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前編

俺は死んだ、らしい。

“らしい”と言う言葉を俺が使ったのは俺自身が信じていないからである。俺はここにいる自称“魔女”の少女に告げられたのである。

昨日までは、生きていたという自信はあるが、今日の朝目覚めたのかは覚えていない。目覚めたら、もうここにいたためである。


佐月『つーぎはら!』

佐月(さつき)か」

佐月『これ、おまえの分のノートな!』

「いつもありがとな」

佐月『お礼は必要ないって、宿題写さして貰ってんだからさ』

前田『…まだ、良くならないのか?』

「ああ…ホントごめんな」

前田『謝るなって!お前が悪い訳じゃないんだからさ』

俺の身体が崩壊を始めたのはつい最近のことだ。いきなり、失明した。朝起きたら周りが真っ暗だったのだ。電気を付けても光はいっこうに入っては来なかった。病院には勿論行ったが、失明の原因は不明だった。そして、三日前には利き手である右手が動かなくなった。手を上げることも指を動かすことも出来なくなった。だから、俺の今の格好はどう見ても障害者に見えることだろう。学校への登下校は一人では危険なため親や兄弟が送り迎えをしてくれる。字を書くことが不可能なため友達にノートを取ってもらって後からそれを兄弟に読んでもらい、勉強をしていた。

それらの行為は俺の精神だけじゃなく、周りの精神をも擦り切らしていく。俺は、あまりにもいきなりなったことに対して泣き叫びたい気持ちや、辛い気持ちを誰かに打ち明けたかったが、周りが俺の身の回りのことをしてくれるのにこれ以上負担を強いて欲しくなかったから必死で抑えた。

だが、俺は我慢しすぎてとうとう刃物に手を伸ばした。

毎日、何処かに傷を付ける。傷の痛みで心の痛みを紛らわせようとしたのである。だが、毎日何処かに傷を作ってくることに対して不審に思ったのか、両親が学校でいじめを受けてるのではないかと思い始めてしまった。幸いなことに俺のクラスの連中は俺のことを哀れに思ったのかいじめはなかった。だが、両親は担任に相談してしまった。担任は俺に聞いた。そのときに気付いたのだ。だから、俺は少しだけ本音を混じ入れて自傷のことを担任に話した。

両親は担任からその話を聞いたのか、俺を強く抱きしめた。

だが、俺が刃物に手を伸ばすことはやめはしなかった。


【きみは死んだ瞬間の記憶と前の記憶を喪失している。こういう場合、偶々死んでしまった場合が多い。よって、自殺ではない。いつの間にか死んでしまったいた老衰でも、病死でもない。だから、きみの死は事故死か、殺されたかのどちらかになる】

「あんたは、俺がどうやって死んだか知ってるんじゃないのか?」

【まさか、そんな能力はない。誰かの記憶を奪うことはできても、それは無理だ。】

「記憶を奪う?」

【新しい人生を歩むために邪魔な記憶をあたしが奪うんだ】

「あんたも死者?」

【あたしは魔女だ。この世界を管理している】

「……なあ、生き返ることはできないのか?」

【あたしは魔女だ。それくらいのことはできる。だが、その場合お前の大切なものを奪う】

「大切なもの?例えば?」

【人や、物、感情、様々だ】

「人って、家族や友達?」

【そう】

「……俺が生き返る代わりに誰かが犠牲になるってわけか」

【そう、あたしは“与える”ことと“奪う”魔女だ。生き返る前にお前に仮の人生を与える。それはお前が生前いた場所と同じ場所だ。転校生としてお前自身が、お前を見るんだ】

「……えっと、俺自身が俺を見る?どうやって?」

【お前の記憶に入り込み、そこに別の名前でお前は本物を見るんだ。どういう人生を歩んでいたのかを、な】

「…よく分からないけど、とりあえずよろしく頼む」

【せいぜい、別の人生に楽しんで来いよ。本当に生き返りたいのか、決めてこい。その世界は生前お前が見ることが出来なかったものを見せるからな】


佐月『こんな時期に転校生って珍しいよな』

「なあ、あんた…名前は?」

佐月『転校生、』

〈俺は継原李誠(つぎはらりせい)

「あんた…障害者なの?杖ついてるけど」

俺のその一言で教室が静まり返った。自分自身に障害者なんて言ってみたかったわけでは無い。ただ口が勝手に動いた。

前田『転校生、言って良いことと悪いことあるって知らないのか?』

〈前田、俺は平気だから。雪見(すすみ)君、だっけ。そうだよ、俺は障害者だ〉

「……障害者がなんでこんなところにいんの?」

その一言で俺は今、クラスの連中からいじめにあっていた。

転校生、雪見晶良(すすみあきら)の設定は幼い頃に虐待にあったこととそのせいで施設で暮らしていたが、その施設でもいじめにあっていた。そのせいで、幸せそうなやつを壊したい思いが存在する。らしい。

この設定はあの魔女が考えたのだろうか………

貴宝(たかほ)『ちょっ…お前何してんの?』

晶良には自傷癖があるらしく毎日しなければ震えが止まらなくなるらしい。

「何だよ、見んなよ!」

貴宝『…今、自分でやったよな?雪見って自傷癖あんの?』

「見んなって言ってるだろう!?」

貴宝『落ち着けって。そんな大声だしたら周りに気付かれっぞ』

俺は今、教卓の隙間でそれをやってたのだ。忘れ物を取りに来たらしい貴宝が声に気付いたのかこうして見つかってしまったというわけだ。

「うるさい!!早くどっか行けよ!!」

貴宝『…そんな状態のお前を放置して行けるわけ無いだろ!?』

「善人ぶるなよ。見てるだけの癖に」

貴宝『雪見があいつにあんなこと言うからだろ?』

「転校生の俺がそんなこと知ってるわけ無いってなぜ分からない?」

貴宝『そうだとしても、あれはこのクラスでは禁句なんだよ』

「だが、本当のことだろ?何故言ってはいけない?」

貴宝『あいつにストレスを感じさせちゃダメって担任から言われてんの』

「俺はそのせいで、自傷が酷くなった!どうしてくれる!」

貴宝『責任転嫁はやめろ。今日放課後、無理矢理にでも姉貴に会わせる』

「放課後は無理だ。施設の門限破ったら虐待される」

貴宝『は?お前…施設って』

「俺んち崩壊して母親は警察に捕まったし、父親は女作って逃げたんだよ」

貴宝『……』

「あー、哀れむなよ?ムカつくから。兎に角、放課後は無理だ」

貴宝『じゃあ、俺の家に泊まれ。それなら構わないだろ?』

「分かってないな。門限破ったらだめなんだよ!」

貴宝『俺の家、養護施設なんだよ。だから、来いよ』

「……」

貴宝『逃げるなよ?』

「…コワい……」

貴宝『…大丈夫だから』

「逃げたら、虐待、すんの?」

貴宝『しないよ。俺の家はそんなことしない』


《いらっしゃ~い!晶良君》

貴宝『姉貴、母さん達来てる?こいつの手続きしたいんだけど』

護里(まもり)にいるわよ》

貴宝『お前のことは世話役達には言ってあるから。って…緊張してんのか?』

今、俺はあの施設に寄り大事なぬいぐるみだけを取ってそれを年の割に恥ずかしいと思われるが、抱き締めながら貴宝の後ろに引っ付いていた。


貴宝『母さん、こいつが雪見』

母『初めまして。雪見晶良君。きみのことは既に夏葉(なつは)から聞いてるわ。これからよろしくね?』

「……」

それから俺は貴宝と一緒に学校に通い、行動を供にするようになった。だか、それは貴宝が俺に声をかけて行われてるからであって俺自身から掛けたことは一度もない。貴宝はクラスの中では“誰にでも優しい”為、最初は同情心で近付いてるのかと皆(いじめをしていた連中)思ったが、貴宝自身が、“雪見晶良は先週から俺の家族になったんで”と言ったことにより、察しの良い一部のクラスメート達は雪見晶良が今どういう状況にいるか理解したのである。貴宝の家が何をしているかクラスメートは全員知っているため。そして、貴宝をよく知る人物、親友達はそれが同情心だけでないことを知っていた。貴宝は、“昔何も出来ずに死んでしまった妹”を俺らの中に見ているのだと言うことを


貴宝 莉衣架(りいか)は貴宝の妹だった。彼女は何者かに川に突き落とされ石に頭をブツケて死んだのである。その何者かの正体は既に分かっている。彼は莉衣架を子供の愛ではなく、もっとドロドロした愛で見てたらしい。莉衣架はそれに気付かず、彼に好きな子が出来たことを話してしまったのだ。彼は莉衣架が彼に背中を向けたことを良いことに石が敷き詰められている河原に突き落としたのである。彼はずっと呟いていた。“これで、リイカは俺のものだ”と。だが、その呟きは彼が持っていたICレコーダーから間接的に聞いたものであって彼の口から直接聞くことはなかった。何故なら彼自身も莉衣架の隣で、死んでいたからである。自殺したのだろう。二人とも頭の骨はもちろんのこと首の骨も折れていた。二人とも享年、9歳だった。


康仁(やすひと)『あんたが、新入りのアキラ?』

「……」

康仁『人見知りなんだっけ?ま、どうでもいいけど。俺は主に生徒達の飼育をしている。兄貴は、一種の精神病なんだ』

「貴宝のこと?」

康仁『貴宝はこの施設の名前。下の名前でこれから言え。紛らわしいから』

「夏葉?」

康仁『ああ、そうだ。妹が死んだ辺りからおかしくなったと前の飼育係が言っていた。』

「妹?妹がいるの?」

康仁『ああ、いや…正確には“いた”だ。数年前に何者かによって殺害されたらしい』

「だから、皆に優しいの?」

康仁『ああ、そうだ』


死に神《なあ、よくもまた獲物を奪ってくれたな》

【あたしは“奪う”魔女だからな】

死に神《…なあ、お前女だろ?何故、男言葉を使う》

【男に捕まえられたくないから】

死に神《俺だって男だぞ?》

【ネコはあたしの生前の婚約者だから許す】

死に神《…生前の話は嫌いだ。嫌でもお前が殺された日を思い出すからな》

【じゃあ、婚約者のことも隠しておけばよかったのに】

死に神《俺は欲求不満なんだよ。生前愛した女にまた愛されたいって思っちまうんだからな》

【あたし、ネコのこと好きだったのかな?生前のことはほとんど記憶がないんだよ】

死に神《お前が覚えて無くとも俺が覚えてる。だから、無理に思い出そうとしなくて良い》

【でも、気になるよ。生前の記憶がネコのことをぼんやりとしか覚えてないって変かな】

死に神《変じゃない。俺はすごく嬉しかった》

不定期更新ですが、よろしくお願いします。三部で完結する予定です。

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