魔物祭
サザン迷宮洞窟13階層の隠し部屋にて大きな召還陣が浮かび、大規模な魔物召喚が始まった。
その直後から部屋の出入り口に全員即座に走って移動し、壁を背に陣形を整えて魔物祭に備えた。
前衛を防御力の高いダンテ、左右の周りをレガリアとソウマで位置取り、人壁を作った。
中衛をコウラン、総力戦のためフレイも召喚してコウランの身を守るサポート要員に加えた。
後衛を魔法を行使出来るエステルで配置を整える。
召喚される魔物は大まかに3種類ほどあった。
剣と木盾、革鎧を着込んだ犬人種。ダガーと腰巻きを装備した召喚数だけは1番多い小鬼種。そしてその中でも一際大きな身体の豚人種だ。
この迷宮洞窟内では出現しない魔物ばかりだ。
次々と群れで迫ってくる魔物達に対して、エステルが詠唱待機していた炎系上位殲滅魔法【獄焦炎】を唱える。
魔術師の名は伊達ではなく、その威力は敵のいた部分に天高く燃え盛る黒色の渦のような火炎が魔物達を焼き払い、舞上がらせる。
随分と離れているのに熱気がここまで襲う。暫くの間、焼け焦げた臭いと静寂が場を支配する。
随分と減った魔物だが召喚陣から再召喚されてくる魔物達が集まり、また徒党を組み始めた。
多少息の荒くなったエステルに感謝の言葉を伝え、残った敵を殲滅すべく弓矢での攻撃を開始した。
次々と召喚される魔物の中には魔法使い系の職業の犬人魔法使いの姿や小鬼魔法使いも少人数確認した為、優先的に狙っていく。
魔法使いの恐ろしさは身に染みて分かっている。魔法使い達を屠る間だけ、ソウマとコウランとの配置換えを行い、暫くダンテとレガリアにメインの前面を任せた。
久しぶりにスキル【鷹の目】を発動。弦が軋む音と共にしなり、矢が唸る。一撃で仕留められるように急所を狙い、頭部、心臓部に当たって次々と倒れていく。
ダンテは黙々と大盾と槍で対応し、上手く攻防をこなしていた。
レガリアは舌を伸ばして魔物を巻き付け引き寄せる。そのまま噛み殺してどんどん喰らっていく。
少なくなったとはいえ、まだまだ魔物の数が脅威だ。次第に複数を相手にダンテやレガリアも少ない傷を負う。
「多少の怪我なら私に任せてね」
回復魔法を適宜唱えながら、コウランから頼もしい声が聞こえてきた。
自身が魔法詠唱の際は無理してでもダンテが守備範囲を広げてカバーし、フレイも積極的に攻撃に参加することで穴を埋めていた。
その内魔物を召喚し終えたのか召還陣が消滅した。
最後に出てきた魔物は、立派なローブを着た豚人魔術士が一体としっかりと装備品を着込んだ豚人騎士指揮官が召還されていた。
勿論迷宮洞窟のBOSS上位炎鬼よりは弱いが、豚人騎士指揮官はこの迷宮で出現した中でも最も格上で危険な相手だ。
指揮官の職業持ちで指揮下に置いた魔物を若干強化する能力も備えていた。
筋肉の盛り上がった身体に鉄鋼の金属の全身鎧。トサカ型の羽根つき全兜、身体を覆い隠すようなタワーシールドを持って此方を睨みつけている。
ソウマは明らかに魔法に習熟しているであろう豚人魔術士を警戒し、すぐさま矢を放つが…豚人騎士指揮官がタワーシールドをかざして間に割り込み、防御された。
次は戦技も使用する。着弾すると衝撃と共に数歩後ずさるだけでタワーシールドには僅かな凹みが残るのみだ。
右手には鋼鉄のハルバートを握りしめ、ブォォォーと、雄叫びを上げた。
ビリビリとした振動と共に一気に注目が豚人騎士指揮官に集まった。
総勢残り約40体の魔物対6名の調査団チームが戦う。
統率された魔物達がダンテ目掛けて殺到していく。
時折火球が相手側から飛んで来たり、前線にいる犬人種や小鬼種に強化魔法をかけてくるので、手強く戦線を維持する事が難しくなってきた。
相手も防御の要であるダンテを崩して、一気に決着をつけたいのだろう。
エステルは本日2度目になる殲滅魔法を使って貰い、大幅に数を減らせた。残る魔物の数は半数くらいだ。
相手側に一瞬動揺が走るが、豚人騎士指揮官が再度雄叫びを上げるとすぐに進軍を開始した。
しかし此方もエステルのSPが大分消費され、暫く魔法の援護はない。
こう言う時だからこそ、相手の魔法使い達を早めに倒しておいて良かった。残る魔法使いは後方で待機している豚人魔術士1人である。
ダンテは目の前の豚人種を戦技【斬撃】で斬り伏せる。
ソウマは戦技【共鳴矢】で敵を足留めないし撃破する。
豚人騎士指揮官に強化された魔物達は強いが、此方も焦らず対応していくことで徐々に減らして行く。
すると後方からこのままでは戦線が維持出来ないと感じた豚人騎士指揮官が、犬人種を数名引き連れて前線に出てきた。
豚人魔術士に強化魔法をかけられた豚人騎士指揮官は、魔力を輝かせハルバートを地面に叩きつけた。
不可視の衝撃波が地面を抉りながら轟音と共に迫ってくる。
ダンテは全員を後ろに下がらせ、大盾を構えて衝撃波を迎えた。
ガリガリガリと衝撃音が鳴り響くも気合の声を上げてダンテが持ちこたえる。防ぎきった状態から前を向くと豚人騎士が眼前に迫ってきていた。
ダンテはハルバートの突き、払う攻撃を大盾で弾き、槍で反撃する。お互い防御力が硬く、決定打に欠けるが激しい剣戟音を奏でていた。
その間にソウマは豚人魔術士を狙っていた。
今までは弓で攻撃するも豚人騎士指揮官に防がれてきた。現在魔術士を守る者もいない。ここがチャンスなのだ。
しかし、1人になった豚人魔術士が自分の半径1m範囲に護火障壁を既に詠唱し、地面に魔法陣を設置した。
ちなみに魔力障壁とは自身に展開し、物理や魔法攻撃を自動で遮断する事が出来る。
一定量の攻撃を受け、魔力で構築された術式防御を超えると一旦解除されてしまうが、護られている間は自分自身に常に展開されている為、接近戦を主とする者には自由度が高く非常に使いやすい魔法である。
豚人魔術士の詠唱した護火障壁は地面に魔法陣を構築し、その場所で強力な防護を誇る属性障壁を張り巡らせる。設置タイプ型の障壁だ。
主に魔法を使い、後方で戦う事を得意とする者が好んで使う魔法だ。
また魔力障壁に比べて難易度が優しく、消費MPも若干低めである。
簡単に付け加えると、魔法は各属性の初級、中級、上級、高位に別れる。高位以上の使い手は稀に存在する。
魔法の才能によってどの系統をどこまで覚えられたり、鍛えられるかは個人によって違う。
一般的に自分の使える属性の初級をマスターし、その属性の中級を1つ覚える事が1人前の証となると言われている。
ちなみにソウマが使っている全身強化魔法と2段ジャンプの魔法は支援・強化魔法のジャンルの中級である。
全身強化魔法はプレイヤーがチュートリアル終了で選択出来る魔法の1つだった。
プレイヤーが選ぶ不人気No.1の魔法であるのは、全てを少しずつステータスアップさせても、ゲーム世界では効率が悪く、不必要だと思われていたことに他ならない。
確かに腕力強化、脚力強化、胴体強化などの一点強化型よりは効力は少ないが、その時のソウマには全ての強化は魅力的に思えた。
おかけで実際に戦闘する際には大いに役立って貰っている。
あと、2段ジャンプの基はジャンプであり、使い続ける事で魔法習熟度が上がり進化したのだ。
エルダーゲートの世界では支援・強化魔法のみに限り、習熟度がその魔法の軸となり進化・変化していくのだ。
古代に高名な無属性魔法の使い手が新しい無属性魔法の研究する過程で見つけ出し、派生して生まれた系統とされているが、詳しくは分かっていない。
魔法についてはまた今度詳しく説明しようと思う。
手加減などせず全力で弓を射る。大分距離はあるが的は動かないので当て放題だ。
弓を使っている間、犬人種が襲ってくる。その時は弓を引いたままで待機させ、攻撃を躱して蹴りを叩き込んだ。
後ろの小鬼種を巻き込んで一緒に倒れた所でレガリアの舌に巻かれ、ペロリと喰われる。
そんな事を繰り返しながら、弓をひたすら射る。
いくら放っても矢は護火障壁を突破出来ず、豚人魔術士に届く前に燃え尽きた。
今の弓と矢の攻撃力では突破することは難しそうだ。
だが、そのおかげもあってか豚人魔術士も障壁を維持する事に懸命な様子で、他所を援護している暇はないようだ。
チラリとダンテを見ると、コウランからの回復魔法と支援魔法を受けて、豚人指揮官相手によく粘っている。
スタミナ面や単純な筋力では豚人の方が上だと思うものの、ソウマはダンテならこの相手でも任せられると信じた。
エステルは上位クラスの殲滅魔法を2度も使い、限界を感じていたが、ダンテを援護するために低位の攻撃魔法や強化や支援魔法を少しずつ行なっていた。
魔力欠乏を起こしかけてかなり意識が朦朧としていた為、安全を確保するため周りをコウランとフレイで固めた。エステルを横に休ませると、そのまま意識を失ってしまった。
ダンテの攻撃は豚人騎士指揮官に当たっているが、槍の先端では対したダメージを与えられない。一進一退の状況下が続いている。
そんなダンテが一瞬だけ此方を向き、大丈夫だから任せて行け…と言わんばかりの目力を込めて伝えてきた。
コウランも手振りを交え、任せておきなさいとジェスチャーしていた。
限界を超えたエステルを守るフレイも、主の意図を汲んでか器用にウインクをし、まだまだ元気に小鬼種の首を噛み切っていた。
頼りになる仲間の存在に胸が熱くなると同時に、負けていられないと感じる。
戦技【強打】を発動させる。障壁に着弾後ガァンと一瞬揺れるが展開されたままだ。
魔法という存在の厄介差に思わすニヤリと苦笑した。静かに空気を吸い込み、ふーっと息を吐き出した。
やってやろうじゃないか!
精魂接続を通してレガリアから炎熱属性を付与してもらっても護火障壁には相性が最悪だろう。
弓での遠距離攻撃から近距離の接近戦に切り替える。
刀を持ち豚人魔術士の方へ駆け出した。見る見る間に距離が縮まる。
弓での攻撃が止んだのを好機と見たのか、どうやら豚人魔術士が詠唱を開始した。
ソウマは詠唱が完成する前に魔法障壁に辿り着いた。
流星刀レプリカを抜いて素早く攻撃していく。障壁に当たる度に刃と障壁との魔力が相殺しあい、ジリジリと削っていく事が手応えを通して分かった。
連続攻撃しようと思ったが、どうやら詠唱が終わったらしく、焦り顔の豚人魔術士が杖を此方に向けた。
視線を読み咄嗟に首を傾けると、顔面近くを火球が飛んでいく。
しかしホッとする間も無くほくそ笑む豚人魔術士が見えた。
2段構えだったのかローブから魔結晶と呼ばれる魔法の媒介を取り出し、すぐさま炎の魔法攻撃がソウマの全身を包んだ。仲間側からは小さな悲鳴が上がる。
豚人魔術士は勝利を確信した。粗末な装備をした人族が、業火とも呼べる魔法の威力を受けて無事で有るはずがない。
残る魔物と豚人騎士指揮官の援護に詠唱を開始しようとした。
その時、炎の中から武技【流星刀・イルマ】と聞こえた。
燃え盛る炎の中から淡く輝く刀身がニュッと突き出てきた。
そのまま炎を切り払い、護火障壁へ突き入れた。
ガリリ…と刀身と障壁の狭間で軽い抵抗があるが、パリンと呆気なく突き破られる。障壁を破られ守る術を持たない豚人魔術士を突き殺した。
ソウマは荒い息をついて煤けた格好していたが、五体満足である。
ラッキーだった事に精魂接続で炎熱耐性(中)が発動して炎の魔法のダメージを軽減させたのだ。
炎の魔法で無かったら実際かなり危なかった。偶然が重なった勝利だが勝ちは勝ちだ。
すぐさま豚人騎士指揮官の相手をしているダンテの援護へ向かう。
帰ってきたソウマを見て、パーティメンバーが仲間の無事が嬉しくて歓声を上げた。
豚人魔術士をようやく倒した事で、自然とフォーメーションが変わる。ソウマが豚人騎士指揮官を相手にし、側面の敵をダンテとレガリアが受け持つ。
皆の歓声を聞き、エステルが目を覚ました。少しの間だが休めたエステルは、倦怠感はあるも思考能力が少し回復した頭で冷静に考え、何故ダンテがそのまま受け持たないのか不思議に思っていた。
弓士としてのソウマは確かに凄まじかったが…明らかにパワーファイターである豚人騎士指揮官を相手に務まるんだろうか…では、お手並み拝見としようか。
ダンテを相手していた豚人は傷付いていたが、体力消耗は少ないらしい。
ソウマを睨みつけ、鼻息も荒くハルバートの斧頭で鋭く突いてくる。
ソウマはマトモに受けず、前進しながら身を躱した。
距離を縮めて流星刀レプリカで斬りつけるもタワーシールドでしっかりと防御される。
防御している間に軽々と片手でハルバートを振り上げ、豚人は全身の力を込めて振り下ろした。攻撃は当たらなかったが、当たった先の地面が割れて轟音が響く。
ソウマは振り下ろした先のハルバートの長柄を狙い、両手で刀を持ち攻撃する。鉄鋼である金属部分のかなりの抵抗はあったが、刃筋を通しキンッと澄んだ音が鳴り、切断を可能とした。
レガリアと精魂接続をつなげて炎熱攻撃(中)を付与して貰い、サッと真横一文字に斬る。
豚人が咄嗟に後ろへ引いて回避しようとするも間に合わず、鎧を斬り裂き腹から臓物が飛び出た。
肉が焼け、豚人騎士指揮官の絶叫が辺りに聞こえ、うずくまった。
下を向いた姿勢のまま刀を振り抜き、首を落とし絶命する。
流れは此方に向いた。統率者を失いオロオロとしている魔物達を掃討し、迷宮洞窟における魔物祭は終了した。
辺りには血の臭いと死体が散乱としている。疲れているが、魔物の無事な武装を全員で剥ぎ取る。
放っておくと魔物の死体は迷宮に喰われる現象が起こる。
文字通り意味で迷宮に放置しておくと、人種や生物、魔法生物、アンデッド、BOSSすらも問わず、いつの間にか消えてしまうのだ。
勿体無いので消滅する前に折角なのでレガリアに喰べて貰う。
犬人魔法使いや小鬼魔法使いは魔力の高くて美味しいのかゴクッ、ゴクッと噛みしめるように飲み込んでいった。
そしてメインディッシュに豚人魔術士と焼けた豚人騎士指揮官をバキバキと装備品ごと喰われていく。
全てを喰べ終え、消化吸収スキルで相当な経験値が貯まった。
特に魔法使い系の職業を持った魔物達からは魔力とSPのステータスが上がり、また【魔力制御】のスキルを手に入れることが出来た。
体外魔力操作の1段階上のスキルてある。魔法を練りやすく、威力上昇補正や詠唱を省略するスキルだ。
豚人騎士指揮官から何もスキルは得られなかったが、レガリアに大幅な経験値が入り、筋力ステータスが上がった。
この戦闘でついにレガリアのLVが50に上がり、【擬態】のスキルLVがEからDにアップした。
無事な武装の戦利品を並べる。
安物の短剣×45 ノーマル級
鉄の剣×40 ノーマル級
見習い魔法使いの杖×10 ノーマル級
魔法士の杖×1 ハイノーマル級
革の鎧×23 ノーマル級
古びたローブ×2 ノーマル級
オーク軍制式 ローブ×1 ハイノーマル級
小鬼の腰巻×52 ノーマル級
オーク軍制式 鉄鋼の兜×1 ハイノーマル級
オーク軍制式 鉄鋼の手甲セット×1 ハイノーマル級
オーク軍制式 鉄鋼のタワーシールド×1 ハイノーマル級
ずらっと並べたが、こんなに短剣や鉄剣があっても使わないし、ソウマがハイノーマルと鑑定したローブは臭く、防具も重量がありすぎて誰も要らないと言われた。
杖関係は魔杖では無い為エステルもいらないと言う。
そのため捨て値で全てソウマが買い取って、レガリアの経験値の糧とさせて頂いた。
いよいよ中央に鎮座してある宝箱を開く時がきた。
全員で蓋を開けると、宝箱には光り輝く大粒の結晶が6つ入っていた。
C級 水晶核 特殊レア素材
魔物祭を制した強者のみ与えられる。
この特殊レア素材は倒した全ての魔物の凝縮した魔力を集めた宝玉である。唯一無二の特殊素材で様々な用途に使い道がある。
浮かび上がった文章を読み上げ、この宝物を皆に説明すると驚きを持って迎えられた。
エステルには君は見掛けによらず、意外と博識だと感心されたくらいだ。
実際に滅多に出回らない特殊素材で、強力な魔法道具や魔法装備の非常に有能な素材になるらしい。
使い道がないなら私が適正よりも高く買い取ろうと持ちかけた。
とりあえず、宝箱から宝玉を取り出して皆に均等に分けた。今回はレガリアとフレイの分も含まれているので、ソウマとコウランは2つずつ貰える事になる。
ダンテとコウランは使い道がないからエステルに売ることに決めたようだ。
例え持っていたとしても、それを扱える鍛治職人や錬金術師の知り合いやコネが無い為、通常より高く買い取ってくれるならお金に変えた方が良いと考えたからだ。
また、高価な品を持っていることで下手に狙われるリスクも避けるでもある。
ソウマとレガリアの分は丁重に断り、売らなかった。
1つは試作型の鎧一式に使用してみる事にし、残り1つはその場でレガリアに与えた。
希少な宝玉が…と背後から悲しそうな声が聞こえたが無視する。
綺麗な破砕音と嚥下音が聞こえると、レガリアは喰べたことの無い味に歓喜を表した。
送られてきた念話からは極上のスイーツを味わったようなイメージが…感動して震えるようなレガリアの行動からも明らかだ。
宝玉である水晶核を余さず吸収した所で、レガリアの魔力ステータスとSP増加量が多大に増えた。
スキル【魔法の理】
スキル【無属性魔法(初級)取得可能】
と、ステータス欄に追加された。
自分ではもう魔法が覚えられない為、レガリアの新しい可能性に嬉しさが隠せない。
それに精魂接続を使えば限定的だが自分も使えるかも知れないのだ。
エステルに無属性魔法の事を聞き、それとなく初級ではどういった魔法が覚えられるのかを聞いてみた。
その結果、無属性魔法初級ではエステルも使っていた感知魔法と耐魔法解錠、魔力矢などがあると教えてくれた。
これらくらいのレベルの魔法は町の魔法屋でも売っているそうだ。
ただ、高位無属性魔法である魔力探査や魔力障壁、魔法解呪や無属性の殲滅魔法などは覚えられない事が分かった。
これならパーティに盗賊系の職業持ちや便利な魔法使い系の職業持ちが居なくとも、最低限迷宮探索が楽になりそうだ。
嬉しい結果に内心小躍りしそうな上機嫌なソウマであった。
ダンテとコウランもソウマがなんとなく機嫌が良いのが分かり、気分良さげに話を振ってパーティ全員の士気を盛り上げた。
エステルはこのチームが気に入り始めていた。潜在能力の高いチームであり、全員必ず何か状況を打開するナニカを秘めていた。
魔物祭は生易しいモノでは無いが、このチームならば出来ると信じ、挑戦を決意してみた。
何故私は大丈夫だと思えたのか…。
私の調査団人生の中でも2回目、それほど挑戦する事が少ない。
その時は同じB級冒険者と1人のA級冒険者がいた。
同業者から魔物祭へと繋がる部屋に転移させられる罠をしかけられて、ワープした先での大部屋にて戦った。
ここと同じC級迷宮ランクだったが、当時A級冒険者であり、当時パーティにはここのギルド長アシュレイが加わっていた。
彼の奮闘が凄すぎて…怪我人はでたが誰も死亡せずに乗り切れた。
その戦いぶりは魔杖剣の使い手ここにありの一言に尽きた。
例えば、もし同数のC級ないしB級の冒険者達が今日と同じ状況になったら、果たして無事乗り切れただろうか?
自分は魔物祭を回避していただろうし、何人かは最悪死ぬかも知れない。重症者は必ず出ただろう。
ソウマの戦闘を思い出した。
凄まじい攻撃を躱し、筋肉で覆われた豚人騎士指揮官を鎧ごと斬り裂く。そして、あっさりと首を一太刀で落とす行為は並の冒険者では無理だ。
恐ろしいまでの筋力と技量が伴わなけば出来ない芸当である。
私の周りにいた者は貴族と言う地位とお金を狙う者や、お世辞と権力を使い、実力もないのに父への取次を願う者ばかりだった。
最初から貴族として接していると皆萎縮してしまい、顔色ばかりを伺って誰も私を見てはくれない。
このチームでは貴族だと分かっても取り繕わないし、素の私でも気にしない者たちがいた。
貴族としての生活に限界を感じ、何もかも嫌で家を弟に任せて、自分は魔術士としての実力もあって調査団へと編入した。実家からは戻ってこいと再三書状が届いているが、気にしていない。
そういえば今回、胡散臭い従騎士と名乗る実家から派遣されてきた男も、お世辞と自己自慢がうるさく途中で置いてきたのだった。
面倒ごとを起こしてなければ良いが。
嫌な事を思い出した記憶を頭から振り払い、エステルから小さく一言。
「認めてやっても良い」
彼女は自分を受け入れてくれた居心地の良い空間とパーティに対して初めて、そう呟いていた。




