第九十二話 体育祭前です
次の日の放課後。
いつも通り生徒会へ来たメールのチェックをしようとパソコンの電源を入れました。
クリックして見てみると、通常より多いメール数です。
はて、何かあったでしょうか。
開いてみますと、応援団の練習が見れないのかという問い合わせが多数入っていました。
これはホームページの方に応援団について載せた方がいいみたいですね。
静会長へと転送しつつ、他のメールも開いてみました。
体育祭についての問い合わせが三件。
外部の観客は入れないことになっているので、その旨返信しました。
それぞれホームルームで担任の先生からお話があったはずなのですが、聞いていなかった人でしょうか。
「陽向、このメールに返信はしたのか?」
「はい、一括で送信しました。まだこれからも問い合わせがありそうですよ」
「そうか…。貴雅、おい貴雅」
ソファに横になってぐっすり寝ています。
昨日の宣言は何だったのでしょう。
「ん…んー。何?」
「何じゃない。起きろ仕事だ」
「はいはい」
寝ぼけまなこで起き上がったものの、座ったままボーっとしています。
私は立ち上がって皆さんにコーヒーを入れることにしました。
貴雅先輩の目を覚まさせるためにもですけど。
テーブルに置くと、ありがとうと言って熱いコーヒーを飲みました。
「はあ…。何だかお腹空いたな」
「夕飯までは、まだ時間があるぞ」
「うーん、何か買ってこようかな。みんなは何かいる?」
メモを取らずに「うんうん」と聞いて、一度も間違えたり忘れて買ってこなかったことがないので、記憶力がいいのですね。
そこは見習いたいです。
「よし、それじゃ。行ってく…」
最後までいう前にガチャリと音がして生徒会室にしばらくぶりに晃先輩が入ってきました。
「お久しぶりです晃先輩」
「あぁ。何だ貴雅。買い出しか?」
「うん、そうだけど…」
「俺様にも買ってこい」
「…はいはい。で、何?」
「ベーグルサンド」
「えー? 期間限定数量限定のじゃないか。もうないかもしれないよ」
「さっき確認したらあると言われた。誰かに買われる前に走って買ってこい」
「ちょっとちょっと」
晃先輩はどっかりとソファに座るとギロリと貴雅先輩を睨みました。
「俺様は機嫌が悪い」
「あー…。わかったよ、走って買ってくればいいんだろ」
はぁ…とため息をついて貴雅先輩は生徒会室を出ていきました。
確かに晃先輩は、何やらイライラしているようです。
「何かあったか晃」
「あぁ!?」
「俺に噛みついてどうする。少しは軽減するかもしれないから、話してみろ」
「ちっ」
私がコーヒーを晃先輩の前のテーブルに置くと私を一瞬見上げて、その後、何も言わずに飲みました。
「結城の奴が、ホールに見学したいってやつがワンサカ来るから風紀委員で取り締まれと言ってきた」
普段から忙しい風紀委員ですから、仕事が増えると大変なのでしょう。
「いちいち、関係者かどうか確認してくれと来たもんだ」
「それは面倒だな」
「だから顔をわかっている応援団の誰かにやらせろと言ったんだ。そうしたら、全員で練習するからだめだという」
「特殊な光で浮き出る…スタンプみたいなのはどうですか?」
「ブラックライトか?」
「全員が同じものにするとばれてしまうので、別々なものに応援団オリジナルのスタンプもしくはシールとかどうでしょう。オーダーメイドだと時間がかかりますか?」
「シールなんてあるのか」
「いろいろあるみたいです」
「よし、結城に打診してみよう」
晃先輩の顔が明るくなったので、ホッとしました。
そこへ貴雅先輩が買い物を終えて帰ってきました。
「はい、ベーグルサンド。まだあったから買ってきたよ」
私と真由ちゃんと真琴にベーグルサンドと頼んでいたものを渡してくれました。
「「「ありがとうございます」」」
三人でお礼を言うと、嬉しそうに笑いました。
「おい、俺のはないのか」
「ベーグルサンドはこれだけ。後は、クラブサンド買ってきたよ」
「気が利くな、貴雅」
「心を入れ替えましたから」
貴雅先輩と静先輩はクラブサンドになったようです。
芹先輩と修斗先輩は中等部の方へ出かけているので、夕飯まで帰ってきません。
私はこの後、倉庫への納品に立ち会うことになっています。
学園祭ほどではないですけど、忙しいですね。
「ベーグルサンドおいしいです。でもどうしてこれが期間限定なんですか?」
「あぁ、イタリアから特別な生ハムを取り寄せて作っているかららしい」
チーズとリーフレタスと生ハムにソースがかかったシンプルなサンドです。
そうですか、イタリアからですか。
これから泉都門で期間限定という文字を見ると、いろいろ考えてしまいそうです。