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私は急に止まれない。  作者: 桜 夜幾
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第八十七話 怖さのベクトルの違いです



 オカルト研究会にもらった紅茶を飲みながら、ぺらりとまた紙をめくります。

「消えた鐘の秘密。塔が壊された後、吊されていた鐘は人知れずどこかへ埋められたという。もともとこの鐘は六つあり、それぞれ違う模様が描かれていた…と書いてあります」

 六つと言われて何となく納得してしまうのは、泉都門学園の敷地が六角形の形をしているからでしょう。

 中等部の鐘は、一番最後まで残っていたもので、最後の鐘が今でも鳴る…とのことです。


「うーん。鳴ったところで、特に実害はないよね」

 芹先輩がボソリと言いました。 

 言ってしまえば、そうなんですけどね。


「増える階段とか良く聞くけど、数えなきゃなんともないよね」

 芹先輩は現実的ですね。

「泉都門で幽霊が出るなんて聞いたことがないし。トイレ系のお化けの話は、ありえないし」

 そうなんです。

 泉都門のトイレは、実は数年前に全改修されておりすべてがピカピカなんです。もちろんウォシュレット付きですよ。人が来ると明かりが点くタイプなので、人がいるときは暗くならないんです。

「建物は古いけどね~。他の不思議は?」

 

 芹先輩が明らかに楽しそうに言ったので、私は口を噤みました。

「どうしたの陽向ちゃん?」

「ううう」

 何も答えずに、芹先輩に次のページを見せました。

「あはは、これが怖かったの?」

 そのページには井戸の絵が…。

「井戸が怖いのか?」

「へ、縁に手が…」

 静先輩がのぞき込んで笑います。

 何で皆さん平気なんですか。

「それじゃ代わりにボクが読むね。ホールにある鏡」

「ホールに鏡なんてありましたっけ?」

「控え室の一つに、大きな鏡がある所があるんだ」

 知りませんでした。

「この前の時は使わなかったもんね。その鏡の前に立って目を閉じると誰もいないはずなのに、肩を叩かれる」

 その時、誰かが後ろから私の肩を叩いたので、思わず悲鳴を上げて飛び上がってしまいました。

 振り返ると、真由ちゃんが立っています。

「ま、真由ちゃん!?」

「ご、ごめんなさい、そんなに驚くとは思わなかったの」

 ちょっとしたイタズラだったのでしょうけど、ものすごく怖かったですよ!

 深いため息を吐いてソファに座ると、みんなが笑っていました。

 そこへ晃先輩がチョコレートの差し入れと共にやってきました。

「なんだ? 楽しそうだな」

 楽しくありません!

「ほら、これ。オカルト研究会の会報だよ。見る?」

 貴雅先輩が晃先輩に会報を渡してチョコを受け取りました。

「ふうん」

 パラパラと有る程度読んだ晃先輩はニヤリと笑ってその会報をテーブルに置きました。

「晃は七不思議の話聞いたこと有る?」

「ここに書かれているのは聞いたことないな」

 ということは、書かれていないことは聞いたことがあると?

 全員が晃先輩に注目する中、自分で持ってきた差し入れを開けてチョコレートを一つ口に入れます。

「理事長から聞いたのか?」

「ああ。……聞きたいか?」

 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえました。

「わ、私は聞きませんから!」

「そんな怖くないぞ」

「いえいえ、怖くなくてもご遠慮いたします」

「そういわずに聞けよ」

 晃先輩はニヤニヤしながら私の肩を押さえて立てないようにします。

「晃先輩!」

「一階の…」

「ひぃ」

「まだ全部言ってないだろうが」

 耳を塞がない様、両手を捕まれました。

「一階の購買の横に地下へ行く階段があるのを知ってるか?」

 全員がうなずきました。

 確かにあります。

「そこには二つドアがあるんだ。一つは倉庫なんだが、もう一つは機械室のドアだ。地下にあるから、この部屋は密閉度が高い。洪水などで水が入ったら大変だからな。そのために生徒が間違って入って出られなくならないように、防犯カメラがついている。そこに、誰もいないはずの休日。生徒が映っていた。守衛は驚いて鍵を持ち急いで機械室へと向かったが、誰もいなかったそうだ。機械室の鍵は全部で三つ。守衛と校長と理事長。その全員に連絡したが、全員持っていた。その防犯カメラは録画機能があって、守衛が見たその時間の映像を見ると、確かに映っている。しかも泉都門学園の古い制服だったそうだ。だが、歴史を調べてもそこで亡くなった生徒はいないのだそうだ。今でもその映像は学園の何処かに保管されているらしい。俺様は見たことはないが、理事長はその映像を見たことがあるらしいぞ」


 晃先輩が話を終えて、シンと静かになりました。


 私はホッとして脱力しました。

「陽向。怖くないのか?」

 晃先輩がようやく手を離してくれました。

「いえ、怖いですけど」

「その割にはさっきみたいに悲鳴上げなかったじゃないか」

「ええ、だって。そこに行かないですし」

「ん?」

「え? だって、生徒は立ち入り禁止のところですよね? 機械室って」

「そうだが」

「だったら、会わないじゃないですか。だから怖くないです」

「……陽向ちゃんの恐怖ポイントがいまいちわからないよ」

 ホールの控え室は行く可能性があります。

 でも機械室はたぶん一生入らないので、怖くないです。

「陽向以外の方が固まったじゃないか。つまらん」

「後輩を怖がらせて楽しまないでください!」


 寒くなったという皆さんのために紅茶を淹れて、チョコレートを食べました。


「明日オカルト研究会の部室に行って、この話をしたら喜んでもらえそうですね」


 そういったら、全員が何ともいえない顔をしていました。



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