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第十八話 ()熱海旅行 2

「さて、かわいくない後輩も来たことだし本気でやろうか」

「余裕を見せていられるのも今のうちだからね!私が本気を出したら満塁ホームランを二連続で放っちゃうんだから!」

 卓球台のところに戻ると、休憩していたのかあやめ先輩と蘭先輩が傍の自販機前で駄弁っていた。水仙先輩は卓球台で一人ラケットに球を当てる練習をしている。自分で放った球すら当てられないって運動神経悪すぎないだろうか。なごむからよし。

「煌は眠くなったようで、夕食まで仮眠するみたいです。んで、先輩方は休憩ですか」

「……」

 なぜかこちらの質問に黙る蘭先輩とにやつくあやめ先輩。

「蘭ちゃんが負けてジュースをおごりになっちゃったんですよ」

 その理由を水仙先輩が教えてくれた。どうやら卓球は諦めたようだ。遠くにつぶされたピンポン玉が一つ落ちている。

「次こそは……つぎこそはぁ」

「次も私が勝つ。私はまだ変身を二回残している」

 フ○ーザか。

「さぁ、ダブルスで憂さ晴らしといこうか!」


―――・―――


『かかってこい』

 ネットを超えた向こうのコートに構える蘭先輩とあやめ先輩。俺の横にはなぜかラケットを二刀流している水仙先輩。



 いやいやいやいや。

「蘭先輩とあやめ先輩が組んでどうするんですか!あんたらが決着をつけるんじゃないんですか」

「あのね、蓮。よく聞いて。……変に意地を張って二分の一で負けるなら勝ちを選ぶのが真の天才よ」

「はずれを引いた瞬間負けが確定するくじを引くくらいなら、そのくじが発生する前に選択肢を決めてしまう方がはるかに合理的」

「二人ともひどすぎませんか!ねぇ蓮君」


「……俺もここまでか」

「蓮君!?」

 水仙先輩には悪いが、正直球を返すことすらままならないようなら勝ち目はないだろう。

「先手必勝!」

 蘭先輩がいきなりサーブを放ってきた。その球は寸分たがわず水仙先輩の目の前へ。

「水仙先輩、目をつぶってもいいからとにかく振ってください!」

「えい!」

 カコン、という乾いた音が響き、ピンポン玉が加速した。

 後方へ。

「どいういう打ち方したら後ろにボールが飛んでいくんですか!」

「蓮君、やっと当たりましたよ!ほらほら、カコンって」

 かわいいな畜生。怒るに怒れなかった。というか、ただのお遊び卓球にそこまで本気になることもないだろうし、今回は水仙先輩をフォローする側に徹することにする。


「負けたペア、明日の朝食を二人羽織」


 あやめ先輩がこちらの考えを見透かしたかのように宣言した。俺は別に構わないが、水仙先輩が大変だろうし一応勝っておいた方がいいだろう。いや俺は別に構わないんだけどね?

「蓮君、頑張りましょうね」

「いやにやる気ですね」

 そんなに俺との二人羽織が嫌なんだろうか。


「あの二人が二人羽織だなんて、そんな愉しそうなことさせないわけにはいきません!」

 あぁ、そういう人でしたっけ。


―――・―――


「十点先取の二ゲーム、サーブはよくわかんないから球を持ってる人で」

 あやめ先輩がルールの確認をする。特に問題もなさそうだ。ほかの二人もうなずいて肯定の意を表す。

「んじゃ、いくよ」


 ボールを持っていたあやめ先輩は球を高くまで放り上げ


 いきなりどこからか取り出したバドミントン用のラケットでスマッシュを繰り出した。

 飛んできた球に反応する間もなく、俺と水仙先輩の間をピンポン玉がすり抜けていく。


「いやいやいやいや!」

「禁止されてないし」

「ルール違反じゃないし」

『ねー』

 ここの先輩共は腐ってやがる。

「蓮君、大丈夫です」

「いやでも」

「こうなると思っていたんですよ」

 この部の先輩の中で唯一の癒し、水仙先輩が満面の笑みで耳打ちしてきた。


 その内容を聞いた瞬間、改めて思った。この部には意地悪が大好物な先輩しかいない。


―――・―――


「ほらほら、早くしないと負けちゃいますよ」

「水仙……信じていたのに!」

「こんなの太刀打ちできない……」

 水仙先輩が行ってきたのは、つまりはこういうことだった。

『拘束して自由を奪えば勝ち確です』

 なんで手錠とロープを常備しているのかは触れないでおくが、水仙先輩はバドミントンラケットという荒業で点をもぎ取り隙だらけの二人に一瞬で手錠をかけ、それに驚いている隙に今度は二人の足をロープでつないでしまった。これで、相手コートに球を返すだけでこちらが得点するも同然な状況になった。

 水仙先輩《この人》も十分にやばい人だった。まぁメガネをかけていない顔を見られただけでスーパーサ○ヤ人になるくらいだから、その時点で普通じゃないけども。

 あとは俺が球を打ち続ければ問題なく勝てるだろう。水仙先輩に任せて自爆というオチは避けなければならない。


「取引をしよう後輩」

 残り一点でこちらの勝ちという場面であやめ先輩が仕掛けてきた。

「耳を貸しちゃだめです蓮君。あれは悪魔のささやきです」


「眼鏡をかけていない水仙の写真をプレゼントしよう」


 ふっ。少し前の俺だったなら速攻で寝返っていただろう。

 しかし今は違う。


「もう、持ってるんで!!!」

「言わないって約束でしたよね!!?」

『えぇ!?』

 それぞれが絶叫しながら、卓球勝負(?)は幕を閉じた。


 水仙先輩には五発殴られた。

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