第四十八話 慰労会です
「納涼祭で仲良くなってな。俺たちは泉都門と違って二学期に上がれば引退だ。生徒会長をやっているのは三年生が多いだろう? 俺たちも全員三年生だし、夏休みに引退を祝してお互いを称え合う会でもやろうということになった。そこで、とある情報筋から泉都門がここへ来ると聞いて、場所が決定したわけだ。離れの方は貸し切りだったが、本館は空きがあったからな」
はい。
貸し切ったのは別館と離れのことだったようです。
別館に風紀委員とお手伝いをしてくれた皆さんが泊まり、離れに生徒会。
そこは平等に別館で良かったのではないでしょうか。
不平等について何か言いたいことはないのかと、皆さんに聞いて回りましたが、本当は生徒会だけしか参加できないはずの慰労会に参加させてもらってるので、文句はない。とのことでした。
城田先輩が生徒会長になってから、そうなったそうで。ちょっとだけ見直しました。
でも、離れじゃなくても良いと思います。
そういえば花時の柳宮会長に今回の旅行は断られたそうです。お互い連絡を取ることは了承されたとか。
「毎年順番にそれぞれの高校で納涼祭をやってきたが、これだけ仲良くなったのは今年が初めてじゃないか?」
和気藹々と言った感じで話をしていますが、私は如月会長のところへ行って小声で話しかけました。
「如月会長も入ってるんですか? あの集団の中に」
「……入らないかと言われてはいるが…」
オファー中でしたか。
現在、お部屋へ案内してもらった後、各部屋についている家族風呂や大浴場にそれぞれ入ってさっぱりし、複数ある浴衣の中から好きなのを選んで着替え集まっているところです。
浴衣だとまた印象が違ってみえるものですね。
真由ちゃん可愛い! それに真琴も浴衣似合ってます! 大人っぽい浴衣がベストマッチ!
別館の大広間で食事をとることになっているのですが、ちゃっかり生徒会長軍団が参加しています。
急な変更は宿の方を混乱させるので、会長軍団を正座させて説教です!
座敷なので、みなさん正座ですけども。
旅行というのは心を浮き立たせるものですね。
学園ではなかなか見れない光景が広がっています。
風紀委員の女子とお手伝いをしてくれた女子が如月会長と東雲会長に話しかけています。
「こんなチャンスめったにないんだから!」
と声をそろえて言われました。
会長軍団に声をかけている女の子もいますね。
「水崎さん」
声をかけられたので見上げると、風紀委員の男子でした。
「はい、なんでしょうか」
「えっと、あの。浴衣とても似合ってるね」
「ありがとうございます」
「…あの。この後…」
ゴクリと男子が唾を飲むのが見えました。
「はーい、そこまでー」
男子と私の間に一条先輩が斜めに入って来て男子が仰け反り、畳に尻餅をつきます。
「この後みんなで花火だよー。陽向ちゃんは準備で忙しいんだよ、ごめんねー」
一条先輩は倒れた男子に手をかしています。
勢いよく引っ張って立ち上がった男子の耳元で何かを囁いているが分かりました。
さっと青くなった男子が「すみませんでしたー」と言いながら走って行きましたよ。
何を言ったのでしょうか。
「一条先輩?」
「なあに? 陽向ちゃん」
「あちらで如月会長が困っていますよ」
「いいのいいの。自分であしらうくらいできないとねー。ほら、和泉先輩とか東雲先輩みたいにね」
和泉先輩と東雲先輩のところにも女子がいましたが、囲まれてはいませんでした。
「他の会長たちもそうでしょ? うちの会長くらいだよ。少し勉強してもらおうかと思って。変なところで純情さんでさー。押しが弱いんだよ。仕事じゃ厳しいのにねー」
「学園では囲まれませんよね?」
「ああ。学園では牽制されるからね。ほら、色々いるでしょ」
お姉さま方のことでしょうか。
なるほど、鬼の居ぬ間になんとやら…でしょうか?
ものすごいアピール合戦になってますよ。
「本当に止めなくて良いんですか?」
「如月会長が心配?」
一条先輩は首を可愛らしく傾げて言いました。
「如月会長がというより、隣に座っている龍矢さんに迷惑がかかってるんですけど」
「あぁ。榊さんは既婚者だから除外されちゃってるもんね…」
目的がハッキリしすぎて怖いですね。
理事長がものすごく楽しそうにその光景を見てますけど。
「そろそろ食事も終わるし大丈夫だよ。僕、花火初めてなんだ、楽しみだねえ」
「え、初めてなんですか」
「線香花火ならやったことあるんだけどね。色々あってわからないから、店頭に並んでたの全部買ってきたよ」
「はい?」
「端から端までパッケージに入ったのだけね。筒のは怖そうだし」
「人数分買ってくれば良かったのでは」
「どれくらいか分からなかったんだもん。お店に聞いたら在庫があるみたいだったし、ここに並んでるの全部買っても大丈夫? って聞いてから買ったよ」
お店にあるの全部…と言わなかっただけマシなんでしょうか。