ジーニアスと呼ばれた男
今回2話構成とさせて頂きます。本編を読まなくても大丈夫なので、必要のない方は読み飛ばして頂いても大丈夫です。
また修正がありましたら徐々に直していきたいと思います。
大雑把ではあるが、俺の過去を話そうと思う。
俺は物心ついた時から孤児だった。
孤児院の先生の話では、町を巡回していた警備兵の人達が、アデル郊外で高級な布に包まれ泣いていた所を発見したそうだ。
周りに身元を証明するモノなく…先生は大事に抱えて孤児院へと戻った。元神官の先生は高価なポーションと回復魔法を駆使して助けてくれたと…後に周りの大人から教えられた。
拾ってくれた時の髪は黒色だったそうだが、熱が下がり、治療を終えた頃には髪は白色で眼が黒色の瞳に変化していたそうだ。
俺は両親の顔など知らない。育ててくれた先生が親だと感じている。
ただ、寂寥感が胸を支配する時があり、歳を重ねることにソレはどんどん強くなっていく。
何故だか分からないが俺は人より筋力も強く、 魔力と呼ばれる不思議な才能も授かっていた。
今考えると明らかに異常な子供だろう。
孤児院の先生には感謝しているが、自分を捨てた両親や境遇への恨みが頭から離れない。寂寥感が怨みへと変わるのもそう難しいことでは無かった。
物心ついた今、心の奥底に溜まった理不尽さや苛立ちが抑えきれず…遂には爆発して世の中の全てが憎かった。
溢れるエネルギーを持て余しているかのように、当時は喧嘩っ早く、暴力でストレスを発散させていたから、誰もが俺を怖がり、側には先生以外誰もいなかった。
…俺は孤独だ。1人は嫌いじゃ無いがな。
そんな時、ユピテルの街の孤児院に1人の青年がボランティアに来た。
出迎えた先生が親しく話している。どうやら知り合いのようだ。
「ユウト、久しぶりだね。大きくなった。今日は宜しくお願いします」
「アハハ、子供じゃないんですから、大きくなったは無いでしょう先生。
先生からの連絡を受けて嬉しく思います。突然騎士団を出て行かれてからは、心配しておりました。此方こそ宜しくお願いします」
その男の名はユウト。彼との出会いが俺の腐った運命を少しでも変えてくれたと思う。
「君の事は先生から聞いてるよ。宜しくね」
最初は馴れ馴れしく、生意気な男だと思った。それと何故かユウトの周りには自然と人が集まる。
親切な態度と穏やかな口調が少しずつ皆を惹きつけるようだ。
しかし、何より先生と仲が良い…それが幼心に1番癪に触ったのかも知れない。
ある日難癖をつけて、力尽くでここから追い出してやろうと決意し、挑んだが…結果は完敗だった。
大人にも負けてこなかった俺が…始めて人生で負けた日になった。
それ以降、ユウトが来ると挑む日々が始まり挑戦し続けた。
その当時の俺の目標は、ユウトに勝つことだけだった。
ユウトはユウトで全力で相手をしてくれた。歯が立たない事に不思議と悔しさはあるものの、以前のような全てが憎いという感情がスッキリと抜け落ちてしまっていた。
彼は遊びの中に剣術の稽古を取り入れて見たり、罰ゲームと称して効率の良い筋力トレーニングを課したりと参加した孤児達が楽しんで取り組んでいたと思う。
俺のような魔力の多く魔法の才能を秘める人間が稀に数名いて、魔法の勉強も教えてくれていた。
今思えはユウトは、俺達を鍛えてくれていた。多くの孤児院の子供達の将来の為を思って…。
その時は何気に取り組んでおり、気が付かなかったが遊びと言う名の訓練を続けていく内に孤児院の皆とも自然に触れ合え、一緒に話せる間柄までになっていった。
思い切って孤児院の皆に聞いてみたら、やはり俺の印象は怖かったようだ。
孤児の子供達はユウトから、
人は知らないって事が1番怖いことなんだよって…そう教えてもらった事を子供心に素直に共感が出来て、皆の方から少しずつ歩み寄ってくれていたらしい。
俺は精神的には大分大人だと思っていた。だけど、まだまだ子供な自分を気付かせてくれた一幕だったと言える。
9歳ながら、人に歩み寄る努力を覚えた俺は、皆に感謝しながらこの力を有効に使いたいと願う。
そして何時からかユウトを師匠と呼ぶ関係になった。
ユウトは照れくさい表情をしていたが、決して嫌がっていなかった。それが素直に嬉しかった。
時は過ぎ、一緒に鍛えていた同期の孤児院の皆は就職したり、冒険者になった者もいた。
ユウトに聞いてみたい事があった。
「なんでこんな事をしてるんだ?」
と、聞いたら「さてね」と、笑顔ではぐらかされた。いつか理由が知りたい。
俺が今憧れている男、彼の主たる魔法は1つ。稀有な属性である氷魔法。それも凄まじい使い手だ。
ユウトと同じ存在になりたい。
そう願い、この魔法を覚えたくて俺は必死に勉強した。
基本属性魔法の主たる火・水・風・土の複数属性のそれぞれ低位までをどれか1つでもマスターする。
そうしたら、ユウトから氷魔法を教えて貰う。
一般から見たら1つの属性を使えるだけでも、魔法使いとしてカナリ凄い存在なのだ。
4つの属性を兼ね備えることは国でもそう何人もいる者では無い。
だが、それぐらい出来なければ…と、自身にそう課した。
基本属性以外の魔法である氷・雷・地・嵐などは複合属性と諸説にある。それは基本属性を複数備えた人材が顕現することが多いから、そう考えられている。
仮に基本属性を全て使えたとしても、複合属性に適応する実力とセンスがないと顕現しないと伝えられているし、1つの属性だけを使い続けて突然、複合属性に目覚めた魔法使いも史実に稀にあった。
それだけ珍しい属性だということだ。そのため、滅多に使い手が存在しない。
上記以外それらに該当しないのは、稀に生まれた時から使える者や、血筋などによる遺伝した先天的なモノがある。
現在4系統の基本属性の魔法勉強をしているが、苦労して宿した所で、訓練しても初級しか覚えらないこともあるそうだ。
生まれ持った魔法属性以外は使えないと諸説ではあるそうだが…ユウトは違うと言う。
今はそれを信じてひたすら訓練と勉強を繰り返すだけだ。
10歳になった時、ユウトに連れられて転職神殿という場所へ向かった。
中へ入り、受付から簡単な説明を受ける。案内された場所でステータスプレートなる白板に手を翳すと、空中に光り輝く文字が浮かび上がった。
文字を読み解くと、初期職業には召喚士、魔法使い、秘魔士と低位魔法戦士と4つもある。
職業の多さに受付の人も驚いていた。1つ1つ職業を説明してくれた。
説明を聴き終え、最終的に悩んだのは魔法戦士と秘魔士の2択である。
魔法戦士を選べばユウトに限りなく近い存在になれると思う。では、それを選べば良いとわかるのだが…。
もう一つの職業である秘魔士が頭から離れず、本能がそれを選べと訴えてくる。
何故なら実はこの職業自体、複数属性を扱える者しか選択出来ない職業なのである。
50年に1度現れる人がいれば良い程、稀有な職業であるらしい。
この王国でも秘魔系の職業の人間は数える程しかいない。秘魔士系職業で有名な人材と言えば特別な騎士団に所属するダークエルフの秘魔騎士であるカタリナ・ブラッドレイ。
戦場で一騎当千を誇り、1人で何百人の敵兵を屠ったと逸話の事欠かない、生きた伝説である。
秘魔士は高いステータス補正もさることながら、神秘的な魔法文字を使って魔法をキーワード化させ、特殊な素材や武具に刻み込む。
それを行えば通常の詠唱などは必要なく、媒介となった素材があればSP消費のみで瞬時に魔法が顕現出来ると言う。
媒介となる素材も魔力を帯びたモノに限られる。
専用に使う装備品はビンキリで、魔力を宿した素材の武具となるとハイノーマル級しかなく高額な品となってしまう。
成り手が非常に少なく、未だ良く解明されていない職業である。
ユウトを目指してユウトに追いつけるだろうか…?必要とされるだろうか?
だからこそ…秘魔士という他に類の無い存在はユウトに肩を並べられるかも知れない。
賭け要素が多い。だが、そ悩んだ末に秘魔士を選んだ。
初の職業取得の為、緊張していたが記憶水晶球を通して魔力の輝きが身を包んだ。
暫く高揚感が身を支配し、新たな職業を得た実感が湧いていた。
高額で手が出ないから暫く先になると懸念していた秘魔士用の装備品は、実際に店頭で確認すると、思った以上に高額で街の住人の1年間分の食費に相当するお金になるだろう。
店から帰る最中にお祝いを兼ねて食事を奢ってもらった。
そこで薄い魔力を帯びた素材で作って貰った魔法登録専用のハイノーマル級の小剣を渡された。
職業祝いにユウトからプレゼントされた。
遠慮するなと言ってくれたが、それでも魔力素材を使った品だ。
借りが増えるばかりだが、折角のプレゼント。素直に喜び感謝出来る自分がいた。有難う。
秘魔士1日目。
職業獲得により筋力などの肉体的な補正の他に、更に魔法才能が格段に上がった事を実感する。
毎朝の日課のメモを取り出す。やるべきことは変わらない。
簡単に魔法を扱う者初心者専用(ユウトの教え)
魔道書の文字がわかるかな?
血筋にもよるけど、そこが魔法の才能が有るのか無いのかに別れる。
有る者は魔法回路と呼ばれる制御機能が脳にあるとされてます。
じゃあ、文字を口に出して見よう。まず詠唱に魔力をのせる。
成功したら呪文の意味を考え、膨大な魔法言語より効率の良いキーワードを選び、構築していく。
1つ1つ焦らないでゆっくりすれば大丈夫。
次に自身の魔力量の把握をし、使えるキーワードやイメージを体内で発動させる。それが出来たらひたすら制御する。すると自然に体内魔力操作が宿る。
繰り返す事でキーワードとイメージが繋がり、反射的に魔法が発現するようになる。
全身に魔力を通すことが出来ただろうか?最期に脳に新しい器官である魔法回路をフル活用し、体外に魔法イメージを発現させよう。
魔道書の理論を補助として、魔法陣を構築させイメージを明確にし…
自身の魔力で世界を繋げる。
事象を具現化させる体外魔力操作を兼ねる。
此処まで出来た君なら大丈夫、君なら出来るよ byユウト
これは1番最初の魔法勉強でくれたユウトの手書きのメモだ。
俺の他にも何人か魔法の才能を持つと判定された子達が持っていた。
抽象的すぎてわかりにくい所もあるが、概ねの魔法に対するイメージ固めになった。
これで使える使えないはまた個人の話だったが。
その日から毎朝、魔力が尽きるまで属性魔法を自身かけて練習する。
その後死んだように眠る。少し回復して筋力訓練に入るのが日課である。
とことん自分をいじめ抜くストイック差で周りの人から見たら、かなり引かれている?…知ったことか。
ユウトからは基本的に剣術と基本属性である4系統の魔法の修得の仕方を習っていた。
4属性を宿し片鱗はあるものの、未だ基本属性魔法の発動には至っていない。
自らに課した約束もあり、また子供ながら本人に恥ずかしくて、同じ【氷】属性魔法を教えてとは言えなかった。
その分、教えて貰った技術は誰よりも必死に反復訓練をして吸収した。
有る時を境にユウト以外にも稀に孤児院へ来てくれる人がいた。
その人は白雪の美しい髪と氷青の瞳の麗人はアイラと名乗った。
物凄くスパルタだったが、習う技術は超がつくほど一級品であった。
毎日訓練し続けた結果が見え始めわその頃には主たる4系統魔法は発動し、1種類ずつ何とか低位を修めていた。
せっかく覚えた攻撃魔法を魔力文字で小剣に1つ刻み、凝縮キーワード設定をして必要時に一瞬で繰り出せるように設定した。
魔法のプロセスを大幅に短縮出来るため、慣れてくると此方の方が楽だった。
小剣の魔法はまだ低位の魔法を登録して有る為、4属性の中位魔法を使えるようになったら1度解除し、再登録しておくつもりである。
アイラと始めて訓練した時に
「あら君、子供でも目上の人である私のことを呼び捨てにしちゃ駄目だよ」
ユウトが言っていたのでつい、アイラと呼び捨てにしたら笑いなから半殺しの目にあった。
何故かアイラさんには、俺がユウトをリスペクトしていることが分かるらしい。
氷魔法の習得の応援と、理解を得る為の魔道書を数冊貸してくれた。
魔道書なんて高価なモノは初めて見た。しかしそれにより、氷のイメージが脳の魔法回路に繋がり始めた。
そうして訓練しながら年単位の月日が流れた。14歳になっていた。
その頃には幼い頃からのユウトとアイラの英才教育を受け、魔法原理の理解と遂に自力で氷の属性に目覚めた。
ただし、氷属性だけはあれほど使いたかったのに、練習しても魔法が発現する兆しも見えなかった。
(なんで使えねーんだ)
俺は気にしていない感じを装ってはいたが…実は地味に落ち込んでいた。
「落込んでいる暇なんて無いわよ!ほらほら、悔しいなら訓練訓練!」
挫折感を吹き飛ばす猛訓練が始まった。その日は魔法を酷使してどうにか防げるギリギリの攻撃を叩き込まれた。上手く相殺出来なければ攻撃が当たり激痛のオマケ付きだ。
「あ、君が使えるようになるまでコノ訓練毎日付き合ってあげるわ」
絶望が身を包む。何が何でも覚えてやる。
自分のレベルが上がる度にアイラさんも少しずつ訓練レベルが上がっていくため、少しも楽に成らない。
かなり続いたこの訓練のおかげか、魔力微細制御のコントロールと氷属性に目覚めた。
この偉業に周囲から天才児ともてはやされるも、目的である1つの属性魔法を得る為だけに全てをかけてきたので、やっと属性に目覚めただけだ。
氷魔法もまだ使えないし、本人的には周囲の評価よりも、自身の実力がまだまだ足りていないと感じていた。
氷魔法の属性の目覚めのお祝いを兼ねて、実戦を積むために時折迷宮へ連れていってくれるようになった。
ついに訓練ではなく実戦が始まる。
今回行く予定の迷宮はD級の迷宮で、全10階層からなる地下迷宮となっている。始めて冒険者などや探索者を目指す者が多く利用する迷宮でもある。
基本は犬人種の戦士種のみが主たる魔物として出現する。
何故数あるランクの中でもD迷宮の難易度に設定されたのか?
それは稀に下の階層で犬人魔法種が出るからと言われているからだ。
魔法を使う相手がいるだけで、難易度はグッと違ってくる。
何度かユウトと共にこの迷宮の最下層まで降りたことはある。
その時は戦闘の雰囲気を味わうので戦闘は全てユウトが行っていた。
最近ではアデルの町近辺のCランク迷宮洞窟へ入り、蒼銀騎士団の面々とBOSSである上位炎鬼を倒したばかりだ。
初めてのBOSS戦は充分に護られながら行われた。
俺は自分で出来る護りの魔法をかけたりして足手まといだけは無いように必死だった。彼ら蒼銀騎士団の精鋭メンバーの戦闘能力は凄く、俺を庇いながらでも誰一人欠けることもなく討伐を完了させた。
迷宮洞窟のBOSS戦から一ヶ月後、またユピテル近郊のDランク迷宮へと来ていた。
今回はこれまでの成果も兼ねてユウトから、待っているのでまずは1人で戦闘し、降りられる階層まで頑張ってきて…と、簡単に送り出された。
納得がいかないと思いながら、1人渋々先へと進んでいると、途中犬人種の3匹組に出くわした。
剣を持った犬人種が3匹襲いかかってきた。初の1人での戦闘に気持ちが焦り、緊張から上手く動けない。
次々と繰り出される剣撃を避けるが、よけ損ねて左腕に剣先がカスった。流血が飛び、頭の中が真っ白になった。
その隙を突いて3匹同時に襲いかかってきた。
何も考えれず…ただ毎日訓練した動作が自然と身体を動かし、染み付いた習性が相手の攻撃を躱していった。
生死のストレスが極度の緊張感を与える。上空から俺がもう1人いるかのように第3者的目線が捉えられ…客観的に戦闘を眺める事が出来た。
そして極限の生存本能が、頭の中で何時も描いてきた氷のイメージを解き放つ。
俺の足元から霜のようにピキピキと凍り始めた。
直後冷気が身体から放出され、一瞬で周りの空間ごと氷の世界に変えた。
これが初めて使えた【氷】魔法低位フロスト。
犬人種が凍り、バラバラに崩れた。
始めて1人での殺し合いに嫌悪感が湧き、嘔気が暫く止まらなかった。
その後何度か戦闘を重ねた。
魔法以外にも肉を切り裂く手応えや、魔法を使う感覚が手に馴染んできて戦う度に嘔気は治まってきた。
何とか最下層に降りると、入り口で別れ筈のユウトが最下層で待っていてくれた。
言いたいことは沢山あったが、口から出た言葉は1つだった。
「俺…氷魔法使えたんだ」
嗄れ、絞り出すような声だった…。
「基本はずっと教えていたからね…後はキッカケと自信だけだったのさ」
そう笑顔で言われ、肩に手を置かれた。そして、おめでとうと声がけられた。
ユウトに認められた。そう思っただけで涙が流れた。
その日以降、ユウトやアイランドさんからお許しを得て、ソロでも迷宮に潜り実戦経験を増やしていった。
時々ユウトと氷魔法の実践も兼ねて模擬戦をして貰い、ボロ負けしながらも無駄な箇所を無くすようアドバイスを受けた。
その内、15歳になった。孤児院に俺宛に手紙が来た。
噂を聴きつけた王国魔法学校からで、特待生として迎えたいと記してあった。
氷魔法も習得出来たし、特に興味も魅力も感じなかったがユウトやアイラからは勧められ、入学してみる事にした。
旅立ちの朝、孤児院の皆とアイラ、ユウトが見送りに来てくれていた。
餞別に氷具と呼ばれる氷に特化した素材で作った御守りをもらった。
レア装備では無い為、スキルはないが氷の(微)補正のある品だ。
迎えの馬車がこちらに向かって来た。別れの挨拶を各々に躱して出発した。
王国魔法学校へ入ると、1年生は魔法実技、魔法理論、構築概論、属性の心得、歴史、一般科目を主に始めるそうだ。
特待生になると、集中力補正効果が見込める極小の翡玉のついた短杖と赤一色の魔法学校の紋様が描かれた丈夫なローブが贈答される。
どれもハイノーマル製で学生には充分すぎる品だ。
また歴史や構築概論など、新鮮な講義に興味は尽きない。
因みに他の科目については基礎は孤児院で習っており、既に身についていた。ユウトやアイラは何者なんだろうか。
初級普通科2年間コース、魔法師育成コース3年間、特待生コース4年間からなっている。それぞれ用途に合わせた生徒の門を開く事が理事長の育成方針だった。
俺は実力を抑えていても、基礎的なモノや厳しい訓練を得て培ったモノが宿っている。
学校の魔法実技や剣術でも同世代では敵なしだった。生徒や先生からも魔法学校始って以来の天才ともてはやされる。
…個人としてはどうでも良かった。
王国魔法学校には人種問わず魔法の才能がある者が集められる。
良く言えば玉石混交である。
理事のブランドー家の家系は国王から任命を受けた伯爵家であった。
開祖以来、魔法でのし上がってきた家系で魔法狂いとも言われる程、魔法に関して力を入れている。
この学校には様々な人種が集まるため、高位貴族や王族には人気がない学校である。
人気の庶民となれば貴族が面白い顔などしない。それでもごく少数の貴族と厄介ごとにならなかったのは、明らかな実力差が彼と本人達の間にハッキリとあることが分かっていたからだ。
また一匹狼を気取る訳では無いが、周囲に近寄り難い雰囲気を醸し出していたのかも知れない。
だが今年に限ってはこの王国魔法学校の理事長の孫、エステル・ブランドーが入学していた。彼女も特待生コースだ。
何かと噂になる特待生が気になり…魔法主義でもあるエステルは貴族よりも個人的な興味が勝り、黙認が出来なかった。
幼き頃からの教育で威圧的な言動が多く、何方かと言えばコミュニケーションが得意ではない。
エステルは本人の意識とは裏腹に突っかかる話し方で毎回話しかけるため、2人の出会いは最悪の印象で始まった。
「ふぅん?貴様が噂の天才か。良い面構えだな」
「…誰だ?」
こんな感じであった。
その後、学年対抗戦での対決、共通の友人…トドメはエステルの誘拐事件の解決など。
紆余曲折をえて、その内にお互いに意識し合うようになった。
次第に関わることが増え、一緒の時間を過ごす内に両者とも気になる存在へと変わる事に時間は必要なかった。
度々2人で逢う姿も目撃され、周囲にも存在を認知されつつあった。
但し孤児と貴族の恋愛など周囲の反対を喰らうだけだと、本人達も半ば諦めもしていた。
何処にでも妬む厄介者はいる。それは先生や生徒の中にも…。
心無い者達が結託し、学校内とこの学校の貴族の象徴であるブランドー家に悪意のある噂を流し込み、拡散される。
バーナルと言うブランドー家の家臣がいた。彼はこの巷に流れる平民と貴族の恋を…非常に良くない噂として考えていた。
ブランドー家に自分の功績として売り込もうと考え、秘密裏に抹殺しようとした。どうせ下民の1人くらい消えても誰もわかるまい…という自分勝手な考えのもとに。
入学して1年、事件は起こった。
実際に学校の寮に賊が入り、俺を暗殺しようとしたのだ。バーナルの裏で雇った暗殺者達はいずれも1流の腕利きだった。
夜更けに8人からなる集団に襲われた俺は、重傷を負いながらも何とか撃退することに成功した。
相手もまさか15歳の少年に負けるとは思っていなかったらしく、死ぬ前に雇った男の名前を教えてくれていた。
ブランドー家のバーナルめ…名前はしっかり覚えたぞ。
重傷を負った俺は入院したが、騒ぎを聞きつけた学校側に特待生としての地位を剥奪され、そのまま学校を辞めた。
これもどうやら裏で情報操作がされたようだ。何方に転んでも上手くいくように仕掛けていた訳だ。
学校を辞めさせられた俺にエステルが秘密裏に面会を求め、会いに来た。
「…傷は大丈夫か?」
「ああ…対した事はない」
「……何があったんだ?」
「……」
理由の全てを話す訳にいかず、ぎこちない挨拶となったが…これを逃せば2人はもう2度と逢えない。
燃え上がった2人に言葉など必要とせず、濃密な一晩を過ごした。
翌朝、目が覚めたらエステルはいなくなっていた。寂寥感が胸を支配したが…届かないモノとして諦めた。
その後、退院した俺はエステルが学校を休学している事を知った。
巷では叶わぬ恋に打ちひしがれていると噂されていた。後ろ髪を引かれる思いだったが、1度ユピテルの街へと帰った。
バーナルとその取り巻きどもにいつか復讐を胸に抱きながら。
ユピテルの街の孤児院の皆は、突然帰ってきた俺に何があったのか聞かず、温かく出迎えてくれた。
その後、リハビリと実戦の腕を磨くために各地の過酷な自然スポットや、迷宮へと挑戦していった。
学校では様々なタイプの魔物について記された書物が多かった。
見たこともない魔物や魔獣は地域によって沢山いることも分かった。
そんな現地の環境に特化した魔物に挑戦したり、またBOSSに挑戦したい時はパーティを募っているメンバーへと積極的に声をかけて参加していた。
死にそうになったことは数え切れない。敵や魔物、果てには味方の裏切りなど色々だ。其れらを乗り越えて自分のスタイルも磨き続けた。
メインの氷属性低位魔法とは別に、火・水・風・土の4属性中位級の他に無属性を新たに覚醒した。
迷宮の宝箱を探したり、罠を解除したり…出来れば便利な探査魔法を覚えたい一心でひたすら、1年間を無属性をイメージし訓練にあてたのだ。
その甲斐もあって無属性の低位魔法は耐魔法解錠、感知魔法。
高位魔法である探査魔法までは辿りつけなかったが、中位の魔力走査を何とか修得出来た。範囲な探査魔法ほど無いが、ソロで迷宮やフィールドで使うには十分だろう。
上記の魔法は魔法屋で魔道書を買って覚えた。
高くついたが、これで少し幅は戦術の広がるはずだ。
こんなに魔法の属性を宿すなんて…自分のことながら何かおかしい…俺は一体何者なんだろうか??
転職神殿のステータス板にて秘魔士の職業レベルが規定値を突破していたので、ユピテルの街の転職神殿にて派生している職業を確認する。
職業は秘魔士から第2次職業である秘魔騎士と秘魔狩兵に別れた。
受付さんから職業説明を聞く。
秘魔騎士を選ぶとスキルに剣・大剣装備補正(C)、盾装備補正(E)、金属鎧装備補正(D)をステータスに発現することが出来る。
また常時スキルに戦技補正Gが加わる。
攻撃と防御に優れる高いステータス補正がメインで、秘魔系では第2次職として最大攻撃力を誇る範囲攻撃を扱える戦技を覚えるそうだが…。
ルーンの扱いに関しては秘魔士の時と殆ど変わらない補正しかなく、騎士のような近接専門の職業になる。
秘魔猟兵を選ぶと騎士程では無いがそれなりの攻撃補正と高めの敏捷性、器用性がステータス補正が加わる。
スキルに全秘魔使用に関するルーン装備補正(E)、小剣・投擲武器装備補正(D)軽装防具装備補正(E)。
常時スキルに隠密行動と地形補正がステータス欄に追加される。
騎士を選べば、魔法に関しては補正が少ないが、個人的には剣術も自信がある。単純な攻撃力ならトップクラスで更に魔法とルーンを併用した強力な存在になれるだろう。
だが、猟兵もそれなりに高い攻撃・敏捷・器用さのステータス補正に、ルーンを刻んだ魔法使用に補正が入る。
常時スキルである隠密行動と地形補正がある。戦闘以外に活躍したい時はこちらの方が良いだろう。
悩んだが、自分のスタイル的には猟兵の方が活躍しやすいと思い、こちらを選んだ。
そこから腕利きの氷魔法使いとして、世間に名前が売れ始める一歩となった。
旅を進めた俺は、とある日、秘魔士に関する古代文献を偶然入手出来た。そこに現在の方法では作成していない古代秘魔士専門の武具の作り方がそこに記されていた。
現在の秘魔士装備作成の仕組みはわからないが、知り合いの鍛治師に聞いた事があった。
恐らく…と言う前置きのあと、ノーマル級からハイノーマル級では、親和性の高い貴金属に魔力鉄をコーティングしてあるものだと推測している。
レア級にもなると迷宮で探してみるか、オーダーメイドによる魔力鉄や魔法金属の合金なのだろうとのこと。
さて、前述に説明したこの古代文献に戻るがこの書物を入手出来たのは偶然だった。
俺は依頼で、とある山岳帯にあるとされる部族の村に入り込んだ…着いた部族の村人は悲痛な顔をしており、話を聞くとどうやらこの近隣で暴れる魔獣に困っているそうだ。
苦しいさなか、食料と一晩の宿の提供に感謝して魔獣討伐に協力した。
この村は古代に凄腕の秘魔士とその一族が起こした村だった。村人の何人かは秘魔士も数名いたが、この魔獣の特性に苦戦していた。
この魔獣は捕食する動物以外に、魔力や魔法も餌とする変わった魔獣だ。
この地域に生息するスライムの特殊変異体である。様々な魔力を吸収し、一定化の条件をクリアした滅多にいない個体。
村の秘魔士の使う魔法は基本4属性のどれかの魔法か無属性魔法である。
攻撃してもそれらは全て吸収するし、逆に武器による攻撃でも斬り裂けるほどのダメージもプヨプヨの肉体に阻まれ、与え難い。
ある一定に成長したスライム種は分裂をすることがわかってきた。この厄介な魔物を分裂をされる前に倒してしまいたいのが、村人の本音だったのだろう。
急な斜面のある木々の茂る森林地帯。現在は鳥や動物なども見当たらない。辺りは生物の気配がなく、異様な静寂さが形成されていた。
無属性魔法 魔力走査を詠唱し、出現するフィールドを隈なく探す。
虱潰しに探した結果、触手を伸ばし森林狼を捕食しているスライムを発見した。
(結構デカイな…2m近くはあるか)
半透明のゲル状の形でウニョウニョと身体を揺らしながら捕食している。森林狼はなす術もなく生きながらにして体内に取り込まれていく。
まず遠距離から魔法詠唱を開始し、試しに炎矢を放つ。
スライムのゲル状の体表に触れると、魔力膜が淡く輝いたかと思うと炎矢は跡形もなく消え去った。それでも構わずスライムは森林狼を捕食することに夢中になっている。
全く効いていないようだ…やはり吸収されたか。
氷魔法を選択しフロストエリアでスライムの体と周囲を覆う。
スライムの表面が徐々に凍りつく。今度は魔力吸収されない。どうやら耐性の無い魔法は吸収出来ないようだ。
反撃や逃げられる前に、中位魔法である縛氷でスライムの周りを覆い、閉じ込めた。
凍りついた場所から徐々に体表が剥がれ、小さくなっていく。
時々フロストエリアを唱え、暫く経つとスライムは消滅していた。
こうして呆気なくスライムは倒せたが、俺が氷魔法の使い手では無かったらこう簡単にはいかなかっただろうが。
残った跡には、特殊変異体のスライムの核を入手した。普通のスライムの核とは違い、様々な色が混ざって変わった輝きを放っていた。
村の誰も敵わなかった魔獣の退治に、部族の住民は喜び、この村の依頼報酬を提示された。
一覧には特に何が欲しい訳では無かったのだが、村長の家に代々伝わる書物があり、その中に古代秘魔士の武具と名打ったある書物を見かけた。
古代文献に記されていた部族に代々伝わり守ってきた秘魔士専用武具の実物も210年程前に賊に襲撃され、現存していた2つのオリジナルは全て盗まれてしまったらしい。
残された秘魔士用の武具も現在俺の使っている武具よりも性能が劣っていたし、村に必要な数少ない武具を貰うのも気が引けた。
そこで文献に書かれていたタイトルに興味が湧き、その書物か欲しいと頼み込みんだ。
秘魔士の部族の村として大切な書物である。村長は難しい顔をしていたが…村人の総意を得て助けて貰った礼として依頼の報酬として有難く頂いた。
その文献の内容では、自然界にあるとされる精霊石や、属性に特化した魔物の特殊部位が必要とされている。
全部で7種類の属性に別れた武具の製法が記されてある。其れらを集めて作成出来れば俺はもっと強くなれる。
例えばメインで使っている氷属性の武具に必要な特殊な素材を紹介しよう。
魔物の特殊部位として、氷山の奥深くに住まう氷乙女。その涙は永久に溶けない氷と言われている。この古代文献に記されている手順を踏んで製法することで強力な魔法武具へと変わる。
氷乙女の涙は幸運も重なってやっと手に入れる事が出来た。
入手に5年間かかり、俺も22歳になった。
並みの腕前の鍛冶師や錬金術師には扱えないと思われる素材だ。
作成を依頼するのは、蒼銀騎士団の専門鍛治師兼錬金術師のイルマさんだ。国に名を知れたトップクラスの腕前を保有している。
イルマ氏と王都のドワーフの1人のみが、ハイレアと言われる超稀少素材を扱える鍛治師なのである。
そんな人物にツテがあったのは、以前孤児院で稽古をつけて貰っていたアイラさんがそのギルドの団長をしていたからだ。
素材が手に入った時点で彼女に頼み込み、何とか作成の了承を得ていた。
条件として掛かった代金の多大な金額と、迷宮探索でとあるアイテムを見つけたら優先的に売って欲しいという変わった条件だった。
しかし、ユウトまでがそのアイテムを欲して迷宮に潜っているという。
見つけたら必ず報告と譲る事を約束した。
他に当てもないし、恩人である人の頼みを断る必要もない。有難く作成を依頼した。
文献からは氷乙女の涙で作れる武具はレア級の腕輪であった。
氷乙女の涙は、別名氷雫と言われる結晶石になり、氷属性のルーンを刻む事でより属性魔力を媒介しやすくなるよう加工する。
同じレア級の秘魔士の専門武具も迷宮で見つかったり、有名な秘魔士の使用している武具も刻めるルーンは普通の設定通り1つしか刻めない。
この文献通りの素材を使った装備ではレア級で有りながら、特別な素材を使うことにより、2つまでキーワードを増やすことが出来た。
但し、属性は氷属性のみと定められる。このリスクは俺に限っては不都合にはならない。
加工された氷雫の腕輪を形成する金属を白金合金にして、魔法伝導率と増幅作用を得る。魔法金属でも希少性が高く、氷雫の加工料を合わせると腕輪のセットで王都の一等地で邸が何軒も建つ程の値段となった。
しかし、本来ならいくらお金を積んでも買えるモノではない稀少品。
それがわかるからこそ、完成した時の約束を果たす決意を新たにした。
一月後、イルマ氏から出来上がったと報告を受けた。完成品を受け取った時は、持つ手が震えた。
氷乙女 レア級
秘魔職専用の魔法品である。蒼銀騎士団のイルマ氏の作品で古代文献を基に製作された原型秘魔腕輪
稀少な素材と白金合金を使用して作られた。
各腕輪に2つのキーワード枠が彫られており、使用者が自身で魔法ルーンを込める必要がある。
対象者に属性魔法精度上昇、SP消費軽減。
武技【氷乙女の抱擁】
氷乙女と名付けられた腕輪は、何処と無く気品を感じる作りとなっていた。イルマ氏とアイラさんに充分に感謝し、前腕に装着した。しっくりと馴染む。
早速、左右の腕輪に遠距離〜中距離迎撃用に氷槍の魔法を1つずつキーワード登録する。腕輪が光り、氷の紋様が刻まれた。
この魔法は氷属性魔法 中位の中でも追尾補正も加わる優秀な魔法の1つだ。最近は武器の小剣にも再登録した魔法である。
それと最後の1つに右手に捕獲用魔法中位 縛氷と左手に氷護盾を登録しておく。
現在の装備
武器 蒼銀騎士団制式装備 秘魔士の小剣(氷) ハイノーマル級
頭装備 秘魔士のフード(火) ハイノーマル級
体装備 秘魔士のローブ(風) ハイノーマル級
両腕 氷乙女(氷各2) レア級
足装備 秘魔士の靴(土) ハイノーマル級
アクセサリー 氷具
長い年月の間にコツコツとお金を貯め、特別な装備品であるハイノーマル製の秘魔士装備を整えた。
後に聞くと、この職業祝いにくれた装備はイルマ氏が手掛けた逸品だと解った。
魔力の通りが現在持っている秘魔士専用の売られているハイノーマル級と比べ、格段に良い。
ハイノーマル級でも技量が伴えば、レア級に匹敵する攻撃性能になる。
同期で冒険者になった子達にも一品ずつ贈っていたらしい。
その子達の中には、冒険者になる際にお世話になった蒼銀騎士団の門を叩き、見習いとしてユピテルの街で厳しい訓練に励んでいるそうだ。
氷乙女の代金を返すために取り敢えず前金として、5年間今まで稼いだお金を全額を支払った。
更に2年の月日を迷宮潜りとと依頼に費やし、金を稼いだ。
腕前は更に上がったが、それでも腕輪の残金はあと半分以上もあった。
そんな中ユピテルの街へ帰ってきた時に、蒼銀騎士団から使いがきて連絡があった。
出向いて行くと、部屋へと案内された先にアイラさんが待っていた。
内容を聞くと拘束される特殊な依頼だが受けてくれたら代金はチャラにしても良いと話を持ちかけられた。
それは闇の魔物捕獲盗賊団に潜入捜査であり、危険な依頼であった。
このユピテルの街では、魔物ギルドに特殊な魔物の卵が保管されているという。それも50年間も…だ。
狙っている裏組織や、貴族が多いがこの特別な卵は蒼銀騎士団の手で所有者が現れるまで密かに保護されていた。裏にも圧力をかけ、所有者以外が強引に手に入れる事を抑えていたのだ。
だが、どうしても諦めきれない貴族がその魔物専門の盗賊団と手を組み、入念に機会を伺っている。
その為、蒼銀騎士団では所有者が現れた際は可能な限り護ることが優先された。
俺の役割はその状況から更に相手組織に接触し、内部から万が一に備えて守ろうと画策されたモノである。
アイラ達が間に合わず、それが難しい状況なら1度所有者を拉致した後に蒼銀騎士団に情報を流して貰い、その時まで安全に保護するといった内容だった。
所有者の名前はソウマと教えられた。
思ったより危険で大事であったが、断る理由もなく潜入捜査を請け負った。アイラからは俺が捕まった際に困らないように、街の警備兵やギルドの偉い方には話を通しておくそうだ。
アイラも魔物ギルドにソウマの形跡が無いか、魔物ギルドに寄付金を贈り、連絡を秘密裏にくれるよう頼んでいた。更に常に団員達が監視の役割を担う。
(頼んだわ。ユウトがいない今、教え子の貴方にこんな危険な依頼をしてゴメンね…せめて私の体が充分に動くことが出来ていたなら…)
アイラの葛藤と苦悩が思考を支配する。今はユウトから頼まれた唯一の頼みを無事に果たすだけだった。
協力者と共に魔物専門の盗賊団に無事に接触出来た。彼等も迷宮踏破や名の知れていた冒険者である俺を疑うことなく、諸手を上げて迎え入れた。無事潜入出来たわけだが…,。
総勢30名の精鋭を集めて作られた魔物専門の盗賊団に所属して2ヶ月の月日が流れた。表向きは闘技場で使う魔獣や魔物などの捕獲を請け負っていた。
裏では非合法的に貴族贈答用に魔物を捕獲して売ったりと忙しく働いていた。
金巡りも良いらしく、裏で件の貴族がスポンサーになっているのは間違いないだろう。
俺は既にギルドの中でも指折りの腕利きで、最上位の戦闘能力保有者となっていた。組織から1隊を任される程になっていた。
外見は人相も隠せるため、髪も髭も伸び放題にしていた。自他共認めるかなりの不審者顔である。
この2ヶ月でギルドに加入した素人のチンピラを、統制の取れた指示の聞く男達に鍛え上げた。
戦闘能力はまだまだ足りていないが、素直に此方の言うことを聞くようになった俺の子飼い達である。
そして、遂にアイラから依頼された内容が果たされる日が来た。
盗賊団の首領から戦闘能力随一である俺に卵の捕獲と、所有者の殺害が命じられた。
遮断結界と呼ばれる高額で使い捨てアイテムだが、とても優れた効果を持つ札を数枚持たされた。
情報と共に作戦を伝えた。卵の捕獲を最優先とし、所有者はなるべく捕獲する…という首領とは違う命令を配下に伝えた。
「首領と違う命令ですが…良いんですか?」
「ああ、責任は俺が持つ。お前達は俺の命令に従え」
少し不振に思ったようだが、了解してくれたようだ。すぐに4人程選抜した。連れて行く人数は少ない方が良い。
配下となった盗賊団でも、前科もなく鍛えた子飼いになった4人と共にソウマがいるであろう場所へと向かう。
状況がどうなるかは分からないが、なるべくソウマなる人物を無事に保護出来れば良いな…となどと考えていたが、本人を目の前にして180度考えを撤回するとになった。
街の外で戦闘が始まる。




