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銀狼と金の姫  作者: ひなせ由香
金の王国編
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金の姫の伝説

村の様子は一変して、物々しい雰囲気に変わっていた。

先ほど佳奈達が登って来た坂道の終着場所、村の入口にうっすらと人だかりが出来ている。



どの村人の顔色も冴えない。動揺、恐怖、そして殺気。

どこか腰が引けている人だかりの最前列には、長剣に片手をかけて今にも抜きかねない、険しい形相のジーンがいた。その視線は真っ直ぐ真下に突き刺さっている。



そちらへ早足で進む村長の後について、佳奈とカイもひっそりと人だかりに混ざりこむ。

村人達の視線の先は、先ほどの川だ。

対岸に、誰かいる。複数だ。



空はもうだいぶ明るくなって来ていた。

お陰で、はっきりとその人物を見ることが出来た。


人数は四〜五人だろうか。一様に黒いフードに長いマントですっぽりと全身を覆っている。

それでもがっしりした骨格や、腰の剣は隠しようがない。恐らくそれぞれがかなりの使い手なのだろう。


そして、まるで事情が飲み込めない佳奈にも誰が金の王なのかはすぐに分かった。

かの集団の先頭に一人、とても人目を引く人物がいる。



とても見事な金髪だ。肩よりも長いくらいのそれは、フードを取っているせいだけではなく眩く煌めいていた。

強い意志を秘めた金茶色の眼差しも、不敵な表情がとても似合う。


まだ若く見えるが、とんでもなく整った顔立ちの上に、王者の風格ともいえるものをまとわせているせいで年齢不詳に見える。

見下ろしているのはこちらなのに、まるで見下ろされているかの様な圧迫感。


その人物は不遜に腰に手を当ててこちらを見上げ、口を開いた。



「早かったな、シイロ。もう少し来るのが遅ければジーンを我が国に招き入れられたものを。」


「ふざけるな、誰がお前の国になど…!!」


「ジーンの意思は彼のものです。彼が否と言うならば認められませんね。そんな軽口を叩く為に、わざわざ遠路はるばる来たのですか?」



ジーンの怒りを隠し切れない態度にも驚いたが、シイロの強い嫌悪感にも佳奈はびっくりした。

この金の王と呼ばれる人物は、一体何なのだろう?




「全くつれないな。ジーンの腕を私が買っているのは本当なのだが。こんな小さな村で終えるには惜しい才能だ。」


「何度も言わせるな。俺はこの村を離れるつもりはない。用がないなら即刻立ち去れ。」


「やれやれ。それではお望み通り本題に入ろうか。」




「今夜、若しくはここ数日にこの村に新入りが入らなかったか?」





心臓を、氷の手で掴まれた心地がした。





一瞬で青ざめたのは、どうやら佳奈だけではなかったようだ。


「そんなことを聞いて何になるのです?」


問い質すシイロの声も、心なしか先ほどより強張っている。



「なに、大したことではないのだがな。配下の神官がなかなか優秀で重宝しているのだが、それが気になる託宣をしてな。」


王がちらりと後ろを見ると、大柄な男達に囲まれて少し小さい人影が。

他の者と同じ様に黒いマントとフードですっぽり全身を覆っているが、どこかほっそりしている。



目を引くのは、身長よりもあろうかという錫杖だった。頂上にこぶし大の大きな石が嵌まっている。

顔を上げた人物は、かなり若く見えた。少年といってもいいだろう。まだ幼さの強く残る顔立ちに、凛とした気配はとても不釣り合いに見える。



「この村に、とてつもない光が落ちてくるのが見えました。その強い輝きはまるで金の姫の再来の様な、強い力でした。」



「先輩、金の姫とか金の王とか、何のことなんですか?」



良く分からないまでも話がどんどん大きくなっていることを察した佳奈は、小声でカイに尋ねた。

カイも小声で応じる。



「金の姫ってのは、オレ達人狼族のおとぎ話みたいなもんだ。昔凄い力を持った金の姫ってのがいて、人狼の一族を導いたとかなんとか。」


「人狼族?銀狼じゃなくてですか?」


「昔はもっと沢山いて、人狼っていってたらしいぜ。今は狼になった時の毛並みで大体分かれてるけどな。」



で、ここからが重要だ、と前置きしてから、カイはいつになく重々しく口を開いた。



「あの金の王ってのは、金狼を治めてるんだがすげぇ野心家でな。そこらじゅうの村を襲って領地を広げてるって話だ。あいつらはもう村じゃなくて国なんだ。」



だから、絶対出てくんじゃねぇぞ。きっとろくでもないこと企んでるんだ。

大丈夫、きっとジーンさんや村長が守ってくれる!



そう聞いても、佳奈の恐怖心はちっとも消えてくれなかった。体が小刻みに震える。



佳奈が少しずつ後ずさりしたのと、錫杖に変化があったのはほぼ同時だった。




初めは、一足早い朝日が石に反射したのか?という程度だった。

それがだんだんと強い光を放ちだし、やがて

空に真っ直ぐ伸びる柱のように大きなものになった。


ジーンもシイロも、唖然としてそれを見守るしかない。

佳奈も同じだったはずなのだが、何か様子がおかしい。


まるで川を飛び越えた時のようだ。目の奥が熱くて、おまけに頭もぼんやりしてきた。

異変に気付いた周りの村人達がぎょっとして後退るのが見えた気もするが、あまりはっきりしない。


「カナ、お前…!?」


そう呟いたのは、カイかジーンか。



ぼんやりした意識の中で、金の王が間違いない、と呟いた気がした。

そこで、佳奈の意識はぷつりと途切れた。






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