第08話 - 「魔術と魔物」
8/20 微修正・・すみません。
僕達はその後、暫くの間サイネリア達【風の翼】の本拠地でもあるこの屋敷に一緒に生活させて貰う事になり、サイネリア達から冒険者について必要な様々な知識と技術、そしてこの世界の事について色々教えてもらっていた。
分かっていた事では有るけれど、まず始めに僕等が居るここが日本でも地球でも無い場所だという事を改めて確認させられた。
僕達がやって来たこの世界は【ファンソージュ】と言い、今僕達が居る場所は【トワイニング魔法王国】のかなり端っこに在る辺境の街らしい。
このファンソージュに住む多種多様な種族達が居て、この世界では人類と呼べる者が大きく分けて2種類住んで居て。
【ローム】と呼ばれる短命種と、【リース】と呼ばれる長命種の2種類に分けられる事。
まず、は短命種のローム。
ロームはヒューム、アルム、アビス、三つの種族の総称。
寿命は平均100歳前後。
この国では王都に多いと言われる一般的な人間を【ヒューム】、又は【人族】と呼ぶ。
人族はロームの中では基本的な身体能力が一番低く、昔は魔術も無かったので、魔物や魔獣はとても脅威だったらしい。
そして魔物同様に一部の亜人種も、その強靭な肉体と剛力にモノを言わせ人族の土地や人々を襲っていた時代が在ったそうだ。
次に、街に来る途中で助けたアライグマの獣耳を持った兄妹達の様な人達を【アルム】、又は【獣耳族】と呼ぶ。
彼等はその見た目は人族の容姿に獣耳と尻尾を生やした亜人種で、色々な種類のアルムが存在し、この街以外の辺境にも沢山居るらしく、全体の人口は人族より多いそうだ。
身体能力は人族より少し勝るが、アビスには遠く及ばないといった所。
その代わり、ロームの中では一番精霊との感受性が高く、精霊使い比較的多いらしい。
次は【アビス】、アルムの様に耳や尻尾といった体の一部が動物化しているのでは無く、全身を鱗に覆われた蜥蜴の亜人、リザール族や、全身毛皮で覆われた熊の獣人ベアント族といった様に、全身に亜人種の特徴が現れている種族を【アビス】、又は【亜人】と言う。
彼等は総じて人族やアルムより身体能力が高く、昔の人族やアルムにとって魔物と変わらない程恐怖の対象だったらしい。
しかし時代が流れるにつれ、アルムとアビスのパーティーはかなり増えていて、今ではお互いかなり交流は深まっているらしい。
ちなみに、魔力は少ない様で魔術を使う者も少ない。
冒険者仲間として強靭な肉体と精神を持ったアビスは、貴重な戦士として仲間の信頼を得ている。
それでもやはり昔の傷痕を心に残す者は多く、特に人族は根強くその傾向が強いそうだ。
それ故にリコッタさんは碧ちゃんの反応にかなり驚いたらしい。
確かにボクなら、いくら見た目がパンダでも、初対面であの巨体を前にしたらチョット怖いと思う。・・・だってパンダも熊だしね。
でもそこは動物好きの碧ちゃん、熊の獣人ベアント族ぐらい全然平気だったみたいだ。
いや、ボクもリコッタさんと少し会話をした後ならその緊張も解けてましたよ?
ただ、喋るリアルパンダが目の前に居るって結構なホラーだからね?ボクじゃ無くても一瞬躊躇すると思う。
・・・うん、喩えビビッてたのがボクと光也さんだけでも、・・・絶っ対っ僕等二人の反応が普通だからッ!!
そして忘れてはいけない、ファンタジーの定番の長命種も居て。彼等の事は【リース】と呼ぶ。
リースは分かっているだけで3種族、エルフ、ドワーフ、ファーム、の3種族の総称。
寿命は大体平均800歳~1000歳位だと言われている。
彼等リースは、皆何らかの精霊の加護を得て生まれてくる事が多いそうだ。
エルフは水と風の精霊に好かれやすく、ドワーフは土と木の精霊に好かれやすく、ファームは風と氷の精霊に好かれやすい。
それ故に、リースには【精霊使い】と呼ばれる者達が他の種族よりも圧倒的に多く存在する。
ちなみに「精霊使い」は「エレメンタラー」とも言い、名前の通り精霊と契約を交わし、使役する者の事を言う。
サイネリアの仲間の中でもエルフのルッテさんと屋敷の管理を任されているドワーフのアリアさんの二人が精霊使いだ。
しかも、ルッテさんは水の精霊と契約している。
水精霊は精霊の中で唯一生物を治癒する能力を持っている精霊だ。
この世界では回復魔術なんてモノは僕達冒険者には公開されず、怪我は薬か自然治癒力に任せるか、後は教会が運営している【治療院】という場所で【法術師】又は【プリースト】と呼ばれている人達による特別な力、【法術】の力で治すしか方法が無いそうだ。
怪我の度合いで掛かるお金もだいぶ違う様なので、王族や貴族、後は一部の冒険者しか利用していない施設なんだとか。
僕等の状況的に回復魔術・・・否、法術だったね、それが使えたらこんな病院も無い様な世界で凄く助かると思ったんだけどリリットは知らないらしい。
その理由を聞いたら、こう答えられた。
リリット曰く『あの術は教会に所属した、一部の才能を持った者にしか扱う事が出来ない教会の秘術。』との事。
そして、『・・・まあ貴方達には関係無いかも知れないけど、教会の中は基本的に人間至上主義な場所なのよ。だから私みたいなアルムが信者となったとしても中でどんな扱いを受けるか分かったものではないの。だから早々に諦めてこうして魔術を極めたわ。』と、自信に満ちた表情で教えてくれた。
そんな訳で、せっかくリリットやサイネリア達と仲良くなれたのに覚えられるかどうかも分からない回復術の為にそんな怪しげな宗教団体に入るなんて案は、全員一致で却下された。
僕等がそんな事を話していたので、羽耳のアルテシアさんが丁度良いとばかりに話しかけて来た。
「それじゃあ皆、ちょっと質問をしても良いですか?」
「あ!?はい、大丈夫ですよ。アルテシアさん」
「ありがとうリン。それで、今後の修行方針を決める為にも、今君達が何が出来て、どんな事を覚えたいのかを教えて欲しいんだ。」
「どんな事って・・・・?俺はさっきアルテシアから剣術を教えてやるって言われたけど、魔術も習って良いのか?」
「オウカですか、ええ問題無いですよ。リリットからも貴方達全員高い魔力を有していると聞いているので。むしろ近距離には剣、遠距離には魔術と攻撃の幅も広がるので教え甲斐がありますね。ただまあ、君が覚えられたらの話ですけど…ね!」
真面目に話していたアルテシアさんだけど、最後になってわざわざ桜火さんを挑発する様な言い方で言っていた。
桜火さんが何か言う前に碧ちゃんが割って入る様に質問をした。
「あ!?あの、覚えられたらって、やっぱり才能とか適正とか在るんですか?」
碧ちゃんの質問には猫耳のクララが答えた。
「魔術にもね結構種類がるんだよ、まず大きく分けて【基本魔術】と【血統魔術】に分けられる。まず最初に使うなら基本魔術だね。
魔力を火や水と言った元素の力、エレメントの力に変換して操る【元素魔術士】。エレメンツマジシャンとも言うわね。
結界や障壁を作って身を守る【結界術師】。こっちはゾーンマジシャン。
契約した召喚獣を従える【召喚術士】。これはサモナー。
武器や装飾品に魔力を付加する【付与術士】。これはエンチェンター。
付与魔術で使う様な素材を作ったり、物を複製したりする事が出来る【錬金術師】。これはアルケミストよ。
これ等の魔術が基本魔術、大体在る程度の魔力を持っていて、正しい手順を用いれば誰でも使う事が出来る魔術だよ。」
「わぁ・・・、それじゃあ私も火の玉で攻撃したり、召喚獣と一緒に戦ったり出来るんですか?」
「出来るよ、ミドリちゃんの魔力なら修練と適正しだいで火の上級魔術も直ぐに使えそうだね!それと、召喚獣も多分出来るよ。
ただ、使い魔にする魔物との相性によっては契約し辛い魔物や出来たとしても、命令をキチンと聞いてくれなかったりする魔物も居るから、そこを気をつければだね。」
「やった!どっちも出来るんですねっ♪そう言えば、魔物ってどんな種類が居るんですか? やっぱり某有名ゲームみたいにスライムとか居るのかなぁ・・・。ねぇ、凛お姉ちゃん。」
「某ゲームって碧ちゃん・・・。でもそうね、私達もまだ聞いてなかったわね?」
「あんなデカイ猪が居る世界なんだし、竜とかも居るんじゃあねーか?」
碧、凛、八雲と三人でクララを質問攻めにする。
「あははは、三人ともちょっと待って、順番に答えてあげるから。」
顔を碧へ向けて正面から質問に答えるクララ。
「まず、ミドリちゃんの質問ね。ゲームってのが何の事かは分からないけど、スライムは居るわよ。かなり弱い部類の魔物だから、この街の周辺にも居るんじゃあ無いかしら?」
今度は八雲へと顔を向け説明を始める。
「それとヤクモ君が言ってた竜種も居るよ。この辺りにも小型の竜が偶に出るんだ。
ああ!後ね、ノーム山脈辺りに少し前に大型の竜種を見たって噂が在ったけど、大型の竜種は頭が良いから基本的には大きな街にわざわざやって来たりしないと思うよ、だから安心して。それにギルドに討伐の依頼が出てないからガセかも知れないしね。でも竜種自体は結構いるんだよ。」
最後に凛へと体ごと向きを変えて話し始めるクララ。
「そしてリンの質問だけど、魔物は私達が把握しているだけで五系統だね。まあ、正確には4系統と+1だけど。」
「4系統と+1ですか?クララさん、それってどんな魔物ですか?」
待ってましたとばかりにニンマリと笑うクララ、碧へと顔を向け嬉々として説明を始めた。
「おぉ、食い付き良いねぇ~ミドリちゃん♪
それじゃあまず1つ目は【魔蟲系】、虫の魔物だね。
蜘蛛や蛇といった比較的小さい魔物が多いかな。一体だと脅威はそれ程苦でもないんだけど、集団で来られると一番厄介な魔物だよ。
次に【魔獣系】、獣の魔物だね。
オウカが撃退したって言うビックボアも魔獣の一種だよ。大きな体と鋭い牙や爪で相手を攻撃するんだ。
一応、竜の下位種も魔獣系の上位にランク付けされてるよ。
次は【死霊系】、肉体を持たない魔物や生ける屍って奴だね。
グールやスケルトンとか、高ランクのモンスターになるとコープスドラゴンなんて化け物もいるよ。基本的には物理攻撃が効かない敵が多いから少し厄介なんだよね。
そして【魔物系】、これは先のモノに当て嵌らず、尚且つ人に害を成すモノ全般を指して魔物としているかな。
分かり易いのがスライムやゴブリン、オークなんかだね。
比較的人型に近くて高ランクの魔物は、魔力だけでなく知能も高くてとても厄介な存在なのよ。
そして最後の+1が【幻精種】(げんせいしゅ)。
高い魔力と知能を備えた固有種を昔からそう呼んでるの。その最も代表的な魔物が大型の竜種ね。
まだ説明して無かったと思うけど、魔物は基本的には獣や虫が魔物化したモノなんだ。長い年月を得て体に魔力を蓄え魔物化するの。そして、蓄えるまでも無く生まれながらに高い魔力を身に有しているのが幻精種なのよ。とまあ、一気に説明したけど大体分かって貰えたかな?」
「うん、とっても分かりやすかったよ。ありがとうクララさん。」
クララの説明に碧が笑顔でお礼を言い、皆も「うんうん」と頷く事で答えた。
「よかった、また分からなかったら私以外でも誰でも聞いてくれれば教えて上げるから遠慮しないでね。」
クララが猫耳をピクピクと振るわせながらそう笑顔で答える。
「なぁ、俺が撃退したビックボア? だっけ、アレはどれくらいのランクなんだ?」
剣を志す者として気になるのだろう、桜火があのデカかった猪の魔獣のランクをクララに聞いていた。
「やっぱり剣士だね、まずそこが気になるのね!
ビックボアのモンスターランクはDだよ。
それもDランクとしては一般的な強さね。
でも冒険者になってもいない素人さんが、相手して生きていられる様な柔な相手じゃあ無いよ。」
少し感心した様に言うクララにどういう顔をしたら良いか迷う桜火。
日本に居た頃は授業で習う様な剣道ではなく、偶然知り合った師匠から古流の剣術を習っていただけに、クララに今の桜火を見て"素人"と断言されてしまい、今一素直に喜べない桜火だった。
「ミドリは従魔士に興味が有るのか?
確か余り金には余裕が無いみたいな事も言っていたな。
魔物は低ランクのモノでも調教済みのモノは結構金が掛かるものだ、野性の魔物を捕まえるのなら私にも手伝えるぞ?」
「本当っリコッタさん!? ありがとうっ♪」
碧は「たたたたっ」とリコッタの元に駈け寄り「ぽふッ」と碧は笑顔でリコッタの厚くて温かい毛皮に覆われた腕に抱き着いた。
碧はパンダの物とは思えないふわりとしたリコッタの毛皮の上でどんな魔物が居るのか二人で話し始めてしまった。
それを見たサイネリアが話を戻そうと桜火へ話しかけた。
「ミドリは決まりそうかな?
さて、オウカはどうする?
剣術はアルテシアに教わるとして、魔術は? 元素魔術なら直ぐに覚えられると思うぞ?」
「う~ん、それじゃあ俺は剣術と魔術、両方教えて貰うかな。
このメンバーでメインに戦うのは俺だろうし、アルテシアが言ってた様に攻撃の幅が広がればその分出来る事が増えるだろ。」
少し考えて桜火もこれからの方針を定めた。
「ちなみにオウカ、お前の出来る事とは、具体的に力を付けてどうするんだ?」
「そんな事決まってるだろ?俺達はたった六人の仲間なんだ、誰一人欠けない様に俺がこいつらを守るんだよ。それに、元々剣の修行は毎日するつもりだったからな、丁度良い目標が出来てやり甲斐が在るぜ。」
桜火は物騒な笑顔で楽しそうに答えた。
「ふふ、私の修行を受けながら魔術にも手を出すとは、良い度胸だな。だがまあ、その考えは嫌いじゃないぞ。最近の若い奴等はただ闇雲に大きな力ばかりを求めて目的が無さ過ぎるからな。明日から死ぬ程・・・否、〝死なない程度〟に鍛えてやる。」
会って日の浅い僕等でも分かるぐらい"死なない程度"の部分が"生かさず殺さず"と聞こえるアルテシアの台詞に、皆苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「じゃ、じゃあこれでミドリとオウカは決まったな、次は・・・」
サイネリアが次は誰にしようかと迷っていると。
「あっ!はいはいっ!!俺、剣と魔術が習いたい!」
「ヤクモは剣と魔術だな。魔術は何を覚えたいんだ?」
「さっき言ってた元素魔術だっけ? あれが良いな!
火の魔術とか風の魔術とか、カッコ良さそうじゃん!!
あっ!あと結界術も使えれば戦闘が楽そうだよな。」
「ほう、もう実戦を想定しているのか? だがヤクモ、剣と杖は同時に持てんぞ?
一応魔導戦士なんて名乗る奴等も在るが、あれは特殊な武器を揃えないと難しいんだ。
もし装備を買おうにも今のお前達の所持金じゃあ全く足らんぞ?」
「え!マジで!?
う~ん、でもギルドで稼げばいつかその高い武器ってのも買えるよね?
その時になって魔術を覚えても遅いと思うから・・・・。
取り合えず俺も剣術と魔術同時進行で良いよ。」
「ふふ、お前もなかなか強情な奴だな。
まあ良い分かった。それじゃあ次は・・・・」
「それじゃあ僕が。」
そう言って光矢が小さく手を上げた。
「おぉ、決まったかい?」
「ええ、僕は魔術を。
覚えられるだけ全部覚えてみようかと思います。 少なくとも元素魔術は分かる範囲で全系統をお願いします。
あと、体術を教えてください。
一応、祖父に少し教わっていたので下地は有ると思うんですが、ビックボアみたいな魔物相手には少し心許無いので最低限自分の身体が自由に動かせる様に鍛えて欲しいです。」
クララが光也の"全部"発言に驚いた様に反応した。
「ええっ!? 全部ですか?
普通、魔術師は自分の得意な魔術を伸ばす様に修行しますよ?」
「ええ、私は桜火や凛さんみたいに武器の扱いは苦手なので。
せめて魔術だけで対抗できる力が欲しいんですよ。」
「・・・でも、稀に歳若い魔術師が大きな力を求めてあれもこれもと次々に色々な魔術を習得し様としますが、全て中途半端に終わっちゃってるんですよ。
その逆に、人に因っては適正が極端に少なくて火系統の魔しか使えない魔術師も居るんですが。
その魔術師は使えるのは火系統の魔術だけですが冒険者ランクは私達より高くAAランクです。
戦力的には複数の属性を操る私よりも上ですよ。」
「へ~、そんな凄い人もいるんですねぇ。」
「火の魔術でAAって、"炎槍"の事か?」
ルッテが少し考え、そうクララに問いかける。
「ええ。
彼も・・・まあ男かどうかは誰にも分からないけど、単身でAAランクの竜種に向かって行って討ち取って来る様な人だからね。
分かっているのは火の魔術が得意な事、特にフレイムランスが得意で、付いた二つ名が『炎槍』(えんそう)。
それ位魔術っていう物は極めれば際限の無い力を与えてくれるんですよ?」
「えぇ・・と、本当は元素、結界、召喚、錬金術って覚えたかったけど、一先ず元素魔術を覚えてから次を考えよう…かな?」
「まあ、私もそれが良いと思うぞ? いきなり色々なモノ注ぎ込んでも覚えられるか分からんからな。
さて、後はリンとイクトだな。」
凛がチラッと育兎を見て「それじゃあ私から。」と、話し始めた。
「私も八雲君達のお祖父さんから剣と槍を教わってたけど、槍の方が好きだから槍術を習いたいかな?
それと、私も覚えられる魔術は全て教わりたいわ。
特に水系の魔術は早急に教えて欲しいかな。」
「え!? リンもなの?
今の炎槍の話を聞いたのに?」
「うーん・・・。
でも、私はその人を知らないし訳だし、もし私に魔術の才能が1系統しか無いならそれも良いけど・・、まだ分からないじゃないですか?
取り合えず、全てやって見てから自分に合った力を伸ばそうと思います。
それに私は女の子ですからね、リコッタさんを見てると力で戦うよりも、魔術で対抗した方が生存率は高そうですからね。」
そう言って凛姉は熊獣人のリコッタへ微笑んだ。
笑い掛けられたリコッタは何とも言えない表情で苦笑を浮かべる。
「う~ん、確かにオウカとミツヤ以外のは人族の子供と女の子か・・・。
そんな奴等が盗賊や魔獣相手に力で対抗するのは無謀…かなぁ?
せっかく魔力が高いんだから、それを上手く使いこなす方向で鍛える方が無難か・・・・。」
凛の言葉に思案顔で独り言を呟くサイネリア。
そして最後に育兎へと顔を向けた。
「よし、それじゃあイクト。
君はどうする? リンと同じ様に魔術を重点的に修行するか?」
サイネリアの言葉に一度リリットへと顔を向ける育兎。
目を閉じ、少し悩んだ様に口元を歪める育兎へリリットが苛立った声をかけて来た。
「何かなイクト、先程私の弟子になる事にしたんだろう? 何を悩んでいるの?」
それを聞いたクララとルッテが以外そうな声でリリットに話しかけた。
「えっ!
リリットがそんな事言うのって珍しいね!? どうしたの?」
「本当ですね、いつものリリットなら能天気な作り笑顔であしらうか、冷めた眼つきで相手を畏縮させてあしらうだけなのに・・・。
この子、何か凄い力でも持ってるの?
いつも興味無いモノには無関心なのに・・・・。」
クララは本当に以外そうに。
ルッテはリリットをからかう積もりなのだろう、意外そうな言葉とは裏腹に全て台詞が棒読みだった。
「貴女達も大概失礼ね。クララはいつもの事だけど。
ルッテ、能天気なってそれもう喧嘩売ってますよね? …はぁー、まあ良いわ。
才能の有無でしたら弟のイクトより姉のリンの方が在ると思うわよ。
あの魔力の高さもある意味才能と言って差し支えないと思うし。
でも、貴女が聞きたいのはきっとそう言う事では無いのでしょう?」
リリットにしては珍しく少し諦めの境地でルッテへ凛の感想を述べた。
「リンが? ただ魔力が高いだけのヒュームでは無いの?」
「うーん、今の所はそう見えるわね。
まあ、あの年齢の人族にしては少し賢すぎる気もするけどね。」
「あら、リリットがヒュームを褒めるなんて相当凄そうね?」
「ええ、貴女も知っての通り魔術は才能だけでは扱う事が出来ない技術だけど、才能の有無でスタートラインの立ち居地が大きく変わってしまうわ。
高い魔力と独創的な発想力、魔術を扱う上でこの2つが揃うと言う事がどれだけ恵まれた才能か・・・・。
そう言った意味であの姉は、まあ弟もだけど、私達しだいでかなり化けると思うわよ。」
「・・・・リリットにそこまで気に入られるなんてね。
ホント、あの姉弟は何をやったのかしら? ちょっと興味が沸いてきたわね。」
最初は面白半分で聞いていたルッテだが、思いの他リリットの二人に対する評価が高くて驚き、笑いながら姉弟への興味を示す。
「ダメよルッテ、私が先に見つけたんだからね?」
「そんな将来優秀な姉弟なら、私も何か教えたいのに・・・意地悪ねぇ。」
「貴女の得物は弓でしょう? 何を教えるって言うのよ。
今の所イクトに弓を持たせる気は無いわよ?」
「それは勿論・・・精霊との触れ合い方とか?」
「バカね。
精霊なんて、それこそ才能在ってのモノじゃないの!?
最初に精霊に気に入られるかどうかで全てが決まるんだから。」
「そうなのよねぇ・・・。
法術以外で唯一の回復魔法なのに・・・使い手が圧倒的に少ないのよねぇ・・・。」
「精霊使い何てレアスキル持ちがそうそう居たのでは、私達魔術師の存在意義がなくなってわよ。」
「まあ、それもそうですね。」
リリットとルッテのそんな密談が終わった頃、大いに悩んだ育兎が漸く口を開いた。
「あのルッテさん、少しお願いしたい事が在るんですが良いですか?」
「あら!? 私ですか?」
育兎がルッテの名を出した途端リリットの笑顔が育兎へと向けられた。
その笑顔には無言で『私の修行から逃げる気なの?』と言う思いがプレッシャーとして圧し掛かってくる。
「イクト、私は弓使いですので魔術は教えて上げられませんよ? それとも、イクトは弓を教えて欲しいのですか?」
「弓ですか? ボクも少しやっていたのでそれも少し興味が在りますが、今回は違います。
ルッテさんには精霊との契約の仕方を教えて欲しいんです。」
「精霊…ですか? イクトは精霊使いに成りたかったんですか?」
「なんだイクト、昨日はそんな事言ってなかったじゃあ無いか?」
「いやいや、違うよリリット。
昨日は魔術に回復魔術が無い何て知らなかったからさ。
さっきの説明だと、教会の使う法術か水の精霊意外に回復手段が無いみたいだったしさ。
もしボクが使えたらって思ったんだけど・・・・ダメかなルッテさん?」
「教えるのは構いませんが、精霊は一度目のコンタクトの時にその精霊に気に入られるか、気に入られないかの2択で決まってしまいます。
そこでイクトが無理な場合諦めて貰うしか無いのですが・・・・それでもよろしいですか?」
断られると思っていた育兎は以外にもすんなりOKが出たので少しビックリし、ルッテさんにお礼を言った。
「本当ですかッ!
ありがとう御座います、ルッテさん♪」
「いえ、精霊と合わせるだけですから、それから名前に〝さん"は要りません。 ルッテで構いませんよ。」
そう言われた育兎はルッテの顔を恥ずかしそうに見ながら慌てて返事をした。
「分かりましたルッテさ・・・えっと、ルッテ。」
「育君に便乗する様な形で申し訳無いのですが・・・。
ルッテさん、私も水の精霊をご教授願えませんか?」
「リンもですか? ええ、構いませんよ、確認事態はそれほど難しい事ではありませんから、明日は二人とも調べててみましょう。
それとリン、貴女も私の事はルッテと呼んでください。
私も貴女をリンと呼ばせて頂きますから。」
「本当? ありがとうルッテ。 明日が楽しみね!」
凛がルッテへ丁寧にお辞儀をして優しい微笑を浮かべる。
話も一段落した所で屋敷で皆のお世話をしてくれているドワーフのアリアさんが夕食の準備が出来た事を僕等に伝えに来た。
アリアさんはドワーフらしく身の丈が子供と同じくらいしかないが、既に僕等の何十倍も生きていてこのパーティーの中では一番年上らしい。
服装は膝下まであるワンピースにエプロンを着用しているので、僕等六人の頭の中では全員「メイドさん?」の言葉が浮かんで居ると思う。
「おっと、もう結構時間が経ったんだな? それじゃあ皆、食堂に行って夕食にしようか?」
「賛成だよサイ姐、私もうお腹ペコペコだよぉ~」
「アリア、今日の夕食は何かな?」
「今日のメインは市場で珍しくビックボアのお肉が手に入ったので、それを使ってラグーを作ったわ。
あとは前菜にサラダと、パンもさっき焼き上がったからそれを食べて貰おうと思っててるわ。」
「「えっ!!」」
夕飯に魔獣の肉が使われている事を聞いて僕等はかなり驚いた。
「へぇ~ビックボアのラグーかぁ。
魔獣の肉なんて、今日は豪勢だねっ!!」
「ええ、今日の夕食はリンさん達の歓迎の意味も込めてチョット奮発したんです。」
ボクは気になってアリアさんに聞いてしまった。
「あ・・あの、魔獣のお肉って食べられるんですか?」
「食べない人も居るけど、私達冒険者は結構食べるわよ?
入手が困難で市場では普通の動物の肉より高いんだけどねっ♪
あ!? 自己紹介しておくわね、私の名前はアリア。
一応魔術師だけど、今はこの屋敷の厨房が私の戦場ね♪」
そう言って小さな体で腕を組み自己紹介をするアリア。
失礼では在るが、その姿はまるで幼い子が「えっへん」と自慢話をしている様でとても微笑ましかった。
「魔獣のお肉って食べれたんですねっ!!っと、そうだ。
始めましてボクの名前は姉ヶ崎育兎って言います。今日から暫くの間お世話になります、アリスさん。」
そう言って育兎はアリアにお辞儀をした。
「これはこれは、ご丁寧にありがとうね。
私の事はアリスで良いわよ。
それと私も彼女達"風の翼"のメンバーなのよ。これからよろしくイクト。」
それからアリアは凛達とも挨拶を交わし、皆で美味しい夕食を堪能した。




