レガリアの真価
申し訳ありませんが、私情により暫くは更新速度がかなりマイペースとなります。
時間が出来た時に更新していこうと思いますので、宜しくお願いします。
最下層の奥の間からBOSSへ至る空間のある闘技場へ来たソウマ達。
その召喚陣から上位炎鬼が出現した。先程の姿と変わらず、持っている武器も大鉈だ。
BOSSが出現したと同時にソウマと修羅鬼レガリアは早駆けする。
距離が縮まると上位炎鬼が咆哮を上げた。振動でピリピリするが…ただそれだけだ。
咆哮が効かなかった事が分かると、大鉈を構えて迎撃体勢をとった。
ソウマは流星刀レプリカではなく、鬼の大鉈を取り出した。ズッシリとした重量だが扱うには問題ない。
大鉈を使う場合は片手剣補正のスキルの恩恵は入らないかも知れないが、そんな事は関係なく両手で大鉈を持ち、全力で振り下ろした。
上位炎鬼は防御体勢をとり、大鉈同士の接触時におこる堅い金属同士がぶつかり合う音が鳴り、重たい手応えを感じる。
両手剣を扱ったことがない為、重心が剣身に上手く伝わらず威力が分散気味だっだ。
一振り毎の感触を確かめながら、少しずつ調整を重ねる。
刀剣技補正も発動しているようで、初期よりも大鉈が手に馴染んできた。より鋭く振れつつある。
実戦の中で扱うなんてマトモじゃ無かったなと、かなり反省している。
そんな事を考えていたからだろうか、修羅鬼レガリアがソウマよりも前に出た。新手に対して上位炎鬼も警戒して1度距離をとった。
「御主人様、少し私にお任せ下さい」
レガリアの擬態スキルはD。修羅鬼だった頃の最大40%を引き出せる筈だ。見立てでは実力的にはまだBOSSの方が上のはずだが…レガリアがどう戦うのか楽しみだ。
危険な時はどんな状況だったとしても動けるようにしながら見守る。
大太刀である修羅刀を静かに抜く。
レガリア本体のステータスが加算された修羅鬼は、素早い一撃を繰り出した。
受け止めた上位炎鬼は戸惑いの声を上げる。
『貴様ノ匂イ…マサカ同種ナノカ?』
「…」
その問いには無言で次々と攻撃を加えていく。大太刀と大鉈が斬り合う光景は迫力があり、お互いに一歩も引かない。
この時点で力比べをして見て分かったが、素の状態では筋力は上位炎鬼の方が上である。
「この状態ではまだ上位炎鬼が上ですか…私の実力が足りないのか、それとも使いこなせていないのか」
と、ブツブツと言いながら、舞うように攻撃を仕掛ける。朱色の髪と白い修羅胴衣が激しく動き回り、見る者を惹きつけた。
時折エステルから腕力強化の魔法と火護防御の魔法が掛けられ、一時的に魔力の膜が身体を覆った。
適切な援護に対してエステルに微笑みを向ける。
大太刀と大鉈がぶつかり合い、せめぎ合う。大鉈を操る上位炎鬼の攻撃は苛烈であり、受け止める一撃一撃が重い。
何合か打ち合うと上位炎鬼の攻撃を捌き切れなくなってきて、大太刀を持つ手が飛ばされそうになる。
今も下段からの攻撃に対して踏ん張りがきかず、両腕が上方を向かされて体捌きが流された。
そうして出来たレガリアの隙を見逃さない。素早く大鉈が上空から振り下ろされて修羅鬼レガリアの左鎖骨に食い込む。
衝撃と苦痛に顔を顰めるレガリアだったが、火護防御の魔力膜のおかげで防御力は上がっていたので、食い込む以上の事は起こらず、魔力の膜に阻まれた。
苦痛に負けず、渾身の力を込めて至近距離から修羅刀を横薙ぎに振って、上位炎鬼の前胸部と革鎧を浅く傷付けた。
見事な斬れ味を誇る修羅刀だが、グールやゾンビの時とは違い、刃は上位炎鬼の肉体の防御力を貫けず切断とまでいかない。
しかし、攻撃によるダメージが浅い事に絶望感はない。いつも大事な時に力が足りなくて悔しい思いをしてきたレガリア。
寧ろ格上の相手に少しでもダメージを与えられた事に喜びを感じていた。
レガリアの方が攻撃の手数が多いものの、致命傷になる決定打に欠けている。
上位炎鬼もそれを分かっており、ジワジワと体力を奪うような一撃を繰り出し、重く鋭い攻撃を続けている。
上位炎鬼の狙い通り、レガリアは次第に防御することの方が増えてきた。
大太刀を振る両腕が軽く痺れてきた。これが疲れると言うことなの?
魔法生物であるレガリアは、基本的には疲れや睡眠なども必要としない。
新しく体験し、学習した出来事をレガリアを司る魔導核に刻み込んでいく。沢山の濃密な魔力を凝縮した水晶核を吸収した事で、レガリアの魔核は魔導核へと進化していた。
もはや身体中は傷だらけだ。
そんな状態で戦っているが致命傷は避けていた。
鈍くなってきたレガリアに
「ドウシタ、動キガ鈍クナッテイルゾ」
発する言葉に反論出来ない。
上位炎鬼の繰り出す攻撃は決して力任せではなく、技巧を凝らした剣技が其処にはあった。
戦えば戦う程レガリアは上位炎鬼の動きを取り入れ、自分なりに学習し始めていた。
少しでも長く戦っていたい。しかし、そろそろ活動限界を感じてきたレガリアは、今まで温存していた剛力スキルと我流闘気術を併用して、短期決戦を挑む。
今回はリスクを考え、種族特性としての鬼印は使わない。
修羅鬼のステータスの中から剛力スキルを発動。全ての筋力が満遍なくアップした。
そして我流闘気術で全身を覆う。練り上げた気が不可視のプレッシャーとなり、身体からゆらりとオーラが溢れだす。
目の前の修羅鬼の威圧感が急に膨れ上がった事を感じた上位炎鬼は、危機感を最大限上げた。
両腕に刻まれた紋様の火の加護を用いて、ありったけの火の魔力を攻撃力に変換した。
此れまでにない程のスピードで、凪ぐ、振り下ろし、袈裟斬り、突きの連続攻撃を繰り出して来た。
この間の地下墓地戦で学んだ我流闘気術から、視覚拡大と感覚鋭敏を身に染み込ませる。
肌に触れる空気の動きや上位炎鬼の動きの癖などの情報を読み取って行く。
ヒートアップしていく大鉈の攻撃を危なげなく、華麗に避けていく。
先程と違い、剣先のみが空振りを繰り返していた。余りに上位炎鬼の攻撃が当たらない。
焦りよりも怒りが勝った上位炎鬼は、雄叫びを上げながら武技【旋風撃】を発動する。
その行為を見たレガリアも一旦動きを止め、修羅刀 百夜の武技【紅蓮一刀】を発動させた。
久しぶりに見た灼熱の極炎刀は燃え盛り、風刃とぶつかり合った。周りは数百度近い熱風が巻き起こる。せめぎ合いの中、極炎刀が風の旋風と刃を打ち払う。
そろそろ闘気術を併用しての限界が近い。
最後の一押しとして、【擬似心臓】に貯めてあった魔力を全解放して、現在出せる最高の一振りを上位炎鬼にお見舞する。
武技【紅蓮一刀】と爆気を合わせた修羅鬼レガリアのオリジナル技。
レガリアは意識せず行ったが、武技と気の融合であるこの技は一般的に奥義と呼ばれてもおかしくない技である。
レガリアはこの技を発見した時、1度ソウマに見てもらっていた。
驚きを持ってソウマの口から発した言葉は、紅蓮の燃える炎の塊が無数に舞っているのを見て、紅牡丹の花弁に似ている…と呟いた。それを聞いたレガリアは技名を【紅牡丹】と名付けていた。
爆発的に高まった身体能力を活かし、眼にも止まらぬ速度で一太刀を浴びせた。
いつ斬ったのか動作も見えなかった渾身の一太刀は、上位炎鬼の丸太のように太く、筋肉の詰まった両脚を瞬く間もなく切断した。
それで終わりではなく、爆気で修羅刀より拡散した気が、紅蓮一刀の業火と混ざり合って凄まじい火力を持つ炎塊へと変化した。それらは美しく、複数の花弁のように周囲に出現した。
レガリアは紅蓮に輝く花弁達の業火を使い、更に追加で上位炎鬼を襲う。
下腿から灼熱の炎が燃え上がり、切断した両脚は炭化した。それでは収まらずに残った上半身にも燃え移った。
堪らず悲鳴か絶叫かわからない苦痛の大声を上げた上位炎鬼は…やはりBOSSであった。
もう助からないと判断した上位炎鬼は焼け続ける身体の苦痛を無視し、大鉈を地面に突き刺した。
ダンッと言う音ともに、反動を利用して上半身の力と両腕の力でジャンプを可能とし上空へと昇った。
そして上空から地に伏すレガリアを眺め、確実にトドメを刺すべく最後の力で大鉈を振りかざす。
限界以上の力を出し切ったレガリアは座り込み、攻撃を躱す体力もなくボンヤリとその光景を眺めていた。
「レガリア、本当によく頑張ったな。後は任せてゆっくり休んでくれ」
肩に手を置かれ、声が聞こえる方向に振り向くと、側に笑顔の御主人様が見えた。
ソウマも大鉈を装備のまま、上空から落ちてきた上位炎鬼に向かって2段ジャンプを発動して跳ぶ。
迫る大鉈を弾き落とし、無防備となった肩から袈裟斬りを浴びせた。
そのまま交差し、上位炎鬼は事切れた。最期まで戦闘意欲が高く、諦めない強者だった。
上位炎鬼が袈裟斬りにされた様子を確認した。
あぁ…ほら、御主人様だけは…貴方だけを愛している。
薄っすらと意識混濁をしていたレガリアは歓喜と胸が高鳴る恋心を胸に気を失った。
着地したソウマは、倒れ伏しているレガリアの髪を撫でながら、レガリアはいつかソウマをも超えると感じていた。
ソウマとて無敵ではない。
現在は第3次職到達者であり、また【巨人の腕】の影響で魔法は習得出来ないが、その分人より多大なステータスの恩恵があるだけだ。
現在は何とかなっているが、いずれ敵わない相手も現れる。成長し続けるレガリアが羨ましく、自分もレベルアップ以外に強くなれる方法を模索して行かなければならない。
試作型の装備品開発もその一貫であるし、様々な検証もそういった事から来ている。
お金も非常に沢山かかる筈…アイテムボックスも有ることだし、今後も素材や宝物など入手出来る物はなるべく集めていこう。
そんな想いを胸に抱きながら、ソウマは契約の指輪にレガリアを送還する。指輪の中は契約した魔物達にとって胎内のような居心地の良さをもたらすとされている。
そんな環境の中で自動回復(微)受けながら幸せそうにレガリアは眠っている。
上位炎鬼を倒した時にナレーションが鳴り、討伐報酬が贈られた事が分かった。
アイテムボックス内にはまた魔力鉄が入っていた。レガリアの頑張った報酬だ。有難く頂いておく。
討伐した宝箱の中からは前回と同じ炎鬼脚甲が入っていた。ちゃんと回収して、今度は上位炎鬼の死体に近付いた。
鬼の大鉈も回収したソウマは折角倒した上位炎鬼の死体をどうやって持っていこうかと悩んでいた。
折角討伐し頑張ったのだ。レガリアに少しでも吸収させたかった。
素材を剥ぎ取れるのなら、死体そのものでも大丈夫なのでは?と考えてみた。
とりあえず死体に近付き、手に触れてアイテムボックスと念じて見ると、すぅ〜と肉体が消えていきアイテムボックス内に上位炎鬼の肉体と表記が増えていた。
これはゲーム世界ではあり得ない事であった。何故回収出来たのかは分からないが、悩んでも答えは出なかったので、一旦考えることを放棄した。
エステルからは迷宮に喰われたように見えていたようで、何も言わず此方を凝視していただけだ。
ソウマはそう感じていたようだが、エステル自身はその時戦慄していて上位炎鬼の肉体の事など見てもいなかった。
目の前で起こった事実を認識したくないと現実逃避したい心境だったのだ。
何故ならC級とはいえBOSSをほぼ単独で倒すなんて…。
推定冒険者ランクは戦闘能力だけでも最低A〜Sは無いと不可能だ。
この人達は何者だ。心に好奇心と若干の恐怖が混じる。
だが、エステルはこれでもB級冒険者である。胸に抱いた恐怖を押し殺し、今後の付き合いからソウマという人物を見極めようと感じていた。
ソウマ達は闘技場から奥の間へと魔法陣を使って戻り、そのままアデルの町へと帰還した。
町へ帰ると、早速報告の為にギルドへと顔を出した。
そこではダンテとコウランが椅子に腰掛けて待っていた。
どうやらウェスターとアルフレッドは帰る際中に魔物に囲まれていたらしく、ダンテ達が後から追い付き協力して蹴散らしたようだ。
彼等は其のまま町へと到着し、また酒場で会う約束をして1度解散した。ウェスター達はギルドでBOSSの間の宝箱の中身を買い取ってもらい、遺髪と共に遺族の元へ向かっていった。
彼等は悲報を伝える悲壮感に暮れていたが、決意に満ちていた。
そのままダンテ達はギルドでソウマ達が帰ってくる事を待っていた。と、説明を受けた。
依頼完了の手続きを踏み、再度応接室に案内された。
応接室にはギルド長以外に見知らぬ男が大声で話し合っていた。年齢は40代程で気の難しそうな顔をしている。
此方に気付いて怪訝そうに目を細めたが、エステルの姿を見て表情を変えた。優雅なお辞儀のあとに
「エステルお嬢様、此方においででしたか」
「…バーナル、お前か」
嫌そうな表情をするエステル。
バーナルと呼ばれた男は腰にサーベル、体には金属と革で出来た白色に染められた綺麗な鎧を着込んでいた。頭装備はなく、綺麗に撫でつけられた頭髪が目立っていた。
「無事お会い出来て良かった。危うくこの町の無能者達に協力依頼を出す所でした。ささっ、こんな下民の多い町など抜けて早く王都のお父様の所へ戻りましょう」
「はぁ…とりあえず待てバーナル、それと私は帰らんぞ」
「我々貴族には息もするのも汚らわしい場所なぞ…ん?そう言えばそこの下民共はなんですか?」
はぁ…こんな人種がいると思うから貴族に接するのは嫌なんだ。
そう考えているのはソウマだけでは無く、この場にいる全員の思いだったかも知れない。
「彼等は迷宮洞窟で依頼を手伝ってくれた協力者達だ」
「ほぉ、何と危険な所に…彼等がお嬢様を煽動したのですな。これは死罪に当たりますぞ」
嫌らしい笑みを浮かべながら、何とも自分勝手な事を言う。
バーナルが腰からサーベルを抜こうとすると、流石にギルド長が口を開いた。
「バーナル殿、そこまでにして頂きたい。彼等はこの町の大事な戦力…つまりは王国の」
と、ギルド長が全て言い終える前にエステルが大声で被せるように言う。
「バーナル、いい加減にしろ。我が家の家名を穢す気か。もう良い、宿へ戻っていろ」
「ふん、お嬢様も言うようになりましたな。良いでしょう。私もこのような下民臭い場所などこりごりですからな」
サーベルを鞘に戻してから一礼をし、ツカツカと歩き去っていく。完全に姿が見えなくなったらエステルが頭を下げて謝罪した。
「我がブランドー家の恥を見せた。皆、申し訳なかった」
「頭を上げてくれエステル、貴族でもあそこまでの人物は…いや、それなりにいるか」
「フォローになってないぞアシュレイ殿…」
その後のエステルの説明ではどうやら実家の親が送り付けてきた従騎士らしい。貴族主義の塊で色々と問題を起こしてきた人物らしい。
今後、付き合いたくない人物だな。
意外な人物に話が逸れたが、依頼の話になり、調査した件をギルド長に報告した。
出現する炎鬼達の装備や数の違い、洞窟内での探索では問題が無かったこと。
またBOSSの討伐まで話がいくと流石にアシュレイが目を細めた。暫くエステルと話をしたいとの事で、ソウマ達は解放された。
エステルも良かったら酒場で打ち上げ会をしようと声がけておいた。
少し意外そうな表情をしていたエステルだったが、此方を向いて頷いていた。
依頼は完了ということで、明日報酬をギルドで用意しておくそうだ。
今回はこの後予定が無いと言うことで、ダンテ達も誘って鍛治場へと向かった。




