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「何でアンタは悪魔喰い(デモンイーター)を使わないんだ? 」


 溜められた間から、良雄はもっと聞きづらい事を聞かれるのではないかと身構えたのだが、


「はあ? 」

「アンタ、あれだけの剣術を持ってるんだ。魔力を使えば、相当な強さがある。絶対無敵なんて有り得ないにしても、俺や獣姫ビーストクィーンの後塵を拝すなんて事はない」

「随分な評価を貰ったもんだな」

「過剰評価だとは思ってないよ。あの剣技を見るまで俺は、アンタをその他大勢としか思ってなかった。それを一変させたんだ」


 ベルは良雄の動きではなく、技を思い出しながら言葉を綴る。


「それ他意はないよな」

「ただアンタは弱くないって事にどんな他意があるって云うんだ? 」

「いや、恥ずかしながら褒められ慣れてないからな。どう反応して良いものか、全く分からん」


 ベルの言葉を噛み砕けば、良雄の扱う技が凄いと云う事だ。そしてそれは、間違いなく良雄を称賛するものではある。しかし、


「それに、魔力を付与した攻撃はしたぜ。お前さんを驚かす程度の力しかなかったけどな」


 その程度の実績で「認めた」と云われても、嬉しさよりも疑念が先に出てくるというものだ。


「あれは、アンタの魔力を乗せただけだ。だから、影の先にいた俺を倒すには至らなかった」

「あん? そりゃあ一体…… 」

「俺は云ったよな。何故、悪魔喰い(デモンイーター)を使わないんだって」


 悪魔喰い(デモンイーター)は、己の魔力を高める増幅器(ブースター)のはずだ。それを所持した者が魔力を使っているのに、使っていないとはこれや如何に…… 良雄を認識を超える質問に思考が混乱する。


「さっぱ、意味が分からん」

「…… やっぱり」


 良雄が首を傾げると同時に、ベルは一つの確信を得たように頷き、


「アンタは、悪魔喰い(デモンイーター)を拒否してんだな。だったらその力、俺にくれよ」

「何でそんな結論になる? そもそも、今の状況にした元凶をまた求めるなんて気がしれんぞ。力なんぞに取り憑かれても碌な未来なんてないぜ」


 ベルが言い澱んだ理由を知り、良雄の中から少しでもベルの良い所を見つけてやろうとしていた善意が萎んでいく。


「力がない者が淘汰される世界をアンタは知らないだろ。自分の小さい価値観を俺に押し付けるなよ」


「淘汰ねぇ…… お前の云う力が生きる為の力がないって事なら、素直に頷けるんだがな。どうにも、そうじゃねぇだろ? お前の云う力は人から特別視される力だ。そんなもんが無ければ淘汰される世界なんてあるはずねぇよ」

「力に違いはねぇだろ」

「あるさ。生きる為の力は本来誰でも持っている力だ。これがないって云うなら、淘汰も当然だろう。けどな、お前が欲しがってるのは、本人が努力して手に入れるべき物だろ」


 誰でも持つ事が許されない力が無ければ淘汰されると云うなら、世の中の半分以上は生きていけないという事になる。そんな世界が存在していけるはずがないのだ。


「強くなりたいなら、こんなもんに頼るなよ。その為の時間と場所は、真人が用意してくれてるだろ」

「一時与えられた夢に縋ってたら、現実に戻れなくなるんだよ」

「だったら、俺が悪魔喰い(デモンイーター)をやったら、お前は敵に戻るって事か? そりゃあ、あんまりにもおめでたい考えだと、俺の足りない頭でも思うぜ」


 裏切られて切り捨てられたのだ。どんな功績を持って帰ったとしても、秀明の元にベルの居場所はない。


「そうじゃ……ない。けど、もしお前らが裏切ったら、俺にはもう何もなくなる」

「信用出来ない、か」


 元々、敵だった上に信用や信頼など無用な場所で過ごしてきたベルには当然の思考だった。


「人は気紛れだ。その時は本気でも一瞬で変わる。そんな存在を信じる方がどうかしてる」

「その時は本気ならいいじゃないか。時が流れれば、当然考えは変わる。その瞬間、本気で自分の事を考えてくれる人がいるなら、本気を返すのが礼儀だと思うぜ」

「アンタ、お人好し過ぎるよ」


 そう呟くと、ベルを取り巻く空気が一変し、良雄の体を貫いていった。


「だから、裏切られる」

「ああ、自分でも…… って、おいっ! 」


 両腕を肩の高さまで上げて、戯けて見せようとした良雄だったが、全く両腕が上がらないかった。


「頼んでもダメなのは分かっていたよ。だから、チャンスを待ってたんだ。アンタが一人になり、何の警戒もなく体を休めるこの一瞬をね」


 悪魔喰い(デモンイーター)に魅せられたベルの瞳に妄執という炎が宿っている。そして、ベルは炎を絶やす事なく良雄を見据えて言葉を綴る。


影縛り(シャドウスナップ)、自分の影を操る魔力は無くても、アンタの動きを封じる程度の魔法は使えるんだよ。俺がアンタの影に触れている限り、指一本動かせない」


 良雄がベンチに座った時、躊躇いなく寄り添って座ったのはこの為だった。


「ほぉ、さっきから舌を口の中でレロレロしているんだかな。全く、見せてやれないのが残念だ」

「虚勢はいい。大人しく悪魔喰い(デモンイーター)を渡せば命までは奪わない。悪い取引じゃないはずだよね」

「良いも悪いもなぁ…… 俺が一方的に略奪されるだけだぞ」

「そうだね。でも、命と比べられないだろ」


 そう、比べれられるはずがないのだ。だが、そう云うベル本人が命より悪魔喰い(デモンイーター)を選んでいる。その事に気付いているのに気付かないふりをしている。


 ── 馬鹿だよ。お前……


「欲しいなら奪えばいいか、やっぱりガキだよお前は…… けど、だからこそ殺されてもお前にはやれねぇな」

「やっぱりそうなるか、残念だ」


 狂気に満ちた顔をして、ベルはすっと良雄の口元に手を伸ばしたのだった。





 ……………………………………………………………





 美沙から話を振ってきたにも関わらず、その後三十分は沈黙が続いていた。

 ある意味、瑞穂達を排除して作り出した時間が勿体無いと思う反面、美沙が真剣に考える様を見せられている為、迂闊に催促する事も出来ないでいた。

 そんな悶々としている中、沈黙を破ったのは真人のお気に入りのメロディーだった。


「あれ? これって…… 」

「ん、ああ、真人の携帯が鳴ってるみたいね」


 スマホ全盛のご時世だが、真人は頑ななまでにガラケーに拘りを持っている。

 情報量の違いは確かに真人も認めているが、外でふと知りたい程度の情報ならガラケーでも充分であり、費用の面でも約半分で済むという事が拘りの大部分を占めていた。

 そして今、久々に聞いた着信音でガラケーでも充分な機能を持っていると、改めて実感して誇らしい気持ちになった。


「何でどや顔? 」

「いや、以前、瑞穂にガラケーなんて電話とメール以外使えないと── 」


 だがどうだ。着信音一つ取っても、カクカクするような電子音ではなく、ちゃんと音楽になっている。それが妙に嬉しく思えるのは、携帯電話のない世界を経験してきたからなのかもしれない。


「でも、飽くまでも携帯電話なんだから、電話が使えれば全くこれっぽっちも問題ないと思ってまして」

「それでどや顔? 」


 確かに真人が自慢するような事ではない。


「まあ、信念に基づいた確信を得たと云いますか」

「ふぅん」


 良く分からないという顔をして、美沙は曖昧に相槌を打つと、


「で、出なくていいの? 」

「ま、大丈夫でしょ。俺に掛けてくるヤツなんて一人しかいないし」


 深く思い出すまでもなく、真人の番号を知っている者は四人しかいない。瑞穂と美沙。そして、秀明と裕司である。

 正にぼっち携帯の典型といえる状況なのだが、これまで番号を聞かれる度に「スマホを持ってない」と断り続けた結果なのだから、真人は別に気にも止めていなかった。


「淋しい青春ね」

「態々、改めなくていいです」


 そう云っているとメロディーが止まり、電話が切れた事を知らせた。


「さて」


 誰が掛けてきたのか分かりきっていても、ほっとく訳にはいかない。真人は重い腰を上げて自分の携帯を取りに行くのだった。





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