第九十話 好きなことには力が入りますね
体育祭の為の応援団結成にはあちこちから反応がありました。
クラスの男子からも今から参加できないかと聞かれたりしました。
生徒会のみなさんも同じような反応があったそうです。
「急にどうしたのでしょうね」
私が首を傾げていると、貴雅先輩が泉都門学園の応援団サイトなるものを見せてくれました。
いつの間に!
そのタイトルの下には、赤い文字で「君も応援団に入って新たな魅力をゲットしよう」と書かれています。
新たな魅力ってなんですか?
「さすがに誇大広告みたいになるから削除してもらったんだけどね。そこに“応援団に入って君もモテてみないか?”って書いてあったんだ」
なるほど。
それで男子が必死になっていたのですね。
「必要人数に達したので募集は締め切られた…と言いますか、結城先輩が集めてしまったはずでは?」
「多少は増えても困らないし、大勢のほうが迫力があるからっていうんで募集したみたい。高等部の男子の三分の二が応援団やるみたい」
三分の二。
一クラスに三名前後しかいない男子の三分の二…。
そんなにモテたいのですか…。
「彼女がいるやつも、かっこいいとこ見せたいっていうんで入った人もいるみたいだし」
多少の小競り合いがあったみたいですが、喧嘩をするなら辞めさせるという結城先輩の言葉にあっという間におさまったとか。
そうなんです、結城先輩が総監督。
誰も止められなかったということであります。
「応援団練習のためにホールを貸し切るみたいだね」
体育祭までは使われないので、大丈夫なのでしょう。
「体育祭までは見せないんだそうだ」
静先輩が笑って書類を見せてくれました。
ホール使用の許可を求める申請書には使用時間が書かれています。
放課後授業が終わってすぐに始まり、九時まで申請されていました。
そういえば参加しているのは寮生が多いんでした。
外から登校してくる生徒は八時に帰るか、宿泊施設に泊まるかのどちらかになるそうです。体育祭が近づけは宿泊になる率が高そうですね。
応援団が使用中、許可なく中へ入ることを禁止させていただきますと欄外赤ペンで書かれている念のいりようです。
「力、入ってるなぁ」
芹先輩が楽しそうに言って、違う書類を見せてくれました。
そこには白と黒の長ランのデザイン画の完成図です。
白い長ランの左裾には竜、黒の長ランの裾には虎が刺繍されるようです。
これ、オーダーメイドなんですよ?
「龍虎ってわけですか」
「まぁ、そうみたいだね」
龍虎とは、簡単に言ってしまえばライバルを表す言葉です。
凝りましたね。
「白組と紅組の団長が誰になるかはまだ発表されてないけど、この分だと体育祭までは秘密になりそうだね」
「結城は学年に限らず団長を決めると言っていたから、誰になるかはわからんな」
「楽しみだねえ」
貴雅先輩、静先輩、芹先輩がそれぞれ頷きながら、楽しげです。
「もしかして先輩方も応援団に入りたかったんですか?」
「ボクと貴雅先輩は違うけど、静会長だったら入りたかったんじゃない?」
「そうだな、生徒会に入っていなかったら入っていたかもしれん」
「そうですか。ところで、芹先輩と貴雅先輩が入らない理由は?」
「芹は体力がもたない」
修斗先輩がぼそりとつぶやいて、すぐに仕事に戻ってしまいます。
「そんなに体力ないんですか?」
「長時間向きじゃないんだよ」
そう言って芹先輩は笑いました。
「貴雅先輩は?」
「えっ。あーと。僕はその…」
「貴雅先輩は、どうせ女の子との時間がなくなるからとかでしょ」
芹先輩がウィンクしながらイタズラっ子の顔で言うので、「あぁ、なるほど」と思わず口に出して言ってしまいました。
「ちょっと、そこで納得しないでくれる?」
私だけでなく真由ちゃんや真琴まで頷いていたので貴雅先輩はがっくりしてソファに倒れこみました。
「僕のイメージってそんなの?」
「「「はい」」」
女子三人の肯定の言葉に、撃沈した貴雅先輩はソファに突っ伏して呻いていました。
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