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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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味噌を発見する

レガリアは暫く修羅鬼百夜の姿をとり、ジュゼットとドゥルクのドワーフコンビと共に新しい素材の研究と、幾つかのレア素材を組み合わせて初の試作型の鎧を作る予定になっている。



ドゥルクはボロボロになったソウマの剣を修復したら、1度ユピテルの街に帰るそうだ。流石に何時迄も店を空けたままに出来ないのだろう。



鍛治場でどうせならと…星の隕石を巨大な装置にかけてキラキラと輝く粉にする所を見学させて貰えた。

凄い音を鳴らし、ローラーが隕石が徐々に擦り合わせて圧迫していく。粉々になっていく様は圧巻である。


この貴重な装置は古代遺跡から補修されたモノが国から送られてくるため、数は限定された。

まず設置場所の施設自体に防衛力があり、尚且つ大きな鍛治場にしか設置出来ない。


親方ジュゼットには誇らしげにユピテルの街には無いぞと、伝えられた。大型炉を搭載し装置を使いこなせるだけの技量を持つジュゼット。

国の鍛治師協会からその他の人間には未だ許可はおりていない。




久しぶりに町を1人でぶらぶらと歩く。魔法屋の前を通るとコウランとダンテが入って行った。

魔法屋か…始めた時以来殆ど入ったことはない。2人はなんだかんだで仲が良いな。



邪魔をするのも申し訳ないので、そのまま通り過ぎて、町の外れに向かった。町の外れには寂れた定食屋がポツンと建っていた。準備中の札が立てかけてある。



店の扉の隙間からは良い匂いがする。それも前世で嗅ぎ慣れた匂いが…堪らず腹がなる。思わず中に入ってしまった。


「ん、珍しい、お客さんかい?だが、まだ準備中だよ」


「お母さん、いいじゃない。いらっしゃいませ。どうぞお席に座って下さい」


店内には緑髪で親娘と思わしき人達がいて、言われるがままに空いている席に座った。しかしこの匂いは間違いない。これは…味噌の匂いだ。


余りの懐かしさに涙よりも食欲が勝った。


「まさかコレは…味噌なのか?」


「あら、良く知ってたわね。私達の故郷の食材で味噌という発酵食品なのよ」


嬉しそうに答えた親御さんの方は上機嫌だ。彼女達はここより東の島から来たという。

40年前に海に囲まれた故郷から町の復興募集を見てこのアデルの町に住み着いた。


やっと思いで町へ着いたものの、既に町は復興ラッシュが過ぎ、定員人数を越えた働き口が極端に無くなり…ならばと自分達で事業を始めることにした。


全財産で町の外れに小さな畑と貸店舗を借りて、故郷の食材と料理で定食屋を始めた。


しかし、アデルの住人には嗅いだことの無い味噌の香りは、発酵しているためキツメの匂いだ。

その為、なかなか受け入れられず、発酵食品を腐っているのではないか?と誤解を招き、噂と共にお客さんの客足が遠退いていった。


親娘の必死の宣伝活動や無料試食会などにより、徐々にリピーターのお客も増え始めたが、貸店舗と材料費を除くと殆ど手元にはお金は残らない。それでも懸命に働いて現在に至る。


「いや、突然に失礼しました。自分の故郷にも味噌があって…嗅ぎ慣れた匂いと懐かしさが先行してお邪魔してしまいました」


「へぇ、私達の故郷以外にも味噌があるんだね?そう言うことなら遠慮はいらないからドンドン頼みなさい」


お礼を伝え、メニューを見る。味噌もあれば米も…と期待したが流石に無かった。残念だが、味噌があれば何処かに米もあるはず!


新たに米を探す決意が沸き立った。


メニューを見ると結構沢山ある。その中から焼いた干し魚の料理に冷奴のような豆腐料理を注文した。


そして味噌味の臓物の煮込みを発見した時は…心の中で狂気乱舞した。

勿論注文したが、お客さんの中では臓物の存在自体を食べるという異文化に似たイメージが良くないらしく…滅多に頼む人はいないらしい。勿体無いと思うが今回はラッキーだ。


折角なので、鍋ごとの味噌味の臓物の煮込みを買い取らせて貰えないか相談した。



準備中の段階で仕込みを見ていたが、調理過程で新鮮な動物・魔物の臓物を使っているのは確認出来たし、丁寧な下処理をしていた。

これは是非欲しい逸品である。買い取れたら最高な気分でレガリア達へのお土産にしよう。


「申し出は有難いんだけど…嫌がるお客様も多いから、せめて現物を食べてからにしなよ」


苦笑しながら小鉢に味噌味の臓物の煮込みを盛って貰った。今気付いたが手前にはなんと箸もある。


箸で摘み、口の中いっぱいにホルモンを頬張る。味噌の香しい匂いに臓物の臭みも感じない。

このしっかりとした食べ応えは、日本にあったあのホルモン鍋に違いない。急激に上がるテンションを抑えきれず口にかき込む。

コリコリとした肉の感触を楽しみ、噛むことで油を味わう。味噌との相性はバッチリで、一緒に煮込んである野菜も味が染みていて、より白米が欲しくて堪らない。

料理を食べ終わるまで手が止まらなかった。


後から出された焼き魚は旨味が身に凝縮され、焼いた時のほぐした身が美味しい。アジのような味わいがある。


異世界に転生する前は、母方の実家の富山県に伝わる昆布を新鮮な魚の身を昆布で挟んだ郷土料理、昆布〆が食べたくなった。

酒の肴に合うし材料が揃えば自分で作ってみるのもアリかも知れない。


冷奴は生姜がないのが残念だが、冷えていて口の中がスッとして豆腐が口溶ける。久しぶりのこの感触に味噌汁も飲みたくなったこの頃だ。


完食して結局、お土産に味噌の臓物煮を包んで貰う。味噌自体もお店に影響の無いよう少しばかり包んで頂いた。



至福の時間を味わいながら定食屋を後にした。ここは今後、贔屓にしよう。




お腹もいっぱいになった所で暇潰しに石造りのギルドへ見学も兼ねて向かった。


アデルの町のギルドは主に冒険者ギルドと言われる。

ユピテルの街のように職業別の巨大な施設のあるギルドではなく、町のお使いから魔物の討伐まで様々な依頼を人々や国から受け持ち、仲介することが主な仕事だ。


現在冒険者登録していないソウマは冒険者ですらないが、フリークエストと言って階級や冒険者登録無しでも受けられる依頼があるので、今日1日で受けられるクエストが無いか調べに来た。


ギルドへ入ると厳ついお兄さんから、魔法使いと思われるローブを着た青年、際どい鎧のお姉さんなど多種多様な人種がひしめき合っている。扉をくぐったソウマを一目見るが、その後は直ぐに興味無さそうに無視される。



余り気にもせずに依頼の掲示板を眺めていると、受付のお姉さんから声を掛けられた。


「おはようございます。当ギルドは始めてお越しですか?」


と、聞かれ、簡単な説明をされた。とりあえず冒険者登録は避け、フリークエストの一覧を見せて貰った。


町の清掃活動から始まり、道具屋の荷下ろし、引越しの手伝い、農作業の手伝いなど色んな依頼があった。


討伐依頼には最近出没する山中の盗賊討伐(危険度未定)や、サザン火山付近にて正体不明の狂乱兎マドネスラビットの希少種を探して討伐して欲しいなど、情報未確定の依頼や胡散臭い依頼も少なくない。


その中でも上記2つの内、何方かを受けようか迷っている。悩んでいると此方に近寄ってくる人影があった。



「おいおい、昨日酒場でグリッサ教官と一緒にいた若造じゃないか。こんな所で優雅に依頼探しか?」



と、ニヤニヤ笑いながら声をかける男達5人がいた。武装から見てハイノーマルの武具が多い。ただし声をかけてきた黒髪の大男のリーダー格と思わしき人物だけは、レア級と思われる変わった槍の魔力武器を手にしていた。


彼等はここ最近西から流れてきた冒険者達で、この町を拠点に活動し始めた。

町中で偶然出会ったグリッサに一目惚れしてしつこく迫り過ぎ、相当酷い目にあったようだ。妬みの視線が半端ない。


「お前見たいな弓士程度にはお似合いだな」


「ふん、デカイ顔しやがって…目障りなんだよ」


面倒だと思うし、特に思う所が無いので、無視していると流石にキレてきたのか、周りを囲まれ胸ぐらを掴まれた。


「…良い度胸だな!お前、舐めてんのか」



顔を近付け凄まれるが、死線を何度か超えたプレッシャーとは比べものにならない。


「ちょっと…何を揉めているんですか」


受付のお姉さんも困惑気味だ。


そっと弓士専用の戦闘服バトルクロスを掴まれた手を握り返す。


「先輩方、虐めんで下さいよ」


と、ニッコリ返す。ちなみに胸ぐらを摑まれた手は赤を通り越して真っ青だ。掴んでいるリーダーは痛みの余り声が出ないようだ。しかし、周りの男達は気付かない。


「ふん、分かれば良いんだよ。さっさと帰んな」


「ええ、そうさせて貰います…貴方がたがね」


と、思いっきり外へ向けて投げ付けた。綺麗に直線を描き、空いていた扉を抜け、外の地面に凄い音を立てて落ちた。


唖然とした表情の男達を尻目に、


「お帰りは彼方ですよ」


と、掴み上げながら4人の男を纏めて外へ放り出した。ご迷惑をお掛けしましたと、一声受付のお姉さんに声掛け、少しばかりのお金を迷惑料として置いてからそのまま外へ出た。


外へ出ると4人がリーダー格の男の周りに集まっていた。

まだ実力差も分からないらしく、此方を発見しソウマを睨みつけている。

リーダーはまだ気を失っていて、仲間の1人で回復系職業ヒーラーが慌てて回復魔法をかけて貰っていた。目が覚めると記憶が無いのか頭を仕切りに振っていた。


「巫山戯やがって…殺す」


残る3人は各々の武器に手をかけ、抜剣した。

これは往来の場である。幾ら何でもやり過ぎだとは思うが…先に手を出したのは彼方だ。仕方あるまい。


相手をしようと思ったがその前に邪魔が入った。


騒ぎを聞きつけたギルド職員達とギルド長が出て来て、直ぐに来て場が収められた。流石の彼等も大人しく従った。


抜剣者には罰則がついたが、どうやら収まりが付かないらしく一時的にソウマもギルド拘束となった。


お互いの事情を聴取される。

今回の揉め事はギルド内での目撃者も多く、ソウマへは厳重注意のみでお咎めは無かった。


絡んできた冒険者達は、最近特に周囲と問題が絶えなくなってきた。狩場を占領したり、他者を恫喝したりと。


しかし反面、数多くの依頼もこなしメキメキと台頭してきた冒険者でもある。


横暴な態度が目立ち始め、アデルの町の住人からも苦情もあり、ギルドでも扱いに困っている感じがある。


今回の事でもやはり彼等は反省の色が無いようだ。

騒ぎを聞きつけ、駆けつけたグリッサ教官を見て嬉しそうに騒いでいる。


グリッサに近付いて早速口説き始めると嫌な表情をしていたが、何か思い付いたのかニンマリと悪そうに笑い、ソウマを指差した。


「ソウマくんと模擬戦をして勝てたら一晩付き合って上げる」



そんな条件を焚き付け、5対1での模擬試合をすることになった。


普通はそんなハンデキャップのある模擬試合はない。


ギルド側も立会い、見学を行う。

グリッサが勧めるソウマという人物の存在に対して、ギルド長が深く興味を抱かせたのだ。

死人が出ないかと不安はあったが責任はギルドマスターが持つ、と言い切られる。その為模擬試合は決定された。



反対に馬鹿にしているのか!と、彼等の殺意が練り上がったり、勝った試合の後のお楽しみを色々と考えている事は間違いなかったが。




とりあえす、魔法と戦技の禁止、殺人は厳罰の上死刑と言い含められた上で、行われた。


審判はグリッサ。


殺気やるき満々だわね、彼等は」


「グリッサ教官…誰のせいだと思ってるんですか。勘弁してください」


「まぁ、貴方なら楽勝でしょ?私が相手をしても良いんだけど、同じ歳くらいの男の子の方がショックも大きいはず…図に乗っている彼等の目を覚まさせて上げなさいよ」


「はぁ」



考えても仕方ない…ソウマは久しぶりに和弓【優】を手に取った。


矢を使った攻撃の際、当たる所が悪ければ生命の危険があるので急所は狙わないように言い含められた。

そして矢の先は丸めたゴムような弾力のあるモノで覆われている矢を使用するため、殺傷力は殆どない。



彼等もその場に自前の装備武器を置き、模擬戦用の武器に持ち替えた。


リーダーの大男は刃を潰した長槍を装備し、周りを模擬戦用の子剣と片手斧、長剣にそれぞれ小盾を持つ3人で固めた。

回復役の神官も盾を装備し、万が一に備えている。


場所は町外れのイベント用の闘技場を利用させて貰った。広くはないが、両者に30mほど距離がある。


試合開始の音が鳴る。早々に小盾を構えた3人組が突っ込んで行く。リーダー格の大男はニヤニヤと余裕の表情だ。


弓を構え、冷静に射る。シュッと音が鳴り矢と盾が衝撃音をたてて激突する。あえて盾を構えた部分を狙った訳だが…見事に盾ごと吹き飛んでいった。


盾には矢が突き刺さっていた。矢の先は丸めて殺傷力が低いはず…だから当たったとしても大丈夫、大丈夫とソウマは気楽に射っていく。

グリッサも図に乗っている彼等を恐怖に陥れろ?みたいな事を言っていたしな。



その思案は効果的に相手に伝わった。

手加減されていると知らない彼等はこの威力で自分達の体に当たったらどうなるか…想像させられただけで前衛の彼等は恐怖で動けなくなった。

計3射目で盾を持っていた冒険者達は全員吹き飛ばされ、手には模擬用の刃を潰された武器のみとなっていた。


明らかに顔色が青ざめている。最初の様子から態度が変わった相手達に声をかけ、盾を取りに行かなかったら今度は身体に当てる…と伝え、再度盾を取りに行かせる。

盾を慌てて装備した事を確認し、今度は手加減をして同じ事を繰り返す。


グリッサもドン引きで審判役を務めていたが、これが弓を使ったソウマの実力なのかと、技量の高さに改めて感心もしていた。



盾に矢がビッシリと刺さっていく。何とか力を入れれば盾は吹き飛ばさない程度に手加減されている為、怪我はさせずにじわじわと恐怖の度合いを上げて行く。

男の悲鳴や嗚咽が響く。手は休めない。


最終的に堅い木材で作られた盾は、遂にバリアの如くパリンと限界を迎え、砕け散った。



盾が割れた事で身を守るモノは何も無い。恐怖が限界を越えたのか、其れとも皆で行けば何とかなると思ったのか…前衛3人が武器を振りかざして突撃してきた。


目は血走っており、落ち着きがない。誰もが恐怖に張り付いているかのように甲高い声で叫んでいる。


その後、数秒も立たない内に1人、また1人と手加減された矢をヒットさせられ、綺麗に気絶した。


後衛の回復役の優男の方にも手加減した矢を射った。リーダーが反応し長槍が迎撃しようと払うも間に合わず…装備していた盾すら構えられないまま、回復役ヒーラーの彼もそのまま後ろに倒れた。



その後、リーダーの大男は何故だか微動だに動かない。

訝しむ…が.試しに模擬の長槍を狙い射る。


寸分違わず持ち手の部分がへし折れ飛んでいく。


次に矢の先を大男に向けられた途端、大男はカチカチと仕切りに歯が鳴っていた。




「こ、ここ」



言葉が上手く喋れない。何だよあの化け物は…これまで俺は誰にも負けなかった。何かあっても仲間と一緒に何とかやって来た。


迷宮遺跡の隠し部屋でこの武器を見付けた時は、やっと俺にも運が向いて来たんだと思ったんだ。



それをそれをそれをそれをーーー!!!



こんなはずではなかった!

憎悪と共にそう思いながら彼は走り出した。

目指すは一つ。誰かが静止を叫ぶ声を出していたが、立ち止まれない。



もしかしたら背中から射られるかも知れない…そんな恐怖を乗り越えて何とか辿り着いた。


愛用のレア級武器を手に取ったら、安心感からか少し落ち着いてきた。


冷えてきた頭で倒れている仲間達を見つめる。正直喧嘩を売った相手を舐めすぎていた。こんな状況になったのも…元はと言えば俺の慢心の所為だ。



「俺は最低な上に情けないリーダーだが…どんな手を使ってもケジメだけはとらせてもらう」


そう言い放ち、長槍を空へ掲げる。


何言か呟いた後、空から目を塞ぎたくなるような光の轟雷が落ち、辺りは煙と閃光に包まれた。


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