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恒久の無限回廊  作者: えくりぷす
セルディア
10/75

2

「この国、ラフィオンではね。精霊使いはそれだけで神官になれるのよ。

 当然だけど、神官は特殊職だからかなりの権限が与えられる。その分、国事に従事しないといけないけどね」

「自由がなくなるんじゃ意味ないだろ」

「神官長にでもならない限り、そんな心配は不要よ。国の危機に馳せ参じる事が出来るか否か。

 それだけで、自分の身分が与えられるんだからお得よね。

 それに…… 」


 スティルは少し言葉を濁したが、その意味はすぐに理解する事が出来た。


「国が把握していない精霊使いは、はぐれ扱いされるのよ。ぶっちゃけ犯罪者と同じ扱いになる」

「おいおい、何だそりゃ…… 」

「それだけ精霊使いは驚異なのよ。限定とは云え、魔法に準じる力を使いたい放題。使用速度も呪の詠唱がない分、魔法以上なのだから身内でなきゃ、驚異の対象にしかなり得ないでしょ」


 つまり、身内に入らない者は敵とされるという訳だ。

 だから、スティルは言葉を濁した。

 この国にいる以上、精霊使いは神官になれるのではない。ならなくてはいけないのだ。


 ─── 何がお得だよ。大した責務もなく、権限を与える訳だ。


「そんな理不尽がまかり通るんだな」

「ちゃー、やっぱそう思ったか…… 説明の順番間違えたな」


「ん?」と、真人は首を傾げた。

 真人の中で、スティルはこのシステムに少なからず否定的なものを持っていると思っていた。しかし、どうにも違うようだ。


「君は異例だからね── 」そう云い始めたスティルは、精霊使いについて説明をした。


 本来、精霊使いになる為には『契約の儀』を行う必要がある。この儀式を行って精霊に認められた者が晴れて精霊使いになれる。

 もし、全国民が義務として、この儀式を受ける事になっているとしたら、それは自由とはかけ離れたものになる。しかし、これは義務ではなかった。

 全ての民が契約の儀を受ける権利を有し、必ず受ける必要はない。


「だから、選択の自由は皆に与えられているのよ。

 ま、君には無かったけどね」

「何気に酷いな…… それ。── けど、理解はした」


 国民に自由が与えられているのであれば、愚制と切り捨てる事は出来ない。真人は一応の納得をしたのだった。


「そ、なら良かったわ。だったら話を礼儀作法についてにしましょ。

 神官の承認には、王との謁見が必須だから」


 そう云ったスティルだったが、何故か頬を掻き言葉を止めた。


「今度は何だ? 」

「うん、そうは云っても難しい事はないって思ってね。

 王の前では膝を折り、指示があるまで頭を上げない。そして、一番大事なのは余計な事を云わない。それだけで全てが流れるわ」

「そんな簡単な事でいいのか? 」


 貴族のしきたりなど真人は一切知らない。だから、云われるままに動くしかないのだが、それでも一国の王を前に無礼を働けばどうなるかなど子供でも分かる。

 事が事だけに「知りませんでした」では済まされないのだ。


「ポイントは無駄話をしない事なのよ」


 スティルは指をチッチッと振りながら答える。


「向こうから質問とかあるだろ」

「何の為に私が同席すると思ってんのよ。

 マズイという時は私が代わるし、口を挟まない時は思ったまま答えればいい」

「おい、さらりと聞き捨てならない事を言わなかったか? 」


 余りにもあっさり云い流したが、スティルの言葉には重大な情報があった。


「耳敏いなぁ、君は…… 」


 王との謁見の最中に口を挟めるという事は、それなりの地位にいなければならない。末端のぺーぺーが「それはあれですわ」などとのたまわったところで、黙ってろと一喝されるだけである。

 だが、この二十歳そこそこの女性は、あっさりと自分が代わると云ってのけた。


「アンタ、何者なんだ? 」


 真人はスティルに底知れないものを感じ、恐る恐るといった態で聞くと、


「別に、ただの何処にでも行く神官長よ」

「何処にでも行くのかよ」

「そ、普通は四人いる神官長だけど、今は二人しか居ないからね。何があるかもという情報があれば、毎回駆り出される損な役割なのよ。

 けど、その分、現場を見ている私の言葉は重く捉えてくれるって訳」


 地位のあるパシり── それが一番簡単な表現だった。

 一瞬感じた畏れが馬鹿馬鹿しく思えるほどに簡単な表現だが、この若さでそれだけの信用を勝ち取る事が出来る才能は驚嘆に値する。


「多分、凄い奴なんだなアンタ」

「ふふん、見直したか」


 真人の曖昧な表現にもめげずに胸を張るスティル。


「まあ、な。けど、神官長が四人という事は四元素か―― アンタが火という事は、不在の二人は水・風・土のどれかだな」

「へぇ…… 」


 真人の呟きにスティルは感嘆の吐息を漏らし、


「何も知らないかと思えば、妙な理解力を示す。やっぱり面白いね君は」

「お褒め頂き光栄の至りですね」

「その通りだよ。不在の神官長は、風と水を司る者…… この二つの属性の精霊主と契約した者がいないのよ」

「精霊しゅ? 」


 聞き覚えのない単語に首を傾げる真人。その様子を見てスティルは笑いながら、


「四元素それぞれの頂点に立つ精霊の事よ。この精霊と契約を結んだ者が神官長になるの」

「えっ、すると…… 」

「私が契約しているのは炎の精霊(イフリート)のフレイヤ。炎の精霊の頂点に立つ存在」


 そう云って、スティルは右手を上向きに開く。そして、


「フレイヤ」


 精霊の名前を呼ぶと、インコ程度の火の鳥を顕現させた。


「用もないのに呼ぶなって、いつも云ってるでしょスティル。全く、いつも無駄な力を使わせて」

「いやね、用があるから呼ぶんじゃない」

「な、な、な…… 」


 炎を纏った小鳥と会話をするスティル。

 その様を見て思考が停止する真人。

 そして、真人を見て不機嫌そう? に、フレイヤは云った。


「初めまして人間。仲良くするつもりはないから、よろしくとは云わない。だからその間抜け面をとっととしまってくれない不愉快だわ」


 見た目の可愛らしさとは裏腹に、辛辣に真人を拒絶するフレイヤ。


「口が悪いのよ、コイツ」

「コイツとは何よ。アンタなんて私が居なければただの三流剣士じゃない。誰のお陰で今の地位にいると思ってんのよ」

「あ、それを云う。構わなければ淋しがるくせに、たまに構えば憎まれ口を叩くか、お前は」


 ツンデレ精霊かよ…… 真人はジンが自分に取る態度を思い出して、主従関係という言葉を真剣に見つめ直すのだった。


「知らない。もう用は済んだでしょ帰るから引っ込めてよ」

「おお、帰れ帰れ」

「…… なんか不毛だな」

「「うっさい、黙れ」」


 最後に息の合ったところを見せてフレイヤは消えた。そして、スティルはコホンと咳払いを一つして、


「と、いう訳よ。分かった? 」

「分かったのは、人と精霊では主従の定義が違うって事ぐらいだな」


 溜息混じりに真人が云うと、スティルは溜息を返してくる。


「そうなのよ。高位な精霊になればなるほど自我が強くなるみたいでね。全く困ったものよ」

「お互い苦労するな」


 してやったり、スティルは内心ほくそ笑んでいた。実はこの会話に、この先の展開に関わってくる重大な事があったのだが、真人は気づかずにいるのだから当然の余裕だった。


「私の立場がはっきりしたところでカミシロマサト。貴方は今日から名前を変えなさい」

「な、なんだ突然」

「このセルディアで貴方の名前は目立ち過ぎる。異世界人と分かれば、それだけで余計な迫害を受ける可能性があるわ」

「確かにそうだな」


 スティルの申し出に、真人はそんな事もあるのだろうと単純に思い頷いた。そして、


「それじゃ、ここではライズと名乗らせて貰おうか。これなら大丈夫かな?」


 ここに来る前に何度も聞いた名前、それがセルディアに由来する名前ならおかしな事はない。そう考えて真人は云った。


「ええ、いい名前じゃない」


 スティルは深く頭を下げて頷くと、親指を立てて涼やかに笑顔を見せたのだった。





「さて、お待ちかね。王宮へご案内~」


 家を一度出て裏手に回ると、そこに大小様々な石が円状に並び、さながらストーンヘンジの縮小版といった感じだった。


「これが(ゲート)か」

「そっ、王宮とここを繋ぐ道。これがあるから、私達はここに住居を構えられるのさ」


 真人は(ゲート)の回りを一周してみる。


「想像してたのと違うな」

「ちゃちい? これでも魔術の最高技術の結晶なんだけど」

「いやいや、門というから凱旋門のようなのを想像してたんだが」

「がいせんもん? 」


 スティルは頭の上にクエスチョンマークを出している。


「あ、そうか…… えーと、城門みたいなのと云えばいいかな」

「あー、なるほど。あんなのを想像してたなら、そりゃあ違和感もあるかもね。

 じゃあさ、転移ゲートと云ったら想像しやすかったかな」


 そう云うと、スティルは一番背の高い石に手を当てた。


解放(アンロック)


 厳かといえる静かな口調でスティルはそう呟くと、淡い光が右手を包む。そして、その光はスティルを起点に全ての石に回り、そのまま中心部で五芒陣を描いた。


「おっ、これは…… 」


 光が描く魔法陣を初めて見た真人は、その神秘的な輝きに目を奪われる。


「王宮にはこれと同じ物が四つあるんだよ。それぞれ行き先が違い、登録された魔力波動を持つ者なら誰でも起動出来るんだ」

「魔力波動? 」

「そだよ。人間は特例を除き、誰でも魔力を持っているのさ。

 けど、その波形は人それぞれなんだ」


 指紋や声紋のように二つとない固有のもの、そういうものなのだろう。

 真人がこれまでいた世界では有り得ない固有証明だが、理解し受け入れる事は容易かった。


「つまり、アンタ自身が鍵になってるって事か」

「そうよ。そしてこのゲートを開ける人間は、今世界で5人だけなのさ。

 どう?見直した」


 スティルは、そのまま後ろに倒れるのではないかというほど重心を後ろに向けて、その豊満な胸を更に強調した。


「へぇ…… 」

「何よ、その薄い反応は」


 もっと敬えと言いたげな表情だった。

 だが、真人にしてみたらこの世界の総人口すら分からないのだから『前の世界なら32億の中5人…… そりゃあ確かに凄いな』という程度の反応になる。


「不満か? 」

「せめて『おお〜っ! 』程度の反応があれば納得するんだけど、何か話が通じてないみたいだから」

「否、云いたい事は理解してるぞ」


 真人が、事の他興味ないように云うと、スティルはフンっと鼻を鳴らし、


「何をどう理解してるって云うのかしら? 」

「うん、そうだな。例えば── 鍵となる人間は王とその側近。この場合は宮廷魔術師ってトコか。

 そして、それ以外は領地の守護者。アンタと妹のレイサッシュさんなんだろ?」

「…… は。な、何でそんな事まで理解してんのさ」


 スティルは想像以上の慧眼を目の当たりにして、あんぐりと口をパクパクさせている。


「ふむ、大体合っているか」

「だから── 」

「簡単な事さ。

 まず、この(ゲート)は魔術の最高技術なんだろ。だったらこのシステムを管理する者が必要だ」


 魔術の技術を管理する者なら、当然魔術士だろう。そして、一介の魔術士にそんな大役が務まる訳もなく、権力を保持した者、宮廷魔術師になる。


「ついでに云うと、リスクヘッジを考えれば、二人は必要になるよな。一人が何らかの事情で(ゲート)に関われなくなる場合を想定してだ。

 これで後は消去法―― まず主がその権限を保有しないはずがない」


 宮廷魔術師二人に、王を加えて合計三人。そして、自ら(ゲート)を解放してみせたスティルで四人。


「で、アンタがさっき云ったように、今ここに居ないという妹さんを加えれば、丁度五人になる」


 スティルの妹であるレイッサッシュが、鍵保有者(キーホルダー)である確証は今の真人には無い。しかし「今はいない」と云うスティルの言葉尻を取れば、いつでもここに来れるという事なのではないだろうか―― そう真人は考えた。


「に、人数は兎も角、私達の役割を看破したのは? 」

「ああ、それか。── それは勘だよ。

 仮にも神官長様がこんな辺境で、護衛も無しに暮らしてるのはおかしいだろ。だったら、ここに住んでいると仮定するより、定期的にここに来ているとした方が自然なんだよな。

 とすると、その土地を護る為にって考えれば、一番辻褄が合うんだよ」


 もっと深く追求すれば、先程出てきた食事は保存食の干し肉のみ。これも、住んでいないのであれば当然だった。


「…… なるほどね」

「逆に見直したか? 」

「そうね。一寸、甘く視てたかも」


 本音はそうではない。

 スティルにしてみれば、真人に与えても良い情報だったので問題がある訳でもない。しかし、その答えを導けるだけの情報を出したつもりもなかった。


 ── 出す情報をもっと絞らなけれならない。


 スティルにも目的がある。慈善事業で真人を保護しているのではないのだ。

 真人が何も悟れない愚か者なのも困りものだが、鋭すぎるのはもっと問題だった。


「心配するなよ。何を企んでいるかまでは分ってない。

 それでも、俺はアンタを信用してる。暫くは云う通りに動いてやるよ」

「二言はないわね」

「そこ食い付くトコか。そんなんじゃ、何かを企んでますって公言してるのと同義だぞ」


 一応、突っ込んでみるが真人にしても、スティルが何も考えてないとは思っていない。寧ろ、公然と企んでいるよと云ってくれた方が落ち着くというものだ。

 そして、スティルは真人の思った通り隠そうとはしなかった。


「当たり前、何も考えてない訳ないでしょ。色々、楽しい事考えてるわよ」


 前言撤回、まったく落ち着かない。

 …… お手柔らかに頼むぞ。


「んで、まさかとは思うけど注意点を忘れてないわよね」

「アンタが口を出している時は余計な事は云わないだろ。分かってるよ」


 それ以外にも幾つかあったが、コレが一番大切な事だった。


「OK、問題ないわね。それと何があっても動揺しない事。器を見られるからね」

「ああ、了解だ」


 了解と同時に、スティルは魔法陣の中心部へ真人を誘う。

 そして、スティルの誘導に乗じて光源の中へ踏み込むと、その光は更に輝きを増した。


「人体に影響はないよな? 」

「一回の使用で精神力を多少使用するから、寿命がニ、三日減るぐらいよ。

 歩いたら、二週間掛かるんだからケチケチしなさんな」

「…… おい」


 冗談じゃない―――

 慌てて光の中から脱出を図ろうとする真人を、スティルは強引に押さえつけた。


「冗談よ、大丈夫だから。もう、小さな男ね」

「人生80年、その内の数日は小さくないだろ」

「はぁ、こっちじゃ人生40年よ。倍も寿命があるじゃない」


 ――― 戦国時代かよ、ここは。


「一日でも無為に過ごすヤツは大成しないってのが、我が家の家訓なんだよ」

「あら、ステキ。その信条は大切にね」


 スティルがそう云うと、光の帯が真人達を包み込む。

 真人は重力から解放された気分になり、宙に浮く感覚を覚える。そして、光で回りが一切見えなくなると次の瞬間には見た事のない景色が眼前に広がっていたのだった。



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