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 知らない事は愚かな事なのかもしれないが、それ以上に幸せな事なのではないか。写真を撮るというだけで、子供以上に目を輝かせているレイサッシュを見ていると、本気で羨ましくなってくる。

 自分は何かにこれほど目輝かせたり、感動した事があっただろうかと考え、記憶の糸を手繰ってみても、瑞穂の糸の先に何も有りはしないのだ。


「感性が鈍いの? 」


 そうレイサッシュに云われた時、瑞穂は言い返す言葉がなく認めざるを得ない自分が恥ずかしかった。

 有り触れた物でもそこに辿り着くまでに、人はどれ程苦労したのか。万人が認める素晴らしい芸術品を創り出した苦労と比べ、遜色があるはずがない。そして、万人が認めているからこそ有り触れているのだ。

 今や遅しと期待に満ちたレイサッシュが、瑞穂にその事を諭してくれた。


「ミズホー」

「分かったわよ。ガキじゃないんだから、少しは我慢しなさい。ほら、準備するからスマホ返しなさい」


 瑞穂がフォト機能を起動させる僅かな時間ですら、レイサッシュは待ちきれない。


「確かにガキじゃないけど、十六歳って大人でもないから我慢しなくてもいいじゃない」

「屁理屈云わないの、はい」


 フォト機能を起動させ、再びレイサッシュにスマホを渡し、背中に回り込む。


「画面を見ながら、残したい風景だと思ったら、その四角い所を押すのよ」

「え、っと、コレ? 」

「そ、ゆっくりとスマホを動かしていけば、画面も変わるから焦ったりする必要はないわ」

「う、うん、やってみる」


 ゆっくりとスマホを上下左右に動かし、画面を見つめる。そして、何度かその動きをした後、ポンとタップをする。

 カシャっ!

 レイサッシュのタップから、少し遅れてシャッター音が鳴った。


「もういいわよ、貸して」

「これで終わりなの? 」

「そ、これが貴女が撮った写真よ。うん、良く撮れてる」


 フォルダの中から、レイサッシュが撮った菜の花畑の写真を取り出して見せる。


「うわぁ〜、凄い、あの一瞬で」


 自分の瞳で直接見ている景色と、スマホの映像を何度も見比べて、興奮冷めやらないレイサッシュ。


「嬉しい誤算だね」

「誤算? 」

「まさか、アンタが機械に興味を持つなんて思ってもなかった。だから、こっち人間を少しでも知って貰えば御の字だって、態々こんな所に連れてきた訳だし」


 瑞穂は外に出てからのレイサッシュの顔がどんどん曇っていく事に、余計な先入観を持たれるのではないかと危惧していた。

 こんな物を使っている者が、自分と分かり合えるはずがない。そうレイサッシュが感じてしまったのなら、そのイメージは簡単には消せない。ともすれば、そのイメージを一生引き摺る事だってあるのだ。


「どう? 少しは科学もいい物でしょ」

「うん、凄いと思うし楽しい。でも── やっぱり好きにはなれないかな」

「何でよ? 」

「こんな素晴らしい物だけじゃないから、魔法なら禁呪扱いされるような物も沢山あるんでしょ。でも、こっちではそれを危険と感じずに使っている」


 大きな事でいえば「原子力」、中程ならば「武器」、小さくすれば「車や飛行機などの乗り物」といったところだ。

 原子力や銃火器ならば、人の心から完全にその危険性が消える事はないが、車などになればその危険性を忘れる事はしばしばある。


「けど、魔法だって禁呪以外に危険がないって事じゃないでしょ」

「うん、でもね。人が利便性を追求するあまり、人以外の存在が追い詰められていくのは、こっちの高過ぎる科学力の所為。私は精霊の苦しんでいる姿を見て、それを見て見ぬふりは出来ない」

「神官だから? 」

「いいえ、やっぱり自然が好きだからよ。でもね、さっきみたいにこっちの人間が別物なんて考えはもうないわ。この景色とコレのお陰でね」


 菜の花が咲く風景をバックに、スマホを掲げるレイサッシュに嘘をついている素振りはない。


「一応、目的達成かな」


 本当の達成はまだ先にあるものの、瑞穂は第一関門の突破に胸を撫で下ろした。そして、別の目的で動いている良雄の事を考える。


 ── 馬鹿でもアンタにしか出来ない事なんだから、失敗しないでよ。




 …………………………………………………




「一つ疑問なんだが── 」


 間近に迫る凶手にも動じずに、良雄はのほほーんと口を開いた。


「何だ、渡す気にでもなったのか? 」


 寸での所で止まるベルの手。


「な、訳ねぇだろ。俺はな、何でこんな回りくどい事をしたのか。その意味をお前の口から聞きたいだけだ」

「は、はぁ? 云ってる意味が分からんな…… 」

「ほぅ、そうか。だったら、分かるように云ってやる。

 お前が悪魔食い(デモンイーター)を求める狂気は本物だ。この際、それが間違っていようが、馬鹿な選択だなんて云わないし、関係ねぇ。けどよ、喉から手が出る程欲しい物を奪う為に、お前は俺を説得しようとした。その無駄な一手間を掛けたのは何故なんだ? 」

「そ、それは…… 」


 結局は強奪する事を選んだベルなのだ。ここで態の良い答えを返した所で、それは全部が嘘になる。


「答えられねぇだろ? そりぁ、そうだよな。お前じゃ、俺から悪魔食い(デモンイーター)を奪う事が出来ないもんな」

「なっ! 」

「こうして嚇しを掛ける事に依って、俺が差し出せばOKって腹積もりだったんだろ? 」


 何故奪えないのか、そんな理論など良雄には分からない。

 しかし、この考えに確信はある。


「そ、そんな訳あるかぁっ! お前の口に手を突っ込んで、今すぐ悪魔食い(デモンイーター)を奪ってやる」

「だーかーら、んな、暴走紛いの賭けに乗ってやるほど俺は人間が出来てねぇんだよ。いい加減、俺の上からどきやがれっ! 」

「はぐっ! 」


 ギンっ! と、良雄が一睨みするだけで、ベルの体が宙に浮く。そして、そのまま後ろに弾き飛ばされた。


「な、何だ一体…… 剣を持たないアンタが何をした? 」


 弾き飛ばされたものの、背中から地面に叩き付けられるまでは行かず、ギリギリで体制を整えた。


「前の戦いの時云ったよな。ウチの流派は、剣が剣としての機能を果たさなくても人を殺める事が出来るってな」


 呪縛から解き放たれた良雄は、ゆらりと立ち上がりベルを見下ろす。


「ネタをバラせば、ウチの流派の基本は剣気にあるんだよ。斬れなくなった刃に剣気を纏わせれば、破壊力のある鈍器となる。そして、剣がなくても剣気が無くなる訳じゃない」


 それは剣気ではなく、闘気と呼ぶべきなのかもしれないが、良雄はベルに気をぶつける事で弾き飛ばしたのだった。


「剣気、あれだけの圧力をそんなもんで生み出しただと…… まただ、お前らみたいに持っている奴等に力は集まっていく。どんだけ理不尽なんだよっ! 」

「持ってるねぇ…… 」


 つまらなさそうに良雄は、首をポキポキ鳴らすとベルの首を片手で掴み持ち上げた。


「持ってるって、ガキの体とはいえ片手でこうして持ち上げる力か? だったらほれこの通り、確かに持ってるぜ」

「ぐけっ…… 」

「けどな、これも俺が何年も何年も鍛え続けてようやく手に入れたもんだ。気安く持ってるの一言で片付けんじゃねぇ! 」


 温厚な良雄が本気で怒っていた。

 良雄は自分が天才と分類される人間ではないと知っている。だから、愚直に努力を続けて手に入れたものを軽んじられれば、それは侮辱以外の何物でもない。


「ぐっ、は、息…… 」

「いいか、よく聞けよ。俺の力は努力すれば誰でも手に入れられるもの。様は努力するかしないかの違いだ」


 そこまで云って手を放す。すると、吊り上げられていたベルの体は自然と地面に落ちる。


「…… 力があるなら、悪魔食い(デモンイーター)なんて要らないだろ」

「お前な、頭良いくせに何でこんな簡単な事も理解出来ないんだ。

 世界は理不尽で既に力のあるヤツに力は寄っていく、それはその通りだよ。だったら、その力が寄ってくる程に力を付ければいい。たったそれだけの事じゃないか。欲しい物を手に入れる為の努力をしなければ、例え手に入れたとしても、確実にその物はいつか手元を離れていく。そう実感しているはずだぞ」

「分かってるよっ! そんな事は分かってるんだ。けどな、アンタがその力を手に入れるのに掛けた時間はどれ位になる。

 5年、10年か? 俺にはそんな時間はないんだよっ! 」

「そう云って何の努力もしないのは単なる言い訳だ。そんなヤツは誰だって認めないし、自分の居場所なんか見つかるもんか」


 少しでもベルに、良雄や真人を信じる力があれば、力を手に入れる機会は幾らでも転がっているのだ。

 否、違う。

 もしベルが自分の居場所をここで見つける事が出来れば、恐らくは力を求める事すらしなくなる。

 良雄はそう信じて声を張っている。


「一年だけ、たった一年でいい。真人を信じてみろ。その間、思い通りにならない事も、ムカつく事もあるだろう。けどな、それでもお前の命を脅かす存在は内にはいない。求める物を得る時間はあるはずだ」

「人に云われて、人を信じるなんて馬鹿な事をする訳ないだろ」

「当たり前だ。信じるか否かはお前が自分で決める事だ。俺はお願いをしてるに過ぎねえよ」


 ── お前が俺にお願いしてどうする…… 真性の馬鹿だな、コイツ。


 だが、良雄には打算も何もない。ただ真っ直ぐに前だけを見て、思ったままを口にしている。それだけにその言葉一つ一つが心に響く。


「…… 一年なんて約束は出来ないね。けど、しばらくは厄介になってやる」

「おお〜、やっとデレたか」

「デレてねえっ! いいか、一緒に居ても俺はアンタの悪魔食い(デモンイーター)は狙い続ける。精々、寝首を欠かれないよう気をつけるんだな」


 聞く人が聞けば、デレフラグ成立と思うベルの台詞に良雄は満面の笑みで応えるのだった。




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