魔法生物の卵(特殊)
ザール村から出て街道を歩き続けること半日。特に問題なく昼過ぎにはユピテルに着くことが出来た。
ユピテルの街には大きな門が設置されており、門番に紹介状を渡すと直ぐに中へ入れてくれた。
街の風景を確かめながら、そのままギルドの魔物使いエリアをめざす。
(余り変わっていないな…)
賑やかな雰囲気とヨーロッパを思わせる街並みに懐かしさが込み上げてきて立ち止まった。少し感慨深さに浸る。
ギルドに入り、預けて置いた卵の受付すると証明書の提出を求められた。
証明書?と思い、アイテムボックス内を探すと契約の指輪の際に貰った紹介状があった。それを提出し、確認してもらう。
何度もゆっくり確認していた受付係がホッとした表情を浮かべた。
「はい、間違いありません。ご提示ありがとうございました」
「いえ、大丈夫です」
魔法生物の卵(特殊)が受け取るとほんのり光った。
それを見ていた受付係は慎重に話した。
「此方の卵は何十年もギルドに預けられていました。本来なら規定に基づき破棄、もしくは希望者に売却する所でしたが…とある方が保管料をずっと代わりに収めておられたのでお渡しが出来ました」
突っ込み所が満載過ぎる言葉だが…
(あれからもう何十年もたっていたなんて!!)
唸るように地味に落ち込んでいたが、受付係は気付かず説明を続ける。
「非常に珍しい卵でもあるため、希望者は殺到でしたね。ギルドの歴史上でも滅多にあるものではありません。ですから偽りの所有者が後を立ちませんでした」
(卵自体は課金で手に入れたモノだからなぁ。本来なら存在しない卵…そりゃ珍しいはず)
「…大変ご迷惑をおかけしました」
きちんと頭を下げ謝罪する。
「いえいえ、お仕事ですから。私の代で無事に所有者の方にお渡し出来て良かったです」
卵が光ったので、もうすぐ孵化するとのこと。大事に契約の指輪に収納する。
追加の説明として長期に渡る所有者不在(死亡など)の卵は、孵化の処置がしてあっても受け取りに来るまでは何故か孵化しないそうだ。
それを利用して珍しい卵などは所有者を暗殺したり、受け取りを諦めさせたりする専門の輩がいるそうで注意を受けた。
売却がなかったのは保管料を払い続けていただけでなく、この人物は圧力もかけていた。そういった輩を警戒していたそうだ。
払い続けてくれていたのは有難いが、自分のことを知っている人間なんて…いたのか?
その人物の名を聞くと、当事者ですので教えますがご内密に念押しされ、蒼銀騎士団団長と教えて貰った。
うーん、ユウトのギルドのギルドマスターなんてあったことないよな??
受付係にお礼を伝えてその場を去った。
その様子をじっと観察していた者達は、ソウマが立ち去ると足早に二手に分かれた。
流石に…精神的に疲れた。まさか何十年も時が過ぎているとは思わなかった。
外へ出ると日が沈み、すっかり夕方になっていた。ユピテルの街もそう言われたら少しずつ違うように感じる。
こんな時間だし、今日は宿に泊まるのは諦め、街の外でテントを張る事にした。受付さんから注意を受けたが、宿が空いてないだろうから泊まれない。
後日お礼と感謝の面会を蒼銀騎士団へ願い出てから、道場と転職神殿へ回ろう。
そう思い、道具屋でテントを買い、ついでに武器屋に向かう。
暫く地力を磨く為に流星刀レプリカ以外の剣が欲しかったのだ。
武器屋に着くといつも出迎えてくれていた年配のドワーフさんはおらず、若そうなドワーフがいた。
「…いらっしゃい」
無愛想だがハッキリとした声で出迎えてくれた。
「新しい剣が欲しいんだが、オオスメはあるかな?」
じっと見つめていたと思うと、奥へ入り一振りの剣を持ってきた。
「その腰の刀剣よりは劣るが…俺が打った剣だ」
手に取り一振りしてみると、少し重いがスッと手に吸い付く感じがして気に入った。
「ありがとう、是非コレを貰うよ」
冒険者の剣
ドワーフの戦闘鍛治士ドゥルクが真心込めて打った作品。扱いやすい工夫がなされているノーマル級。
代金を支払い、前にここにいた年配のドワーフの事を聴いてみる。
彼の親父さんだったらしく、自分が1人前になったのでここを任せて、本人は王都の本店へ向かったとのこと。
「俺の名はドゥルクという。また何かあったら来てくれ」
武器屋から出るとそのまま門へ向かう。門番に夜は危険だと心配される
ので、少し近場でテントを張らせて貰うことを伝えた。
その夜、テントに這い寄る影が五つ。移動音は最小限で良く鍛えられている事がわかる。
5人がテント周辺にかなり珍しい遮断結界と呼ばれる障壁符を張り巡らせる。周辺20mは外からは視認しにくい。更に結界内では音も外に漏れない。
2人組が周囲の警戒に、残り3人でテントの周りに近付いて詠唱開始。
詠唱終了と同時にテントごと凍らされた。決まったフォーメーションと段取りをとぅた見事な腕前である。
と、ソウマは離れたところから気配察知と鷹の目にて確認していた。
注意を受けていたとはいえ、まさかその日すぐに来るなんて仕事熱心な連中だ。全身強化魔法をかけ闇に紛れる。
ソウマがテントに居ないことに気付いた奴等が慌てふためいている様子を横目で確認しつつ、和弓【優】を連射する。
見張りを不意打ちで1射1射確実に相手の足を狙い、地面と足元を縫い付ける。
残り3人が既に此方へ向き、迎撃態勢を整えたら2人飛び出してきた。残り1人が詠唱し、素早く氷槍を展開している。数は1、2、3…と、多い。
氷槍が自分に直撃するのを覚悟で、前に飛び出してきた相手2人に対して射かける。
1人は腹部を貫通させたとこで蹲り倒れたが、もう1人は右太腿に矢が直撃するもスピードを少し落としただけで向かってくる。
氷槍が合計五つ襲ってきた。
魔法が速すぎて弓では迎撃出来ない!咄嗟に躱すが体術や装備の回避(小)と補助機能を使っても避けきれず、2段ジャンプ中に3発分まともに直撃した。
凍りつく音と激突音が鳴り響き、空中で錐揉みしながら吹っ飛ばされた。ステータス強化をされてなかったら今頃即死級の破壊力。体こそまだ五体満足だが右肩は鮮血が凍りつきダメージが深い。背部も激痛が走り、痛すぎて力が入らない…が
無事だった左手で和弓【優】を構え、向かってくる相手と倒れたままで対峙する。余り時間をかけすぎると後ろの奴にまた魔法を使われてしまう…
背嚢の矢筒を傾け、口元に矢をあてがう。それだけで激痛が走るが左手の人差し指と中指で矢を挟み、弦を引き放つ!気を失う程の痛みが身体中を襲うが、放った矢は相手の防具を貫通し前のめりに倒れさせた。
残りは1人。1番手練れが残ったがまだ戦える。ここまで僅かな時間だったが装備ボーナススキルである星の加護をフル活用し、少ない時間でも歩けるくらいには回復した。
時間をかければ重傷は完治するが、そんな間をかけさせないだろう。
弓をしまい、左手で流星刀レプリカを構えた。
魔眼【魔力感知】で大規模な魔力が中心に集まり、最後の1人が魔法詠唱を終えようとしている。
意を決して覚悟を決める。
スッと残心をしたように無心となり、魔眼と見切りを併用し直撃するであろう魔法に対して最短ルートを予測する。
体内で少しでも魔力をかき集め、全身を活性化するイメージを己に抱かせる。スキルにはないことだが…疑うことなく本能が信じるがままに行う。
(これは…私が来るまでも無かったのかな)
ソウマにも気配察知させなかった存在が結界内に潜み、興味深く戦いを見守っていた。
誤字脱字はなるべく直しているつもりですが、見にくい表現、文章がありましたらごめんなさい。少しずつ修正していきます!




