第二話 マリカー
部室の中央に置かれた長机と、それを囲むように設置されている椅子のある所へと手を引かれ、腰掛ける。
辺りを見回しても本棚、テレビゲーム類、お菓子の山等、俺の想像していた部室とは縁がなさそうなものばかり並べてある。
「それじゃ、蓮。部活を始めよう。進行よろしく!」
「いや、俺ここに来て初日ですから。しかも見学ですから。なに俺に仕切らせようとしてんすか」
この小動物、もとい蘭先輩は脳も小さいのかもしれない。
「それもそうだね。…早く言ってよ!」
潰してやろうか。
「蘭ちゃん。言ってることが支離滅裂ですよ」
蘭先輩の暴走を止めてくれたのは、確か水仙先輩。だったはず。まだ名前覚えきれてないけど。
「自分はゲーム大会を提案する」
そう手を上げたのは、確かあやめ先輩。うん、キャラ通りの人だなこの人。
「いいね!」
いいんだ。
ということで。
「第四回、マリカー大会ぃぃぃぃ!」
「結構やってたんですね!!」
どうやら三回は経験済みらしい。
「蓮、こっち来なさい」
蘭先輩に手招される。そこには
「デッカ!」
見たことないぐらい大きなテレビ、もしくはスクリーンがあった。その前にはご丁寧に座布団が四つしいてある。
つか、どっから出てきた…。この部室に入ってきた時にはなかったはずだが。
「実はこれ、床に収納可能で…」
水仙先輩がこちらの考えを読んだかのように説明を始めてくれる。
「なんと、自動で出したりしまったりできます」
すげぇ!てか高校の一部室にあるべきものじゃねぇ!
「ちなみに、全額あやめさん出費」
「は?」
信じられるはずもなく、だらしなく口を開けたままあやめ先輩の方を向く。
「あぁ、うん。それなりにしたかな」
どないやねん。
「ほら、始めるよ」
蘭先輩が痺れを切らしたように立ち上がり電源をつけた。
ゲームのタイトルが表示される。
『マリが舞台!少年よ、そのカートであの夕日へ駆けろ!』
「マリカーじゃねぇ!」
「マリカーでしょうが!」
俺の叫びに蘭先輩がつっかかってきた。
「いや、まぁ、はい。マリカーはマリカーですが。少なくとも俺の望んでいたマリカーではありません」
「何言ってんの、蓮」
「ですから…!」
納得のいかない俺だったが、
「著作権。」
あやめ先輩の呟きが、俺を黙らせた。
ーーー・ーーー
なんだかんだで始まってしまった『第4回マリカー大会』。
画面内では既にキャラ選択の画面に進んでいる。
「次、蓮の番ね」
コントローラーを渡される。
「えっと…。…なんだこのコントローラー」
例えるなら初代プレ〇テのコントローラーに似ているが両方のボタンがスティックに変わってる、みたいな。
うん。なにこれ。
「先輩、このコントローラー初めて見たんですが」
「だってあやめに作ってもらったし」
「は?」
あやめ先輩の方を向く。
「いやぁ、楽しかったぜ」
何この人。
気を取り直してキャラ選択に戻る。
「蓮は初めてだから私がそれぞれのキャラの説明をしてしんぜよう!」
「あぁ、ありがとうございます。助かります」
画面に眼を移す。
・栗棒
「あの、これは」
「栗に刺さった棒。雑魚キャラよ」
「……。」
・국밥
「これは…」
「국밥よ」
「いやこれ韓国語表記してますが、どう見てもキムチ雑炊の」
「국밥よ」
クッパじゃねぇか!
・毱男
「顔が毱のおっさん…!?」
「毱男さんね。このゲームの主軸キャラよ」
「ここまでどう考えてもダジャレ…「オリジナルよ」
最後まで言い切る前に遮られた。
・破壊神℃VOLZARD
「なんだこいつ!」
「『はかいしん どぼるざーど』よ!」
「『℃』で読むんですね!」
「このゲーム唯一のオリジナルキャラよ」
「え、さっき」
「…皆オリジナルなんだけどね!その中でもこう…オリジナリティ溢れるというか」
汗すごいっすよ。
結局破壊神℃VOLZARDを選んだ。結構センス溢れる名前に見えてきた。まだ俺にも中二心が残っていたのかもしれない。
「さ、レースが始まりますよ」
水仙先輩の声に応じて画面に集中する。
「…これ、操作方法は?」
「あなたがマリカー(本物)をプレイしたことがあるなら知ってるはずよ!」
「そこはパクったんですね」