最下層上位炎鬼
魔物祭戦を終えたソウマ達は、新たに魔物が出る気配もないため、消耗した身体を休めるために隠し部屋で休憩をとっていた。
次はいよいよBOSSである上位炎鬼との戦いとなる。
前以てエステル以外で決めていた事を話す。
今回は調査を優先としつつも、ダンテ用の装備を揃える為にBOSS戦を連戦したいこと。
またエステルは連戦には参加しなくとも良いことを本人に伝えた。
エステルからはBOSS戦の連戦についての了承を得て、参加についてはその時の状況による…と回答を受けた。
共に激闘を潜り抜けたおかげか、エステルとも信頼関係が深まった。
休憩中は女性同士で炎猫フレイの事で話が盛り上がっているため、ソウマはダンテの元へと向かう。
ダンテは装備品の手入れと最終確認を行っていた。命を預ける大盾や鎧を入念に確認し、傷一つ無い状態を維持してBOSS戦に備える。
それを見届けた所でダンテに声をかけた。
「ダンテ、そういえば聞いた事無かったんだけど何処の国の出身なんだ」
ピクリと眉をひそめたが、ポツリと呟くような声で教えてくれた。
「…隠すことでは無いが、ソウマになら良いだろう。俺とお嬢様はここから西方にある帝国を越え、宗教国家レグラントからこの地まで来た」
「そうなのか…で、どんな国なんだ?」
「レグラントは且つての魔族が国を起こした地で、王族や貴族は魔族の血を引くとされている。国家としての規模は小さく産業としては目立った物は無いが、魔族を神と崇め自身を鍛えることが幼少より求められる。俺は捨子だった所を拾われたからな…お嬢様と先代のサルファー様には多大な恩があるんだ」
いつになく話すダンテに相づちをしながら、少し聞き慣れた単語があった。
「サルファー様?」
「そうだ、お嬢様のお父様に当たる。選ばれた魔神官戦士のみで構成された騎士団のトップで両刃のある戦斧を軽々と振り回し、魔法も使われる傑物だ。国を思うお優しいお方だった。子供心に俺も憧れたが、魔法の才能がなくて諦めたよ」
まさかザール村で出会った人物では無かろうか?…まさかね。
そう考えていたら、いきなりコウランが口を挟んできた。
「とある貴族の闘争に巻き込まれて嫌気がさしたお父様が失脚して、国を出て以来会ってもないわね〜ちょっと探し物も兼ねて家族バラバラで動いているんだけど…。
まぁお父様の事だから何処へ行っても生きてるわよ」
「確かに現魔王派が例え追手を差し向けたとしても、サルファー様に限って不覚をとることはありますまい。しかし、一体何処におられる事やら」
ダンテとコウランは2人で笑いあっているが、世の中の縁とは不思議なものを感じた。ツッコミ所の多い単語は…スルーしよう。
エステルのSP回復もすんだ所でBOSSの待つ階層へと出発した。
14階層を突破し15階層へと降りた。そこには以前来た時と変わりなく、広い空間の中の宮殿があった。
足を踏み入れると、奥の扉が見える。中に入るとBOSSの間に繋がる魔法陣があった。
強化魔法と支援魔法を全員に掛けて、準備完了した。
パーティメンバーに声がけて魔法陣へと飛び込ぶ。
異空間固定された鬼の紋様が刻まれた闘技場へと入る。エステルは初めて入るのか少し興奮していた。
召喚陣が設置してある。近づくと紋様が輝きだしBOSSである上位炎鬼が召喚された。
身長は2m30cmは有るだろう大きな身体に、額には角が2本生えており、口からは牙が収まりきれずに飛び出ていた。
上半身はなめした革を幾重にも重ねたレザーメイルを装備していて、発達した筋肉は防具など不要とばかりに強調されていた。
両手には入墨のような紋様が彫ってあり、魔法的処理が成されているのか常に魔力で点滅していた。
エステルから両腕に刻まれたモノは長年の研究から火の加護の紋様だと言う。炎に愛された種族が持ちやすい加護の1つで、炎の魔力を攻撃力に変換出来る効果がある。
加護とは簡単に説明すれば、神獣や精霊、有名なところは神などの超常たる存在から認められ、力を授けられた称号。
単純なステータスアップの他に、特殊能力もつく場合もあるという。
優れた能力を持つ限られた人材しか獲得出来ない上に、非常にレアな称号である。
火の加護自体は現在確認されている加護の中では下から数えた方が早い加護ではあるが、持っているのと持っていない者では、格段の差がある。
加護持ちのBOSSはこの地方では上位炎鬼のみである。巨大な大鉈を持ち、戦闘態勢を維持している。
正直この鬼が長年経験値を重ね、鍛え上げた先に修羅鬼まで進化したとは思えないほどギャップがあった。
それはソウマ以外にもコウランやダンテも感じていたらしく、お互い目を合わせて苦笑してしまった。
『我ガ領域ニ侵入セシ者ヨ。相手ニナロウ』
上位炎鬼の一言で戦闘開始が始まった。
単鬼で突っ込んでくる相手に対してソウマは弓矢を使い応戦し、エステルは低位の攻撃魔法で応戦する。
矢が唸りを上げて上位炎鬼に飛来するが、着弾しても駆け出しているスピードは露ほども落ちない。
急所は流石に防御しており、それ以外は当たるがままにしているようだ。
魔法に対しても防御姿勢を固め、対魔法用に耐性して少しでもダメージ軽減をしてきた。BOSSは伊達ではない。
あっという間に距離を詰めてきた上位炎鬼は、ダンテに大鉈による重量を込めた剛撃を叩き込んだ。
ダンテは大盾を構えるも、その剛撃は身体を地面に沈み込ませた。
次いで横薙ぎにした一撃を受け止めたが、衝撃が強く大盾を持つ左手の骨にヒビが入る怪我を負わせた。
すぐにコウランが中級回復魔法を唱える。
淡い光がダンテを包み、痛みと身体を回復していく。
上位炎鬼は面白くないとばかりに咆哮を上げ、今度はコウランに襲いかかった。それを許すダンテではなく、先程よりも強固に防御体勢をとり今度は大鉈を弾き返した。
驚くよりもニヤッとした表情で強敵を前に喜ぶ鬼の姿に、ここは似ていると思えた瞬間だった。
エステルが阻害魔法をかけ、支援魔法と強化魔法を中心に援護してくれる。
ソウマも流星刀レプリカに持ち替え、レガリアと同時に上位炎鬼に攻撃を仕掛けた。
此方を確認した上位炎鬼は大鉈に何かを呟く。すると大鉈より風が巻き起こり、渦巻いて刃を形成してソウマとレガリアを迎撃する。
レガリアは浅く傷つきながら軽く吹き飛び、ソウマも刀を正眼に構え防御するが、身体中切り傷のダメージを負いながら後方へ着地する。
流石にBOSSである上位炎鬼。強敵である。それに相手がもつ大鉈は、武技を使った事からどうやらレア級の武器らしい。
鬼の大鉈 レア級
風の祝福を受けた魔力鉄を用いて作成された巨大な大鉈。半径3mの範囲に風の刃を発生させられる。
重量が重く、筋力が無い者には持ち上げる事すら出来ない。
武技【旋風撃】
風属性を伴う武技による攻撃。普通の中級冒険者ならば重傷を負うことは間違い無いほどの威力があった。
鬼の大鉈はゲーム時代には初期から中期までしか使わない性能の武器だったかも知れないが、この世界では別だ。
使えるか使えないかは別として、あの武器も戦利品として頂いてしまおう。
コウランからの回復を受けたソウマはダンテに注意を引いてもらい、自身は着実にダメージを蓄積させることにした。
幸い、エステルからの支援魔法で上位炎鬼のステータスは下がっている。ダンテに作戦を伝えレガリアも遊撃に加わって貰った。
上位炎鬼の攻撃は火の加護を持ち、大鉈による重量を活かした攻撃方法と武技。
それに咆哮を加える事で、接近戦主体の相手を一定確率で恐怖を与える事が出来た。
さて戦いは始まったばかりだ。
激闘の中、重傷を負うメンバーもいながらもパーティメンバー全員で確実にダメージを積み重ね、身体中に大小の傷を負った上位炎鬼が虚ろな目で遂に倒れ伏した。
【ザザン迷宮洞窟BOSS上位炎鬼を討伐しました。討伐者にはランダムで報酬が与えられます】
ナレーションが聞こえと思ったら、中央に宝箱が1つ出現した。他、ソウマのアイテムボックスに見慣れないアイテムが入っていた。
魔力鉄×1 上位炎鬼討伐報酬
これか!レア素材である魔力鉄が追加されていた。
ナレーションを信じればランダムに報酬があるのならば、この他にも入手出来る事になる。少しワクワクする気持ちがあった。
以前の修羅鬼討伐よりも人数もいて助かったが、流石にBOSS戦は緊張する。
今回ダンテが1番の重傷を負い、コウランに回復魔法をかけて貰っている。他のメンバーは思い思いに座り込んでいた。
レガリアは上位炎鬼の死体を喰べたそうに此方を見つめていた為、皆に断ってから許可を出した。ご褒美を貰えた嬉しさに機嫌良く、上位炎鬼を口に運んで喰べ始めた。
一口では喰べられるサイズでは無いので、噛みちぎりながら喰べる光景に昔ならば気持ち悪くなる所だったが、何故かレガリアなら不思議とそんな気も起きなかった。
全てを喰べ尽くしたレガリアに微量のステータスアップと炎熱攻撃付与が(中→大)に上がった。
ダンテの治療も終わり、宝箱を皆で開けた。中には鬼の紋様が刻まれた
脚甲があった。
炎鬼脚甲
炎鬼を模して作られた脚甲。炎の祝福を受けた魔力鉄を可能な限り薄く重ねた。鋼鉄製の防具よりも軽く、丈夫である。
発動スキル【炎熱耐性(微)】
シリーズ装備補正を得る為の防具は此れで残す所、頭装備のみである。
BOSSの上位炎鬼の持っていた大鉈は重すぎて誰も持てず、ソウマの預かりとなった。
闘技場から魔法陣で宮殿まで戻ると、いつの間に来たのか別のパーティが控えていた。
軽く会釈をして挨拶する。話をして見ると彼等は今回初BOSSに挑戦する事がわかった。
6人編成パーティであり、気さくに応じてくれて気の良い連中だった。
パーティメンバーは10代後半でリーダーのみ20代。上位炎鬼の情報を集め、フォーメーションを研究してきたそうだ。お互いの情報交換を行う。
最後に実際に戦った此方の持っている上位炎鬼の情報を可能な限り教え、BOSSの間へ向かう魔法陣の彼方へ消えた彼等の討伐成功を祈る。
数時間が経過した。
…………何時迄立っても彼等は帰ってこない。
奥の間の魔法陣も光が消えたままで、まだ戦っている事が分かる。
やきもきする気持ちを抑えながら暫く待っていると魔法陣が明滅し始めた。
帰ってきた彼等は半数以下の2名で、1人は意識を失い、肩から腹にかけての裂傷が酷く重傷を負っていた。
肩に背負った魔法使い風の男性が此方を見て安心したのか…共に倒れこんた。
重傷者をコウランが何度も回復魔法を唱え、応急手当てをすることで傷口は塞がり、荒かった呼吸も平静になり一命はとりとめた。
もう1人の男は軽傷ではあったが疲労困憊状態であり、此方もコウランが回復魔法をかけた事で話を出来るまでに活気を取り戻した。
彼の話によると、万全の体制で挑んだ上位炎鬼BOSS戦だったが、途中までは順調に慎重に進んでいたそうだ。
攻撃を重ねジリジリとダメージを蓄積させた所までは良かったが、あともう一歩で上位炎鬼による大音量の咆哮を喰らい、何人かに恐慌が起こる。体勢を立て直す暇もなく、為す術もないまま陣形が崩れた。
直後、鬼の大鉈による武技の組み合わせでマトモな防御も取れずに、リーダー以下が切り刻まれたようだ。
魔力も切れかけて後方待機していた魔法使いである彼と、水護防御の魔法かけられた護衛役の投擲士の彼だけは咆哮と武技からの攻撃を免れた。
その後襲ってきた上位炎鬼を身体を張って魔法使いを守った投擲士は重傷を負ったが、その間に完成させた中位水系攻撃魔法 水刃を詠唱して上位炎鬼の首を落としたのだと言う。
自分達を除く生存者はいないのか確認したが、リーダーを含め全員が事切れていた。
出現した宝箱の中身だけを取り出して、やっとの思いで投擲士を背負い、帰ってきたのだと教えられた。
この宝箱の中身はレア級であるため、高値の売値がつくだろう。
彼は売って出来たお金を分散し、今後の資金と亡くなってしまった仲間達の家族に遺金として渡しに回るそうだ。
話している間に、気を失っていた投擲士も目を覚ました。
冒険者を続けていればいつか誰かがこういった最期を迎えることも、覚悟しておかなければならない。
悲しみとやるせなさを背負った彼等は悲痛な面持ちだったが、生き残った事を神に感謝して、先へ進もうとしていた。
お礼もしたいが…と気を遣う彼等に充分だとダンテが答える。
2人と回復魔法を酷使してくれたコウランに非常に感謝して、何度も何度もお礼を伝えていた。
このまま町まで送ろうと声がけたが、充分に回復した今なら大丈夫だと気丈に断られた。
早く遺族に報告と遺髪を送りたいらしい。
せめてものお礼に、今日の夕食くらいは奢らせてくれと言われたので、いつもの酒場に集合となった。お互い無事に帰ろうと約束する。
投擲士の名をウェスター、魔法使いの名をアルフレッドと名乗った。
彼等が帰っていくのを見届ける。
見えなくなるとパーティメンバーに相談して、後ろから彼等を見守りながら町まで安全に帰還させることを提案する。
皆の概ねの了解を得られたが、その後自分とレガリアはここに残り、BOSS戦を継続したいと願い出た件は却下された。
コウランやダンテもやれやれと苦い表情を浮かべていた。何と無く予想はしていたようだが…幾ら何でも2人では危険過ぎると意見を変えない。
最終的にダンテとコウランがウェスターとアルフレッドを町まで見守る役を引き受け、調査も兼ねているエステルがソウマと一緒に残る事で落ち着いた。
付き合う必要はない…申し訳なくて仕切りに遠慮するソウマに対して、エステルはなら最初からそんな事を言わない、と一喝されて押し黙った。
はい、仰る通りです。
ダンテ達を見送った後、3人で作戦会議を行う。
エステルは炎属性系統は上位まで、無属性系統と支援・強化系統、風属性系統が中位で計4系統使えると教えてもらった。
ソウマも全て教える訳ではないが、体術スキルや見切りスキルの事や剣技スキル、全身強化魔法と2段ジャンプなど使える事を教えた。
後はレガリアの擬態スキルを見せる。これくらいならば彼女を信頼して見せても良いと思った。
それに今回レガリアの修羅鬼化を見せるのは、擬態スキルの成長具合と、この状態で上位炎鬼を倒した際に火の加護はレガリアにも取得可能か試してみたいからだった。
レガリアが長身で髪が朱色で美しい美女に変身する。
深淵の仮面越しからでもわかる美しさと、体を覆う修羅胴衣のみの姿は艶っぽくて生々しい。
突然の変身に、唖然とした表情もギャップがあって美しいエステルだが、次第に興奮の余り顔が桃色に染まってくる。
この事を内密にして欲しい事を確約して貰うことを条件に、エステルが知りたい質問に少し答えた。
興奮冷めやらぬまま、作戦を伝える。作戦は簡単でソウマと修羅鬼レガリアが全面に出る。
エステルは後方から援護して貰いつつ、気付いた事があれば指示して欲しいといった内容だ。
エステルを和えて援護に回した理由はSP消費を軽減させ、万が一の場合に備えて欲しいからだ。
各々に強化、支援魔法をかけて3人だけの上位炎鬼討伐戦が始まった。
確認して修正などを入させて頂きます。




