第12話 - 「食卓会議?」
昨日の夕食では、最初は凛姉や他の皆と今日一日の事について語り合って楽しく食事をしていたが、途中リリットがボクが倒れた原因を説明し始めるにつれて雲行が怪しくなって来た。
ボクの今後の訓練方法で少し揉めたのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
魔術を行使する際、魔術師は二種類の魔力を使って魔術を行っているとアリアさんが教えてくれた。
術師自身、又は生物が生成する魔力の事を【オド】と呼び、それとは別に大気や自然に満ちた魔力の事を【マナ】と呼ぶらしい。
今の魔術にはこの魔力と魔力、二つの魔力を使い魔術を行使するそうだ。
ちなみに、魔術は基本的には魔力を持たない者には使用する事は出来ないと言われている。
今の魔術を簡単に説明すると、
魔力。 己の魔力を起点とし、更に其処に周囲に在る魔力を集束させる事により術式を展開・起動させる事によって発現する神秘の様な技術だと教えてくれた。
それ故に、魔力を大量に集める事が出来る者、魔力に対して影響力の強い者の事を〝支配力が高い〟と表現される。
そしてそれは、その能力が高い者程魔術師としての素質が高い事を意味し、
また、魔術師として大成する者は皆その能力が頭一つ二つ飛び抜けた者が多い。
ボクが昨日やったのは、魔力制御が未熟な為に、最初に呪文を唱えた時以外はずっと自身の魔力を使用し続けていたと教えられた。
原因は不明だが、元々魔力制御が未熟な上、意識を過剰なまでに己に向けていたからだと教えられたけど・・・
正直そんな無自覚でやった事を言われても戸惑うばかりだった。
当然、そんな方法で魔術を扱えば体内から直ぐに魔力が無くなってしまう。
今回ボクは運良く気を失う程度で済んだけど、最悪〝術師本人の死〟…、つまりはボク自身が死ぬ可能性が多分に有る危険な行為だとリリットとアリアさんから説教を受けてしまった。
そんな事も有った為に、ボクの今後の訓練が見直される事になった。
◇◆◇◆◇◆◇
多くの魔術師を束ねる魔術師協会は長い歴史の中で魔術を行う際、自身の魔力と自然界の魔力を術式に送る割合は1:1で行なうのが威力や魔術の操作性(魔術の成功率を含め)を加味した結果、最も安定した結果が得られた為、一番効率的な比率だと結論付けた。
魔力と魔力の比率は同等、又は魔力の方を出来るだけ抑える。
そして自身への負担の軽減を図るのが常だ。
全ての魔術を魔力で行えば術の成功率は上がるが使用回数が極端に減り、尚且つ魔力は直ぐに枯渇する為術師本人の死のリスクが高まってしまう。
その為に魔術は長い年月を掛け、効率良く魔術(術式)に魔力を取り込む術を組み込んでいった。
それ故に、魔術を教える名門『オルフォート魔法学園』では魔術師教会の影響も強く、ここを卒業する者は皆その理念の下に魔術を習い、研鑽を磨いていった者達が数多く輩出されている。
自身の魔力を必要最小限に抑え、己の支配下に在る魔力を最大限魔術に組み込み、如何にしてその術式を完璧に制御する事が出来るか・・・
腕の良い魔術師とは、自身の力量で制御可能なギリギリの魔力量を理解し、己の意志で完璧に制御している者達の事だと教えて貰った。
そして、自身の力量を細かく把握し、自らにとって最も効率の良い比率を知っている事は、一流の魔術師ならば当たり前の事なのだとも教えられた。
リリットとアリアさんの口論が静かに繰り広げられる会議の最中、育兎はエルフのルッテさんから魔術の講義を受け現実逃避をしていた。
そしてやはり問題になったのが今回の訓練で一応は魔力制御の感覚を掴み始めた、育兎の今後の魔術訓練だ。
光矢さんや碧ちゃんは誰が心配する必要もない程、順調に各々の才能を開花させていく中、ボクだけ少し雲行きが怪しくなって来た。
候補は色々在る様で、
一つ目はリリットの監視の下、杖を使い今の内から初級・中級魔術を数多く唱え、ゆくゆくは上級魔術をも使いこなせる位、自らの持つ大量の魔力を操る事に早く慣れさせる為の訓練をする方向で大方決まっていた。
育兎が今すぐ強い力を求めた事もあるが、元々リリットの主要魔術が中級~上級魔術の魔術を好んで使うため、一番本人の希望にも合い、尚且つお金を稼ぐにも効率的(討伐限定では在るものの)だと考えたみたいだ。
そしてもう一人、ボク的には少し意外な人が出て来たな?と思ったんだけど…、それはアリアさんだ。
彼女は独自に所持している指輪型の杖、〝魔術師の指輪〟を育兎に貸し与え、まずは暴走しがちな育兎の魔力制御を完璧に自分の物にした方が好いと唱えた。
今ならこの魔術師の指輪の初級魔術以上の魔術を扱えないという〝枷〟のお蔭で、大きな被害に成らなかったが…
今後、育兎の保有している魔力とこれから体の成長と共に増えるであろう魔力量を加味すると、まず育兎が覚えるべきは魔術に慣れる事では無く、魔力を自在に、そして細かな制御も完璧にこなす事が出来る技術だとアリアさんは主張した。
二人の意見は、静かに冷静に相手の言葉に耳を傾けながら言葉を交わしている様に見えるが・・
その実、どちらも全くその意思を譲らない構えを取っていた。
その姿はさながら、互いに真剣を持ち合ってこれから決闘でも始めるかの様な雰囲気を、彼女達はその小さな身に纏っていた。
そんな感じで、昨日は周りの者が全く口を出す隙が無かった。
しかしそんな中、唯一凛だけはそんな二人には構う事無く育兎へと言葉を掛けた。
「育兎、貴方・・・」
◆◇◆◇◆◇◆
寝込んで遅くなった夕食を凛姉と一緒に取りながら、最初は今日の訓練の事を皆で話題にして楽しく食事をしていた。
「それで、二人はこう言ってるけど育君はどっちが良いの?
やっぱりこういう事は自分で決めなきゃでしょう?」
凛の質問に言い争っていた二人も、何時の間にか静かにこちらを窺っている。
育兎は躊躇いながらも、少しずつ、自分の今の気持ちを言葉で表そうと話し始めた。
「た、確かに力は今すぐ欲しい。かなぁ・・
ギルドの依頼で稼ぐのだって、やっぱ魔術は必要みたいだし、獣より魔物を狩った方が稼げるって言ってたしね。」
「うふふっ・・なーんだ、イクトも私と同じ考えなんじゃない。
やっぱり最初から私の言った通り、このまま私が魔術を教えと言う事で構わないでしょう?」
育兎の言葉を聞いたリリットの途端に勢い付いた言葉を無視して、稟が育兎へ質問を続ける。
「育君、その言い方だと・・今すぐお金が欲しいから〝仕方なく〟強力で効率的な魔術を覚える。・・と言っている様に聞こえるけど?」
「なっ!?
リン、仕方なくとはどういう意味ですか!!」
「いや、だってそれは・・。
最初に渡した銀貨約20枚だってさ、ボク等のこの人数でどれくらい生活費が必要なのかも今一良く分からないし。今日貸してもらった装備だって結構良い品だったみたいだし?
だから早く魔術を覚えて色々返さないと!って思っていても…、中々魔術は上手く出来ないし……」
内心、かなり余計な事に気を使っていいたらしい育兎が、リリットの叫ぶ声を又もスルーして今まで溜め込んで居たモノを少しずつ吐露する。
「……魔術は回数を重ねて体で感覚を掴むしかないとも言っていたから、それならリリットの魔術訓練を受けて早く魔獣や魔物を討伐出来る様になれば、修行と資金集めの両立が出来るかなぁ・・なんて、単純に思ったんだけど・・・。」
稟は育兎の言葉を聞いても、「ふーん、そっか」と、今一何を考えているのか分からない受け答えを返す。
「それじゃあ育君は、お金と時間に余裕が在ればどうしたいの?」
稟の改めての質問に育兎は暫し考えてからポツポツと語りだす。
「そりゃ勿論、今すぐ力は欲しいし、何より俺達には力が必要だ・・と・・思うけど。
こんな未知の力、俺にはきっと稟姉みたいに教わってすぐ使いこなせるとは思えないよ。
俺の場合、大抵こう言うのは遠回りした方が・・基礎からキッチリ学んだ方が結果的には良い様な気がする。」
「・・・ってか、事実昔爺ちゃんに武術習ってた時、思いっきりその辺りの事には痛感させられたから、今度は基礎もきっちりこなして学びたいんだよね…。」と、力無く昔を懐かしむ様にポツリと呟いた。
「はぁ~、育君は相変わらずねぇ・・。流石にまだ触れた事も無い力(魔術)何て、使いこなせるかどうかも分からないでしょうに。」
すると育兎が「あぁ、それと今思い出したんだけど・・」と・・
「でも、そんな感じの台詞って爺ちゃんの道場に通ってた時にも言ってたよね。」
「え!? 爺ちゃんの道場って、西園寺のお爺さんの?」
「そうそう、最初は二人で武術を習い始めたはずなのにさぁ、たった1年で稟姉が免許皆伝を爺ちゃんから貰って、俺が一ヶ月程ストライキしたアレだよ。・・・もうあの時に嫌って程思い知らされたからね、身の程って言葉を。」
そう言って少し恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる育兎。
「う~ん、でもあの後数年掛けて育君も同じの取ってたじゃない?
後でお爺ちゃんに聞いたけど、育君ぐらいの年の子がたった数年で取れるモノじゃあ無いって言ってたわよ?」
「・・・そりゃあね、目の前で女の子だった稟姉がたった1年で取ってるんだもん。ボクも弟(男)の意地でガンバリマシタヨ?」
「あぁ確かに、あの頃の育君は頑張ってたよねぇ・・」
お互い、当時のアレやコレやを思い出し、少し疲れた目をして声だけで笑いあう。
「あはははははははっ・・・」
「ははははははははっ・・・」
「「 ・・・はぁ~~ 」」
一通り渇いた笑いをし終えると、お互い吐いた大きく深い溜息を皮切りに育兎が気を取り直した様に話し始めた。
「いやまあ、それは今はどうでもいいんだけどね。
要はボクがり・・いや、上を目指そうと思ったら、少しぐらい遠回りしても、それはきっと大差の無い事で・・。
寧ろ、軽く遠回りした事で出来た距離を〝助走〟に変える位の勢いが無いと、って感じの話かな。」
そして育兎は少し間を置き、自分の気持ちを、一番の理由を言葉にする。
「それにさ、やっぱ魔術って言うか、自分が手に入れた力って、じっくり研究して色々試したいじゃん?」
今まで疲れ気味に話していた育兎が一転、まるで年相応の少年の様な笑顔で続きを語る。
「料理もやっぱりそうなんだけど、応用って実は基礎が確り出来てないと結構行き詰まる事が多いんだよね。
自分の作りたい料理が在ったり、創作でこんな料理が作りたい!って思っても、それを作る腕が無い、技術が無い、それじゃあもう全くお話にならない・・。
向こうに居た時は稟姉にせがまれて色々作ったけど、それもレシピ本が在ったり、TVやネットから某かの情報を見て、後は作り方を自分の持ってる知識で真似て見たりって感じで、やっぱり下地には自分である程度出来ない事には美味しい料理は出来ないんだよね。
まあ…それでも、料理と魔術を同列に扱うのもどうかと思うけど、やっぱり時間が在れば基礎からじっくりやりたかったかなぁ・・・」
そして等々自分の言葉にヒートアップしていった育兎は「そう、問題は時間何だよな、時間…時間…」と目の前に居ても聞き取れるか聞き取れない様な囁き声でぶつぶつえと呟きながら一人悩み出していた。
傍から見れば唯の危ない人である、今日の魔術の訓練が芳しく無かったせいも在り、イイ感じに情緒不安定だ。
稟は育兎の正面に立ち、育兎の悶える姿から目を逸らさず、ずっと育兎を見詰めていた。
他の仲間やサイネリア達も育兎の話を静かに聴いていた。
ただ一人、何故かリリットだけは少々ばつの悪そうな表情で育兎の話を聞いていたが、それも話の途中までだった。
一気に喋った育兎は、自分が勢い余って話してしまった事に、戸惑いと言うか、混乱している様に押し黙ってしまい、そこに暫しの沈黙が生まれる。
誰もが何を言って良い物か思い悩んでいる隙に、その沈黙を破ったのは他でもない、姉の稟だった。
「・・・時間…かぁ。そうだ、ねえサイネリア・・」
「ああ、なんだ?」
「今日は私の剣を見て、どうでした?
私の腕ではまだまだギルドに登録するのは大分先になるのかしら?」
「え?
・・ああ、いや今登録しても恐らく獣くらいは普通に狩れるだろうからこなせる依頼は在ると思うぞ?」
「・・魔獣や魔物に対抗出来るくらいになるのにどれくらい掛かると思います?」
「魔獣かぁ…、リンは元々何かの武術の心得もあるし、覚えも早い。
ただリンの場合、修めた技に身体が追いつかない可能性の方が高そうだしなぁ・・そこが少し心配だな。」
「・・・今日一日でそんな事まで分かるんですか?」
稟が少し感心した様な表情を浮かべるが、サイネリアは軽く自嘲気味な笑みを返す。
「それは・・、まあね。
私に指摘された所を素早く改善してくるだけでなく、ちょっと剣を合わせている最中に私の動きまで取り入れようとしていただろう?」
「…確かに指摘された所を少し意識はしましたけど、・・あんな動き、私には無理ですよ。」
「だから、それはまだ身体が出来上がって無いだけなんだよ。
どんどん吸収されるから私も少し意地悪を言ってたが、もう2、3ヶ月訓練漬けの毎日を送れば嫌でもそれに適した身体が作られるさ。」
サイネリアにそこまで太鼓判を押されて「う~ん」と少し難しい顔をして悩む稟。
「ちなみに…その訓練漬けの数ヶ月を経た私なら、魔物に対抗出来ますか?」
「あ~それはぁ・・どうだろうな?
比較的小さい種類の魔物なら案外楽に狩れるかな?
取りあえず、リンが剣や槍を使ったとして、武器を持ちながらでも魔物の動きに対応出来るぐらいには成長するんじゃないか?
だが、今の感じだと中型以上の魔物には少し厳しいと思うぞ。
魔術での一撃なら兎も角、普通の剣や槍じゃあ魔物に対して致命傷を与えるのは結構難しいんだよ。
まあ、だから魔獣や魔物を相手にする時はパーティを組んで、仲間達と連係を取って魔物を討伐するんだがな。」
と、後半部分を妙に誇らしげに語るサイネリア。
サイネリアがリーダーを務める『風の翼』は女性だけのパーティーであるにもかかわらず、サイネリア達個人個人の能力が高いのもさる事ながら、仲間同士の連係が他のパーティーより巧みな事で他よりも多くの高ランクの依頼をこなして来たパーティーだと、昨日自慢げに語ってくれた。
その事も在って色々な土地で高ランクの討伐依頼を多くこなし、瞬く間にAランクに駆け上がった期待の新鋭冒険者達らしい。
と、少し前にクララが教えてくれたが、それが凄い事は何となくニュアンスで伝わるものの、今一どれ程凄い事なのか今の僕等には判断が出来なかったので皆それぞれ本気で感心した者もいれば、日本人特有のと言わんばかりの社交辞令で感心する者が数名。若干一名程前の二つの例に当て嵌まらず、対抗心を燃やしている奴もいたが・・・まあ、いいだろう。
「それじゃあ2、3ヶ月掛けても武器では難しそうですね。・・・やっぱり私も魔術に期待するしか無さそうね。
それじゃあリコッタさんとアルテシアさん、お二人が相手した八雲君と桜火さんはどうでした?」
リコッタとアルテシアはお互いとお互いの相手を一度見つめ、そしてリコッタから話始めた。
「ヤクモは最初始めて剣を手にしたと言ってはしゃいでいたな。
それに今まで剣を教わった事が無かったんだろう、最初は剣の重さに体が振り回されていたみたいだったが、直ぐにコツを掴んで中々動きは良かったぞ。
私が見た所筋は良かったよ思う。」
「おっ!?マジで!!」
今まで興味無さげに話を聞いていた八雲がリコッタの言葉を聞いてかなり興奮気味に嬉しさを抑える事が出来ない様だ。
「へー八雲君凄いわね!!それは良かったわ。」
「だがまあ、それも相手が獣や街の暴漢だったらの話だ。
リンと同じく、ギルド登録は数ヶ月の訓練を積んだ後の方がヤクモの為にも良いと思うが・・・
まあ、後は魔術の才能がどの程度在るかでその時間も大分縮まると思うがな。」
「あ~何だ。早く冒険に行けると思ってたのに…やっぱ駄目か。」
途端にリコッタの話に興味を無くす八雲、稟は八雲の反応に苦笑を漏らしてアルテシアへ話を促した。
「ん!?私か。
確か、オウカは一度ビックボアと遭遇して戦り合ってただろ?
刃が徹らなかった・・と言うか、刃引きされた剣を振り回して気絶させたって聞いたが・・・
奴の速さに対応出来るなら、その辺の魔物なら1対1で問題無いと思う。」
「えっ!?」
「・・・そうだな、オウカなら今の段階でも既に小型の魔物や魔蟲程度は難なく倒せると思うが…」
「本当か!?」
桜火はアルテシアの言葉に驚きの声を上げてしまった。
あの時俺が見せた剣・・・、初めて真剣で師匠以外の人間(?)と立ち会ったとは言え、かなりお粗末なモノを見せたと桜火自身は思っていた。
『緊張してたにしてもアレは酷かったよな…。
それに最後は虎の子の抜刀術まで使って見たけど、俺が寸止めするまでも無くアルテシアが自分の力で止めちまったし・・。
正直、あの手合わせはアルテシアに俺の力を示したって言うより、アルテシアの剣技を見せ付けられた。って印象しか無いんだよなぁ…』
そう桜火が考えていた時。
案の定、アルテシアが勿体ぶった様に口を開いた。
「…まあそれも、相手が単体だったり少数の場合ならだけどね。
きっと、今戦っても奴等の動きに翻弄されてしまうだろうな。
依頼に因っては運悪く数の暴力に圧し負ける可能性も在るかもしれない・・・。
特に小型の魔物や魔蟲は群れる習性があるから、少しそれ様の戦い方を仕込むのに時間は必要だと思うぞ。」
それを聞いた桜火は何も言えず「ガックシ」と肩を落としてしまった。
「それじゃあ、桜火さんにも数ヶ月の訓練が必要だと言う事ですか?」
「う~ん、それはどうなるか分からないな?
まだ魔術を見て無いからそっちは何とも言えないが・・
オウカなら対集団用の動きも直ぐに対応出来そうだ、それにまだ若い、身体の成長も早いだろう。
早ければ最短で1ヶ月かそこ等でオウカは仕上がるんじゃあないか?」
「はぇー、それは凄く早いですね。」
稟が予想以上の速さにちょっと驚く。
「ええっ!?
一ヶ月でこの子を魔物に対応出来る様に訓練するんですか・・・。流石に無茶じゃ無いですか?」
思わずと言った風にクララが声を上げた。
この世界の人族の子供が、それも冒険者でも無い素人が魔物に対抗しようとするのに、一ヶ月は短すぎる。
同じ年頃の人族の子供達ではまず在り得ない。
身体の出来上がった大人でも、魔物が相手ではやはり恐怖心などで体が思う様に動かなかったりする為、かなり難しい。
何より大抵の街の住民は何かしらの仕事に就き、子供達は街の彼方此方を遊び場に駆け回っているのが一般的なのだ。
街の子供達は、稟や桜火達の様に義務教育など受けている訳も無く、
一方、授業とは言え小学校の頃から体育が有り、中学・高校と年齢を重ねるに連れ、授業で最低限の武術に触れる機会が有るのが稟達が今まで居た世の中だ。
街の子供相手ならまだば、まだこちらの世界の子供達より桜火達の方が体力的にも身体能力的にも勝っていると思われる。
だがそれでも、魔物に対抗出来る程・・・と言うのは普通では在りえない。
桜火と、辛うじて稟が例外なのは彼等が個人的にも体を鍛えていた者達だからだ。
「いや、オウカなら意外と出来るんじゃあないか?
別に素人って訳でも無い様だし。でもまあ…
それはリンにも言える事だが、さっきのサイネリアが言ってた感じだと、リンはオウカ程本格的に鍛えてた様でも無さそうだからな、少し難しいかもね。」
「へぇ~、オウカってそんなに凄いんだっ!?」
クララが感心した様に桜火をマジマジと見つめる。
「いや、きっと前に鍛えていた人が凄かったんだろう。
オウカは確かに人族にしては身体能力が高そうだが、少しムラも多いしな。
せっかくいい物を持っていても、あの性格では何れ無作為に敵に突っ込んで行って死ぬのが目に見えている。」
桜火は桜火で何も言い返す事が出来ず、微妙な表情でアルテシアの言葉を聞いていた。
熱くなると周りが見えなくなるのはずっと師匠に言われ続けていた事だった。
しかも前半師匠や自分を褒める様な言葉を聞いて浮かれ悦んでしまった自分が居て、余計に恥ずかしい思いで一杯だ。
「だがそれも、ここで一ヶ月鍛えれば結構面白い事になると思うよ?」
アルテシアはこれからの一ヶ月を思い浮かべてか、もの凄く楽しそうな含み笑いを浮かべている。
「と言う事は、桜火さんは後一月程ここでアルテシアさんの訓練・・むしろ修行?でしょうか。
それを受けてからギルドで登録を行うんですね。」
「ああ、たぶんそうなるだろうね。」
「よし、一ヵ月後だな。」
桜火が「パシュ」っと右の拳を左手に打ち付けて気合を入れる。
◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃあ、次はお待ちかねの育君と碧ちゃんと光矢さん。今日魔術を習った三人はどうでした?
まあ、育君が余り芳しくなかったのは本人を見れば分かりますけど・・・一応初日ですしね。
直接教えていた貴女達の話を聞かせてくれませんか?」
そう稟に問われ、リリット、クララ、ルッテの三人に+(プラス)アリアを加えた4人が、お互いの顔色を窺いながら、誰が先に話し始めるか目で会話し始めた。
そしてクララが我慢出来なかったのだろう。
他の3人がけん制し合っているのを横からヒョイっと手を上げて話始めた。
「それじゃあ~、はいっ!!
私から言うね♪」
「ええ、お願いします。」
「うん、了解!!
そうだねー・・まず、リン達は今日剣を習ってたから分からないと思うけど、普通の魔術師見習いの子達は魔術を習い始めると自分の魔力を高める訓練と自分の魔力の存在を感じる訓練をするんだ。
でも、君達は皆魔力が高いから今回は魔力を高める訓練を省いて魔力の存在を感じる方の訓練を重点的にやる予定だったの。
ここまでは大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。」
稟は短く答えてクララに先を促す。
「それでね、さっき言った魔力を感じる能力を魔力感知、そして魔力感知で把握した魔力を操る能力が魔力制御。
この二つの能力が魔術を使う上でとても重要な能力なんだけど・・と言っても、魔術師にとっては最低限必須の能力なんだけどね。
3人にはまずこの能力を自力で体得して貰う為に色々やってもうら予定だったんだぁ・・けどね。…はぁ~」
「あら!? 何か有ったんですか?」
クララは碧、光矢、育兎と三人の顔を見て一つ呆れた様なため息を小さく吐いた。
「ううん、普通始めて魔術に触れる者はこの訓練が最初の、そして一番の難関になるハズなんだけどね。
ミドリもミツヤも訓練を始めて直ぐ出来る様になっちゃったから・・・、あんなのを目の当たりにさせられたらイクトも焦りもするかなぁ…って思ってね。
私もこの訓練には苦労させられた方だから、イクトの気持ちは少し分かるわ。」
「碧ちゃん達はそんなに上達が早かったんですか?」
「うん、殆んど始めて直ぐ出来てたと思うよ?
普通は魔力感知と魔力制御の訓練に数日掛けて時間を割いて体で覚えるものなんだけどねぇ~。
二人が余りに簡単にこなすものだから、リリットが当初教える予定だった魔術を変更するぐらいだったし。
【障壁魔術】って言って、始めて扱うには少し難しい魔術なんだけどね。それに挑戦して貰ったんだ。
相手の魔術防ぐ魔術で、少し実戦向けの魔術に挑戦させたんだけど、ミツヤはもうカタチに成ってたし、ミドリも何度か成功してるからあと少し訓練すれば二人とも出来る様にはなると思う。
本当、二人とも凄い才能が在るよ子達だよ。」
「それじゃあ育兎はっ・・・育君は、やっぱり魔術の才能は無いんでしょうか?」
その質問にクララは難しい顔をしたが、その後ろから稟の質問に答える者が居た。
クララの後ろで自信満々に佇んでいるリリットだ。
「大丈夫よリン。
イクトも魔術の素質は高い方だから。
今日の訓練だって、魔力感知を知らないイクトが、ただ杖の先に意識を集中しただけで結構な量の魔力を杖に集めてましたからね。
その為に、慌てて訓練を止めさせた位なんだから。」
「え!? そんな事があったんですか!!」
稟は慌ててリリットに質問するが、リリットは何でも無い事の様に聞き流し話を続ける。
まあ実際の所、特にその場では育兎に問題も無かった訳で・・。
「あれを意識して出来る様に成れば・・後はどんな魔術もイクトしだいで覚えられるわよ。」
しかしリリットは「まあ本人には伝えてませんけどね。」とさらっと稟に告げる。
「だから才能はむしろ在る方ねだから心配しないで、今はまだ使い方を知らないだけよ。」
「まあ、魔術なんて魔力さえ在れば後は反復練習なのだから。」と、当たり前の様に言うリリットにすぐさま異を唱える者達が…
「いやいや、それを言えるのは本当リリットだけだよ?」
「リン、絶対信じちゃダメだよ?」とクララが稟へと訴える。
「普通は何度繰り返そうとも、出来ない系統は出来ないし、無理な属性は無理だからね!!」
と、リリットの言葉をクララが素早く否定する。
消入りそうな声で「もう何度挫折を味わった事か…」と、かなり実感が篭っていた。
「え!? そうかしら?」
「そうですよ。」
リリットの何気ない一言にクララに続けてルッテも静かに、しかしキッパリとリリットの意見に真っ向から反論した。
「魔力に対して親和性の高いエルフの私ですら苦手なものが在るのに、リリットさん殆んどの属性を網羅してるそうじゃないですか?
普通は種族やその人個人に因って苦手なモノが在るハズなのに・・、リリットさんの基準は絶っ対っおかしいんですからね?」
普段物静かなイメージのあるルッテが、言葉を紡ぐに連れ段々と気持ちが高ぶっているのが分かる。
道は違えど、同じ魔導の道を志す者として、普段は押さえている感情が在ったのかも知れない。
この世界で、「魔術師」と言えば普通は元素を操る「元素魔術士」を指す。
一つの属性を上級まで使いこなせる様になって初めて、その一つの属性を「修めた」と表現するが、これが中々に難しい。
魔術師の大抵は基本の4元素、火属性、水属性、風属性、土属性の中から自分の得意な属性を1つ、2つ鍛え、後は他の4元素をある程度使いこなせている様にするのが一般的だ。
しかしリリット本人から話を聞いた限りでは、彼女は基本の幾つかは既に修め、他にも数種類の属性を使う事が出来るそうだ。
全部で6~7属性を操る事が可能らしい、相当な力の持ち主である事は想像に難くない。
それこそ、エルフのルッテは魔術より力を持つと云われている『精霊』と契約を交わした【精霊使い】だが。
彼女の契約しているのは水の精霊で、水の精霊が使う能力は精霊魔法、要は精霊に由って起こされる現象の前では下手な魔術では刃がたた無い。
対抗手段としては、複数の属性を組み合わせた魔術でないと、容易に力負けし、術を破られる。
だが逆に、複数の属性を組み合わせた【複合魔術】を使う事が出来れば、強力な『魔法』に対抗する事が出来る可能性が生まれる。
その為、リリットの様にランクが上がる程扱う属性の数も多くなる傾向に在る。
それが今の時点で+2~3属性となれば、相当努力をしたか、類稀な才能の持ち主か、将又その両方か・・・
兎に角、リリットは同じAランクの魔術師の中では頭一つ出ている。
流石のAランクの冒険者でも、この数はかなり凄い事らしく、実際には基本の4元素全てを扱えるだけでも相当長い時間と修練を必要とする。
そしてリリットは、全ての魔術を上級とまではいかないらしいが、かなりの錬度で身に着けていると豪語していた。(流石に細かい属性までは、その時は教えてもらえなかった。)
「と言われても、私は苦手を克服する為に何度も練習していただけだもの。
それに私はルッテの様に精霊は使えないし、アリアの様に人形も使えないのよ?
それなら、今ある武器(魔術)を磨くしか無いでしょう?」
サイネリア達『風の翼』のメンバーは皆リリットの言葉に感心と呆れの混じった表情を浮かべているが、その辺り、魔術師と精霊使いの細かな違い等まだ教えて貰っていない稟や育兎達でも、まだ数日しか行動を共にしていないにも係わらず、「ああ、リリットがまた無茶な事を言ったのか…」と言う思いだけは伝わった。
◇◆◇◆◇◆◇
「それで、碧ちゃんと光矢君が既に色々魔術を使い出したのは分かったし、育君にも魔術の才能があった事は分かったけど・・・」
そこで稟は今一度育兎の様子を覗い、そしてリリット達に向き直った。
「最終的に育君は今日何をやって来たの?」
これにはリリットが答えた。
「イクトも最初はミドリ達を含めた三人に魔術を教えてたわ。
その後は各自自分の魔力を感じる事が出来る様に一人一人分かれてやってもらったの。
そこでさっき言った様な事が起きたのよ。」
「それじゃあ、その後は?」
「その後はアリアが知ってるわ。」
「え!? アリアさんが・・ですか?」
稟はリリットからアリアへと視線を移す。
アリアの子供の様な外見のせいか、稟が疑問の顔つきでアリアを見詰めている。
そしてアリアが続きを引き継いだ。
「うん、そうだよ。
そっかー、貴女がイクト君のお姉さんなんだねぇ~。
貴女の弟君、私の所で色々手伝って貰ったよ。凄い助かっちゃった♪」
「は、はぁ・・そうですか。」
少し興奮気味で稟に嬉しそうにお礼を言うアリアをどう受け答えたものかと、稟が少し判断に困っていた。
「それで、育君のその後の訓練は・・・」
「ああ、訓練の事だね。それなら私が確りとやっておいたよ!!
本当は、魔術で使って料理をして貰うハズだったんだけどね。」
「…〝本当は〟って事は、出来なかったんですか?」
稟が少し声を沈めてアリアへ確認する。
「そうだね、まあ結果的にはだけどね。
料理を作る前に彼の魔力が切れちゃったから、そのまま今日は休んで貰ったんだよ。」
「・・あぁ、だから屋敷に帰って来た時寝込んでいたんですね。」
「そう言う事。
少しでも魔力を制御する事が出来れば、鍋を煮込む火を調整して料理を手伝って貰う予定だったんだけどねぇ~」
「え!? 火加減・・ですか?・・お鍋の?」
「うん、そうだよ。
一応、魔術の基礎訓練みたいな物なんだよ。
イクト君は料理が好きだって言ってたから、好きな事をしながらの方が集中力が増すだろうし、より自分で考える様にも成ると思ってね。
基本である魔力感知と魔力操作で上手く火加減を調節しないと美味しい料理は出来ないからねぇ~♪
まあでも、最近の魔術師はもう料理で魔術の訓練なんてしないんだよねぇ…。」
「はぁ~・・」と、アリアが小さくため息を吐く。
「イクト君には明日からリリットの訓練とは別にやって貰う予定だったけど・・、さっきの感じだとどうなんだろうね?
リリットでも基本を教える事は出来ると思うけど・・・
あの子の場合、途中で飽きて直ぐに自分の趣味(上級魔術)に走りそうなのよねぇ・・・。」
「それはまた、頼もしいと言うべきか、困ったと言うべきか・・・、微妙な問題ですね。」
「そうなんだよねぇ。
まあ、周りが彼是言っても選ぶのは本人なんだから、イクト君がどうするかを決めない事には私達は手助け出来ないけどね。」
そう言ってアリアと稟は揃って育兎へと視線を向ける。
「えぇっ!! 今決めるんですか!?」
「育君、貴方私達の会話を確りと聞いてたの?
リリットが教えるにしろ、アリアさんが教えるにしろ、それは貴方が決めなさい。
アリアさんがさっき言った感じだと、魔術は嫌々やらされても覚えは悪そうだし、今後の為にも自らの意思で決めた方が良いわ。」
「確かにそうね、魔術は本人が思っている以上に大きな力を術師に齎すわ。
技術的な事は勿論だけど、最も重要なのは魔術を使う時の気持ちや精神、モチベーションと言った内面を鍛え、維持し続ける事が一番難しいわ。
少なくとも重要な決断を他人に委ねる様な優柔不断な人に魔術は使いこなせないわよ?」
アリアさんが楽しそうな笑顔で育兎へ決断を迫る。
「さあ育君、早く決めなさい。
リリットなら大丈夫、さっきサイネリアに頼んで静かにして貰ったから今の内に答えて。」
「ああそうだ、イクト君!」
とここで、リリットを後ろから羽交い絞めにして〝静かに〟させているサイネリアが育兎に声を掛けた。
「だいぶお金のことを気にしているみたいだったけど、前に心配要らないって伝えなかったっかな?
あれは本当だから大丈夫だよ、今日の装備を私達のお古を出しただけだから別にお金は掛かってないしね。」
「え!? あぁ・・はい、ありがとうございます。」
「あははは、まだ微妙に納得して無さそうだね。」
「こりゃあリリットが言った様に姉同様、弟も意外と曲者かなぁ・・」と小さくぼやくサイネリア。
「う~んそれじゃ・・・あっ!?
そうだイクト、お金の話は又後にでじっくり話すとして・・だ。
君達の具体的な目標を伝えておくよ。」
「目標・・ですか?」
「ああそうだ。
まぁ、それが初めて私達とギルドの前にで会ったのに登録させなかった理由なんだけどね。」
と、勿体つけた様にサイネリアは言う。
「君達には少し特別なギルドカードを取って貰おうと思っているんだ。
ただ、それにはある程度の実力が必要なんだ、だからあの時はそのまま私達の屋敷へ君達を連れてきたんだよ。」
「そのギルドカードは何が特別なんですか?」
育兎は当然の様にその質問をサイネリアへ投げかける。
するとサイネリアは・・
「私達が普段持っているこのカード・・」
そう言ってサイネリアはズボンのポケットから「スッ」と取り出したのは赤を基調としたシンプルなデザインのカードだ。
大きさは縦横10㎝×6㎝程のカードで、内側の赤く染められた部分と外側、縁の部分が黒色。
素材は石の様な手触りの結構堅くてひんやりした素材で作られていた。
表には何か文字が書いてあり、裏には剣と弓が交差した意匠が彫られている。
「このカードはAランクのカードなんだが、依頼を受ける時ある種の制限を受けるんだ。」
「制限?」
「そうなんだ。
実はこのカードで受けられる依頼は、自分と同ランクの依頼か、上下一つ違いのランクの依頼しか受ける事が出来ない。」
「えっ!? って事はつまり、サイネリア達はBランクの依頼かAAランクの依頼しか受けられないって事?」
「いえ・・たぶんそれにSランクも入るんじゃないかしら?」
「ほぉ、良く分かったなリン。 正解だ!
このAランクのカードではBとAとAAランク、そしてSランクの依頼しか受ける事が出来ない。
力量の足りない下位ランクの者が過度に上位ランクの依頼を受ける事は出来ないし、上位ランクの者が過度に下位ランクの依頼を受ける事は出来ない。」
「へー、そんな制限が有るんだ。」
「きっとギルド側も依頼の成功率を上げる為には仕方が無いんでしょうね。
それに下位の冒険者も、それなら無茶が出来ないだろうし。」
「そう、正にリンの言う通り何だが・・・そこで一つ問題が在る。何か分かるか?」
そう問われた二人の内の片方、育兎は「う~ん」とだいぶ悩んだ末「分からない」と答えた。そして稟は・・
「・・もしかして、受けられる依頼自体が少ないのかしら?」
「おぉ!! 良く分かったね!?」
「いえ、ただちょっと・・・昨日街中を歩いて来た時に、大きな町の割に少し活気が乏しいかなぁ・・? と思って。」
「ああ、まあそうだな。
リンの言う通り、この辺りは近くに鉱山が多くて昔はそれなりに栄えた街だったんだが・・・在る時から鉱山から鉱石の採掘が出来なくなってそれと同時にこの街も少しづつ廃れていったんだ。」
「採掘出来なくなったって・・・採り尽くしちゃったって事?」
「いいや、鉱脈はまだ生きてるらしい。
ああ、丁度今日は天気が良いな・・」
そう言ってサイネリアが窓から空を眺める。
「うん?」
釣られて稟や育兎、八雲達も窓の外に目を向ける。
「今日は晴れて空に雲も無いから見えるな。この街の北の空だ。
ずっと向こうの方にデカい山脈が在るだろう? 空に白と黒の連なりを描いてる存在がそうだ。」
サイネリアはそう言って窓の外の空を指す。
その空の向こうにはかなり遠くに在るにも関わらず、その全貌が掴めない程広大だと判る巨大な山脈が視界一杯に広がっていた。
「ノーム山脈と言うんだが、そこの魔物が特に力を付けて凶悪らしい。
そして街は鉱山を中心に発展した街だからな、鉱山の閉鎖でギルドへの依頼が一気に激減。
街の住人もこの辺りで採れる良質な鉄で武器や武具を作る鍛冶師が多かったからそれらの人々が今は仕事を求めて王都や他の街へと移りすんだんだ。」
今はもう少し近場の鉱山で何とか保っている所だとか。
「それで、今の話ですと寧ろ依頼は多い様な気がしますが?」
「ああ。この街周辺の魔物達は数は多い、だが比較的弱いから依頼のランクも低いんだ。
そして件の山に住んでいる魔物は全てBランク以上。」
「え?
でもそれなら、この辺りの魔物をずっと狩っていれば問題無いのでは?」
育兎が当然の様にその疑問を述べる。が・・
「一定数低ランク、まあEFランクの依頼をこなすと、ギルドが自動的にDランクへランクを上げるんだ。」
「それならDかEの依頼を受ければ良いんじゃあないの?」
「いや、ギルド側も出来るだけ冒険者を育成して早くノーム山脈を魔物から取り返そうと実力の在る者には同ランク以下の依頼を拒否してくるんだ。」
「…え!? それじゃあギルド側が同ランク以下の依頼を受理しないって事ですか?」
「ああ、私達の様に好きでやってる者には大して関係の無い事だが、君達は違うだろう?」
「そうですね。
少なくとも自分の安全が確保出来る程の力を付けるまでは高いランクの依頼を受けるつもりは無いですし・・」
そう言って育兎は稟へ視線を向けた。
「私も育君と一緒ですね。
わざわざ危険を冒すにはちょっと…、せめて魔術を在る程度使える様に成るまではこの辺りの弱い獣や魔物やたまに練習がてらに討伐の依頼を受けるのも面白いかな? …と、思ったぐらいですね。」
そう言って稟は碧へと視線を向ける。
「碧ちゃんはどう?」
「私はぁ~・・・うん、私も稟お姉ちゃん達と一緒かな。」
「俺は早く剣と魔術を覚えて、そのノーム山脈って所に行ってみたいな!?
魔物がウジャウジャ居るって所が、何か良い感じがするぜッ!!」
「修行には持って来いの場所だろ!!」と、いきなり八雲が言い出した。
「いやヤクモ、お前はまだノーム山脈は止めておけ。」
今まで黙っていた熊獣人(ベアント族)のリコッタが八雲を止めた。
「えー? 何でだよリコッタ。」
配色が白と黒のパンダ柄とは言え、見た目リアルパンダのリコッタ相手に物怖じせず言い返す八雲。
「あはははっ、まあ良いから止めておけ。
今日一日、お前の剣の相手をした私が言ってるんだぞ?
お前の剣は筋は悪くないが、あそこの魔物相手じゃあ当分難しいだろうな。」
「え~、なーんだ、詰まんね~なぁ~・・・」
「バカっ!! 折角リコッタさんが注意してくれてんだから素直に聞いとけよ!」
育兎が「ポカッ」と八雲の頭を軽く殴る。
「痛ぇっ!? ってーな育兎ぉ。
まだ分からねぇーだろう?
もしかしたら俺に魔術の才能が有って即効で魔物も倒せる様に成るかも知れないじゃん?」
片目をつぶり、頭を擦りながら文句をたれる八雲。
「あっ!? そうだ育兎。
お前後で魔術の話ちょっと聞かせろよ? 俺も今日使った剣の話してやるから。」
育兎はそう苦い笑顔で八雲に返す。
「えぇー、ボクは今日殆んど成果出なかったから、余り話す事無いんだよなぁ・・・」
そして育兎はまるで今思い出したかの様に矛先を変えてやる。
「あ!? でも今日の碧ちゃん凄かったよ。」
「お!? マジで?」
「ああ。ってお前、さっきの話聞いてなかったのかよ?」
「ああ? 何がだよ?」
「それじゃあお前、光矢さんが今日魔術使ったって話も聞いてなかったのか?」
「え!? 初日から使える様になってんの?」
「ああ、光矢さんが凄い速さでコツを掴んだみたいでさ、それを聞いた碧ちゃんも直ぐに色々出来る様になってたよ。」
「あれ? 肝心のお前は?」
こいつ本当に聞いて無かったのか?
自分の失敗を根掘り葉掘り聞かれてるみたいで、凄ぇー恥ずいんだが・・・
育兎は少し言うのを躊躇した後、口を開いた。
「ボクも一応は魔術を使ったけど、アレは前の二人みたいに自分の力で、って言うのとは少し違う気がする・・・かなぁ…?」
「ふーん、そうか。」と、育兎がこれ以上語りたがらないのを見て八雲はサラッと肯いた。
「だから聞くならボクより碧ちゃんの方が良いよ。 ボクも彼女に教えて貰ったし。」
育兎のこの発言で少し離れた所に座る碧の体が「ビクッ」と声には出さずに反応していた。
「お!そうなのか?
それじゃあ後でじっくり聞いてみるのも良いかもな。」
育兎が「チラッ」と碧の方を見ると、チラチラとこちらを窺う様な仕草をしつつも、少し顔を下へ俯け、若干体が硬直した様に固まっている姿が眼に入った。
育兎は緩みそうになる口元を意識しながら、素知らぬ顔で桜火との会話を続けようと視線を戻した。
◇◆◇◆◇◆◇
「俺は別にランクが上がるのは問題ないぞ。
八雲の真似をする訳では無いが、寧ろ俺もそのノーム山脈ってのに興味が在るな。
強い魔物が居ついてるって事なら、修行と金を稼ぐには持って来いの場所だろう!!」
「お前まで子供と一緒になってはしゃぐな、オウカ。
私達だって好き好んではあの山に入ろうとは思わないんだぞ?」
「はぁ!? アルテシア達はAランクの冒険者だろう?
そんなに強い魔物が居るってのかよ?」
桜火は今の自分より数段強いであろうアルテシア達の居るパーティーが入るのを躊躇う事が信じられなかった。
「山の中腹位まではBランク相当の魔物で埋め尽くされてるな。
一体一体を倒す分には問題無い。が…
休む間も無く次が来たて、群で行動する魔物や魔獣と遭遇する確立が、あの場所は致命的に高いらしいんだ。
何よりあの山はかなり厄介な魔物も多いと聞く。 今の私達でも余裕で・・・とは行かない場所だよ。」
「・・・」
俺達(桜火)を諌める為に謙遜したのかと思っていたが、思いのほか真剣なトーンで語るアルテシアに桜火は黙ってしまった。
「ほらほらアルテシア、まだ登録もしてない内から脅したら可哀想だよ?
アルテシアが脅かすからオウカが黙っちゃったじゃん!!」
と、クララが猫耳を揺らしながら明るく言った。
「え!? ・・ああ!!
言われてみればそうだな、すまなかったなオウカ。」
「えっ!?
いやいや、別に誤られる様な事じゃあねぇし・・・。
それに目標は高い方が遣り甲斐があるから問題は無いぜ。」
「ははっ、良い返事だな。
まあお前も・・魔術の腕しだいでは1年経たない内にノーム山脈に挑戦出来るまでになるかも知れないからな。
確り訓練を受けて、手を抜くんじゃあ無いぞ?」
「ああ、勿論だ。」
桜火はアルテシアへ大きく肯いて見せた。
昨日の二人の雰囲気は、険悪・・とは言わないまでも、微妙に相性が悪い様には見えた二人だったが、今の二人の遣り取りからは少なからずの信頼感を感じる事が出来た様だ。
今日一日で大分お互いの信頼関係を深めたらしい。
「それじゃあ最後は光矢君ね。」
またもやそれだした話を稟が元に戻す。
「僕は・・そうですね。」
光矢が少し悩んだ末、自分の考えを口にした。
「僕も桜火の様に最終的には高いランクの魔物に挑戦したくはありますが・・・、まずは育兎君や稟さんが言った様に、ある程度低ランクで自分の身を守れる位の力を付けようと思ってます。
それから桜火とパーティを組んで一緒に上のランクの魔物達に挑戦するのも面白そうですから。」
と、会話の出だしは控えめな事を喋りながらも、最後は結構気の強い面を見せる光矢。
見た目の雰囲気通り好戦的な桜火と連めるだけの事はあり、普段が大人しい性格なだけで、彼もただ気が弱い訳では無い。
光矢は幼い頃から西園寺家の祖父、つまり嘗ては祓魔師をしていた一人に、直に体術・武器術を仕込まれていた。
特に剣術・棒術・弓術は、陰陽術が得意では無かった為、幼い頃から身を守る術として、祖父からかなり叩き込まれていた。
と言っても、
桜火と修行を共にする様になって祖父から何度も小言の様に聞かされた話によれば、『剣術では桜火に及ばず、棒術・槍術ではある素人姉弟の姉に及ばず、弓術に至ってはその姉弟の弟君に及ばない。』 と、言われてまた更に扱かれる事に成ったのだが・・。
祖父の口から出る桜火の話題は割りと最近のモノだが、『ある姉弟』の話は結構幼い頃から聞かされて来たので、光矢自身武術に関しては普通の人よりはかなり使える様に成っている。
「それにしても、ミツヤもイクトも二人ともまだ若い…それも人族なのに、とても堅実な物の考え方をするのね? ちょっとビックリしちゃったわ。」
「確かに、ちょっと他の人族っぽく無いかな~?
でも、これから冒険者をするならちょっと慎重過ぎるくらいの人の方が生き残ったりするものんだよね。」
と、エルフのルッテとドワーフのアリアが口々に言葉を交わす。
皆に今日一日にの様子を聞き終え、稟がサイネリアへと話しかけた。
「サイネリア、さっき貴女の言ってたカードって、今すぐ取らなきゃいけない物なのかしら?」
「いや、私達は別に何時取ろうが気にしないが・・・一つ問題が在ってな。
一応ギルドのカードは一度取れば再発行は金を払えば頼めるんだが、新しく発行はしてくれないんだ。
そして君達が狙うカードの種類は私達と少し違っていて、最近では貴族の子弟や国に使えている騎士が戯れに取るカードだったりしていて・・・、正直同じ冒険者仲間には余り受けの好くないカードでは有るんだが・・・今の君達にはそのカードが一番合っていると私は思う。」
サイネリアは少し言い辛そうな表情を浮かべながらも、最後まで話してくれた。
「それはまた、・・一体どんなカード何ですか?」
「私達が持っているこのカード。 前に少し説明したかも知れないが、皆はじめはFランクから始まり、白いギルドカードを手渡されるんだ。
そしてランクが上がる毎に、黄(E)、橙(D)、緑(C)、青(B)、赤(A)、へとカードの色を段々と変えて行くんだ。
でも、先に言った貴族や騎士達・・と言うか、今では一般人でそれを取る人間が最近殆んど居ないからそう言われているだけ何だが、そのカードを取ればF/E/D/Cランクの初級~下級の依頼と、B/Aランクの上級の依頼が受ける事が可能になる。
実質、ほぼ全てのランクの依頼を自由に選択して選ぶ事が出来るんだ。」
「それはまた、かなりの特典ですね?
それが在れば確かに仕事に困る事は無さそうですが・・ただ、それはどうやって取る物なんですか? まさか・・金貨ウン十枚をギルドに支払う、とか言いませんよね?」
稟がわざと口元に皮肉った笑顔を見せて冗談っぽく言った軽口に、表情を堅くしていたサイネリアも表情を崩して笑って返した。
「はははっ、流石にギルドもそんな金にがめつくは無いさ。
金持ち共の道楽の為にそんな多くの権利を持ったギルドカードを金で売らない程度の分別は在るよ。
でなきゃあ、依頼の遂行に支障が出るからね。 信頼はお金では買えない物の一つさ。」
「それじゃあ、どんな事を?」
「とてもシンプルだよ。
冒険者になるんだ、単純に〝力〟を示せば手に入るよ。ただ…
その合格ラインが素人には少し厳し過ぎるんだけどね。 まあ一応、討伐の依頼を一つこなす事なんだが・・・」
「えっ!? 一つだけで良いんですか?
それだと案外簡単そうに聞こえますが・・あ!?
まさか高ランクの依頼を試験に使っているんですか?」
「昔やっていたと聞いたのは、魔獣系でも結構上級に位置するスケールドラゴンの討伐だね。
一応〝ドラゴン〟って名は付いてるけど、魔獣に分類されてる魔物だよ。
全身を鱗状の皮膚に覆われていて刃が通り辛いんだ。 動きも俊敏で結構厄介な魔物なんだよ。」
「それを登録もしてない冒険者・・元い、貴族や騎士が討伐に成功してるの?」
稟が瞳を大きく開いて少し驚いた顔を見せる。・・がしかし、
「まあ騎士は一応、城で訓練は受けてるだろうからね、確かな力を身に付けて居れば結構取れる人は居るよ。
ただ逆に、貴族の子弟達は金に物を言わせて護衛の兵を雇ったりするんだ。
そして、その護衛が依頼をこなして帰って来るって訳さ。」
拍子抜けな事実に、稟が怪訝な表情を浮かべた。
「え!? それは・・良いの?」
思わず、と言った感じで稟が言う。
「かなり昔に、ギルドが認めちゃってるからね。
前は本気で金で買いに来る馬鹿が居たらしいから・・。
まあ、それがギルド側の最大の譲歩だったんでしょうね。」
「せめて自分で足を運んで貰いに来い。」ってね。
と、冗談っぽくサイネリアは言っているが、その目が微妙に据わっていて少し怖い。
「それに貴族は没落でもしない限り、そのギルドカードを使う事は無いでしょうし、騎士に至っては国に仕えてる身だからな。
冒険者として依頼を受けようモノなら、その国の品位に関わるとか何とか言って、自らカードを使用する者は居ないよ。
だから大抵が力試しとか度胸試しで取る者だけなんだ。」
「あぁ、そういう事ですか。
でも、それならそれを生業としている冒険者の人達にとって、そのカードは見ていて余り気持ちの良い物では無いですね。」
「あれでも一応、昔はもう少し違う意味合いが在ったんだけどね。」
話を聞いていたアリアが見かねた様に声を掛けた。
「え!? そうなんですか?」
「うん、今でこそあのカードは悪名になってるんだけどね。
昔は名の在る冒険者に師事した弟子や武術家や魔術師の弟子が一人前の力を修めたかどうかを試す試練として、ギルドへ登録のついでに
力試しで受けたりしていたんだよ。」
「ああ、昔は違ったんですね。」
「そうなの。
だけど何時の頃からか、そこに騎士まで力試しで取る様になって、その後貴族達も偶に取る者が現れる様になった。と言う訳なのよ。」
アリアさんが簡単に現状を説明してくれた。
今は兎も角、
昔は『実力を持った新人の証』の様な位置付けの物で、合格基準も今より少し緩く、結構多くの冒険者がその恩恵に与っていた。
断然、今よりギルドカードとして冒険者達に浸透していたらしい。
しかし、今では貴族や騎士の娯楽道具に成下がり、冒険者で持つ者は少ないと言われているそうだ。
「でも、サイネリアは私達はそのカードを取った方が良いと言うんですよね?」
「ここで少し鍛えて、それが可能なら。って所だね。
まあ、さっきの感じだとオウカとミツヤは普通のカードでも十分問題なさそうだけどね。
でも、リンとイクト、それにミドリはこっちのカードの方が色々と都合が良いんじゃあないかと思ってな。
リリットから少し話を聞いたが、リンは魔術の才能が有るそうじゃあないか? ・・或いは魔術なら、鍛えればスケールドラゴンでも討伐出来る様になるかもしれないからね。」
「いや、あははは…。サイネリアまでそんな簡単に言わないでよ。
まだ触れた事も無い魔術何て、本当に私に扱えるかも分からないのに・・・。」
そう言う稟の表情には、不安・・と、言うよりは、好奇心の方が勝っている様に見えた。
「・・まあ、問題はイクトとミドリが後数ヶ月でどの位成長するかだけどな。」
逆にサイネリアが不安げな表情で育兎と碧を心配していた。
「一応、最低限リン一人でもフリーランクを取ってくれれば、リンをリーダーにパーティーを組めば依頼を自由に選べる。
イクトも、最初はそんなでも無かったが、さっきの感じだと魔術で何かをやってくれそうな気もするからな、少し頑張ってみろ!?
後はミドリも魔術で才能を見せてる様だが、スケールドラゴンは本当に厄介な魔物だからな、流石にミドリまで無理に取ろうとする必要は無いよ。」
サイネリアにそう言われるも、稟に特に変化は無く、気負った感じはしなかった。
ただ、サイネリア達は気づかなかった様だが、サイネリアにああ言われた時、稟の瞳の強さが幾分増す様な雰囲気を醸し出し、人知れず掠れる様な声で「フリーランクか…」と、やる気を出していたのを育兎と碧は気づいていた。
そして、それとは逆にサイネリアの言葉を聞いて、碧は安堵の溜息を洩らしていた。
「さあ育君、これで目標は決まったわね。」
「はっ!? まさか・・」
「まさかも何も、貴方もそのフリーランクを目指すのよ。」
稟が〝イイ〟笑顔で育兎へと迫っていた。
「いやいや、さっきのサイネリアの話聞いてたよね?
僕等みたいな素人が手を出していい魔物じゃあ無いって言ってたでしょう!?」
「でもそれは、魔術を使わない人達の場合でしょう? ねぇ?」
稟は「ねぇ?」とサイネリアに視線で確認を取る。
サイネリアもこの展開は予想出来なかったのか少し戸惑いながらも答えてくれた。
「…まあ大抵わな。
戦士では同ランクの魔術師には手も足も出ないし、魔術が使えるという事はそれだけでリーチの面でも攻撃力の面でも同ランクの戦士より上だと考える。・・・のが、大抵の冒険者達の考えだよ。」
稟はサイネリアの言い回しに少し引っかかるモノを感じつつも今はそれを措いて置き、直ぐに育兎へと向き直った。
「と、言う事よ。
貴方、さっき『ボクは魔術を研究して大きな力を手に入れて見せる』と言ったわよね?」
「いや、ボクはさっき魔術を・・って言うか稟姉。その言い方は明らかにボクをバカにしてるよね?」
慌てて否定しようとする育兎の目を見ながら、その声に被せる様に稟が言葉を発する。
育兎は全く話す隙を与えてくれない。
「貴方言ったわよね? 私に追い付くって。」
『うわぁ・・そっちかぁ…。』
稟の言葉に育兎は開いた口を閉じる事も忘れて一瞬言葉を詰らせた。
「・・それは言った・・かなぁ・・。」
育兎は口元がひくつかない様、顔の神経に意識を集中する。
「どうせなら一緒に目指した方が楽しいでしょう? 折角私達の魔力はみんな高いみたいだし。
貴方も私も、一度しかチャンスは無いみたいだからね。
それに、皆の話を聞いた限り今すぐって事でも無さそうじゃない? これで時間も確保出来たわ、後は育君次第よね?」
少し前まで真面目な表情で、まるでこちらを睨み付けるかの様に強い視線を向けていた稟は、今では凄く楽しそうな表情で満足そうな笑みを浮かべている。
「確実に取れる様に私も一緒に一から訓練するんだから。
また一緒に頑張りましょう?」
『稟姉…、前回もそれで俺の小さなプライドを粉々に打ち砕いたって事、分かってるのかなぁ・・?
まあきっと、分かっててこの笑顔で押し通すんだろうなぁ・・・』
そして育兎は掠れた様な声で返事をし、頭を垂れた。
「ぁ~、・・・・はい。」
「そう、好かったわ。」
そして育兎は少し間を置いてから…
「まあ、ボクも精一杯頑張ってみるよ。」
育兎は磨り減った心を紛らわす様に、精一杯の笑顔でそう返事を返した。
頭の方を少し修正いたしました。
後半を少し修正いたしました。
12/31 微修正




