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第07話 - 「大賢人」

12/20 修正。(…たぶん)


 あの後凛姉の誤解を解くのにボクとサイネリアで根気良く説明をする事になった。


そのお陰で今ようやく落ち着いた凛姉とサイネリア達の四人でお茶を飲んでいる。


「いきなり取り乱したりしてご免なさい、育君があんな事言うからビックリしちゃったのよ。」

「本当だよ、ボクが本当に姉さんを"要らない"何て言うと本気で思ったの?」

「・・・だって、育君にせっかく厨房で貰った良い香りのハーブティーを持って行こうとしたら部屋の中から楽しそうな彼方達の声が聞こえてくるじゃない?

育君は何時の間にか二人の事を"さん"無しで呼んでるし、彼女達も育君の事"育兎"って呼んでるし・・・・。

それで部屋に入ったらあの台詞よ?

勘違いしたくもなるでしょう?」


うわぁ・・、凛姉凄いタイミングで入って来たんだね、まるで作為的な何かを感じるけど・・・。


そう思ってリリットの方を見ると、瞳は薄く閉ざされ頬が微かに震えている様に見えた。


ボク等を観察しながら笑うのを堪えてるみたいだ。


あ・・あの雌狐また謀りやがったか!?


ボクが表情に出さない様に呆れているとサイネリアは分かっていた様でリリットに対してあからさまに呆れた視線を向けている。


ボクは慌てて凛姉へと向き直り・・・


「た・・・確かにタイミングが悪かったね凛姉、謝るよ。ゴメン凛姉。」

「本当よぉ?

あんな告白紛いの台詞、育君から聞く何て初めてだったからビックリだったわよ!?」


そ、そうだった!?

思い出してみると、ボク目茶苦茶恥ずかしい事言ってた気がするんだけど・・・・


「そ、そこは忘れて良いから。ね?

・・あ!?そう言えば姉さんは何しにこっち来たの?」

「えっ?

・・・ああ、そうそう!?

ただお茶をする為だけに来た訳じゃあ無いのよ。」


そう言うと凛姉はサイネリアへと体を向け話しはじめた。


「私はサイネリアさんに今後の事をもっと詳しく聞こうと思って来たのよ。」

「あれ?

クララは説明してくれなかったか?

一応リンとミドリに家を見せながら説明も頼んでおいたはずなんだが?」


サイネリアが「伝え忘れたか?」等と呟きながら凛姉に聞いている。


「ええ、クララさんからも聞いたわ。

でもあの・・・何というか、彼女『ここが彼方達の寝る部屋で、向こうの部屋が男の子達の部屋だよ!それでね調理場がね・・・・』って感じで、私達が住む事前提で話が進んじゃうし、理由を聞こうとしたら彼女碧ちゃん連れて他の所に行っちゃったから諦めて貴女に聞こうと思ったのよ。」

「うふふふふっ、クララらしいわね。

あの子ったら珍しいお客様に少ししゃいでもう一人のお客様を忘れちゃったのね。

本当ごめんなさい。」


凛姉の話を聞いたリリットが楽しそうに笑い謝罪する。


「全く、クララの奴にも困ったものだな、後で少し言っておこう。」

「ううん、それは良いの。

確かにちょっと困ったけど、クララさん楽しそうだったし、碧ちゃんも笑ってたから。」


そう言ってにかんだ笑顔で答える凛姉。


「そうか?

まあ楽しんでもらえてるなら私達も嬉しいが。

それで今後の事だな?」

「ええ」

「ちなみにリンやイクトはこの先どうしようと思っていたんだ?」


ボクと凛姉は少し顔を見合わせお互いコクンと頷くと凛姉が話だした。


「やっぱり冒険者になってお金を稼ごうと思っているわ。

まだ見てないから分からないけど、冒険者への依頼には初心者向けのモノも在るのでしょう?

私はそういうので日々の寝食代は稼げるかな?

と思ってるんだけど・・・どうかしら?」


少し不安顔で凛がサイネリアに尋ねる。


「まあ、贅沢をしなければ問題無いだろうな。」

「そう、良かったわ。

私や碧ちゃんそれに育兎の三人で稼げば、後の三人分も稼げるかしら?」

「うーん、少し難しい依頼もこなさないといけないね。

例えば獣の討伐とか・・かな?」

「獣・・・それはどんな種類の獣かしら?

狼とかそう言う類い?」


凛は依頼の内容が気になる様で詳細をサイネリアに尋ねた。


「狼の駆除ならEランク相当かな?」

「ええと、Eランク?」

「あ!

そうか、君達は落ち人だったね?

君達の国に冒険者ギルドは無かったのか?」

「ええ、そうね。

良かったらその辺りも説明して貰っても良いかしら?」

「勿論。

良いかい?冒険者にはそれぞれギルドカードが渡される。

そしてカードには全10種、8つのランクと色に分かれているんだ。

まず初心者、ビギナーに与えられるカードはFランク、色は白。

主に薬草などの採取がメインだな、害虫の駆除も出来れば問題無い、誰でも出来る依頼のランクだ。

次にEランク、色は黄。

このランクから普通の獣の駆除が入る。猪や狼といった獣達だな。獣に因って難易度は変わるけどね。

次がDランク、色は橙。

ここから魔獣の駆除が入る。まあDランクはまだ単体の魔獣のモノがメインだから、このランクの依頼が一つの試金石になっているね。

さて次はCランク、色は緑。

このランクは群れで行動する魔獣の討伐がメインだね。単体戦と違って集団戦の危険度は一気に跳ね上がるよ。1対1とはまた違った戦闘スキルが必要だからね。

次がBランク、色は青。

ここから魔物がメインだ。この魔物だが種類が色々だが総じて皆知能が高かったり、能力が高い奴ばかりだ。まあ今はまだ関係無いと思うが一応覚えておけ。

そしてAランク、色は赤。

もう想像出来ると思うが、群れるタイプの魔物の討伐がメインだ。これでFからAまでこれで、全6種だな。」


一気に説明された内容を一生懸命記憶するボクと凛姉、まあボクは途中で放棄したけど、凛姉はうんうんと頷きながらサイネリアの話を聞いていた。


「まあ、今すぐ覚えなきゃいけない事は他にも在るから、分からなかったらその時に聞いてくれ。」

「あの、それじゃあ良いかしら?」

「ああどうぞ、何でも聞いて。」

「ええ、さっき8つのランクって言ってたのに、今6つしかなかったはどうしてなの?」


そこはボクも疑問に思った所だった。

冒険者ランクがF~Aまで6種、後2種類はどうしたんだろう?


「まあ、やっぱりそこが気になるよな?

その辺りは少し複雑でね、上位の2ランクはランクAAとランクAAAだ。

これは全ての冒険者ギルドで通用する正規のランクなんだ。」

「・・・わざわざ"正規の"って前置きするって事は、上位ランクは不正に取得する事も可能なのかしら?」

「あ!!

そういう事やはり直ぐ分かるんだ!?

頭良いとは聞いてたけど、そういう可能性を直ぐに思いつくのって本当凄いわね。

でも、今回はハズレ。

不正は出来ないけど・・・、所謂優遇処置の様なもので取得可能なランクが存在する。」

「優遇処置?」

「そう、それはランクSとランクSS。

このSとSSはそのランクが更新された国においてのみ有効なんだ。

私達冒険者は基本的には流れ者だからな。

気に入った町や都市、そして国を自由に行き来している。

その為、優秀な人材は出来るだけ他国へ流れて欲しくないと考える国が長く滞在して貰える様に行なう処置だ。

まあ、報酬の上乗せや素材の買取の際少し色を付けたり、住居を与えたり、国によって様々な趣向を凝らしてい結構面白かったな。

・・・見てる分には。」

「そう言えば、サイネリア達のランクはどのくらいのランクなんだ?」

「私達『風の翼』はパーティーランクはAだよ。

あ!?パーティーランクはパーティーの登録メンバーの平均ランクだから。」

「おおっ凄ぇ!

それじゃあ皆一流の冒険者だ!!

人は見かけに因らないんだね!」

「はは、言ったなコイツ!?」


サイネリアは拳をコツンと軽くボクの頭に当てて笑った。


「二人共楽しそうで良いわねぇ・・・。」


サイネリアが説明をしてくれている最中リリットは一人退屈そうにお茶を飲んでいた。


「どうしたリリー、何ならお前が説明するか?」

「いいえ、それは貴女に任せるわ。」

「そうか、それじゃあ続きに移ろうか。

ええと何の話だったかな?」

「私と育君と碧ちゃんの3人で、6人分の食事代と宿代が稼げるか、ね?」

「ああそうだったな、でも何で3人何だ?

後の3人は?」

「う~ん、まだ人選は確定では無いけれど、光也君と桜火君には頑張って私達より上位の依頼をこなして貰って、少しずつでもお金を貯めたいのよね。

ロズンさんへ返さないといけないし。」

「はぁーッ!?

貴女、本気でお金返す積もりだったの?

契約書も書いてないんだから貴女が無視すればそれで済む事でしょう?」

「でも、既に返すと約束してしまった物ですし。

何より元々借りる積もりも無かった物なので、出来るだけ早く返したいんですよ。」

「はっ!?

とんだ甘い考えね。

それとも唯の偽善者かしら?」


リリットの物言いにボクは少しカチンと来たけど、凛姉が目配せで抑える様に言って来る。


「偽善だろうと何だろうと、別に構わないじゃないですか?

私が人から物を借りたままなのが気持ち悪いだけです。」


ほぼ初対面の人と真っ向から受けて立つ凛姉なんて、ちょっと珍しいかも知れない。


「それに私達の立場も考えて見てください。」

「えっ?

貴女の立場ですって?」

「そうですよ。

貴女ならどうしますか?

全く知らない土地にやって来て頼れる人は誰もいない、そんな時にまだお互い言葉も満足に交わしていない男の方からお金を、それも大金で在ろう額のお金を無償で手渡されるんですよ?

そんな都合の良い話しを信じるには、私の性格は既に矯正不可能な程に捻じ曲がってますね。」


ああ、凛姉あの時そんな事まで考えてたんだ!?


弟のボクもビックリの事実だけど、ボク以上に驚いた顔をした人達が目の前に居た。


「あ・・貴女は、一体いくつなんだ?」

「え!?

歳ですか?19歳ですけれど?」

「19・・・、一体どんな育ち方したらこんな()になるんだ?

・・・・大丈夫だ、ロズンさんはそんな人じゃ無い。

あの人は子供を大切にする家庭だからな。

カルテだけでなくアリカも助けたんだろう?

それなら、まず間違いなくただの好意だし、たぶん君達が返さなくても問題無いと思ってるはずだよ。」


サイネリアは凛の言葉に呆れ諭す様に言い聞かせようと試みるが・・・


「・・・無駄よサイネリア、この()はきっと"自分が信じたモノ"しか信じないわ。

残念だけど、まだ私達はその中に入っていない。

貴女の言葉は"知らない土地で偶々知り合った人"に過ぎない、だから意味がないわ。・・・まだね。」


リリットは凛を見ながら面白く無さそうに苦笑いを浮かべた。

一方サイネリアは凛とリリットを驚いた様に見つめていた。


「リリー、お前良くリンの考えが分かるな?

私には全くもってさっぱりだぞ?」


サイネリアは困惑顔で凛とリリットを見るが二人は意に介していなかった。

そしてリリットは視線を感じ、一度育兎の方をチラッと向くと、育兎が口元だけ含み笑いで彼女を見ながら笑っていた。

その視線を無視し、凛へと戻す。


「ホント、・・・・・・」


リリットの呟きは誰にも気付かれる事も無く虚空に消えてしまった。



「それじゃあ・・・、これは貴女のプライドの問題なの?」

「・・・そうですね。

プライド・・・誇り・・・。

まあ、そんな所です。」

「ふふふっ、そう誇り。

誇りは大事(たいせつ)よね、確かに。」

「ええ、ですがその為に死んでしまうのでは本末転倒なので、お金は死なない程度の力で返していこうと思います。」

「難しい言葉を知ってるわね!?

でも、そうなの?普通は誇りの為に死ぬ人族の方が多いと思うのだけれど?」

「価値観の違いですね、少なくとも私は誇りに殉じて命を投げ出す事は無いですよ?

私の誇りが私の邪魔をするなら、その誇りを圧し折って私は生き抜きます。」

「・・・・また極端な女性(ひと)ねぇ。」



「そこまでして生きたいだなんて、何か理由でも在るのかしら?」と一仕切り質問し終わったのかリリットは一人そう呟くと思案顔になっていた。


その行動に凛は苦笑に口を開く。



「・・・リリット、と呼んでも良いかしら?

もちろん私の事は凛で構わないわ。」

「・・・ええどうぞ、リン。」


リリットは少し驚いた顔をしていが凛の表情を見て釣られて笑っていた。


「ありがとう。

それで・・ねぇリリット。

貴女はには自分が死んでも貫き通す・・・掟?・・・の様なモノは在るのかしら?」

「・・・・それは、貴女が先程言った誇りの様なモノの事ですか?」

「ええ、そうね。

貴女が生涯を賭して貫き通したいと思う願い・・・は、少し言い過ぎかな?でもそんな所ね。

あ!?それとリリット、貴女恋人とか夫とか、まぁ仲の良い女性でも良いけれど、大切な人は居るかしら?」

「・・・・結婚はしていないわ、恋人も居ません。

大切な人は・・・」


リリットはサイネリアを一度見て、少し複雑な顔で苦笑を浮かべながら次の言葉を喋った。


「まあ、あえて上げるなら風の翼のメンバーが私の大切な人よね?」


嘘か真か、狙った様なリリットの言葉だったがそれでも仲間がそう言ってくれるのはリーダーとして嬉しいのだろう、サイネリアは腕を組んで目を閉じ、冷静を装っていたが、背中の尻尾がまるで犬の様にブンブンと左右に振られ感情を表していた。

凛姉もうんうんと、頷きながら話を聞いている。


「それじゃあ、彼女達の命が、貴女の誇りの為に害されたらどうしますか?」

「・・・・・そう言う話しか?」


リリットは呆れたような、何か嫌なモノを見る目で凛を見る。


それに対し凛は嬉しそうに返事を返す。


「はい、そう言う話です。

まあ、私達と貴女方では身に着けている地力が違うので命の危険は無いでしょうが・・・。

たぶん私達ではちょっとの油断が命取りでしょうね、まず自分の身が守れませんから。

それで自分が死ぬだけなら未だしも、今は仲間が危険に晒されますので、そんな誇りは百害在って一利無しですよね。」


さして興味も無さげに「Aランクパーティーって、言ってましたしね。」とも付け足す凛姉。


何故だろう、凛姉がリリットが会話すると凛姉が暴走気味になるのは気のせいだろうか?


「確かに私達なら大抵の事は自力で解決出来る事でも、〝今の〟貴女達には無理でしょうね。」

「・・・え?

〝今の私達には〟…ですか?」


リリットがわざと「今の」にアクセントを付けた事に気が付いた凛が繰り返し聞いていた。


あっ!

そうだった!?

そう言えばさっきボク等にはかなり多くの魔力が在るみたいな事言ってたんだっけ?

ああ、そう言えばそのせいで殺されそうにもなったよね・・・

まぁ今はそんな事気にしてる場合じゃあ無いし、早く凛姉にもその事を伝えないとっ!!


「そうそう、凛姉。

さっきリリットに教えて貰ったんだけど、俺達ってかなりの魔力持ってるみたいだよ?

だからもしかしたららその力で直ぐにお金稼げるかもしれないよ?」

「えっ!?

それ本当!?

スゴイじゃないッ!」

「あ!?

でもボク等魔力は在っても魔法なんて使った事ないからこれから覚えないといけない・・・・のかな?」


勢いで凛姉と話してたかどボクも詳しい話を聞いてなかったかな?


そう思って育兎はリリットの方へ視線を向ける。


「そう言えばその辺りの説明もまだだったな?

まあ丁度良いか、リリット二人に説明してやってくれないか。」

「後で皆が揃っている時で良いでしょうに・・・、しょうがないわね。」


リリットは面倒臭そうな態度をとりながらも意外とあっさり説明を始めてくれた。


「まず質問何だけれど、貴女達魔術を知らないのよね?

イクトの感じからして全く見た事が無い様だけど・・・。」

「ああ、ボクも凛姉も見た事も使った事もないよ。」

「そうね、私もないわ。」

「仕方ないわね、それじゃあ魔術がどんなものか説明しましょう。」


そう言って立ち上がったリリットは、徐に手を腰に伸ばし提げていた短杖を手に持つ。


「取り合えずイクト、貴方さっきから〝魔法、魔法〟と言っているけど、私達が普段使っているこれは魔法じゃあ無いわ、〝魔術〟よ。」


そう言って「これ」とリリットが言った瞬間、リリットの指先から小さな魔法陣とその上から赤い炎が灯った。


「わぁ・・・」

「おぉぉ・・」


僕等の反応にちょっと満足そうな顔をするリリット。


「魔術は理論的には魔力を持つ全ての者が使う事が出来る奇跡の様な力よ。」

「え!

じゃあボクも今すぐ魔術使えるの?」


少し興奮気味に質問するボクへリリットは笑いながら答えてくれた。


「はいはい、ちょっと待ちなさい。

いきなり歳相応に落ち着きなくなったわね?

魔力は全ての生き物が持っているモノよ。

でも、ただ魔力を持ってるだけで魔術は使えないわ。

まず自分の中の魔力が何処に在るのかを感じる事が出来ないと、意識を集中して魔術に必要な量を得る事が出来ないから。」

「・・・あぁーやっぱりそういう修行的な要素も必要なんですね?

魔力が高いって聞いてもしかしたら、もしかして呪文を唱えたら直ぐ使えるかも!!

・・・とか思ったのに。」

「まあ、初歩的な魔術を使うぐらいは出来るんじゃないかしら?

見た所イクトの魔力量はかなりのモノだと思うし、魔力不足で不発になったり・・・・」

「え!?

それホントですかッ!?」


ボクは徐に右手の人差し指を上に向け言葉を紡いだ。


「ファイアッ!

・・・・って出ないじゃん!?

リリットさ・・・・って痛ッ!?」


育兎は「リリットさん」と言った瞬間読んだ相手に思いっきり頭を(はた)かれていた。


「馬鹿ですか貴方はっ!?

まだ説明の途中だったでしょう!?

不用意に呪文を唱えるなんて非常識よッ!?

っと言うか、何で貴方魔術の呪文を知ってるんですか?」

「い・・ててて・・・・。

いや、それはさっきリリットが唱えたモノをそのまま・・・・」


育兎の台詞に若干呆れた顔をするリリット。


「・・・・全く、どちらにしろ杖が無いと魔術は発動はしません。」

「え?

どうしてですか?」

「魔術師は媒体となる杖を使わないと術を発動させる事が出来ないのよ。

だから今の貴方がいくら呪文を唱えても魔術は発動しないわ。」

「そうゆう事か!

それじゃあその杖は何処で手に入りますか?」

「今の君達の財政じゃあ無理じゃあ無いかしら?

なんの装飾も施してない短杖で5万アース以上、銀判1枚は必要だからね。

まあ、イクトが私から教わる時は私が前に使ってた奴を貸してあげるから安心しなさい。」

「え!本当ですか?

ありがとう御座います。

でも、杖一つで何でそんなに高いんですか?」

「バカね、唯の杖な訳無いでしょう。

素材から形成から全て魔術師達が1本1本作るのよ?

そんな杖が安い訳無いでしょう?」

「それはまた、手間が掛かってそうですね。

仮に僕等が皆魔術を覚えても杖を買えないんじゃあ今覚える意味無いのかなぁ・・・。」

「いえ、それは違うはイクト。

むしろ逆、覚えられるなら出来るだけ早く覚えるべきよ。

貴方達は第一に身の安全、第二にお金を稼ぎたいのでしょう?

それなら魔術を覚えた方が断然早いわ。

剣や槍では獣程度なら問題無く通用するでしょうけど、素人が使っても町のゴロツキには襲われて身包み剥がされるのがオチよ。

魔術なら町のゴロツキや小物の魔獣や魔物なんかもそれで倒す事が出来るかも知れないし、一石二鳥でしょう?」

「へー便利ですね魔術って。

それじゃあ冒険者って、魔術師が多いんですか?」

「いいえ、そうでも無いわね。

使える者は確かに多いけど、魔術師を名乗る人は少ないわ。」

「え!?

どうして?そんなに便利なら皆覚えれば良いのに?

さっき魔力を持つ者皆が使えるのが魔術だって?やっぱり杖が高いのが障害になるのかな?」

「育君、多分そこじゃあないわ。

さっきリリットは『理論的には魔力を持つ全ての者が使う事が出来る力』って言ってたでしょう?

きっとただ魔力を持ってるだけじゃあ魔術師には成れないのよ。」

「ええ、リンの言う通りよ。

今の世の中、特にこの国では魔術は貴族や一部の限られた者にのみ許された力になっているは。

いえ、それは少し言い過ぎね。

でも、少なくとも人族はほぼ貴族達富裕層にのみ許された選ばれた者達が学ぶ学問になっているわ。」

「ええと、それはまたどうして?」

「魔術を学ぶには2つの道しかないわ。

1つは分かると思うけど、誰かに師事する事。

誰かと師弟関係を結べる伝手、大抵は親子だったりパーティーのメンバーだったり、それが出来れば問題無く学べるわ。

後は弟子の才能次第ね。」


思ったより普通の答えに納得したボクは先を急かした。


「もう一つの方法は?」

「まあ、こちらが一般的でしょうね。

もう一つの方法は王都に在るオルフォート魔法学園で学ぶのよ。」

「「 魔法学園っ!? 」」


ファンタジーな単語に僕等のテンションが上がっていく。


「ただし、入学費や授業料が高過ぎて今や貴族の娯楽と化してるでしょうけどね。」

「え゛!?

そんなに高いんですか?」

「まず貴女達の様な庶民には無理でしょうね。

元々あの学園は庶民にも等しく魔術を学ばせる為に開校した場所だと言うのに・・・・。

今では貴族達の見栄の為に通わせ、箔を付ける為に卒業させる、そんな施設になっているわ。

まぁ生徒全てがそうだとは言わないけどね。」

「あぁ・・・何か、残念ですね。

何処の金持ちも似た様な事ばかりで・・・。」

「ふふっ、そうね。

でもね貴族が多く通っているだけ在って、ここで学べば卒業と同時に魔術師協会から称号が送られるのよ。」

「魔術師協会からの称号?」

「そうよ。

ある程度力のある魔術師を魔術師協会が決めた基準に当てはめて、その基準に合格すれば称号を贈られる。

気にしない者も居るけど、冒険者にとってはある種の目安になるからランクアップや依頼を頼む際に有利な場合も在るわ。」

「へー称号なんて在るんだ。

・・・あれ?

って事は、この国結構魔術が盛んなのかな?」


疑問に思った事をそのまま口にしたら呆れた様にサイネリアが教えてくれた。


「何を言ってるんだイクト?

この国はこの辺りで一番魔術が盛んな国だぞ?

名前は【トワイニング魔法王国】。

そんな事も知らなかったのか?」

「え!?

あはっ、あはははっ・・・。

そう言えば知りませんでした。」


本当の事も言えないのでボクは笑って誤魔化す事しか出来なかった。


「本当に何も知らないのね?

それじゃあ、一応魔術協会が出している称号も教えておくわね。」

「あ!?お願いします!」

「まずは魔術師/マジシャン。

これは魔術を扱う者全てに当てはまる称号。

そうね、一種の職種名みたいなものかしら。

剣士や騎士みないにね。

次は魔導師、またはメイジ、下位魔術師。

一定以上の魔力と1系統以上の魔術を使いこなす事が出来る者をそう呼ぶわ。

次は賢者、またはセージ、上級魔術師。

複数の系統の魔術を使いこなす者を呼ぶ名ね。

次は大賢者、またはグレート・セージ、下位魔術師。

魔術の研究開発に貢献し、新たな魔術を開発した者の呼び名ね。

最後に魔法使い、またはソーサラー、高位魔術師。

複数の系統の魔術を使いこなし、尚且つ大魔術を行使可能な魔力と技量を兼ね備えている者をそう呼ぶわ。

まあ、といった所ね。

今は全てを覚えられないでしょうけど、貴方達が成長して称号を得る機会か出来たら思い出してみて。」

「う~ん、ボクは結構情報が多くて整理が追いつかないかも・・・」

「そう?

こんなの一度聞けば大抵覚えちゃうでしょう。」

「・・・・凛姉のそこは、こっちに来ても相変わらず高性能で羨ましいよね・・・。」


そう言って育兎は凛姉の頭を羨ましそうに眺めている。


「何よそれ。

お姉ちゃんを褒めたって何も出ないわよ?」


笑顔の凛姉は冗談めかして言う。


「褒めたって言うか、最早事実確認って感じだけどね。」

「ふふっ、貴女達が仲が良いのは分かったわ。

それで、続けても大丈夫かしら?」

「ええ、お願い。」

「ボクはちょっと・・・」

「イクトなら今心配しなくても大丈夫よ。」

「え!?今?

何を言ってるんですか?」

「後で魔術と一緒に教えて上げるわ。

だって大切な人が居るのでしょう?

まさか出来ないとわ言わないわよね。イクト?」


リリットはリンへ一度視線を向けまたボクへと視線を戻しそう告げた。


「そりゃ・・・・」

「ああ、可哀想に・・・・。

貴方の想いはその程度モノだったのね!?

きっとそれを知ったリn・・・」

「わぁ~!?・・っかりましたっ!

やります!やらせて頂きます!?」


慌てて言葉を遮るボクに面白く無さそうな顔をするリリット。


ボクが叫びつかれて膝を着く姿を見て、漸くリリットの機嫌が直った。


「貴女の元で魔術を学ばせ下さい。」

「・・・・全く、最初からそういう態度で居れば良いものを・・・、まあ良いでしょう。」


二人のやり取りを羨ましそうに見ていた凛が、申し訳無さそうに口リリットに声を掛けて来た。


「あの、私もリリットに魔術を習っても良いですか?」

「え?ええ、構いませんよ。

あ!?でもリン、貴女剣か何かも使えそうよね?

でも、私そっちは教えられないわよ?」

「ああ、そっちは私が教えよう。

リンが使う武器は剣か槍だろう?」

「・・良く分かりましたね?

知り合いに剣術と槍術、両方を少しだけ習ってました。

でもどうして分かったんですか?」

「そうか、鍛錬が足りないから少し分かり辛かったがな・・・・。

筋肉の付き方と、偶に出る足運びで何となくそう思ったんだ。

まあ要は当てずっぽうだよ。」


サイネリアは笑いながらそう言った。


「それじゃあ魔術は私が教えるとして、武術はサイネリアで良いかしら?」

「ああ、それで良いぞ。」

「良かった、二人ともこれからよろしくね。」


僕等は一旦会話を切り上げた。

サイネリアの提案で食堂に皆を集めて今後の事を話すと言う。

サイネリアと凛姉が部屋を出て行きボクも後を追をうとした時後ろに居たリリットから声が掛かって来た。


「ねえイクト。」

「なに?

どうしたの、リリット?」


一人部屋に残るのかと思っていたリリットに呼ばれ、首だけ後ろを向けて返事をしたボク。


「イクト、貴方本当に頑張らないと大切な人をこれから起こる厄災から貴方の手で守る事が出来ないわよ?」


真剣な眼差しのリリットから言われた突然の言葉。


これから起こる厄災から守る事が・・・出来ない?


それはつまり僕等に厄災が起こるって事?それとも凛姉や碧ちゃん達に何か危険があるって事ですか?


その言葉の意味をそう結論付けた育兎の瞳孔は不自然に大きく見開き、喉は渇いた様に何かを飲み込む動作を何度も行なっている。


育兎の変化を見て取ったリリットが「しまった」とばかりに苦笑を浮かべて謝ってきた。


「あぁ・・・勘違いしている様だから言っておきますけど・・・」

「・・・何がですか?」


煙に巻かれそうな雰囲気に、ボクは警戒心も露に少しだけ語調を強めていく。


「いえ、これは別にリンやミドリに危険が迫っていると言う話ではありませんよ?」

「・・・はぁ?」


ボクは今、マヌケな顔でマヌケな声を出して、リリットの顔をボケっと見ていた。

さっきまでの緊張は何だったのか・・・。


「いえ、ですからイクト。

貴方は勘違いをしていると言いましたよね。

ミドリの方は私は分かりませんが、リンは・・・、彼女は少し頭が回り過ぎますよね?」

「・・・そうですね。

勉強は勿論ですが・・・自分で興味を示したモノは何でも調べて全部記憶する様な(ひと)ですから。

アレで趣味に走らずもっとお偉いさん向けのモノに興味を示していれば、誰もが認める"神童"とか"天才少女"なんて呼ばれたんでしょうけど。

幸い中身がアレなんで、さほど周りに騒がれずに済んでましたよ。」




   ◇◆◇◆◇◆◇




 凛姉の凄さは身近で見て来た俺が一番知っている。


その姉に追いつきたくて、寝る間を惜しんで勉強を頑張っていた時期も在った。


しかしそんな勉強方法では体に悪いのは当然で、月日が経つにつれ悪くなるボクの体調を思ってか、ある時自宅での勉強を強制的に止めさせられ、代わりに一緒に西園寺のお祖父さんの所で毎日連れて行かれ、勉強で鈍った体を動かす為に武術を習わさせられる事になった。


最初は、早く勉強をやって凛姉に追いつかないと。って言う思いが強かったけど、西園寺のお祖父さんと喧嘩したり、凛姉の演舞に見惚れたりする内に、ボクもお祖父さんから武術を習っていた。


まあ、勿論そこでもうちの姉は瞬く間に技を覚えて免許皆伝とか貰ってるのを見た時にはちょっと心が折れそうになったけどね。




   ◇◆◇◆◇◆◇




 本当、凛姉に勝てるモノなんて、料理のレパートリーぐらいのものだ。

そうリリットに説明した。


「また、とんでもない姉の弟になっちゃったわね・・・ちょっと同情するわ。」

「いえ、大変ですが楽しいですよ。尊敬もしてますしね。」

「大好きなお姉ちゃんだもんね。」

「うぐっ!?

そ・・それで、何ですかさっき言ってたのは?」


リリットはニヤニヤと楽しそうにボクをからかうせいで、中々本題が聞けずに居た。


「うん、魔術ってね、魔力の有無や魔力の操作も大事なんだけど、他にも一番大事なものが在るのよ。

何か分かる?」

「え!?

・・・今は貴族が多いって言ってたから、血統とかですか?」

「いいえ違うわ。

血統で改善されるものは魔力よ。

魔力の高い魔術師同士を掛け合わせると、生まれた子供は魔力の高いこが生まれるわ。

でもそれじゃあない、一番大事なのはイメージ、想像力よ。

魔術は自分が頭の中で思い描いた現象や情景を現実にする事が出来る技術よ。」

「イメージや想像力?

それがそこまで大事な物なの?」


リリットは徐に短杖を取り出し、胸の前で水平に保った。


「少し見ていなさい。

【ファイア】ッ!」


スペルを唱えると同時に目の前の杖の両端から二つの赤い火が燃え上がった。

ボクの方から見て左の火は右に比べて倍くらいサイズになっている。


「こんな感じで、同じ呪文でもイメージの力で魔力の配分をスムーズに行なう事が出来るの。

左右で火のサイズが違うのは分かったでしょう?」

「おぉ・・スゴイ。

はい、倍ぐらい違いますね。」

「そうね、これは事前に頭の中で火の形をイメージして、尚且つ自分の魔力を事前に把握していないと出来ない事よ。」


そう言うと二つの火を一瞬で消した。


「イクトはまだ自分の魔力を把握出来ていなかったわね?

後でその辺りの練習から始めましょう。」

「はいっ!!」


未知の力への興味で少し興奮気味に返事をするリリット。

そこに忘れていたとばかりに話を戻す。


「あ!?

そうそう、リンの事だったわね。」

「あぁ!?

そうですよ、さっきは何であんな事言ったんですか?」

「リンの事だけど、私が見た感じだと彼女、魔術を始めたら成長早いと思うわ。」

「え!?」

「さっきも話したけど貴方達は皆高い魔力を持っているわ。

普通、魔術を習い始めたらイクトみたいに自分の中の魔力を感じ取れる様に訓練するんだけど、それと平行して行なう訓練が在るのよ。」

「・・・どんな訓練なんですか?」

「自身の魔力を高める訓練よ。

普通は魔術を習い始めた者が、例えば何かの理由で杖を手に入れても魔術は使えないわ。」

「えっ!?どうして?」

「魔力が枯渇した状態で魔術を使おうとすると、最悪反動で術者が死に至るからよ。

それは魔術を使えなくても知ってる人は多いわ、特にこの国はね。

そして未熟な者程反動に対する耐性も低いから死亡率が高いわ。

だからさっき貴方を叩いて叱ったのよ。」

「・し・・死ぬんですか? え!? 本当に?」

「いえ、貴方の場合は少し違うかしら?

本当なら、って言った方が良いかも知れないわね。」

「本当なら、ですか?」

「『魔力が枯渇した状態で』と言ったでしょう?

貴方達6人共かなり高い魔力を感じるわ。

しかも全く制御出来てないからそれなりの魔術師なら一目で分かる程露骨にね。

だから多分今のイクトが杖を持って魔術を使っても、魔力の枯渇で死ぬ事は無いと思うわ。」

「そうですか、良かった。」


ボク以外の皆も魔術を使って即御陀仏、何て事にはなら無そうで本当に良かった。


「いえ、・・・そうでも無いわ。」


そんな安心を即座に否定された育兎。


「え?」

「いえ、私の取り越し苦労なら問題無いのだけど・・・。

さっきのリンの言動を考えるとちょっとね。」

「ちょっ!?

凛姉に何か在るんですか?」

「いえ、さっき誇りの話をしたの覚えてる?」

「ああ、凛姉が珍しくほぼ初対面の人相手に熱くなってるんでちょっとビックリしましたよ。

でもそれがどうかしましたか?」


リリットが軽く育兎へ白い目を向けるが、育兎は特に気にした風も無く反応が無いのでリリットも視線を戻した。


「あの時のリン、自分を犠牲にして誰かを生かす事を当たり前の様に語っていたわ。」

「・・・え!?

そこまでは・・・。」


・・・・ああ。

でも確かにちょっと、思い当たる節が何度か在るかもしれないな・・・?


「いえ、あの時の彼女は本気で言ってたと思うわ。

・・・だって考え方が少し私と似てるもの。」

「え!?

結構言いたい事言って喧嘩してる様にしか見えないのに、・・・なんでそんな分かり合っちゃってんの?」

「そこは良いのよ、五月蝿い男ね。

最初にイクトが似てるって言ったんでしょう、無意識に似てると勘違いしているのかもと思ったけど・・・・。

あの良くも悪くも自分に正直に生きてる感じが私に似ている。

そして強大な魔力に高い知性。魔術師としては最高の素体ね。」

「え!?それはリリットの話? それとも凛姉の話?」

「っ!?五月っ蝿いわね!!

イクトの大好きなリンお姉ちゃんの話に戻るわよ。」

「いや・・・そりゃあ・・・姉さんは好きだけど。

わざわざそんな言い方を無くても・・・・。」


顔を真っ赤にする育兎へ、関係無いとばかりに話を進める。


「貴方、そんな事で恥ずかしがってる場合じゃあ無いわよ?

もしリンに私と同じぐらい魔術の才能が有ったら、貴方の一生を使ってもリンには追いつけないわ。

守る何て夢のまた夢、状況的に貴方の方が守られる立場ね。」

「え!? 俺・・・また・・・」



また、俺は凛姉の力に成れないのかな?

それどころかまた迷惑かけるのか・・・

また弟だからって守られるのか・・・っ!?




  ◆◇◆◇◆◇◆




 小学生の頃、裕福とは言えない家庭だった俺の家は、家に帰っても何もする事が無くとても退屈な毎日を送っていた。


そんな時、偶々勉強を教えてくれた凛姉に憧れて、自主的に家で勉強を始めたら数ヶ月で自宅勉強は、憧れていた姉の手によって止められた。


その後は、勉強の代わりに西園寺の道場に通う様になり、二人で武術を習い始めた。


コレなら男の俺が有利だ!と、内心思っていたのも束の間、1年程で凛姉は西園寺のお祖父ちゃんから免許皆伝を貰っていた。


その翌日からだったな、俺が道場を数ヶ月休んだのは。


凛姉より弱い自分が情けなく、許せなくて、もう一度通い始めるのに結構時間掛かったなぁ・・・。


じいちゃんからは拳骨を貰ったけど、凛姉は笑って受け入れてくれた。


あの時、普段余り見ない凛姉の涙が少し見えた様な気がする。


その日、じいちゃんに言われて俺の練習相手は凛姉になった。

その時の俺は今までに無い程ボコボコに叩きのめされ練習が終わったんだよね。


あの時の凛姉は怒ってた!! 超ぉ怒ってたっ!!

足腰立たなくなるまで競技用のなぎなたでボコボコだったし。


まあ、凛姉の免許皆伝の翌日から行かないとかあからさま過ぎるし、仕方ないんだけどね。


その後は普通に通えたし。


当然、俺が1年やそこらで免許皆伝とか夢のまた夢ですよ?


そこはもう7年の歳の差を言い訳に自分に言い聞かせる日々だったなぁ・・・。


あの後料理に目覚めて無かったら・・、ちょっと立ち直れなかったかも知れないな。


凛姉もきっとやれば出来るだろうに、料理は余りやらないからな。


俺の料理を食べて嬉しそうに笑う顔が最高にかわ・・・・って、はっ!?




  ◆◇◆◇◆◇◆




 ヤバイヤバイ。


ブンブンと頭を振って意識をクリア保とうとする。


現実逃避もそろそろ止めないと。


「お帰りイクト。」

「え!?

はい只今ですリリットさん。

・・・・あれ!?リリットさん?」

「・・・・ふぅ~、その反応はショックなのか余裕なのか、チョット分からないかな。」

「すみません、ちょっと考え事してまして。」

「まあ、状況は理解出来たみたいね。

イクト、貴方がリンを守りたいのなら頑張りなさい。

私も協力して上げるから。

・・・あの()ちょっと放って置けないのよね。」

「えっ!?それ本当ですか!?

ありがとうございますッ!!」


育兎は深々とリリットにお辞儀をした。


「でも、どうして急にそんな積極的になってくれたんですか?

あっ!?まさか本気でボクの事が・・・っ!?」


ボクは嬉しさの余り冗談交じりでそんな事を言ってみた。


結果、リリットからの凍える様な冷たい視線を頂きました。


「はぁ~、本当すぐ調子に乗るわね?

最初と全然違うじゃない!?

彼女のあの性格、今に始まった訳では無いのでしょう?」

「最初と印象違うのはお互い様だと・・・・って、ああ・・・嫌・・・うん、そうですね。

普段は形を潜めてますが、凛姉のアレは今に始まった事じゃあ無いですよ。

そのお陰で助かった時も在りますしね。」


リリットの視線が険しくなったので慌てて本題を続けた。


「で、しょうね。

私達に啖呵きった時の迫力も凄かったし。

彼女、身内以外には結構冷酷になれるんじゃあ無いかしら?」

「ああ、確かに。

碧ちゃんのイジメの相談を凛姉にしたら1週間程で相手の女の子達大人しくなったんですよ。

如何したのかと思ってたら、1月後ぐらいには何所かに転校し・・あ~・・それぞれ違う場所へ・・・移り住んだ?・・・様ですからね。

一体どうやったのか、その時は彼女達の親の仕事を理由に辞めて行ったはずです。

しかも碧ちゃんの前で土下座させるオマケ付きで。」

「あら!?

その子達には何もしないの?

思ったより理性的な行動を取ってるのかしら?

さっきの感じだと人ぐらい簡単に殺してしまいそうなのに?」

「いやいやいや、ええと・・・・何て説明したら良いかな。

僕等が住んでた国はさ、治安維持には結構力入れててね。

特に殺人には五月蝿い国なんだよ。」

「ふ~ん、そうなの?」

「そうなんです。

でも凛姉の場合、自分や身内に敵対した者達への制裁を持ち前のあの頭脳(あたま)を使って『如何にこの先の余生を苦しんで生かすかに』に全力を注ぐクセはあるね。」

「・・・・は?」

「いやだから、凛姉曰く『私の可愛い碧ちゃんを苛めていた子達よ?殺してしまったら彼女達の苦しみは一瞬で終わり、下手をしたら罰せられるのは私達、そんな馬鹿な真似を私がするはず無いでしょう?それに育君の事も標的にしようとしたらしいわね?これは早急に対処しないと・・・・』ってな感じの事を確か言ってたね。








苛めてた娘達の親を調べ上げて、一人はエリート会社員らしいんだけどさ、大口の契約をわざと失敗させて数千万円。

あぁ!!こっちの通貨のアースだと金貨で200~300枚ぐらいかな?

それくらいの損害を会社に出させて、尚且つそいつの不義の現場を押さえた証拠を会社や自宅の周囲の家に送りつけて社会的に抹殺したり。

一人は小さい会社を経営していたみたいだけど、何か数日で数千万単位の借金を背負わされて夜中に逃げ出す事になったとか。

もう一人は公務員の高官、まあ国に勤めている人なんだけど。

その人が未成年の売春容疑で捕まって、何だかんだと一家離散。

まあ、流石に1週間は言い過ぎだけど、確かあの時は1人に1週間ぐらい使ってたと思うから約1月程で全員転校させたかな?」


育兎の話を全てを聞いたリリットはかなり引いていた。


話の半分も何を言っているのか分からなかったが、理解出来る部分だけでも十分過ぎる程内容がヤバい事は理解出来た。


想像以上に悲惨な事実を、何でも無い事の様に語る育兎に、リリットは得体の知れない不安感に襲われた。


「・・・・それは、ミドリ達も知っているのか?」

「え? いやー、ボク等が何かしたのは何となく分かってると思うけど、内容は知らないと思うよ?

流石に碧ちゃんには刺激が強すぎるからね、俺と凛姉の二人で処理したよ。」

「処理ってアナタ・・・。

ヤクモはそこにはいないの?」

「八雲は直接助けたりするのは好きだけど、そういう回りくどいのは嫌いだと思って、碧ちゃんを慰めて貰ってた。

情報が漏れない様にね。」

「あの娘。

リンはかなり危うい奴だと思ってたが・・・・、それに付き合えるイクトも大概よね。」


リリットの台詞に息を吐き肩をすくめる仕草をする育兎。


「俺は・・・凛姉程では無いですよ? 別に普通です。」


至極当然の事の様に語る育兎に、リリットは思わずツッコミを入れてしまった。


「何処が普通よっ!!

下手な拷問官よりよっぽどえげつない事してそうじゃないのっ!?

こんな奴に魔術なんて教えて大丈夫かしら?

私、身の危険を感じるわ!?」


目を閉じて自らの大きな胸を両手で抱きしめる身震いするリリット。


その豊満な体からますますセクシーが零れそうになっているが、ここでそんな軽口を叩いてる彼女の方を見ればまた後でからかわれるに決まってるんだ。


そう思って必死に意識しない様に勤めこちらからも言い返す。


「いえいえ、魔術の大天才であるリリットさんなら、俺がチョットぐらい魔術を使える様になっても関係ないですよ。」


いつまでもふざけて答えたら、さすがにリリットも怒ったようだ。


そう言った途端リリットは目を開き、冷たい視線をこちらへ送って来た。


「貴方、喋る様になったら随分口が回るのね?

少し予想外よ。」

「それは・・・・ごめんなさい。」

「・・・・はぁ、大天才なんて称号はね、魔術を私達にもたらして下さった大賢人イザベル・Z・オルフォート様にのみ許される称号よ。

軽々しく口にするものではないわ。」

「・・・・・ごめん、リリット。」


リリットの思いの外真剣な表情に、ボクはもう一度謝った。


「・・・・・ぁ!?

ごめんなさいイクト、ちょっと興奮し過ぎてしまったみたい。」

「いや、それは大丈夫だよ。

ところで大賢人って何?」

「え?ああそっか、イクトは魔術が無い大陸から来たんだったわね。

それじゃあイザベル様の事も分からないかな、ごめんなさい。」

「いや、それは良いんだけど。

・・・イザベル様って、そんなに凄い人なの?」

「ええ、そうよ。

彼女のお陰で私は今を生きる事が出来ると言っても過言ではないわ。」

「え!?

そんなに凄い人なんですか?」


何か想像を絶する人だな・・・。


彼女って事は女性かな?


考えても答えは出ないので表情でリリットに先を促す。


「彼女はね何も無い所から魔術を編み出し、そしてそれを自分一人の力にするのではなく広く多くの民へ教えていった偉大な魔導師なのよ。

それによって私達力の弱いアルムは、始めて魔族や魔獣といった強敵と戦う力を得る事が出来たのよ。」


そう誇らしげに語るリリットの顔には、その大賢人という人への尊敬の眼差しが籠もっていた。



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