第六十七話 似合いすぎです
「前回は真っ赤だったから、目立っちゃったでしょう? だから今日は少し地味にしてきた」
いえ。全然地味じゃありません。
今回は光沢のある生地ではないのですが、蝶々が玉虫色に光っちゃってますよ!
それにクジャクの羽根みたいなものでできた扇を持ってますよね?
「それで、銀音先輩。いったいここへはどんな用事で?」
静先輩が座れず、立ったまま銀音先輩に聞くと、手に持っていたクジャク扇の間に挟んでいたらしい、紙を側に立っていた私に渡しました。
「一年生の三人に、僕らがやる屋台の無料チケットプレゼントー」
「屋台?」
「今年、大学部の料理部門はお題を統一してB級グルメを作ることになったんだ。ぜひ食べに来てね。なんだったら迎えに来るから」
それって強制じゃないですか?
唖然としていると、遅れてきた真由ちゃんが銀音先輩の後ろ姿を見て、固まりました。
「あ、真由ちゃん」
「チャイナ…服?」
「あ、真由。元気? っていうか、一人で歩けるようになったの!?」
振り返って見た銀音先輩が驚いたように真由ちゃんの肩を掴んで、軽く揺さぶりました。
「う、うん」
「声も大きい!」
どうやら知り合いのようですね。
真由ちゃんは普通にしゃべっているのですが、以前の真由ちゃんを知っているのなら、確かに声が大きいと感じるかもしれません。
「銀音先輩、落ち着いて。ソファに座ってください」 芹先輩がため息をつきつつ、ソファを勧めました。
「あ、うん。真由が生徒会って心配だったけど。…良かったなぁ」
真由ちゃんの頭を撫でて、にこにこと笑う先輩はまるでお姉さん。…本当はお兄さんですけど。
「真由の兄貴と友人でね。小さい頃からよく遊んだんだ」
これは私への説明ですね。
なるほど。
生徒会の皆さんはそれぞれどこかで関係してるんですね。
「ところで朗お兄ちゃん。何でチャイナ服?」
そうですよね、そう聞きたくなりますよね。
銀音朗葉というお名前だそうですが、クジャク扇を開いてファサファサと動かした後、にっこりと笑って言いました。
「うん、似合うでしょ」
答えになっていないような気がしますが、無駄に似合っちゃってるのは認めざるをえません。。
ソファに座るとスリットから綺麗な御御脚が…。
くっ、何でしょう、この敗北感!
振り切るように私は銀音先輩にお茶をお出しすべく、その場を離れました。
「もしかして、ミスコンか何かやるんですか?」
「うん、ゲームで負けちゃって。司会することになったんだ」
司会者が優勝とか、なりそうですけど!
「そのためのアプリですか? 期間限定の」
「そうなんだ。更科君は来てないの? 知り合いを紹介してくれて助かったよ。当日の飛び込みも可だから、時間があったら参加してね」
いえ、司会者に勝てません。
絶対勝てません。
「チャイナ服で司会するの?」
「違う色のを着るけどね。宣伝のためでもあるし、気に入ったのも本当」
お茶をテーブルに置くと、ありがとうと言われましたが御御脚が目に入って毒です!
「高等部にあいつ来てるよ」
突然のことに私の頭の上にハテナマークが浮かびました。
「そのための引きつけ役ですか、銀音先輩は」
「いや、僕は別行動。引きつけ役は城田の方。おかげでここに来るまで誰にも見咎めれらなかったし」
「えっ」
私は思わず生徒会の先輩たちと視線をあわせました。
「もしかして、晃先輩が飛び出して行ったのって…」
「あぁ。城田のせい…だね」
生徒会の全員でため息をつきました。
晃先輩が不憫です。
何か美味しい物を用意して帰りを待ちましょうか。
「風紀委員が数名僕に気づいてたけど、城田を止めるために忙しかったみたいだね。顔見知りだからって少し甘いかな? 和泉君に言っといて」
「……はい」
「学園祭だともっと大変だから、気を抜かないようにね。さて、そろそろ帰るかな。お茶美味しかったよ、ありがとう」
それじゃあねと言って唖然としている私たちを置いて銀音先輩は生徒会室を出て行きました。
戻ってきた晃先輩はかなり憔悴していて、生徒会室に入るなりソファに倒れ込んだのです。
後で風紀委員の速水君に聞いた話ですが、晃先輩は城田先輩を追いかけて走りながら「貴重な睡眠時間を返せ!」と叫んでいたそうですよ。
学園祭前に倒れないか心配です。