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第14話 - 「訓練&料理 開始」

最近は細かい修正ばかりですみません。

ようやく続きです。


__________


8/20 微修正・・すみません。


  ◆◇◆◇◆◇◆



 育兎は今、訓練と皆の昼食作りを手伝う為にアリアと食材庫へと向かっていた。

育兎はそこへ向かう道すがら食材庫がどんな所かをアリアさんから聞いていた。


食材庫にはアリアさんがいつも食事の時に食べているパンを作る為の小麦粉や長期保存出来る食材や街で買って来た食材を一時的に保存して置く場所で、それ故に色々な食材が貯蔵されている場所らしい。


その場所は厨房や冷蔵室からは少し離れた場所に在り、普段は調理の前に人形のグレンやソニアに食材を持ってきて貰うのだが、今回は育兎に場所を教える為にわざわざアリアさん自ら案内してくれた。


育兎はアリアの隣りを歩きながらアリアに質問を投げかける。


「その食材庫に今回は何を取りに行くんですか?」

「そうだね、今朝の朝食で小麦が結構減ってきたから小麦を一袋と岩塩を一塊、あとはスープに使う干し肉も減って来たからそれもついでに取って来ようかな。」

「結構大荷物になりそうですね。

そう言えば、やっぱりこの辺りで塩と言ったら岩塩なんですか?」

「ええ、この辺りは昔から鉱山が多いんだけど、その中の幾つかの山から岩塩が取れるのよ。」

「へぇー、海から取れる塩じゃあ無いんですね。」

「そうよ、海塩は岩塩と違って色が真っ白で綺麗だから、高級品なんだよ。

扱ってる所もこの国だと王都とか四精領とか、かなり大きな都市じゃあないと無いと思うよ。」


育兎は「へ~」と相槌を打ちながら利き慣れない単語をアリアに確認する。


「あの、シセイリョウって何ですか?」

「え? あぁ~そっか、迷い人のイクト君はこっちの事何て分からないよね。」


「う、うん・・」と、育兎はどう言おうか迷ったものの、アリアの言う通り良く分からなかったので曖昧に笑って答えた。


「四精領って言うのはね、この国の<首都・オルファン>を中心に東西南北ごとに、その一帯を守護している魔術師達、特に基本元素の火、水、風、土に秀でた魔術師達が住んでる街の事を言うんだよ。

四人とも魔術師協会(マジックギルド)から実力を認められていて、<賢者(セージ)>以上の称号を持つ大賢者達がその役目を担ってるんだよ。」

「大賢者ですか、何か凄いですね。

それに治めてるって、領主みたいなモノですか?」

「少し違うかなぁ?

確かに高位の魔術師は貴族の子弟達ばかりだけど、領主は別に貴族が居るからね。

他国で言う所の・・〝騎士団長〟、みたいな感じかな? まあ、騎士団は中央のオルファンに在るから正確には少し違うけどね。

彼等は周辺の町の冒険者達が手に負えない魔物を討伐したり、外国から敵国が攻めて来た時に率先してその方面の指揮を執ったりするんだよ。 それが四精領の大賢者達の役割だね。」


「それに、代替わりの度に全く違う人がその土地を治めてたら大変だしね」とアリア。


「それじゃあ、国の東西南北に特に力を持った魔術師、大賢者達に守護させてるって分けですね。」

「うん、そういう事だね。

うちの国…このトワイニング魔法王国ってね、他の国に比べて国土が数倍近くある結構な大国なんだけど、軍隊って言うのかな、騎士団は中央にしか居なくて、中央以外の街は基本的にはそこに住んでる住民や流れの冒険者達がしっかり守りなさいって感じだから、その為にも東西南北にその大賢者達の住む街を設けて国を護って貰ってるの。」



騎士団と呼ばれる現代の〝軍隊〟に相当する組織は、中央の王都にのみ存在し東西南北の護りの要は騎士団とは別に、四精領の大賢者達(これ等を<精賢者>と呼ぶ)を中心とし、精賢者を慕う者達で組織された自治組織で、街を中心とした一帯の地域を護っている。


ただ彼等は、例えばAAランク以上の魔物と言った、地元の冒険者では解決不可能な魔物の討伐や、他国が攻めて来るといった限定的な場面以外は基本不干渉で、通常の魔物の討伐等は冒険者ギルドに一任しているらしい。


と言った事をアリアさんが簡単に説明してくれた。



「簡単に説明するとね、地域毎に得意としている属性は異なるんだけど、東領に住む賢者は水の属性を得意としていて、西領は風の属性が得意、南領は火の属性が得意な魔術師が守っていて、北領は土属性が得意な賢者が守っている。

四人とも、皆それぞれの属性の魔術に秀でた人達が、その座に就いて周辺の町や領地を守ってくれてるよ。」

「へぇ~、全てを王様が統治してる訳じゃあないんだ。」


と、簡単にアリアさんの説明を受けている内に食材庫の前まで到着していた。


扉は木製で縁に鉄が嵌め込まれ、見るからにとても頑丈な造りだ。


扉に着いたアリアさんは鍵穴に鍵を差して回し、「ガチャン」と鍵を開け、扉を開けた。



 キューーン キキキィ



立て付けが悪いのか、金属が擦れる高い音と共に開け放たれた扉の奥には幾つかの麻袋や樽が敷き詰められた部屋だった。


天井からは干し肉が吊るされ、左右の壁には棚が備え付けられ、見た事も無い食材が鎮座している。


「はい! ここが食材庫だよ。

少し中を確認するから後ろについて来てね。 それにしても、イクト君小さいのに統治なんて言葉知ってるね!? でも、そうだね。

他国や大抵の国でもそうだと思うけど、トワイニングは大国だからね、首都であるオルファンと主要な直轄地以外は貴族達が管理してるし。」


アリアさんはそう言いながら部屋へと入って行き棚の食品を確認している。


「この国って他の国に比べてそんなに大きいんですか?」


育兎も質問しながらアリアさんの後を着いて行く。


「う~ん、かなり大きいわね。 周りの小国なんかに比べたら国土だけで数倍~十数倍の広さは在ると思うよ?

一応トワイニングと同じ人国の<レストルテ王国>や獣国の<ガルディア王国>も結構大きな大国だけど、この国程じゃあないしね。

まあでも、広大な土地って言っても、この街みたいな未開の辺境が殆んどで、魔物の被害も多いから貴族達は力の有る冒険者達の確保で大変らしいけどね。」


と、最後は苦笑しながら語るアリアさん。


「あ!? そうなんですか?

それじゃあ大国って言っても土地が多いだけでそれ程豊かな国って訳じゃあないんですね。」

「ううん、そんな事無いよ?

中央のオルファンは小さな国くらいの規模が在る都だけど、この街とは比べ物にならない人も物も沢山在ってとっても栄えた都市だったよ。」

「へぇー、アリアさんはそのオルファンって所に行った事が在るんですね。

ここより栄えた街だったらそこに住もうとは思わなかったんですか?」


アリアさんが台に乗って干し肉を取り育兎へと振り返り肉を預けた。


「あはははっ!! 私達が王都に住むの? それは流石に無理だよ、貴族でもないのにそんな事。

それに私達は冒険者だからね、オルファンじゃあ冒険者に仕事は殆んど無いから。

何よりこの街と違って全ての物が高過ぎるもの。」


干し肉を受け取り、アリアさんの話を聞いた育兎は少し疑問顔だ。


「でも、こんな大きなお屋敷を買える程お金持ってたんですよね? それなら・・」

「全然足らないよぉ~! 向こうで生活するならその数倍のお金は必要になるかな?

それに仕事も〝街〟での仕事になっちゃうからね、私達<風の翼>には少し難しいかなぁ・・。」


そう言いながら「あ!痛んでる!?」と、会話をしながらもアリアさんは棚の食品を確認する。


アリアさんは痛んでいた食べ物を腰に下げた黒い布袋へ入れた。


「そうなんですか?」

「私達は冒険者で在って、商人でもなければ職人でもないからねぇ。

冒険者でも、AAランク以上の上位ランカーならその実力を買われてギルドの支部毎に雇われたりもするんだけど、残念ながら私達はAランク。 下位ランカーじゃあ王都の冒険者ギルド本部の指定冒険者にはなれないかな。」

「指定冒険者、ですか?」

「あれ? サイネリア辺りから説明されてなかったかな?」

「え!? ・・あー、ちょっと・・分からないですね。」


育兎は(しば)し記憶を思い出す様に顔を歪ませた後、気まずそうにアリアさんに言った。


アリアさんはクルリと一度育兎の顔を振り返ると、嫌な顔一つせず、笑顔で説明してくれた。


「ふふ、まあ覚える事は色々在ったもんね。 前に冒険者ギルドのランクを説明したのを覚えてる?」

「え? あ!はい。

確か、Fランクから始まってE、D、C、B、Aランクと上がっていくんですよね。」

「ええ、そうね。そしてそこから二つの道に分かれるわ。

飽く迄も〝冒険者〟としての矜恃(きょうじ)を崩さず、〝力〟を示す事で自らの存在を認めさせる〝流れの冒険者〟と・・

ある意味流浪の民である私達冒険者が、国や領地に帰属して安住の地と大金を得る。 それが〝指定冒険者〟、つまり冒険者ギルドと直接契約し、支部付きの冒険者となる事よ。」


笑顔でそう説明したアリアさんは、また先程と同じ様に棚の食べ物の確認作業を再開した。



   ◇◆◇◆◇◆◇



 色々話している内にアリアさんは棚を全て見終えた様で、部屋の奥までやって来た。


育兎はここにたどり着く途中に干し肉を渡されて以降、何も渡されていない。


「それじゃあイクト君、後はこの樽に仕舞って在る岩塩を2、3個と、そこに転がってる大きな麻袋に入ってる小麦を担いで持って行くだけでお終いかな。」


育兎は早速樽の中を確認して岩塩を取り出す。


「アリアさん、このくらいのサイズでイイですか?」


と、育兎は右手で大小3つの岩塩を掴みアリアへと見せる。


「う~ん、一番右の小さいのは戻して良いよ、真ん中のが大きいから、後で厨房で割って使おうか。」


育兎は「はい」と了解の返事をして樽の蓋を閉め、岩塩をアリアへと渡す。


「小麦は一袋で大丈夫ですか?」

「うん、一袋在れば十分だよ。」

「じゃあ、これはボクが持って行きますね。」

「そう? それじゃあお願いしようかな、代わりに他の食材は私が持っていくね。」


そう言ってアリアさんは干し肉を持ち、岩塩は腰に着けたカラフル(?)な布袋へと入れていく。


「それじゃあコレ持って厨房へ行こうか。 食材庫の案内はこんな感じだけど、大丈夫だった?」

「うー…たぶん、ちょっと見た事無い食材が結構在ったから、いきなり言われてもまだ分からないけど・・。

食材庫の場所はもうバッチシ覚えましたよ。」

「そう、良かった。 食材は厨房の方で料理しながら教えて上げるから大丈夫だよ。

それに、基本的にここにはグレンやソニアに来て貰ってるから、何か在れば一緒に私に頼べば良いよ。

私が居ない時に食材が足りなくなった時は自分で来て貰うしかないけどね♪」


そうしてアリアと育兎は食材庫を後にした。



  ◆◇◆◇◆◇◆



 育兎は何の問題も無く食材庫から厨房へと食材を運んでいた。


そしてアリアさんは育兎の少し前を歩きながら、腰の布袋の中身を確認している様だ。


そして育兎は先程からアリアの様子を後ろから見ていてとても気になっている事があった。


『って言うかアリアさん、・・腰に下げた小さな袋へ明らかに袋の容積以上のモノを入れている気がするんだよね・・』


「あ、あのアリアさん?」

「はぁい!? どうしたのイクト君?」

「さっきから腰の布袋に色々入れてますけど、その袋よりかなり多くの食べ物入れましたよね? どうなってるんですか、ソレ?」


そう言って育兎はアリアの腰に吊るされた小さな布袋を指で指す。


アリアさんは確認作業を一旦止めて育兎の方へと後ろを向く。


アリアさんが「うん?」と、視線で確認すると「あぁー!」と納得した様に肯き育兎の方へ体ごと向き直る。


「この〝麻袋〟の事かな?」


そう言ってアリアさんは腰の袋を気軽に手に持って育兎へと見易い様に差し出した。


『腰に提げてる時から思ってたけど、結構色々な物が入っていったハズなのに・・重くないのかな?』


「アリアさん、そんな持ち方して重くないんですか?」

「えっ!? どういう事?」


育兎の質問に『一体何を言っているのか分からない?』と言った風のアリアさんの反応に、育兎も少し戸惑ってしまった。


「え~っと、・・さっき、その麻袋に何か沢山入れてましたよね? 何でそんなに入るのかも疑問何ですが、あんなに一杯物を入れて重くないんですか?」


育兎の質問に「あぁ~!」と、得心(とくしん)がいった様に(うなづ)き、その理由を教えてくれた。


「そっかイクト君は始めて見るよね?

この麻袋はね、魔道具なんだよ。 だからどれだけモノを入れても重さは一定、軽いままだよ。」


と、とても簡潔に。


「…これが・・魔道具ですか?」


『たぶん、ボクの視線がかなり胡散臭いモノを見る様な目をしていたのだろうね、アリアさんがボクの反応の薄さにちょっとご機嫌斜めだなぁ・・。』


「そうだよ、どうしたのイクト君!? なんか反応が薄いね?」

「いえ!? 凄い・・汚れてたから…。

ちょっとそんな凄いモノには見えなくて・・」



 そうなのだッ!

アリアさんの身に着けている腰の布袋、布の地色は多分白とは言わないまでもアイボリーだったで在ろう布地がキッチンで働いていたせいか赤や緑、黄色に茶色とカラフルに富み、最後に何処かで焦がしたのか黒色まで所々付いていた。



 それを聞いたアリアさんが少し居心地悪そうな笑顔で視線を逸らし、チラチラとこちらをの様子を(うかが)いながら育兎へと答える。


「で、でもね、これは<従者の麻袋>って言って、魔術協会直営の魔道具屋でしか扱ってないから買う時は結構高かったんだよ!!

この大きさで普通の鞄の5個から6個分の荷物が入るんだからッ♪」


「それに洗濯はいつもソニア達がやってくれてるから綺麗なんだよっ!!」と、〝従者の麻袋〟のスペックを嬉しそうに自慢するアリアさん。


「えぇ!? 鞄5、6個分はホント凄いですねッ!!

封筒より一回り大きいくらいの、ただの布袋にしか見えないのに・・」


育兎はその余りにファンタジーなスペックに驚いたせいか後半は殆んど消入りそうな声で喋っていた。


アリアさんも「うん?」と少し疑問顔をしていたがボクが彼女の予想通りに驚いたお蔭か、大して気にした様子も無く「うんうん」とニコニコしながら肯いていた。


「そうだアリアさん、こっちのせッ!? …と、あぁ・・」

「ふぅん?」


育兎は稟に注意されていたにも係わらず、危うく〝こっちの世界〟と不用意に言いそうになり、慌てて苦笑いを浮べながら言い直した。


「えぇと、・・トワイニングって国ではこういった魔道具が普通に売ってるものなんですか?」『あははぁ・・、ちょっと厳しいかなぁ…?』


「この国では当たり前の道具だよ。 ここは大陸一魔術が進んだ国だからね! 色々な魔道具が在るのよ♪

この<従者の麻袋>だって、これよりも他もっと多くの荷物が入る、<冒険者の鞄>や<魔導師の革袋>、<魔導師の革袋>や<魔術師の革鞄>って言うの在るわ。

この中で<従者の麻袋>が一番ランクが下の魔道具だけど、お屋敷でちょっと食材を運んだりする時なんかはこれ一つ在れば十分事足りるんだよ♪」

「へぇ~! 思ってたより種類が在るんですね?」

「材質が違ったり、個人で持ち運びし易い様に鞄になってたり、色々種類が在るんだよ。

でもこれ、本当に高いんだよ? この魔道具。 私が今使ってる<従者の麻袋>何て、一個6万アースもしたんだから!」

「ろ、6万アースですか!?

えっと、1万アースで確か銀貨一枚だから・・」

「そう、この<麻袋>一つで銀貨六枚ッ!! Bランク報酬を2回か、Aランクの報酬1回分の額だね。

とっても便利だから冒険者や商人なんかに人気が在るんだけど、それを手に入れるまでの道程(みちのり)は果てし無く長いのよッ!!」


そう言ったアリアさんの言葉は妙に実感がこもっていた。


「へ~、ボクも稼げる様になったら鞄の魔道具とか欲しいですね!」

「イクト君が冒険者を目指すなら、鞄って選択は良いかも知れないわね。

今は少し現場から離れてるけど、私も依頼の際には<魔術師の革鞄>に数日分の食料を詰めて討伐や採取といった依頼に向かうから。

それじゃあイクト君が確り稼げる様になる様に、厨房へ戻ったら早速訓練(昨日の続き)を開始しましょうか?」


そんな会話で盛り上がりながらアリアさんと育兎は厨房へと向かった。



  ◆◇◆◇◆◇◆



 厨房に着いた育兎とアリアは荷物を部屋で控えていたグレンへと渡し、早速昼食の準備を始めながらアリアが育兎へと声を掛けた。


「本当はイクト君には今日も昨日と同じ様に夕食の調理を手伝ってもらうつもりだったんだけど・・。 予想外にリリット以外のサイネリア達全員が昼食を食べるって言うから、今日は夕食よりもまず昼食を手伝ってもらうわね。」

「分かりました。

それじゃあ、まずは何から作りますか?」

「ううん。 今日はまず、これから」


アリアさんはそう言って厨房の奥に置いてあった鍋を2つ、両手に持ってやって来た。


持って来た鍋は、昨日スープを作る時に使った寸胴よりも一回りか二回り程小さいサイズの寸胴と。

もう片方は、普通の一般家庭で煮物を作る時に使う様な、そんなサイズの鍋をアリアさんは持って来た。


「今日はまず、これから使う道具を洗ってもらうね。 それじゃあ、はいこれ。」


「私は残りの道具も取ってくるから。」と言って、鍋2つを育兎へ渡すとまた奥の方へと何かを取りに行くアリアさん。


育兎は少し厨房を見渡して水洗いが出来そうな場所を探し、水瓶(みずがめ)の隣りのスペースが丁度水が流せる様になっていたので、そこに鍋2つを置いた。



 ちなみに


 このお屋敷に電気・ガス・水道といった現代で言う所のライフライン的なモノは当然無いらしく、昨日厨房で見た限りだと水道の代わりに高さ1m程の水瓶が在り、電気・ガスの代わりには基本などが薪が使われているらしい。


これだけ聞くと、こちらの世界の生活はかなり不便で、まるで山奥のド田舎や未開の奥地の様な生活を想像するものだけど、アリアさんの話をしばらく聞くとその印象はガラリと変わり、ある意味納得した。


それは、生活の端々で魔術や魔術を用いた道具、魔道具を使い生活の助けにしている事だ。


例えば、アリアさんの様に魔術を使えない人でも簡単に火が出せる様に火の魔術が付加された<魔石>が売っていたり、かなり高価らしいが、冷気が出て来る<魔石>なんかも在るらしい。


火の魔石は薪に火を点けるライターやチャッカマンの様な役割を、氷風の魔石を部屋に置けば部屋全体を冷蔵庫へと変えてしまう。


<魔石>は<魔昌石>という特殊な鉱石を原料としていて、魔昌石は魔物を討伐した際魔物の体内から採取出来るので、それを魔道具屋に売る事で多くの冒険者にとって貴重な収入源となっている事を教えてもらっていた。



とは言え、

それを最大限活用して生活しているのは一部の富裕層や高ランクの冒険者達のみで、やはり基本的には質素な田舎暮らしを想像して貰えればそれが当てはまる様だ。


特にこの辺りは王都からもかなり離れた辺境らしく、魔物が多いので魔昌石は手に入るものの、それを加工出来る技師が居ない為、『魔法王国』と言えども普及率は高くなく、値段もそこそこするらしい。



「分かりました。 それじゃあ・・・

アリアさん、お鍋洗うのはここで大丈夫ですか?」


厨房の奥から顔を覗かせたアリアさんが育兎を確認する。


「うん大丈夫、洗剤は脇に置いてあるからそれを・・って、あっ! そう言えばイクト君、<湧水(ウォーター)>の魔術って教えたっけ?」


アリアさんが説明の途中に思い出した様に目と口を開いて「あ!」と声を漏らす。


「いえ、まだ教わってませんよ?

昨日もあんな事になっちゃったんで、<灯火(ファイア)>しかまだ真面(まとも)に教わってませんし。」

「あ!? やっぱりそうだよね? あ~、ごめんねぇ。」

「あ、いえ。」

「隣りに在る水瓶の水は料理に使う水なんだよ。

だからここで洗い物する時は基本、水の魔術か魔道具で水を出してもらって洗ってるんだ。 ちょっと待ってて!!」

「うん? あ、はい!」


そう言うとアリアさんはやろうとしていた事を一旦中断し、代わりに人形のグレンとソニアにそれぞれ残りの道具と食材を持ってくる様に指示を出し育兎のもとへとやって来た。


「それじゃあ、先に<湧水(ウォーター)>の呪文を覚えちゃおうか?

灯火(ファイア)>と違って微量な火加減とか無いから比較的誰でも使える魔術の一つなんだよ。」


そう言うとアリアさんは小さい方の鍋を持って育兎へと振り返った。


「へ~そうなんですか? それならボクも最初はそっちから覚えたかったなぁ。」と、苦笑いと共に言う育兎。


「昨日はまだ調理の途中でしたからね。 だから先に<灯火(ファイア)>を覚えてもらったけど、今日は普通に扱い易い魔術から覚えてみようか。」

「そうして貰えると助かります。 今朝は少し昨日の復習がてら自分の中の魔力を探してみたけど、今一自分が本当に出来てたのか分からないし・・・。」

「うん? 今朝?

今日は早朝からリリットにでも訓練を見てもらったの?」

「あ、ううん。

今日は少し早く起きたから、ベットの上で横に()りながら自分の魔力が何処に在るのか探ってみたんです。」

「へー、すごいねイクト君。 自分から積極的に考えて行動する事はとても良い事だよ。

それで、自分の魔力の感覚は掴めた? それを知る事は魔術師にとって結構重要なんだよ!

大抵の魔術師が勘を頼りに感覚で魔術を使うけど、さっきイクト君が言ったみたいに自分に意識を集中して自分の魔力を、自分の力の在りかをより正確に把握する事は魔術を使う上で色々な恩恵が在るからね。 それで、成果はどうだったの?」


アリアさんは感心した様にボクに説明してくれた後、笑顔でそう尋ねてきた。


問われた育兎は少し気まずそうにしながらもアリアさんの質問に答える。


「それが・・、何となく魔力っぽいモノは感じたんですけど・・・」と、そこで言いよどんでしまう育兎。


「えっ!?感じ取れたの!? ッ!!・・ああうんうん、それで?」


アリアさんが驚いた様に相槌を打ちながら、先を促す。


「いえ、感じた事は感じたんですが・・ボク一人でやってたんで、それが本当に自分の魔力かどうか判別出来る人が居なくて・・。

それに、途中で人も来ちゃったりして集中も途切れちゃったんで、正直その感覚に全く自信が持てなかったんですよね。」


アリアさんは育兎の話しを聞いて少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「う~ん、昨日の今日で感覚を掴めるなんて、私もちょっと吃驚だけど。

見習いとは言え、魔術師のイクト君が感じた力なら、それは自分の魔力だったんじゃあ無いかな?」


まるで言い諭す様に言葉を(つむ)ぐアリアさん、それを聞いて育兎の方も少しずつその気になっていく。


「そ、そうなのかな?」

「きっとそうだよ! そうだイクト君、その時感じた魔力・・感じたモノって、体の何処から来てた?」


そうアリアさんに問われた育兎は、少し長い間、思い出す様に目を閉じながら身振り手振りを振り回して今朝の記憶を探っていた。


「えっ!? えーっと、魔力って言うか…。

なんかこう・・どこか『もわ』っとした、温かい空気の様なモノを自分の身体全体から感じられて、その中でも特に胸の辺りからそれを強く感じたんだけど、毎回途中で中断してた・・かな?」


自信無さげに育兎が答える。


「へ~、でも…うん。 やっぱりイクト君、自分の魔力を把握し始めてるみたいだね。

魔力の感じ方は人に由ってそれぞれだけど、イクト君がその温かく感じた何かは魔力で合ってるかもしれないよ?

私達魔術師は魔術を使うと(ワイド)を通じて術士に大量の魔力が集まるから術の展開中は魔力を感じ易いけど、魔術を使わなくても心を落ち着かせて、リラックスした状態で意識を集中すれば、それこそ今朝イクト君がやった様に寝ながらでも自分の魔力を認識する事が出来る様になるんだよ。」

「でも、それって何かの役に立つんですか?」

「勿論だよ♪

自分の魔力を確りと認識してる魔術師の方が断然術の展開は早いし、細かい制御も上手くこなせる様になるよ。」

「へ~、何かそうやって聞くと言い事尽くめですね!!

それは皆絶対覚えますよね。 そうだ、何かリスクとか無いんですか?」

「え!?リスク? あははっ、大丈夫だよイクト君、自分の能力を把握するのにリスク何てある訳無いじゃない?」


「あ、それもそうですね!」と、育兎は少し頬を赤めて顔を俯かせる。


「あ!?でも・・」と、ここでアリアさんが言葉を呑み込んだ。


「え!? 何ですか? やっぱり何か有るんですか!?」


不安な表情で少し興奮気味にアリアさんに詰め寄る育途。


「え!? ・・あっ!いや違うの、そっちじゃあ無くてね。

イクト君、昨日の今日でもう(ワイド)無しの状態で魔力の感覚を把握しだしてたでしょう?」


アリアさんが育兎の誤解を解く様にゆっくりと話し出した。


「・・・えっと、まだ確信は有りませんけど・・、

アリアさんの話を聞いた限りだと、そういう事になると思います。」


何故か育兎もアリアさんの問いに慎重に答えた為かゆっくりと答えた。


「さっきもその話を聞いてちょっと驚いたんだけどね、やっぱり魔術って魔力を扱うモノだから、魔力を感知する能力に長けている者程優秀なんだけど、普通はその感覚って長年魔術に携わって来た者だけが体得できるモノだから。

(ワイド)を使って魔術を発動している状態なら少し感受性が高ければ誰でも出来得るモノ何だけど・・・

(ワイド)が在りと無しでは、その感覚を掴むのは並大抵の年月では到底埋まらない程の溝が存在するわね。」


アリアさんは最初は苦笑しながらも、感心した様に話してくれた。


 「・・・・・」


アリアさんいつもの笑顔で話してくれていたが、話の内容のせいか、育兎はアリアさんの笑顔に気圧された様に複雑な表情のまま何も話せずに居た。



   ◇◆◇◆◇◆◇



 何故か育兎が押し黙ってしまったので空気を変える様にアリアさんが普段より明るい声で声を掛けた


「それじゃあイクト君に才能が有る事が分かった所で、予定通り<湧水(ウォーター)>の呪文を教えるね。」


そしてアリアさんが冗談っぽく「さぁ、どんどん行くよ天才少年っ!」と育兎に言うと…


「・・・え!?」と、育兎は少しうんざりした様な顔で閉じた口を引き攣らせ、無言でアリアさんを見詰ていた。


「あ、あれ!? どうしたのイクト君、そんな嫌そうな顔をして?

普通、人族(ヒューム)の男の子って、才能を褒められると嬉しいものでしょう?」


と、アリアさんが少し戸惑いながら育兎に尋ねた。


育兎も流石に今の反応は酷いと思ったのか慌ててフォローを入れる。


「えっ!? あ…いや、すみません変な顔しちゃって。

ただ、別にボクが何かをした訳でも無いのにそんな風に言われる事に少し違和感が在っただけで…」

「そうなの? 普通は才能が在る事が分かれば、それを自慢したりしたりするものだけど…。

イクト君はあんまり嬉しそうじゃあ無いんだね?」

「いや、才能がある事はとっても嬉しいんですが、別に自慢する程の事でも無いでしょう?」

「いえ、そうでも無いよ?

(ワイド)無しで自分の魔力を感知出来る程、その能力が高い魔術師は多分国内でも100人も居ないと思うし。 ただ、それは今のイクト君と一緒で本当に感じる事が出来るって程度でしょうけどね。

そこから先へ進める人は、言わば選ばれたほんの一握りの人だけだから。 だからその才能が在るってだけでも十分自慢するに足る才能なんだよ!」


アリアさんは笑顔でそう言ってくれた。


別段、慰めるとか世辞を言っている様な雰囲気は無く、ただそれが事実だからこそ誇るべきだ、とでも言う様に育兎に語った。


すると育兎も何かを諦めた様に渇いた笑みを浮かべて話し始めた。


「あははは・・いや、ホントすみませんアリアさん。

ただちょっと・・姉が優秀だったせいか、才能とか天才って言葉を自分に使われる事に少し苦手意識が在っただけで、別に他意は無いです。」


そしてアリアさんが「あ~ぁ!」と納得した様な声を出した。


「それで私が冗談めかして〝天才少年〟、なんて言ったから顔をしかめたのね?」


そう言われた育兎は「え!?しかめちゃってましたか?」と小さく洩らし…


「まあでも、そうですね。 才能云々は稟姉の専売特許なんで、慣れないボクが言われても少し居心地が悪かったです。」

「ふ~ん・・。 でも、人は誰しも成長する生き物だからね、ここに来てイクト君の才能も開花したのかも知れないよ?」

「・・・だと嬉しいんですけどねぇ。」

「むぅー・・。

イクト君若いのに冷め過ぎだよ? もっと、こう・・何か無いの? 大声で喜びを表したりとか?」


育兎の歳の割りに冷めた反応に、呆れた様な声をだし非難するアリアさん。


「大きな声で、ですか? そう言うのはボクの友達の方が得意ですね。」

「イクト君の友達って言うと・・あの小さい子達二人のどっちかかしら。 男の子の方?それとも女の子の方?」

「どっちもボクの友達ですけど、男の子の方です。 名前は八雲。」

「へーヤクモ君か! うん、確かにあの子はそんな感じの反応してくれそうだね。」


アリアさんはそのシーンを想像したのか突然「クスクス」と小さな声で笑い出した。


「あの、アリアさん?

そろそろ本題へ行きませんか? さっきから話してばかりで一向に魔術を教わってませんよ。」


育兎が疲れた様に肩を竦め、アリアさんに話しかけた。


「あら!? そうだったわね。 それじゃあこの指輪を今日も指に嵌めてね。」


そう言ってアリアさんは昨日の指輪を育兎へと渡し、受け取った育兎はその指輪を即座に指に嵌めた。


「準備出来たよ!」

「分かったわ、それじゃあ<湧水(ウォーター)>の呪文だったわね。」

「うん。」


育兎が答えるとアリアさんが鍋を持ち上げ、「それじゃあ、少し見ててね。」そう言って育兎へ背を向け流しの方を向く。


そう言ってアリアさんは鍋を右の手の平に持ちながら、左手を少し上から鍋の方へ向けてかざし、(おもむろ)に呪文を唱える。


「【ウォーター】!」


するとアリアさんが呪文を唱えた途端、鍋の頭上から掌サイズの魔方陣が現れ、そこからまるで小さな滝の様に大量の水が鍋へと注がれた。


「うわぁ・・凄い・・」


少し後ろで見ていた育兎が驚きの声を洩らす。


「あらら…!? ちょっと多かったかな? まあ良いっか、それじゃあ早速鍋を洗っちゃうね。」


アリアさんはそう言うと洗剤と乾燥されたヘチマの様なスポンジ状のモノを手に取り、素早く鍋を洗ってゆく。


「…最後に流して、はい完了! 流れは大体分かってもらえたわね?

湧水(ウォーター)>は呪文を唱えれば水は出るし、今回は<灯火(ファイア)>と違って火加減とか気にしなくても食材が焦げたりしないから大丈夫だよ。 結構簡単でしょう?」


鍋を洗い終わったアリアさんが振り返って育兎へそう言った。


「そうですね、早速やってみます。」

「うんうん、その意気だよ!! それじゃあ、はい!イクト君。 ここでやって良いよ。」

「はい、ありがとうございます。」

「ついでに、ソニア達が持って来たこれも洗っておいてね!」


そう言って、調理台へ鍋を置きに行く帰りにソニア達から木ベラや生の野菜を受け取り、流し場近くの調理台へと置いていった。


「分かりました。 それじゃあ早速・・・」


そう言って育兎が右手で寸胴タイプの鍋の取っ手を掴み持ち上げると、アリアさんが声を掛けてきた。


「あっ!?イクト君!

一応始めて使う魔術だし、最初は手に何も持たない状態で唱えた方が集中出来ると思うよ!

鍋は流しの床に置いて良いから、こう…両手をかざす感じでやってみて! 後は、水を止めたい時はそう念じれば止まると思う。難しく無いからやって見て。」

「わかりました、やってみます。」


育兎が呪文を唱えようとしたら後ろから見ていたアリアさんにそうアドバイスを貰い、素直に受け取った。



  コトン



育兎は小さい寸胴鍋を流しの中に置き、目を閉じて指先に集中した。



  「・・・・」



暫らく目を閉じて集中していた育兎は小さな囁く様な声で「よし!」と一言発し、ゆっくりと目を開いた。


目を開いた育兎の瞳には静かな気合が満ち溢れていて、昨日とはうって変わってある種の自信に満ちている。


育兎はアリアさんのアドバイス通り両手を鍋へとかざし、視線も手の平越しに鍋へと向けた。


そして育兎の集中が程好い緊張感を生んだ雰囲気の中で、その呪文は唱えられた。


「・・・・、【ウォーター】!!」


育兎は呪文を唱えた瞬間、意識していたお蔭か体の中では指輪を着けた左の小指を中心に温かいナニカが駆け巡るのを感じていた。


そしてアリアさんの時と同じ様に鍋の頭上に小さな魔方陣が現れ、そこからアリアさんより量は少ないものの、「ザザァーー」っと、まるで水道の蛇口を思いっきり捻った時の様に勢い良く水が流れ出して来た。


「うわぁ・・、出来たぁ・・!!」


育兎が噛締める様に喜びを口に出すとアリアさんが後ろから声を掛けて来た。


「ほらほらイクト君早く洗っちゃわないと! この魔術、水を止めるまでずっと魔力を使い続けるから、いくら魔力の多いイクト君でも無駄使いしちゃったら<灯火(ファイア)>の訓練が出来なくなっちゃうよ!?」

「ええっ!? それはちょっと大変ですね!?

感動は後回しにして今は先に洗い物を済ませちゃいますね!」


そう言うと育兎は手早く道具を洗っていく。


「あ!? お鍋は洗い終わったみたいだね! それじゃあ拭いておくからこっちに貰うね。」


アリアさんの言葉に育兎は洗い終わり最後に水で流した鍋をアリアさんへ手渡した。


「それじゃあお願いします。」

「うん、任せて。 ・・あっ!? そうだイクト君」

「何ですかアリアさん?」


「おぉ!? 本当に止まった!?」と、水を止めて育兎がアリアさんを振り返った。


「うん。 見た感じ、イクト君水を出すだけならもう慣れたみたいだから、少しステップアップしてみようかと思って!!

次に洗う物って木ベラや野菜とかの小さい物だよね?」


そう言ってアリアさんが育兎の手に持つ木ベラや調理台の野菜に視線を移す。


育兎はアリアさんの笑顔に少し警戒しながらも素直に答える。


「そうですね。 小物とは言え、寸胴鍋に比べれば大分小さくなりますよ?」

「よし、それじゃあ今手に持ってる木ベラを洗う時に少し魔力の量を絞る様にイメージしながら水の量を少し抑えてみようか?」

「え!? いきなりですか?」

「大丈夫!! さっきの話を聞いてイクト君が思ったより魔力への感受性が高い事は分かってるから、取りあえず失敗しても良いから試してみて!

木ベラと野菜でそれなりの回数挑戦出来ると思うし。 まぁ、今回出来なくても夕食の仕込みの時にまた手伝って貰うから問題無いよ♪」


と、アリアさんは笑顔で激励でも送るのかと思いきや、いつの間にかに夕食で使う野菜の仕込みの手伝いまで約束させられてしまった育兎。


「えっと、・・・がんばります。」


育兎はニコニコと笑ながら語るアリアさんに見詰められ、諦めの表情でどっと疲れた様に肩を落とし、アリアさんに答えた。


「それじゃあ私はこっちでパン作ってるから、そっちはイクト君お願いね♪」

「あっ!? 了解です!」


そう言ってアリアさんは奥の調理台のスペースで作業を始めた。


「それじゃあ、ボクも頑張ってみようかな!!」


そう言うと育兎は木ベラを床へ置き、木ベラに両手を構えて目を閉じ、集中に入った。


『〝絞る〟かぁ…。 まだたったの2回目なのにアリアさんも無茶言うなぁ。

でも、さっきもあの温かい感覚は感じたから、アレが手から流れ出る量を出来るだけ絞ってやれば・・・上手くいくかな?

って、ごちゃごちゃ考えても昨日の二の舞を踏む訳には行かないよね。今は集中集中…』


先程よりも少し長く集中を取った育兎は、ゆっくりと目を開き「すぅ…ふぅー」と、ゆっくりと息を吸い、深くじっくりと吐いた後、静かに呪文を唱えた。


「・・・、【ウォーター】!」


育兎は呪文を唱えた瞬間、先程と同じ様に全身を温かな〝力〟の流れが駆け巡ろうとしていたが、その流れを育兎は意思の力で押さえ込もうと試みた。


術が展開され、魔術が発動するまでの、僅か数瞬の出来事。


その結果、展開された魔方陣から出て来た水は、僅かばかり前回よりも水の勢いが抑えられていた。


「これも・・成功かな?」

「ええっ!? もう出来たの!? 凄いねイクト君!」


いつの間にか育兎の背後には両手を白い粉で汚したアリアさんが育兎の魔術を覗き見に来ていた。


「・・う~ん。 でも、こんなに簡単に出来るなら、もう少しギリギリまで魔力を抑える訓練をしてみるのも良いかも知れないわね。

今は本当に少しだけ水量が減っただけで、結構勢い良く水は出てる事に変わり無いもの。

今は両手で円を描くぐらいの太さの水が魔方陣から出てきてるけど、目標はこれくらいだね!」


そう言ってアリアさんは親指と中指で円を描き、育兎へと掲げてみせる。


「これで半分か、それより少し小さい位だと思うけど、目標はこのぐらいかな!!」

「ええっ!? 今のもかなり頑張った方ですけど・・

水の勢いは兎も角、魔方陣から出て来る太さを絞るのはちょっと難易度高過ぎませんか?」


既にアリアさんが話し始めた辺りから一度水を止めてしまっていた育兎だったが、まるで今も継続して魔力を使われている様に表情に疲れの色が見え隠れしている。


「うん、そうだよ。 この目標は少し高めに設定して在るけど、イクト君せっかく才能もあるんだし、どうせなら伸ばさないと勿体無いでしょう?」

「いや、まあ、そう言って貰えるのはとっても有り難いんですけど・・・」

「別にこれは今日の目標じゃあないわ、今後の課題の一つと考えてくれれば良いのよ!!

さあ、その為にも野菜を綺麗に洗っておいて! 大丈夫!?夕食はこれの倍近くの野菜を使うから沢山練習の機会は在るわよ♪」

「・・あぁ~・・・、はい。」


笑顔で話し続けるアリアさんに、もう育兎にはただ返事をする気力しか残っていなかった。


『あぁ…もう…

なんでボクの周りには、こう・・笑顔で物事を押し進める人が多いんだろう・・・』


育兎はいつの間にか連日の野菜洗いが日課に成りつつある在る現状を止める事が出来ず、ニコニコしながら語るアリアさんに、既に諦めの境地へ達する思いだった。



   ◇◆◇◆◇◆◇



12/20 微修正、度々ながら…

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