第七十五話 学園祭三日目です
今日は朝から織り姫と彦星の格好になって、あちこちを歩くのですが化粧を一昨日より濃くしてもらい、わかりにくくなるようになりました。
銀音先輩からもらったチケットがあるので、今日は大学部の方へとでかけます。
閉門時間に近いと忙しくなるので、その前にと一年生三人でバスに乗りました。
織り姫と彦星なので、バス内でも目立ちまくりです。
大学部に着くと、銀音先輩の言っていた屋台に行きました。
「いらっしゃい! あはは、本当に織り姫と彦星だ」
どうやら銀音先輩に聞いていたみたいですね。
「あの、このチケットでお願いします」
「はいはーい。聞いてるよ。少し待ってね」
大きな袋に塩焼きそばが七パック。私たち三人にギョロッケと書かれた小さい袋をそれぞれ一人ずつに渡されました。
「ギョロッケ?」
「うん、あちこちであるらしいんだけど、これは俺たちが考えたレシピ」
魚類をミンチにして味付けしたものをコロッケのように揚げてある食べ物らしいです。
ほこほこして美味しいですね。
「あ、タコも入ってるんですね」
「そうそう。食感がいいでしょう」
「美味しいです」
「さんきゅー。君たちこれからミスコンの会場に行くよね?」
「はい銀音先輩に挨拶に行きますけど」
「うん、それじゃ銀音たちにこれもっていって」
ギョロッケが数個入った袋を渡されました。
「よろしくねー」
「はい」
手を振って三人でミスコン会場へと向かいました。
まだ始まる前なので人がまばらです。
裏の方へ回ると、銀音先輩が椅子に座っているのが目に入りました。
といいますか、吸い寄せられるように目が行きました。
何しろ、今日の銀音先輩は光沢のある黒のチャイナ服だったからです。
「あ、きたきた」
笑顔で立ち上がったので裾の模様がはっきりと見えます。
「白虎…」
真由ちゃんが呟きました。
足元に白虎です。白虎だから白いのです。
金色の目がこちらを睨んでおります。
スリットが以前より長く見えるのは気のせいでしょうか。
黒い布の部分もキラキラしていて地味な色なのに派手に見えるという不思議なチャイナ服でした。
陰陽の模様が施された大きめのイヤリングをして、口元はダークレッドの色に塗られています。
優勝決定の人がここにいます。司会じゃなかったら絶対優勝です。
誰が銀音先輩に勝てるというんですか。
あまりの綺麗さに私たち三人とも動けずに固まってしまいました。
キョトンとした顔をして近づいてきた銀音先輩は、私たちを見て微笑みました。
とんでもない破壊力。
鼻血が出なかった私たちを褒めてほしいくらいです。
「真琴と真由は久しぶりだね」
そういえば女装する前の銀音先輩を知ってるのでしたね。私は女装している銀音先輩しか見たことがありませんよ。
「休憩時間、短いんだったっけ? 少しでもいいから見ていってよね」
おいでおいでと手招きをされてようやく動いた私たちは用意された椅子に座りました。
裏ではもうすぐ始まるとあって、ばたばたしています。
「あの、これギョロッケです。銀音先輩たちにって」
「あぁ、ありがとう。お腹減ってたんだ」
パクリと、取りだしたギョロッケにかぶり付いて残りをスタッフに渡しています。
他の方は普通の格好でした。
「仮装コンテストじゃないから、こんな格好は僕だけだよ。安心してね」
ふふっと笑ってペットボトルの水を飲みました。
「銀音、階段を上る時、気をつけろよ。普通の階段より段差が高いからな」
「了解」
「随分可愛いお客さんだな、誰だ?」
「高等部の生徒会一年だよ」
「へぇ」
大学部からの外部生らしく、目を丸くして私たちをみました。
「織り姫と彦星? 仮装コンテストだったら出てもらったのになぁ」
「ほんと。仮装の方にすれば良かったな」
いえ、どちらにせよ銀音先輩が優勝だとおもいます。
「そろそろエントリー締め切るから、いつでも出れるようにしといてくれ」
「了解」
銀音先輩がティッシュで唇を拭うと、メイク担当らしい女性がダークレッドの口紅を銀音先輩の唇に乗せました。
「少し口開いて」
「あ」
大きく開けたのでその女性は苦笑しています。
「もう少し小さめ…後輩がいるから遊んでるでしょう。……はい、完成」
「ありがと」
「本当は長髪のカツラ付けて欲しかったなぁ」
「あれ結構重いし。首弱いんだよ、勘弁して」
私はカツラをつけた銀音先輩を想像して、うはっと声をあげてしまいました。
「どうしたの? 大丈夫?」
「駄目です、カツラ駄目ですよ先輩。そんな銀音先輩を見たら私、立ち直れません」
某ボクサーのように真っ白になっていまいますよ!
私の返事に大学部の先輩たちが爆笑しました。
「評判良いみたいだし、どうよ銀音。このまま女装続けたら?」
「うーん。どうしようかな」
「そこは拒否っとくところでしょ!」
周りにいた先輩たちからの総ツッコミを受けていました。