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エルダーゲート・オンライン  作者: タロー


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24/88

サザン地下墓地 修行終了

レガリアが修羅鬼に擬態してレベルアップを図っている頃、グリッサの戦いも佳境を迎えていた。


キャロラインの生前の職業はトレジャーハンター。アデルの町でグリッサ達とは別のパーティに所属しておりライバル同士だった。戦闘職よりはパーティを支援するサポート役が多かったが、長年の経験者である彼女は並の戦闘経験を軽く超えている。


そんなベテランの経験を持つ彼女だが、グリッサ相手に攻めあぐねていた。小人族ホビットは小柄だが強靭な肉体を持っている者も多い。鍛え上げた脚力を活かし、疾風のように駆け回りながらグリッサの隙を狙う。

短弓を片手に次々と急所にピンポイントで矢を打つ。手数は多いのだが、冷静な動作で対処され、矢が阻まれる。

それでも短い時間に20本近く矢を叩き込んだ結果、鎧の繋ぎ目に何本か当たっただけだ。守りに重視をおくグリッサの防御をなかなか崩せずにいた。



矢も尽きかけた時、防御体勢を崩そうと短弓での攻撃の直後、強引に接近して短剣の武技【鎧通アーマードピアーズし】を発動させた。

至近距離での矢の連射にも対応して防ぎきったグリッサだが、現戦闘で突如短剣を使った攻撃に対応が遅れた。武技の効果で剣速がかなり上がった戦技の威力は、鎧との繋ぎ目である肩部分を浅く斬られる。


そのまま追撃に入るが、グリッサも唯では斬られない。直後、首に追撃にきた短剣の攻撃の軸をずらし鎧に当たるがままにする。鎧はガリガリと浅く傷付くも身体には怪我がなく短剣を受け流せた。


グリッサは体勢を崩した隙をつき、カウンター気味に戦技【音速斬ソニックスラッシュ】を発動した。


キャロラインも回避行動をとるが完全回避は叶わず、防御が追い付かない。その為、咄嗟に軽い金属で作製された短弓ハイノーマルを前に押し出し盾とした。剣との衝撃で鈍い金属音が鳴り、短弓は壊れたが辛くもダメージは免れた。


しかし、これで武器は短剣のみ。攻撃力はガタ落ちだ。

それをわかってか盾を構えてジリジリと接近してきた。


「降伏してくれないか?」


『ハン、心にも無い事を言うなよ…っと』


壊れた短弓をグリッサに投げ捨てた。


このままでは些か、いや不利なのは事実だ。短期決戦を覚悟し、やむを得ず亡霊騎士で得たスキル【負の波動】を発動する。



亡霊騎士の固有スキル【負の波動】は発動すると黒色の瘴気で出来たオーラを全身と武具に纏わせる。

多大なSPを消費するが自身の攻撃力と武具の装備能力を引き上げ、攻撃受けた際は相手に自動オートで瘴気によるダメージを与える攻防一体の技である。負の波動はレアなスキルであり、長年生き抜いた亡霊騎士のみが身に付ける。



グレンデルも切り札でソウマとの戦いにおいて使ったが、ソウマは負の波動自体をも切り裂いた。それは偶然天音斬りの聖属性が刃に宿ったからであり、負の波動を浄化出来たからである。そうで無ければカウンターの瘴気をモロに喰らい、対魔法防御の効果のない普通ノーマル防具のソウマは、かなり危ない状況に陥っていただろう。



先程説明した通り、負の波動は聖属性と相性が悪い。1度解除されたり、使用時間が過ぎるとリスクの反動で全ての能力が下がる。このような反動がくるスキルの使用の際は、発動している間に倒し切るのが常套だ。



スキルの発動にて黒色のオーラが身体中から溢れる。グリッサが上段から勢いよく剣で攻撃するも、堅牢な負のオーラと剣の無属性魔力とがバチバチとせめぎ合う。瞬間、負のオーラを突破出来ず剣が弾かれ、逆にカウンターで襲ってきた瘴気にジュクジュクと蝕まれていく。ダメージの他に混乱などのバットステータスが起こる。


予め、何かしらの予測していたグリッサは即座に下唇を噛み、少し混乱して朦朧とした意識をハッキリさせる。おかげで異常は少ない。

まだ少し朦朧としていたが、魔力武器である剣が弾かれた以上、別の選択肢である聖属性魔法を選択した。


アンデッド系には聖属性が有効だ。防御にSPを使い過ぎて残りは少ないが、グリッサは聖属性付与ホーリーウェポンを詠唱し剣に宿した。



何度かの攻防戦のあと、ついに決着がつく。迫りくる剣撃に防御が追いつかず、ついに負の波動の瘴気ごと払われた。負の波動を解除された反動で酷い倦怠感と共に一気に能力が落ちる。




キャロラインは相手が聖職者である以上…最初から相性の悪い相手だったとわかっていた。


短剣を握し締め、荒い呼吸を整える。体はもうピクリとも動かないが、眼光だけは逸らさない。


グリッサは最後まで胸にくすぶっていた躊躇いを捨て、せめて安からに逝けるように動けないキャロラインの心臓を一突きに刺した。


聖属性の浄化の光により、薄れゆく意識の中で自分を倒した相手を見た。泣きそうな表情をしていた。


(…ちっ、そんな顔をするなよなぁ)


彼女は走馬灯のように昔を思い出した。



アデルの町で男女5人パーティを組んでいた頃、彼女は手先が器用でパーティの斥候を任されていた。

パーティの中で1人だけ独身の彼女は恋を知らない。恋愛まで行くほどの男性経験が無かったのだ。その理由の一つとして他人に誤解を与えるほど口調が悪く、態度も悪いことが挙げられた。小人族ホビットで可愛い外見なのだが、素の自分キャロラインはいつも男性の第一印象が悪い。彼女の良い所をわかっているパーティメンバーの男性陣は全員妻帯者。本人は自然と縁がないのだと思い、もう恋を諦めていた。



時が過ぎ、アデルの町とロースアンテリア国との軍の戦闘開始が近付く。町は要となる決死隊とも言える部隊の志願兵を募集した。幼い時に両親も亡くなり、天涯孤独だった彼女キャロラインは召喚陣のメンバーに入るかどうか悩んだ。しかし、培った能力を活かして敵と戦う方に志願し防衛に貢献した。最後まで生き残りはしたが、戦場で受けた傷が原因で直ぐにこの世を去った。

彷徨う魂は死光結晶に吸収され、再び負の生を受けた。


その際、始めて出会った人物がグレンデルだった。彼は見知らぬ私に親しく話し掛けてくれた。気が合う人物だと思ったが、話して行く内に戦っていた敵国の人間だと気付いた。これまで口調や態度も関係なくここまでキャロライン本人を理解してくれた人はいなかった。とても複雑な気持ちを抱えながら…距離を取ろうと思った。


だが、気さくな人柄や屈託の無いグレンデルの笑顔が頭から離れず…結局2人揃って行動する機会が増えた。

結晶内は暗く、淀んだ瘴気に溢れていたが亡霊騎士となった身には新鮮な空気の様に心地よく感じた。

幸い時間は充分にあり、お互い色々な事を話し合った。アデルの町の人間だと名乗ると彼は正直に敵国の人間であったことと、どのような事情だったのかを説明し、深い謝罪をされた。グレンデルの誠実さに惹かれていった。


長い時が流れ、時折瘴気が濃くなった時に何の因果かふと結晶の外に導かれるように出られる時があった。地下墓地にある知り合いの名前や時に取り残された自分を省みたら、急に眼から涙が溢れた。号泣し嗚咽する私をグレンデルは、黙って背後から肩を抱きしめてくれていた。


あれから40年間以上も側に居たのだ。蟠りも無く彼女を理解し、支えてくれた人間はグレンデル以外はおらず…2人の心の距離は無く、お互いを尊重し理解し合える程深まった。




グレンデルの最期を看取れて良かったと思う。早く逝ってしまったが満足しているはず。望み通り強者と戦い敗れたのだから…このまま時が過ぎたなら、いつか苦悩したと思う。彼は優し過ぎたから…。


そして、必ずこの先で私が来るのを待っていてくれている。恥ずかしいけど、それが分かる。もう、そんなに待たせないよ…




時間にして一瞬の走馬灯が薄れ、現世に意識が戻った。生き残ったグリッサはもっと人生を楽しんで生きていて欲しい。だから精一杯声を振り絞り、かつての戦友に一言吐き出した。


『この年増が…精々長生きしな』


「私は年増じゃないっての!まだまだ若いわ。全く…らしくないけど…有難う」


最後の涙声に苦笑する。もう目が霞んできて良く見えないが…脳裏にはグレンデルが迎えに来ていた。


(最期までお疲れ様。君も無茶をするね)


(馬鹿言うな…早く逝きやがってよ)


(ハハハ…ではお姫さま、お待たせしました。行くよ)


グレンデルにサッとお姫様抱っこをされながら愛馬キャロルに跨った。彼等は揃って昇天していく。

あの時代の現世だったのなら、立場の違いから叶わぬ恋だっただろう。知り合わないまま、お互い死んでいた。

因果的な関係の2人は非常に仲睦まじく、解放された表情は未練など無く晴れやかな笑顔だった。




かつて共に戦った仲間が浄化し、消滅した。悲しさよりも先にグリッサはどこか胸から暗雲が晴れた気がしていた。


(幸せなんなさいよ)


一言、心から冥福した。しかし…自分は獣人族の父親とハーフエルフの母親から産まれた子だ。特に外見は変わっていない。真紅の兜に装飾された羽飾りで尖った耳は隠れているが、200歳近く寿命がある私は63歳なんて人間種で換算してもまだ30代前半だ・か・ら・な!!年増だなんて…此処だけは譲れないわ。



気にしている事を指摘されたグリッサは心の中で叫ぶと、自身に回復魔法をかけた。


この鎧は頑丈だが先程の戦闘で少し欠けてしまっている。レア級の鎧に傷を付けるとは…キャロラインの置き土産に残して置いても良いのだが、補修に出さないと何かと鍛冶長が五月蝿い。お前の身に何かあったらうんたらかんから…と。


ふぅ…と、ため息をついてからまだ戦闘を継続しいる彼等を見た。驚いた事にあの子、天音斬りを完成させたわね…まぁ、これでソウマの修行も終わったし、今日はこれで解散だ。折角だがら今日の出来事を肴に報酬の美味い酒を頂くことにするわ。


そう考え、ソウマに話しかける。真剣に仮面を付けた先程の女性の戦闘を見守っていたので、やや反応が遅れて返事があった。

どういった関係かは知らないが、仮面の彼女も中々筋がいい。鍛えれば冒険者の上位者にも引けを取らなくなるわね。

修行を無事終了させ、3人はアデルの町へと帰還した。









…暫くして誰もいない地下墓地では、あの時行方を眩ませていた亡霊騎士が1人出現していた。外套を被り、ブツブツと呟いている。


『やれやれ、今回の件で不安定要素イレギュラーのアンデッドを省けたのは良いが、死光結晶の充電率が落ちてしまったではないか…回収がこれであと何年かは先延ばしになりそうだ』


一通りボヤいた後、死光結晶を調べてからフッと姿を消した。







深夜の町に着いた一行は門番に出迎えられた。

解散しようとしたが、酒場へと繰り出すことになった。報酬の美味い酒を早く頂戴とグリッサがゴネたからだ。装備を付けたまま即酒場へ連行された。


レガリアも結局契約の指輪から送還するタイミングを失った為、そのまま一緒に来させている。


町の酒場はまだ冒険者の喧騒に包まれ賑やかだ。仮面を外したレガリアの擬態百夜は美女だし、グリッサも肉感的な美女なのだが、他の冒険者から絡まれることが無かった。それは教官であるグリッサの強さと酒場で彼女の邪魔をした人間達がどうなったのかを身を以て体験済だったからだ。ただ、美女をはべらせているソウマに憎しみの視線が集まるのはご愛嬌だ。



4人テーブル席が空いていたので揃って席に着く。まずは麦酒とグリッサおすすめのツマミを注文した。麦酒が全員に届くのを待ち、揃った所で乾杯し、一気に呑む。


「教官、この度はご指導有難うございました」


丁寧に一礼した。


「いいのよ〜結局私は何もしてないしね。習得おめでとう」


じゃんじゃんツマミを食べながら、麦酒のお代わりを頼んでいる。


追加で岩塩の焼き鳥と大盛りのサラダを頼み、自分もガツガツと食べた。この世界はシンプルな料理が多い。卵なら目玉焼きや茹で卵など。

それはとても美味しいのだが、出し巻き卵なども食べて見たくなるのだ。ダシとなる材料を今度是非探してみよう。


レガリアも百夜の姿で片っ端から皿を綺麗にして、美味しそうに食べている。


「ところで彼女は誰なのよ?」


「…秘密です」


「ふぅーん、秘密ねぇ…まぁ言いけどね。でも彼女筋が良いわね。暇な時で良いから道場へいらっしゃい。戦技を見てあげるわ」


思いがけない申し出だった。


「更に強くなれる可能性があるなら伺いたいです。宜しいでしょうか、御主人様マスター



(元々の素体も良いからな)


などと考え込んでいると、レガリアから念話が届く。


御主人様マスター、修羅鬼は戦技を2つしか覚えていませんでした。それも太刀使いの固有戦技と鍛治士の固有戦技です。数が少ないのはどうしてなのかわかりません。今後新たな戦技、もしくは昇華出来る技があるのかどうか…試して見たいのです)


「…そう言うことならお願いします」


「御主人様…ねぇ」


ニヤニヤ笑っている酔っ払いは放っておこう。


道場にて戦技を調べてもらう事を了承した所で、アデルの町で作っている地酒〈火の精〉を希望され、そのお酒を奢らせてもらった。その名の通りアルコール度数が高く、クセの強い味で焼けるような喉越しだ。


カナリのペースで呑むグリッサだが、顔色も変わらず酔った気配がない。


「相変わらずキツイお酒ね〜全てを忘れさせてくれそう…まぁそこが良いんだけどね」


その後無言で飲み続け、一本を1人で空けてしまった。


「ソウマくんご馳走さま」


「いえいえ、凄いペースでしたね。大丈夫ですか」


「平気よ〜ついでにもう一本空けて良いかしら?」


そんな会話を続けていると酒場の入り口から1人のドワーフが入ってきた。此方を見付けどんどん進んで来ている。


「ここにおったか…むぅ酒臭い匂いをさせおって」


何処かで見かけたと思ったらドゥルクのいる鍛治場にいた親方だった。


「ん?お前さんはドゥルクと知り合いの…ソラだったか」


「ソウマですよ。先程振りです」


「そうだったか、すまんすまん。儂はこの町の鍛治場の長でジュゼットと言う」


お互い自己紹介をする。次いでジュゼットからお礼を言われた。どうやら赤熱石を主に集めていたのは親方の方でどうしても…1日でも早く欲しかったようなのだ。

自分が持ってきた赤熱石製の武具は良質の鉱石が詰まっており、現在装置にて赤熱石と分離中だが予定よりも早く材料集めが終わったそうだ。それを大いに感謝された。


注文しておいた2本目の〈火の精〉が来た。グリッサが手を伸ばす前にジュゼットが先に取り上げる。


「何すんの、返しなさいよ」


「駄目だ、何があったのかは知らんが酒の弱いお前さんがコレを呑むなんてな」


親方のジュゼットはグリッサに物理的に絡まれない唯一の例外の1人だ。酒の飲み過ぎだと怒られるが、諦めきれないのか口論がヒートアップする。


「よく見たらその鎧…傷ついておるではないか!グリッサ大丈夫か」


「見たらわかるでしょ、手強い相手だったけど…大丈夫よ」


「なら、いい。心配ばかりかけおるな」


ニコッと男臭い笑みを浮かべた。


「今日ここに来たのはグリッサに話があったから何だが…明日でも良い。次いでに装備の補修もするから鎧一式も持って来てくれ」


「はいはい。いいから、早くお酒返しなさいよ〜」


ねだるグリッサに最終的に根負けしたジュゼットがこう答えた。


「ふぅ…分かった分かった。ならグリッサ、朝ちゃんと装備を持って鍛治場に来い。そうしたら〈火の精〉を返してやる」




「約束よ!もう…興が削がれたわ。今日はもう解散ね」


「そのセリフ…昔から変わらんな」


そう言ってジュゼットはガハハと笑いながら帰って行った。


ふと酒場出入り口で立ち止まり、ソウマに向かって、


「良かったらソウマくんやそこのお嬢さんも来るといい。赤熱石のお礼もしたいからな」



そう誘われて今度こそ帰っていった。レガリアは最後まで黙々と食べ続けていた。

料理を食べ尽くした所でそのままお開きになり、レガリアを指輪に送還してから宿に帰った。よく休んで明日の朝、鍛治場に向かおう。

レア級の武具になると微弱ですが必ず魔力を常に纏うようになっています。

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