第11話 - 「訓練 継続中 二」
後半、少し修正加えました。
桜火に謝らせるの忘れてたよ…
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7/15 もう一度修整…スミマセン。
8/20 微修正…
◇◆◇◆◇◆◇
「それでアリアさん、この指輪付けて次は何をしたら良いですか?」
育兎は準備万端といった雰囲気でアリアの言葉を待っていた。
「さっきまで火にかけてた鍋が何個か在るでしょう?
その火加減を魔術でするのが訓練よ。」
「ええ!!?? 火の魔術を使うんですか?」
育兎は先程修練場でリリットに言われた事を思い出し、若干尻込みしてしまった。
「あれ? 火の魔術がどうかしたの、イクト君?」
アリアは鍋の中身を焦がさない様クルクルかき回しながら聞いてくる。
「いえ、さっきリリットさんに火の魔術で暴発を起こすと他の属性の比じゃあ無いくらい周囲に被害を出すから、魔力感知を覚えてから魔術を使えって言われたので・・・。
まだ魔力の感覚が分からないのに火の魔術なんか使って大丈夫かなぁ…って思って。」
「あぁ、その事ね。」
『しかも「魔力感知」が全く習得出来なくて、一生懸命杖に集中していたら、逆にそれが仇になって、杖での訓練を禁止させられたんだよね…。』
注意された経緯を思い出し、自分の才能の無さに嫌気が差す育兎。
「そんな顔しなくても大丈夫だよイクト君。
この指輪は初級魔術までしか扱えないから、早々暴発何て起こせないって!
イクトがさっきまで使っていた・・・
そう言えば、イクト君が使ってた杖ってワイドとショートワイド、どっち?」
「え…と、ショートワイドです。」
「そっか。
リリットが警戒したのはね、稀に杖型のワイドで過剰な魔力を送ると初級魔術も中級魔術並みの規模や威力になっちゃう事が在るから、それを危惧して注意してくれたんだよ。」
全て場合では無いけれど、そういった事故は比較的多いとアリアさんは教えてくれた。
「あの指輪は初級魔術の枠を超えた過剰魔力を送ろうとしても、そこで塞き止められて霧散するか、指輪が壊れるだけだから。
無駄な魔力を浪費しちゃう、所謂〝効率の悪い魔術〟って奴だね。」
そう得意げに語るアリアさん。
「まあ、まだあの指輪を壊す程、高出力の魔力をイクト君が錬れる訳が無いから、その辺りの心配はしなくて大丈夫だよ。」
「そうなんですか?」
「うん、そうだよ。
この指輪を使えば初級レベルの魔術しか使えないから。
これでドンドン練習あるのみ、じゃないとお料理が何時まで経っても出来ないからね!!」
アリアさんの説明を聞き、そこまで安全に作られてるなら今度こそ失敗しない様、全力で頑張ろうと思っていた。
「あとは回数を重ねていくと自分の中の何かが減少している事に気付ける様になるから、その感覚が魔力が減少していく感覚だよ。」
「は、はい。」
「簡単でしょう?」と説明されたが、育兎としてはかなり不安で一杯だった。
「それがわかる様になったら、今度はもっと神経を研ぎ澄ませれば魔術を唱えた時、この大気を漂う魔力も自分の魔力と一緒に術式へ送られて行く事に気付ける様にも成るよ。」
「えっ!?・・えっ!!」
どんどん説明していくアリアさんに理解が追い着かなくて戸惑う育兎。
「最終目標は遠くの他人の魔力を見分けられるくらい、鋭く敏感な感覚を備える事が出来れば最高だねっ♪」
「ええっ!? アリアさんそんな感覚鋭いんですか?
ドワーフってそんなに凄い種族なの!!」
自身の魔力すら把握出来ない育兎には想像すら出来ない世界に、育兎は開いた口が塞がらなかった。
「え? あはははっ、やだなぁイクト君。 目標だって言ったじゃない?
流石にドワーフ族が人族より魔力の扱いに長けてるって言っても私はまだAランクの冒険者だよ?
一応人形を扱ってる分普通の同ランクの人達よりは優れてるかもしれないけどね。
精々、同じ建物内に何人居るかが分かる程度、個人の特定までは私にはまだ出来なかったわ。」
謙遜なのか、本当に誰でも出来るのか、今の育兎にはアリアの凄さが判断出来ない。
「ボクにとってはそれだけでも十分凄い事だと思いますよけど?」
「ううん・・そんな事ないんだよ。」
アリアは何故か真剣な表情で・・
「だって・・・
私が前に見たAAを名乗った男は、思い出すのも悍ましい、私がどんな魔術を使っても私の魔力を感知して追いかけて来たもの。
あれは正に狂気の男だったわ、仲間が助けてくれなきゃあ〝私の麗しさ〟に狂ったあの男に今頃私は手籠めにされちゃう所だったものっ!!」
「・・・・」
『って言うか、それって魔力感知云々(うんぬん)じゃ無くて、唯の少女好き(ロリコン)特有の嗅覚とかの部類なんじゃあ?』
育兎も最初はアリアの話を真剣に聞いていたのだが、
先程からちょいちょい自分の事を無理に『大人』っぽく(育兎もアリアの見た目が可愛い事は素直に認めているが)見せ様としている節が有り、
今語られた話が何処まで本当なのか少し判断に迷っていた。
これでアリアさんに本当にトラウマになる様な過去が本当に在るのなら、今のボクの想像はかなり不謹慎と言うか、失礼もいい所だけど…。
まだ12歳のボクや八雲はともかく、昨夜は初対面の光矢さんや桜火さんとも普通に話して事もあって、アリアさんにそんな暗い過去が在るとは到底想像も出来ない。
しかし、アリアはその時の事を思い出したのか、小さな体を両手で強く抱くも、若干体を震わせていた。
それを見て育兎は慌ててアリアを慰めに入る。
「だ、大丈夫ですよアリアさん!
もうそんな奴居ませんから!!
ここは安全です!!
アリアさんがそう言ったじゃあないですか?」
育兎は話しかけるが、正直アリアに声が聞こえているか微妙だ。
「え!? あ…そ、そうね。
そうだったね、今はグレンもソニアも居るんだから大丈夫よね。」
「そうです!! 大丈夫ですよ、アリアさん。」
アリアも縮こまって涙目だったが、自分の人形の存在を思い出し少し落ち着いて来た。
それを見た育兎はもう大丈夫だと思い、頭を抱えて蹲るアリアさんの代わりに鍋の中身をクルクルかき回した。
◇◆◇◆◇◆◇
少し間を置き、アリアが落ち着いてから声をかけた。
「アリアさん、大丈夫ですか?」
「…うん、大丈夫。 それよりごめんねイクト君。
本当はすぐにでも訓練始め様と思ってたのに・・・」
申し訳無さそうに「しゅん」と肩を落とすアリア。
「いえいえ、さっきのは仕方ないですよ。
相当怖い思いしたみたいですし、それに教えて貰うのはボクなんですから顔を上げて下さい。」
実年齢はともかく、見た目は小さい女の子なアリアさんをいつまでも落ち込ませておくのも落ち着かないので、育兎はそう言って慰めるしかなかった。
「そう言えば、この鍋の火を魔術で操るのが訓練だってさっきアリアさん言ってましたけど、本当なんですか?」
育兎は気を取り直して、早く話を進める事に決めた。
「うん、そうだよ。
え~とそうだなぁ…まずはイクト、あそこの空いてるコンロに火の魔術で火を燈して見ようか。 あっ!? 呪文は知ってる?」
「はい、たぶん確か・・・」
「なに、どうかしたの?」
「…あの、一応確認なんですけど。
今確認の為に呪文口にしたら何所か燃えちゃったりしますか?
前に勝手に呪文唱えてリリットさんに怒られちゃったんですよね・・・」
『しかも平手付きで・・・』
そんな事を考えながら、昨日勝手に<灯火>の呪文を唱えて行き成りリリットに頭を叩かれた事を説明した。
「あ~、それは止められるんじゃあないかな?
普通は魔力の枯渇の問題って魔力が少ない者だけ注意するんだけど、イクトみたいに極端に多い人は、稀に魔力を送る力が強い時が在ってね。
魔力を多く送り過ぎて枯渇する事が在るから、多分その辺りを考えてでだと思うよ。
でも、その指輪ならその辺は大丈夫。
これは杖と違って初級魔術までしか扱えないから、イメージで狙いを定めて、<灯火>の呪文を唱えてみて!」
育兎は一先ず石のブロックで組立てられたコンロの上に数本の薪を置き、緊張した面持ちで、薪へ向けて左手を翳し呪文を唱える。
「はい、それじゃあ・・・【ファイア】!」
ボワァッ!!
っと、育兎が呪文を唱えた途端、コンロの上の薪に火が燈った。
「おぉ…凄い…」
赤い火が燃えるコンロには隣の鍋の背丈を丁度超えるじくらいの火が赤々と燃えている。
するとアリアが慌ててアドバイスをしてくれた。
「わっわっイクト君、ちょっと火の勢い抑えて!
そんな大きな火でお鍋を温めたら直ぐに焦げちゃうよ!?」
「えっ!! ・・え!?」
アリアにそう言われたが方法が分からずあたふたしてしまう育兎。
育兎はもう一度、今度は右手を左の手首へ下から添へ、赤く燈った火に集中した。
赤々と燃えていた火が育兎が集中するに連れ、次第に変化を催した。
大きな炎へと・・・
まるで火の玉の様なソレは、隣の鍋を軽く呑み込める程大きく、先程までかき回していた寸胴鍋と大差無いサイズの炎となってコンロの上に現れた。
「ちょっ!? こらイクト君、逆よッ!?
早く魔力を抑えてっ抑えてっ!!」
「ええぇーっ!! ど、どうすれば良いんですかっ!?」
「まだ魔力の感覚は掴めないかな? それが解れば魔力をイクト君の体内に戻して留める様にイメージすればいい抑えられるんだけど・・・」
アリアのその言葉に育兎がしばし思案顔を浮べるが・・・
「ま、魔力・・、こ、これかな・・・?」
アリアの声は届いた様だが今一反応が鈍い育兎。
そんなのんきな育兎の答えに、いつも笑顔だったアリアさんが軽く口元をひくつかせ、若干焦っている。
しかし育兎も好きでしている訳では無いのでそう答える事しか出来ない。
アリアは少し思案すると素早く育兎へ指示を出す。
「ごめんイクト君、ちょっとそのままで居てもらえるかな。」
そう言ってアリアは育兎の左側へ素早く移動し、指輪をはめた手の上に重ねる様に自分の手を重ね、目をとして集中に入った。
すると炎は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。
大きさは変わらないものの、激しく燃え盛る様な事は無くなった。
「はあー・・・」
思わずと言った様に、アリアが大きく息を吐いた。
「お、治まった・・・の?」
変化は一瞬の事、育兎は訳も分からない儘立ち竦んでる内にアリアが火の勢いを抑えてくれていた様だ。
「それじゃあイクト、今がどんな状態だか分かる?」
「・・多分、魔力が過剰に送られてる状態・・で、しょうか?」
「そうだね。
今イクトは初級の魔術でも下位に相当する魔術で、かなり魔力を込めて火の魔術を行ってるんだよ。
しかもイクト君、まだ魔力制御を覚えてないから今も〝垂れ流し〟っぽい状態で魔力を送り続けてるみたいなんだけど・・・イクトの中でそれは感じない?」
そう言われて育兎は目を瞑り、意識を集中してみる。
「・・あ~はい。
指先から何か熱いモノが体から抜けていく様な感覚は在ります。」
体の中の温かいモヤモヤが指先からどんどん抜けて行く瞬間、まるで摩擦熱でも引き起こしてるかの様に熱を帯びて感じる程指先が熱い。
「それ、イクト君の意思で止める事は出来そうかな?」
「いえ、・・・むしろボクってどうやって魔力を送ってるんですか?」
「そ、そうだよね・・・。」
育兎に質問を質問で返されてしまったアリア、その表情にはいつもの笑顔が苦笑いに変わっていた。
「ちなみにイクト、その熱い感覚が魔力だって言うのは分かるよね?
それじゃあ、その熱い感覚が全て体から抜け出た時どうなるかも覚えてるかな?」
一つ一つアリアが解りやすく説明してくれるお蔭で今の自分の現状に気付き「こくこく」と大きく肯き肯定を示す。
「それはよかった。
いきなりで悪いんだけど、今少し危ない状態だからちょっと手伝ってあげるね。」
「本当ですか!? なんか、さっきからすみませんアリアさん。」
「ううん、全然構わないよ。
それと、いよいよ危険な状態になったら私が強制的に魔術を止めてあげるから、それまでにイクトは魔力の感覚と制御、体で覚えちゃいなさい♪」
「はい・・は、はい?」
アリアは、先程までの優しかった時と同じ雰囲気の笑顔のまま、かなり予想外な事を育兎には言い渡した。
『アリアさんの雰囲気から今のボクの状況、かなり危ない状況だと思ってたけど・・・
アリアさんはこの状況で修業っぽい事をさせるんですね。』
アリアさんの教育方針もリリット同様、思ったよりも結構過激だ。
しかもリリットと違い、そのアリアさんは笑顔でかなりリスキーなモノでも平気で行う様だ。
「その魔力、さっきイクトが言った『熱いモノ』が指先から出て行かない様に体に留める様にイメージして制御するんだよ。
私もイクト君の魔力がこれ以上抜け出さない様に少し抑えてあげるから。」
そう言うとアリアさんは目を瞑り、重ねた手に神経を集中していた。
育兎にとっては、先程リリットに向けた言葉が現実となった訳だが・・・
事前に何の覚悟も無く、突然こんなリスキーな訓練が開始され少し戸惑ってしまった。
『でも、元々やろうと思ってた事だし、ここで遅れを取戻さないとね。
それに、ちょっと自分の命が係ってるって言っても、何か見た目と違って色々凄そうなアリアさんが見ててくれるなら魔力が尽きて死んじゃう、何て事も無い・・・よね?』
育兎はアリアに言われた様に想像力を働かせる為目を閉じて指先に一層意識を向ける。
すると今度はさっきの熱く感じたモノがより明確に、まるで切り傷に熱さを感じる様な、そんな感覚を小指にも感じていた。
育兎が痛みを感じた小指に意識を集中していると、突然アリアから声をかけられた。
「イクト君、指輪に気を取られ過ぎだよ。
送る力が強くなってる、今は魔力を体に留める事をイメージして。」
「・・はいっ!」
育兎はアリアの言葉を聞き、指先から出て行くモノを如何にかして指先から引き戻そうと模索した。
「指先から出て行く魔力がコレ、体の魔力は・・・微かに感じるコレかな?
後は体にコレを留めるイメージ・・
留めるイメージ・・・
留めるイメージ・・・……」
「留める」、何となく想像は付くのに、中々それが上手くはいかない。
指先から漏れ出ない様に抑えているつもりでも、わずかづづだけど確実に指先から魔力が漏れてゆく。
時間だけが無常に過ぎて行く。
ふとした瞬間、突然の虚脱感に襲われ、足に力が入らず体勢を崩してしまった。
「おわっ・・とと!?」
直ぐに体勢を立て直し自身の魔力に意識を集中する。
「・・・イクト君、そろそろイクト君の魔力が尽きそうだからここで一旦止めようか?」
アリアが心配そうに育兎の顔を覗き込んでいるのが見えた。
「ああ、すみません。もう少しお願いします。
まだまだ余裕は在ると思うんで・・・」
「別に今直ぐ出来なくても大丈夫なんだよ?
それにこの訓練は私が直接見ているって言っても、一応危険な事に変わり無いんだからね?」
頑なに止めようとしない育兎を説得にかかるアリア。
アリアさんは、訓練のやり方は無茶でも、無理をして欲しい訳では無いらしい。
「すみません、もう少しだけお願いします。
あと一回試して出来なければアリアさんにお願いしますから。」
頭を下げて懇願する育兎に等々アリアが根負けした。
「しょうがないなぁ・・・まあ、始めたは私だもんね。
それじゃあ危険を感じたら本当に止めるから、それまではやっても良いよ。」
それを聞いた育兎が先程まで苦痛に顔を歪めていたはずなのに、満面の笑顔でアリアへお礼を言う。
「本当ですかっ! ありがとう御座いますアリアさん。」
お礼を述べた育兎はすぐさま自身の魔力へと意識を集中した。
先程まで身体の中全てを埋め尽くす様に感じていたそれが、今、育兎に何かを想い起こさせる動きをしている。
そこに魔力を制御する何かのヒントが隠されている様な気がするのに、その何かが解らない・・・
もう、喉元まで出掛かっているのに、最後の一声が出ない・・・
このままだとアリアさんに訓練を止められてしまう・・・
光矢さんや碧ちゃんに初日から大きく置いてかれてしまう・・・
八雲や桜火さん、そして凛姉達剣術組だって、この分じゃあ1日で大きく成長しているかも知れないのに・・・
自分だけ何の役にも立てないのは絶対に嫌だ・・・
何も、成長しないままなのは絶対に嫌だッ・・・
育兎の思考はそんな余計な雑念で埋め尽くされしまい、訓練に中々集中出来ず、魔力を制御する切っ掛けを見出せずに居た。
◆◇◆◇◆◇◆
彼女は自分が鳥の獣耳族だと言っていた。
自分で言っていた通り、彼女の頭には羽毛で覆われた獣耳が生えている。
背は桜火より少し高く、長くて白い髪を背まで流し、体は全体的に細くシャープで、だがそれは無駄が無いと言った類の細さであり、胸と腰はそれなりに存在感を露わにしている。
そして服装の為か女性的な曲線は寧ろ際立っているが、剣を持つ凛とした彼女の持つ雰囲気のお蔭か、そこまで強いイヤらしさを感じさせず、唯唯その姿は美しかった。
手合わせをする前は、彼女の顔は冒険者で剣士だと言うのは余りに整い過ぎている気がしたが、剣を合わせた彼女の瞳から発せられるその鋭い眼光は、彼女が既に幾多の修羅場を潜り抜け、そしてその修羅場を切り抜けて来た証だと、今の桜火に感じさせた。
故に桜火は・・・
・・魅了されていた。
眼前に繰り出される彼女の剣技(業)に。
桜火が心引かれた剣士はこれで二人目だ。
桜火は目の前の彼女、アルテシアの剣技を認めつつも、否…
最初から技量が優れている事は分かっていた。
ただ、ここまでとは予想外で、その予想が外れた事が逆に嬉しく、そして口惜しい。
自分の技量が足りないばかりに、師匠から譲り受けたこの刀をアルテシアに認めさせる事が出来ないばかりか、師匠が鍛え、研き、高めて受継いだ技を、まるで俺が穢してしまった様な気分だった。
「ではオウカ、そろそろその剣の凄さ・・・私に教えてくれるのだろう?」
アルテシアが静かに桜火に向けてそう告げた。
「・・ああ、もちろんだアルテシア。」
アルテシアの剣技に見惚れていた桜火は、今は会えない師匠の業を思い出してた。
今はまだ技量が足りず、師匠を真似るばかりで自分のモノに出来ていないが…、それ故に今まで一番鍛錬を重ねた技。
『師匠の言う通り、熱く成ると周りも自分も見えなくなるもんなんだなぁ・・・、マジ勉強になったわ。
せめて最後は自分の得意な、一番使い慣れた技をアルテシアに見せたいな・・・。』
そう心に決めた桜火は刀を鞘に納めた。
それを見たアルテシアは怪訝な表情を浮かべ、桜火に…
「ん? ・・・オウカ、自ら剣を納めたと言う事は、自身の間違いを認めるという事なのか?」
アルテシアの声は段々と苛立ちと言うか、まるで怒りや失望と言った感情を、意志の力で無理矢理抑えつけている様な声音でそう桜火に告げて来た。
桜火のした行動が、まるで今までの戦いを穢したとでも告げる様なアルテシアの雰囲気に、場違いにも桜火は嬉しさが込み上げ笑みを浮かべる。
「…何を笑っているんだ?」
「ああ、いやごめん。
そんなつもりは無かったし、俺はこの刀を手放す気は無いよ。
大丈夫、アルテシアの剣技が余りに凄かったからさ、俺もちょっと初心に帰って一番最初に覚えた技をアルテシアに見て欲しくなったんだよ。」
桜火の言葉を聞いたアルテシアはすぐさまこう返答してきた。
「なんだ、私は今まで手加減をされていたのか?
それならば私も心して掛からなくてはならないな。」
と、全くそんな事は露とも思っていないであろうアルテシアの平坦な声音に、桜火も…
「いや、さっきまでの俺は全力でアルテシアの相手をしてたぜ?
いや、一応この技、師匠の得意技で俺が一番最初に真似た技なんだよ。」
淡々と話す桜火の話を、何故だかアルテシアは静かに聞いている。
「ただその技はさ、ホント師匠の業を真似ただけでさ、試しに師匠の前でやって見せたら、逆に師匠に怒らせちゃって・・・だから今まで人前では使った事って無いんだよ。」
少し間を置き、それでも話続ける桜火。
「でもその技はさ、毎日鍛錬だけは一番積んでるんだよな。
だからアルテシアにもその技でこの刀の凄さが少しは伝われば、俺のこれまでの鍛錬の日々も無駄じゃ無かったって事になるだろう?」
そう言う桜火の瞳には、先程までの赤々とした燃える様な闘志の姿は既に無い。
蒼く、静かな、まるで正反対の闘気が鬼火の如く漂い、桜火の何かを貫こうとする意志がその眼差しにも伝わり、アルテシアを威圧していた。
◇◆◇◆◇◆◇
アルテシアは先程まで私の事を口汚く相手を罵っていたオウカが、今は先程とはまるで違う雰囲気と言葉を発しているオウカを、正直計りかねていた。
技量では明らかに私の方が上をいっている、多分それはオウカも認めてはいるだろう。
あの「カタナ」と言う武器も、クセは在りそうだが、それを上手く使いこなせばとても良い剣なのだろう。
私も実際に打ち合ってそれは感じた。
しかし、オウカはあのカタナに固執しすぎている。
冒険者にとって武器は消耗品だ。
たとえどんな名工の作品で在ろうと何時か手放す時が来る。
今まで会った事のある落ち人は違ったが、オウカもオウカの仲間の落ち人も、みんな知能は決して低くない。
むしろ普段の言動や何故そんな事を?といった様な事を考えていたり、思いついたりしている事から頭は回る方だろう。
そんな奴が消耗品である剣にあれだけ固執する・・・。
それが信念の元の行動なら、私も手を貸すのも吝かでは無いが・・・獣耳族でも獣人族でも無い、今時の人族にそんな者が有るとは到底思えない。
きっと今は会えぬ師匠とやらの幻影をあのカタナに求めているのだろう・・・。
そういった甘えは早い内に絶たねば、後に取り返しの着かない事態に成りかねない。
しかし、今度の一撃は相当自信が在る様だ。 次のオウカの一撃で・・・
カタナと共に生きて来たのか・・・
カタナに依存して生きて行きたいのか・・・
じっくりオウカの技とカタナ、堪能させて貰おうじゃないか。
◇◆◇◆◇◆◇
「って事で、普段練習ばかりで日の目を見る事が無かった俺の技、代わりにアルテシアに受けて貰って感想が聞きたいんだよね。」
「・・・・。」
アルテシアは今の言葉を反芻する様に視線を少し外し、返事を返してはくれなかった。
「あ、あれ? 同じ剣の道を志す先駆者として、そこは快く引き受ける所じゃないのか?」
先程まで暴言吐いていた相手に、そんな都合の良い返事を求める方が間違っている気もするが、桜火はその事をさして気にも留めていなかった。
しかし、無視を決め込んで居ると思っていたアルテシアの方から声が掛かった。
「なあオウカ、お前は私を誰の代わりにして感想が聞きたかったんだ?」
突然の質問に桜火は大きく目を見開き、何故かばつの悪そうな顔でアルテシアから視線を外し、口を閉ざしてしまう。
「・・・そうか、まあ今はいいさ。 その辺りは追々追求するとして・・
兎に角今はお前の剣技で私を納得させてくれるんだろう?」
桜火はまたも目を大きくして驚いていたが、直ぐにその口元には不適な笑みを浮かべる。
そして桜火は丁寧に息を一つ、ゆっくりと吸って、ゆっくりと吐いて行く。
全身の余分な力を抜き、気力を満たす様に呼吸を整える。
重心を落としつつ、何時でも動ける体勢を心がける。
そして、落ち着いた所作で右手を左に差した刀の柄を握った。
アルテシアも剣を握り直し、桜火の攻撃に備えていた。
桜火の左手が腰に下げた鞘にの鯉口にそっと添えられ、桜火の姿勢が先程よりさらに低く前のめりとなる。
桜火がこれから使おうとしている技とは抜刀術。 所謂居合いだ。
「折れず、曲がらず、良く斬れる」と、鋭い切れ味を求めた日本刀にこれほど似合った技は無い。 と、師匠の得意としていた業の一つだ。
そして桜火は低い姿勢のままアルテシアへと駆けて行った。
◇◆◇◆◇◆◇
一方のアルテシアは少し落胆していた。
剣は鞘から抜く時に摩擦が起こり、事前に抜いて置くのが定石だ。
もしかしたら鞘に納める事で、剣線を読み辛くしているのかも知れないが、抜刀に手間取ればそれも意味を成さない。
駆け寄って来ても、私の対応が間に合わない何て事は在りえない。
だが桜火の表情には何かを確信している様な、少なくとも玉砕覚悟の特攻を仕掛けてきている気配では無い・・・。
これは少し警戒を高めた方が良いのだろうか・・・。
◇◆◇◆◇◆◇
自身の行動で相手に落胆を与えているとは露とも知らず、桜火はアルテシアの行動に感心していた。
『おぉ~さすが一流の剣士。
刀を知らないって事はこれから何をするかも分からないだろうに、納刀したままの俺にもしっかり警戒してるぜ。』
桜火の聞いた話では、この抜刀術、やはり戦場では数の暴力に勝る物は無い様なのだが、1対1や1対少数ならば、初動で機先を制する事が可能な抜刀術がかなり重要な技術だったらしい。
剣の腕前次第では、最強足り得る「速さ」も実現可能だろうとか。 子供の頃、良く師匠が話してたなぁ・・。
桜火は一人思い出しながら頬を吊り上げると、楽しそうに嗜虐的な笑みを浮かべる。
『…ま、俺はまだそこまでの腕は無いが、アルテシアの涼しげな表情を凍らせる・・と、までは往かなくとも、背筋に冷や汗を出させて歪ませてやろう。』程度の事は考えていた。
◇◆◇◆◇◆◇
桜火が等々アルテシアの眼前へと迫りより、そしてアルテシアの細剣がノーモーションで桜火へ襲い掛かってきた。
すかさず桜火も鯉口を切り抜刀。
「ハッ!!」
右の胴から肩へと貫ける一閃。
気合の声と共に初撃をアルテシアの放った剣を斬りつける。
「なっ!? ッッ!!」
キンッ!! ガキンッ!?
剣にはかなりの長い間使っていたのだろう、小さな疵の多いアルテシアの細剣は桜火の刀に因る抜刀の一撃を受けきれず、見事に折れてしまった。
咄嗟の反応でアルテシアは左手で右の剣を抜き、桜火の刀を弾く事により、桜火の一撃をかわす。
そして静寂が二人を包んだ。
桜火は刀を振り下ろしたまま固まっていた。
アルテシア顔の横で刃を止め様と思っていた桜火はアルテシアの対応の速さに舌を巻く思いだ。
一方のアルテシアは、あの細い剣からこれほど、重く素早い一撃が繰出されるとは想像もしていなかった。
私の剣が折れたという事は、本気では無いにしろ、一時的に私に迫る剣速をオウカはそのカタナで繰出した事になる。
同じ細剣を使う使い手でも、先程の早さに追い着ける冒険者が果たしてAランクに何人居るか・・・
ましてや、オウカはまだギルドに所属しても居ない、しかしBランク位は簡単に取ってしまうだろう。
アルテシアが剣を納めてそんな風に考えて居ると、桜火刀を鞘に戻してアルテシアへ向き直った。
「やっぱりアルテシアは凄い剣士だな!
あの一撃、顔の横で止めるつもりで放ったのに、咄嗟の反応で対応されちまったよ。」
口惜しそうにそう言う桜火へアルテシアが・・・
「・・・いや、オウカの今の一撃の方が凄いだろう!?
本気では無いとは言え、私のあの速さに追いつく者は同じAランクでもそうは居ないんだぞ?
あの時は咄嗟の反応で何とか反応出来たが、普通はあそこで首が飛ぶ。
それにその剣、カタナか? その細い刀身からまるで大剣並みの一撃が飛び出した時は流石に驚いたぞ。
最初に手合わせしていた時はそこまで一撃に重さを感じなかったんだが・・・?」
桜火は「一撃に重さを感じなかった」と言われて流石に苦笑いを浮べた。
「あ~、最初の手合わせで俺の一撃が軽く感じたなら、それは単に俺の技術不足だな。」
「修業が足りん」と苦笑する桜火。
「そうだ、ちょっとこの剣を見てくれよ。」
そう言ってアルテシアに脇の刀を鞘ごと渡す。
「ああ、・・・なっ!? こんな重さのか!!
私の細剣よりは重いな、しかしあの時の一撃は・・・」
先程の立会いで二人のわだかまりも無くなったのか、今ではアルテシアが桜火に刀について色々質問していた。
「これから私はこのカタナを使ったオウカを教えなくてはいけないのだろう?
だったら私がカタナの事を良く分かっていないとな。 でないと、適切なアドバイスだって出来ないじゃあないか?」
その言葉を聞いた桜火は一瞬笑顔を見せるが、次の瞬間眉を寄せばつが悪い表情でアルテシアから視線をそらした。
「どうしたんだオウカ。 そんな顔をして?」
「ぁー・・・アルテシア、その……」
桜火はソワソワと落ち着かなげに視線をアルテシアと地面へと行き来させていた。
そんな桜火の行動にアルテシアも「ん?」と段々と不審に思って来た様だ。
しかし、暫らくして漸く決心がついたのか、意を決したように体をアルテシアの方に向け、腰からキッチリ90度になる位頭を下げた。
「ごめんアルテシア、さっきはあんな暴言を吐いて悪かった。」
突然の桜火の行動に、さすがのアルテシアも驚いた様だ。
目を見開いて口を閉ざし、しばらく頭を下げた桜火の姿を眺めていた。
「オウカ大丈夫だ、さっきのは私も悪かった。
良く知りもしないのにお前の剣を…カタナを『弱い武器』だなどと言った事を素直に謝ろう。 すまなかったオウカ。」
そう言ってアルテシアも少し佇まいを正し、桜火に倣って軽く会釈を返した。
二人はお互いの謝罪を受け入れ、小さく笑いあった。
「ははっ!! なんか、さっきまで斬り合いをしていたのに、何か変な感じだな!?」
「確かに。 先程は力を見るだけのつもりだったが、最後の方は思いの他楽しめたな?」
「言ったな?」と、冗談に応じる桜火。
しばらく二人で先程の仕合について語り合った後、アルテシアは桜火にこう尋ねた。
「そうだオウカ、後でそのカタナについて教えてくれないか?」
「え!? ああ、もちろんだ。
何でも聞いてくれ、俺が教えられる事は何でも教えるぞ!」
「いや、私はお前に剣を教える事にはなったが、お前の剣…カタナか? それについては何も知らないからな。
その剣がどんな剣でどんな事が出来るのか、とか。
後はお前の師匠はどんな事を教えていたのか、とか。 何でも良いからお前の事を話してくれないか? 」
「ははっ、確かに。
俺ももっと強くなりたいからな、少しでもこの刀の良さをアルテシアに知って貰ってアルテシアには俺を強くしてもらは無いとな!!」
と、生意気そうな口調で恥ずかしそうに笑う桜火。
そして二人は日が沈むまでアルテシアと語り尽くした。
アルテシアは刀の話を熱心に聞き入ってくれ桜火も話に熱が入る。
嬉しくなって積極的に刀の構造や先程使って見せた抜刀術の事について語り合った。
二人は日が沈むまで庭で語り明かした後、館で夕食を食べに帰って行った。
◆◇◆◇◆◇◆
育兎は焦る気持ちを落ち着け様と、瞳を閉じて魔力に意識を集中していた。
ふと、先程修練場で二人に貰ったアドバイスを思い返していた。
『碧ちゃんが言ってた「ぽかぽか温かい」ってのは本当に感じるんだなぁ・・・。
聞いた時は表現が独特でボクには理解出来ないかも?って思ったけど…意外と何とかなるモノだね。
…アリアさんの指輪のお蔭ってのもあるのかな?だったら本当貸してくれたアリアさんに感謝だけど。』
「・・・」
考え中の育兎の体が僅かにブレる。
それを見付けたアリアが育兎へ声を掛けた。
「ねーイクトくん、無理しないで一旦止めよう?」
育兎は首を左右に振る事でアリアさんへ意志を伝え、目立たない様に足へ力を入れた。
「・・・」
育兎は瞳を閉じ続けながら自分の魔力に集中している。
『危なかった、今度フラ付いたら止められちゃうかもなぁ・・・急がなくちゃ。
確か光矢さんは魔力が全身を巡ってるって聞いて、血液を連想したって言ってたよね?
そこから直ぐに魔力制御まで出来る様になってたし、どうヒントにしたのかな・・・?』
「お~い、イクトく~ん。
無視しちゃ駄目だよー? 本当に危ないんだよ?
ねぇ、明日もまた協力してあげるから、今日は一旦休もう? ね?
その方が私も料理手伝って貰えるし助かるんだけどなぁ~♪」
この訓練を始めた時の強引さは何処にやったのか・・・
先程とは180度態度を変え、アリアさんは生徒の自主性を重んじる先生になった様だ。
まぁ、単に育兎が聞く耳を持たないだけだ、と言うのもあるが・・・
そして、そのお蔭か、ギリギリの魔力で訓練する育兎に漸く光が見えて来た。
『血液…巡回…魔力…
もしかして強引に身体の中に押し戻そうとするより、血液みたいに魔力も体を巡る様に誘導すれば身体の中に留まってくれるかな?』
「よし、それじゃ試して・・・」
育兎は自分の考えを証明しようと早速行動に移す。
今までは一番魔力が感じ易かった為、どうしても気持ちが指先と言った分かりやすい一点に集中しがちだった意識を、
今度は自身の血液を魔力に置き換え、全身の血管と言う血管に魔力を流し込む様な意識で全身へ意識を集中してみる事で、徐々にその効果が現れようとしていた。
しかし・・・
「あ~~イクト君残念、ちょっと時間切れだね。」
「・・・えっ!?」
アリアのその言葉の直後育兎が感じていた負荷は「スッ」っと消え、同時に育兎が行使していた魔術の火も消されてしまった。
「アリ・・アさ・・、な・・でッ!?」
育兎はアリアに魔術を止められ抗議し様とアリアへ体を振り向けようとした瞬間、育兎は足元から「ガクッ」と崩れ落ち、立っている事も出来ない様だった。
育兎は初めての魔術で魔力をほぼギリギリまで使い切ったせいか喋る事も覚束無い様だ。
そんな育兎をアリアは笑顔で忠告する。
「ね? イクト君、だから今日はもう無ー理。
大丈夫、明日魔力と体調が回復したらまら指輪も貸してあげるから、今日はもう夕飯時まで部屋で休んでなさい。
夕飯、ここまで手伝ってくれてありがとうね。」
育兎は尚も抗議しようと思ってたが、アリアの満面の笑顔に気圧され二の句が継げなかった。
そしてそのまま素直に指輪を返す育兎。
声が出なかったので頭を深く下げてお礼をした。
しかし、その表情は若干暗かった。
「はいイクト君、指輪は確かに返して頂きました。
でも、さっきの最後の方は少し残念だったよねぇ。
もう、殆ど魔力制御は出来てそうだったけど、完璧に感覚掴む前にイクト君の魔力が尽きそうだったから強制的に魔術止めちゃったかしら?」
「・・いきなり・・魔力の流れが止まって、・・・かなり驚きましたけどね。 でも・・・どうやって?」
「まあ、イクト君がまだ魔力制御に慣れてないから出来る荒業なんだけどね。
普通は魔力制御、え~と『魔力に対する支配力』って言えば分かりやすいかしら?
それが魔術を使ってる時に魔力に対して働くんだけど、イクト君はまだ魔力制御が出来て無いからね。
だからイクト君は他者からの干渉(支配)に弱いのよ。
そこに私が強制的にイクト君が使っていた魔力の支配権を奪って、イクトが使えない様にしちゃったの。」
「えッ!? それじゃあ・・、あの時ボクの魔力を・・・アリアさんが支配してたっ・・て事ですか?」
「まあ、似た様な感じよ。
他人の魔力を支配下に置くのって、実は結構繊細な作業だから戦闘とかでは余り実用的でない技術なんだけど、こういった訓練の時なら問題無く使う事が出来るよ。
特に、イクト君みたいな素人さん相手なら抵抗も少ないから思ったより楽だったよ。」
「そう・・なんですか、すみません。ありがとう・・ございました。」
「どういたしまして。
それじゃあ、イクト君は先に部屋に帰って夕飯が出来るまで休んでなよ。
今日はもう魔力が回復するまで体も自由に動かないと思うからね。
一応リリットにはこの事教えておくから、後で自分がどうなったのか色々聞いて見ると良いよ。」
「・・・分かりました。 色々とすみません・・、殆ど料理のお手伝いも・・・出来なくて。
それじゃあ・・よっと!?」
そう言って近くの物に?まって立とうとした育兎だったが、思いのほか握力が入らず腰から落ちそうになってしまう。
「あっ!? ソニア!!」
アリアの声にボクの近くで料理をしていた人形のソニアさんが素早くボクを抱えて助けてくれた。
「…ん!?…あれ? 痛くない…あっ!?ソニアさん。 ありがとうござ…えぇっ!?
わぁ~ちょっ!? 降ろして下さいよ、ソニアさん!!」
最初ソニアに助けられ素直にお礼を述べ様としていた育兎だったが、自分がソニアに抱え込まれて(お姫様抱っこ)る状況を理解して恥ずかしさの方が優先された形となった。
木で作った人形だと聞いていたソニアさんの体は意外と堅くなかった。
流石に人間の様な・・とは言えないが、ソニアさんの体は木とも人とも言えない、堅さと柔らかさを持った不思議な手触りだった。
少なくとも木製とは思えなかった。
慌てる育兎と見てアリアがソニアに命じる。
「ソニア、ゆっくりイクト君を降ろしてあげて。」
ソニアは一度肯く様な仕種をすると丁寧に育兎を床へ降ろしてやった。
「大丈夫? イクト君。
さっきは凄く慌ててたみたいだけど・・」
「あ!? もう大丈夫です。
すみません・・アリアさん、ソニアさんも・・・助けてくれてありがとう。」
ソニアはまたも一度肯く様な仕草で答えてくれた。
そんな二人(一人と一人形?)を優しい笑顔で見守るアリア。
人形のソニアにまでお礼を言う人は珍しく、それを嬉しく思うアリアだった。
「でも、そんな体じゃあ部屋まで行けないわね?」
「いえ、少し休めば・・たぶん問題無いですよ。」
「いえ、体力と違って魔力はそんな直ぐに回復しないんだよ。
それにイクト君は魔術を今日習い始めてこれから魔力との親和性を高め様としてるんだもん、まだまだ回復には時間が掛かると思う。」
アリアは育兎にそう説明した後、厨房で料理を手伝っている二人の人形を確認した。
「うん、それじゃあソニア。
貴女イクト君を抱えて部屋まで運んで上げて。」
「えっ!?」
ソニアは一旦料理を中断し、育兎を抱き上げようと育兎の側にやって来る。
そんなソニアから少しずつ離れようとする育兎。
「イクト君はさっきから何をそんなに嫌がってるの?
ソニア(人形)の事がそんなに嫌いだった?」
アリアがそう聞いた、するとソニアの雰囲気が、顔に表情は無いが、仕草で落ち込んだ雰囲気を醸し出している。
この人形、何気に芸達者な気がするのは気のせいかな?
「いや、ソニアさんが嫌なんじゃあなくて、人形とは言え女の人に抱えられて部屋に行きたくないだけで・・・
それならグレンさでも一緒じゃあ・・・」
育兎も12歳とは言え男の子なので、その辺り微妙に意地を張りたいお年頃なのだった。
「でも~グレンにはこっちで手伝って貰う様があるし、そこはソニアに頼もうと思ってたんだけど・・
それに人形とは言え男型より女型の方が男の子は嬉しいものでしょう?」
「え!? ・・それは、そうだけど・・・」
アリアの笑顔はまるで面白い悪戯を発見したリリットの様に悪っるい顔になってる・・・どうしよう。
そんな風に育兎が迷っていると、ソニアさんが素早く行動を開始した。
「えっ!? ソ、ソニアさん?」
「あっ!! それじゃあソニア、イクト君の事お願いね。
部屋に寝かせて来て、ついでに帰って来る時にリリットを読んで来て頂戴。」
ソニアはアリアに向けて一度肯定すると素早く育兎を抱き上げ部屋へと運んで行った。
◆◇◆◇◆◇◆
気が付くとそこは昨日与えられた自分の部屋のベットの上だった。
元貴族の屋敷のお蔭か、各客室の窓はガラス窓になっていて、今はもう日が沈み空が暗くなっているのが分かった。
育兎はあの後ソニアさんに部屋まで運ばれベットで少し休もうと目を閉じていたら、そのまま眠ってしまった様だ。
思いの他、魔力を失う程使用するのは体力を消耗するみたいだ。
育兎は起き上がろうと思い布団を退け様と思うと僅かな抵抗感があった。
「…あれ?」
「すぅー…すぅー…すぅー…」
視線を向けるとそこには凛姉がボクのベットの上に覆い被さって寝息を立てている。
彼女はベットの近くの椅子に座りボクの看病をしてくれて居たのであろう、近くのテーブルには水差しと木のコップが置かれていた。
「あはは、凛姉そんな格好だと風邪引くよ。」
育兎は自分に掛けてあった毛布を姉に掛けて上げた。
コンコン!!
「ん!? あ、はい。」
ドアをノックして部屋に入って来たのはリリットだった。
「そろそろ起きると思っていたけど、丁度良かった見たいね。」
「あっ!? リリットさん。」
「ああ、まだそのままで良いわよ。
それにしても、初日から魔力切れで倒れる何て・・ホント無茶をしたわねぇ。
アリアが見て無ければ本当に危ない訓練方法よ?」
「なかなか魔力の感覚が掴めなかったので・・、心配掛けてすみません。」
「全くね、夕飯時になってもリンが全く夕食に手を付けないんでアリアが少し困ってたわ。」
「あははぁ…」
いつも可能な限り食事は一緒に取っていたので少し気になっていたけど・・、やっぱりでしたか。
「まあ、リンとイクトの分は取ってあるから動ける様なら食堂に食べに来なさい。」
「あっ!? 本当ですか!!
良かった、ボクもうお腹ぺこぺこだったんですよ。」
そう言って笑う育兎は年相応に幼さを残したモノだった。
「ああ、そうだ!!
アリアから訓練の詳細は聞いたけど・・・」
くぅぅ~~
その発生源であるベットの上の住人は羞恥に顔を赤めて居た。
「・・まあ、後で食事の時にでも話しましょうか。」
「…お願いします。」
「それじゃあリンを起して早く夕食を食べちゃいなさい。」
そしてリリットの言葉を受け、育兎と凛は遅い夕食を取る事になった。
食事は、お互いに今日一日の出来事を報告しながら今日もアリアさんの作ったスープとパンを二人共満足そうにお腹一杯食べた。




