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第02話 - 「遭遇」

 年上組が意外な共通点で盛り上がる中、少し離れた所で年少組みは新しい発見をしていく。


「お!? 向こうの林が少し揺れた!碧っ行くぞっ!!」

「待ってよ八雲ちゃん、ここ変な虫は多いし、道は草が大きくて歩き辛いしで私もう走れないよぉ~」


碧は文句を言いつつも、オロオロしながら八雲の後を付いていく。

碧の少し後ろには笑顔で盛り上がる凛姉達が気になって何度も振り返る育兎の姿が。




 「あー・・・遠くて声が聞こえないかな。・・八雲ぉー、余り遠くに行くなー!危ないぞーッ!?」


いつの間にかに、軽く20mは離れた林の前にしゃがみこんでいる八雲。

そのまま林の先へ掻き分けて行こうとする八雲が見えるが、八雲は一度振り返り笑顔でこちらへ片手を上げ、また林の奥へ興味を向ける。


「ふふっ、八雲ちゃんあんなに楽しそう♪

ここなら飽きやすい八雲ちゃんも満足してくれるかなぁ!?」


こんな訳の分からない状況の中、碧はまるで面白い玩具を見つけた様に楽しそうに聞いてくる。


「んー・・・たしかに。 って言うか、こんな異世界だか異次元だかの不思議空間で満足出来ない好奇心なら、一体何が奴を満たしてくれるんだよ!!って話しだよね。」


育兎はそう言って軽く諦めた様な、疲れた笑みを浮かべる。


そして育兎は碧が思っていたよりも平静を保っている様子なので少し驚いていた。

八雲や稟姉と一緒に居る事が大きいのかもしれない、特に向こうに居た時は何時でも八雲の側を離れなかったのだから。


そう言う俺も始め拉致だの異世界だの聞いて内心ではかなり驚いてはいたけれど、凛姉や碧ちゃん、それに八雲といった特に仲の良かった仲間が側に居るお蔭か、だんだん余裕が出て来たかもしれない。



「そう言えば碧ちゃん」

「なにぃ~?」

「んー・・・仮にさ、ココか異世界だとして、だ。 なんで俺たちこの世界に来たんだと思う?」


取り合えず今は八雲が近くに居れば碧ちゃんも大丈夫そうだと思い、ボクはさっきから疑問に思っていた事を聞いてみた。


「う~ん、誰かが私達をこの世界に召喚したー・・とか?

皆で次元の裂け目とかに落っこちて、誤ってこの世界にやって来ちゃった。・・みたいな?」


自分で言ってて信じて無さそうに話す碧ちゃんに軽くジト目を送る育兎。


「・・・碧ちゃんが普段どんなラノベを読んでるか分かる発言だよね。 それで、召喚とか次元の裂け目とか、本気で思ってるの?」

「えぇ!? いや、それは私もさすがにだけど・・・。

次元の裂け目って言うかね。私達が居た所、大きなお寺が在った山の中でしょ?」

「ん? まぁ皆階段の途中から記憶が無いし、在る意味山の中だと思うけど?」

「うん、それでね。 召喚モノの定番としては、突然目の前に魔方陣なり魔法使いなりが現れて、連れて行かれちゃったりするんだけど、私達は違うじゃない? 出て来た場所も、別に神殿とか何っ処の儀式の間、みたいな場所でも無かったし。」

「ああ、確かにその辺りの王道パターンは無かったよね。」

「そうなの。 だからもう一つの、次元の裂け目の方かなぁーって思って。」

「えっ!? それだけ?」

「育ちゃん、次元の裂け目って聞くと何か凄く胡散臭く聞こえるかも知れないけど、〝神隠し〟とかならどうかな? 今更思い出したんだけど、家の曾お婆ちゃんが前に話してくれたな事があるんだよ。 だから、昔は度々居たらしいよ?」

「・・・いや、神隠しも十分胡散臭いでしょう? 碧ちゃんの曾御婆ちゃんの時代で人が居なくなるって・・・それこそ王道の駆け落ちENDなんじゃないの?」


まあウチは田舎だし、"身分違いの恋"って言うよりは、"仕事や都会への憧れ"、だろうけどさ。


「〝神隠し〟か・・・そう言えば僕も昔注意された事があるよ?」


突然の声に振り返るとそこには光矢さんが。


「あ!やっぱり光矢お兄ちゃんも? ほら育ちゃん!!やっぱり私の言った通りだったでしょうっ♪」


碧が「えっへん!」といった感じに調子ずく。


「〝神隠し〟か・・・、もし原因がそれだとするとかなり厄介そうよね?」


震える身体を抑える様な仕草で腕を組み、凛が少し真面目な顔で呟く。

確かに、それが原因の場合僕らには帰る手立てが無い気が・・・。


「大丈夫よ育兎、私も一緒に居るじゃない?」


自分の呟きを聞いて表情を陰らせた俺の変化に気付いたのか、凛が声をかけてくれる。

育兎はさっきの凛の姿を見ているせいか、その励ましが嬉しくも在りそれ以上に悔しい気持ちで一杯になる。


「あ!?、そうだったね。」不安げな表情をさせたまま口を開いた育兎が、一転して満面の笑顔で続きを口にした。


「凛姉が居れば、どんな怖いモノでも裸足で逃げ出しちゃうもんねっ!」と。


「まったくこのコは、直ぐに調子に乗るんだからっ!?」と、素早い動きで育兎の太股を「キュウ」っと抓った。


「ぃったたた!? ちょっ!? それは痛い! ホントに痛いよ稟姉っ!!」


そのまま育兎と姉弟のスキンシップ・・・もとい、折檻を始める稟達を始めは少し驚きながらも、そっと放置して光矢達は話を再開ささせた。



「あははは、相変らずあそこは仲が良いみたいだね。 ところで碧ちゃん、さっき神隠しの話題が出る前に面白い事言ってたよね?」

「そうそう! 召喚とか魔方陣とか、何か原因に思い当たるモノでもあるのか?」


光矢さんと一色さんもさっきの私達の会話を聞いていた様で、私に話を聞いてきた。


「いえ原因と言いますか・・。私、小説とかゲームとかが好きなので、その中の定番の設定に今の私達を当て嵌めたらこんな感じかなぁ・・・って想像してみたんですよ。」

「あぁ、なるほど小説やゲームか。小説の定番って言ったら・・・異世界モノ?」

「勇者を召喚して魔王を倒して下さい・・・ってやつか?」


2人が妙に納得して「うんうん」と頷くので私は思わず聞いてしまった。


「あれ? お二人共妙に納得されてますけど・・・、軽小説(ライトノベル)とかお読みになるんですか?」


さっきまで年上2人に少し緊張していた碧だが、今は瞳に好奇心を携え、2人に詰め寄っている。 分かり易い子だ。


「うん、僕は結構読んでたよ? まあ、最近はちょっとご無沙汰だけどね。」と少し恥かしそうに笑う光矢。

「俺も中学位の頃は色々やってたぜ? 主にゲームだけどな」最近は稽古でさっぱりだけどなと、昔を思い出す様に笑う。

「おー納得です! 先輩達はどんなゲームをしてたんですか?」


勢いづいて話しを続けようとする碧に、光矢が待ったを掛ける。


「あ・・いやぁ、ごめん碧ちゃん。その話はまた今度にしようか? 今はさ、ね?」


急に積極的になる碧に苦笑を浮かべながら話の筋を戻す光矢。


「あっ!? ごめんなさい私ったら、そうでしたね。・・・それで階段では魔方陣とかを見なかったので、こっちに着いても神殿や儀式をする様な場所でも無かったので召喚の線は無いかな・・と思いまして。

そうだ、光矢さんと一色さんは意識を失う前に何か気付く事は在りませんか? 目の前に魔法使いが現れた!とか?」


思い出した様に2人にもこっちに来る前の様子を聞いてみる。


「んー俺は特に無いな。 階段を下りてる最中に行き成り辺りが暗くなったし。 光矢はどうだ?」

「僕も同じかな。ってか、一緒に話しながら階段下りてただろう。」

「はははっ、そうだっけか? まぁそう言う事だ。

魔方陣も魔法使いにも会ってねぇな。」


私達と殆ど同じ状況にますます〝神隠し〟説が濃厚に成ってくる。


「そうですか、これじゃあますます神隠しっぽいですねぇ・・・」


碧が気落ちした感じに呟く。


「うーん、このパターンで行くと最悪俺等が気をつける事って何だ?」

「戦う手段の少ない僕らが、いきなり強いモンスターや盗賊にでも襲われたらひとたまりも無いね。」


余り落ち込んだ風でもなく一色さんが会話を続ける。


「それと、たぶん私達水とか食料類を一切持ってないので早急に飲み水だけでも確保しないと危ないと思います」


光矢さんも特に落ち込んだ感じも無く会話が続くので私も落ち込む気持ちを奮い立たせて会話に参加する。


「おっ! 飲み水か! 確かにそれが無いとヤバイよな。 如月ちゃん良く気付いたな!!」と、一際明るい声で一色がテンションを上げていく。


「うん、確かに現状サバイバルみたいなモノだから、飲み水の確保はかなり重要かも知れないね。」


淡々と光矢が現実を思い出させてくれたので空気が少し重くなる。

一色が空気を読めよー?みたいな視線を向けるが、光矢は意味が分かって居ない様だ。


「まあ、参考になったよ如月ちゃん。」

「あ! 私の事は碧でいいですよ。」

「そうか? うん了解。じゃあ俺も桜火で構わないよ。 碧ちゃん。」

「はいっ、わかりました。 桜火さん。」


照れながらも2人は少しだけ仲良くなれた様だ、すると何処からか突然少女の悲鳴が聞こえて来た。


 「きゃーーーーーーっ!?」


育兎は突然の悲鳴に一瞬身体が硬直する。

しかし「・・っ!?姉さんっ?」っと、意志の力で直ぐに声の主を探し始める。

少女の様な高い声の悲鳴に辺りを見回し凛姉と碧ちゃんの無事を確認して安堵する。

直ぐに駆け寄ろうと踏み出した次の瞬間、そいつが現れた。



「ウボオオォーーーーー!?」



前方の林の中から大きな雄叫びを上げて突進してくる巨大な体躯と牙を生やした猪の様な生物がこちらに向かってやって来る。


「な・・んだよ、こいつ・・・。」


巨大な猪は凄い目付きで前を睨み付けながら猛スピードで走ってくる。

奴は頭が二m以上は在ろうかと言うその高さに在り、体は象の様に大きく、何より両腕でまわらなそうな程太い牙を下顎に二本も生やしているのがとても凶悪だ。

しばらくすると今度は少年の声が聞こえて来た。


「急げっ!!アリカッ!?」


大猪の前を二つの小さい人影が手を繋いでこちらに向かって駆けて来る。

二つの影の内、小さい方の足元が覚束無い感じに見える。


「待ってお兄ちゃ、ぁっ・・キャッ!?」


不意に小さい影が躓いて転んでしまう。

兄と呼ばれていた少年は慌てて振り返るが、気付くのが遅れ少し遠く行ってしまい大猪の突進から妹を守れるかが危うい状況だ。

育兎は急いで駆ければまだ助けられるであろう距離だと言う事は何となくで分かるものの、あの巨獣へ立ち向かう事の恐怖が、思考を麻痺させ、体を硬直させる。


『って、ビビッて体固めてる場合じゃないだろ。動けっ!? 俺の足ッ!! 今動かなきゃ、あんな小さい子達があの化物に食い殺されるッ!』


そんな俺の葛藤を他所に事態はどんどん進展していく。

少女の下へ逸早く影が近寄った。


「おいっ!早く逃げるぞっ!!」「えっ!?きゃあぁぁっ!」


そう言っていつの間にか近付いた八雲が少女を担ぎ上げ、獣の進行方向とは直角に逃げる。


「あッ、アリカっ!?」

「待って待って、君も逃げるんだよ。」

「お前も仲間・・」

「ゴメン、今は急いでるからもう逃げるよ。」

「っ!ぅわぁ・・・」


そう言って光矢さんは少年を無理矢理担ぐと八雲とは反対の方向へ素早く逃げていった。

大猪が逃げた光矢さん達へ気を遣っている隙に、一色さんが素早く駆け寄り手に持った木刀を巨大猪の足へ思いっきり振りかぶってブチ当てた瞬間、木刀が威力に耐えられず真っ二つに折れてしまった。


「ブヒィィーーーーー」


まるで豚の様な悲痛な叫び声を上げた巨大猪は、太い前足を間接が自然では在り得ない方向を描き、顔面を殴打し少し地面を引き摺りながら倒れていった。

育兎の目の前、たぶん1mも無いであろう至近距離で大猪が顔面を地面へ減り込みピクピクと気を失っている。


「育くーん、大丈夫ー?」


後ろの方から凛姉の声が、首だけ振り返ると凛姉が碧ちゃんを後ろに庇って心配そうに僕の方を見て居た。


「な、何とか~」

苦笑いする育兎。

「大丈夫、大丈夫」


そう強がって見せるが、きっと凛姉から見ればバレバレだろう。

すると大猪がまた動き出す気配があった、慌てて育兎は警戒を促す。


「下がって凛姉、こいつ起きそうだ」


そう言った時にタイミング良く一色さんがこちらにやって来た。


「育兎、ここは任せろ。こんな訳の分からない場所に連れて来られてこっちはストレス溜まってんだ。しかも師匠から始めて貰った【弧徹】を折りやがって・・!? ただじゃあ済まさねえぞ・・・ブタ野郎がッ!?」


そう言って手には何時の間に取り出したのか布袋が。紐を解き布袋を地面へ放る。

そこから取り出したるは一振りの太刀。

刀身が約1mは在ろうかというとても大きな日本刀、握りの作りは遠目から見ても確りしている様に見える。


「・・・えっ!? 一色先輩、それ本物?」


行き成りの事に状況も忘れて思わず声が漏れる育兎。

馴れた手付きで刀を抜き放つ一色、綺麗に手入れのされた刀身だが良く見るとその刀に刃は無い。

「あ!? 模造刀?」と呟く育兎を、一色は一瞬視線を動かして感心しながらも、ニヤリと笑った後で素早く獲物へと駆けて行く。


「確かに刃は付いて無いが・・・。 まあ、獣ぐらい問題無いだろう。」


「えっ!? いやいや…あんなサイズ、獣の範疇に無いですよっ!?」っと、いった台詞を育兎が発した時には、一色は既に大猪へと駆けて行った後だった。



  ◆◇◆◇◆◇◆



 桜火は走りながら久々の握りの感触に思いを馳せていた。


『久々の【葉桜】だって言うのに、最っ低の気分だな。』


日本に居た頃は周りを気を使って中々実戦でこの模造刀【葉桜】を使える状況なんて巡り会えなかったが。

それが異世界(?)に来た途端、お気に入りの【弧徹】を圧し折られ早速の実戦投入かよ。

クソッ!? せっかく師匠から貰った物がこれで一つ減っちまったじゃねぇか。


「ブタ野郎が、次で息の根止めてやるぜ!」


気合いも新たに大猪へ駆けていく桜火。


「ウボオオォーーーーー!」


桜火は目の前に巨大猪を捉え、剣先を右下に構えながら、足へ入れる力をさらに増し獲物の頭上へと高く飛ぶ。


「さぁー豚ヤロウ、【弧徹】の敵だ。 お・と・な・し・くっ沈めッ!!」


そう言ってゆっくり振り上げた刀を大猪の眉間へと素早く叩きつける。



「ヴォヒィィーー」



堪らず大猪が短い悲鳴を上げて「ドッスーン」と、地面に倒れ伏した。


「よーし! 皆、大丈夫かー?」


桜火は満足そうに一つ肯き、仲間を振り返る。

呆気に取られていた育兎が慌てて周りを確認し桜火に答える。


「・・・一先ず、大丈夫そうですね。」


先程の桜火の動きに驚きが隠せず、次の言葉がなかなか思いつかない育兎。

何とか気を取り直して桜火へ質問と言うより少しビックリした感じに話しかけていた。


「それにしても一色先輩、2mは在りそうな巨体目掛けて飛び掛って一太刀で仕留めるとか・・、僕も八雲のお陰でかなり常識外の事に耐性を付けたつもりでしたが、凄いですねあの動き。」


桜火は「あははは・・・」と乾いた笑を浮かべながら。

「俺の事は〝桜火〟で良いよ、俺も育兎って呼ばせて貰うから。 まあさっきの動きだけどね、ウチの剣の師匠がかなり無茶をやる人なんだよ。 その人ん下で数年修行してたらアレくらい出来なきゃあこっちの体が持たないんだよ・・」


生気を失った様な目で「うん、マジでもたねぇ・・・」と、昔を懐かしむ様に空を見上げる桜火。

慌てて育兎は、「で、でもそのお蔭で助かりました。 本当にありがとう御座います。」

そう言って頭を下げる。


「私からもお礼を言うわ、あの巨大な猪を良く倒せたわね。」

「本当ですっ♪ 行き成りあの大猪へ走り出したと思ったら〝あっ〟と言う間に倒しちゃったんですから。」


凛姉と碧ちゃんも集ってきた。


「そう言えば、さっき八雲と光矢さんが助けた子達は大丈夫だったかな?」

「ああ、いつの間にかに八雲が女の子助けてるからビックリしたよ。光矢でも気付くのギリギリで慌てて少年を助けに行ってたのに、良く気付いたよな。」

「あいつは・・・普段は面倒臭がりなだけで、たぶん桜火さんにも負けないくらい非常識な奴ですよ。」


桜火を見て少し遠慮がちに苦笑いをうかべる。



 年上組が意外な共通点で盛り上がる中、少し離れた所で年少組みは新しい発見をしていく。


「お!? 向こうの林が少し揺れた!碧っ行くぞっ!!」

「待ってよ八雲ちゃん、ここ変な虫は多いし、道は草が大きくて歩き辛いしで私もう走れないよぉ~」


碧は文句を言いつつも、オロオロしながら八雲の後を付いていく。

碧の少し後ろには笑顔で盛り上がる凛姉達が気になって何度も振り返る育兎の姿が。




 「あー・・・遠くて声が聞こえないかな。・・八雲ぉー、余り遠くに行くなー!危ないぞーッ!?」


いつの間にかに、軽く20mは離れた林の前にしゃがみこんでいる八雲。

そのまま林の先へ掻き分けて行こうとする八雲が見えるが、八雲は一度振り返り笑顔でこちらへ片手を上げ、また林の奥へ興味を向ける。


「ふふっ、八雲ちゃんあんなに楽しそう♪

ここなら飽きやすい八雲ちゃんも満足してくれるかなぁ!?」


こんな訳の分からない状況の中、碧はまるで面白い玩具を見つけた様に楽しそうに聞いてくる。


「んー・・・たしかに。 って言うか、こんな異世界だか異次元だかの不思議空間で満足出来ない好奇心なら、一体何が奴を満たしてくれるんだよ!!って話しだよね。」


育兎はそう言って軽く諦めた様な、疲れた笑みを浮かべる。


そして育兎は碧が思っていたよりも平静を保っている様子なので少し驚いていた。

八雲や稟姉と一緒に居る事が大きいのかもしれない、特に向こうに居た時は何時でも八雲の側を離れなかったのだから。


そう言う俺も始め拉致だの異世界だの聞いて内心ではかなり驚いてはいたけれど、凛姉や碧ちゃん、それに八雲といった特に仲の良かった仲間が側に居るお蔭か、だんだん余裕が出て来たかもしれない。



「そう言えば碧ちゃん」

「なにぃ~?」

「んー・・・仮にさ、ココか異世界だとして、だ。 なんで俺たちこの世界に来たんだと思う?」


取り合えず今は八雲が近くに居れば碧ちゃんも大丈夫そうだと思い、ボクはさっきから疑問に思っていた事を聞いてみた。


「う~ん、誰かが私達をこの世界に召喚したー・・とか?

皆で次元の裂け目とかに落っこちて、誤ってこの世界にやって来ちゃった。・・みたいな?」


自分で言ってて信じて無さそうに話す碧ちゃんに軽くジト目を送る育兎。


「・・・碧ちゃんが普段どんなラノベを読んでるか分かる発言だよね。 それで、召喚とか次元の裂け目とか、本気で思ってるの?」

「えぇ!? いや、それは私もさすがにだけど・・・。

次元の裂け目って言うかね。私達が居た所、大きなお寺が在った山の中でしょ?」

「ん? まぁ皆階段の途中から記憶が無いし、在る意味山の中だと思うけど?」

「うん、それでね。 召喚モノの定番としては、突然目の前に魔方陣なり魔法使いなりが現れて、連れて行かれちゃったりするんだけど、私達は違うじゃない? 出て来た場所も、別に神殿とか何っ処の儀式の間、みたいな場所でも無かったし。」

「ああ、確かにその辺りの王道パターンは無かったよね。」

「そうなの。 だからもう一つの、次元の裂け目の方かなぁーって思って。」

「えっ!? それだけ?」

「育ちゃん、次元の裂け目って聞くと何か凄く胡散臭く聞こえるかも知れないけど、〝神隠し〟とかならどうかな? 今更思い出したんだけど、家の曾お婆ちゃんが前に話してくれたな事があるんだよ。 だから、昔は度々居たらしいよ?」

「・・・いや、神隠しも十分胡散臭いでしょう? 碧ちゃんの曾御婆ちゃんの時代で人が居なくなるって・・・それこそ王道の駆け落ちENDなんじゃないの?」


まあウチは田舎だし、"身分違いの恋"って言うよりは、"仕事や都会への憧れ"、だろうけどさ。


「〝神隠し〟か・・・そう言えば僕も昔注意された事があるよ?」


突然の声に振り返るとそこには光矢さんが。


「あ!やっぱり光矢お兄ちゃんも? ほら育ちゃん!!やっぱり私の言った通りだったでしょうっ♪」


碧が「えっへん!」といった感じに調子ずく。


「〝神隠し〟か・・・、もし原因がそれだとするとかなり厄介そうよね?」


震える身体を抑える様な仕草で腕を組み、凛が少し真面目な顔で呟く。

確かに、それが原因の場合僕らには帰る手立てが無い気が・・・。


「大丈夫よ育兎、私も一緒に居るじゃない?」


自分の呟きを聞いて表情を陰らせた俺の変化に気付いたのか、凛が声をかけてくれる。

育兎はさっきの凛の姿を見ているせいか、その励ましが嬉しくも在りそれ以上に悔しい気持ちで一杯になる。


「あ!?、そうだったね。」不安げな表情をさせたまま口を開いた育兎が、一転して満面の笑顔で続きを口にした。


「凛姉が居れば、どんな怖いモノでも裸足で逃げ出しちゃうもんねっ!」と。


「まったくこのコは、直ぐに調子に乗るんだからっ!?」と、素早い動きで育兎の太股を「キュウ」っと抓った。


「ぃったたた!? ちょっ!? それは痛い! ホントに痛いよ稟姉っ!!」


そのまま育兎と姉弟のスキンシップ・・・もとい、折檻を始める稟達を始めは少し驚きながらも、そっと放置して光矢達は話を再開ささせた。



「あははは、相変らずあそこは仲が良いみたいだね。 ところで碧ちゃん、さっき神隠しの話題が出る前に面白い事言ってたよね?」

「そうそう! 召喚とか魔方陣とか、何か原因に思い当たるモノでもあるのか?」


光矢さんと一色さんもさっきの私達の会話を聞いていた様で、私に話を聞いてきた。


「いえ原因と言いますか・・。私、小説とかゲームとかが好きなので、その中の定番の設定に今の私達を当て嵌めたらこんな感じかなぁ・・・って想像してみたんですよ。」

「あぁ、なるほど小説やゲームか。小説の定番って言ったら・・・異世界モノ?」

「勇者を召喚して魔王を倒して下さい・・・ってやつか?」


2人が妙に納得して「うんうん」と頷くので私は思わず聞いてしまった。


「あれ? お二人共妙に納得されてますけど・・・、軽小説(ライトノベル)とかお読みになるんですか?」


さっきまで年上2人に少し緊張していた碧だが、今は瞳に好奇心を携え、2人に詰め寄っている。 分かり易い子だ。


「うん、僕は結構読んでたよ? まあ、最近はちょっとご無沙汰だけどね。」と少し恥かしそうに笑う光矢。

「俺も中学位の頃は色々やってたぜ? 主にゲームだけどな」最近は稽古でさっぱりだけどなと、昔を思い出す様に笑う。

「おー納得です! 先輩達はどんなゲームをしてたんですか?」


勢いづいて話しを続けようとする碧に、光矢が待ったを掛ける。


「あ・・いやぁ、ごめん碧ちゃん。その話はまた今度にしようか? 今はさ、ね?」


急に積極的になる碧に苦笑を浮かべながら話の筋を戻す光矢。


「あっ!? ごめんなさい私ったら、そうでしたね。・・・それで階段では魔方陣とかを見なかったので、こっちに着いても神殿や儀式をする様な場所でも無かったので召喚の線は無いかな・・と思いまして。

そうだ、光矢さんと一色さんは意識を失う前に何か気付く事は在りませんか? 目の前に魔法使いが現れた!とか?」


思い出した様に2人にもこっちに来る前の様子を聞いてみる。


「んー俺は特に無いな。 階段を下りてる最中に行き成り辺りが暗くなったし。 光矢はどうだ?」

「僕も同じかな。ってか、一緒に話しながら階段下りてただろう。」

「はははっ、そうだっけか? まぁそう言う事だ。

魔方陣も魔法使いにも会ってねぇな。」


私達と殆ど同じ状況にますます〝神隠し〟説が濃厚に成ってくる。


「そうですか、これじゃあますます神隠しっぽいですねぇ・・・」


碧が気落ちした感じに呟く。


「うーん、このパターンで行くと最悪俺等が気をつける事って何だ?」

「戦う手段の少ない僕らが、いきなり強いモンスターや盗賊にでも襲われたらひとたまりも無いね。」


余り落ち込んだ風でもなく一色さんが会話を続ける。


「それと、たぶん私達水とか食料類を一切持ってないので早急に飲み水だけでも確保しないと危ないと思います」


光矢さんも特に落ち込んだ感じも無く会話が続くので私も落ち込む気持ちを奮い立たせて会話に参加する。


「おっ! 飲み水か! 確かにそれが無いとヤバイよな。 如月ちゃん良く気付いたな!!」と、一際明るい声で一色がテンションを上げていく。


「うん、確かに現状サバイバルみたいなモノだから、飲み水の確保はかなり重要かも知れないね。」


淡々と光矢が現実を思い出させてくれたので空気が少し重くなる。

一色が空気を読めよー?みたいな視線を向けるが、光矢は意味が分かって居ない様だ。


「まあ、参考になったよ如月ちゃん。」

「あ! 私の事は碧でいいですよ。」

「そうか? うん了解。じゃあ俺も桜火で構わないよ。 碧ちゃん。」

「はいっ、わかりました。 桜火さん。」


照れながらも2人は少しだけ仲良くなれた様だ、すると何処からか突然少女の悲鳴が聞こえて来た。


 「きゃーーーーーーっ!?」


育兎は突然の悲鳴に一瞬身体が硬直する。

しかし「・・っ!?姉さんっ?」っと、意志の力で直ぐに声の主を探し始める。

少女の様な高い声の悲鳴に辺りを見回し凛姉と碧ちゃんの無事を確認して安堵する。

直ぐに駆け寄ろうと踏み出した次の瞬間、そいつが現れた。



「ウボオオォーーーーー!?」



前方の林の中から大きな雄叫びを上げて突進してくる巨大な体躯と牙を生やした猪の様な生物がこちらに向かってやって来る。


「な・・んだよ、こいつ・・・。」


巨大な猪は凄い目付きで前を睨み付けながら猛スピードで走ってくる。

奴は頭が二m以上は在ろうかと言うその高さに在り、体は象の様に大きく、何より両腕でまわらなそうな程太い牙を下顎に二本も生やしているのがとても凶悪だ。

しばらくすると今度は少年の声が聞こえて来た。


「急げっ!!アリカッ!?」


大猪の前を二つの小さい人影が手を繋いでこちらに向かって駆けて来る。

二つの影の内、小さい方の足元が覚束無い感じに見える。


「待ってお兄ちゃ、ぁっ・・キャッ!?」


不意に小さい影が躓いて転んでしまう。

兄と呼ばれていた少年は慌てて振り返るが、気付くのが遅れ少し遠く行ってしまい大猪の突進から妹を守れるかが危うい状況だ。

育兎は急いで駆ければまだ助けられるであろう距離だと言う事は何となくで分かるものの、あの巨獣へ立ち向かう事の恐怖が、思考を麻痺させ、体を硬直させる。


『って、ビビッて体固めてる場合じゃないだろ。動けっ!? 俺の足ッ!! 今動かなきゃ、あんな小さい子達があの化物に食い殺されるッ!』


そんな俺の葛藤を他所に事態はどんどん進展していく。

少女の下へ逸早く影が近寄った。


「おいっ!早く逃げるぞっ!!」「えっ!?きゃあぁぁっ!」


そう言っていつの間にか近付いた八雲が少女を担ぎ上げ、獣の進行方向とは直角に逃げる。


「あッ、アリカっ!?」

「待って待って、君も逃げるんだよ。」

「お前も仲間・・」

「ゴメン、今は急いでるから・・。運ぶよ!?」

「っ!ぅわぁ・・・」


そう言って光矢さんは少年を無理矢理担ぐと八雲とは反対の方向へ素早く逃げていった。

大猪が逃げた光矢さん達へ気を遣っている隙に、一色さんが素早く駆け寄り手に持った木刀を巨大猪の足へ思いっきり振りかぶってブチ当てた瞬間、木刀が威力に耐えられず真っ二つに折れてしまった。


「ブヒィィーーーーー」


まるで豚の様な悲痛な叫び声を上げた巨大猪は、太い前足を間接が自然では在り得ない方向を描き、顔面を殴打し少し地面を引き摺りながら倒れていった。

育兎の目の前、たぶん1mも無いであろう至近距離で大猪が顔面を地面へ減り込みピクピクと気を失っている。


「育くーん、大丈夫ー?」


後ろの方から凛姉の声が、首だけ振り返ると凛姉が碧ちゃんを後ろに庇って心配そうに僕の方を見て居た。


「な、何とか~」

苦笑いする育兎。

「大丈夫、大丈夫」


そう強がって見せるが、きっと凛姉から見ればバレバレだろう。

すると大猪がまた動き出す気配があった、慌てて育兎は警戒を促す。


「下がって凛姉、こいつ起きそうだ」


そう言った時にタイミング良く一色さんがこちらにやって来た。


「育兎、ここは任せろ。こんな訳の分からない場所に連れて来られてこっちはストレス溜まってんだ。しかも師匠から始めて貰った【弧徹】を折りやがって・・!? ただじゃあ済まさねえぞ・・・ブタ野郎がッ!?」


そう言って手には何時の間に取り出したのか布袋が。紐を解き布袋を地面へ放る。

そこから取り出したるは一振りの太刀。

刀身が約1mは在ろうかというとても大きな日本刀、握りの作りは遠目から見ても確りしている様に見える。


「・・・えっ!? 一色先輩、それ本物?」


行き成りの事に状況も忘れて思わず声が漏れる育兎。

馴れた手付きで刀を抜き放つ一色、綺麗に手入れのされた刀身だが良く見るとその刀に刃は無い。

「あ!? 模造刀?」と呟く育兎を、一色は一瞬視線を動かして感心しながらも、ニヤリと笑った後で素早く獲物へと駆けて行く。


「確かに刃は付いて無いが・・・。 まあ、獣ぐらい問題無いだろう。」


「えっ!? いやいや…あんなサイズ、獣の範疇に無いですよっ!?」っと、いった台詞を育兎が発した時には、一色は既に大猪へと駆けて行った後だった。



   ◇◆◇◆◇◆◇



 桜火は走りながら久々の握りの感触に思いを馳せていた。


『久々の【葉桜】だって言うのに、最っ低の気分だな。』


日本に居た頃は周りを気を使って中々実戦でこの模造刀【葉桜】を使える状況なんて巡り会えなかったが。

それが異世界(?)に来た途端、お気に入りの【弧徹】を圧し折られ早速の実戦投入かよ。

クソッ!? せっかく師匠から貰った物がこれで一つ減っちまったじゃねぇか。


「ブタ野郎が、次で息の根止めてやるぜ!」


気合いも新たに大猪へ駆けていく桜火。


「ウボオオォーーーーー!」


桜火は目の前に巨大猪を捉え、剣先を右下に構えながら、足へ入れる力をさらに増し獲物の頭上へと高く飛ぶ。


「さぁー豚ヤロウ、【弧徹】の敵だ。 お・と・な・し・くっ沈めッ!!」


そう言ってゆっくり振り上げた刀を大猪の眉間へと素早く叩きつける。



「ヴォヒィィーー」



堪らず大猪が短い悲鳴を上げて「ドッスーン」と、地面に倒れ伏した。


「よーし! 皆、大丈夫かー?」


桜火は満足そうに一つ肯き、仲間を振り返る。

呆気に取られていた育兎が慌てて周りを確認し桜火に答える。


「・・・一先ず、大丈夫そうですね。」


先程の桜火の動きに驚きが隠せず、次の言葉がなかなか思いつかない育兎。

何とか気を取り直して桜火へ質問と言うより少しビックリした感じに話しかけていた。


「それにしても一色先輩、2mは在りそうな巨体目掛けて飛び掛って一太刀で仕留めるとか・・、僕も八雲のお陰でかなり常識外の事に耐性を付けたつもりでしたが、凄いですねあの動き。」


桜火は「あははは・・・」と乾いた笑を浮かべながら。

「俺の事は〝桜火〟で良いよ、俺も育兎って呼ばせて貰うから。 まあさっきの動きだけどね、ウチの剣の師匠がかなり無茶をやる人なんだよ。 その人ん下で数年修行してたらアレくらい出来なきゃあこっちの体が持たないんだよ・・」


生気を失った様な目で「うん、マジでもたねぇ・・・」と、昔を懐かしむ様に空を見上げる桜火。

慌てて育兎は、「で、でもそのお蔭で助かりました。 本当にありがとう御座います。」

そう言って頭を下げる。


「私からもお礼を言うわ、あの巨大な猪を良く倒せたわね。」

「本当ですっ♪ 行き成りあの大猪へ走り出したと思ったら〝あっ〟と言う間に倒しちゃったんですから。」


凛姉と碧ちゃんも集ってきた。


「そう言えば、さっき八雲と光矢さんが助けた子達は大丈夫だったかな?」

「ああ、いつの間にかに八雲が女の子助けてるからビックリしたぞ。

光矢でも気付くのギリギリで慌てて少年を助けに行ってたのに、良く気付いたよな?」


育兎は「あはは・・」と、苦笑を浮かべながらも桜火の疑問にハッキリと答えた。


「あいつは・・・普段は面倒臭がりなだけで、たぶん桜火さんにも負けないくらい非常識な奴ですよ。」



  ◆◇◆◇◆◇◆



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