リガインとの決戦
読んで下さっている皆様、いつも有難う御座います。11月の活動報告にて書かせて頂きましたが、ムチウチの症状が酷くリハビリ中です。
書くペースも大分落ちますが、なるべく早く仕上げられるように頑張りたいと思います。
再度、いつも読んで頂いて本当に有難う御座います。
最後のチームが下へと降りてきた。
突然相手側の仲間の1人が何かを宣言したと思ったら…仲間であると思われる仮面の男を殺害して帰っていった。
謎の行動をする人物。あの人はここに一体何しに来たんだ??
敵対する意思がないのなら放置しても構わないだろうと判断する。
今は考えても分からないからな。
取り敢えず、まずは残る敵を殲滅するだけだ。
ソウマは周りを観察すると、珍しくマックスは攻めあぐねている感じだった。
配下の黒尽くめの男は倒したようだが、もう1人いた男はどうやら魔力障壁を張れる程上位の無属性魔法の使い手のようだ。
マックスが魔法で攻めようが武器で攻めようが、自身の魔力障壁が壊れる絶妙なタイミングで再度魔法を使い、隙なく一定の防御を貫いていた。
魔力に関しては天才的な腕前を持つマックスにも扱いは負けていない。
緻密な魔力コントロールが際立っていた。
その為、千日手のように決着が付かず、膠着状態が続いていた。
魔力切れを待とうにも、相手も魔力回復ポーションをそれなりに用意してあるようで、時折ポーチから取り出して飲んでいる。
苦笑いをしながら、マックスはどう攻めようか考えていた。
「そこの氷魔法使いクン、このままだとお互い睨み合いだけだよね?良かったら提案を聞いてくれないかい?」
魔力障壁を張っている男から声を掛けてきた。
「何だ?言ってみろよ」
面白い事を言う奴だと思い、聞いてみた。
「簡単なことだよ。私をこのまま見逃してくれないかな?
もうこの依頼に関わる義理はないからね。そろそろ早く逃げたいんだ」
如何にも私は嫌々参加したんですと言わんばかりのセリフだ。
「ハン、そっちから仕掛けておいて結構な言い草じゃないか?…勿論、答えはNOだ」
返答と同時に、複数の氷魔法【氷槍】を詠唱待機状態にさせておく。
「やれやれ、却下かい。君は分かってくれるような気がしたんだけどねぇ…なら、時間も無さそうだし、氷魔法使いクンを殺してさっさと逃げようか」
そう言い合い、戦闘モードに入った2人はぶつかりあった。
他にも仲間の方を見ると、ダンテが相手側の槍使いを倒したものの、浅くない火傷を負っていた。
その場に崩れ落ちたがすぐにコウランが回復魔法をかけて貰っている姿が見えたので、一先ず安心した。
ダンテは回復後、コウランを守るためにその場に待機していた。
回復役であるコウランは自分達の生命線であるため、狙われたら堪らない。
契約の魔物であるフレイと共にそのままの場所で警戒して、戦闘態勢を維持して貰おう。
さて、降りてきた新手も腕が立ちそうな両手剣の剣術士に、眼鏡を掛けた男の子にクロスボウを持つ女の子。
今の所は階段付近で此方の方をまだ様子見ている。
それらの事を素早く判断したソウマは、目の前の女魔術師を見た。
護火障壁を展開していた。それに新たに詠唱を開始しようとしている。
ソウマは厄介な女魔術師を片付ける…と決めた。
その時、何か小さな物体が翅をはためかせ此方に飛んできた。
側に近寄ってきた存在が信じられず、良く目を凝らす。
まるで昔、子供の時に見た絵本の中にいた妖精のような…モノが見えた。
しかも両手をぶんぶんと振り上げながら飛んでくる。
非現実的な現象に呆気にとられてしまい、思わず凝視してしまった。
ある程度の距離まで接近すると、何か声のような音が頭に聞こえてきた。
(此方の声が聞こえるかな?敵対する意思は無い。敵意が無い証拠にその魔術師を無効化しよう)
ソプラノの美しい口調で頭に直接響く。
誰だ?と思いながら辺りを様子観察しながら警戒する。
此方が攻撃してこない事を確認した妖精は可愛らしくニッコリと笑い、女魔術師の方へと向く。
すると聞き取れない言語を呟き始めた。
良く聞こえないが、暫くすると空中や地面に召喚魔法陣が出現する。
短い詠唱のもと、魔術師を囲む障壁のような結界が形成された。
かなり綿密な魔力が練り込まれた魔法陣は美しい。
魔法陣からは光を纏った小さな人型達が召喚されて、次々と唄を歌う。
突然始まった素晴らしく透明感のある声で奏でる調和
音楽のような美しい調べに女魔術師も唱えていた詠唱を忘れ、非現実的な美しい光景に見惚れていた。
(妖精協力魔法 静寂の調)
脳裏にそう聴こえたかと思うと、女魔術師の空間から一切の音が消えた。
半透明な空間に閉じ込められた女魔術師は必死な表情で半透明な壁を叩いている。
対象者の魔力を通さず、また阻害させる結界のような役割の力場を発生させていた。
魔法を扱う者には魔力を封じられ、自身の物理攻撃力しか突破方法のない通称魔術師殺しと言われるレオンの切り札2つ目だ。
光の妖精達の乱舞。
初めて見た幻想的な光景にソウマも見惚れてしまった。
知る由も無かったが、妖精と契約した者でも使い手が限られる妖精言語を使った妖精協力魔法である。
(ふぅ…此れで信じて貰えるだろうか?すまないが此方からは僕の声しか届けられない。
僕の名前はレオンと言う。君から見てクロスボウを構えた女の子の隣にはいるのが僕)
確かにクロスボウを構えた、ポニーテールの髪型の女の子がいた。
その隣に髪の長く眼鏡を掛けた女とも男とも見える…中性的な顔立ちで不思議な魅力を放つ者がいた。
確認したソウマは頷き、話を進めてもらう。
(この魔法も妖精魔法の1つで、妖精に声を直接届けて貰ってる。
僕達は別の目的があって此処に来たんだ。無関係の君とは敵対したくないし…)
思念で届く声に、どこか思い詰めたような必死差を受ける。
(あの男って誰なんだ?)
と…考えていると、両手剣を構えた細身の男がいた。
明らかに相手側にとって劣勢であるこの状況化で落ち着いている。
鋭い眼光が見た者を萎縮させるような…重々しい威圧感を放っている。
視線で金縛りをさせる事が出来るんじゃないか?と、錯覚をさせるほどプレッシャーが半端では無い。
ただ、直ぐにわかる事はあの男は…ヤバイ!
レオンからの連絡も入る。
(あの両手剣を持った男がリガイン。奴は普通の人間じゃない。
兎に角、討伐対象である君は狙われる筈だから何とか逃…)
レオンとの会話中に突然本能的が警報を鳴らし、危険を察知した。
瞬時に戦闘態勢に移行し身構える。
すると、此方を見つめていたリガインと言う名の男と眼が合う。
威圧する眼光がソウマを試すかのように貫く。
若干のプレッシャーを感じたものの、ソウマは臆する事なく見返した。リガインがニヤッと嗤う。
「高額賞金首でも高を括っていた。どうせ大したことはないだろうと残念に思っていたのに…なかなか如何してプレッシャーを感じる。
見掛けは細身でそこまで強そうでもないのに…例えるなら鳥の卵を割ったら出てきたのは竜だったと…思い知らされた感じだ。
此れほど迄の胸の高鳴りは久しぶりだ」
リガインが竜皮で作られた鞘から血竜剣を抜き、禍々しい雰囲気の赤黒い剣身が妖しく光る両手剣が姿を現した。
「久しぶりに本気を出せそうだ。楽しませてくれよ?」
これ以上相手側の増援は無さそうだし…即座に念話にてレガリアに連絡をとり、契約の指輪に送還する。
直ぐに再召喚を命じ、契約の指輪からレガリアが修羅鬼状態で現れた。
「御主人様、ご命令を」
「急な呼び出しですまない。あっちにいるマックスと協力して敵を倒して欲しい」
手短かに伝える。折角なので、そっとレガリアのアイテムボックスに着装スキル付きの槍の残骸と上位炎鬼の魂魄結晶をいれて、吸収するように伝えた。
静かに取り出した拳ほどの魂魄結晶と竜核を齧り、咀嚼したレガリアは本体に大幅な全ステータスアップとスキル【雷撃(小)】、【亜竜の外皮】を習得した。
急激なレベルアップにレガリアも満足そうな表情だった。
そんな中、久しぶりにナレーションが聞こえた。
【使役している魔獣がサザン火山フィールド・迷宮BOSSの両方をクリアし、魂魄結晶を吸収しました。
宝箱・希少種である個体名レガリアにレアスキルボーナス【蒼炎】が付与されます】
着装スキルが手に入らなかったのは非常に残念だったが、恐らく竜核の槍から入手出来たであろう亜竜の外皮や雷撃(小)は有り難かった。
【蒼炎】は炎の上位属性で、蒼く煌めく炎を操ることが出来る。
此の世界の住人達は魔力と呼ばれる不可思議な力を用いる事が出来る。
しかし、外部に方向性を持たせた事象を起こせる魔法使いは世界を探しても数少ない貴重な存在だ。
更に特別な炎である蒼炎を扱える者は少ないと思われる。
余程火属性に精通した魔法使いで無ければその存在すら気付かない筈だ。
緑と水の環境が整い、潜在的に水属性と土属性の使い手が多いこの王国では、もしかしたら扱える者は居ないかも知れない。
レガリアが習得出来たのは、きっと炎鬼系と焔系の結晶が統合された産物だろうと思われる。
蒼炎スキルに関しては他にも情報があり、本体であるレガリア以外の擬態スキルにも発現し、発動が可能である。
これで可能性が高まり、様々なバリエーションが試せるはず。
元々持ち合わせていた炎属性とは別に、今回習得した【蒼炎】の相乗効果で、ソウマとレガリアの攻撃力は更にアップするだろう。
只ならぬ気配を放っている存在を気にしながらも修羅鬼形態のレガリアは命令を受諾し、マックスのいる方向へと駆け出した。
これでもう彼方は心配いらないはずだ。
わざわざ待っていたかのように、離れている場所から此方に向かってくるリガインがいた。
静かに和弓を構え、リガイン目掛けて速射する。
風を切り裂くような音を鳴らしながら放たれた矢は、紫に輝く鎧に当たる。
しかし、金属板を貫く事は出来ず…派手な音を立てて次々とその場に落ちていく。
何本かは撃ち落とされるが、その飛来するスピードの速さは異常でリガインの動体視力を超えていた。
その為、長年の感と経験にて自身の急所にあたる矢だけを選別して落としていた。
殺し甲斐のある獲物の出現に歓喜に震えるながらも、そんな事をおくびにも出さず、
「こんなに威力のある矢は初めてだ。いいぞ、俺をもっと悦ばせてくれ」
そう言って、血竜剣を振りかぶる。何やらオーラ状のモノが両手剣を纏っていく。
「ハッ」
そのまま勢いを込めて振り下ろした一撃は地面を抉り、衝撃波がソウマを襲う。
進行方向へと向かっていた矢は衝撃波に阻まれ、ぶつかった矢は粉々に吹き飛ぶ。
凄まじいスピードと破壊力を伴う衝撃波に対し、見切りと体術を発動させ回避行動をとる。
難なく躱し、再び矢を射ち始めた。
「ふむ…反応も素晴らしい。宜しい、此れならどうかな?」
突如、リガインは血竜剣を正眼に構えると1度瞼を閉じて再度開く。
すると眼球が緑色に輝き、痣のようなモノが瞳に写っていた。
ソウマは知らなかったが、これは瞳に加護を宿した者特有の証明である。
両眼は闇属性の加護と風の属性加護を帯び、両者を複合した珍しい加護の印であった。
加護が発現したキッカケは、とある組織にリガインが勧誘されて所属した際に受けた儀式が影響している。
闇鍛治師ゼファーを殺害したリガインは、国から指名手配され潜伏していた。
様々な各地を渡り歩き、遂にとある国へと辿り着いた。
この国には獣人やエルフと言った亜人種を根絶させようと画策する人間至上主義の国である。
その中でも濃縮した闇を固めたような塊。暗部と呼ばれる組織があった。
何処からか噂を聞き付けていた暗部に勧誘され所属したリガインは、徒党を組んで当時敵対していた組織を全て潰してしまった。
その功績と実績を持って、幹部として迎えられた。
更なる力を望んだリガインは、当時幹部級しか受けられない特殊な闇の儀式に参加する。
貴重な加護を持つ司祭が担当し、超常的な存在を召喚させる。
この儀式にはリスクが伴う。まずは大量の供物である生贄。
それと、儀式の依り代になった者が気に入らなければ呼び出した存在に殺される事も少ないないという事である。
依り代としてリガイン自身が志願し、奉納物に血竜剣を捧げた。
強さの限界を感じていた当時、目の前にはより強くなれるチャンスがある。
この程度の試練に打ち負けるようではどの道自分は死ぬ事になるだろうと思っていた。
例え死ぬ事になっても後悔などない。
この召喚の儀により大量の魔物や人間の生贄を捧げた結果、限定された空間に上位存在が顕現した。
『我を喚び出した者よ。跪け』
遥か高みから掛けてくる重圧に、憧れと畏怖を持った。ボンヤリと影だけが見えるが、鳥のような大きな翼が見えた。
いずれ自分もその高みへ登ってみさる。
どうやら直ぐに殺されることはないようだ。値踏みしたかのような視線の力を感じたが、すぐに両眼が熱くなってきた。
奉納した血竜剣ゼファーが誓約の証として選ばれ、邪悪なハイレア級へと生まれ変わった。
『脆弱な者よ。喜ぶがいい。試練を与える』
そう言うや否や、依り代のリガインは眼球に上位存在の一部分を刻みつけられた。
自身を襲う絶え間ない激痛とリガインと言う存在を奪いとろうとする意思とがせめぎ合った。
3日3晩も続いた一瞬も気を抜けない試練に何とか打ち勝ち、授かった加護である。
『契約は交わされた。ならば我に一千体の生贄を捧げよ』
この声が聞こえ、目を覚ましたリガインは両眼が光り輝いていた。
渦巻く力が身体から溢れ出す。何より、加護の効果を試したい凶悪な衝動に駆られる。
以前よりも強大な力に振り回させる事なく、儀式に参加した組織を皆殺しにすることにした。
振り抜いた刃はその場にいた者達の命を刈り取っていく。
恐怖する元仲間や、必死に立ち向かう者、命乞いをする者も構わず殺し、僅かな時間で50人もの人間の生命を奪った。
武技【飢牙】を通して血竜剣に吸収していく様を恍惚の表情を浮かべて嗤っていた。
既にもうリガインに巣食っていた闇が、狂わせてきていたのかも知れない。
この加護から分かることは、闇の儀式から顕現した存在は翼を持ち、闇と風を司る上位存在と思われる何か。
この存在はリガインなど使い捨ての駒だと思っており、血竜剣に刻まれた契約が果たされない場合は加護が呪印に変わる仕組みとなっていた。
この加護と武具を使いこなし、次第に死に風と呼ばれるほど物騒な渾名を付けられた。
加護の補正としてリガインの身体に闇風による随時防御結界(物理ダメージ軽減(小))と、腕力強化。
風の魔法耐性(小)を兼ね備えたシンプルな加護だ。
その加護に闘氣術と併用して練り上げられていく気が収縮し、爆発的に身体能力が高まったリガインが跳躍してきた。
闘気術により全ステータス(中)ないし(上)の上昇が見込める。
「少年、君を殺せば丁度この血竜剣に捧げる生贄は、人種と魔獣類を合わせてようやく一千体目になる。光栄に思いたまえ」
言いながら、無駄のない動きで血竜剣を振るう。
ソウマは見切りを発動させ、1つ1つ確実に対処して躱す。
攻撃の際に出る風圧や風を斬る音から、当たれば結構な攻撃力が予測される。
ソウマの着込んでいる良鉄の金属鎧に当たれば、簡単に叩き切られるだろう。
しかし、それは当たれば…である。
ソウマとて2年間みっちり、サンダルフォンとの戦闘修練・スキルについて研鑽した経験・技術は伊達ではない。
また、この迷宮洞窟のBOSSである上位炎鬼ですら倒せるソウマにとってすら、リガインの強化された攻撃は瞠目に値する。
魔法耐性が高い一流の剣術士。それは誰もが理想とし、憧れる一握りの存在に違いない。
などと、取り留めのない事を考えてしまう思考を頭の隅へと追いやる。
何度目かのリガインの攻撃を躱した所で弓をしまい、鬼の大鉈をアイテムボックスから取り出す。ソウマの両手には瞬時に大鉈が握られた。
巨大な両手剣の血竜剣ゼファーと、此方も大型の両手剣の大鉈とが火花を散らし合い、轟音を奏でてぶつかり合う。
接近戦になると、闇風の風圧が視界確保の邪魔や行動の阻害をしてくる。
真剣な戦闘では致命的な隙に繋がるが、身に染み付いた体術スキルで補い、見切りスキルがそれをカバーしてくれた。
何合が打ち合う度に力比べとなる。押し切られる事は無いが…充分に力を込めたお互いの剣は拮抗している。
しかし、此方の装備は打ち合う毎に大鉈が悲鳴を上げるような嫌な音が響いていた。
それでも体術を駆使し、強弱をもってリガインの体勢を崩させる。
僅かに崩れた隙に距離をとり、自身に身体能力強化魔法を掛ける。
「何者だね少年?私がここまで手こずる相手など今まで誰もいなかった」
その問いには答えず、再度無言のまま大鉈を振るった。
リガインは加護の力をも使い、自身の魔力を大幅に上乗せした最速の一撃を以って打ち払わんと振るう。
ソウマは最速の袈裟斬りを限界まで見切り、体術で最小限の動きで寸前まで迫る血竜剣を引き寄せた。
無茶な動きに鎧が悲鳴を上げ、軋む音が聞こえるが無視し、そのまま懐へと一歩踏み込む。
あの一撃を避けて尚も前に出て来るとは…。
爆発的に踏み込んだ一歩から繰り出される大鉈の攻撃に回避が間に合わないと悟り、リガインは身体防御へと闘気を纏わせる。
大鉈を左脚を覆う金属板鎧を目掛けて強烈な一撃を叩き込んだ。
加護の闇風の結界が抵抗してくるも、その防御を突き破る。
ガッ、ガリッガリッ…金属が抵抗する音がした。
大腿部を覆うレッグガードは金属板鎧程の硬さでは無かったが、充分な逸品らしい。
また闘気術で筋肉を締めで、底上げされた防御力が火花と共に大鉈を侵入を食い止めていた。
サッと引き抜く。よく見たら此方の大鉈が微かに欠けていた。打ち合いもしたけど…どれだけ硬いんだよ。
驚いていたら、頭上に攻撃の気配を感じる。
見切りを用いて2歩後方に下がると前髪が揺れ、赤黒い巨大な両手剣が側を通り過ぎていった。
カウンター気味に武技【旋風撃】を発動して追撃を図る。
吹き荒れる風刃はリガインの鎧に直撃するも、周りの闇風の結界に威力の殆どをかき消された。
同じ風属性で相性が悪かったかも知れない。
威力が減退された一撃は衝撃も少ないようで傷一つも付いていない。
再び斬り結びながら、リガインの武具を観察する。薄っすらと説明文が浮かび上がる。
血竜剣ゼファー ハイレア級
闇鍛治師ゼファーが打った未完成の試作品。
依頼者の更なる力を望む要望に応え、常人では扱えない程の術式が練り込まれている。
竜素材と竜血を媒介したことにより、絶大な攻撃力を誇る逸品となった。その為、武技【術式 飢牙】は常時発動型である。
闇の儀式により、上位存在からの契約と祝福を受けた血竜剣にスキルが追加され、ハイレア級の武器へと生まれ変わった。
一千体の生贄を捧げる事で発動するスキル【呪縛せし魂】。
装備者を媒体し、契約した上位の存在の眷属へと進化させる。
度重なる狂気を受け、呪われた武器へと変貌した。竜耐性特攻。
常時発動型武技【飢牙】
発動スキル【闇術式 呪縛せし魂 カウント999】
反逆せし金属板鎧 レア級
闇鍛治師ゼファーの想いが込められた作品。
妖精郷でしか採掘出来ない魔法金属ランバード鋼を主体に竜素材と竜血で魔法的処置を施された逸品。
完成された鎧に竜血を媒介し、一枚一枚の板を鎧に丁寧に縫い付けてある。
発動スキル【全魔法ダメージ軽減(中)】
武器はやはりハイレア級!
魔眼で魔力の流れを見ると、複雑に絡み合った綿密な術式は眩しいくらいに光り輝いている。
改めてこんな術式は組み込んだゼファーという鍛治師の腕前や、発想に瞠目した。
鎧はレア級だが竜の素材と聞きなれないランバード鋼と呼ばれる魔法金属。
スキルから判断するに魔法耐性も高く、大鉈の風刃が余り効いていない事にも納得。道理で堅い訳だ。
しかも血竜剣には突っ込み所が多いほど複雑な曰くがあるな…特に呪われてるし。
また、不気味な名前の武技スキルを保持している。【闇術式 呪縛せし魂 】に関してはカナリ嫌な予感しかしない。
強敵と相対したこんな時、流星刀レプリカや流星弓、愛用している防具があれば…と痛感する。
無い物をねだっても仕方ないし、その為の武具作りなんだと言い聞かせる。
この異世界にくる前の自分だったら、現在のリガインのような強敵相手など善戦は出来ただろうが、高い確率で殺されていたかも知れない。
上位炎鬼にも以前のままではソロでは力及ばず、そもそも挑もうとも思わなかったかも知れない。
巨人魔法【巨人の腕】の取得の際の極限までに高められたステータスの恩恵は、魔法を覚えられなくなったリスクを抜かしても…感謝しても仕切れない。幸運な方なんだと思う。
折角のこのステータスと技能スキルを使いこなせるように、更に修行をしなければならない。
サンダルフォンの教えと、簡単に死ぬなと言われた以上、鍛え続けて生き残らなければ…と、強く思った。
一流の戦士であるリガインと戦うことで、慣れない両手剣の剣技が研ぎ澄まされてきた。
こんな時、剣技補正が自分にあって助かったと感じる。
少しずつ無駄の少ない動きで扱えるようになってきたと思える。
この先、装備補正が無い装備を付けて戦うこともあるだろう。
この戦いで学べることは多くあるはずだ。
戦闘中に気配察知に反応がある。
此方に近寄ってくる所を見ると、レオン達の可能性が高い。
突如、リガインの頭上に風が集まり出し、大きな渦の塊となって降ってきた。風魔法中位 風圧槌である。
500㎏程の圧力が身体に掛かり、渦巻く風塊が強制的にのしかかる。
普通の者ならば装備ごと圧死する程の力が込められている。
闇風を展開しているリガインに重圧がかかり一瞬動きが止まったが、元々風属性には強い装備と加護である。掛け声と共に抵抗し、血竜剣が上空で煌き、風圧槌自体を斬り裂いた。
「リガイン、待て。僕達が先に相手をして貰う」
中性的な声で呼び止めたのはレオンである。
声をした方向を向くリガインだったが、レオン達を確認すると興味がなさそうに
「味方に対して何のつもりかな?千体目の生贄はソウマに決めたのだ。見逃してやる。関係無い者は引っ込んでろ」
静止を求める声を掛けるが、それを聞いたレオンとイルナは逆に怒髪天をつく表情に変わった。
「関係ない?だって…」
「その言葉、取り消して!!」
イルナは叫ぶとクロスボウを構えた姿勢で、凄まじいスピードで金属矢を発射した。
それを難なく両手剣で振り払い、バガァァンと、けたたましい音を立てて落ちる。
「大方この剣の生贄になった身内だろうが…いちいち覚えてなどいない。見逃してやると言ったのに死にたがりめ、いいだろう。纏めて葬ってやる」
鬱陶しそうに話すリガイン。
人は怒りの頂点を越すと、逆にこんなにも凍てつくような…人を人として見てはいけない目線を放てるようになるのだろう。
レオンやイルナの脳裏に浮かぶのは故郷で対面した無残な遺体の数々。その中でも原型も止めない程、執拗に切り刻みこまれた死体。
その中には2人の両親も含まれいた。
事件当時、レオンとイルナとで森で遊んだ後に帰ってくると、郷全体に煙が上がっていた。
嫌な予感がして慌てて駆け寄ると、既に郷では酷い死臭が漂っており、周りは焼けた跡が見られた。
自分達の家は半壊していた。
呆然と立ち尽くした2人はまだ建物が無事だった場所を発見して慌てて中に入ると、中年の男女2人倒れていた。
近所で仲良くしてくれたおばさんとおじさんである。
背後から一太刀斬り付けられた格好で、おじさんと一緒に手を繋いで倒れていた。
いくら叫んでも呼びかけても返答もなく、冷たくなった2人の身体が既に亡くなったのだと物語る。
このように郷の至る所で、斬り裂かれた遺体と戦いの傷跡が見られた。
道端で見知った幼馴染みの男の子が血だらけで倒れている所を見つけた。
いつも一緒に遊んでおり、この日も森へと出掛ける予定だったが、妹が熱を出して看病するからと、家で看病していたのだ。
事あれば、レオンとイルナの事を揶揄う幼馴染みの男の子だった。
少年の両腕にはいつも可愛がっていた妹が包まれており…虚ろな目と冷たくなった身体。必死に呼び掛けても、動かしても動かない。
少年の周りに大量の血だまりが出来ていた。
兄妹の頬に涙のあとが見える。
兄はどうしても凶刃から妹を守りたくて最期まで庇ったのだろう…。
他にも、郷を護るため、家族を守るためにリガインを食い止めようとした大人達。
誰もが親しい人達を護るために立ち向かい、倒れていた。
生き残った大人や子供から兄ゼファーの死と数多くの村人が惨殺された事を知る。
しかもリガインは怪我を負いながらも、事もあろうにゼファーの作った竜鎧を強奪して逃走して行った事を明かした。
事情を聞いた時、レオンは絶望や怒りによるショックの余り、何が自分の中で壊れたような音が聴こえた。
当時を思い出しながら、冷たく響く口調でレオンが呟く。
「…黙れよ。アレだけの事をした貴様に罪を改める機会を求めたのがいけなかった」
レオンがそう言い放つ。
契約の加護により体内の奥底から風の魔力が解き放たれる。
レオンには遍く風を司る存在【シルフの女王】の加護が眠っている。
強大な力故、普段は封印状態だが、今回は全開させる。
全身に風の強属性補正効果を持つ魔力風を張り巡らせた。
加護を解放したレオンが風魔法を使えば、その効果は何倍にも威力が増幅される。
身に纏う魔力風には防御補正もある。攻防一体の加護の力は強力だが、代償による魔力消費も激しいため時間制限も限られている。急ぐ必要があった。
溢れ出る魔力の風が髪を棚引かせ、美しい翡翠色のクロークをはためかせた。
腕力強化・脚力強化・思考速度・反応強化…順々に魔法で更に身体能力を極限までアップさせる。
これで近接戦になるも引けを取らない筈だ。
リガインとレオンの戦闘が始まった。
体力は少ないが、反射神経は高いイルナはこの日の為に血の滲むような訓練を己に課し、レオンのサポート、援護をこなす為に弓士系職業を選んだ。
そして速射こそは出来ないが、特別な素材で出来たクロスボウは1撃の威力に秀でる。それは中途半端な威力ではリガインを止められないと踏んだ少女の選択であった。
郷の施設を使い、技術を結集させ特別な製法で作られた矢は、着弾と同時に発動する魔法が込められている。
その魔法の名は 暴風の嘶き。
吹き荒れる爆風のように立ちはだかるモノ全てを粉砕する威力を持つ。
風属性でも扱いが極めて難しく、殲滅用の風属性上位魔法である。
その魔法をレオンの加護の力で何倍にも高め、封じ込められた特製の矢は合計で3本。
暴風矢弾と名付けられた。
矢弾は全て使い捨てになるが、現代では作成することが難しく、高価な素材をふんだんに使ったこの矢は間違いなく最高の品であった。
盗まれた竜鎧である金属板鎧は、ゼファーの作品の中でもかなり上位の防具品だ。
一流の装備と戦士。打ち破るには失敗は許されない。
自分を追い込み、イルナは確実に当てる為に集中力を高めていく。
金属矢から暴風矢弾にセットし直す。ひたすら隙を狙い、一矢報いんと機会を待ち続けている。
もしかしたら今日レオンが殺されるかも知れない…その思いを必死に押し殺し、唇を噛みしめながら。
急遽参戦してきたレオンとイルナをソウマなりに分析していた。
レオンは装備品から見てどうやら魔法系職業だと言うことが判断出来る。しかし、武器らしい武器を持っていない。
杖さえもなく、両指に嵌めてあるエメラルドグリーンの大きな粒の美麗な指輪だけがその存在感をアピールしている。
突如身体から風が吹き荒れ、まるでレオンの身を守るように周囲に存在している。何かの風魔法なのだろうか?
逆にイルナは弓系職業であの大きなクロスボウを見るに、特化職である狙撃手か特殊弓を使いこなすストライダーやレンジャーなどの職業に就いていると感じた。
ソウマの元へまた妖精が近付き、肩に止まった。脳裏にレオンの声が響く。
(勝手なお願いだけど、聞いて欲しい。リガインをあそこまで追い詰める君の力を貸して欲しい。どうか僕達を助けて欲しいんだ。
僕達は出会った以上逃げるわけには行かない。例え、死ぬことになってもね。
もし力を貸すことが難しいなら…せめてイルナだけでも助けてくれないかな)
ソウマは既に戦闘に入ったレオンを見た。
お互いに加護を持つ高い実力の両者。
焦る気持ちを落ち着かせ、レオンは高速で動く血竜剣の攻撃を躱しながら、短い魔法詠唱をして立て続けに低位の風魔法 風弾を複数撃ち続けていく。
何倍にも高めた風魔法はリガインの闇風の防御を突破して鎧に届く。
しかし、ダメージは微量。
気にも止めず、乱発する風魔法に対して当たるも構わないまま、攻撃を続行していく。
今の所この戦いはリガインの方が優先だと感じる。
レオンは決定的な1撃に欠ける…それがわかっているリガインは余裕にしているようだ。
加護の力自体はレオンの方が強力だと思える。
実際にレオンは戦い方次第でもあるが、加護を解放した今ならこの迷宮洞窟のBOSSすら圧倒出来る実力を兼ね備えている。
しかし、どんなに素晴らしい魔法でもSPが無ければ魔法使いには打つ手がない。
対魔法使い戦に慣れているリガインはレオンの事を脅威を感じていたが、必要以上に警戒はしていなかった。
そのような一撃必殺とも言える魔法詠唱をもさせず、徐々に追い詰めていこうと画策していた。
妖精は心配そうにソウマを見ていた。
人差し指で優しく頭を撫でる。
僅かに欠けた大鉈を装備して、あの嵐のような攻撃が渦巻く両者の戦闘へと入っていった。
身体能力の差を強化魔法と持ち前の風魔法にて防ぎ、反撃していたが、時間が経てば経つほどに勝機を見出せずにいた。
(くっ…やはり、まだ実力に此れ程に差があったのか。
せめてもう少し時間を稼いで強力な魔法を詠唱出来れば…)
万が一は僕が殺されそうになっても助けに来ないでくれ。
寧ろ、その隙を狙ってあの矢弾で僕ごと纏めて葬ってくれ。
と、イルナには頼んであった。
レオンとて此れまで厳しい訓練と迷宮での激戦を潜り抜け、実力を高めて来ているのだ。
特に数々の試練を乗り越え、半壊した郷で特殊なアイテムを媒介して儀式を行い【シルフの女王】の加護を承った。
加護を得たことで専用の風魔法と妖精魔法を与えられたレオン。
幾つかあるがどれも強力な魔法ばかりだ。
その内の1つは風属性の魔法 風大楯。
風魔法低位である風盾よりも詠唱時間も短く、より強固でカバー範囲も大きい。物理攻撃や、他に属性に関係なく中位魔法程なら弾く程の防御性能を誇る。
レオンが愛用している防御魔法の1つである。
衝撃波が身体に直撃する寸前で、風大楯の詠唱が完成してぶち当たる。
先程から同じ事の繰り返しである。
わざと反応出来る限界を見極められ、レオンは踊らされているかのような錯覚を受けていた。
いつでも殺せると言外に伝えているようなモノで、手加減している事が丸分かりなのだ。
自身より更に強い相手と戦う事は初めてであるが故、打開策が見つからない。
予想通り、リガインは言い放つ。
「ふむ、其れなりに身体は温まった。一千体目の生贄はソウマと決めている。殺さないで上げるから感謝してくれ。
だが、死んでもらって生贄となっては困るから、死なないように手足を纏めて切断して転がしておいてやろう」
そう宣言したリガインは手加減を解き、一気に片を付けるつもりである。
闘気術を全開にして、爆発的に高まった身体能力を活かして突っ込んで来た。
直ぐに詠唱可能な魔法で応戦するも、迫る速度はそうは変わらない。
(速い、ぐっ…風大楯は間に合わないか!)
振り抜かれた血竜剣を紙一重の差で必死に躱していく。
下段からの攻撃を躱した際にバランスを崩して、遂に躱しきれない一撃が左前腕を浅く切り裂いた。
一瞬の痛みで動きが鈍くなった所を狙い、今度は袈裟斬りで魔力風の結界を削りながら右大腿部に深い裂傷を追う。
傷口から鮮血が激しく舞った。
激しく続く疼痛で集中も出来ず、風大楯の詠唱も中断。
風の結界のおかげで血竜剣の攻撃は充分に通らず、腕と足は切断されずに何とか繋がっている。
しかし、切られた右大腿部からは主要な筋肉群を切断されて充分な力が入らない。
その為立っていることも困難で、大きく体勢を崩して地面に倒れこんだ。
著しいダメージに加護の効力も体内から消え去り、覆っていた魔力風の結界もかき消える。
直後、腹部に衝撃が走る。身体が後ろへ吹っ飛び壁に叩きつけられた。
呻き声と血を吐く。
内臓へのダメージも大きく、どうやら蹴られたのだと気付いた。
頭部からも出血し、意識は朦朧としてきたが、せめてリガインがいるであろう場所を睨みつける。
リガインはつまらなさそうに近付き、上段から稲妻の如く速度で剣を振り下ろした。
硬く目を閉じたレオンだったが…何時まで経っても斬られる痛みはない。
恐る恐る薄っすらと眼を開くと、目の前には大鉈をソウマがいて、血竜剣を止めてくれていた。
「いやいや、それは待ってくれ。自分が先約だろう?」
ソウマがレオンとの間に割って入り、戦技【強斬】を放ちリガインを押し返した。
ボンヤリとしていたレオンだったが、いつの間にか妖精レヴィが必死に回復薬の入ったポーションの瓶を傷口にかけていた。
「助けるのが遅くなってすまない」
そう一言掛けられたレオンは、ようやく戦闘中にありがとう…と、安堵の笑みを浮かべた。




