第九十一話 イメージアップは大変です
「僕、今からでも応援団に入ろうかな」
泣きそうな声で言うので思わず笑ってしまいました。
「今まで二股とか三股とかしたことないし、意外と尽くすタイプだよ?」
「四股はしたことがある…とか言うオチはなしですよ?」
「ないない。一度に一人だけだって」
その一度が多すぎなんですよ。
今年に入って何人とお付き合いしたんですか。
「噂が噂だけにね…」
芹先輩がニヤニヤ笑って貴雅先輩をつつきます。
「噂?」
「告白すれば付き合ってくれる」
「えー!? 付き合っている子がいたら承諾しないって」
ぐはあと呟いて、ソファに伸びました。
「何でかな…イメージと違いましたって言われて終わるんだよ大抵」
そんなにクールに見えるの僕? とため息交じりに言います。
「さぁ。私はいつも見ているので、とてもクールには見えないのですが」
「そうだよね? 僕は全然クールじゃないんだけどな」
「僕…というより俺ってイメージが強いのでしょうか」
私たちはずっと貴雅先輩が「僕」と言っているのを知っているので、おかしいとは思ったことがないのですが。
「今更変えたくもないし…イメージアップするにはどうしたらいいんだろ」
「え、それこそ今更では?」
「ぐはあ」
貴雅先輩がソファから転げ落ちました。
「陽向ちゃん意外と傷抉るタイプ?」
「そんなつもりでは…」
今から変えようとしたところで、そうやすやすと変わるものではないと思うのです。
「それより今、お付き合いしている方を大事にした方が良いのでは?」
しばらくしても貴雅先輩から返事が返ってきません。
「貴雅先輩?」
「……れた」
「はい?」
「昨日別れた…」
はぁ…と静会長がため息をつきました。
「貴雅。お前しばらく恋人つくるのやめろ。いつも告白されてばかりだから、自分が好きで付き合いたいと思った女ができるまで我慢しろよ」
「ええ~? さびしい」
貴雅先輩を除いた全員がため息をつきました。
「クールな演技もどうせ続かないんだろう」
「無理無理。ふっ…とか笑うなんてできないし」
似合うんですけどね。できないことを無理強いしてもダメですもんね。
「イメージって怖いなぁ」
「お前の場合は自業自得だ」
「ひどいよ静」
貴雅先輩は切なげにため息をつきました。
うん、本当はかっこいいんですけど。
そんな風にため息をつくと、うっとりしちゃう女子がいるのではないでしょうか。
それなのに続かないとは。
残念としか言いようがないです、どちらの意味でも。
「あーあ。誰かいないかなー、陽向ちゃんどう?」
「お断りさせていただきます」
「速攻フラれた」
ついでみたいに言われたって本気にしませんよ。
ソファに座りなおして、貴雅先輩は背もたれにぐったりと寄りかかりました。
「真由や真琴は妹みたいなもんだしなー。んっ? 妹…それもちょっと…」
その先を言わせないために、静先輩が貴雅先輩の頭をペシリと叩きました。
「二人の親が許しても、俺が許さん」
「冗談だってば」
名前を出された二人も冗談だとわかっているので、苦笑しています。
「貴雅先輩はツンデレが好きなのでは?」
「いや、あれはあの時のノリで言っただけで…」
何故か静先輩が真っ赤になりました。
本当に、誰に何を教えられたんですか。
適当なこと教えてないでしょうね。
「癒してくれる子がいいなぁ」
「みなさんそうおっしゃいますけどね。女子だって癒されたいんですよ」
「うーん、そっか。陽向ちゃんも?」
「私だって癒されたいときはあります」
「僕が癒してあげようか」
「懲りないな、お前も」
静先輩は深い深いため息をついて、首を横に振りました。
呆れているようです。
「貴雅先輩では癒されそうにもありませんが」
「陽向ちゃんってピンポイントで抉るね」
今まで黙っていた芹先輩が笑って貴雅先輩の前にコーヒーを置きました。
私の仕事でしたね。
すみません芹先輩。
慌てて全員のを淹れました。
「何がだめ?」
「何がって全部がですよ」
「僕の全否定!?」
「あ、そういう意味ではなくて…」
「陽向ちゃん、一応傷ついてる男子なんだから優しくお願い」
「はぁ。すみません芹先輩」
「いや、そこは僕に謝るとこじゃ…」
「まず、貴雅先輩とおつきあいしたと仮定しますと」
「うん、仮定すると?」
「女子から恨まれます」
「妬みを超えて恨み!?」
「たぶん今までの彼女も味わったとは思いますよ? それにも疲れちゃったんじゃないですかね」
うっ…と詰まって貴雅先輩は片手で顔を覆いました。
「次に、先輩は背が高いので首が疲れます」
「そっち!?」
まぁ背の高さで言えば静先輩も晃先輩も修斗先輩もですけど。
「真横に立つと首がぐきっという時があるんですよ」
首の疲労は集中力をなくします。
「それに一緒に行動したときもそうでしたが、誰かしら女子から毎日声をかけられますね。私はそうでもないですが、嫉妬深い方だとだめでしょうね」
「ううっ」
「先輩の勉強法は独創性が強すぎて難しいですし」
文字を反対から読むなんて、めんどうですよね。
それで上位にいるのですから、泉都門の七不思議にしてもいいと思います。
「うぐっ」
「と、まぁ荒さがしをしてみました」
テーブルに突っ伏す貴雅先輩。
さすがに男性陣は苦笑していました。
「今、言ったことは私の主観でしかありませんし。貴雅先輩は優しいですから素敵な彼女見つかりますよ」
「僕は今、決意した」
「は? いきなり何ですか」
貴雅先輩はいきなり立ち上がって、私の手を取りました。
「まずは陽向ちゃんのそのイメージを変えてみせよう」
「いえ、ですから、そう簡単に…」
「大丈夫、きっと変えてみせる」
その笑顔は貴雅先輩を好きな女子に見せた方がよろしいかと存じます。
そして、私は貴雅先輩を少々からかい過ぎたようです。
自業自得…なのでしょうか。
打たれ強い東雲貴雅君でした。