第十四話 スマブラ 2
画面に全員の操作キャラと大きなアスレチックのようなステージが表示される。
いよいよ戦闘が始まる。……しかしよく出来てるな。一部のキャラが戦闘に全く向いていないことを除けば、だけど。
「……なんだかんだ楽しみになってきた!」
煌も同じ気持ちらしい。さっきまでのいじけた表情など消え、目を輝かせている。
「二回ステージ上から落ちたら脱落。いい?」
あやめ先輩の確認に全員が頷く。
画面に『fight』の文字が。
戦が始まる。
ーーー・ーーー
……まずレンコンで勝てるはずがなかった。始まった瞬間、近くにいた煌の操る『煌鈴革命』に放り投げられた。水仙先輩のトイレも同様、蘭先輩にやられていた。
水仙先輩が水攻撃で抵抗したのか、『蘭魔2/4』の性別が変わっている。変なところ凝ってるな……。
「水仙先輩、手を組みましょう」
「いいですね。下剋上してみせましょう」
やっと目を合わせてくれた……。じゃなくて。この状況をなんとかしなければ。
取り敢えずコントローラーをいじってみる。
レンコンから芽が生えた。
もう一度いじる。
レンコンから根が生えた。
……こいつ成長しか出来ねぇんだった!
そうこうしている間にも煌のキャラが再びこちらへ迫ってきている。
なにか奇跡的なことが起きてくれることを信じてコントローラーをいじり続ける。
レンコンから足が生えてきた。
レンコン、その強靭な脚で大地を踏みしめる。
「いやこれ成長じゃねぇ進化だ!」
『キモイ!』
俺以外の女性陣が声を揃えて叫んだ。いやまぁレンコンからムキムキの足が生えている姿は中々のキモさを誇っている。
俺が一歩進む事に全員が後ずさりする。
進む。下がる。
進む。下がる。
「うおらぁぁぁぁ!」
ムキムキレンコンが全力で全員を追いかける。
『いやぁぁぁぁ!』
女性陣がガチの悲鳴とともに逃げた先には崖が。
動けない水仙先輩以外の全員が落下なさった。
強い、強いぞムキムキレンコン!
ーーー・ーーー
さて、これで全員の残機は1となりあと一度でも落ちたら負けとなる。
現在、最も危機的状況に置かれているのは水仙先輩だろう。だって動けねぇし。ウォシュレットでの攻撃しか出来ねぇし。
逆に俺は機動力、そして圧倒的な気持ち悪さを誇る身体を手に入れた。……ゲームとはいえ、女子から悲鳴を上げながら逃げられると若干傷つく。
「そろそろ終わらせるかな」
呟いたのはあやめ先輩だった。嫌な予感しかしない。
「あやめ先輩、電源を切るとかはダメですよ?」
「うん。それはしない」
ならよかった。
「必殺技コマンド!」
よくなかった。
画面内のあやめ先輩の分身である℃VOLZARDの体が輝き始める。
「ちょっと、何これ聞いてないんだけど!」
蘭先輩が堪らず立ち上がり抗議する。
「教えてないし」
「何で!」
「勝ちたかったから」
ゲスい!
そうこうしている間にも℃VOLZARDの輝きは増していく。
「あやめちゃん、これを防ぐにはどうすればいいんでしょうか?」
「必殺技で相殺させるしかない」
「必殺技はどうすれば使えるんですか?」
「上上下下右右上下一回転左」
「えと……上、上、下
「必殺技発射!」
『あぁ!』
℃VOLZARDの必殺技によって俺達の分身はステージごと吹き飛ばされた。
「勝った」
宙に浮く℃VOLZARDを残して。
ーーー・ーーー
「ズルイズルイ!ノーカン!ノーカン!」
「そうですよ、もう1回です!」
「キコエナーイ」
三年生ズはもう5分程ずっとこんな感じで抗議を続けている。あやめ先輩は「キコエナーイ」の一点張り。
聞こえているじゃないかというツッコミは野暮だろうか。
「……蓮はさ、あの券を貰えたとしたらどうするつもりだった?」
煌は先輩達の抗争を眺めながらそんな事を聞いてきた。
「なんだ急に。特に考えてなかったし、取っておこうと思ってたけど。お前は?」
「んー、アタシは……あれだ。乙女の秘密みたいな!?」
「お前自分の事を女として認識してんのか」
「表出ろや」
一触即発な俺達の意識を削いだのは
「決まりましたー!」
蘭先輩の一言だった。
「あやめはこの券を使って、明日皆でお出かけしたいそうです!」
なんて平和な使い道なんだ。
「明日から連休だし、どうかなって」
「来れない人ー?」
蘭先輩の呼びかけに手を上げる人はいない。
「じゃあ明日、7時には駅に集合ね!」
ーーー・ーーー
「……煌、熱でダウンしてるみたいです」
「こっちも。スイは外せない用事ができたみたい。ランは、多分寝坊」
駅前、無事に集まれたのは俺とあやめ先輩のみ。
あやめ先輩が水仙先輩と蘭先輩の名前を呼ぶのを初めて聞いた気がする。いや今はそれどころではないが。
「どうしますか。蘭先輩は待ちますか?」
「ん、そうしようか」
あの小動物、来たらタダじゃおかねぇ。
「……」
「……」
……。
気まずい!