは正面を担当して接近戦に持ち込む。


厄介な長腕から始末しようと思ったソウマは、不規則な動きをする長腕の攻撃を避けながら近づく。

間近で観察するとダンテの槍が切ったはずの傷一つ見当たらず、再生していた。再生能力まであるのか…?


先程の攻撃は鱗に阻まれたが、今回は【蒼炎】のスキルを発動している。

竜鳥からの無数の高速攻撃に対して【見切り】を使うと、眼前に迫り来る複数のラインが見えた。


それを可能な限り躱していき、ようやく腕1本を射程距離内におさめた。


振り下ろした1撃は蒼い残像を残し、小気味良い音を立てて長腕を切断した。

瞬く間に切り口から蒼く燃え盛る炎が傷口を焼いていき、再生もさせずに徐々に侵食して焼き払う。


再生が出来ないほど炭化した1本の長腕。竜鳥は自身に蒼炎が及ぶ前に嘴で長腕で噛み落とした。


怒号の雄叫びを上げる。


「仲間を殺されそうになって怒ってんだよコッチは」


此方も怒鳴り返す。意趣返しにダンテを襲った長腕から始末したソウマ。






自分がいる限り大丈夫、何があっても皆を守れると思っていた。


しかし、結果はどうだった?

もしかしたら…なんて覚悟はしていただと。そんな驕りと慢心が恨めしく…危うくダンテを死なせてしまうまでの怪我になってしまっていた。


自分自身にも抑えようのない怒りと後悔が止め処なく溢れる。

…反省するのは後だ。まずはこの竜鳥を焼き鳥にしてやる。

久しく感じなかった憎悪と後悔、それを振り払うかのように戦闘を続行した。





一方、修羅鬼形態のレガリアは大太刀を振るい、襲ってくる長腕を切り落としながら懐に進んでいく。


【精魂接続】を通してソウマの強い思いが痛いほど伝わってくる。



【炎熱】のスキルを上手く使い、傷口も焼く事で竜鳥に再生能力を使わせていない。

格上とも言える相手に目標を立てる。それはソウマよりも多く敵にダメージを与える事に決めていた。

この先を共に進むのならば、御主人様ばかりに頼る訳には行かない。


助けられてばかりは嫌。私が御主人様を助けられる存在にならなくては…と、強く感じていた。

炎と相性が良い竜鳥に、薄く嗤ったレガリアは自身の覚悟を決めて短期決戦を挑む。


最初は怒りの余りソウマにばかり攻撃が集中していた竜鳥だったが、レガリアの攻撃の前に次第に無視出来なくなっていた。

それと【蒼炎】スキルを使い、ソウマよりも先に長腕を2本切断していた。



本来の竜鳥の皮膚や羽毛、鱗は硬く並大抵の武器では傷一つ付けられないほど頑丈である。膨大な筋肉も然りで刃を肉体に通さない。


多分、この敵を相手にする時はハイノーマル級の武器では論外。

例え魔力を伴うレア級であってもダメージは小さい。黒鉄アダマンタイト級に全身は非常に硬いのだ。


おかげで手持ちのレア級の武器でも致命的なダメージを与える事は困難。


御主人ソウマ様でさえ、あの竜鳥の硬さに辟易しているように感じる。

きっと大剣の補正も無いからであるが、大鉈には尋常ではない負担がかかっていると思われる。

御主人様だからこそ、あそこまで保たせているのだ。それでも、余計に無理な使い方もしているためにすぐに消耗していくので一本目の大鉈は既にボロボロだ。



スキル【我流闘気術】と【疑似心臓】での併用したパワーアップが無ければ、現在の修羅鬼レガリアのステータスだけでは阻まれていたに違いない。




私の持つ大太刀 修羅刀は赤熱鋼と呼ばれる金属の純度100%と稀有な素材をハンドメイドした逸品である。

レア級ではあるが、他のレア級とは一線を画す能力とスキルを持つ。

太刀補正を最大限に発揮させる。

勢いに任せての攻撃、攻撃、攻撃…繰り返す攻撃は苛烈の一言。


【炎熱属性(極)】を発動して大太刀に炎熱伝導させる。

鱗の部分を焼きながら少しずつ削ぎ落とし、自慢の防御力を丸裸にしていく。

そして切り札である【蒼炎】スキルの使うタイミングを見定めいた。




蒼く煌めく炎は清浄を含む特別な炎。


【蒼炎】の炎は現在修羅鬼のスキルとしてある【炎熱属性(極)】よりも炎の格が高い。

その為、炎に特化している素材で拵えられたレア級の大太刀でも、そう何度も蒼炎を使えば耐久性は危うい。それ程の威力を秘めている炎であった。


何故こんなスキルが手に入ったのかレガリアは知らないが御主人様が何かしたのだろうと結論付けていた。




ちなみに、実際【蒼炎】はボーナスのレアスキルであり、炎に関するBOSSの魂魄結晶が入手出来たからである。

ソウマもレガリアも知らなかったが、魂魄結晶などを含む特別なアイテム、素材はかなり特殊なアイテムでありソウマやユウトなどいった人材で無ければ手に入らない。

特に魔物使いをサブ職として持つソウマしか現在入手出来ない、激レアのアイテムである。








これだけ攻撃に集中していればレガリア自身も無事ではない。

身体中至る所に裂傷を負っている。


躱しきれない攻撃は我流闘気術を併用して肉体を強化し、受け止める事も多々ある。

抉られ、啄ばまれ、無事な箇所など無い。それでも行動に支障がくる致命的なダメージを喰う1撃は何とか躱す。



攻撃こそ我が使命…その危うさと舞うような攻撃は、美しさすら感じる。


どれだけ傷付けても一向に止まない攻撃の嵐。

その事実は竜鳥を徐々に追い詰めていき、遂に一旦距離を取るために後退しようとする。


その行動を好機としたレガリアは更に追撃を掛けるべく、単身前へと突進した。


すると、大きく両翼を羽ばたかせ、

鋼ように鋭利で硬い羽が抜け飛んでくる。

その漆黒のような闇羽ダークフェザーを相手に向けて雨のように降らせた。


物量は脅威だ。この攻撃の前にはベテラン級の冒険者達や例えA級の冒険者であっても、雨のように降り注ぐ羽を前にいつかは対応出来ずに防御を突破されるだろう。

そして、なす術もなく身体中を切り裂かれバラバラになるか、運良く生きていても五体満足ではなく欠損箇所の酷い体になっているだろうと思われる。


レガリアは直前まで迫る矢羽を避けようともせず、闇羽ダークフェザーに対して愛刀である大太刀の武技【紅蓮一刀】を発動させた。


刃から3,000度の熱量を誇る紅蓮の業火が吹き荒れた。

その刀を風車のように回す事で周囲に業火の円渦が巻き起こす。

それによって眼前に迫る闇羽ダークフェザーは当たる事なく、全て焼き払われた。


距離を詰めてきたレガリアに対して危機感を覚えた竜鳥は、体内の血竜核に魔力を注いで魔法陣を連動させた。

僅かな時間で両翼の器官から血流にのせて、黒い烈風の渦を生み出した。


左右上下、何方を見ても視界を埋め尽くす烈風。

躱す間もなかったレガリアは黒い烈風をまともに浴び、身体中に傷跡を残す。

しかも渦巻く風に足元をとられて動けない。このままじゃ…と焦ってきたレガリアに


(状況を打破します。そこから動かないで下さいね)


妖精魔法を使ってレガリアに伝えるレオン。


静かに頷き、何とかその場にて体勢を崩さないように粘る。

完全に足留めされる前に、レオンが上位風属性魔法の詠唱を完成させた。

風上位殲滅魔法 竜巻大鋸トルネードグレートゼーレの魔法により、螺旋風刃が烈風を切り裂いていく。魔法が通った後に狭い道が出来た。


烈風がかき消されて出来た道にソウマとレガリアの2人が同時に飛び込んだ。


「御主人様、私が厄介な両翼を…」


「わかった…すまない。頼んだ」



そう言い交わす。


竜鳥は僅かな道を駆けてくる2人を狙うため、至近距離で不可視の衝撃波を放とうと嘴を開く。

逃場のない場所での攻撃を予期していたレガリアは、大太刀の剣先に闘気を集め、嘴を目掛けて爆気バーストプラーナを放った。


衝撃波と灼熱の熱量を伴った爆気バーストプラーナが相殺しあい、轟音と衝撃とともに拡散する。





(いやいや、健闘してるね。内緒でこれぐらいはサービスだ)


その戦況をつぶさに観察していたカザルがウィンクしながら、死炎剣デットフレイムを竜鳥の背部に召喚して、1本を投擲する。


死炎剣は静かに喰い込んでいき、丁度剣1本分の傷跡を残して消滅する。それは時間にしても1秒もない出来事。


死の炎は唯の再生能力では直ぐに治らない。

剣の形をして深く食い込んだ傷跡は、竜鳥に呼吸が出来ないほど激痛を与え、一時的に動きが止まった。


強い者好きのカザルはソウマ達の事が気に入り初めている。

あとはそっと様子を静かに見守る。





カザルの気配と援護に気付くことなく、レガリアは修羅刀 百夜をしっかりと握りしめる。


【疑似心臓】のスキルで魔力を血流のように浸透させ、身体の隅々まで流す。

【我流闘気術】と併用し爆発的に身体能力が高まったレガリアは、武技の効果が消えた大太刀に【炎熱属性(極)】と更に【蒼炎】を宿す。


大太刀が限界を超えて僅かに融解し始めた。


竜鳥は何故か動きを止めており、好機である。


全身に膨大な筋肉が盛り上がり、全ての力を大太刀に集約させた。

振り抜く際に一瞬だけ【鬼印】も重ね掛けした。

目にも留まらぬ最速の双撃を放った。




その攻撃は何の物音も無かった。静寂の時が流れる。

レガリアが片膝をつく…その軽い振動が竜鳥の身体に変化をもたらした。


振動により両翼が下へとズレ始め、両翼だけが竜鳥から綺麗に剥がれた。

翼を守る為の強固な筋肉、骨格、羽毛すらも貫き、綺麗な断面図を見せながら巨大な両翼が切断されている。

付け根の部分は焼け爛れていた。暫くは再生は難しいはず。


これで驚異はもう両脚のみである。


だが、代償は大きい。

ブチ…プチッと…筋肉が断裂していく音が響く。

大太刀の重量に負けてレガリアの両腕の筋肉が千切れかける。

身体にも著しい負荷によって修羅鬼ベースの肉体は損耗していた。


現在のレガリアにとって限界突破攻撃オーバーダメージ

無理な攻撃を放ったため、身体が持たなかったのだ。


「御主人様、後はお願い致します」


力を使い果たしたレガリアは本体の姿に強制的に戻り、光と共に契約の指輪に送還された。


お疲れ様…と、優しく念話で伝えた。肉体を修復したらまた再度召喚する予定だ。

ご褒美の焼き鳥を食べてもらわなくてはならない。


焼き鳥へと調理する敵は目の前にいる。







追い詰められた竜鳥は、残った魔力の全てを血竜核に集め、身体能力超向上に変換していく。


竜鳥は絶大な力を持つフィアラルの眷属だが、身体能力を中心にバランスの悪い成長の仕方をしている。

再度、焼け爛れた部分を見て恐怖よりも更なる怒りを覚えていた。



比べ物にならないスピードで両脚を動かし、ソウマに迫っていく。


此れまでの戦いでソウマの新品だった鉄の軽鎧はボロボロになっている。

格段に動きが良くなった竜鳥の攻撃を【見切り】を持ってしても、躱し続ける事が困難になってきた為だ。


ハイノーマル級の良質な鉄を使った軽鎧は、徐々に避け損ねた傷が軽鎧に目立ち始めて、先程掠った攻撃で遂に砕け散った。各所に名残を残すのみとなった。


幸い、軽鎧は砕けたがレガリアを宝箱ミミックの状態で待機して貰っていたため、精魂接続アストラルリンクを通して常時スキル【亜竜の外皮】を発動して防御力を底上げている。



だが蓄積されたダメージは確実にソウマの身体を蝕む。骨格に微細なヒビが入り、その痛みや出血で体力をも奪っていく。

身体にも、もう青痣が数えることが出来ないほど出来ていた。


ソウマも竜鳥もお互い傷だらけだ。


所々出血が流れ、徐々に溜まるダメージにソウマの疲労の色が濃い。

【蒼炎】スキルを精魂接続を通して使えれば良かったのだが、あのスキル使用に関しては膨大なSP消費が激しく、現在【巨人の腕】を併用しながらでの戦闘ではかなり厳しい。



その為レオンにはソウマの防御魔法の他に、阻害魔法デパブや妖精魔法を使ってもらい、竜鳥の動きに制限をかけて貰っている。



その甲斐あって、竜鳥のステータスは微かだが鈍っている。

超スピードで迫る前脚をギリギリで躱して、僅かに出来た隙間に身体をねじ込ませた。


ゾクッとした悪寒をねじ伏せ、緊張感を集中力を最大限にあげる。

既に発動していた【巨人の腕】を思念操作で寸分違わずに前脚を狙って叩き折った。


それはまるで岩をスプーンで削っていく作業のようだった。

実は鬼の大鉈の刃の部分も損耗し何本もダメになっていて、頻回に取り替えていた。

アッサリと折れた訳ではなく何度も同じ場所を大鉈で攻撃して、ダメージを蓄積させて少しずつ削っていたのだ。



片脚になった竜鳥は涎と血を盛大に撒き散らす。

強大な力に脚の血管がブチ切れ、竜鳥の口から逆流して噴き出したのだ。


憤怒の表情を見せている。

瞬時に片脚のみの筋力で跳躍して壁を蹴り上げて、高く高く上空へと舞い上がった。

上空では長い首の後ろの鬣がたなびくように輝き、尋常ならざる攻撃が放たれる予感がする。

魔眼で探知すると、竜鳥の真ん中に魔力を掻き集めているようだ。

今まで使ってこなかった事から本当の奥の手なのだろう。



ポーション使いたいが…そんな暇もない。

ソウマはふらつきながらも見上げて睨みつけた。



竜鳥が身体を震わせ、鮮血を撒き散らす。その血が魔力と媒介として魔法となり、闇玉となって空から降ってきた。


避けれない事は無いが、避ければ背後にはコウラン達がいる建物がある。


襲ってきた闇玉を一つ一つ大鉈の腹でガードしたり、斬りつけたりしている。

今は何とか出来ているか、これ以上の数になると身体で受けきるか…どんな攻撃がくるか全く予想出来ないが、特攻をしかけ一か八かの勝負にでるしかない。


体力的も残りSP的にもそう何発も発動出来ない…精々が【巨人の腕】残り2回ほど使えるのみだ。

特攻する覚悟が決まった所で


「ウォオオオオー!!」


雄叫びを放ち、ソウマの前へ駆けつけた男がいた。


大盾でソウマを庇う。


「すまん、待たせた…」


ダンテであった。完全復活では無いようで顔色は悪い。しかし、前を向く眼光は鋭い。


竜鳥は明らかにダンテにとって格上の存在だ。

さっきも戦闘力の違いを味あわされたばかりだ。


恐れがない訳ではない。しかし、それでも次々と放たれる闇球を弾き、前へ前へと進んでいった。

ソウマもダンテの後に続き、駆けていく。


頼もしい援軍に安心感が少し戻る。途端に抉れた所が痛い。


気にしていなかったが骨が軋んで動きに支障がでていた事に改めて気付く。


痛い事や面倒なのは嫌だ。

ただ、今だけはそんなモノを吹き飛ばすくらいにアドナレリンが分泌し過ぎて考えられない。


いま思えるのは仲間の存在のは有難さ。

休んでいれば良かったのに…無理をして強敵に立ちはだかるダンテ。

実際に自分にも出来るだろうか?護りたい者の為に立ち向かう…そんな格好良さに震える。


消耗した心に火が灯った。


共に戦線復帰したコウランと炎猫フレイ、イルナも駆けつけた。


「遅くなってごめんね。魔力も心許ないけど…」


ソウマに回復魔法の光が降り注ぐ。少し回復して身体が楽になった。




順々に風と聖の防御魔法を充分に重ね掛け【忍耐】スキルをかけられた大盾は光り輝く。


空から降ってくる膨大な数の闇玉に捌ききれずに、遂にダンテの足が止まった。


しかしレオンが吹き荒れる風の魔法を使って襲ってくる闇玉を一斉に蹴散らした。

かなり減ったが直ぐに闇玉が集まり始める。


「ダンテさん、こっちは任せて」


感謝の目線をレオンに向け頷き、前へ進もうとした直後、竜鳥のたてがみから目も眩む閃光が走った。


竜鳥は幼竜の器官を含む血竜核を取り込んでいる。

その血竜核に大量の血液を魔力へと媒介して流し込む。

体内で竜が使う息吹ブレスの真似事の如く血液を無理矢理大熱量に変換させていた。


本物の竜とは違い、実際には熱に対する耐性などない竜鳥は、体内では無理な熱量変換に内臓器官などは焼け爛れ、大量出血により大幅な疲労感を感じていた。


体内での熱量生成がようやく限界を超えた時、鬣が輝き白熱させた熱量を凝縮してレーザーのように撃ち出した。


竜鳥は産まれたばかりだが、事態を打開するためにはこの息吹ブレスのような光線しかないと本能的に感じていた。


直線上に伸びた白熱の息吹は大盾に直撃する。

盾からは白い煙が上がり、持つ手には人が耐えられる熱量を超えた負担がかかる。

襲いかかる閃光に大盾は悲鳴を上げ、軋んでいた。

数秒抵抗した後、あっさりと防御魔法は弾け飛んだ。


しかし、大盾の【忍耐】スキルだけはこれまでにない程高まり、ダンテの防御力を底上げする。

両腕は既にボロボロで腕を持ち上げていられるのは奇跡と言っても過言ではない。

歯を食いしばり、何とか耐えている…が、ジワジワと後退していくダンテ。


あと1秒もあれば白熱した閃光はダンテの大盾を喰い破り、身体を貫通してソウマを襲っていたはずだ。


その前に後方にいたイルナから暴風矢弾の援護射撃が放たれた。

竜鳥はまともに喰らい、光線による攻撃は中断させられた。


空中で暴風により錐揉みさせられ、螺旋刃に斬り刻まれた。

風耐性もあるため効果時間も威力もリガインの時と比べて弱かったが…ドドォーンと地響きが鳴り、竜鳥が落ちてきた。




光線による攻撃は一瞬だったのだが、長い時間に感じられた。


事実大盾からは白煙が上がり、貫通の一歩手前まで大きな穴が開いていた。


ダンテの手は炭化してないことが不思議なほどの火傷で覆われており、手甲までもが白熱していた。

顔色は青白さを通りこし、真っ白に近い。


それでも手には大盾を構えており、離していない。


「いけ…ソウマ」


声にならない声を上げ、残った片手で力なくソウマの背中を叩いた。


ソウマは頷き、アイテムボックスからハイポーションをダンテの両手に振りかけた。

そしてダンテの片手槍を掴み、2段ジャンプして竜鳥目掛けて全力で放り投げた。


片手槍は流星の如くスピードで赤い魔力光の残像を放ち、武技【小鬼痛打ゴブリンヒット】のスキルを充分に発動させた。


未だ横たわり苦しんでいる竜鳥の胴体に深く突き刺さる。

思念操作を酷使してSPとHPを消費して恐らく最後の【巨人の腕】を形成。


発動した巨腕を操作して思いっきり殴りつけ、ソウマは竜鳥の残った片脚を砕く。

大量の血液が噴き出してソウマへと降りかかる。


大絶叫と共に竜鳥の目より光を失い、だらんと横たわった。


倦怠感で何も考えられない。

それでも何とか巨人の腕を再度構築して、竜鳥の顔へと最後の一撃を放った。



莫大な轟音が周囲に響き渡り、ようやく長い長い一戦が終わりを告げた。


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