第15話 - 「訓練&料理 継続中 二」
お、遅くなりました…。(^^;
野菜の水洗いを漸く終わらせた育兎は洗った野菜を近くに置いてあった籠に入れ、寸胴鍋と一緒にアリアさんの下まで持って行き声を掛けた。
「アリアさん、全部洗い終わりました。」
「あっ!?本当? それじゃあ早速料理して貰おうかな!」
「それじゃあ、こっちへ来て!」と、アリアさんが作業をしている近くの調理台を指して指示する。
「あっ!? そうだイクト君、忘れてた!!
向こうで洗い物してる時に、<湧水>のお水を・・えっと、魔術で出したお水、飲んだりはしなかった・・よね?」
唐突にアリアさんから育兎への質問。
少し焦った感じでされたアリアさんの質問に育兎は少し戸惑いながらも素直に答えた。
「え? いえ、まだ喉も渇いてなかったんで<湧水>の水は飲みませんでしたよ?」
育兎がそう答えるとアリアさんは忽ち安堵の表情を表した。
「ほんとう!? それならよかったよぉ~」
「ええっ!? ちょっ!?ちっとアリアさん?
アレで出した水って、飲んだら危険ばかったんですか?」
育兎はアリアさんの見せた安堵の表情が少し大袈裟に見えたせいか、育兎も少し表情を硬くして慌ててしまった。
「えっ? ああっ!?大丈夫、大丈夫! 全然命に問題ある訳じゃあないんだよ?
・・・ただぁ~、<湧水>は飲み水用の魔術じゃあ無いから、飲み過ぎると体調を壊す恐れが在るんだよ。
ほんと、別に飲んでも死にはしないんだけどね、少しお腹が痛くなったりするだけで・・・。 だから、喉が渇いた時はあそこの水瓶の水を汲んで飲んでね。」
そう言って、先程洗い物をしていた流しの隣りに、二つ並んで置かれた大きな水瓶を指した。
「今は料理で直ぐ使える様に木の蓋は外されてるけど、普段はそこの木の蓋が被せて在るから。」
そう言ってアリアさんは側に置いて在る大きな木の蓋を指す。
「イクト君が料理に使う時にも普通に使ってくれて構わないし、喉が渇いたらその中の水を飲んだら良いよ。 そうだ!?今少し飲んでみる?」
そう言ってアリアさんは隣りの蓋の閉まっている方の水瓶の蓋をわざわざ開け、近くに置いてあった木製のお椀で育兎へ一杯すくって育兎に差し出した。
育兎は「何故わざわざ隣りの水瓶から?」と少し疑問に思っていたが、取り合えず育兎も喉が渇いていたので素直にお椀を受け取り一口水を口に含む。
すると育兎は水を口に含んだ瞬間「うんんっ!?」と、驚きで目を見開いた。
「こ、この水・・すっごく冷たくて美味しいですね。」
一口飲んだ水が予想外に冷たく、軽く渇いた育兎の喉にはただのお水が何倍にも美味しく感じられた。
「うふふぅ~♪ そうでしょう? 沢山有るからもっと飲んでも良いよ!」と、アリアさんが少し得意げに語るので、育兎も素直にま「はいっ!」と答え、そのまま瓶の水を2杯、3杯と飲み干す。
「っはぁー!! アリアさんご馳走様です。このお水冷たくてすっごく美味しいですね!!」
「えへへー、そうでしょう♪」
「はい! ・・でも、何でこんなに水が冷たいんですか? これも魔道具とかのお蔭ですか?」
そう言った育兎の質問にアリアは軽く微笑みを漏らしながら答えていった。
「惜しいわねイクト君。 ほら、こっちの水瓶の底、小さな石が沈んでるのが見えるかな?」
そう言われて育兎は水瓶の中を覗き込んで見る。
すると、アリアさんの言う通り水瓶の底の方に小さな石ころが転がっているのが見えた。
「かなり小さいですけど、これ位の石が底に沈んでますね。」
育兎は親指と人差し指で五百円玉より一回り小さい位の石の大きさを表してアリアさんに見せた。
「そうそう、その石だよ。
それは<魔石>って言ってね、魔術を付与された魔昌石の事なんだ。
この国の魔道具屋なら大抵扱ってる物だね。 あ!? 魔昌石は何か、説明受けてたよね?」
「えーと、確か・・サイネリアが魔物を倒すと手に入る、見たいな事を言ってたよね?」
「うん、そうそう。それで大体合ってるよ。
この辺りって、王都や大都市からも離れた辺境でしょう? 魔物は結構頻繁に出るんだけど、その分冒険者にとっては魔昌石を手に入れやすい環境にあるから<魔石>や<魔昌石>は王都や大都市よりかなり普及してるんだよ。」
「へぇ~」
「まあ、と言ってもここ辺で普及してる品は基本的には粗悪品だったり等級の低い物が主だけどね。
この<魔石>って、魔術師協会の直営店じゃあ無くても扱えるから、結構安価な物から高価な物まで幅広い種類が在るんだよ。
だから原料になる魔昌石は何時でも魔道具屋へ持って行けば結構良い値段で買い取ってくれるの。」
「へぇ!? 魔物って肉や皮意外にも売れる部分が在るんですね。」
「そうだね。皮や肉は動物からも取れるけど、魔昌石は魔物特有の素材になるのかな。」
「数は在るから結構お金に余裕のある冒険者や商人、貴族なんかは普通に生活する上で便利な道具として使ってるよ。」とアリアさんが補足してくれた。
「へ~『まるで家電みたいだなぁ…(笑)』…。
魔道具ってもっと希少なモノってイメージでしたけど、そうでもないんですね?」
「いや、その辺りは物に拠るのかな?
さっきも言った様にこの辺りで扱ってる魔道具は素材の等級が低いからね、数も多くて比較的私達見たいな冒険者やちょっと裕福な商人とかなら全然買える値段なんだけど、王都や直轄地みたいな大都市とかで扱われてる魔道具の魔昌石や魔石は一級品の素材から作られたアイテムだからね。
それで作った魔道具の値段も私達普通の冒険者には手が出せないよ。そういった品は基本的に貴族や王族とか、稀に限られたごく一部の冒険者達が買う事も有るみたいだけど、基本的には私達じゃあまず見る事も無いんじゃあ無いかなぁ?」
辺境都市と言われるだけ在り、素材が魔物や魔獣から手に入る<魔昌石>や<魔石>はかなり普及している。
しかし、流石に品質の良い品は冒険者達から買い付けた直後に王都や大都市といった人の多く集まる街へと送り、早急に加工を施し、顧客が大貴族や王族といった一部の限られた客のだけが利用出来る店で取り扱われる事になっているらしい。
「そう言えば・・。 その魔昌石って、魔物のどの辺りに在るんですか?」
育兎は何となく気になりアリアさんに尋ねてみた。
「大抵は心臓の辺りって言われてるけど、モノによって場所が少し変わったりするよ。 たぶんサイネリアかリリット辺りと一緒に狩り行った時に教えてくれると思うけど…。あ!? でもぉ…魔術で魔物を殺す時は少し気をつけてね。」
「え!? 何をですか?」
「リリットの魔術を見たならたぶん分かると思うんだけど、魔術って、剣や槍に比べればかなり強力で威力が在るから戦闘の際凄く頼りになるんだけど…。その反面、制御が出来ないと対象の魔物が跡形も無くなっちゃうくらいの威力に暴走し易いんだよね。 だから折角のお肉や素材が採れなくなっちゃう事が良くあるんだ。
低ランクの冒険者とかだと、そのせいでまた新しい獲物を探す破目になる訓練中の魔術師とかが結構多いんだよ。」
「討伐の依頼ならそれでも問題は無いんだけどね」と、苦笑を浮かべながらも真面目なアドバイスを語るアリアさん。
「うわぁ・・、そうなんですか?」
「うん、結構多いんだよ。今育兎が練習してる<灯火>って魔術は火を熾す為の魔術で、流石に威力はアレだから料理くらいにしか使えないけど。
この訓練が終わってある程度魔術の扱いに慣れれば、リリットがそれの応用魔術、<火玉>や<火矢>を教えてくれると思うんだけど。 ちなみにこの二つは、<灯火>の火の威力を数倍から数十倍にまで高めて対象を撃つ魔術でね、少しでも制御を誤ると、その辺の小動物程度なら黒コゲ程度じゃあ済まないから、消し炭にして焼き殺す威力も在るからね。」
「け、消し炭ですか!?」と育兎が小さく呟く。
「そうだよ。本格的に冒険者になったら早くお金稼いでロズンさんにお金返すって言ってたでしょう?
だから、イクト君にはこの訓練で魔術の細かい制御を完璧にして貰おうかと思ってね。 せっかく倒した魔物が黒コゲだったり、ボロボロだったりしたら素材としての価値が下がっちゃうからね。」
「た、確かにそうですね」と、育兎も相槌を打ちアリアさんの話を促した。
「こういった細かい制御とは逆に、昨日リリットが話してた様にイクト君のその素人とは思えない量の魔力を使って魔術を使う方法も在るけど・・、やっぱり飽く迄も魔術の素人であるイクト君達に中級や上級の魔術を使わせて高ランクの魔物を討伐させる方法は・・リンも言ってたけど、私も少し賛成しかねるから、却下ね。
確かに細々と低ランクの魔物の討伐報酬や素材を売るよりも大きなお金になるかも知れないけど、それに伴う危険も格段に大きくなるもの。その辺りはある程度経験を積んでからでも遅くないと思うし。」
珍しくアリアさんが真面目な話をするので育兎も真剣にアリアさんの話に耳を傾ける。
「まあでも…」と、アリアさんは苦笑を漏らしながら話を続ける。
「それでも大抵才能を持った魔術師はリリットみたいな高位の魔術師の真似をして、派手な魔術で敵を捻じ伏せる事を好むんだけどね。
高位の魔術師に憧れて魔術師になった子なんかは特に、自分には身に余る魔術を覚えたがるから大変らしいよ。」
「昔、冒険者仲間が弟子の育成で苦労したって酒の席で愚痴ってたなぁ…」と、昔を懐かしむ様に語る。
アリアさんの見た目が子供なせいで、昔を懐かしむアリアさんの姿に激しく違和感を覚えつつも、育兎は現実(見た目)を余り深く意識しない様に出来るだけ無視して話を聞いてた。
「確かに大きな魔術でドカンと派手に出来たら気持ちいいんでしょうけどねぇ・・」
「あら!? やっぱり育兎君もそっちの方が良かった?」
「あぁ!?いえ・・」と言って、育兎は少し今までの自分を振り返る様な仕草で物思いに耽っていたと思っていたら突然恥ずかしそうに口を開いた。
「今のボクじゃあ・・それをヤろうと思っても出来ないだろうなぁ・・って、思いますし。」
「でも、普通の冒険者なら小さなリスクで確実に稼ぐよりも、多少危険だとしても、その分ドカンと実りの大きな「ハイリスク・ハイリターン」を好む人が多いからね。
だから、イクト君みたいに魔術の素質が有る人が、こんな訓練の最初から細かい制御を訓練するなんて面倒な事する人は、本当は結構稀なんだよ。
最近の人達は下手に力が在るせか、自分の力を過信する人が多いから…。普通はそれなりに手痛い経験を経てからこういった基礎訓練みたいな事をするみたいだね。」
そしてアリアさんは「まあ、イクト達は冒険者って言っても、まだ全然それっぽい雰囲気はないもんね。」と、含み笑いを漏らしながら慰めの様な言葉を育兎に送った。
「でも、この先<火玉>や<火矢>と言った初級の中でも上級の魔術を扱う様になっても、基本の魔術を使った「料理」は続けていった方が良いと思うよ。 細かい制御は出来てた方が後々絶対役に立つからね。」
「うん、分かった。
アリアさんに教わった訓練(料理)はこれからも続けていった方が良さそうだね。」
元々魔術使った料理は訓練と言う事を無しにしても続けていくつもりだったが、育兎は敢えてそうは言わず素直に返事を返した。
◇◆◇◆◇◆◇
やはりそのコンロは現代のコンロはかなり異なっていた。
一番原理的に伝わりやすいのは炭を使う七輪にかもしれないが・・、一番視覚化し易く、伝わり易い言葉としてはBBQの時にレンガや大きな石を積み上げて作る〝アレ〟を調理台の端に造って在る感じだ。
そして今、育兎はコンロの前に立っていた。
レンガの間には細い薪が数本敷かれ、その上に鍋を置いた。
「それじゃあアリアさん、ボクは何を炒めたらいいの?」
「う~ん、そうだねぇ? …それじゃあイクト君にはさっき食材庫から持って来た干し肉と野菜を炒めて貰おうかな。
それを私が今作ってるパンに挟んで、お昼は簡単にサンドイッチにしよう!」
「アリアさんの焼きたてのパンをお昼も食べれるんだね!! あのパンってホント美味しいもんね♪」
お昼のメニューを聞いた育兎が少し興奮気味に「うわぁ~♪お昼が楽しみになって来たっ!!」と、やる気を見せると、アリアさんも「うふふ…。 それ、イクト君も一緒に作るんだからね?」と楽しそうに冗談まじりで育兎に告げる。
「あぁ!?そうそう!! それと、後でシチューも作るから、えーと・・」
アリアさんは野菜の山を眺めながら少し考え、口を開いた。
「……それとそれと、・・あと、この野菜は残しておいてね。 それと干し肉は半分はシチューに使うからそのつもりでね。」
「了解ですアリアさん。
・・そうだ!? アリアさん!!野菜は細かく切った方が良いですか?」
「うーん、大きい方が皆喜ぶけど・・・、細かくした方が火の通りも良いし・・、イクト君もやる気を見せてくれた事だし・・」
「えっ! いや、アリアさん? 別にボクはそんな積もりで言ったんじゃあ…」
「無い」と言いたかった育兎は、自分の余計な一言がこれから行われる訓練(調理)の難易度を無駄に高くしそうな事を悟り、慌ててアリアさんを止めに入る。だが・・
「…うん、それじゃあ練習がてら野菜は細かく切ってみようか!!」
時すでに遅く、「それじゃあイクト君。火加減、頑張って調節してね♪」と、イイ笑顔で育兎へと言い放つアリアさん。
「・・はぁ~・・わかりました。でも、焦げても文句言わないで下さいよ?」
アリアさんのその笑顔に育兎はどこか楽しそうな雰囲気を感じ取り、アリアさんの確信犯だと察し、育兎は諦めの境地で言葉を呑み込み、返事を返した。
「あ!?それは大丈夫だよ。
リリット達も私がイクト君に何をさせるか分かってると思うし、少し位焦げてても誰も文句何て言わないから。」
「はぁ・・そうなんですか?」
アリアさんの意外とあっさりした答えに育兎が少し拍子抜けしながらも、育兎は野菜を切って直ぐ炒められる様に用意する。
「そうそう、だからイクト君は確り訓練を頑張って!」
「…分かりました。 これと、あとこの干し肉を切り分けたら早速炒めてみますね。」
そう言って育兎は愛用の包丁を片手に、お肉と野菜をテキパキと細く切り分け始めた。
◇◆◇◆◇◆◇
笑顔でぐいぐいやって来るアリアさんに流されるが儘に育兎は早々に残りの野菜と干し肉を切り終え、早速炒め物に取り掛かろうとしていた。
「やっぱりこの量を炒めるのに片手で持てるフライパンが無いってのは面倒くさいなぁ・・。 でもまあ、無い物ねだりしても仕様がないよね。」
鍋を前に独り言を呟く育兎、文句を言いながらも手は鍋に油を入れ、コンロに新しい薪を用意している。
するとアリアさんが遠くの方から育兎に向かって話しかけて来た。
「そうそうイクト君!? 呪文は覚えてるよね?」
「『灯火』、ですよね?」
「そうそう。うん、呪文の方はバッチリだね。
それとイクト君、昨日はどうして直ぐに気を失ったか・・、魔力が無くなったかは、分かるかな?」
突然アリアさんにそんな事を問われ、少し考える顔をする育兎。
「えっ!? ・・昨日はただ普通に魔力を使い切って気を失ったんじゃあ無いんですか?」
問われた育兎は、少し考えたてもみたが答えは出ず、素直にアリアさんに聞いてみた。
「確かに結果だけ見ると、只普通に魔力を使い切っただけなんだけどね。
イクト君、昨日は自分の魔力を意識し過ぎてたせいか、あの時の魔術では自分の魔力だけで魔術を使ってたんだよ。
あれじゃあどんな魔術師でも直ぐに魔力はが尽きちゃうよ。
前にも説明しなかったっかな? 私達魔術師が魔術を発動する時は、自分自身の魔力と大気の…周囲に漂う魔力をブレンドして術式に組み込んで魔術を行ってるって。」
「う~ん、確かにそんな感じの説明を受けた記憶は在りますね。」
育兎がそう答えるとアリアさんは「まあ、皆が皆同じ訳じゃあ無いけどねぇ」と一度前置きした上で、「魔力の消費量は単純計算で倍近く違いが出るんだよ。」と説明した。
「普段私達魔術師が使う杖や、私の創った今イクト君が着けてるその指輪も、言わば魔力を私達術師に効率的に集め、馴染ませる為の触媒なんだから、確りその指輪の意味と機能を理解して使わないと、今日もまた昨日みたいに倒れちゃうよ?
今日なんて、既に<湧水>の呪文をかなり唱えて若干魔力を消費してるんだから、昨日みたいに自分の魔力だけどんどん魔術に注いだら、直ぐに魔力が枯渇するわね。」
「ど、どうすれば良いんですか?」
「それは勿論、イクト君が私達の周囲に在る魔力にも目を向ける事だけど・・そうだ!? それじゃあ、ちょっと私の手を見て魔力の流れを感じとって見て。
いくわよ? ・・・【ファイア】!!」
そう言うとアリアさんは少し離れた育兎の所からも見え易い様に片手を上げて手の平を上に向けたまま<灯火>の呪文を唱えた。
アリアさんに言われて振り上げた手元を凝視して眺めた育兎だったが・・今の育兎には今一良くは分からなかった。
「いやいや・・!? ちょっ、ちょっと待ってよアリアさん?
自分の魔力見る事さえ儘ならないのに、アリアさんの魔力を感じ取る事何てまだ出来ませんよ!?」
いきなりのアリアさんに育兎が堪らず声を掛けると、「あれっ!? それもそっか?」とアリスさん。
「それじゃあ・・そうだね。
魔術を唱える時に自分の中の魔力と周囲の魔力を意識して、私が渡した指輪で混ぜ合わせる様なイメージで魔力を扱う事が出来れば、呪文を唱える時にイクト君の魔力と周囲の魔力が自然と混ざり合って<灯火>で消費されると思うんだけど・・・。」
「でもまあ、これも慣れだからね。 数をこなせばイクト君にも出来る様になるよ。」と、途端に説明が雑になる。
「とにかくイクト君は少しそっちでやってみて。 私はまだこっちが終わってないから手が離せないし。」
アリアさんは急いでそう言い終ると、早々に自分の作業へ戻って行った。
「はぁ~・・。まあ確かに、アリアさんの言う通りやってみない事には上手くもならないよね・・」
そう言って育兎はゆっくりと調理台の下へと行き、コンロの上に鍋に油と干し肉と野菜を入れて準備を整えた。
「それじゃあ、始めようかな・・」
育兎は少し緊張した面持ちで小指の指輪に視線を向け「よし」と、小さく一言発してから自分の魔力を感じ取ろうと目を瞑り、意識を集中した。
『でも、今朝の自主錬で掴み掛けた「ぽかぽか」した感じ・・今なら何となく分かる気がするんだよね。
さっき始めて使った<湧水>も、昨日と違って全然暴走とかしなかったし、<灯火>だって今日はきっと上手く出来るさ!』
育兎が集中を終えて目をゆっくりと開いた。 そして徐に薪に向けて両手をかざしゆっくりと呪文を唱える。
「・・・【ファイア】!」
ボォッ!!
育兎が唱えると、自分の中の力の流れが少しだけ指輪から体の外へと出て行く感覚を覚えた瞬間、目の前のコンロの薪に小さな火が点き、少し高い位置に置いて在る鍋へと程好い熱を送る。
昨日とは打って変わって確りと制御された火に見えた。
「あ…出来た!!」
ジュジューー
「わぁ~、焦げる焦げる!!」と、慌てて木ヘラを使って焦がさない様に具材を混ぜながら火を通す。
「よかった、やっぱり今日は一発で成功したみたいだね。」
「え!?」
鍋に集中していた育兎の後ろからアリアさんが突然声を掛けられ思わず作業の手を止めそうになる育兎。
「あっ!ダメだよぉ、手を止めたら!?
せっかく火の威力を抑えて発動出来たんだから、このまま出来るだけ焦がさない様に調理して貰わないと!」
アリアにそう言われて慌てて手を動かす育兎。
しかし育兎も気になっている事が有り手を動かしながらアリアさんに質問した。
「いつの間にこっちに!? ・・あっ!?ねえ、アリアさん。
もしかして今の魔術見ててくれた!! さっきの<灯火>は大丈夫だった?」
育兎が鍋の小さい取っ手を使いノリノリで鍋の具材を煽りながら、アリアさんへと聞く。
するとアリアさんは苦笑と共に答えてくれた。
「ふふ、確かに制御は昨日より安定してて上手く出来てたけど…、やっぱりイクト君の魔力しか使ってなかったね。
このままだとまた昨日みたいにまた倒れちゃいそうだよ?」
「ええっ!! 全然魔力を使ってませんか!?」
「う~ん、昨日よりは少しだけね…。でも、全然だよ。
でもまあ、まだこれが一回目でしょう? 取り合えず今回はそれを焼いちゃって、次頑張って見ようよ。」
「うわぁ、そっかぁ…。 でもうん、やってみます!」
育兎はそう言って暫らく片手で鍋を揺すりながら炒めた後、一先ず火を消し、炒め終わった具材を木の皿へと移す。
鍋には殆んど焦げ付いた様子も無く、余り汚れた風でも無かったので、そのまま育兎は改めて少量の油と具材を入れ、しばしの集中に入った。
「あ!?そうだイクト君。 自分の魔力と周囲の魔力、同時に感応するのが難しいなら、まず先に自分の魔力にだけに集中してみなよ。
自分の魔力を意識せずに把握する事が出来る様になれば周囲の魔力を認識した時、直ぐに両方を把握できる様になると思うよ。」
「本当ですか!?・・・分かりました。 少しやってみます。」
育兎はアリアさんからのいきなりのアドバイスに戸惑いながらも言葉の意味を噛み砕く様に様にゆっくりと肯き返事をし、もう一度コンロへと視線を向けた。
◆◇◆◇◆◇◆




