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「なんて云うと思った? 」


 真剣に耳を傾けた真人に対して、美沙は表情を少し和らげてそう云った。


「どういうつもりなのかな? 」


 ふざけている様子もなく、それでもふざけている様な言動に真人は少し戸惑い、そう聞くしか出来なかった。

「平等── 真人君はそう云ったわよね。なら、私のターンは終了でしょ。次はアンタの順番じゃなくて」


 視線が真人からルゼルに移る。


「この後に及んでまだ云い渋る気か」


 ルゼルの意見に全面肯定する真人。確かに平等とは云ったし、順番的にルゼルになるのだが、このタイミングで美沙が云い渋る意味が分からない。


「云い渋ってると云うか。私が云うより、アンタが話す方が効率的って意味よ。私が知っているのは、真人君に毛が生えたら程度、現状を加味すれば同じかそれ以下になる。そんなんで、都度訂正が入ったら非効率でしょ」

「訂正が必要な程、曖昧な記憶しかないという事か」

「それはそうでしょ。本来、前世の記憶なんて持っている者はいないわ。少しでもあるなら奇跡なのが普通なんだから」


 そう云う美沙の言葉に対して、真人は「案外、前世の記憶というものはそんなもんなんだろう」と妙に共感を覚える。

 真人の周りの人間が、前世の記憶やしがらみに縛られ過ぎているだけに、知らない方がおかしいと思いがちになっているが、美沙の云う通り知っている方が異常なのだ。

 否、もしかするとそういった記憶は残っているのかもしれない。しかし、人はその曖昧な記憶では自分の記憶として認識せずに忘却している。それが既視感(デジャヴュ)に繋がっていくのではないか。と、まで思考が働いていた。


「ふむ、人間とは不便なものだな。折角手に入れた知識を短い一生で大半を無に還す」

「ま、そう云われれば立つ瀬がないな。確かに記憶を全員が引き継げれば、人の進化は今の何倍になる事か…… 」


 戦争は駄目だと、幾ら教育しても、声高に叫んだとしても世の中から争いは決して無くならない。それは戦争を望む者がいる事もあるが、反対の声を上げる者の大半が本物の戦場を知らないという事が最大のネックなのだ。

 掠れた文献や映像を元にその気になったとしても、やはり対岸の火事なのである。だから、口で云っても分からない奴らに分からせるには武力行使しかないという短絡思考が生まれ、負のスパイラルが延々と続くのだ。

 だが、記憶が残っていれば少なくとも、負のスパイラルを断ち切る刃は何千倍にもなる。誰だって自分の悲惨な死に方や大切な者の死を何度も経験したくはないのだから……


「それでもこの不便は必要なんだろうな」


 人に心がある以上、忘れなければならない記憶がある。引き摺ってはならない記憶がある。

 劇的な進化を捨てた代わりに、忘却という安寧を手に入れた。つまりはそういう事だ。


「お前達のような存在でも、それは逃れられない、か。ならば仕方がないな。

 まず云っておく事は、碧眼の正統な所有者はお前だけだよ、クライン」

「へぇ…… って、おい。ふざけんなよ」


 ライズは所有権を放棄して、シリアに譲ったのだ。その時点で所有者足る資格はない。


「嘘なんてないわよ、真人君」

「い、いや…… だって…… な」

「私達、青の魔女は碧眼を借りてるだけ、その証拠に歴代の誰もがその力を使いこなせていない── で、間違いないわよね? 」

「そうだ。お前以外の者で碧眼を使いこなせた者はいない。だから、三宝珠を私が創ったのだ」


 そもそも荒唐無稽の中で過ごしているようなものなのだが、これは群を抜いている。魔導の天才だと云われているライズではあるが、真人の中では碧眼在りてそう称されていると考えていた。そして、使いこなせていないはずのシリアですら青の魔女という二つ名を持ち、魔法の天才とされている。

 つまり、所有者に少なからず名声を与えているのは間違いなく碧眼である。その中でライズは別格と云われても「へぇー、凄いんだな」という安直な感想しか出てこないのだ。そして、その凄さが分からないから、その言葉に重みは一切なく、誰が聞いても上の空なのは一目瞭然だった。


「お前、ライズを大したものではない。なんて考えているだろう」


 呆然とただ首を縦に振る真人に、ルゼルは駄目だコイツとばかりに深い溜め息を交えて呟いた。


「うん、まあ漠然と凄いとは思っているけどな。俺が出会ったライズにそんな凄みはなかったし、それが持っている才能が感嘆の息を吐く程のものか? なんて思っちまう訳なのだよ」


 自分だから謙遜しているのではなく、真人が自分の目で見て、そう肌で感じたままを言葉にしただけだった。

 相対してみて確かに強いとは思う。しかし、怖いかどうかでいえば、秀明の方が遥かに怖い。何を仕掛けてくるか分からない恐怖と底を見せていない強さがある。だが、ライズには測れる強さがあり、底が見えた強さしかないのだ。

 現時点でライズの方が強くても、底が割れていれば逆転の目は必ずあるものと相手に希望を与える。だから、その程度の才能と真人は思えるのだ。


「馬鹿が、ライズ以外の所有者で最も碧眼を使えたのはそこの女だ。それにしても水竜の指輪がなければ、魔法一つ使えずに並み以下に成り下がる── 碧眼とはそういう物だ。

 お前が如何に馬鹿で無知でもそれは分かってる事だと思っていたぞ」

「俺は碧眼云々を置いて於いても、ライズという人物が皆が天才と崇める程とは思えないと云ってるだけだ」


 云い返しはしたものの、そこに自己矛盾が生じている事に真人は気付いていた。

 自身、魔導を扱う事に苦労した記憶はない。しかし、実際には魔導を使える者は魔法を扱う世界(セルディア)であっても一握りなのだ。何でも才能の一言で片付けるのが嫌いな真人であっても、そこに才能の差がある事は認めざるを得ない。そして、その才能ある者の頂点に立つのがライズなのだから、才能がないはずがない。

 と、分かっているのに、認められないのは自身がライズの生まれ変わりだと本能で認めているからなのだ。

 もし才能が劣化していたら、そもそもそんな才能を受け継いでいなかったら、そう考えるとライズの才能を毛穴程も疑わない二人の視線が怖くなる。落胆させるのも、哀れみの瞳を向けられるのも冗談じゃないと思ってしまう。


「そう云う逃げ口上は真人君らしくないかな── あ、これは私の記憶にあるライズと比べての台詞じゃないわよ。

 なんやかんや負けず嫌いで、才能の有無に関わらず努力を続ける男の子。そんな神城真人を10年見てきたから出る台詞よ。お分かり? 」


 要約すれば、ツマラナイ事にうじうじして自分の株を下げるんじゃない。と、いう事なのだろうが、今の真人には美沙が前置きをしたにも関わらず、私達が信じるライズの株を下げるなとしか聞こえない。

 敵対しているのではなく、相対しているだけなのに美沙の袋小路に相手を追い込むスタイルに苦手意識が芽生えていた。


 ── ちょっと待て…… 何で俺が追い詰められてんだ?


 そもそもの発端は、美沙とルゼル言い争いを真人が仲裁し、交互に話せと妥協案を出した所にある。従って、交互の意見の中には、当然真人は含まれず、ぶっちゃけ情報を聞くだけの美味しい立場にあったはずなのだ。

 しかし、ふと気付けば「三宝珠」の情報は棚上げされ、真人が認めないライズとの関係性がクローズアップされている。


 ── 偶然? たまたま話しの流れでこうなった? …… な、訳ねぇよな。クソっ!


 これまでただ漠然と、ライズの生まれ変わりを己の中で認めてこなかった。そして、その理由が人が自分に抱く期待が全てライズの功績の賜物だったからと気付かされた。

 例え「小さい」と云われても、他人の褌で戦うのは馬鹿の極みだ。どれだけ己を傷付けて勝っても褌のお陰、また逆に負ければ褌を持っているのに負けたと謗られる。

 そんな真性のドMでなければ喜べない状況を受け入れられる程、真人はMではないのだ。だから、その理由を悟らさせられた今でも、自分を恥じる事はないのだが…… そんな姿勢を由とはしないドSが二人、真人の目の前にいたという事だった。


「二人してハメやがったな…… 」


 苦々しく真人が呟くと、二人がニヤリと笑う。仲がいいのか、悪いのかそんな事は分からないが、少なくとも今はこの二人が共闘しているのは確かな事だ。


「珍しく意見があったって云ったでしょ、真人君。私もこのクソ犬も、自分の力に自信が持てずうじうじしてる主なんて見たくないのよ」

「ルゼルは兎も角、美沙さんの主は俺じゃないだろ」

「ああ、そのアパズレの主はライズだ。だが、間違いなくお前はライズなんだよ。だからその意見は間違っている」

「…… ったく」


 思えば不思議な事など何もない。美沙は碧眼と契約していたし、ライズを心酔しているという点で共通している。その上、この二人が簡単に真人の思惑通りに動くような賜ではないと今なら思う。初めから何処となく不仲をアピールしていたから、真人は疑う事なく乗せられてしまっただけの話だ。


「俺達の共通見解はお前がライズであるという事だけだ。だから、お前がライズの全才能を受け継いでいるなんて思っていない」

「そうね。でも、真人君はライズの持っていなかった才能があると確信しているわ。だから、変な心配は不要なのよ」

「ちっ、何だかんだやっぱ仲いいんだな、お前達」

『それはない』


 やはり息のあった二人だった。


「分かった…… って云うか、分かってたよ。全て認める。だから、話を元に戻してくれよ」


 完敗とばかりに肩を落とし真人が云うと、二人は視線を合わせて頷き、


「三宝珠の行方なら、一つを除き私にも分からない。まあ、近くにあれば、その存在を感じ取れるだろうがな」

「って事は、世界のあらゆる場所を巡らなければならないって事か? そりぁ、とんでもなく手間だな」

「あら、一つを除きって云ってたと思うけど」

「お前が云うな。アイツに渡したのはお前だろう」


 ── アイツ?


 再開直後、ルゼルの口から一つの答えが出されたのだった。




明けましておめでとうございます。

久々の更新になります。

やっと説明に区切りがつきそうです。次回ぐらいから戦闘を書けそうです。

また、宜しくお願い致します。


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