第九話 そろそろかな?と思う side飯塚真琴
「あぁ、どこで会ったのか聞きそびれた」
東雲先輩の容姿を説明されただけで、どんな状況で会ったのかを聞くのをすっかり忘れてしまった。
でもあの様子だと、やはり大抵の女子がするような態度は取らなかったのだろうと想像がつく。
「腕を折れそうだって言ってたよね。腕が…じゃなくて腕を…だって」
ぼくは可笑しくて声に出して笑ってしまう。
「本人に言ったら怒るかな?」
真由に視線をやると、口元が緩んでいる。
「…る…ね」
怒るねと言った。
囁き声だが、幼い頃からの鍛錬で僕には聞き取れる。
「ま……は……いと……に…………いら………の?」
「うーん。どうかな。今のところは分からない。でも、陽向がいるなら良いかも」
真由はぼくの言葉に頷いてくれた。
陽向が去った後、高等部の生徒が他の席が空いているのに数名寄ってきて「ご一緒によろしいですか?」と聞かれたが、すぐに寮に帰ると答えた。
もう少しカフェに居たかったけど、仕方ない。
お詫びにと散り際の桜の前で一緒に写真を撮った。
真由は写真が苦手なのでめったにこういう場にいない。
あの中庭で撮った写真は珍しい一枚なのだ。
三人で撮ったのが嬉しかったのか寮の机に飾ってある。
キャイキャイと喜ぶ生徒にそれじゃと挨拶して真由と寮に戻った。
「めず…い…‥ね?」
ぼくが彼女らと写真を撮った事が珍しいと真由は言った。
「まあね。ちょっとは優しくしてもいいかなっていう、今さらな感じだけど」
「ひな……の………えい……う?」
「うん、陽向の影響は大きいかな。今までみたいにしてたら陽向にも迷惑かかるかもしれないし」
真由はコクンと頷く。
「そろそろあっちも興味湧いてるころだと思うんだよね。次に会うとするなら、彼…かな?」
真由も同じ人物を想像したのだろう。
少し眉間にしわが寄った。
「陽向なら大丈夫だと思うよ。さ、帰って日曜日の用意をしよう。楽しみだね」
真由がぼくを見上げて本当に本当に嬉しそうにコクンと頷いた。
久しぶりに見た真由の満面の笑みにぼくも嬉しくなって、頭を撫でた。
こんなにワクワクするのは久しぶりだ。
これからの生活が色づいていくような気がして、ぼくは陽向が去った方を彼女がいないことを分かっていて振り返った。
本当に百合ではありません。