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第09話 - 「訓練 開始」

 翌日、目覚めた僕等の訓練は屋敷滞在2日目の朝から始まった。


アリアさんの作ってくれた朝食を皆で食べ、食後にハーブティに似たお茶をのんで一息ついていると、今日の訓練についてサイネリアが話し始めた。


「それじゃあ朝食も食べた事だし、今日から訓練を始めるとしよう。

まずは剣術を習う者と魔術を習う者で別れようか、基礎ぐらいは皆一緒に教えても問題無いだろう?」

「なら剣術の基礎は私が教えよう。」

「アルテシア頼めるか?

私も槍以外に剣も使えるからそちらを手伝おう。

あと、リコッタも剣術組を見て貰って良いか?」


サイネリアの質問にリコッタは見た目と裏腹に優雅にお茶を飲みながら「こくん」と頷いて答えた。


「あと魔術はリリット、それとクララとルッテに頼めるか?

クララとルッテも基本ぐらいなら教えられるだろう?」


こちらも食後のお茶を楽しんでいたクララとルッテに話しかける。


「基礎の初級魔術くらいなら誰でも出来るわ!!

私とルッテに任せなさいっ♪」

「そうね、それくらいなら問題無いわ。」


サイネリアは「うん、頼むな。」と一つ肯く。


「それじゃあ、後は君達が剣術と魔術どっちから学ぶかだな。」

「俺はもうアルテシアから剣を学ぶと決めてたからな、今日からよろしく頼む。」

「ああ、キッチリ鍛えてやるから安心して付いて来い。」

「よし、そこは問題無さそうだな他はどうする?」


サイネリアが桜火以外の人へ質問をする。


「それじゃあ俺も最初は剣を習おうかな。

魔術は後の方が仲間からコツとか教えて貰えそうだし!」


そう調子の良い事を言って、八雲は剣術組みへ行く様だ。


「う~ん、八雲ちゃんはそっちに行くんだね・・・。

でも私、剣とか無理そうだしなぁ・・・だから私は魔術を教えてもらうっ!!」

「了解、ミドリは魔術組みだな。」

「それじゃあボクも碧ちゃんと同じ魔術組みでお願いします。」


碧と育兎も魔術を習う事に決めた様だ。


「僕も魔術組みでお願いします。」


光矢さんも魔術組みに決めていた様でスムーズに決まった。


「後はリンだけだな。どうする?」

「そうですね、思ったより剣術組みの人数が少ないので私はそっちへ行きましょうか。」


それを聞いた育兎が凛へ声を掛けた。


「あ!それなら凛姉僕が先にそっちで先に剣術習ってくるから代わるよ?」

「ううん、大丈夫。

私もサイネリアの槍術にちょっと興味在るから。

さっき八雲君が言ってた様に先に魔術を教わった育君からコツを教えてもらった方がもしかしたら効率良いかも知れないしね~♪」

「そう?

了解、それじゃあコツが分かったら直ぐに教えから、そっち頑張って!!」


笑顔で返した凛に苦笑して返す育兎。


「よし、これで全員決まったな?

それじゃあこの後は各自剣術と魔術に分かれて君達を鍛えようか。」


  「「よろしくお願いしまーす!!」」


僕等の異世界で冒険者として生活していく為の訓練が始まった。



  ◆◇◆◇◆◇◆



 こうして育兎と碧ちゃんと光矢さんが連れて行かれたのは屋敷から少し離れた所に在る修練場。


前の持ち主である貴族の私兵達の為に建てられた物らしく、かなり大きく頑丈に出来ている。


今ではサイネリア達が鍛練に使っているのであろう、使い古した武器や木で作った木偶人形などが部屋のあちこちに置かれていた。


建物は全体が石造りでとても頑丈そうに見えるが、扉を開け中に入ると所々岩が砕けている場所が多く、ここで行なわれた鍛錬の厳しさを物語っていた。


部屋に入り部屋の中央まで来ると僕等へ振り返り早速リリットが口を開いた。


「さて、それじゃあ彼方達にはここで魔術の修行をしてもらう訳だけど、三人とも魔術についてどの程度知識を持っているのかしら?

イクトには昨日少し説明したわね、ミドリちゃんとミツヤ君はどうかしら?」

「私は魔術の知識は全く無いです。」

「僕もこっちの魔術何て力は始めてですね。

昨日少し育兎君から話を聞いたぐらいです。」

「やっぱりそうなの?

それじゃあ魔術について基本的な事から説明しようかしらね。

魔術には大きく分けて二種類存在するわ。

一つは基本魔術(きほんまじゅつ)

元素魔術(げんそまじゅつ)なんかがその代表ね。

基本的には本人の修練と相応の魔力を身に着ければ誰でも使える魔術よ。

貴女達の様に冒険者になろうとする者には必須の魔術が結構あるわ。」


基本魔術には、元素魔術(げんそまじゅつ)障壁魔術(しょうへきまじゅつ)がある事とか、さらに召喚魔術(しょうかんまじゅつ)付与魔術(ふよまじゅつ)、そして錬金術(れんきんじゅつ)系などがある事を教えてくれた。


「そしてもう一つが血統魔術(けっとうまじゅつ)

これは・・・まあ、ある種の才能、又は適正を持った者が使う魔術ね。

血統魔術(けっとうまじゅつ)はその性質上、修得者は少ないわね。

余り研究もされて無いから、消費魔力も基本魔術より多い魔術が多いみたいだし・・・。

普通の魔術師にはまず扱え切れない特殊な魔術が多いわ。」



血統魔術(けっとうまじゅつ)には、障壁魔術(しょうへきまじゅつ)より扱いの難しい結界魔術(けっかいまじゅつ)や魔女の扱う魔女術(まじょじゅつ)傀儡師(くぐつし)の扱う魔術、封印術士(ふういんじゅつし)の扱う魔術、コントラクターと呼ばれる契約魔術(けいやくまじゅつ)を扱う者など、様々な魔術があるらしい。



「それじゃあ、みんな魔術を見た事無い見たいだから、とりあえず私が冒険者にとって基本的な元素魔術(げんそまじゅつ)を少し見せてあげるわ。

いくわよ?」


そう言ってリリットは後ろを向き、腰に下げていたショートロッドを取り出した。

滑らかな動作で杖の頭を正面へと振り翳し呪文を唱える。


「【ファイアボール】!

【アクアシューター】!

【エアブリット】!

【ストーンバレット】!」


リリットが呪文を唱えた瞬間、杖の前には4つの小さな魔方陣が現れた。


一つ目の魔方陣から赤々とした火球が飛び出し、また二つ目の魔方陣からは水の弾が勢い発射され、三つ目の魔方陣からは拳大の風の塊が勢い良く飛び出し、最後の魔法陣からは同じく拳大の石が発射された。


 「「おぉ~~!!」」


小さな歓声が三人から沸き上がる。


「育君から聞いてたけど本当に魔術が在るんだねっ♪」

「そうでしょッ!?凄いよね魔術ってッ!!」

「うわぁ・・・、呪符も使わずに火や水が出てる・・・ホント凄いな。」


リリットの唱えた4つの魔術で現れた現象に、三人共驚きと興奮を隠せない様だった。


「なんか、ミドリちゃん達の反応が思ってた以上に凄いね?

魔術を見た事無いって本当だったんだ。」

「今時珍しいですよね?

相当辺境の町に住んでいたのかしら。」


「彼方達に覚えて貰うのは今やった基本の魔術、元素魔術(げんそまじゅつ)よ。」


「まずは私が教えるわ」と、最初はリリットが魔術の大まかな使い方を教えてくれる事になり、その後クララとルッテも加わる事になった。


「わぁ~、凄いねっ!

呪文を唱えるだけで火や水が出て来たよ!」

「そうね、イクトには昨日も言ったけれど、魔術はこの魔術師の杖を持って呪文を唱えれば誰でも簡単に発動させる技術よ。」


そう言ってリリットの持っている長さが50~60㎝程の杖を掲げて見せた。

杖の柄は白く杖の上部、先端には大きな宝石が装飾されていた。


「魔術師が使う杖は専門の魔術師の手に由って作られた特別な杖なの。

魔術師はこの杖が無いと魔術を使う事が出来ないわ。」

「はいっ先生!

何で杖が無いと魔術を使う事が出来ないのでしょうか?」


間髪入れずにリリットへ質問を飛ばす碧。

普段仲間以外には引込み思案な彼女にしてはかなりノリノリだ。


「私は貴女達の先生になった訳では無いのだけれど・・・、まあ良いわ。」


彼女は小さく溜め息を吐き、碧達に話始めた。


「イクトには昨日説明したから聞いている人も居るかもしれないけど・・・、私達魔術師は魔力を効率良く術式へ送る為に魔術媒体が無いと魔術を扱う事が出来ないの。

そして一番効率良くそれを行う事がそれが可能なのがこの魔術師の杖よ。」


そう言って自分の手に持つ杖を皆が見やすい様に胸の前に掲げるリリット。


「これが無いと私達魔術師は魔術が使えない。

それはさっきも言った様に杖が魔力を操作する際、触媒になって術式へと送る際効率良く魔力を供給してくれるからよ。

魔術師、又は魔術を扱う者は必ず杖かそれに代わる触媒を身に着けて魔術を使用するわ。」


リリットは一旦間を置き、碧達の顔を見回す。

まるでここまでの話の理解度を確認するかの様にじっくりと。

案の定、光矢以外の二人が難しい顔をしているのを見てリリットは思わず苦笑を浮かべるが構わず続きを話し始めた。


「まあ、いきなり言われて全てを理解しなさい・・・なんて事、今は言わないわ。

大まかな所はきちんと理解しなさい。

まずは・・・そうね、基本的な道具の名前の事から、杖の名前からかしら?」

「杖の名前・・ですか?『魔術師の杖』とかですか?」

「それじゃあ何の捻りも無いでしょう?

私達魔術師が使う杖の種類は長杖と短杖の2種類だけど、総じて私達はワイドと呼んでいるわ。」

「へ~ワイドか。何かカッコいいな!」

「うんうん、何か魔術師って感じがするねっ♪」

「え!?そ、そうかなぁ?

まあでも、確かに魔術師っぽい響きはするね。」


育兎と碧は杖の名前を聞いただけでテンションが高まって来た様だ。


「はいはい、イクト、ミドリ、たかが杖の名前くらいの事でそんなに興奮しないの。

まだ魔術について何も教えて無いのよ?」

「あ!すみませんリリットさん」

「ごめんリリット、話の腰を折っちゃって・・・。」

「・・・まあいいわ。

それでさっき私は杖には2種類あるって言ったわよね?

その説明を簡単にするわね。」

「えっ!?杖が大きい小さいだけでそんなに性能が変わるんですか?」

「ミツヤ君もですか・・・。

それを今から説明しますので・・・三人共、少し静かに聴・い・て・い・な・さい?」


 「「は、はいっ!? 分かりましたッ!!」」


さすがに何度も話の腰を折られて我慢の限界だったのか、リリットは押し殺した様な声を重く響かせ、育兎達に注意を促がした。


切欠は光矢だが、原因は明かに始めの二人でも在ったので当然かもしれない。


そして育兎は表情を真剣な物にし、リリットの話を一言一句聴き逃さない様に耳を傾けた。


「気をつけなさい?それじゃあ杖の説明に入るわよ。

魔術は術式を発動する際、それに伴う魔力の量で初級魔術(しょきゅうまじゅつ)中級魔術(ちゅうきゅうまじゅつ)、上級魔術()じょうきゅうまじゅつ、と簡単にランク分けされているんだけど、杖によって扱える魔力量にかなり差が在って制限が出来てしまうの。」


リリットは一旦言葉を区切り、三人を見た後また話し始めた。


「通常のワイド、長杖タイプの事ね。

これは一番効率良く魔力を集める事が出来て、初級、中級、上級と全て等級を扱う事が出来る杖よ。

もう一方のショートワイド。

短杖タイプは、長杖より魔力の収束量が低く、扱える魔術の等級も初級~中級までの魔術しか扱う事が出来ないわ。

でも、その代わり長杖タイプより魔術の発動時間が若干短いと言われている。

微々たる差かもしれないけど、戦闘では魔術の発動速度が仲間の命を左右するから、冒険者とかは好んで使う者が多い杖ね。

あと、軽いから持ち運びにも便利だしね♪」


だから私も使っているのと、手持ちのショートワイドをクルクルと遊びながら掲げて見せるリリット。


「火力の高い長杖と速さ重視の短杖か、結構分かり易いんですね。」

「まあ、基本的にはね。杖の特徴はそんな所よ。

主に短杖は中堅の冒険者や成り立ての冒険者が使うわね。

長杖は上位ランクの冒険者や魔術協会の人が持ってる事が多いわね。

協会の会員は魔術を研究・開発するのがお仕事だから。

それじゃあ・・・ルッテ、クララ、アレは持って来て貰えたかしら?」


リリットが杖の説明をしている隙に彼女達は部屋を抜け出し何所かへ行っていた様だ。


「ええ、〝最高の〟とまではいかないが、良質な杖が4本も残っていたわ。」

「これなら練習には持って来いの杖だよっ♪」


リリットに言われてルッテとクララが部屋に居なかった事に気付く三人。


「え!?いつの間に?」

「なになに?

えっ!?クララさん達何処かに行ってたの?」

「あれ!?

何時の間に二人共居なくなってたんだ?

全然気付かなかった。」


何時の間にか外に出ていたクララとルッテが突然扉から現れ三人は少し驚いた。


「丁度良いタイミングね。

それじゃあ早速貴方達にはまず、魔術をやってもらう前に自分の魔力を感じて貰います。」


「「えぇ!!」」


「何を驚いてるの?

最初からここへは魔術の訓練の為に来たのでしょう?

ほら、サクサクいくわよ。」


育兎達三が驚いているのも気にせず、リリットは然も当然の如く話を進める。


「彼方達が今のまま魔術を使ったら必ず魔術が暴発して大変な事になるわ。

昨日のイクトの感じでは魔術を見るのが始めてな所か、まず魔力に触れた事が無さそうだったものね。

私達が少し前まで使っていた杖が4本まだ残ってたからそれを使って彼方方には魔力を感じ取る練習をして貰います。」

「あぁ…。

流石に杖が在れば直ぐに魔術が使える訳じゃあ無いんですね。」

「いや、普通はここで魔力を上げる為の訓練をした後に魔術が使える様になるんだけどね・・・。

彼方達の場合皆それぞれ高い魔力を持っているから、その必要は無いと思うわ。

ただ・・・、その代わりにそれだけ高い魔力を持っているにも係わらず魔力の制御が全く出来ないと成ると…少々問題が有るわね。」

「魔力制御が出来ないと・・・具体的にはどうなるんですか?」

「まあ、良くあるのは魔術の不発…否、彼方達の場合は暴発ね。

不発は説明不要よね?

・・あ!?いえ、一応しておきましょうか。

私達が魔術を使う時は術式に魔力を供給して魔術を発動させる訳だけど、不発は術式に必要魔力を供給出来ずに魔術を無理に起動させようとして術式が起動しない現象の事よ。

逆に暴発は、術式に制御不能な余剰魔力を送り込む事で術者やその周囲を巻き込んで被害が出る事が在る。って言えば分かり易いかしら?」

「暴発…ですか。

でもただの暴発ぐらい、魔術の訓練には良くある事では無いんですか?」


光矢はただほんの少し疑問に思った事を口にしただけだったが、その返答はリリットの笑顔と共に返された。

ただ、その時のリリットの目は明かに笑っている様には見えず、一種の威圧感を醸し出している。


「そうね。

経験の浅い者が魔術を暴発させる事は良く在る事だわ。

風の魔術なら周りを吹き飛ばす風が吹くだけでしょうし。

水や土属性なら辺りは水浸しになったり、砂や岩に埋め尽くされるで済むでしょうね。」


リリットは光矢から視線を外し、「コツコツ」とゆっくりと三人の前へと歩いて行く。


「ただ、そういう見習い魔術師の魔力は多くても君の〝1/数十〟の魔力しか保有していないの。

確かにAランクの私に比べれば二人の違いは大した差では無いわ。

…でも、魔術を習い始めの、それも魔力制御が拙い者達にとって、その差は致命的だと思うのは私だけかしら?」


  「「「・・・・」」」


魔力を理解出来ない三人には漠然とした数字とは言え、その圧倒的な差に三人とも言葉が出ない。


「これでもし、火の魔術でも暴発しようものなら周囲は大惨事・・・・なんて事に成りかね無いわ。

・・・彼方はそう思わない?」


リリットの迫力に迫られ尚の事押黙ってしまうが、三人は慌てて顔を上下に肯き、しかし何も言葉を返せぬままリリットヘ返事を返す。

そしてリリットはたっぷりと間を取り光矢達へ無言のプレッシャーをかけた後、今度はまた口調を変え、先程魔術を教えていた時の教師の様な雰囲気に戻して再び話し始めた。


「まあ、そう成らない為に魔力を感じ取れる様に成りなさいと言っているのよ。

大丈夫よ、コツさえ掴めば直ぐに杖が無くても魔力を把握するぐらい簡単に出来るわ。クララ、杖を渡して上げて。」

「はいはい、りょ~うかぁ~い!!」


言われたクララは笑顔で肯き、素早く育兎達へショートワイドを1本づつ渡していく。

クララから受け取った杖は、素材は全て木製で、手に持つ方がまるで鉤の様な形をしていた。

その杖の表面は手触り良くスベスベに磨かれつつも所々に傷が有り、かなり使い込まれた品だった。

クララがそれぞれに杖を渡し終えたのを見計らってリリットが話し始める。


「丁度装備を新調したばかりだったけど、前の装備がまだ残ってて良かったわ。

まあ、足りない様なら安い杖を買いに行かせてる所だけどね。 イクトに。」

「えっ!? 何でボクがそんな事を?

第一、リリットは昨日は杖装備は高いから諦めろっ!? ・・みたいな事を言ってなかったっけ?」

「ああ、それはイクトがここで生活しない場合の話でしょう? 大丈夫よ、私達もロズンさんから彼方達の事頼まれてるもの。

ワイドの代金だって、その内訓練のついでに魔物の討伐で稼いで貰うから今は気にしなくて良いわ。」


「当然ね」みたいな表情で語るリリットに若干不審げな視線を送る。


「・・・ちなみにワイドの値段って1本いくらで、仮に魔物の討伐でどれ位稼げるものなの?」

「今のイクトにそれを言っても意味が無いわよ?

せめて初級魔術を使いこなせる様になってから考えた方が良いんじゃあないかしら?」


「確かに」とは思ったが、今はもう少し目に見える目標が欲しかったのでもう一度聞いてみる事に。


「でも目標ぐらいには成るしさ。 初級魔術(しょきゅうまじゅつ)、だっけ?

それが使える様になれば僕等でも魔物が狩れるのかな?」

「いえ、初級魔術(しょきゅうまじゅつ)ぐらいじゃあ今のイクトが使いこなしてもせいぜいDランク以下の魔獣や魔蟲ぐらいしか殺せないでしょうね。報酬も銅貨で十数枚、って所かしら?

杖の値段が標準的なショートワイドで銀判1枚、5万アースはするから十数回ほど依頼を受ければ買えるわよ。」

「え!? そんなに!!

あっ!?でも、それなら頑張れば意外と出来そうな様な・・。」


育兎はさっきの説明からRPGで良く在る様な何十回も戦闘の末に漸く……的な展開を想像していたが、流石に安い杖ならそこまで酷くは無さそうなので、少し安心して思わず止めていた息を大きく吐いた。


そんな育兎へ哀れむ様な視線を送るリリット。


「安心している所悪いけれどねイクト、今の貴方が魔術無しで魔物達に挑んでも、きっとDランクの魔蟲にすら苦戦するわよ?」

「え!? 剣とか使えば虫くらい誰でも倒せるでしょう?」

「バカね、誰でも倒せたら私達冒険者なんて必要無いでしょう?

それにイクト、私達が相手にするのはただの虫じゃないのよ?」

「え!? ああ魔蟲化してるから蟲だって事ですか?

でも同じムシだし、大して違いは無いでしょう?

せいぜい凶暴性が増したとかぐらいなんじゃないですか?」


育兎は昨日の説明を思い出してもそれ程脅威には思えなかった。


「いいえ、魔蟲化した個体はその体に多くの魔力を溜め込み体を巨大かさせ体皮も丈夫になっているわ。

Dランクのゼブラスパイダーでさえサイズは彼方達の膝丈は在るのよ?

それに素人の剣じゃあまず刃が徹らないわ。

今のイクトの力では・・・まあ無理でしょうね。」

「え゛!?」

「ヒィっ!!」

「うわぁ、さすがに・・・大きいな。」


冷静に語るリリットの魔蟲の詳細に碧は想像しただけで悲鳴を漏らす。

声は引き攣り、青ざめた表情の目には涙を浮かべて「フルフル」と首を振っている。

魔蟲の予想外のサイズに育兎は苦虫を噛み潰した様な顔で固まらせている。

ただ一人、年長の光矢だけは動じた風も無く答えた。


「剣で倒すならせめて・・・そうね、オウカ君ぐらい剣が使えないと。

でも今の彼方達にそれを求めても無理でしょう?」


問い掛ける様なリリットの視線を受けて皆が素直な感想を述べた。


「無理無理無理!? 良く考えたら剣って鉄の塊じゃん!

自在に動かせる様に成るだけでも数ヶ月はかかるんじゃあないの?」

「私・・・きっと持ち上げる事も出来ないと思うなぁ・・・。」

「私は一応祖父に少し習っていたから少しは使えるけど・・・、そんなサイズの蟲を殺せるかはちょっと分からないな・・・。」


皆思い思いの感想を口にしたが、共通して言う事は僕等が今の時点では剣での討伐は絶望的だと言う事だった。


「はいはい、大丈夫だから落ち込まないの。

その為に今魔術を教えてるんだから。」


当然の事の様に淡々と語るリリットだが、育兎達はいまいち半信半疑な表情だ。


「・・・剣が通用しない様な相手に本当に魔術なんて利くの?」

「それは彼方達しだいよ?

でも、魔術を使いこなせる者がDランクの魔物に苦戦した、なんて話は早々聞かないわね。

単純に考えて見なさい、剣と違って魔術は遠方からの攻撃が可能なのよ?

さっきも私の魔術を見たでしょう?さっきは魔力を抑えて撃ったからあの程度だけど、少し強めに魔力を込めれば・・・【ストーンバレット】ッ!!」


そう言ってリリットは壁に向かって杖を構え呪文を唱えた。


"ズガッン"


といった激突音と共に土煙が舞った。


杖の先から飛び出た石はさっきは彼女の握り拳程の大きさより二回り程大きな石が部屋の壁へ轟音と共に激突した。


育兎達は突然の事に何も言う事が出来ない。


「リリットさんっ!? いきなりビックリするじゃないですかっ!!

あ~あ~、せっかく修復した壁が(えぐ)れちゃって・・・!!

またアリアさんにしかられても知らないですよ?」


クララが長い尻尾をピンッと立たせながら興奮した様にリリットを注意した。


「あっ!? そんな事言われても、この建物が脆過ぎるのが悪いのよ?

少し魔力を入れただけでこれなんだもの・・・。」


リリットは申し訳無く思う所か部屋の壁が初級魔術の一撃にも耐える事が出来ない事に不満げな表情でクララに言い返す。


「す、凄い・・・」

「うわぁ~! ほら見てよあそこ!?

石の壁があんなに崩れてるよっ!? 凄いねぇ~!!」

「確かに凄い、これが・・魔術ですか。」

「どう? これで少しは魔術の有効性を信じてくれたかしら?」


三人は無言で首を縦に「うんうん」と振って答えた。


「今のは最初に見せたモノと同じ、土の初級の魔術よ。

ただ私が自身で魔力を調整する事によって威力を上げたわ。」

「へーここまで違いが出るんだ・・・。」


碧が関心した様に相槌を打つ。


「これから彼方達には自分達の魔力の感知と、大まかでも魔力を制御出来る様になってもらって、魔術を使う時に暴発をしない様に制御して魔術を使う事を覚えて貰うわ。

それじゃあ始めるわよ!!」


リリットの瞳が真剣なものに変わり、三人の気持ちが引き締まった。


「よろしくリリット。」

「リリットさん、よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

「それじゃあ三人とも、まずは杖を手に持って持って目を閉じて、心を落ち着けて。

彼方達の中には大きな魔力が在るわ。

まずはそれを感じ取れる様に頑張ってみましょう。 さぁ、やってみて。」


リリットに言われ、育兎、碧、光矢の三人は目を静かに閉じ、自分の中に在ると言われた魔力の所在を求めて自分達の身体の中へ意識を集中していった。



  ◆◇◆◇◆◇◆



 一方、桜火、八雲、凛の三名は朝食の後、アルテシアが八雲と凛のために持って来た剣と槍を持ってサイネリアとリコッタと一緒に屋敷の裏庭へと移動していた。

サイネリア達三人は桜火達の前を進み何かを話し合っていた。


「へー、剣術って外で教わるんだな?

俺はてっきりあそこの建物かと思ってたけど。」


八雲が辺りをキョロキョロ見回しながら呟く。


「そうみたいね。育君達魔術組みが先に入っていくのが見えたから、私達はこのまま外でやるのかしら?」

「魔術なんて狭い部屋でやるより、普通は外でやる様なイメージだが・・・、こっちでは違うのか?」

「いや、オウカの言う通り普通は魔術の訓練なんて外でやるもんだよ。

ただ、あの建物はちょっと特殊な建物でね。

結構頑丈に出来てるんだよ。

それと君達の魔力が通常より多い事はもう教えただろ?

魔術の教え始めは暴発を起こす魔術師が多いから普通は広い外で訓練するんだが、ここは周りが貴族や豪商といった金持ちの別邸が多いから下手な事は出来ないのさ。」


前を歩いていたサイネリアが桜火達の話を聞いて説明してくれたようだ。


「あぁ~、そう言う理由だったんだね。」

「それで俺達が外なのか。」

「それじゃあ、私達も魔術の訓練はあそこでやるのかしら?」

「ああ、君達の時も修練場で行なってもらうよ。

まあ最初だけだけどね。

君達みんな魔術は始めてだろう?

最低限魔力の感知と制御が出来る様になって貰わないと危なくて外で魔術は使わせられないから。」


おどけた感じに言っているがサイネリアの目は真剣だった。

その眼差しに桜火と凛は一瞬息を呑むが、八雲は一人「そりゃあ楽しみだ。」と、目を輝かせている。


桜火達は、その場では何も言わずただ黙って前の三人の後を付いて行った。



   ◇◆◇◆◇◆◇



 屋敷の裏にはに少し開けた場所が在り、桜火達はサイネリア達に先導される形で漸く着いた。


八雲と桜火は着いて直ぐに体を解しているが、凛は先程から疑問に思っていた事をサイネリアに聞きに行っていた。


「サイネリア、魔術って・・・そこまで慎重に扱うものなのかしら?」


体を解していた桜火が凛達に気付き話に加わる。


「そうだぜサイネリア、いくらなんでも慎重過ぎないか?」


凛と桜火の言葉にサイネリアはどう説明したものか困った様な顔で答える。


「う~ん、本当は実際に見てもらうのが一番なんだけどね。

昨日の教えたギルドのランクの説明は覚えてるかな?」

「ええ」

「ああ、確かFランクから始まってAAAランクまで在るって言ってたやつだよな。」


桜火がそう言うとストレッチを終えた八雲もこちらにやって来た。


「そう、その通り。

それじゃあ、そこで質問。

同ランクの剣士と魔術師で決闘した場合勝つのはどっちだと思う?」

「そりゃあ、同ランクなんだから実力何て拮抗してるもんだろ?」


桜火が特に何も考えず思ったままを答えた。


「他の二人も同じかな?」


言われた凛は少し考える素振りをすると八雲が・・・


「俺は・・・魔術の方が強いと思う。」

「ほー、真っ先に剣術を取った奴の発言とは思えないが。

それで、どうしてそう思ったんだ?」


サイネリアは愉快そうに八雲の答えを聞き、問い返した。


「だって、剣と魔術じゃあリーチが違うじゃん?

たぶん槍とか使っても大した違いは無さそうだし。

刃が届く前に魔術を1発かませば終わるよね?」

「ああ、確かに当たればそうかもしれないな。

じゃあ最後にリンはどうだ?」

「私も魔術師が勝つと思うわ。

特にランクが上がる程その差は開く様な気がする。」

「お!? 凄いな?

まだ少ししか魔術について説明されてないだろうに。

そこまで分かるのか?」

「いえ、分かった訳では・・・。

でも剣士って事は得物はやっぱり剣ですよね?

同時に攻撃出来るのは精々一人か二人でしょうけど、きっと魔術なら集団を相手に出来る様な魔術が在ると思ったので。

間合い、リーチが圧倒的に魔術の方が有利なら同ランクなら相手にならないんじゃあ無いかと思って・・・。」

「確かにそうだな。低ランクの場合では剣や槍を使う戦士の方が強い場合もあるが、高ランクになるにつれ魔術を扱う者の方が圧倒的に強い・・・。」


桜火以外は二人とも魔術師が優勢だという答えに笑顔で正解を答えるサイネリア。


その答えに後ろの二人も何も言わないので桜火は不満顔だ。


「ちょ、ちょっと待てくれ!!

それじゃあ俺みたいな剣士は高ランクの魔術師には敵わないってのか?」

「そうだな。 今のまま剣術だけを磨いたのでは、(いず)れそうなるぞ。」


興奮気味に叫ぶ桜火に答えたのはサイネリアの後ろで話を聞いて待っていたアルテシアだった。


「だがオウカ、お前は魔術も修得する気でいるのだろう? ならば問題ないだろう。」


「えっ・・あっ!? そっか!!

そう言えば俺もこれから・・・」


納得しかけた桜火にアルテシアが意地の悪い笑顔で一言告げる。


「まぁだが、魔術師ってのは杖が無いと魔術を使えないんだがな。」

「はぁぁぁっっ!!??」


桜火の心からの叫びにアルテシア笑顔は一層楽しそうな顔をする。


「うん!? なんだ知らなかったか?

魔術師ってのは専用の杖が無いと魔術は使えないぞ。」


その事実に「マジかよ!?」と軽い動揺を見せる桜火だったが直ぐに気を取り直しアルテシアに向き直った。


「・・・なあ、アルテシアは腰に剣を二本差してるって事は剣士だよな?

しかも冒険者ランクがAランクとも言ってたし・・・。

やっぱり剣士のアンタじゃあ同じランクで魔術師のリリットやクララ達には敵わないのか?」


アルテシアは桜火の不安の表情の中の真剣なモノを感じ取ったのか素直に答えてくれた。


「ああ、さっきサイネリアが言ってた事か?

アレはまぁ、確かにサイネリアの言ってる事は間違ってはいないな。

剣士何てのは一度に相手出来るのは二人か三人だ。

それが熟練の使い手であったとしても同時に五人が精々だろう?

だが一流の魔術師は初級の基本魔術でも使い方しだいで同時に十人以上の敵と渡り合う事も出来るんだ。」


淡々と話すアルテシアだが、その内容に桜火は先程の勢いは削がれ口を閉ざしてしまう。


「そんなに落ち込むなオウカ、今言ったのは低ランク冒険者にとっての常識だ。」

「え!?」

「お前達は〝迷い(まよいびと)〟だからな、ここらの冒険者の常識も知らないんだろ?」

「え? ああ、確かにそうだけど。」

「お前達は魔力が高い、多分コツを掴めばトントン拍子に上のランクに上がるだろうが、基本的な常識ぐらいは入れておいて損は無いだろう。」

「じゃあ、高ランクの剣士でも同ランクの魔術師に対抗出来るって事なのか?」

「出来るよ。

まあ、まだお前には早いだろうがな。」

「なっ!? さっき俺達は直ぐ上のランクに上がるって言ったじゃねえか!

これから教えてくれるんじゃあねえのかよ?」

「なんだ? お前に教えていた師匠と言うのは何でもかんでも教えてくれてたのか?

それはそれは…お優しいお師匠様だったんだなぁ。

だが、残念だったな。 私はお前の師匠程優しくは無いぞ?

今から習いたかったら私からその技を盗んだら良いんじゃないか?

まあ、まず使う場面も無いと思うけどな。

取りあえず、教えて欲しければせめて剣術だけで下位の魔獣くらい殺せる様になってからじゃないとな。

身に余る力ってのは自身や周囲を傷つけるぞ?

特にお前の場合下手に仲間に怪我でもさせたら本末転倒も良い所だろう?」


自分の甘さ故に師匠を侮辱され悔しさに頬を赤くしながら歯を食いしばる桜火。


それをさらにアルテシアがニヤニヤと挑発的な視線を送っていた。


「なぁに、教えないとは言ってないだろう?

と言うか、訓練初日でそんな事教えてもお前にとって毒にしかならないよ。」


そう言ってアルテシアは剣を一本抜き桜火の修行を開始した。



  ◆◇◆◇◆◇◆



 「おい、どうしたんだアルテシアの奴は?」


熱くなった二人から離れ、サイネリア達四人が集まり二人の様子を眺めていた。


「オウカの事が気に入ったのでは? でなければ態々自分から剣を教える何て言わないですよ、彼女は。」

「そうなんですか?

羽耳の彼女、桜火君にはかなりキツく当たってる様に見えますけど?」

「いや、そうでもない。

彼女と同じ剣士だから厳しく接してるだけだと思う。

元々男には厳しいのもあるが・・・、アレぐらいはまだ普通な方だ。」


凛の疑問には珍しくリコッタが答えてくれた。

先程から一人寡黙に腕を組んでいたリコッタには何かこう、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していて少し恐ろしくもあったが、もしかしたら私達とどう接したものか図りかねているのかも知れない。


「所で、さっきアルテシアさんが言ってた魔術師は杖が無いと魔術が使えないって言うのは本当ですか?」


リコッタさんは碧ちゃん以外にはまだ馴れていない様なので、今はサイネリアに聞いてみる。


「本当だよ、魔術は使えればとても強力な武器になるけど、杖や適性と言った条件が揃わないと使えない特別な力なのさ。」

「杖・・・か、杖って武器屋で売ってるのかしら? それと適性って・・・・」

「安価な杖は武器屋でも扱ってるけど、良質の杖は専門の店に行かないと無いな。

それと適性は大まかには保有魔力の総量かな。」

「魔力の総量ですか?

・・・私達って魔力が他の人より多いんですよね? って事は適性が在ると言う事ですか?」

「在る。

だから魔術は問題無く使えると思うよ。

後は魔術にも幾つか種類が在ってね、適性が在れば修得もし易いけど、適正が低いと修得が結構難しいんだ。」

「あ!? それは何となく分かります!

やっぱり魔術自体にも適性って在るんですね?」


「ふふふふふっ」と熱心に魔術の事を聞いて来る凛が面白かったのか、サイネリアの顔が突然綻びる。


「一応な。

一つ一つの魔術を覚える事は時間と魔力が在れば然程難しい事じゃあ無い。

覚えた後、応用できるかって場面で始めて適性が必要になって来るんだ。」

「へ~!! そうだったんですね。」

「あはははっ、やっぱりリンも魔術の方が興味在ったんじゃあないか?

でも、そろそろこっちに行っても良いかな?」


サイネリアはそう笑顔で言いながら剣を凛へ示し、それを慌てて受け取る凛。

受け取った普通の西洋剣らしいが、その余りの重さに少し驚いた。


少し離れた場所では大人しく話を聞いていた八雲もリコッタから剣を受け取り「すっげ!?本物の剣だ!!」と喜んでいる。


「え!? あはははっ・・・はい。

すみません、何か止まらなくて。」

「いや、良いさ。 リンの歳相応な姿が見られてちょっと面白かったよ。

でもまあ、魔術は後でリコッタやクララが教えてくれるからな、気になった事は直接彼女達に聞いてもらった方が良いぞ?

私なんかより余程魔術に詳しいからな。」

「はい、そうします。

でも・・・、サイネリアって槍使いでしたよね?」


サイネリアの持つ槍は、穂先も合わせれば2mは在ろうかという大きな槍を持っていた。


その穂先は、日本の細長い槍や薙刀とは違い、刃渡りが約30㎝~40㎝程の西洋の剣に似た両刃の穂先が付いている。


その刃の鋭さは、まるで巨大な獣もその一刀の元に真っ二つにされてしまいそうな雰囲気が在る。


「うん?

ああ、槍も剣も一通り使うが、メインの武器はこの槍だな。

それがどうしたんだ?」

「いえ、サイネリアの様な槍使い、武器を使う人も魔術には詳しいものなのかなと思って・・・。

さっき武器と杖は同時に持てないって言ってましたし。」


今の凛の質問でサイネリア笑顔が少し濃くなった様な気がした。


「へぇ、良く聴いてたね。

そう、普通剣や槍がメイン武器の戦士系の奴なら魔術の知識は必要無いんだけどね。

私達みたいに冒険者のランクが上がると色々と実入りが良くなってね。

結構特別な武器や特殊な道具が手に入り易くなるんだよ。

まあ、今の凛達にはまだ関係無いから、今はこっちをヤろうか?」


そう言って槍を構え凛と対峙するサイネリア、言われた凛も鞘から剣を抜き正眼に構える。


「はい、分かりました。・・・って!? これ真剣ですね!?

あ~、そっかぁ…。 本当、にこんな所に来ちゃったんだなぁ・・・・。」


凛の後半の台詞は殆んど風に流れて聞こえてはいないだろう。

しかしその雰囲気は伝わったのかサイネリアが声をかける。


「うん!? おいおい何を言ってるんだ?

リンは冒険者になるんだろ?

それくらいの剣、余裕で振り回すぐらいの体力は最低限必要だぞ?」


槍を肩へ担ぎ直したサイネリアが、凛の躊躇いを剣の重さ故だと勘違いし、彼女へ激を飛ばす。


『あっははは・・・、勘違いさせちゃったわね。

でも、私が皆の中で一番お姉さんだし、確りしないと。』


「ええ、大丈夫です。

自分の身は自分で守れないと・・・。

それに、ロズンさんとの約束も在りますから。」

「そうか? それじゃあ少し立ち合ってみようか?

リンがどの程度使えるか見ておきたいしね。」

「はい、分かりました。」


そう答えた凛は剣を抜き、鞘を地面に置き剣を正眼に構えて待つ。


「うん、構えは結構様になってるかな。

よし、それじゃあ遠慮は要らないから思いっきり打ち込んで来て良いよ。」

「はい・・・ふぅー、いきますっ!!」


凛は自分の中の躊躇いを打ち消す様に大きな声で返事をすると共に、「はっ!せぃっ!やぁー!!」と勢い良くサイネリアへと向かって入った。

一撃一撃に気合を入れてサイネリアを襲う。


 カンッ!! カンッ!? キンッ!?



『んっ!?

剣が思ったより重くて、思う様に動けないわ・・・。

攻撃は全部当たってるけど、それも・・・。』



気合と共に打ち込む凛の攻撃を槍の穂先を使って難無く去なされていた。

何より彼女は凛の全力の攻撃を受けても全く最初の位置を動く事無く凛の攻撃の力を受け流す。


「ふぅ、これは・・・思ってたよりしんどいわね。

真剣ってこんなに扱い辛い物なのね。桜火君スゴイなぁ・・・。」

「おぉー、気合入ってるわねリン!

その調子でもう少し見せて頂戴。」


大きく剣を振り上げ「せいっ!!はぁっ!!」と打ち込む凛に対し、サイネリアは槍を少し動かすだけで凛の攻撃を無力化している。


 カンッ!?カンッ!?カンッ!?


「うーん、少し動きが単調だな・・・。

向こうで剣は習っていたんでしょう?

その動き方だと複数の獣に囲まれでもしたら対処が出来るかどうか・・・。」


サイネリアは凛へ話しかけながら凛の斬撃を全て槍で去なす。

指摘された凛は剣を止め、サイネリアを正面に見つめ肩で息をしながら呼吸を整える。


「ふぅ、はぁはぁ・・・、私の、攻撃は、はぁ、はぁ、単調でしたか?」

「ああ、気付いて無いかも知れないがさっきから全部正面から、しかも上段からの攻撃しか無いないぞ?」

「え?…あっ!?

そう言えば…、確かにさっきから正面からしか攻撃してなかったわ!?」

「あはははっ!?

どうしたんだリン、緊張してるのか?

大丈夫、こっちからは攻撃はしないから。

思いっきり自由に攻撃して来なよ?」


サイネリアの言葉に凛は息を整え槍の攻撃が届かない側面から攻撃を仕掛けようと移動するも、正直剣の重さにまだ体がついて行かないのが目に見えて分かる程凛の動きは鈍い。


「あちゃー、凛にその剣は重かったかな?

うん、でも大体分かったから、ちょっと休憩にしようか!」


丁度その時、剣を振り上げようとしていた凛はサイネリアの言葉に剣を止めて、疲れ果てて座り込んでしまった。


「はぁー、はぁー、もう少し、はぁー、はぁー、動けると思ったんですけどねぇ?

すぅー…はぁ~…。

真剣がこんなに重い何て知りませんでした。」

「えぇっ!? だって剣と槍を習ってたんだろう?」

「いえ、習ってはいたんですが・・・得物は木刀や模造刀だったので。

真剣を手にしたのは今回が初めてです。

筋力不足で完全に剣に振り回されてましたね。」


「もう少し筋力付けないと。」なんて呟く凛へサイネリアが苦笑を漏らし、納得した様に頷いた。


「あぁ、だから最初の構えと所々の動きが良かったのかな?

足運びも何か独特なモノを使ってたようだけどだけど、その剣のせいで殆んど死んでたね。

分かった、今度少し刀身の細い剣を用意しておくよ。

この分だとミドリの分もそれと同じタイプか刀身が短い物にした方が良いかも知れないなぁ・・・。」

「ごめんなさいサイネリア。

少なくともしばらく鍛えるまではそれでお願いするわ。

ちょっと鉄の武器を侮っていたかも、リコッタさんはともかくサイネリアは良くそんな重そうな武器を振り回せるわね?」

「まあリコッタは見た目が白黒でそう見えないかもしれないけど、彼女はベアント族だから当然よね。

獣人でも特に力は強い方だし、私も狼の獣耳族だからな。

狼の獣耳族は他の部族に比べて身体能力が高いんだよ。」


凛は仲間や自分の事を誇らしげに語るサイネリアに、彼女がリーダーとしていつも仲間の事を気に掛けている事が窺えた。


「種族の違い、ですか。

それだとサイネリアに槍で追い付くのは当分厳しいのかなぁ・・・。」


後半の凛の呟きにサイネリアは苦笑し凛へと話しかける。


「まぁ、今すぐは無理だし、Aランク冒険者として直ぐに追い付かれても立つ瀬が無いでしょう?」

「うふふ、確かにそうですね。

武術の修行は地味で中々成果が出ないモノですもんね。

こう言う場合は本当に困った物です。

これは魔術に期待しないと駄目かなぁ・・・。」


凛が少し真面目な表情を作って「私考えてます。」なポーズを取っているとサイネリアが助け舟を出してくれた。


「そうだなぁ、武術、と言うか剣も槍もそうだが、もう少しこの重さの武器に馴れた方が良いだろうな。

その頃には多分相応の力も体力もついてるだろうから、次の段階へ行けるだろう。

魔術は心配しなくてもリリットからの御墨付きがあったんだろう? それなら問題無いさ。

凛達の魔力の高さは私達でも近くに居れば感じ取れる位だ、これが唯の素人の魔力だと言うのだから、魔術の才能が無いはずが有るまい。」

「そうですね、ありがとうございます!」


サイネリアの言葉に凛は笑顔で返した。

後ろではまだまだ桜火も八雲も修行を続けている。


「サイネリア、少し休んだからまたお願いしても良いかしら?

せめて真剣に少しでも馴れて置いた方がお願いした剣を受け取った時に直ぐに動ける様になると思うの。」

「ああ、構わないよ。

今使ってる剣と今度用意する細身の剣だと、細身の剣の方がリンには有ってると思う。

それと剣と一緒に後で槍もどの程度使えるか見るから覚えておいて。」

「お願いするわね。」

「本当は魔術が使えれば基本的には他の武器何て必要無いけどな。

でも、戦士は基本武器を二つ持つんだ。

主武器と副武器、まあ同じ武器を持つ人もいるけど、リンみたいな人間は戦術を広げる為にリーチの違う武器を持ちたがるからな。

それじゃあ、始めようか。」

「はいっ、お願いしますッ!」


その後、二人の剣戟の音は桜火達の修行が終わるまで鳴り響いていた。



魔術の呪文を少し変更いたしました。

「エアガン → エアブリット」

少し変更。

「ショートソード&ロングソード → 剣」に変更。


12/31 微修正

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