朱髪の修羅鬼 2
事故を起こしてしまい、少しの間更新をストップします。
現在ストックしてあった分の更新だけさせて頂きます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
ソウマの漆黒の短剣で傷付けられた修羅鬼の右腕が少しずつ毒が回り始めていた。BOSSとしての高い状態異常耐性を保有する百夜。ただの状態異常攻撃なら、本来はこんな異常など起こるはずがないのだ。つまり…かの特殊な武器を持つ眼前の相手は今までに無い尋常ならざる敵だ。
恐怖よりも愉悦が電撃のように身体中に走る。もっと戦いを楽しむために…邪魔なモノがあった。左手に大太刀を持ち替えて、かの鬼は躊躇せずに自らの右腕を斬り飛ばした。血が噴き上がるが筋肉を締めて止血を行う。さて、死闘の時間の再開だ。
ソウマの装備は所々穴があき、全身は酷い火傷でボロボロだ。治療前よりは随分マシになったが、戦いの際中ではきちんとした治療と回復が出来ず、途中になったままだ。
色の変わり始めた右腕を斬り飛ばした朱髪鬼は、さも当然とばかり平然と左手に大太刀を持ち替え戦意を滾らせている。
戦いにおいて彼女の存在は強く…どこか美しいと素直に思えた。全力を尽くすが、出来れば魔法である巨人の腕や漆黒聖天のスキルは使いたくないと思っている。理由は2つあった。
1つはレガリアになるべく破損の無い状態での修羅鬼の肉体を余さず吸収させたい。
普通ならばこの迷宮洞窟レベルではありえない特殊個体…打算的だが是非とも手に入れたいと思った。2つ目に自分の実力がどのくらいなのか?それを確かめる為にも切り札を使わない状態の戦闘力が知りたかったのだ。まぁでも、命には変えられないし、緊急時には使う予定だ。
修羅鬼との戦い…ダンテはこれ程の戦闘を見たことも参加した事も無かった。長年コウランと旅をし、幾度となく魔物や時に人間と戦ってきたが…一瞬一瞬に命を削り、気を抜けは死ぬことに繋がる戦いがここにはある。
ちなみにこの戦いを見て幾度ソウマは人間では無いのではないか?と思っているのは内緒だ。少なくとも、俺よりも遥かに頼りになる男だ。悔しいがそれは認めている。
コウランはとある国の貴族であったが、権力争いに負けて一族が国から出奔した事はまだ新しい記憶だ。私は貴族なんてガラじゃないし、面倒なだけだったから正直これで良かったと思っている。
武芸の一族として幼少から厳しい訓練を課せられてきた。修行仲間にはダンテも含まれていた。お父様は大斧を操る国1番の神官戦士であり、お母様が巫女だったから周囲の期待も大きかった。回復魔法と神聖魔法を使い、そこらの戦士には負けない技量は実力を兼ね備えたモノだと思っていた。…彼に会うまでは。不思議な人だわ。私達の勝利の鍵は彼が握っている…他力本願かも知れない。でも負けないで欲しい。
レガリアは御主人様であるソウマにとても感謝している。強く優しい御主人様のお役に立ちたい。あの鬼では無いがもっと力が欲しい。産まれて初めての強さへの渇望が高まる。
修羅鬼が斬り捨てた右腕を密かに回収する。体内で異常の部分を治療し保管する。これで鬼の残り全てを吸収消化すればまた強くなれるハズ。御主人様のお役に立てると嬉しそうに嗤う。
一つの場所に各々の気持ちが入り乱れる。朱髪鬼との戦いが再開された。
ソウマが2段ジャンプを使い、空へ駆け上がる。上空から狙いを定め、力の限り狙い撃つ。
ドォォン、ドォォンと地響きのように音が鳴り、目に追えない程の速さの矢を朱髪鬼はなんとか避けていた。それでも矢が身体に掠っていくだけ度に肉体が削ぎとられていく。恐るべき威力だ。
ソウマが下へ着地しようとする所を狙って接近してくるも、ダンテが待ち構えていて道を遮っていた。
朱髪鬼が舌打ちをしつつ、全力で大太刀を振る。ガゴォン、ギィンと火花が散りそうな音で防がれた。
出し惜しみは無し…と判断し、朱髪鬼は鬼印を発動させる。発動後は真紅の瞳へ変貌し、かつてない程に昂ぶった高揚感を身に任せてダンテに接近していく。ダンテもかつての大盾使いの変化を思い出し、瞬時に大盾のスキル【忍耐】を発動させた。
朱髪鬼の筋肉が膨れ上がり…大太刀を持ったままの左手で大盾を殴る。
蹴る。太刀を振り切る。連続攻撃に対して徐々にダンテが大盾を構えた状態で後ずさる。
(これは…あの大盾使いと比較できん。なんという段違いの威力だ)
忍耐スキルを発動しているのにも関わらず、盾越しにダメージ蓄積量が半端ではない。たった十数秒に満たない攻撃だが盾を支える腕の骨が軋み、掴む指の骨が折れそうになる…それでもこの大盾を離す訳にはいかない。例えそれで俺の命が尽きたとしても…な!
着地と同時に朱髪鬼が突撃しているが、ダンテが防いでくれている。時間を稼いでくれている間に2人と一体で襲いかかる。
まず上空からコウランが朱髪鬼の頭部にフレイルを叩き込むも、意にも介されず、ガンと弾き返される。レガリアが大腿部に齧りつくが今度は牙さえ通らない。
流星刀レプリカを扱うソウマの攻撃だけは肩から腹部にかけて袈裟斬りにした。朱髪鬼は痛みを全く介さず、斬られた際に太刀を持つ左手が瞬間的に動いてきた。
最初からソウマのみを狙っていたのだろう。肉を切らせて骨を断つ…か。閃光のような速さで大太刀がカウンターで襲いかかる。見切りで回避動作をとるも…不味い、最善でもこのタイミングでは全ては躱し切れない。咄嗟に覚悟を決め、ダメージ軽減を意識して防御した。
しかし、その前に御主人様の危機を察したレガリアがソウマに体当りして大太刀の前に割って入った。激突した大太刀とレガリアは金属が割れる反響音が鳴り響き…僅かな間のあと宝箱の後ろから刃が飛び出す。そのまま貫通してソウマに突き刺さる。意識が途切れそうな激痛のなか何とか念じる。
(レガリア…早く…戻れ)
指輪が瞬光し、レガリアが強制送還された。力を振り絞って後ろへ跳躍する。ソウマの左肺にはざっくりと縦に刀傷が入っていた。
息が上手く吸えず、呼吸が苦しいけど…高いステータス補正があるこの体のおかげでまだ動ける。後でレガリアに感謝しなきゃな。
修羅鬼は思う。銀髪は妾から見たらまだまだ粗削りだが、戦いの中で成長を果たすなど、伸び代は大きいと感じる。
こんな命を燃やす戦いがずっと続けば良いと思うたが、そろそろ時間切れが来たようじゃの…鬼印の効力が弱まっていく。
肩から力が抜けてゆく。もう太刀を持つのも億劫じゃ。自らの最期を悟るが…それでも最期まで戦い抜こうかの。
炎鬼衆である影柱と神楽は炎鬼という魔物という枠を飛び越え、新たな種族としての生まれ変わった。少なくとも炎鬼衆と呼ばれている者達は全て炎鬼人へと進化するに至った。この世界の歴史を紐解いても極めて珍しく、異例だ。今後彼等は新しい種族として歩いていく。
百夜の存在が消えるいま、次に召喚されるBOSSはただの上位炎鬼である。経験も記憶もリセットされた彼女では炎鬼を導き、炎鬼人へと至る炎鬼は恐らく皆無だろう。
我ら炎鬼人として存在しうるのは、あの巨地龍という存在と戦い、強さを極めるために修羅鬼まで昇りつめた百夜の存在があってこそである。
いずれ迷宮洞窟を攻略出来ないことを理由に討伐隊が結成され、いつかは強者に敗れると予感していた。それが今日だったということ…。
影柱と神楽は主人の最期を涙を流しながらも…ソウマの一太刀が百夜の首を刎ねた瞬間まで、感謝を込めて看取った。
長い時間を戦い続けて、ようやく決着がついた頃にはパーティの全員が倒れ伏していた。
本来のBOSS鬼(上位炎鬼)ではなく、最上位鬼である修羅鬼。尚且つ装備品も逸品揃い。高い迷宮補正も加わり、50年も負け無しの高い実力を備えていた鬼として君臨したことも伺えた。
動きは鈍り、太刀捌きは弱まっていたが最期まで朱髪鬼は戦い…そしてソウマの手で討ち取られた。首は誰が見ても悔いのない表情だったと思う。見開いていた眼は…そっと閉じておく。
此方も無事な者はいない。ダンテは両腕が折れており、身体のあちこちに酷い打撲の痕があった。それでも大盾はついに手離さなかった。
コウランは回復魔法を連発し、血反吐を吐いても魔法の酷使をやめなかった。今は過剰に魔力の使い過ぎで気を失っている。
レガリアは非常な危ない状態だったが持ち直し、最後の方には自主的に指輪から願い出て参戦していた。
強敵を討ち取った後の達成感がある。ソウマが首を落とした瞬間、鬼の紋様の描かれた宝箱が3つ中央に出現した。
【特殊進化個体BOSS【修羅鬼】討伐にて特別報酬が贈られます】
ナレーションが鳴り、アイテムボックス内に特殊個体修羅鬼の報酬が追加された。報酬の確認ついでにポーションをアイテムボックスから取り出し、皆に振りかける。ソウマも痛みが若干引き、胸の傷口も少し塞がれた。改めてボックス内を覗いてみると、有難い事に修羅鬼の魂魄結晶一つと修羅闘衣と呼ばれる特殊装備品が手に入った。
修羅胴衣 特殊レア級
鎧や戦闘衣といった装備品の下に着込む肌着(上・下セット)である。非常に丈夫な修羅鬼の素材で出来ており、戦えば戦う程、発動スキルに備わっている効果が増加上昇される。
発動スキル 状態異常耐性(小)
小心者には考えられない途轍もない装備が入っていた…特殊レア級なんて初めてだ。
宝箱を開けると鬼に纏わる武具が一つずつ入っていた。ダンテとコウランに何が入っていたのか確認を取り、魔法袋(仮)内にて預かる。皆クタクタである。後日装備を確認しよう。
レガリアは修羅鬼の首と身体・装備品を既に体内に飲み込み、満足気な表情?をさせていた。発している念話も喜色の色が強い。
今回はレガリアのレベルアップを第一優先としていたので、どれだけ強くなるのか楽しみでもある。
百夜の後ろに控えていた炎鬼衆筆頭の影柱と神楽は、修羅鬼 百夜の最期を確認したのち、此方に一礼し去って行った。多分だが…彼等はきっとこの迷宮を出て行くのだろう。もしかしたら百夜から事前に何か言われていたのかも知れない。彼等はもう、百夜が居ないこの迷宮洞窟に固執する必要はないのだから…。
全員疲れた身体を押して、何とか無事にアデルの町へと帰った。
鬼印の設定をアップさせて頂きます。
鬼印→肌が赤銅色になり鋼に近い皮膚となる。効果は痛覚無効と筋力倍増。SPを全て注ぎ込むため長時間の使用は不可。
炎鬼衆はコレが使えないと入れない。




