第五十話 中庭の会話side和泉晃
習慣というのはなかなか変えられないものだと思う。
どうも俺様は見回りという癖がついてしまったらしかった。
別館を見回って騒いでいた生徒に注意した後、離れに戻ろうと廊下を歩いている時にそれが目に入った。
一条と水崎。
中庭からはガラスが光ってこちらが見えないようで気づかれていない。
窓を少し開けると小さいながらも声が聞こえた。
「君は危機感が足りない。男性に対して」
ずっと思っていたことだったので、思わず頷いてしまった。
水崎は危機感が足りない上に、鈍感だ。
いや、鈍感なふりをしている。
色気というものに慣れすぎていて、そういう空気が読めないのはわかるが、それにしても危機感が足りないと思っている。
あっさりと一条に腕を掴まれているのだから、困ったものだ。
遠くに更科がいるのが見えたが、眺めているだけで動く気配がない。
滅多なことはないだろうが、念のためと話を聞いていると一条の空気が一瞬変わった。
更科が動きを見せたので、俺様も動こうとしたときだった。
「何をしている」
静かな声だが、圧力がすごかった。
更科と俺様の動きが止まり、一条が水崎の手を離した。
いつからそこにいたのか気づかなかった。
更科もそうだったのだろう。
遠目にも驚いているのが見えた。
「こんな時間に女の子独りでいたので、注意してたところですー」
一条がそう言って水崎を送るようにお願いし、水崎の元から去った後。
明らかに、榊という男の視線は俺様と更科を捕らえていた。
ちらっと視線を送った後、水崎の背中を押して歩いて行ったが、俺様はどっと汗が出るのを感じた。
何だあいつは。
更科が一条を追いかけて行ったので、俺様はその場に座り込んだ。
おいおい、何て奴を側に置いているんだ?
いや、ああいう奴が側にいるから水崎の危機感が薄いんじゃないのか?
グルグルと考えていると、ふあああと間の抜けた欠伸をしながら静が廊下を歩いてくるのが見えた。
「ん。何してるんだ晃」
「…本当にお前はのんきだよな」
「何だ?」
「いや、いい」
「東雲を見なかったか?」
「……いや、見てないが」
「そうか。目が覚めたら俺一人だったからな…晃はこの後どうするんだ」
「もう一度見回ってくる」
「そうか? 明日もあるからな。早めに休めよ」
静が部屋に戻っていく背中を見送って。
俺様は東雲を探すために立ち上がった。
いつもならほっとくんだが。
今日は邪魔してやりたい気分だったからだ。
俺様は風紀委員長だ。
大義名分がある。
堂々と邪魔してやろう。