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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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35/88

男の名はマクスウェル

深夜に男が2人、黙って歩いている。それは今日1日で様々な出来事が起こった結果であった。

幸い、目的であった話の出来る場所のお店は数軒灯りが見えた。

まだ開いていた店を発見し、中へ入った。


店内は木造作りでテーブルが4つ置いてある。

こじんまりとした居酒屋という雰囲気で、20代前半のウェイトレス1人と年嵩の料理人1人が切り盛りしていた。

客は深夜帯なので少ない。席に着くと直ぐに注文を取りに来たウェイトレスに、酒と適当な肴を頼んだ。


髭男の方から口を開く。


「俺の名前はマスクウェル。マックスとでも呼んでくれ」


「分かった。俺はソウマと言う」


「……」


「……」


無言が続く。程なくして酒と肴が来た。お互い注文したモノを口に運ぶ。


辛口な味わいでキリッとした味わいが美味しい酒だ。呑み始めて暫くしたら、ゆっくりと話し始める。


「すまんな…色々と頭の中で整理が追いつかん。少し呑まないと話せない」


「気にしなくていいさ、良く分かる」


「ふん…子供に言われるか」


ソウマの実年齢は32を超えているからな…。

マックスが苦笑しながらグビッと一口で呑み、説明し始めた。


「気付いているかは知らんが、俺とお前さんとはユピテル近郊で会っている」


ユピテル?悩んでいると、


「…いや、流石に髭面の知り合いには覚えはない」


マックスは思案しながら、長くなった髭を撫ぜながら答える。


「そういや、顔はしっかり見せてなかったな。じゃあ、魔物の卵を奪いにきた盗賊団の1人だと言ったら分かるか?」


「…………まさか、あの氷魔法の使い手か?何となく納得はしたが、ユピテルで捕まっている筈のマックスが何故ここにいるんだ?」


不思議がるのも当たり前である。ソウマにこうなった経緯をアイラさんの事も含めて説明した。


ソウマは説明を受けていく内に、当時の荒くれだった感情とは違い、今は不思議と穏やかに聴いていられ、不快な気持ちは無かった。

苦戦はしたが、サンダルフォンとの出会いもあった。過去の話になってしまうと、人はワンクッションを置いて客感的に物事を考えられるからだろうか。



マックスとの戦いを通して、この世界では他人よりもスキルの恩恵や強化されている自分が、負けそうな程に苦戦する。

上から目線では無いが…この世界に来て初めてのことだった。


寧ろ、こんな腕の立つ人間もいるのだと驚いたくらいだ。

改めて氷を使った魔法の数々、プレッシャー…ハッキリと思い出すほどの強者だ。


それと話の内容を聞く限り、俺は手加減されていたのだと分かった。


私も実力がまだまだ足りないな。


世の中不思議な縁だな…と、思い返していると、マックスから逆に質問がきた。



「アイラさん経由で魔物の卵の依頼を受けてみた時、不思議だったんが…お前は一体何者なんだ?普通の人間じゃないよな?」


「…それに関しては説明しづらい質問だ。いたって普通の人間だし、俺は俺以外に何者でもない」


「ハン?…っておいおい、わかんねぇよ。全く…不思議な奴だな」


喋りながら、マックスの腹の中に次々と盛り付けられた料理が消えていく。空いた皿を積み重ねた。

まだ足りなさそうだったので、新しく注文した塩辛い乾燥肉を齧りながら、マックスが苦笑する。



さて、お互い知りたい事も分かったし、もう深夜だ。眠気が生まれ始める。


「知りたい事はわかったか?ならもう解散するかソウマ?…実は俺はもうそろそろ眠い」


その一言で解散することになった。


精算を済まし店を出た。

帰り際、マックスが思い出したように忠告してきた。


「そういやソウマ、お前さん貴族に気をつけておけ…特にこの国の貴族と呼ばれる連中にな」


裏情報として、魔物の卵の件の時に、所有者が現れた際に殺してでも無理矢理入手しようとした貴族がいて、発覚して捕まったそうだ。


ソウマは企てを邪魔をした者として、その貴族と仲が良かった一部の貴族連中から報復対象として認識された。

この世界に例外は除いて上位として君臨、統治するのが王侯貴族である。


それ故、人格形成にも問題がある者も少なくない。

巨大な兵力や権力、金を持つ相手を敵にする事は危険な事である。甘い相手では無い。


気を付けようが無いが、折角の忠告だ。ソウマはマックスに礼を言い、別れた。


宿に帰ると部屋に入り、ベッドに直行する。

ベッドには既にレガリアが待っていた。


御主人様マスター、遅かったのですね」


「待たせたなレガリア。ちょっと野暮用で遅くなった。新しい刀の作成具合はどうだ?」


などと、鍛治場の出来事について聞いて見た。



竜の牙の素材は扱いが難しい素材だ。

大型炉で非常に高温で牙を熱しながら、魔力を込めて打っていくらしいのだが、今日1日鍛えても少ししか装備品としての加工具合が進まなかったとのこと。

悔しい思いが滲みでている口調で教えてくれた。


今回の加工具合とジュゼットの経験から新しい刀の完成予定を判断した所、約一ヶ月ぐらいには出来上がると判断された。



この為、レガリアは迷宮よりも鍛治の腕前を上げてソウマの装備品作りを優先したいとお願いされた。

未熟なままの腕前に不満を感じているし、何よりジュゼットの指導の元、頑張れば頑張る程上がっていく実感が楽しかったらしい。


黙って考えていたら、おずおずとした表情で此方を伺っている。




レガリアに関しては武器を鍛える事もそうだが、現在修羅鬼状態として使える戦技が2つある。


その内の1つはサブ職業である鍛治士から覚えた唯一の鍛治の戦技でもある【魔力打ち】を、次の段階へと進化させたいと望んでいた。


戦技【魔力打ち】は鍛治系職業しか持つことが出来ない戦技とされている。

効果は魔力を込めることで素材の持つ特性を引き出したり、素材を加工しやすいように適した硬度に変えたりする。

また実際に打つことで情報が鉱物系や生物系の様々な素材を扱えるようになる。






昇華出来る程鍛え上げ、素材を打つ以外の情報を5感ないし6感で全てで感じとる。


その技術の大成である戦技をモノに出来る者はごく僅か。

一般的に其処が1流と凡百に別れる境となると言われている。


其れが進化・昇華したモノが戦技【魂真こんしん




レガリアが極めんとする目標は遥か高い。ここにはその極めた先達がおり、教導して貰うには充分な環境が整っている。


ジュゼットに大分無理を言うことになるだろう。しかし…やりたいと思う事を存分にやらせて上げたい。



俺は親から勉強、勉強…と、自分のやりたい事も我慢して、勉強以外してこなかった。社会に出た今、役に立っていることも勿論あるし、感謝もしているが…俺にとって興味の無い勉強は楽しくは無かった。


其れでも頑張れたのは、唯一楽しかった弓道があったからだった。

幼い頃から近くの弓道場に通っていた事もあり、親もこの趣味だけには何も言わなかった。


人生頑張れる目標があると無いでは、その後の楽しみ方も違ってくると思う。


割と人生ままならぬモノだが、その中にも楽しみが有っても良いはず。



レガリアの特異性を考えたら、やはり将来的に俺を軽く超えていくだろう。


産まれて間もないレガリアはすること、見ること聞くことが全て面白く、興味深いのだろう。

鍛治を優先したいと打ち明けられた時、子供に悩みを打ち明けられた嬉しさを伴う感覚と、子供が自分を超えていくかも知れない錯覚を味わえたような気がする。

親の気持ちって…こんな感じなのかも知れないな。


まぁ、正確には親では無いが。まだまだ負ける訳にはいかないから、俺も精進しよう。



心配そうに伺っていたレガリアに、好きなようにして大丈夫だと許可すると、喜びではちきれんばかりの笑顔を見せた。

この表情にドキリとする。ポカーンとしてしたが直ぐに我に返る。彼女の笑顔には無邪気な魅力がある。


明日は冒険者ギルドに呼ばれている。褒賞も受け取らなくては…そんな事を考えながら、眠りに落ちた。






よく晴れた翌朝、ダンテ達と共に冒険者ギルドへ向かった。

既に連絡がきていたのか受付の人が俺達を見つけると直ぐに確認と、奥の間へと通された。


見事な調度品の品々が置いてある応接間の1つなのだろう。

待たされること暫し、出されたお茶を飲みながら寛いでいると、ギルド長であるアシュレイとエステル、それと見知らぬ男が入ってきた。


見知らぬ男は髭を切り、髪を切って整えたマクスウェルである。


「やぁ、お待たせして申し訳ないね」


アシュレイの言葉から始まり、一同挨拶をする。

エステルの隣の人物も紹介される。


彫りの深い顔立ちで強い目力があるが、決してキツイものではなく、どこか優しさを感じられる魅力がある。そして特徴的な白髪。誰が見ても間違いなく良い男である。

簡単なお辞儀をした後、彼の名はマクスウェルと名乗った。


「長い名だからマックスと呼んでくれ」


それとエステルから私の旦那だと告げられると突然の事実に少し落胆するコウランと、驚くソウマとダンテは顔を見合わせた。


「彼にもこの依頼の件について立ち会って貰う。それとこの報告書から一通りの状況は掴めた。この炎鬼の…」


とアシュレイの説明が長々と続いた。結果、迷宮洞窟は沈静化しているが、また活発化するとも限らないので情報収集自体は続けるが危険度は低いと判断された。


労いの言葉のあと、約束した報酬が各々に贈られた。


ソウマはサルバードール遺跡迷宮の立ち入り推薦状(1度のみ)。


コウランは希少価値の高いMP貯蔵のアクセサリー。


ダンテは微力の魔法耐性だが複数の属性耐性を持つアミュレットを手に入れた。


どれもレア級の価値を持つ破格の報酬であると言える。


喜ぶ3人を見ながら、アシュレイがソウマに話しかけた。


「これで話は終わる訳なんだが…ソウマくん、君だけ私の部屋に来てら貰えないかね?」


「構いませんが、長くなりますか?この後迷宮洞窟へ入る予定なのですが」


「ふむ…そう手間は取らせない。少しの時間で良いんだ」


コウランとダンテへと振り返ると


「私達は構わないわよ?ソウマ。道具屋と鍛治場に寄ってるからあとから来てね」


「…まぁ、此方は気にするな。また後でな」


そう言って別れた。そのままギルド長の部屋へと招かれる。


「本当に手間を掛けさせてすまないね。ではサクッと本題に入ろう」


おもむろにギルド長はキッとした表情でソウマを見詰めた。


「ここからは込み入った話になるが、聞いて欲しい。実は今回の依頼を頼んだのは、ギルドで君を監視しどのような人間なのか情報を集めていたんだ」



突然の告白に戸惑うソウマ。アシュレイは構わず、続ける。


「ソウマくん、君は一部の貴族から要注意人物指定を受けていることを知っているかな?」


黙って首を振る。昨日マックスからは何となく聞いていたが…正直情報などない。


ユピテルの街で、魔物の卵を保管してあったレガリアの件を持ち出された。


「君が現れるまでは、魔法生物の卵など存在すらもしなかったんだ。

魔法生物とは錬金術の技術や古代から稀に発見されるゴーレムなどの存在しか、我々は知らなかった。その珍しい魔物の卵を巡って、魔物蒐集家である様々な人種が何とか手に入れようとしていた。

だが、あのユピテルの街にはアイラ・テンペストが存在していて頑なにその卵の守護を続けていた…下手をすれば彼女と敵対行動として見られる恐ろしさから、連中は手が出せなかったんだよ。彼等はさぞ悔しい思いをしていたんだろうね。月日が50年になる頃には殆どの者が諦めたが…諦めきれない貴族が1人いた」


その貴族は貴族派と呼ばれる派閥に属していた。何年経ってもずっと執拗に魔物の卵を狙っていたんだ…と付け加えられた。


その貴族は人間よりも魔物が好きな変わり者の人物でね。珍しい魔物なら何でも手に入れようとした。


ソウマくんに暗殺と卵の奪取を命じて失敗して失脚した後、捜査した彼の屋敷には地下の隠し部屋が発見された。


地下には広大な空間と檻が拵えてあり、多種多様な魔物が飼われていたのだ。


そのコレクションの中にはなんと、非常に希少価値の高い生きた障壁蟻が2匹も含まれていた。


その後、逮捕された貴族の懇願もあり、同じ派閥の仲の良い貴族が発見された障壁蟻を多額で買い取り、王都の自身の邸の元へと護送中だった。しかし、途中で大量の昆虫型魔物と魔獣に襲われ、雇った傭兵と護衛の私兵共々消息を絶った。


大量の魔物により近辺は厳戒態勢を敷いており、現在は解除されたがユピテルから王都へと向かう道は暫くの間、検問が為されていたくらいだ。



「そういった訳で君はこの王国で有力である貴族の一派を失脚させた諜報人の1人として、目をつけられた。アイラ殿には手が出せない分、一部の貴族からかなりの恨みをかけられていて…ね。それに複数の権力や特殊な立ち位置であるユピテルは自治権も認められている。ユピテルで事件を起こせば自分の首が危ない。

そこでこのアデルの町のアデル老伯爵に要請と圧力を掛けてきた…戦力不足のこの町で有事の際はもしかしたら協力が得られない…などとね」



此処まで言われれば何となく分かる。


この冒険者ギルドにもソウマなる人物に依頼を受けさせない。また調査をして報告書を上げろと圧力を掛けられたのだが…。冒険者ギルドの長として受け入れられない。


こんな無茶な要求をしてくるのも、この貴族達はこの町で影響力が強い発言を持てるほど、復興の時から各場所へと携わっていた。


自分達の身の振り方の為にも、余計なトラブルは負いたくない。

貴族からの調査命令以外にも、まずはソウマがどんな人物か知らないため、此方としても鵜呑みにせず危険人物なのか調査する必要があった。


その為の調査として難航していたこの依頼が選ばれ、アシュレイの伝手で要請を受けた王都調査団からエステルが派遣された。


他、ソウマと深く関わった鍛治長のジュゼットや道場の教官であるグリッサにも事情を話し、協力を得ていた。彼等からの反応は概ね良好である。

但しグリッサからは戦闘能力の高さと、ジュゼットから未知の素材を多く持つ未知数の存在との報告を受けた。


実際昨日同行したエステルからも未知数の高さの戦闘能力は敵に回すとしたら要危険人物だと判定した。


迷宮洞窟のBOSSを単体で倒す程の戦闘能力を有しているソウマは、低く見積もっても恐らく冒険者ランクAのアシュレイと同等の戦闘能力を秘めている。

仮に戦闘になれば被害は少なくないだろう。


ただ、彼は少なくとも敵では無いと判断した相手に、無用な殺生は好まないと判断した。

それはあの闘技場で闘った冒険者達を腹立だしいから殺す…と、いった短絡的な行動に移らなかったことからして明らかだ。


また魔物使いの職業を保持していることから、稀人である可能性を示唆された。

そうなると、どんな魔物を使役しているのかは分からないが…弱い魔物では無いはずだ。



リスクとリターン…収集された情報から総合して出した結論は、冒険者ギルドにしてもアシュレイ個人にしても、仲良くしたいと言うものだった。



一昨日、王都からこの町へと封鎖されていた通路が開通し、貴族派の連中がこの町に到着した。代表はバーナルと名乗る男だったが、此奴はとんでもない男だった。

特に下手に手出しすると、町の危険に繋がると忠告をしてきた。



直ぐにこの男の情報を集める。

情報から貴族であることに誇りを感じ、それ以外には冷酷と評判の男だった。

経歴から少女に何をするのか噂を知っていた為、凶行を怒りを押し込め、歯噛みをしながら我慢しようと思ったのだが…幸か不幸か犯行が起こる前に奴は捕まった。しかもソウマによってだ。


しかし取り巻きは既に逃走しており、早速昨日捕まったバーナルの釈放を早速求められた。

しかし、エステルからの要請もあって突っぱねることが出来た。暫くは拘留出来るが…罪状に問えず釈放までは時間の問題だ。

出来ればあの不快で危険な男を野に放つ行為はしたくは無い。儘ならぬ世の中だ。


因みにブランドー家は貴族派に属している家柄だ。件の貴族とは関係は無いが、自身の家の点数を稼ごうと娘の護衛と称してこの町に送られてきたのだ。

エステルの他に息子達がおり、後継も既に決まっている。

エステル個人は両親から絶縁された身であり、2度と貴族に戻らない事を世間にも公表して一切社交界からのお誘いも断り続けている。






この町のギルド長として表立っては支援出来ないが、このように報酬や便宜を図る事は出来る。


また此方の立場を前以て明確化しておくことで、ソウマを最悪敵に回したくない意図もあった。



昨日帰ったエステルと事情を知っているグリッサ、ジュゼットを集めて緊急会議を行った。

各々の結論も総意なく、明日報酬を受け取りにきたソウマに事情を話して理解を得ようとなった。





情報を無断で収集したり、実力を試した事への謝罪を含め、改めて頭を下げられた。


ソウマ自身は謝罪された事に戸惑いがあった。

自分はそんなに偉い人間では無い。寧ろ面倒毎が嫌いで目立つ事が苦手な小心者だ。


俺は偶々この世界に来て、他よりも強い力を持った個人である。


自身をキチンと評価してくれた事に有難さを感じつつも、こうなった経緯からアデルの町に長期滞在は難しいと感じた。


住んでる内に愛着が湧いたこの町に迷惑は掛けたくない。


試作型の鎧の件や、流星刀レプリカの強化を考えて一ヶ月は少なくとも掛かるだろう。



その事を話し、約一ヶ月はアデルの町に滞在する許可を求めた。


アシュレイは考える。実際ソウマがこの町に居ることでまだ問題は起きていない。

だが…一ヶ月にもなると、どんな妨害があるか分からない。町の外での暗殺や冤罪などの犯行に巻き込まれたりなどあるかも知れない。


アデル老伯爵には、調査した結果と戦闘能力は未知数で要危険人物としての報告しか送っていない。

同じ貴族派のアデル老伯爵だが、他の貴族とは違い、情報の中からでもソウマを興味深い人材だと思っている節がある。


それと伯爵の他に、町の騎士団を預かる男がいる。何年か前に王都から派遣されてきた駐在武官のような存在である。

その男はこの町よりも王都暮らしを望んでおり、何か手柄を上げて早くここから出て行きたいようだ。


そのため貴族派の印象を上げようと、声高々に堂々とソウマを討つべしと息巻き、賛同する者も少なくない。


嘆かわしいことだが、徐々に西で起こった戦争の戦火にこの町が巻き込まれるかも知れない。

50年前のように…以前より弱体化した町の防備でばとてもでは無いが、全てを守り切れないだろう。


普段なら何の罪もない冒険者である彼を討てなど、ありえない。

しかしこんな状況化で自分達だけは助かろうと考え、馬鹿な事を考える者が先走って何をするか分からない。



ソウマくんはそろそろ注意しておいた方が良い。目立ち過ぎた。


此処まで貴族派の一員をコケにした人間で生きている者は存在しないのだから。





話してみて分かったが、死ぬには惜しい若者だ。どうしたら助けてやれるだろう。

暗い表情で悩むアシュレイを見て、ソウマも決心を固めた。


貴族という存在は上位の力を持って君臨している。一方的に理不尽でも睨まれるとこんなに厄介なモノか…と、辟易する。


ソウマが口を開く前に、横からマックスとエステルが口を挟んだ。



「どうやらソウマは決心が硬そうだな。残り一ヶ月ほどなら貴族としての私も入れば、奴らもおいそれと手を出せまい」


「エステルの言う通りだ。曲がりなりにも縁があったんだ。例え襲われたとしてもこのメンバーなら問題ないだろ」


と、面白そうに笑うマックス。



この発言によりアシュレイも覚悟が決まった。

今後問題が起ころうとも全力でフォローすることを決めた。


アシュレイは若い頃からこの町を拠点として長い間活動し、功績が認められて遂に冒険者ギルドの長となった。


周囲との軋轢などを避ける為にも頑張ってきたのだが、アデル老伯爵は然程でもないのだが、最近他の貴族からの揉め事や、傲慢さにいい加減振り回されるのと嫌になってきていたのだ。


まずは彼自身の戦闘能力の高さを周りに知らしめれば、この町で馬鹿な事を企てる奴にも牽制となるはずと、アシュレイは考えた。



「気持ちは嬉しいが…やはり無理は掛けられません。それに折角サルバードール遺跡迷宮の許可証があるので、私はそこへ向かおうと思います。そして一ヶ月後にまた、ここへ戻ってこようと思います」


ソウマはそう決意する。試作型装備に関してはジュゼットと相談し必要な素材を置いていくつもりだ。

レガリアはどうしようか…?やはりこのままジュゼットに預ける事になるだろう。


アシュレイはソウマの決断に驚いた。年若く、経験も浅い若者なのに…よくこの決断に辿り着いたモノだと思う。

他に解決案も無いため、了承してサポートすることを約束する。


この選択により、後にソウマにとって避けられない戦いが発生することとなる。



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