着装スキル
最近、書く時間がなかなか取れません。その為お待たせすることが多くなって申し訳ありません。
凄い雷が闘技場へと落ちた…モクモクと立ち込める煙が薄れてくると、薄っすらと人影が見えた。
見える人影の背格好は、あの大男よりも一回り大きく、角や尻尾のシルエットが見えた。
警戒していると、そこから現れた奇妙な異形が此方に近付いてくる。
「此奴は…」
恐竜人間のような姿形で、言いようのないアンバランスが滲み出で気持ち悪さを倍増させている。
良く見ると頭部全体は紅い2本角生えた蛇の頭。白く鱗がビッシリと生えたような生々しい面頬兜を装着している感じだ。
右手に持っている長槍は爪状に魔力が伸びて発光している。
腰の下からは背ビレが生えており、細い尻尾の先には丸くバチバチと放電している雷球がついていた。
魔物…ではないだろう。状況から考えるとあの大男だと思われる。
そうだとしたら、この時点でルール違反として彼等の負けは確定した。
グリッサと真面目なギルド職員が試合の中止と反則負けを大男に提言するが…意も介さず鼻で笑っている。
ソウマも試合をこのまま続行する事で構わないと告げた。
現実世界でも経験があったが、こんな人間はマトモな話し合いにもならないタイプが多かった。
今やるなら徹底的に叩かないと…後から厄介事を招く危険なタイプだ。
約束も守らず、何をしてくるのか分からない怪しい人物は危険な存在だ…と、ギルド側は再度中止を申し入れる。
しかし当事者達が試合実行を望んでいる事や、審判であるグリッサもが頑として首を振らず終了を宣言しない。
これ以上粘っても無駄だと判断したギルド側が下がって行く。
それを見たグリッサはすかさず、
「ソウマくん、貸し1つね」
…聞こえなかった事にしよう。
改めて気を取り直し、大男の持つ3爪に分かれた輝く長槍を確認する。
試作型雷装槍 レア級
古代、雷雲海に生息していたとされる雷を操る亜竜である【百雷蛇】の希少な竜核と轟雷を発生させる器官を用いて作成された長槍。
古代の叡智と作り手の技術との融合により、竜核を共振させ、かの亜竜の形態とスキルを不完全ながら装備者に顕現させる。
武技【百雷竜核着装】
ほほう…ん、スキルに百雷竜核着装?
着装スキルなるものは知らないが、元となる百雷蛇については、確か以前ネットの掲示板での書き込みを見たことがあった。
上空都市の一つであるサルバドールから生み出される雷雲海のフィールドのみに出現するはずだ。
全長10mにもなる巨体を有し、白鱗で覆われた身体はレア級以上の武器でないと傷つけられないとされている。
黄色の角から体内の器官を通じて血流を集め、口からではなく尻尾に常に雷属性の魔法である雷球を充電させている。
雷雲海にのみ出現する雷竜種の眷属で、亜竜科に分類された一種だったような。
その珍しい長槍は何処で入手したのかわからないが、外見の特徴から判断して間違いなく亜竜種の素材で作られたモノなんだろう。
じっと考えていると、おもむろに大男が口を開く。
「今までの健気な抵抗を讃えて、貴様相手にこの切札を使ってやるんだ。有難く思えよ」
「…?」
「ふん、この姿の恐ろしさに恐怖で声も出ないか?貴様のような卑劣な男には随分と勿体無い技だが…俺の本気を見せてやる」
何が卑劣なんだ…反則もしておいて、丸腰相手にヌケヌケと…少し怒りが立ち昇る。
無言で弓を引き、射る。
ヒュンと音を立て一直線に矢が飛んで頭に当たる。が、奴が吹き飛ぶどころか当たった矢が逆に砕け散ってしまった。
「ぐあっ、いきなり痛えな。ま、これでお互いにおあいこだろ?もし死んでも恨みっこ無しだ」
「好き勝手な事を言いやがって…」
やはり物事を自分の都合良くしてくる厄介なタイプだった。
ブワッと風圧が押し寄せてきて、目の前に白い塊の男が飛び込んでくる。
魔力で作られた爪の長槍はギュインと雷属性を纏い、突き技を放つ。
戦技【2段突き】の効果で更に肥大化した攻撃がソウマを襲うが、元々のステータス差もある。また見切りを発動している為、難なく躱す。
避けて躱し弓を使って反撃…と、暫く様子を見ながら戦闘していたが、この着装スキル自体は身体能力は劇的に上げるといったモノではなさそうだ。
少なくとも今回に限ってかも知れないが。
変身してからは若干のスピードアップはあったが、それよりも攻撃力が大幅に上がっているし、防御力も上がって弓矢での攻撃では決定打に欠ける感じを受けた。
しかしながら、使い手があの大男では能力に振り回されて、有効に使いこなせていない。
そう分析をしながら攻撃を避けていると、大男からイラついた声が響く。
「くそ、ちょこまかと…いい加減そこを動くなよ!今度貴様が動きまわると狙いがあっちに逸れるかも知れんぞ」
そう宣言すると、ギルド職員の方へ槍を向けた。
人質かよ…クズっぷりが板についてきたようだ。
グリッサも顔を顰めており、ギルド側に寄って臨戦態勢で審判をしている。
最悪ギルド側へ攻撃されて間に合わなそうなら、彼女の助けを請いそうだ。
ソウマはその場で動きを止めると、嬉しそうに大男が嗤った。
「最初からそうしてれば良いんだよ。手間をかけさせるから人質紛いの脅迫をしなくちゃならないんだ」
槍を向けられたギルド側は不快感を露わにしていたが…大男は気付きもしない。
気迫のこもった鋭い一撃がくる。その突き技の攻撃を流星刀レプリカで払う。
槍のリーチが長い分、此方の反撃は大男の身体には届かない。繰り出してくる攻撃は一方的で嵐のような攻撃が続く。
元々のステータス差は此方の方が上。
武器を使った攻撃の対処は対応がきくが、着装スキルで上積みされた魔力攻撃は油断出来ない。
迸る雷撃が長槍から漏れて直撃はしていないが、時折ソウマの身体を徐々に傷付けてきている。
長槍の攻撃を捌いていく毎に刀剣技補正が発動し、習熟度が地味に磨かれていく。
どうせならと相手の武器破壊を目指し、槍の穂先に少しでもダメージを加えるべく同一箇所を何回も斬りつける。
「器用な真似を…だが何時迄モツかな」
ソウマの身体ダメージのみを気にして、長槍の変化には気付いていないようだ。
流星刀レプリカと試作型雷装槍は同じレア級の武器だが、扱いに関しては負けていない。
長槍の穂先に目には見えない細かなダメージを蓄積させていく。
何度目かの攻撃を弾いた際、僅かに磨耗した傷を視認し、武技【流星刀・イルマ】を発動させた。
金属の澄んだ音と破壊音が鳴り、長槍の穂先が砕ける。
砕かれた長槍の穂先を見て絶句し、みるみる憤怒の表情を浮かべた大男は、
「死体も残さず消滅させてやる」
そう言い放った後、大男の背ビレがビリビリと揺れて輝き、尻尾の雷球が膨れていく。
「この槍の元になった百雷蛇はこんな風に尻尾から最大電流を放出出来たそうだ。竜息と同じくらいの威力をその身で味わえるぞ」
恐怖を味わえ…と、勿体つけて説明をし始める。
魔力が背ビレに凝縮し、バチバチと尻尾の先から大きくなった雷球は、今では大人2人分程の大きさがある。
「優しい俺様のせめてもの慈悲だ…最大まで魔力を雷球に貯めきってやろう」
試作型雷装槍は魔力を変換し雷属性を纏った武器攻撃に、限定的だが放出系の攻撃スキルも兼任。
着装のベースとなる生物にもよるだろうが、この着装スキルとは何と便利な存在なんだと感じてしまう。
世の中に溢れれば大抵の魔物など問題にならなくだろう。
さて、此方の仕込み準備は終わった。相手をわざわざ待ってやる事は無い…後は突撃のみ。
ソウマは大男から攻撃が放たれる前に全力で突進した。疾風の如く距離が縮まる。
「バカな奴め…俺の雷球の発動する方が速い。そんなに早く死にたかったのか」
魔力をチャージし終えた背ビレは眩いばかりの閃光が輝き、直径2mもの極太の雷球がソウマに向けて雷速で放たれた。
激しい衝突音と振動が闘技場全体を襲った。誰もが目を瞑り…開いた時には大男は壁に叩きつけられおり、長槍は散らばっている後が見えた。
その場でソウマ自身も軽い火傷を負っており、荒めの息づかいで片膝をついていた。
一定量以上の大ダメージを受け、着装スキルを解除された大男が驚愕の表情で目を見開いている。
刀をしまってソウマが弓を取り出し、つがいだ矢が放たれた。
その短い間の意識の中でゆっくりと時間が過ぎている錯覚を覚え、大男は昔を思い出していた。
昔、ガキ大将だった大男はパーティのリーダーで力自慢の槍師。
手先が器用で身長が低い男は罠や宝箱を解除することを得意とする小鬼族の盗賊
戦闘能力はリーダーに次いで高く厳つい顔のドワーフは両手斧使い。
回復魔法の才能があり、遂に微量だが回復魔法を開花させた優男は司祭侍者
最後にこのパーティの頼れる参謀役。先天的に闇の魔法が使える眼鏡の男は冷静沈着な闇守の剣士。
駆け出しの頃からこの5名でどんな困難でも乗り越えてきた。
俺達は隣国と戦争が始まる噂が絶えなくなった頃、幼馴染の仲間5人と最後の挑戦として西の帝国近くの森の奥地にあるサルバドール迷宮遺跡に挑戦した。
この迷宮遺跡は古代から存在し、全30階層のB級ランクの迷宮として知られている。難易度はC級迷宮とは比べ物にならなく、最終攻略者も少ない事で有名だ。
BOSSに辿り着く前に死ぬことも少なくないと言う。
一流と呼ばれる高位の冒険者でもBOSSに勝てる者は極僅か。その分、ドロップアイテムも非常に強力な品ばかりだ。
サルバドール遺跡は当時、冒険者ランクC級になったばかりの彼等がギリギリ挑戦出来るレベルだった。
出現する敵をどうにか倒して進み、ある階層にて隠し部屋を偶然発見した。
宝箱の中に入っていた光輝く長槍を見つけた時、身体中に電撃が走った。パーティ全員で喜び、皆が俺が持てと言ってくれたっけ…。
アデルの町へ着いてからも着々と攻略を進め、現在攻略中のサザンのフィールドBOSSである焰巨人討伐だってあと一歩で達成出来る所まできた。
これから待つ黄金色の冒険者人生も夢じゃなくなった。もう俺達に敵はいない。
そう、この槍を持つ限り…。
当時を思い出した大男は最後の力で自分達を打ち負かしたソウマを一目見て…矢の着弾と共に気を失った。
大男が巨大な雷球を発射した時、予め準備しておいた【巨人の腕】で相殺する。シビアなタイミングだったが間に合った。
そこまでは良かったが雷球を相殺した余波で身体中が少し焼け焦げた。
閃光と豪雷が轟く中、大男目掛けて駆け抜け刀の峰で鎖骨を砕いた。
大男が絶叫を上げ変身が解除された。直後腹に手加減の無い蹴りを叩き込み、凄まじい速さで吹き飛んでいく。
さりげに長槍の破片と残った残骸を集める。直径8cm幅2cmの真っ白な骨のような殻に包まれ、中には黄色に輝く宝石のような美しい核らしきモノがあった。
コレが百雷蛇の亜竜核?と思わしき部分もあり、全てアイテムボックスに回収しておく。
しかしあの大男が使った着装の変身スキル、厄介だったがロマン溢れるスキルだった。いつか自分も…。
グリッサが告げた試合終了…の声で正気に戻った。
彼等はギルド職員に担架で連れて行かれた。気絶した者はともかく、あの大男は暫く入院だろうな。
戦いが終わり、手当を受けたソウマは後でギルド長に部屋に来るように職員から告げられ、現在ギルドへ向かっていた。
石造りのギルドへ入り、受付に話をすると、案内され中へ通された。
失礼しますと声がけ入室した。
部屋の内装は赤い絨毯に大きな本棚、黒光する机と椅子にこしかけていたのは、白髪は目立つが鍛えている事が服の上からでもまるわかりな筋肉をもった御老体だった。
鋭い眼光を全身に受けながら、座ることを許可されたため着席する。
ギルド長が落ち着いた渋い声で用件を伝える。
「急な呼び出しにも応じてくれてありがとう。私はこのアデルの町冒険者ギルドの長、アシュレイと言う。ソウマくんだったかな?まずは当ギルドの面倒ごとに巻き込んで申し訳なかった」
謝罪から始まり、ギルド長からは最近は西の帝国の戦争の影響で流れてきた冒険者や盗賊が増えてきて、治安が悪化している事を伝えられた。
また秩序など模範的に活動して取り締まりを行っている名の知れた冒険者達の失踪を教えてもらった。
やはりまだ拳嵐のメンバーは行方不明で見つからず、現在も捜索中らしい…
「では、本題に入らせて貰おう。実は君を見込んで是非受けて欲しい依頼があってね」
ソウマが逡巡していると、一枚の羊皮紙を取り出し、見せて貰った。
B級冒険者クエスト 依頼者:ギルド
依頼内容を見ているとこんな事が書かれてあった。
サザン迷宮洞窟内の下層魔物である炎鬼は非常に好戦的であり、活発化していた。
また、冒険者達からは非常に強い炎鬼達少数が報告されている。
以前に調査依頼したC級冒険者達も特別に強い炎鬼達に苦戦しBOSSに辿り着く事が出来ず…詳細を掴めていない。
最近、サザン迷宮洞窟にて好戦的で活発化していた炎鬼達が何故か活動を休止している。出来るだけ情報を集め報告して欲しい。また、ギルドからも調査員として1名派遣するので協力して当たって欲しい。
まとめたらそんな事が記されていた。
この依頼は…正直自分達が修羅鬼が討伐した影響だと思うが…出来れば冒険者ギルドとは最低限の関わりの付き合いだけにしたい。主に目立ちたくないと言う理由で。
ソウマの表情を読み取ったのか、依頼書を見せたギルド長がゆっくりと口を開く。
「先程の腕前と言い、下手な冒険者よりも余程実力がある君達を見込んでいるんだ。依頼を受けてくれると信じているが、万が一断れば、この町で今後何かと不都合が起こるかも知れない…可能性があるだろう」
話の途中から表情を険しくしたソウマに、悪魔で宥めるように声を掛けられる。
ギルドからの脅しか…余所者である自分達が死んでもギルドとしては何の問題も無いし。
自分だけならば兎も角、断ったらダンテやコウランの探索者としての活動に支障が出ては申し訳ない。…ここは折れるしかない。
自分は駆け引きとか得意ではないのだが…せめての意趣返し。
「良いでしょう…但し本来なら高ランクの依頼を冒険者でもない自分が受けるんです。其れなりの報酬を保証し、提示して頂きたい」
クエストの受注はコウラン達に事後承諾となるが仕方が無い。
「確かにB級冒険者用のクエストだからね。ふむ…」
と、思案した提示の中には、マジックアイテムや多額の金貨、レア級の武具など色々とあったがその中にはソウマにとって一つ、興味深い報酬があった。
ダンテとコウラン用にはとりあえず金貨を選択し、ソウマは自分用にその項目を選択した。
ソウマの選んだ報酬に軽く眼を見張ったギルド長だったが、報酬を快諾し面白そうな表情で退出を許した。
ソウマが退出して暫くした部屋では、ギルド長は座ったまま背後に声を掛けた。
「君が見込んでた若者は随分と物騒な若者だったね」
「それは貴方があんな風に言うからでしょうが」
呆れた口調で答えた主は、隠蔽のスキルを持つローブで姿を隠しているが、紛れもなく女性のシルエットだ。
ソウマが気配察知を使っていたなら、さぞ驚いたことだろう。
明らかに苦笑しながら隠し扉から現れたのはグリッサだった。
「ま、とりあえず感謝するわアシュレイ。おかげでどういった人物か見えてきたわ」
ソウマは今回の件で実際の戦闘能力はかなりのモノだと再確認させられた。
この私が最後に何が起こったのか分からないくらい…こんな子が今まで無名だったとは思えないくらいだわ。
先程の反応からして隠し事が出来る男ではないし、少なくとも彼は悪い人物ではないと思う。
後はまぁ…若すぎるのよね。個人的にはもう少し歳をとればイイ男の仲間入りかしら。
「やれやれ、こんな憎まれ役はもうゴメンですよ?人使いが荒いのは変わらないですね」
「あら、麗しの師匠の役に立てたじゃない。もっと喜んでくれて良いのよ」
そう言って軽口を言い合う様は、親しい友人の間柄のようだ。
このギルドマスターのアシュレイとは、ソウマの前に天音斬りを習得した人物であり、今年で68歳になる元A級冒険者かつ、アデルの町のギルドマスターである。
今回こんな慣れない役を引き受けたのは、昔から頭の上がらないグリッサ教官にソウマの実力が知りたいと頼まれたからだ。
「確かに彼はギルドにもこの町にも役立てる男ですな。さて、来れからは忙しくなる。やることも増えたし、老骨には堪えます」
「良く言うわよ、暇潰しには丁度イイでしょ。頑張りなさい」
何処までも元気な元弟子によく似た面影の人物がダブった。
「そう言えば、あの子も元気かしらね」
「…アーシュのことですか」
苦い表情で呟くギルド長に笑いながら答える。
「あら、分かった?自分の愛娘ですもんね。側にいないからって心配いらないわよ。そんな表情じゃギルド長の名が泣くわよ」
「お恥ずかしい。遅くに出来た子なので可愛がり過ぎまして…親の欲目も有りますが才能もあってついつい鍛え過ぎました。武者修行だと家を飛びたしてから、今頃どうしているのやら」
「大丈夫でしょ?希少な回復魔法も使えるしね!師匠として断言するわ、あの子はそう簡単にどうにかなる子じゃないわ」
戦闘経験や技術的な事はともかく、あの当時で回復魔法の腕前は既に私を超えていた。
彼女が家を出てもう3年間がたった。
「娘は貴女に憧れてましたからな。唯一家出する前にせがまれた装備品はジュゼットに特注して作って貰った真紅のチョーカーでしたよ」
そんな話をしながら、ギルドで密談する2人だった。
修正ありましたら、少しずつ直していく予定です。




