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銀狼と金の姫  作者: ひなせ由香
金の王国編
9/41

ジーンの過去

物心ついた頃から一人だった。

頼れる大人も誰もおらず、掃き溜めのような場所でどうにか生きてきた。

生きる為には、汚いことだってなんでもして来た。


他人は信じるだけ無駄だと思っていた。誰も信じられなかった。信じれば利用され裏切られる。

自分はひとりぼっちで、誰も理解されないと思っていた、ある夜。

目覚めが起きた。





「後は大体お前に起きたことと同じだ。」


突然自分の体が変化したと思ったら、村からの迎えが来る。

どの村でも、大抵同族の目覚めを感知出来る者がいて、ちゃんと迎えを寄越すのだという。


「でも、ジーンさんが呼ばれたのはこの村じゃない、んですよね?」


「あぁ。もう少し大きな村だった。」



そこで暖かく迎えられたものの、すっかり他人を信じられなくなっていたジーンは、なかなか村の人間と打ち解けられずにいた。

それでも周りは暖かく見守ってくれていたのだが。


「ある時、突然金の王の軍勢が攻めてきた。」



まだ目覚めたてでうまく力も使えないジーンには、為す術もなかった。


「あの村で助かったのは、俺だけだった。皆、殺されるか捕虜にされて、連れていかれた。」


隣の佳奈が、ぎゅっと目を瞑る。

彼女がそんな表情をすることはないのに。

あれほど辛く悔しい記憶なのに、不思議と穏やかに話せる自分に驚く。


「しばらくは、一人で森を彷徨っていた。その時、村長に声をかけられたんだ。」


始めは、ほんの数人だった。

それが、いつしかちゃんと村と呼べるほどの人数になった。

もっとも、それだけ金の王の被害者がいたということだが…。


「シイロ様や、スミさんもなんですか…?」


「あぁ。あいつは村長だった兄を亡くして落ち延びたと言っていた…。スミは旦那と幼い子供を失った、と。」


情けない話なんですが。そう自嘲したシイロの表情を思い出す。

明るい笑顔で村を切り盛りするスミが、ここへ来た当初はぼんやりと座りこんで涙していたなど、今は想像もつかないだろう。



「村に迎えられた時、やっと居場所が出来たと思った。帰れる場所だと。だからもう失わないように強くなろうとした。」


だから、と続けようとして、ジーンはぎょっとした。佳奈が泣いていたからだ。



「な、泣くな。というか、何故泣く。」



らしくなく慌てるジーンをよそに、一旦流れ始めた涙はなかなか止まってはくれない。


「皆さん金の王に酷い目にあったのに、私が来たからまた、狙われることに、なっちゃって…。」


「違う、俺が言いたかったのはそんなことじゃない。」


とうとう俯いてしゃくり上げ始めてしまった佳奈は、その言葉で恐る恐るジーンを見る。


「俺達は一度金の王の手から逃れた者ばかりで、元々目をつけられていたんだ。お前が来たからじゃない。それに…。」


「お前ももう立派に村の一員だ。だから、俺がちゃんと守る。」


頼むからもう泣くな、と、控え目に頭を撫でられる。

その優しい手が嬉しくて余計泣いてしまい、ますますジーンを困らせてしまったのは言うまでもない。






「もう泣き止んだか?」


「はい…すみませんでした。」


ようやく佳奈の涙が止まった頃、太陽の光はすっかり橙色に染まっていた。

森も空も夕暮れ色に様変わりしている。



「ジーンさん、あの、ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって…。」


「構わん。まさか泣かれるとは思わなかったが…。」


妙な話をしてすまなかった、と頭を軽く叩かれる。ぎこちないその動作が、なんだかとても嬉しい。


「いえ、お話聞けて良かったです。村の人達のこと、もっともっと好きになれそうです!」


「それなら良かった。」


「私、頑張ります!本当に金の姫の力があるかは分からないけど、立派な村の一員になれるように頑張ります!」


「お前は十分良くやってると思うが…。」


頑張るぞ、おー!と一人で気合いを入れ出した佳奈を見て苦笑する。

一時はどうなるかと思ったが、結果的に元気が出たのならそれでいい。


「すっかり遅くなったな。戻るか。」


「そうですね!私スミさんのお夕飯の手伝いしなきゃ!」







行きと同様に狼の姿になったジーンの背中に乗せて貰い、川を越える。

対岸に渡った後、ジーンは僅かな異変に気付いた。



「…何か聞こえないか?」


「え?私は何も聞こえませんけど…。」



川の流れる音が大きくて、佳奈には特に何も聞こえない。

だがジーンは違った様だ。狼の姿のまま、鼻をひくひくさせる。



「それに、この臭い…。」



そう言うなり、凄い勢いで走り出した。

当然、人間の姿の佳奈では追いつけない。



「ま、待って下さいよジーンさん!」



慌てて佳奈も追いかける。ジーンは真っ直ぐ村の方へと駆けて行く。



村へと続く坂道へと差し掛かった頃、ようやく佳奈もはっきりと異変を感じた。

妙に暑い。そして焦げ臭い。


頭に浮かぶ最悪の予感を信じたくなくて、息を切らしながら全速力で坂を駆け登る。






そこは、一面の紅蓮だった。





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