第06話 - 「人間観察」
僕等がサイネリアさん達について行き到着した場所は、メインストリートからは遠く離れた所に立てられた大きなお屋敷だった。
八雲達は着いて早々皆それぞれの人と屋敷内を見て回っている。
ちなみに、光矢さんはルッテさんと、八雲はベアントさんと、桜火さんはアルテシアさんが、そして碧とクララさんがペアとなり、人見知りの激しい碧の為に凛姉もそこに付いて行った。
そしてボクとリリットさんがペアとなり色々見せて貰っている。
そして凛姉と組むはずだったサイネリアさんも今はボク達と一緒に行動している。
◇◆◇◆◇◆◇
一つの部屋に着き、木窓を開け空気の入れ替えと共に外を景色を眺める。
周りには自然が多く、とても気持ち良い風が入って来た。
木々の間、かなり遠くにはココと似た様な大きな館が見える。
この辺りは所謂高級住宅街なのだろうか?
ボクはその辺りをサイネリアさんに質問してみた。
「ああ、その通りだよイクト君。
この辺りの家は貴族の別邸や豪商の家が結構多い所なんだ、前の持ち主が手放してから中々買い手が付かなかった所を、我々が買い取ってパーティーの拠点にしているんだよ。」
サイネリアさんが少し誇らしげな表情でそう教えてくれた。
「へー、凄いんですね!!」
「うふふっ、何見栄を張ってるんですかサイネリア、さも長年使っているかの様な口ぶりですが・・・。
イクトくん、本当はここ、最近買い取ったばかりでしてね、先日家具等を新しく入れ替えたばかりなのですよ。」
「あっ!
こらリリー、余計な事を言うな!?」
「え?」
「さっきギルドの前でお金の話をしたでしょう?
彼方達が修行している間はここで寝泊りして貰うから、君達にお金に余裕がある所を見せておきたかったのよ。
もうこの辺りの貴族達は皆自分達の屋敷を引き払って王都や元居た領へ帰って戻ってきませんからね。
まあ、そのお陰で庭で少し大きな音を出しても問題無くなったから私は助かってますけどね。
もし未だに貴族達が住んでいたら魔術の開発が出来なくなる所でした♪」
狐耳のリリットさんが笑いながら楽しそうに話し、狼耳のサイネリアさんは困った顔でどう説明しようか考えている様だ。
「おいリリット、余計な事を言って邪魔をするな。
ロズンの話を聞いていただろう?そんな事を言ったら彼らがここに住まなくなるだろう!?」
「バカね、逆よぉ?
修行の途中で居なくなられて野垂れ死なれるより、最初に納得して居てもらった方がずっとお互いの為よ。
だってこの子達、なぜか皆頭は悪くないでしょう?
出来るだけ隠し事はしない方が後の為よ。
それに魔力も高そうだし、この感じなら直ぐに強くなれそうだわ。」
何かリリットさんには色々と観察されているみたいだ。
「・・・まあ確かに、それは私も楽しみな所だが・・・・。」
二人で会話を進めていくサイネリアさんとリリットさん。
ボクは始め二人の会話を聞いていようと思っていたが、話題が自分達の、それも「魔力という未知なる力が僕等の体に宿っているらしい」なんて、そんな話を聞いたら、年頃の少年らしくボクも興味が沸いて来る。
「あ、あのサイネリアさん。
・・・・僕等って魔力が高いんですか?」
「なんだ?
自分の魔力量を把握してないのか?」
「・・・はい。
僕等全員、魔法とか使った事無いんですけど、魔力とか在るんでしょうか?」
ボクの言葉に珍しい者を見る様な目をするサイネリアさん。
そして、その話をとても興味深そうに聞いているリリットさんが今度は質問を始めた。
「それじゃあ・・・。
ねぇ、イクトくん。
コレ、何か感じる?」
そう言ってリリットさんは両の掌を少し離して上に向け、胸の高さに持って来た。
まるで小さい子供が玩具をねだる様な格好だが、にはなボクにはただ掌を上に上げている様にしか見えない。
「えっ・・と。
感じるって、掌を上にして何かしてるんですか?」
「イクトくん、君は本当に魔力を感知出来ないのか?
リリットの右の掌にかなりの魔力が渦巻いてるぞ?」
サイネリアさんが頬を引き攣らせ、額に少し汗を浮かせながらボクにそんな事を言ってきた。
「いや、そんな事言われても・・・。
魔法なんて使った事も無ければ、魔力何て感じた事も無いですよ?」
そう言うとリリットさんは左手を下ろし鋭く真剣な目でボクを見ていた。
「あ、あの、リリットさん?」
「う~~ん、そっか。
うふふふ・・・・【ファイア】ッ♪」
「え?ぅっわぁぁぁぁぁ~~~~痛って!?」
リリットさんは真剣な表情を突然笑顔に変え、呪文を唱えた。
呪文を唱えた途端、リリットさんの右手の先から赤々とした火柱が立ち昇りボクを驚かせた。
余りの衝撃にビックリして尻餅を着いた。
「わっ!?
おい何をやっているんだリリット!!
イクト君大丈夫か?」
サイネリアさんがすぐさま助け起こしてくれた。
「だ、大丈夫です。でも・・・」
「そうだリリット、何でこんな事をやったんだ!?」
「いえ、ちょっと試しただけですよ。
それだけの魔力を持っているのに魔力を感知出来ない、そんな事普通なら在りえません。」
「だからさっきあんな魔力を練りこんだのか?」
「ええ、彼が惚けているなら目の前で即死させられる程の魔力と魔術を見せられても顔色を変えないか観察していたのですが・・・・」
とんでもない事実に言葉が出ないボクは、リリットさんの方を向いて顔を横に「ブンブン」振る事しか出来ない。
「そうみたいですね、私の勘違いだったみたい。」
全くそう思っていない淡々とした口調で言うリリット、見た目が美人なだけに凄く怖い。
ボクは目立たない様にそっと息を吐く。
「はぁ~、お前はいつも極端過ぎだ。
彼も彼の仲間同様大丈夫だろう?
今まで話してても彼が善良な人柄だと言うのは、私でも分かるぞ?」
『あぁ…ここに来る途中サイネリアさんが妙に光也さんや八雲と会話してると思ったら、そんな所も見てたんですね。
まあ確かに、女だらけのパーティーに男が(まだ皆子供とは言え)4人も入る事になれば警戒もするかな。
しかもサイネリアさん曰く、俺達の魔力は皆高いみたいだし。
内面を今の内に把握したいのは当たり前…だよな。
ってか、この警戒の仕方どんだけ俺達の魔力高いんだよって感じだけどさ・・・・。』
二人の会話を前に、育兎が苦笑いでそんな事を考えているとリリットが育兎に話しかけて来た。
「確かにその様ね。
でもイクトくんのその表情はどう言う意味なのかしら?
私は態とイクトくんを命の危険に晒したのよ、怒らないの?
何故笑っていられるのかしら?」
リリットさんが先程までとは打って変わった鋭い眼差しで冷笑を浮かべ、俺を見つめているいる。
その視線に言い知れない思いが湧き上がる、俺は高ぶる感情を抑えながら素直な気持ちを言葉にした。
「怒れと言われても・・・。
実際どの程度危険だったかは魔力の感知出来ない俺には判断のしようが無いよ?
それとさっきの炎?驚きはしたけど、とても綺麗だったし。
少なくとも危険なモノには感じなかったから。
・・・それに今のサイネリアさんの話だと、俺達の内面を理解しようとしてたって事でしょう?
大きい力を与えようとしてるんだから当然の事ですよ。
ましてや皆さん女性ばかりなんですからリリットさんがそういう事にシビアになるのは当然なのでは?
俺の大切な人もこっちに居るんので、彼女達にもその辺りの心構えをキッチリ仕込んで貰えた方が、俺はむしろありがたいですよ。」
「・・・・・貴方、素だと"俺"って言うのね。」
「・・・・・・は?」
リリットさんが今までとは雰囲気の違う楽しそうなにっこり笑ってそんな事を言う。
さっきの事があったせいで本来魅力的なはずのその笑顔も今では逆に狂気にしか見えない。
「それで、どなたなのかしら?
貴方の大切な人と言うのは?」
「なっ!?」
「"こっちに居る"と言う事はリンかミドリのどちらかよね?」
「いやいや、ちょっと待とうよ!?
そんな事、今どうでも良いでしょうっ!」
慌てる俺の反応を見てますます楽しそうな目をするリリット、逆に俺は動揺し過ぎて口調も少し荒くなってしまった。
この女性に、この手の弱みを見せてはいけないと本能が告げている。
この場に居ては不味いと出口に走ろうとした瞬間・・・・。
「おっと~!!
何処に行くんだいイクト君?
リリットの尋も…否、質問がまだ途中じゃあないか?」
「ちょ!?
貴女まで何やってるんです!
てか、今尋問とか言ったかっ!?」
そう言って正面に立ち、左右から両肩を押さえ込まれ動きを封じられる。
何気に不穏な単語をサイネリアさんの口から聞いて、驚きの余り自分でも気付かずに口調が荒くなってしまった。
「えっ!?
ちょ・・・ほぉわぁ・・っ!?」
そんな事をしている内にリリットさんが背後にやって来て俺を背中から抱きしめて来た。
リリットの大きな胸の感触を服越しとは言え味わうのはもう2度目である。
正直男で嬉しく思わない奴はいないんじゃあ無いだろうか?
俺は前はサイネリアが肩を押さえ、後ろからは熱い抱擁を交わされているかのように確りと育兎の胸にリリットの腕が回っていて、慣れない快楽から顔が緩みそうになるが気力で我慢した。
「さあ、これで2回目ねイクト。
どう?私の胸の感触は?
さっき鎧は外して来たから服越しでとても気持ち良いんじゃないかしら?」
リリットの台詞にサイネリアは心底呆れた様な顔をしているが、育兎は全く気付かない、気付ける余裕が無い。
リリットの言う通り、服越しで背中越しとは言え、伝わるサイズ感といい温もりといい、その触感は半端なかった。
育兎は背に触れる始めての感触に、嬉しさと緊張と罪悪感も綯い交ぜにして、ただただ顔が赤くなるばかりだ。
そんな時にリリットの口からボクの耳元に甘い囁き声が届いた。
「うふふっ、ねえイクト。
今なら君のお姉さんも見て無いわよ?」
まるで「君の好きにしても良いのよ?」と、誘う様に甘く脳が蕩けて仕舞いそうな声で囁かれたその言葉は育兎を突き動かす原動力となった。
ただ、それは声をかけた本人の思わくとは違う所へ向った様だが。
「・・・それでも、俺はあの人が好きなんで・・・・。
お願いだからこの手、放して貰えますか?
そろそろ・・・理性が・・・・」
「・・・・あらあら本当に凄いわねぁ?
でも私の誘惑を撥ね退けた男の台詞としては、ちょっと情けないわね~」
先程まで人の事を殺そうと威していた人と同じ人から出たとは思えない発言に、育兎は次第に現実逃避をしだした。
「だがリリット、子供とは言え、男でお前の誘惑を撥ね退けるのは並大抵の精神力ではないぞ?」
「う~ん、確かにそうね。
精神力が高いのか、ただのお姉ちゃん大好きっ子か・・・少し悩む所ね。
前者なら魔術を教える上ではとってもプラスになるから私も嬉しいんだけど・・・」
そして突然リリットさんの雰囲気が出会った頃のぽわぽわとした、一種のからかいを含んだ柔らかい雰囲気に戻っていた。
後ろから柔らかいモノを押付けつつ首を伸ばしボクの顔を見ながら「ねえ、どっち?」と、楽しそうに笑顔で問うリリットさんのプレッシャーが半端無い。
「いや、リリットさん?
だからそろそろ手を放して頂きたいのですが・・・。
あの、聞いてくだ・・・」
「イクト」
「何ですか、リリットさん?」
「イ・ク・ト」
「・・・だから何ですかリリットさん?
はぁ~、そんなにボクに引っ付いて、もしかしてボクの事が好きにでも成っちゃったんですか?」
ボクは軽い抵抗のつもりで冗談半分にそう言ってみた。
「うん、そうみたい。」
リリットは間髪入れずに、はにかんだ微笑みのまま恥ずかしそうに上目使いで言う。
その表情に、ボクは不覚にも「ドキッ」としてしまった。
「え?
・・・えぇっ!?」
「・・・って言ったら、イクトは信じる?」
しれっとした顔でそう告げるリリットさんの顔は「先程の乙女は一体何処へ?」と訴えたいものがあるが、こんな単純な手に引っ掛かった俺が馬鹿なんだろう。
『こぉの雌狐っ!?
いたいけな少年の純情を弄びやがって・・・。』
「・・・・っもうぉ、本当何なんですか?
俺みたいな子供からかって楽しいの?」
「ええ、最初の頃の硬い喋り方より今の方が楽しいよ♪」
「はぁ・・・そうですか。
俺も楽ですが・・・・疲れますね。」
「あら?
楽なのに疲れるの?
イクトは面白い事言うわねぇー」
「いや、違いますよ?
敬語をわざわざ使う人が減って楽になりましたけど、その分リリットさんの相手をするのが疲れるんですよ?」
敢えて言葉にして言ってやった。
「あ!?
ねえイクト。
私の名前に"さん"は要らないわ、リリットって呼びなさい。
私もこれからイクトって呼ぶから。」
「・・・・なぜですか?」
「貴方、何故そこで警戒をするの?
今こうして仲良く成ったんだから、そこは素直にお返事なさい。
魔術の習い始めは素直さが大事よ?
イクトは今後私と魔術の修行が在るのだから、師弟関係は友好的な方が良いでしょう?」
先程の大立ち回りをまるで無かった事の様に語るリリットにボクは少し感心する。
「チラッチラッ」とサイネリアさんに「どういう事?」って視線を送る。
「いや、単純にイクトの事が本当に気に入っただけだと思うよ?
私も堅苦しいのは得意じゃないから無理に敬語は要らないし、呼び方もサイネリアで構わない。
私もこれからはイクトと呼ばせて貰おうかな。
構わないか?」
「ええ、それは構わないんですが・・・。
ええっとサイネリア、前半部分は本当何ですか?
何か逆に怖いですね。」
「まあ、人によってコロコロ態度変える奴だけど、悪い奴じゃないんだよ。」
年上の女性を、しかも犬耳や狐耳が付いてるとは言え美人を呼び捨てにするのは慣れない経験なので結構恥ずかしいモノである。
ボクとサイネリアが笑顔で名前を交わしているとリリットが詰まらなそうにこっちを見ていた。
「ちょっとイクト?聞いてるの?」
「えっ!?
ああ、聞いてるよリリットさん。」
「だから、『さん』は取りなさいと言ったでしょう?
何度言わせるんです貴方は!?」
思わず付けてしまった敬称にリリットが興奮気味に反応する。
「・・・・リリットって、アレだよね。」
「・・・いきなりなにかしら?」
「興奮すると、二人称が『貴方』に変わるよね?
バカっぽい口調も一転して凄く冷静な感じに変わる。」
「なっ!
馬鹿っぽいって!?」
「そっちが素なの?」
リリットは凄く恨めしい表情でボクを見ていた。
「・・・・・別に、どっちも私です。
いけませんか?」
「ううん、何かちょっと凛姉に似てるから・・・。
・・・そう言うの、疲れるけど嫌じゃあないですよ。」
本当にそう思ったのでそう答えた。
「・・・ふ~んなるほど、やはり後者だったのですね。」
「はい?
何がですか?」
「いえ、イクトがお姉ちゃん大好きっ子だった事が分かっただけですよ?
殺されかけたのに、リンに雰囲気の似た私がもう嫌いじゃなのでしょう?」
さっきの話をニヤニヤしながら蒸し返すリリット。
「そうだ!
私の事も"お姉ちゃん"って呼びますか?
いや、姉さん?何か少し違うわねぇ、う~ん・・・・」
「・・・・・いや、呼びませんよ?
俺の姉は凛姉一人で間に合ってますからね?」
「あっ!?
それよっ!
リリ姉ってのはどう?
リン姉に似てて良いんじゃない?」
『それってどれだよ!
ホント人の話聞かないなこの人は・・・・。
ああ、そう言えば凛姉もそう言う所あったな、考えたら負けなのは嫌って程学んだんだったっけ。』
「いやいや、わざわざ似せる必要はありません。
姉も必要ありません。
リリットだけで十分です。」
まるで熱烈な愛の告白シーンの様な台詞が部屋に木霊する。
しかし状況はまるで違うが、育兎にとって切実な想いで在る事は言うまでも無かった。
そして運の悪い事にこれだけで話は終わらなかった。
ガシャガシャーーンッ!? パリパリンッ!?
突然背後で陶器が床で割れる音が響いた。
「育君・・・それ・・・本当?」
「・・・・え、あっ!?凛姉っ!!」
後ろを振り向くとそこにはボクが気付かない内に部屋に入っていた凛姉が、陶器の器に入っていたで在ろう水に足元を濡らし、青白くなった顔で呆然と焦点の定まらない瞳でこちらを見つめていた。
「もう・・・わたし・・・要らなくなっちゃった?」




